説明

潤滑剤組成物及び転がり軸受

【課題】ゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物の流動性や流動−復元可逆性をより高めるとともに、潤滑寿命が長く低トルクでもある転がり軸受を提供する。
【解決手段】アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤のみにより基油を増ちょうしてなる潤滑剤組成物。アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の質量比は20〜80%:80〜20%である。並びに、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に、上記潤滑剤組成物を充填した転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物及び転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械や車両、電機機器、各種モータや自動車部品等に使用される転がり軸受には、潤滑性を付与するためにこれまでグリース組成物が封入されている。また、近年では装置や機器の小型軽量化や高速化、省エネルギー化等を目的として低トルク化も要求されてきている。特に車両用の転がり軸受では、低温での起動性も求められている。
【0003】
低トルク化のためには、混和ちょう度の低いグリース組成物を封入することが考えられるが、一方でグリース漏洩が起こりやすくなる。そこで、増ちょう剤とゲル化剤とを併用して半固形状とした潤滑剤組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−219297号公報
【特許文献2】特開2005−139398号公報
【特許文献3】国際公開特許WO2006−051671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物は、軸受が回転してない状態ではせん断されずに硬化したままであり、軸受が回転するとせん断力が作用して流動性を示すようになるため、潤滑性を維持しつつ、漏洩を抑えることができる。また、増ちょう剤の量を減じることができるため、相対的に基油量が増すという効果もある。
【0006】
しかし、従来のゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物は、増ちょう剤の配合割合が多いため、せん断力が作用したときの流動性が十分ではなく、流動するまでの時間にも問題がある。また、硬化状態と流動状態とを繰り返す過程において元の硬化状態または流動状態に戻る復元性(流動−復元可逆性)も十分とはいえない。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物の流動性や流動−復元可逆性をより高めるとともに、潤滑寿命が長く低トルクでもある転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の潤滑剤組成物及び転がり軸受を提供する。
(1)アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤のみにより基油を増ちょうしてなることを特徴とする潤滑剤組成物。
(2)質量比で、アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤=20〜80%:80〜20%であることを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤組成物。
(3)内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に、上記(1)または(2)記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑剤組成物に配合されるアミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤は、共に水素結合を形成しやすい化学構造を有するため、これらを併用することにより、より少ない配合量で基油を増ちょうすることができる。また、本発明の潤滑剤組成物は、これらゲル化剤の作用により粘性の変化量も大きく、低トルク化を図ることができ、流動−可逆回復性にも優れる。
【0010】
また、このような潤滑剤組成物を充填した転がり軸受では、潤滑剤の漏洩が無く、潤滑寿命に優れるとともに、低トルクにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試験1で得られた、ゲル化剤の種類及びその配合量と、不混和ちょう度との関係を示すグラフである。
【図2】試験2で得られた、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との配合比率と、ちょう度回復率との関係を示すグラフである。
【図3】試験2で得られた、実施例1の潤滑剤組成物の3サイクル間の不混和ちょう度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
〔潤滑剤組成物〕
本発明の潤滑剤組成物は、増ちょう剤を用いることなく、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用して基油を増ちょうしたものである。
【0013】
(ゲル化剤)
アミノ酸系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との相乗効果が高いことから、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α、γ−n−ジブチルアミドが好適である。また、これらを併用してもよい。
【0014】
ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、アミノ酸系ゲル化剤との相乗効果が高いことから、ベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール、非対称のジアルキルベンジリデンソルビトールが好適である。また、これらを併用してもよい。
【0015】
後述する試験1にも示すように、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用することにより、相乗効果により、それぞれ単独で用いた場合に比べて潤滑剤組成物中の配合量を削減できる。但し、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との配合量が総量で8質量%を超えると初期ちょう度が硬くなりすぎ、転がり軸受への充填作業をはじめとして適用箇所に適用するときのハンドリング性が低下する。また、せん断を与えても十分な流動性が得られない。一方、2質量%未満では基油の増ちょう作用が十分ではなく、初期から柔らかすぎて転がり軸受等の適用箇所から漏洩しやすくなる。好ましくは3〜6質量%である。
【0016】
また、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との配合比率は、質量比で、アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化=20〜80%:80〜20%が好ましい。アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とも、20%未満または80%超では、相乗効果が低くなり、流動−復元可逆性の向上度合が低下する。好ましくは、アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化=40〜70%:60〜30%である。
【0017】
(基油)
基油は、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を溶解できる潤滑油であれば制限は無く、鉱油系、合成油系または天然油計の潤滑剤を目的に応じて選択できる。鉱油系潤滑油としては、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油系潤滑油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油が挙げられる。天然油系潤滑油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が挙げられる。これらの基油はそれぞれ単独でも、2種以上を混合して使用することもできる。これらの潤滑油の中でも、極性を有するものが好適であり、ポリオールエステル油やエーテル系油がより好ましい。
【0018】
また、基油の動粘度は、潤滑性及び低トルクを考慮して、10〜400mm/s(40℃)が好ましく、20〜250mm/s(40℃)がより好ましい。
【0019】
(添加剤)
本発明の潤滑剤組成物においては、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体等の防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等、潤滑用に使用される添加剤を単独で、または2種以上混合して用いることができる。尚、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0020】
(製造方法)
本発明の潤滑剤組成物を製造する方法には、先ず、基油にアミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤、更に添加剤をそれぞれ所定量加え、ゲル化剤が溶解するまで加熱攪拌する。次いで、予め水冷したアルミニウム製バットに上記潤滑剤組成物を流し込み、バットを冷水で冷却することでゲル状物を得る。そして、ゲル状物を3本ロールミルにかけることで潤滑剤組成物を得る。
【0021】
〔転がり軸受〕
本発明はまた、上記の潤滑剤組成物を封入した転がり軸受を提供する。但し、転がり軸受の種類や構造には制限がなく、軸受空間に上記の潤滑剤組成物を充填して構成される。
【0022】
本発明の転がり軸受は、潤滑剤組成物により潤滑寿命が長く、低トルクである。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0024】
(試験1)
ポリオールエステル油(動粘度33mm/s、40℃)に、(A)N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドのみ、(B)ジベンジリデンソルビトールのみ、(C)N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールを等量づつ、それぞれ配合量が3質量%、4質量%または5質量%となるように添加し、加熱攪拌して溶解した後、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却してゲル状に固化させ、3本ロールミルにかけて潤滑剤組成物を得た。
【0025】
そして、各潤滑剤組成物の不混和ちょう度を測定した。結果を図1に示すが、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用することにより、同じ配合量でも不混和ちょう度を下げることができる。
【0026】
(試験2)
表1に示す配合にて実施例1〜2、比較例1〜3の潤滑剤組成物及び合計量を4質量%としてN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとの配合比率を変えたものを調製した。即ち、ポリオールエステル油(動粘度33mm/s、40℃)96gに、アミノ酸系ゲル化剤としてN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤としてジベンジリデンソルビトールを所定量添加し、加熱攪拌して溶解した後、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却してゲル状に固化させ、3本ロールミルにかけて潤滑剤組成物を得た。
【0027】
また、比較例4として、ポリオールエステル油(動粘度33mm/s、40℃)92gに、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを8g添加し、加熱して溶解させた後、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却してゲル状に固化させ、3本ロールミルにかけて潤滑剤組成物を得た。
【0028】
そして、各潤滑剤組成物について、下記の(1)せん断流動性試験及び(2)流動−復元可逆性試験を行った。
【0029】
(1)せん断流動性試験
潤滑剤組成物の初期不混和ちょう度を測定した。また、自転−公転式攪拌機を用い、自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌してせん断を加えた後、不混和ちょう度を測定した。
【0030】
結果を表1に併記するが、せん断付与前の不混和ちょう度とせん断付与後の不混和ちょう度との差が大きいほど粘性変化が大きく好ましい。また、せん断付与後の不混和ちょう度が360以上(降伏応力を持たないちょう度)であれば、せん断による流動性有りと評価できる。実施例1、2の潤滑性組成物は、粘性変化が大きく、流動性も有する。
【0031】
(2)流動−復元可逆性試験を行った。
自転−公転式撹拌機を用い、潤滑剤組成物を自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間撹拌してせん断を加えた後、不混和ちょう度を測定し、40℃で3時間放置した後、再度不混和ちょう度測定することを1サイクルとし、これを3回繰り返す。そして、せん断1回目直後及び3サイクル後の各不混和ちょう度を測定し、下記式から粘性回復率を求めた。尚、この粘性回復率は、せん断を繰り返し受けたときの回復性能を示す指標であり、この値が高いほど、せん断を繰り返し受けても回復性が低下しないことを示す。また、100%の時に初期のちょう度まで回復したことになる。
【0032】
【数1】

【0033】
結果を表1及び図2に示すが、(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド:ジベンジリデンソルビトール)比が20〜80%:80〜20%の範囲にあるとき、特に良好な粘性回復率が得られている。
【0034】
【表1】

【0035】
また、実施例1の潤滑剤組成物の3サイクル間の不混和ちょう度の変化を図3に示すが、良好な流動−可逆回復性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤のみで基油を増ちょうしてなることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
質量比で、アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤=20〜80%:80〜20%であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に、請求項1または2記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−26432(P2011−26432A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172925(P2009−172925)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】