説明

潤滑剤隔室を有するブレーキシム

【課題】 ディスクブレーキパッドのシムを提供する。シムを有するディスクブレーキパッドのアセンブリを提供する。アクセスポートを通してアセンブリに潤滑剤を付与する方法を提供する。
【解決手段】 シムは、ブレーキパッドに係合するためにエッジ部から延びるカーブしたまたは湾曲した複数のエッジタブを有する略平面の金属シートから形成される。シムには、中央に配置された隆起領域が形成される。シムがブレーキパッドに保持されている場合には、隆起領域は潤滑剤のコンパートメントとして作用する。隆起領域は、ブレーキパッドからシムを取り外すことなくコンパートメント内に潤滑剤を導入できる少なくとも一つのアクセスポートを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシムに関するものであり、より詳細にはシムのための潤滑剤供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のブレーキ装置では、騒音及び振動を低減するために、シムの使用が急速に普及している。最も簡単な形態では、シムは、受け板(backing plate)の摩擦側から離れた背部にクリップ留め(clipped)、リベット留め(riveted)または接着された(adhered)薄い金属のシートである。シムは、ブレーキ装置の受け板とピストンの間の中間要素(すなわち緩衝材)として作用する。ピストンは、受け板に直接接触する代わりにシムに接触する。シムが力の一部を受けることにより、ブレーキをかけた場合の騒音及び振動を防止する。
【0003】
いくつかのシム装置では、複数のエッジ部に設けられた複数のタブを使用して、受け板にシムを保持している。このような構成は、複数のクリップがシムを受け板に対して若干動くことを許容するので、固定されたシムよりも特に有利であると考えられる。しかしながら、金属製の受け板をスクラップ化する金属製のシム自体が、騒音及び振動の原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーキパッドが取り付けられている場合には、潤滑剤は手作業で付与(applied)しなければならない。技術者は、シムをブレーキパッドの背部に取り付ける前に、シム上に潤滑剤を搾り出して、覆うように塗りつける(smears)。新しい潤滑剤を付与するためには、シムをパッドから取り外し、潤滑剤を付与した後にシムを所定の位置に再び取り付けなければならない。シムからの取り外し及びシムへの取付により、複数の側方タブは、徐々に脆弱になる傾向がある。複数のタブは、弾性が失われて、変形したり完全にちぎれてしまうことがある。複数のタブは、受け板の複数のエッジ部を摩擦によりて把持しているので、シムの取り外し及び再取付は、徐々に摩耗を引き起こす受け板の複数のエッジ部に沿ったスクラップ化を起こすことを意味する。
【0005】
潤滑剤は、粘度に応じて、シムの一点に位置したり、あるいはシムとプレートとの間のスペースから流出または漏出する傾向があり、いずれの場合も潤滑剤の有効性が失われる。このような問題を解決するために、いくつかの製造業者は、切り欠き部を有する内側シムを(切り欠きのない)外側シムで包むまたは覆う複雑な配置のマルチシムを開発した。内側シムの複数の切り欠き部は、それぞれ少量の潤滑剤を保持するリザーバとして作用するように用いられる。このような構成は、第2のシムの製造コストが追加されるため、最適ではない。
【0006】
シムが配置されていても潤滑剤を挿入できる1以上のアクセスポートを有する潤滑剤の隔室を備えたタブ型の1枚の単純なシム(simple single tab-style shim)を提供することで、上記問題を解決または改善することが望まれている。このようなシムは取り外さなくともメンテナンスが可能であるので、シムの寿命を長くすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点によれば、ディスクブレーキパッドのシムが提供される。シムは、複数のエッジ部から延びるカーブしたまたは曲がった複数のエッジタブを有する略平らな金属シートを備えている。複数のエッジタブは、ブレーキパッドの係合に用いられる。この金属シートは、少なくとも一つの潤滑剤アクセスポート(access port)が形成されて中央に配置された隆起領域を有している。隆起領域は、シムがブレーキパッドに保持されている間は、少なくとも一つのアクセスポートを通して導入された潤滑剤の隔室として作用する。
【0008】
隆起領域は、(垂直なまたは傾斜した側面とともに)平坦な上面を有していてもよい。この(上記)隆起領域は、略円形形状(circular)、略長円形形状(oval)または略楕円形形状(elliptical)を有していてもよく、略正方形形状(square)または略矩形形状(rectangular)を有していてもよい。隆起領域はドーム形状を有していることが好ましい。少なくとも一つのアクセスポートを有する隆起領域は、ニップル形状または逆ニップル形状を有していてもよい。
【0009】
隆起領域は、アクセスポートを一つだけ有していることが好ましい。アクセスポートは、液体または半固体の潤滑剤を収容する適宜の形状とすることができる。アクセスポートは円形であることが好ましい。アクセスポートは、潤滑剤をよりよく保持するために(シムの下側または底部に向かって)僅かに内側に向う複数のエッジを有していてもよい。
【0010】
隆起領域は、シムの実質的な中心(すなわち、シムのエッジ部でない部分またはエッジ部に近接しない部分)に配置されていることが好ましい 隆起領域は、シムの平坦な面で囲まれていることが好ましい。シムがブレーキピストンを有するブレーキアセンブリに取り付けられている場合には、ブレーキピストンは、隆起領域の周囲に位置するシムの一部に当たることが好ましい。好ましくは、ブレーキピストンは、隆起領域に接触しない。
【0011】
本発明の他の観点によれば、シム及びブレーキパッドのアセンブリが提供される。このアセンブリは、シムとブレーキパッドとを備えている。シムは、略平らな金属製シートを備えており、金属シートの複数のエッジ部から延びる複数のカーブしたまたは曲がった複数のエッジタブを有している。金属シートは、少なくとも一つの潤滑剤アクセスポートが形成されて略中央に配置された隆起領域を有している。ブレーキパッドは、摩擦材料に取り付けられる受け板を有している。このアセンブリにおいては、シムの複数のエッジタブが、摩擦材料と対向する受け板の対応する複数のエッジ部を把持して、ブレーキパッド及びシムを共に挟んだ状態で保持する。シムの隆起領域は、少なくとも一つのアクセスポートを通して導入される潤滑剤を収容する隔室として作用する。隔室は、密封隔室ではない。隔室の構造は、シムと受け板との間のスペースを潤滑剤が徐々に分散できるものである。
【0012】
本発明の更に他の観点によれば、取付タブ型のシム(attached tab-type shim)を有するブレーキパッドのアセンブリに潤滑剤を付与する方法が提供される。本発明の方法によれば、潤滑剤をシムの隆起領域に形成された少なくとも一つのアクセスポートを通して導入することができる。シムの隆起領域は、潤滑剤を収容し、シムとブレーキパッドとの間のスペースを潤滑剤が徐々に分散する隔室として作用する。このようにすれば、タブによりブレーキパッドに係合したシムを取り外すことなく、アセンブリに潤滑剤を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ブレーキ受け板及びシムのアセンブリの平面図である。
【図2】ブレーキパッド及びシムのアセンブリの側面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】ブレーキパッド及びシムのアセンブリの斜視図である。
【図5】ブレーキパッド及びシムのアセンブリの斜視図である。
【図6】ブレーキパッド及びシムのアセンブリの斜視図である。
【図7】ブレーキパッド及びシムのアセンブリの斜視図である。
【図8】ブレーキシムの斜視図である。
【図9】ブレーキシムの斜視図である。
【図10】ブレーキシムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図3には、本発明の実施可能な一実施の形態のブレーキ受け板及びシムのアセンブリ210が図示されている。図2には、シムを有する完成品のブレーキパッドのアセンブリ10が示されている。受け板の外形は、(車種及び車両モデルごとに製造業者によって決められた標準に応じて)ディスクブレーキ装置で使用される従来の形状と一致していることが好ましい。
【0015】
受け板50は、摩擦材料80に取り付けられてブレーキパッドを形成するものである。受け板は、シム対向側部180及び摩擦対向側部170を有している。受け板の摩擦対向側部170は、(摩擦材料により覆われていない)露出した金属(exposed metal)であり、略平坦に形成されている。受け板は、所定のブレーキキャリパー(図示せず)に受け板を保持できるように複数の側部で突出する複数の接合部130を有していてもよい。
【0016】
薄い金属シートであるシム20は、図1に示すように、受け板に近似した形状とすることができる。またシム20は、受け板の中央部だけを覆うように、受け板よりも多少狭い形状とすることができる。シム20は、受け板よりも小さな外周を有している。シムには、熱を低減するまたは潤滑剤を保持/分散する他の領域を提供する(図1に示すような穴または切り欠き60を含む)他の表面特徴が形成されていてもよい。
【0017】
シム20は、受け板50の複数のエッジ部を掴み、かつ、摩擦により受け板50上に保持するシム20上の曲がりタブ40によって受け板50に対して保持される。複数のタブ40は、シム20を、てこで上げて受け板50を外すことにより取り外しできるように若干の可撓性を有していることが好ましい。図4乃至図7に示すように、シム20の複数のタブ40は、受け板50をしっかりと掴むために、僅かに内側に向かってフック状に曲がっている。タブが若干の可撓性及び弾性を有しているので、シム20が受け板50に保持されていても、ブレーキ力が加わった場合にシム20は、受け板50のシム対向側部180の表面を横切る一定の範囲を移動することができる。
【0018】
ブレーキパッドのアセンブリ10のシム20及び受け板50の相対的な移動に起因する温度上昇を低減し、騒音及び振動の防止するために、これらの部品の間に潤滑剤を提供する必要がある。
【0019】
様々な種類及び配合の潤滑剤を使用することができる。潤滑剤の粘度及び配合は、ブレーキ装置を潤滑させるのに適したもの(例えば、自動車用高熱ベアリング潤滑剤(high heat bearing automotive lubricant))が選択される。
【0020】
シム20は、(好ましくは中央に位置する)隆起領域即ちバブル(bubble)30を有している。バブル30は、潤滑剤を収容する開口した内部隔室120を提供する。バブル30は、図4乃至図10に示すようにドーム形状としてもよいし、(図1乃至図3に示すように頂部が略平坦なバブル30のように)他の構成としてもよい。バブル30は、受け板50表面とバブル30の表面との間に潤滑剤を収容できるように受け板50から僅かに距離を置いて位置しているが、シム20は、バブル30のエッジ部を越えた部分が受け板50にほぼ密接した状態であることが好ましい。バブル30の選択された高さ及び他の寸法は、(例えば特定の車両におけるピストン及びキャリパーの構造を含む)特定用途の物理的制約及び要求に必然的に依存するものであるが、バブル30の高さは、約0.05インチ乃至約0.1インチの範囲であることが好ましい。実施可能な一実施の形態では、バブル30は、略平坦な上面150と、傾斜した(sloped or beveled)側部160とを有することができる(図3参照)。
【0021】
バブル30の外観は、円形、正方形、長方形、三角形等の簡便な形状とすることができる。ピストン110は、バブル30の周囲にあるシムの略平坦な領域140に当たり、バブル30には直接接触しない。
【0022】
バブル30は、(好ましくは中央に配置された)アクセスポート90を有している。アクセスポート90により、ブレーキパッドのアセンブリ10の所定の位置にシム20が取り付けられていても、潤滑剤70を隔室120内に提供することができる。潤滑剤70は、当業者によって理解されるように、グリースガン100(または他の潤滑剤付与装置)を使用する保守技術者によって注入される。シムには、1以上の開口したアクセスポート90が形成されている。ほとんどの用途においてアクセスポート90は一つで十分であり、隔室120内への潤滑剤の収容に最も好ましい。
【0023】
グリースガン100から流れ出た潤滑剤70は、アクセスポート90を通ってシムのバブル30の下方の隔室120内に流れ込む。図3及び図10に示すように、アクセスポートは、潤滑剤の流れを隔室120内に案内し、開口部を介した潤滑剤の減量を防止するために、曲がった複数のエッジを有していてもよい。これは、「逆ニップル」形状と考えることができる。あるいは、潤滑剤を隔室120内に導く他の方法として、アクセスポート90の複数のエッジを外側に曲げて「ニップル」形状とすることができる。
【0024】
シム及び受け板は、互いに密着されていない。その結果、隔室120内に蓄積された潤滑剤は、(シム20と受け板50との間に)徐々に滲み出て、シム20の受け板対向側及び受け板50のシム対向側を覆い、シム20と受け板50との間に、騒音減衰層として作用するグリース状の中間層が形成される。僅かに弾性を有するシム20上におけるピストンの動作により、受け板の表面から潤滑剤が押し出される。
【0025】
必要な場合は、潤滑剤を再付与または注ぎ足して、シム及び受け板の寿命を延ばしてもよい。アクセスポート90は簡便な構成であるので、新しい潤滑剤を付与するためにシムを取り外す必要がない。このような構成により、良好な状態を維持したままで部品の交換を容易に行うことができ、ライフサイクルに亘って最適性能を確保することができる。
【0026】
シム20のバブル30は、シムの他の形状(例えば側方タブ)の形成と同時に、プレス成形することができる。このように構成することにより、潤滑剤を収集できるスペースを作るための第2のシムを製造する必要がなくなる。アクセスポートは、無地のシムの金属にドリルによる孔開け(drilling)または打ち抜き(punching)をすることにより形成することができ、全ての工程は当業者に十分に理解されている。
【0027】
上記の説明は、本発明の特定の好ましい実施の形態のみを説明するものである。従って本発明は、上記実施例に限定されるものではない。即ち、当業者であれば、ここに詳述されている本発明の教示を活用し実行するために、改良及び変形が可能または可能になることを十分に理解できる。従って、全ての適切な改良、変形及び同等のものを用いることができ、そのような改良、変形及び同等のものは、上述の本発明の範囲及び請求の範囲の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
10 アセンブリ
20 シム
30 バブル
40 タブ
50 受け板
70 潤滑剤
80 摩擦材料
90 アクセスポート
100 グリースガン
110 ピストン
120 内部隔室
130 接合部
140 領域
150 上面
160 側部
170 摩擦対向側部
180 シム対向側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドのシムであって、
略平らな金属シートを備え、前記金属シートは前記ディスクブレーキパッドを係合するために前記金属シートの複数のエッジ部から延びるカーブしたまたは曲がった複数のエッジタブを有し、また前記金属シートは少なくとも一つの潤滑剤アクセスポートが形成されて中央に配置された隆起領域を有しており、
前記隆起領域は、前記シムが前記ブレーキパッドに保持されている間は、前記少なくとも一つのアクセスポートを通して導入された潤滑剤のための隔室として使われることを特徴とするディスクブレーキパッドのシム。
【請求項2】
前記隆起領域は、平坦な上面を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項3】
前記隆起領域は、傾斜した側面を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項4】
前記隆起領域は、略円形形状、略長円形形状または略楕円形形状を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項5】
前記隆起領域は、略正方形形状または略矩形形状を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項6】
前記隆起領域は、ドーム形状を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項7】
前記少なくとも一つのアクセスポートを有する前記隆起領域は、ニップル形状を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項8】
前記少なくとも一つのアクセスポートを有する前記隆起領域は、逆ニップル形状を有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項9】
前記隆起領域は、前記アクセスポートを一つだけ有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項10】
前記少なくとも一つのアクセスポートは、円形である請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項11】
前記少なくとも一つのアクセスポートは、潤滑剤をよりよく保持するために僅かに内側に向いた複数のエッジを有している請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項12】
前記シムがブレーキピストンを有するブレーキアセンブリに取り付けられている場合に、前記ブレーキピストンが前記隆起領域の周囲に位置する前記シムの一部の領域に当たり、かつ、前記ブレーキピストンが前記隆起領域に接触しないように、前記隆起領域が配置されている請求項1に記載のディスクブレーキパッドのシム。
【請求項13】
シム及びブレーキパッドのアセンブリであって、
シムは、略平らな金属シートを備えており、前記金属シートは前記ディスクブレーキパッドを係合するために前記金属シートの複数のエッジ部から延びるカーブしたまたは曲がった複数のエッジタブを有し、前記金属シートは少なくとも一つの潤滑剤アクセスポートが形成されて略中央に配置された隆起領域を有しており、
ブレーキパッドは、摩擦材料に取り付けられる受け板を備え、前記シムの前記複数のエッジタブは、前記摩擦材料に対向する前記受け板の対応する複数のエッジ部を把持して、前記ブレーキパッド及び前記シムを共に挟んだ状態で保持し、
前記シムの隆起領域は、少なくとも一つのアクセスポートを通して導入された潤滑剤を収容する隔室として使用され、前記潤滑剤が、前記シムと前記受け板との間のスペースに徐々に分散されるシム及びブレーキパッドのアセンブリ。
【請求項14】
取付タブ型のシムを有するブレーキパッドのアセンブリに潤滑剤を付与する方法であって、
前記ブレーキパッドから前記シムを取り外すことなく、前記シムの隆起領域に形成された少なくとも一つのアクセスポートを通して潤滑剤を導入し、
前記シムの前記隆起領域は、前記潤滑剤を収容し、前記シムと前記ブレーキパッドとの間のスペースに前記潤滑剤を徐々に分散する隔室として使用することを特徴とする潤滑剤を付与する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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