説明

潤滑油塗布装置

【課題】本発明は、簡便で且つ作業環境を良好に維持できる安価な潤滑油塗布装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の潤滑油塗布装置は、潤滑油を貯留する潤滑油貯留槽(12)と、一端に係止部(14a)を有しこの係止部がプレスの変位に同期して潤滑油(13)に出没される支持部(14)と、一端を支持部の係止部に係止され、他端は傾動自在に支承されている傾動部(16)とを備え、この傾動部は、前記一端が潤滑油面下にある浸漬位置と、前記一端が潤滑油面上にある水平位置との間で傾動自在であり、水平位置から浸漬位置に傾動することで、水平位置で載置された被成形部材(W)を潤滑油中へ滑落させてこの被成形部材に潤滑油を塗布すること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形において被成形部材に潤滑油を塗布する潤滑油塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷間鍛造や冷間プレスを用いて自動車部品や家電部品などを成形する場合に、被成形部材と金型との潤滑性や離型性を維持するために、金型や加工前の被成形部材に潤滑油を塗布することが行われている。通常、潤滑油の供給は自動で行われるが、このような潤滑油の塗布方法としては、金型に潤滑油を貯留する貯留部や溝部を設けて被成形部材に潤滑油を供給する方法(例えば、特許文献1参照)や、被成形部材を潤滑油に浸漬して被成形部材の表面に潤滑油を塗布する浸漬法(例えば、特許文献2参照)、あるいは金型と被成形部材の両方の表面に潤滑油をスプレー塗布するスプレー法などが知られている。
【0003】
しかし、金型に潤滑油の貯留部や溝部を設けて潤滑油を供給する方法では、金型の構造が複雑化するとともに、金型の強度が低下する。また、特許文献2に開示されている浸漬法の潤滑油塗布装置は、構成が複雑であり且つ装置も大型であるので設備費用が嵩み設置場所の制約を生じるという問題がある。また、スプレー法では周囲に潤滑油を飛散させることになるので作業環境を悪化して作業者の健康を損ねる虞があり、作業環境を良好に維持するための新たな設備投資が必要になる。
【特許文献1】特許第3610694号公報
【特許文献2】特開2002−234609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題を解決するためになされた潤滑油塗布装置の改良発明であり、簡便で且つ作業環境を良好に維持できる安価な潤滑油塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の潤滑油塗布装置は、上下に変位する一対のプレス金型で成形される被成形部材に潤滑油を塗布する潤滑油塗布装置であって、潤滑油を貯留する潤滑油貯留槽と、一端に係止部を有しこの係止部がプレスの変位に同期して潤滑油に出没される支持部と、一端を係止部材の係止部に係止され、他端は傾動自在に支承されている傾動部とを備え、この傾動部は、前記一端が潤滑油面下にある浸漬位置と、前記一端が潤滑油面上にある水平位置との間で傾動自在であり、水平位置から浸漬位置に傾動することで、水平位置で載置された被成形部材を潤滑油中へ滑落させてこの被成形部材に潤滑油を塗布すること特徴とする。
【0006】
本発明の潤滑油塗布装置において、前記支持部は、プレスの可動型に設けられており、その係止部は、L字状に形成されていることが望ましい。
【0007】
また、傾動部の他端は、プレスの可動方向に配置されて傾動部を支承する支承部と連結しており、この支承部の傾動部との連結部には、傾動部と連結しこの傾動部の傾斜に伴いプレス方向に傾斜する傾動補助部を設けてもよい。
【0008】
さらに、傾動部に貫通部を有し、この貫通部の周壁に摺接して傾動部の上下動を案内する案内部を備えることができる。ここで、案内部は潤滑油貯留槽内に立設されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油塗布装置は、被成形部材(以後、ワークともいう)を潤滑油に浸漬して塗布することができる。従って、金型に潤滑油の貯留部や溝部を設ける必要がないので、金型の強度低下を招くことなく被成形部材の潤滑性と離型性とを確保でき、金型寿命が向上する。また、潤滑油の飛散がないので作業環境に負荷を与えることがなく作業者の健康を損ねるなどの心配がない。
【0010】
さらに、本発明の潤滑油塗布装置は、プレスの動きと同期して個々のワークに順次潤滑油を塗布することができるので、塗布の自動化とともに1個流しによる成形品のトレーサビリティの確保が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態の潤滑油塗布装置について図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の潤滑油塗布装置10の概要を示す斜視図であり、プレス行程が上死点にある場合である。なお、説明を容易にするため潤滑油貯留槽内は透視図で示してある。
【0013】
潤滑油塗布装置10は、潤滑油貯留槽12と支持部14と傾動部16とを備えている。潤滑油貯留槽12は潤滑油13を貯留して下型(固定型)18bに近接して配置されている。支持部14は板状部材からなっており、一端にL字状に突出した係止部14aが形成されている。そして、この係止部14aが潤滑油表面13aに臨むように他端(図示せず)が上型(可動型)18aに固着されている。
【0014】
傾動部16は鉄板などの板状部材からなっており、一端16aを支持部材14の係止部14aに係止し、他端16bは、プレスの上下方向に配置され傾動部16を支承する支承部17と傾動自在に連結されている。支承部17の傾動部16との連結部には、傾動部16と連結し傾動部16の傾斜に伴いプレス方向に傾斜する傾動補助部20が設けられている。
【0015】
支承部17は、潤滑油貯留槽12の外部に立設された平板部材である。傾動補助部20は、支承部17の上端と傾動部16の他端に対して曲折可能に連結されている。傾動補助部20は、被成形部材が傾動部16上に載置される状態においては、傾動補助部20は、プレスの上下方向に向いており、傾動部16がプレスの変位に伴って傾斜したとき、傾動部16に連動してプレスした方向に傾斜して、被成形部材を潤滑油方向に押し出すように滑落させる。
【0016】
また、潤滑油塗布装置10は、プレスの上下方向に配置された案内部19を有するとともに、傾動部16の一端側には案内部19を貫通する貫通部16cが形成されている。傾動部16は、貫通部16cの周壁を案内部19に摺接しながらプレスの上下動に伴って傾動することができるので、安定した状態で上下動することができる。
【0017】
本実施形態では、案内部19は潤滑油貯留槽12内部に立設された平板部材であり、傾動部16が傾斜して、被成形部材が傾動部16上を滑落した際、被成形部材は案内板12に接触して停止する。つまり、案内板19を下型に対して好適な位置に設けることで被成形部材を位置決めすることができる。
【0018】
図1では、プレス行程が上死点にあるので、傾動部16は一端16aが潤滑油面13aより上にある水平位置となっている。しかし、プレス行程が下降行程になった場合には、図2に示すように傾動部16の一端16aが下降し、プレス行程が下死点では一端16aが潤滑油面13aより下にある浸漬位置にまで傾動することができる。
【0019】
以上のような構成を有する潤滑油塗布装置10を用いて、以下の手順でワークWに潤滑油13を塗布する。
【0020】
まず、プレスの上死点では、図3に示すように潤滑油塗布装置10の傾斜部16が水平位置状態であるから、矢印AのようにワークWを傾斜部16の端部16b近傍の所定の位置へ載置する。ワークWの載置は作業者が手動で行ってもよいが、シリンダあるいはロボットなど周知のハンドリング手段を用いてもよい。
【0021】
次に、プレスの下降行程では、図4に示すように上型18aは矢印Bに沿って下降するので、支持部14の係止部14aは潤滑油13中に没入する。これにより係止部14aに係止されている傾動部16の端部16aも同時に下降して、傾動部16はプレスの下死点では浸漬位置にまで傾動する。傾斜部16の端部16b近傍に載置されていたワークWは、傾動部16の傾動とともに矢印Cに沿って傾動部16上を滑落して潤滑油13中へ浸漬される。
【0022】
続いて、プレスの上昇行程では、上型18aが図5の矢印Dのように上昇するので、支持部14の係止部14aは、傾動部16の端部16bを係止して潤滑油13中から進出する。傾動部16は潤滑油が塗布されたワークWを端部16a近傍に載置して水平位置で停止し、ワークWへの潤滑油13の塗布が完了する。
【0023】
この後、ワークWを矢印Eのように適宜の方法で下型18bの所定の位置へ配置するとともに、水平位置の傾斜部16に次のワークWを載置し、上型を下降させてワークWを所定の形状に成形する。なお、ワークWを矢印Eのように金型内の所定の位置へ配置する場合に、金型18内にすでに成形されたワークW(図示せず)が存在する場合には、ワークWを金型18内から取り出すと同時に塗布完了のワークWを金型18内へ配置するようにする。なお、ワークWを矢印Eのように下型18bの所定の位置へ配置する配置手段としては、プレスの変位に連動してワークWを矢印E方向へ押圧する機械的手段やシリンダあるいはロボットなど周知のハンドリング手段を用いることができる。
【0024】
以上の手順を繰り返すことで、ワークWに順次潤滑油を塗布することができ、また成形品のトレーサビリティを確保することができる。
【0025】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更してもよい。
【0026】
例えば、上記の実施の形態では、係止部材の係止部に傾動部材の一端を係止することとしたが、係止部材の一端部と傾動部材の一端部とを蝶番などで傾動自在に連結してもよい。
【0027】
また、上記の実施の形態では、傾斜部材16を鉄板などの単なる板状部材としたが、網体又はパンチボードなどの有孔部材としてもよい。傾斜部材に網体や有孔部材などを用いることで傾動時の潤滑油の抵抗を低減して傾斜板の上下動による潤滑油の波立ちを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の潤滑油の塗布装置は、冷間鍛造品あるいは冷間プレス品の潤滑油塗布装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態を説明する斜視図であり、プレスの上死点におけるものである。
【図2】本発明の一実施の形態を説明する斜視図であり、プレスの下降途中を示す。
【図3】ワークWに潤滑油を塗布する手順を説明する斜視図であり、潤滑油塗布前を示す。
【図4】ワークWに潤滑油を塗布する手順を説明する斜視図であり、潤滑油塗布中を示す。
【図5】ワークWに潤滑油を塗布する手順を説明する斜視図であり、潤滑油塗布後を示す。
【符号の説明】
【0030】
10:潤滑油塗布装置 12:潤滑油貯留槽 13:潤滑油 14:支持部 14a:係止部 16:傾動部 17:支承部 18:金型 19:案内部 20:傾動補助部 W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に変位する一対のプレス金型で成形される被成形部材に潤滑油を塗布する潤滑油塗布装置であって、
前記潤滑油を貯留する潤滑油貯留槽と、
一端に係止部を有し、該係止部が前記プレスの変位に同期して前記潤滑油に出没される支持部と、
一端を前記支持部の前記係止部に係止され、他端は傾動自在に支承されている傾動部とを備え、
前記傾動部は、前記一端が前記潤滑油面下にある浸漬位置と、前記一端が前記潤滑油面上にある水平位置との間で傾動自在であり、前記水平位置から前記浸漬位置に傾動することで、前記水平位置で載置された前記被成形部材を前記潤滑油中へ滑落させて前記被成形部材に前記潤滑油を塗布すること特徴とする潤滑油塗布装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記プレスの可動型に設けられている請求項1に記載の潤滑油塗布装置。
【請求項3】
前記係止部は、L字状に形成されている請求項1又は2に記載の潤滑油塗布装置。
【請求項4】
前記傾動部の他端は、プレスの可動方向に配置され前記傾動部を支承する支承部と連結しており、該支承部の前記傾動部との連結部には、前記傾動部と連結し該傾動部の傾斜に伴いプレス方向に傾斜する傾動補助部が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油塗布装置。
【請求項5】
前記傾動部に貫通部を有し、該貫通部の周壁に摺接して前記傾動部の上下動を案内する案内部を備える請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油塗布装置。
【請求項6】
前記案内部は前記潤滑油貯留槽内に立設されている請求項5に記載の潤滑油塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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