説明

潤滑油添加剤およびそれを含む潤滑油組成物

【課題】潤滑油組成物にて用いるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を提供する。
【解決手段】アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基を、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導する。さらに、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマーも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に云ってプロピレンオリゴマー、そのプロピレンオリゴマーから誘導した潤滑油添加剤およびそれを含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の合成もしくは天然化学物質が内分泌系に影響を与える可能性を示す証拠が増加している。例えば、ある種の合成もしくは天然化学物質は、エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体、そして甲状腺ホルモン受容体のような細胞の受容体に対して作動物質もしくは拮抗物質として機能する可能性がある。作動物質は細胞の受容体に結合して反応を誘発するのに対して、拮抗物質は作動物質の機能を妨げる。天然もしくは合成化学物質は様々な方法で、身体に自然に存在するホルモンに干渉する。これらの化学物質は、内分泌撹乱因子と呼ばれている。例えば、内分泌撹乱因子は(1)ホルモン受容体に結合して自然に存在しているホルモンに擬態する可能性、(2)自然に存在しているホルモンがそれぞれのホルモン受容体に結合するのを妨げる可能性、(3)ホルモンの平常のレベルを変える可能性、(4)平常のホルモンのレベルを増加あるいは減少させる可能性、および(5)身体をホルモンが移動する経路に干渉する可能性がある。
【0003】
エストロゲン及びエストロゲン受容体が正常に機能することを妨げる化学物質は、内分泌撹乱因子の一例である。ある種の化学物質(疑似エストロゲンと呼ばれている)と天然のエストロゲンとは、共通の作用機構を有している。通常の場合、エストロゲンの活性は、天然のエストロゲンが細胞核内部のエストロゲン受容体(ER)に結合すること、および引き続いて起こる標的遺伝子の転写活性化により生じる。転写活性化は、標的遺伝子の調節領域の内部でエストロゲン受容体がプロモータ配列に結合することにより生じる。天然のエストロゲンに擬態した内分泌撹乱因子が存在すると、この内分泌撹乱因子がERに結合して、天然のエストロゲンが存在しなくても、ERによる転写活性化が生じる。同様に、ERに結合した内分泌撹乱因子により抗エストロゲン活性が生じる場合もある。ただし、これは内分泌撹乱因子が天然のエストロゲンと同程度には結合したERを活性化しない場合である。最後に、選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)がERに結合し、引き続き細胞応答を活性化するが、天然のエストロゲンにより活性化されるものとは異なる。一般に、ERに結合する全ての、ただし非常に少数の分子が、エストロゲンもしくはSERMとして、受容体にある程度の活性化を起こす。
【0004】
アルキルフェノール類およびそれらから製造される生成物は、内分泌撹乱性化学物質の可能性との関連で、より綿密に精査されるようになった。これはアルキルフェノールおよびアルキルフェノール生成物の分解中間体が弱いエストロゲン活性を有するからである。アルキルフェノール類は商業的に使用されており、例えば、除草剤、ガソリン添加物、染料、ポリマー添加剤、界面活性剤、潤滑油添加剤、および抗酸化剤中に存在する。近年では、エトキシ化ノニルフェノールのようなアルコキシ化アルキルフェノール類について、生分解性が低いこと、フェノール部分の生物分解副産物が水性生物に対して高い毒性を有することが批判されている。そのため、これらの化学物質が内分泌撹乱因子として機能すること、例えば疑似エストロゲンとして機能することについての懸念が増加している。いくつかの研究において、アルキルフェノール類とヒトの男性について計測される精子数の減少との間の関連、およびアルキルフェノール類がヒトのエストロゲンおよびアンドロゲンの受容体の活性に対して有害な撹乱を起こす事実が示されている。
【0005】
具体的に云えば、非特許文献1では、様々なアルキルフェノール類のエストロゲン活性が、酵母のエストロゲン誘発可能な菌株において天然に発生したホルモン17β−エストラジオールと比較されている。その結果によると、最も高いエストロゲン活性は、6乃至8の炭素原子からなる単一の分岐アルキル基が、最も高い活性を有する4−tert−オクチルフェノール(8炭素原子、別の名称では4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール)について、他には立体障害がないフェノール環のパラ位に位置する場合である。非特許文献1には、分析において様々なアルキルフェノール類を試験し、アルキル鎖の長さ、分岐の程度、フェニル環にあるアルキル基の位置、および異性体の不均一性の程度が結合効率に影響するが、構造的な活性に関する結果を導くことはできないことが示されている。例えば、非特許文献1には、p−ノニルフェノールの異性体は、高分解能ガスクロマトグラフ分析により22個のパラ異性体があることが明らかにされ、類似の活性を持たないだろうとの推測が示されている。しかし、非特許文献1において、何れの一つもしくは複数の異性体が活性種であるか明らかにされていない。
【0006】
興味深いことに、非特許文献2には、ヒトのエストロゲン受容体を使用した場合、アルキル基の炭素原子数が9炭素原子であると、アルキルフェノール類の受容体への結合が最大になるとの知見が述べられている。非特許文献2には、分岐鎖のノニルフェノール、異性体の混合物(n−ノニルフェノールを全く含まない市販品)がn−ノニルフェノールとほぼ同様の活性であったとの知見が述べられている。
【0007】
エトキシ化ノニルフェノールおよびエトキシ化オクチルフェノールは、非イオン性界面活性剤として広く用いられている。このようなアルコキシ化アルキルフェノールによる環境および健康への影響の懸念は、ヨーロッパにおいては政府によるこれらの界面活性剤の使用制限、そして米国においては産業界による自発的な使用制限を招いている。多くの産業は、これらの好ましいアルコキシ化アルキルフェノール界面活性剤を、アルコキシ化直鎖および分岐鎖のアルキル一級および二級アルコール類に置き換えることを試みている。ただし、後者のアルコール類は、臭気、性能、処方、および費用の増加に関する諸問題に直面している。エトキシ化アルキルフェノール類とそれらの化合物(主に分解副産物)によって生じる可能性がある問題とが主に注目されているが、他の成分についても再検討し、否定的な影響を減少させると共に、類似もしくはさらに良い性能を有する組み合わせを選択する必要性も残っている。
【0008】
ノニルフェノールとドデシルフェノールは、以下の工程により製造できる:プロピレンのオリゴマー化;プロピレン三量体および四量体の分離;そしてプロピレン三量体によるフェノールのアルキル化およびノニルフェノールの分離;あるいはプロピレン四量体によるフェノールのアルキル化およびドデシルフェノールの分離。
【0009】
プロピレン四量体から製造されたテトラプロペニルフェノールは、潤滑性添加剤の産業分野で広く使用されている。プロピレン四量体は、平均炭素数が12であり、高度のメチル分岐を有する炭素鎖を含む。四量体は、一般に炭素原子数が10乃至15の炭素数分布を有することができる。四量体は、油溶性および他の油溶性潤滑性添加剤成分との相容性を与える。四量体は、製造コストの点でも有効なオレフィンである。プロピレン四量体から誘導したドデシルフェノールは主に、潤滑油の添加剤、一般には硫化アルキルフェネート清浄剤の製造における中間体として使用されている。わずかではあるが、これらの分岐フェネート清浄剤は、僅かな程度の量であるが、直鎖オレフィンを使用している。
【0010】
特許文献1は、(a)潤滑性粘度の油、および(b)(1)少なくとも10炭素原子を有するオレフィンであって、80モル%を超えるオレフィンが直鎖C20乃至C30n−αオレフィンであり、10モル%未満のオレフィンが20炭素原子未満の直鎖オレフィンであり、5モル%未満のオレフィンが18炭素原子以下の分岐鎖オレフィンであるオレフィンと(2)ヒドロキシ芳香族化合物との反応物の未硫化のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含む清浄剤を含む潤滑油組成物を開示している。特許文献1の比較例Cは、フェノールを主にプロピレン五量体から誘導される分岐C14乃至C18オレフィンでアルキル化することにより製造した分岐ペンタデシルフェノールカルシウム塩を開示している。しかし、特許文献1は、比較例Cの分岐ペンタデシルフェノールカルシウム塩が、内分泌撹乱因子の作用を防止することに無効であることを開示している。また、特許文献1は、当該オレフィンの沸点の範囲を開示していない。
【0011】
特許文献2は、(a)硫化モノアルキルカテコール誘導体のアルカリ土類金属塩と(b)硫化モノアルキルカテコールとを含む潤滑油添加剤を開示している。特許文献2は、さらに硫化モノアルキルカテコールが、カテコールを触媒の存在下でプロピレン五量体のようなオレフィンと反応させることにより生成させたカテコールのアルキル化生成物の硫化により得られることを開示している。特許文献2には、内分泌撹乱作用に関する開示はない。特許文献2には、アルキルカテコールに使用されるオレフィンの沸点の範囲に関する開示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0049508号明細書
【特許文献2】米国特許第5510043号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ラウトレッジ、他、「エストロゲン活性に関連したアルキルフェノール系化学物質の構造的特徴」、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー、1997年2月7日、272(6):3280−8
【非特許文献2】タブリア、他、「エストロゲン受容体に結合するパラアルキルフェノール類の構造」、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー、262、240〜245(1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
潤滑油組成物に使用するため、アルキルフェノール類から誘導した改良された潤滑油添加剤の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の態様では、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え、約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導されるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩が提供される。
【0016】
本発明の第二の態様では、下記の工程を含む、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩の製造方法が提供される:
(a)ヒドロキシ芳香族化合物を、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物でアルキル化してアルキルヒドロキシ芳香族化合物を得る工程;
(b)工程(a)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和してアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;
(c)工程(b)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をオリゴマー化してオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;そして
(d)工程(c)のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を過塩基化してオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を得る工程。
【0017】
本発明の第三の態様では、(a)潤滑性粘度を有する主要量の油および(b)オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される少なくとも約195℃の初留点と、325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導されるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む潤滑油組成物が提供される。
【0018】
本発明の第四の態様では、潤滑油組成物び哺乳類に対する影響としての内分泌系撹乱性を軽減する方法であって、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導されるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を、潤滑性粘度を有する主要量の油を含む潤滑油組成物に添加することを含む方法が提供される。
【0019】
本発明の第五の態様では、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導されるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を、潤滑油組成物の哺乳類に対する影響としての内分泌系撹乱性を軽減することを目的として、潤滑性粘度を有する主要量の油を含む潤滑油組成物中の添加剤として使用することが提供される。
【0020】
本発明の第六の態様では、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレン五量体を含むオレフィン混合物から誘導される過塩基性塩を、潤滑油組成物が有する哺乳類に対する影響としての内分泌系を撹乱する性質を軽減することを目的として、潤滑性粘度を有する主要量の油を含む潤滑油組成物中の添加剤として使用することが提供される。
【0021】
本発明の第七の態様では、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマーが提供される。
【0022】
本発明の第八の態様では、(a)全質量に対して少なくとも約50質量%のプロピレンを含む原料油に、酸強度が約114%乃至約122%の液体リン酸触媒を、オリゴマー化条件下の反応域において接触させること;そして(b)ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマーを分離することを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプロピレンオリゴマーを使用することにより、アルキルフェノール類から誘導した潤滑油添加剤の内分泌撹乱作用は最小になると思われる。従って、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーは、潜在的な内分泌撹乱作用も最小にすると思われる。従って、本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩は、内分泌撹乱性の化学物質を実質的に含まないとも思われる。このため、本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩は、哺乳類に対する内分泌系撹乱作用を最小にする必要がある組成物に有利に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される少なくとも、約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導される過塩基性塩を対象とする。
【0025】
本発明をより詳細に議論する前に、以下の用語を定義しておく。
【0026】
[定義]
本明細書で使用する場合、異なる旨が明確に記述されている場合を除き、下記の用語は下記の意味を有する。
【0027】
本明細書で使用する「内分泌撹乱因子」は、内分泌系、特に生殖過程を調節する内分泌系の通常の調節を撹乱する化合物を意味する。
【0028】
本明細書で使用する「石灰」は、消石灰もしくは水和石灰としても知られる水酸化カルシウムを意味する。
【0029】
本明細書で使用する「全塩基価」もしくは「TBN」は、1gの試料に対する、mg単位の水酸化カリウムと当量の塩基の量を意味する。従って、より高いTBN数は、より塩基性が高い生成物を反映し、そのため、より高いアルカリ度を示す。サンプルのTBNは、ASTMの試験番号D2896もしくは他の同等の方法により決定することができる。
【0030】
本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩は以下のようにして得られる:
(a)ヒドロキシ芳香族化合物を、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物でアルキル化してアルキルヒドロキシ芳香族化合物を得る工程;
(b)工程(a)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和してアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;
(c)工程(b)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をオリゴマー化して、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;そして
(d)工程(c)でオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を過塩基化して、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を得る工程。
【0031】
一般に、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩の製造方法は良く知られており、本発明では、公知の過塩基性のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族塩の製造方法を採用できる。例えば、そのような塩の代表的な製造方法は、過塩基性硫化アルキルフェネートを開示する米国特許第3178368号および同第3801507号の各明細書、過塩基性アルキルフェノール/ホルムアルデヒド/ジアミノアルカン縮合生成物を開示する米国特許第3429812号明細書、および過塩基性であってもよい中和されたアルキルフェノール−グリオキシル酸オリゴマーを開示する米国特許第5281346号および同第5458793号の各明細書に記載されている。従って、本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩の製造方法で採用する工程は、当業者が予測できる範囲にある。
【0032】
工程(a)では、ヒドロキシ芳香族化合物を、少なくともプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物でアルキル化する。アルキル化が可能な有用なヒドロキシ芳香族化合物は、1乃至4のヒドロキシ基、ある態様では1乃至3のヒドロキシ基を有する単核のモノヒドロキシあるいはポリヒドロキシC乃至C30芳香族炭化水素を含む。適切なヒドロキシ芳香族化合物は、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、クレゾール、その他、およびそれらの混合物を含む。ある態様では、ヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0033】
ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に使用するオレフィン混合物は、少なくともASTM D86で測定される少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含む。ある態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される少なくとも約220℃の初留点を有する。ある態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される少なくとも約225℃の初留点を有する。別の態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される少なくとも約235℃の初留点を有する。また別の態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される、少なくとも約245℃の初留点を有する。さらに別の態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される、少なくとも約260℃の初留点を有する。さらにまた別の態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される、少なくとも約280℃の初留点を有する。別の態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される少なくとも約300℃の初留点を有する。
【0034】
ある態様では、プロピレンオリゴマーはASTM D86で測定される、約330℃乃至約400℃の終留点を有する。別の態様では、プロピレンオリゴマーは約335℃乃至約400℃の終留点を有する。また別の態様では、プロピレンオリゴマーは約330℃乃至約375℃の終留点を有する。更にある態様では、プロピレンオリゴマーは約335℃乃至約360℃の終留点を有する。本発明では、プロピレンオリゴマーについて、前述した初留点と終留点との任意の全ての組み合わせが意図されている。
【0035】
プロピレンオリゴマーは、主要量のプロピレンを含む原料油に、酸強度(acid strength)が約114%乃至約122%の液体リン酸触媒を、オリゴマー化条件下の反応域にて接触させること、およびASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを分離することにより得ることができる。
【0036】
プロピレンオリゴマーの製造に使用するための原料油は、原料油の全質量に対して、少なくとも約50質量%のプロピレンを含む。ある態様では、原料油は、原料油の全質量に対して少なくとも約60質量%のプロピレンを含む。別の態様では、原料油は、原料油の全質量に対して少なくとも約70質量%のプロピレンを含む。ある態様では、原料油は、原料油の全質量に対して少なくとも約80質量%のプロピレンを含む。また別の態様では、原料油は、原料油の全質量に対して約75乃至約90質量%のプロピレンを含む。
【0037】
ある態様では、原料油は、仮にブテンのようなプロピレン以外の任意のオレフィンを含む場合には、比較的に少量にて含んでいてもよい(すなわち、実質的には含まない)。ある態様では、原料油は、ブテンのような他のオレフィンを含むことができる。だだし、オリゴマー化した反応生成物は、約195℃より大きい初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有する。ある態様では、原料油は約10質量%未満のブテンを含む。別の態様では、原料油は約5質量%未満のブタンを含む。また別の態様では、原料油は約2質量%未満のブテンを含む。原料油は、比較的に少量の、典型的には約10質量%未満の非反応性成分、例えば、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン等のアルカンを含むこともできる。
【0038】
本発明の方法では、出発オレフィンの転化率(オリゴマー化された生成物の質量%/出発オレフィンの全質量)は少なくとも約70質量%である。ある態様では、出発オレフィンの転化率は少なくとも約75質量%である。別の態様では、出発オレフィンの転化率は少なくとも約80質量%である。別の態様では、出発オレフィンの転化率は少なくとも約85質量%である。
【0039】
一般に、プロピレンオリゴマーの製造方法に使用するための液体リン酸触媒は公知であり、例えば、米国特許第2592428号、同2814655号、および同第3887634号の各明細書に開示された液体リン酸触媒を参照されたい。リン酸触媒の酸強度は変えることはできるが、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを生成するのに充分でなければならない。本発明で使用される有用な液体リン酸触媒は、約114%乃至約122%の酸強度を有する。ある態様では、有用な液体リン酸触媒は、約114%乃至約118%の酸強度を有する。ある態様では、有用な液体リン酸触媒は、約114%乃至約116%の酸強度を有する。リン酸触媒の酸強度は、NMR(核磁気共鳴分光法)を用いて測定したポリリン酸のピークから計算することができる。そしてリン酸触媒の酸強度は、オルトリン酸(HPO)を生成する加水分解反応に必要とされる量よりも多いPの割合として表すことができる。オルトリン酸の酸強度は100%であり、ピロリン酸(H)の酸強度は110%であり、そしてポリリン酸H(HPOの酸強度は、n=1のときに114%で、n=2のときに116%である。
【0040】
通常はガス状の原料油を液体の状態に維持するのに十分な温度及び圧力にある反応領域において、原料油及び液体リン酸触媒を接触させる。一般に、原料油と液体リン酸触媒とを接触させる際に、反応領域の温度を約75℃乃至約175℃に、そして圧力を約200psig乃至約1600psigに維持することができる。ある態様では、温度は約85℃乃至約150℃の範囲にあってよい。別の態様では、温度は100℃乃至約150℃の範囲にあってよい。ある態様では、温度は約110℃乃至約125℃の範囲にあってよい。ある態様では、反応領域の圧力は約400psig乃至約1000psigの範囲にあってよい。別の態様では、圧力は約500psig乃至約850psigの範囲にあってよい。別の態様では、圧力は550psig乃至約800psigの範囲にあってよい。本発明では、前述した温度範囲と圧力範囲の全ての組み合わせが意図されている。
【0041】
一般に、原料油及び液体リン酸触媒を接触させる時間は約5分乃至約45分の範囲にある。
【0042】
原料油と液体リン酸触媒とをオリゴマー化条件下にある反応領域で接触させ、ASTM D86で測定される、少なくとも約195℃の初留点と325℃を超え約400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマーを当該分野の公知技術、例えば蒸留、により分離する。
【0043】
ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14以下の炭素原子を有するものを約25質量%以下含む炭素原子分布を有していてよい。ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14以下の炭素原子を有するものを約20質量%以下含む炭素原子分布を有していてよい。別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14以下の炭素原子を有するものを約15質量%以下含む炭素原子分布を有していてよい。ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14以下の炭素原子を有するものを約5質量%以下含む炭素原子分布を有していてよい。
【0044】
ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C13以下の炭素原子を有するものを約3質量%未満含む炭素原子分布を有していてよい。ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C13以下の炭素原子を有するものを約2質量%未満含む炭素原子分布を有していてよい。ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C13以下の炭素原子を有するものを約1質量%未満含む炭素原子分布を有していてよい。ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C13以下の炭素原子を有するものを実質的に含まない。
【0045】
ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%含む炭素原子分布を有していてよい。別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C15乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約55質量%含む炭素原子分布を有していてよい。
【0046】
ある態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C21乃至C26の炭素原子を有するものを少なくとも約10質量%含む炭素原子分布を有していてよい。別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C27+の炭素原子を有するものを少なくとも約1質量%含む炭素原子分布を有していてよい。別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C27+の炭素原子を有するものを約1質量%乃至5質量%含む炭素原子分布を有していてよい。
【0047】
別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約50質量%、C21乃至C26の炭素原子を有するものを少なくとも約10質量%、およびC27+の炭素原子を有するものを少なくとも約1質量%含む炭素原子分布を有していてよい。別の態様では、本発明で用いるプロピレンオリゴマーは、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも約55質量%、C21乃至C26の炭素原子を有するものを少なくとも約10質量%、およびC27+の炭素原子を有するものを少なくとも約1質量%含む炭素原子分布を有していてよい。
【0048】
本発明では、プロピレンオリゴマーについて、前述した炭素原子分布の全ての組み合わせが意図されている。
【0049】
本発明のプロピレンオリゴマーは、プロピレンオリゴマーの混合物の初留点が少なくとも約195℃である限り、プロピレン三量体もしくは四量体のような低分子量プロピレンオリゴマーを任意の量で含むことができる。本発明のプロピレンオリゴマーは、ASTM D86で測定される終留点が325℃を超え約400℃以下である限り、C27+のような高分子量プロピレンオリゴマーを任意の量で含むこともできる。ある態様では、本発明のプロピレンオリゴマーは、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体およびそれらの混合物を含むことができる。
【0050】
一般に、オレフィン混合物は、前述した主要量のプロピレンオリゴマーを含む。ただし、当業者が容易に理解できるように、オレフィン混合物は他のオレフィンを含むことができる。例えば、オレフィン混合物中に使用できる他のオレフィンは、直鎖オレフィン、環状オレフィン、ブチレンもしくはイソブチレンオリゴマーのようなプロピレンオリゴマー以外の分岐鎖オレフィン、アリールアルキレン、その他、およびそれらの混合物を含む。適切な直鎖オレフィンは、1−ヘキセン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、その他、およびそれらの混合物を含む。特に適した直鎖オレフィンは、C16乃至C30n−αオレフィンのような高分子量n−αオレフィンである。これらの直鎖オレフィンは、エチレンのオリゴマー化やワックスのクラッキングのような方法で得ることができる。適切な環状オレフィンは、シクロヘキセン、シクロペンテン、シクロオクテン、その他、およびそれらの混合物を含む。適切な分岐鎖オレフィンは、ブチレン二量体もしくは三量体、もしくはより高分子量のイソブチレンオリゴマー、その他、およびそれらの混合物を含む。適切なアリールアルキレンは、スチレン、メチルスチレン、3−フェニルプロペン、2−フェニル−2−ブテン、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0051】
オレフィン混合物によるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化は、一般にアルキル化触媒の存在下で実施する。有用なアルキル化触媒は、ルイス酸、固体酸、トリフルオロメタンスルホン酸、および酸性分子篩触媒を含む。適切なルイス酸は、トリ塩化アルミニウム、トリフッ化ホウ素、およびトリフッ化ホウ素複合体(例えば、トリフッ化ホウ素エーテル、トリフッ化ホウ素−フェノール、およびトリフッ化ホウ素−リン酸)を含む。適切な固体酸は、アンバーリスト36TM(ペンシルバニア州フィラデルフィアのローム・アンド・ハース社より入手可能)のようなスルホン酸化酸性イオン交換樹脂型触媒を含む。
【0052】
アルキル化の反応条件は、使用する触媒の種類による。許容できない量のクラッキングを生じることなく、高い変換効率でアルキルヒドロキシ芳香族生成物を生じる反応条件の適切な組み合わせが採用できる。本発明の好ましい一態様では、アルキル化の生成物であるアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、アルキル基がC13以下であるアルキルヒドロキシ芳香族の含有率が約10%以下であり、好ましくは約5%以下であり、更に好ましくは2%以下であり、そして最も好ましくは1%以下である。別の態様では、アルキル化の生成物であるアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、アルキル基がC15乃至C20であるアルキルヒドロキシ芳香族の含有率が少なくとも約20%であり、好ましくは少なくとも約30%であり、更に好ましくは少なくとも約40%であり、そして最も好ましくは少なくとも約50%である。
【0053】
ある態様では、アルキル化反応の反応温度は、約25℃乃至約200℃の範囲内にある。別の態様では、アルキル化反応の反応温度は、約85℃乃至約135℃の範囲内にある。反応時の圧力は一般に大気圧であるが、より高いもしくはより低い圧力を採用できる。アルキル化処理は、バッチ式、連続式、もしくは準連続式で実施できる。ある態様では、ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィン混合物のモル比は、通常は約10:1乃至約0.5:1の範囲内にある。ある態様では、ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィン混合物のモル比は、通常は約5:1乃至約3:1の範囲内にある。
【0054】
アルキル化反応は、簡単な条件、もしくはヒドロキシ芳香族化合物とオレフィン混合物との反応に対して不活性な溶媒の存在中で実施することができる。使用できる典型的な溶媒は、ヘキサンである。
【0055】
反応の終了後に、従来公知の技術により、必要なアルキルヒドロキシ芳香族化合物を分離する。典型的な場合では、ヒドロキシ芳香族化合物を反応生成物から蒸留する。
【0056】
アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基は、典型的な例では、ヒドロキシ芳香族化合物のオルトおよびパラ位に優先的に結合する。
【0057】
このように得られたアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、次に反応条件下、好ましくは不活性で相容性のある液体炭化水素希釈剤中で、金属塩基と接触させて、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を生成させる。この反応は、好ましくは不活性気体中、典型的には窒素中で実施する。金属塩基の添加は、一回の添加でも、反応の中間点における複数回の添加でもよい。
【0058】
適切な金属塩基性化合物は、金属の水酸化物、酸化物もしくはアルコキシドを含む。それらの例は、(1)アルカリ水酸化物、アルカリ酸化物もしくはアルカリアルコキシドから選ばれる金属塩基から誘導されるアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、もしくは(2)アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物もしくはアルカリ土類金属のアルコキシドから選ばれる金属塩基から誘導されるアルカリ土類金属塩である。水酸化物としての機能を伴う金属塩基性化合物の代表的な例は、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、および水酸化アルミニウムである。酸化物としての機能を持つ金属塩基性化合物の代表的な例は、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、および酸化バリウムである。好ましく使用される金属塩基は、例えば、酸化カルシウムと比較した場合、取り扱いの容易さやコストの点で、水酸化カルシウムである。
【0059】
金属塩基とアルキルヒドロキシ芳香族化合物との間の中和反応は、典型的な場合では、室温(25℃)よりも高い温度で実施する。中和反応は、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、その他、およびそれらの混合物のような促進剤の存在下で実施する。
【0060】
アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、次にオリゴマー化してオリゴマー化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を生成させる。理論的には中和をオリゴマー化の前に別の工程として実施できるが、中和とオリゴマー化とを単一の処理工程において同時に実施することもできる。中和を別の工程として実施する場合、中和と引き続いて実施するオリゴマー化の工程とを上記と同じ条件で実施する。
【0061】
ある態様では、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を、任意にオリゴマー化促進剤の存在下で、硫黄源と接触させることにより、オリゴマー化を実施する。オリゴマー化の工程では、任意の適した硫黄源を使用できる。硫黄源の例は、硫黄単体、硫化水素、二酸化硫黄、および硫化ナトリウム水和物を含む。硫黄は、溶融硫黄、固体(例、粉体もしくは微粒子)、あるいは相容性のある液体炭化水素中の固体懸濁液のいずれであっても用いることができる。オリゴマー化促進剤として適しているのはポリオールであり、典型的にはアルキレンジオール(例、エチレングリコール)である。アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩1モルに対して、典型的には約0.5乃至約4、好ましくは約2乃至約3モルの硫黄を用いる。
【0062】
上記促進剤もしくは促進剤の混合物に関連して、高分子量アルカノールを補助溶剤として用いることができる。高分子量アルカノール類は、8乃至約16の炭素原子、好ましくは9乃至約15の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖のアルキルを有する。適切なアルカノールの代表的な例は、1−オクタノール、1−デカノール(デシルアルコール)、2−エチルヘキサノール、その他である。特に好ましくは、2−エチルヘキサノールである。反応における高分子量アルカノールの使用は有益である。その理由は、高分子量アルカノールが溶媒として作用し、同時に水と共沸混合物を形成し、その結果、中和により生じた水もしくはその他の系内に生じた水を、反応後もしくは(好ましくは)反応中に、共沸蒸留による簡便な方法で除去することが可能になるからである。高分子量アルカノールは、反応中の副産物である水の除去に寄与し、それにより反応を反応平衡の進行方向に進めるとの観点でも、化学反応機構における一定の役割を有している。
【0063】
他の態様では、オリゴマー化は、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をアルデヒドと接触させて、例えば、メチレン架橋したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を生成させることにより実施することができる。適切なアルデヒドは、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、複素環アルデヒド、その他、およびそれらの混合物を含む。そのようなアルデヒドの代表的な例は、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリコキサール、フルアルデヒド、2−メチルプロピオンアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、3−メチルブチルアルデヒド、2,3−ジメチルブチルアルデヒド、3,3−ジメチルブチルアルデヒド、ペンタナール、メチル置換ペンタナール、ベンズアルデヒド、フルフラール、その他、およびそれらの混合物を含む。アルデヒドは、ヒドロキシル、ハロゲン原子、窒素原子、その他のような置換基を、置換基が反応に大きく関与しない限り、含んでいてもよい。好ましいアルデヒドは、グリオキシル酸もしくはホルムアルデヒド成分である。ホルムアルデヒドは、例えば、固体、液体もしくは気体のような多くの形態で利用できる。特に好ましいのは、パラホルムアルデヒド(固体、典型的には、約91%乃至約93%当量のホルムアルデヒドを含む粉末もしくはフレーク状の製品)である。結晶状固体であるトリオキサン(トリオキサンはホルムアルデヒドの環状三量体である)も用いることができる。ただし、ホルマリン溶液(一般に使用する形態は、ホルムアルデヒドの水溶液、場合によってはメタノール中であって、37%、44%、もしくは50%のホルムアルデヒド濃度である)もしくは水溶液中のホルムアルデヒドのような液状のホルムアルデヒド溶液も使用できる。加えて、ホルムアルデヒドは気体としても利用可能である。
【0064】
別の態様では、オリゴマー化は、周知のマンニッヒ反応において、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をアルデヒドおよびアミン源と接触させることによって実施できる。適切なアルデヒドは、上記のアルデヒドを含む。ある態様において、本発明で意図しているアミン源は、少なくとも一つの活性水素原子の存在を特徴とするアミノ基を含むアミンである。そのようなアミンは、一級アミノ基のみ、二級アミノ基のみ、もしくは一級および二級アミノ基の双方を含むことができる。アミンは、モノアミンでも、ポリアミンであってもよい。有用なアミン化合物の代表的な例は、N−メチルアミン、N−エチルアミン、N−n−プロピルアミン、N−イソプロピルアミン、N−n−ブチルアミン、N−イソブチルアミン、N−sec−ブチルアミン、N−tert−ブチルアミン、N−n−ペンチルアミン、N−シクロペンチルアミン、N−n−ヘキシルアミン、N−シクロヘキシルアミン、N−オクチルアミン、N−デシルアミン、N−ドデシルアミン、N−オクタデシルアミン、N−ベンジルアミン、N−(2−フェニルエチル)アミン、2−アミノエタノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N−(2−メトキシエチル)アミン、N−(2−エトキシエチル)アミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ−n−プロピルアミン、N,N−ジイソプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチルアミン、N,N−ジ−sec−ブチルアミン、N,N−ジ−n−ペンチルアミン、N,N−ジ−n−ヘキシルアミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N−エチル−N−メチルアミン、N−メチル−N−n−プロピルアミン、N−n−ブチル−N−メチルアミン、N−メチル−N−オクチルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−オクチルアミン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アミン、N,N−ジ(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N,N−ジ(エトキシエチル)アミン、N,N−ジ(プロポキシエチル)アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミン、o−、m−およびp−フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン類、N−アセチルテトラエチレンペンタアミン、および対応するホルミル−、プロピオニル−、ブチリル−、およびその他のN−置換化合物、モルホリン、チオモルホリン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、インドール、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピペリジン、フェノキサジン、フェノチアジン、それらの置換類似体およびその他を含む。
【0065】
第2の態様では、アミン源はアミノ酸もしくはその塩である。「アミノ酸」とは、少なくとも一つの一級、二級、もしくは三級アミン(−N<)基と、少なくとも一つの酸性カルボキシル(−COOH)基とを有する任意の有機酸を意味する。様々なアミノ酸の混合物も使用できる。アミノ酸の代表的な例は、グリシン、アラニン、β−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、チロシン、メチオニン、6−アミノヘキサン酸、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、ヒスチジン、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、シスチン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、および他の1乃至5のカルボキシル基を含むαアミノ酸を含む。特に好ましいアミノ酸は、容易に商業的に多量に利用できるグリシン、β−アラニン、ニトリロ三酢酸などである。
【0066】
典型的なマンニッヒ反応は、この分野で良く知られており、例えば、米国特許第3368972号、同3649229号、同4157309号、および同5370805号の各明細書に開示されており、それらの内容は参照のために本明細書の記載とする。
【0067】
生成するオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、次に二酸化炭素もしくはホウ酸のような酸性過塩基化化合物との反応によって、過塩基性になる。特に好ましい過塩基化方法は、二酸化炭素との反応のような炭酸塩化である。そのような炭酸塩化は、ポリオール、特にアルキレンジオール(例、エチレングリコール)および二酸化炭素をオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩に添加することにより簡便に実施できる。反応は、二酸化炭素ガスの気泡が反応混合物を通過するとの簡単な手段で簡便に実施できる。過剰の希釈剤と過塩基化反応において形成された全ての水は、反応中もしくは反応後に蒸留によって簡便に除去できる。
【0068】
本発明の別の態様は、少なくとも(a)潤滑性粘度を有する主要量の油および(b)潤滑油添加剤として有用な本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む潤滑油組成物に関する。潤滑油組成物は、一般的な方法で、適切な量の本発明の潤滑油添加剤を、潤滑性粘度を有する基油と混合することにより製造できる。特定の基油は、潤滑剤が意図する用途と他の添加剤の存在とによって選択する。一般に、本発明のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩は、潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に対して約0.01乃至約40質量%、好ましくは約0.1乃至約20質量%の量で存在する。
【0069】
本発明の潤滑油組成物における使用に適した潤滑性粘度を有する基油は、組成物の全質量に対して、一般に多量に存在し、具体的には50質量%より多く、好ましくは約70質量よりも多く、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%であり、最も好ましくは約85乃至約98質量%の量である。本明細書中で使用する「基油」との表現は、一つの基材油もしくは複数の基材油を調合したものを意味すると理解すべきである。この基材油は、単一の製造者によって(原材料供給地や製造地は問わない)同じ仕様書に基づき生産され;同じ製造者の仕様書に適合し、さらに;固有の処方、製品特定番号もしくはそれらの双方により同定される潤滑性成分である。本発明で使用される基油とは、既に知られているものに加えて、今後発見される基油であってもよい。この基油は、エンジン油、船舶用シリンダ油、機能性液体(例、作動油、ギア油、変速機液)等のような、いくつかもしくは全ての用途において潤滑油組成物の処方に用いられる潤滑性粘度を有している。加えて、本発明で使用される基油は、メタクリル酸アルキル重合体、オレフィン共重合体(例、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体)、その他、およびそれらの混合物のような粘度指数向上剤を任意に含むことができる。
【0070】
基油の粘度は、用途に依存する。このことは、当業者であれば、容易に認識できるであろう。よって、本発明で使用される基油の粘度は、100℃において通常は約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。エンジン油として使用する個々の基油は、100℃において一般に約2cSt乃至約30cSt、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStの範囲に動粘度を有する。また、基油は、エンジン油に求められる等級を与えるように、要求される最終用途と油に最終的に含まれる添加剤とに対応して、選択および配合される。エンジン油の等級とは、例えば、潤滑油組成物は、SAE粘度等級で0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30、もしくは15W−40を有する。ギア油として使用する油は、100℃において約2cSt乃至約2000cStの粘度を有することができる。
【0071】
基材油は、様々に異なる方法を用いて製造することができる。それらの方法は、これらに限定される訳ではないが、蒸留法、溶剤精製法、水素処理法、オリゴマー化法、エステル化法、および再精製法を含む。再精製されたストックからは、製造、汚染、あるいは以前の使用において加えられた物質が実質的に除かれている必要がある。本発明の潤滑油組成物の基油は、天然もしくは合成による潤滑性の基油である。適当な炭化水素合成油は、限定される訳ではないが、ポリアルファオレフィン(PAO)油のようなポリマーを生じるエチレンの重合反応もしくは1−オレフィンの重合反応、もしくは一酸化炭素と水素ガスとを用いる炭化水素合成法(例、フィッシャー−トロプシュ法)により合成される油を含む。適当な基油の例では、重い留分が仮に存在しても極めてわずかしか含まれていない。例えば、100℃における粘度が20cSt以上である潤滑油留分は、仮に存在しても極めてわずかである。
【0072】
基油は、天然の潤滑油、合成潤滑油、もしくはそれらの混合物から得ることができる。適当な基油は、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化により得られる基材油に加えて、粗製物中の芳香性かつ極性成分を(溶媒抽出よりも)水素化分解することにより製造される水素化分解基材油を含む。適当な基材油は、API公報1509(14版、補遺I、12月、1998年)で定義されるAPIカテゴリーI、II、III、IV、およびVの全てに属するものを含む。IV種基材油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。V種基材油は、I種、II種、III種、およびIV種に含まれない他の全ての基材油を含む。この発明ではII種、III種、およびIV種の基材油が好ましく用いられるが、基材油を、I種、II種、III種、IV種、およびV種の一つ以上に属する基材油もしくは基油を組み合わせて製造することもできる。
【0073】
有用な天然油は、鉱物性潤滑油(例、液状石油起源油、パラフィン型、ナフサ型もしくはパラフィン−ナフサ混合型の溶剤処理もしくは酸処理鉱物性潤滑油、石炭もしくはシェール油から得られる油)、動物もしくは植物油(例、菜種油、ひまし油、ラード油)その他を含む。
【0074】
有用な合成潤滑油は、これらに限定される訳ではないが、重合もしくは共重合オレフィン類(例、ポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン−イソブチレン共重合体類、塩素化ポリブチレン類、ポリ1−ヘキセン類、ポリ1−オクテン類、ポリ1−デセン類)のような炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油その他、およびそれらの混合物;ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類その他のようなアルキルベンゼン類:ビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類その他のようなポリフェニル類;アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類およびそれらの誘導体、類似体、および同族体その他を含む。
【0075】
他の有用な合成潤滑油は、これらに限定される訳ではないが、炭素原子数が5未満であるオレフィン(例、エチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物)を重合させることにより得られる油を含む。そのようなポリマー油の製造方法は、当業者に良く知られている。
【0076】
別の有用な合成炭化水素油は、適度の粘度を有するアルファオレフィンの液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、C乃至C12のアルファオレフィン類の水素化液体オリゴマー(例、1−デセントリマー)である。
【0077】
有用な合成潤滑油の別の分類には、これらに限定される訳ではないが、アルキレンオキシドポリマー類、すなわち、ホモポリマー、インターポリマー、およびそれらの誘導体が含まれる。これらの末端のヒドロキシル基は、例えばエステル化やエーテル化によって、修飾されていてもよい。これらの油の例は、エチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドの重合により製造される油、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルもしくはフェニルエーテル(例、平均分子量が1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量が500乃至1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量が1000乃至1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、もしくはそれらのモノ−もしくはポリカルボン酸エステル(例、酢酸エステル、混合C乃至C脂肪酸エステル)、またはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルを含む。
【0078】
さらに別の有用な合成潤滑油の分類には、これらに限定される訳ではないが、ジカルボン酸(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等)と様々なアルコール(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステルが含まれる。これらのエステルの具体例は、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、セバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルとを反応させて形成する複合エステル、およびその他を含む。
【0079】
合成油として有用な別のエステルは、これらに限定される訳ではないが、炭素原子数が約5乃至約12のカルボン酸とアルコール(例、メタノール、エタノール等)、ポリオールおよびポリオールエーテル(例、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール)、およびその他を含む。
【0080】
ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油およびシリケート油のようなシリコーンを基材とする油は、合成潤滑油の他の有用な分類を構成する。これらの具体例は、これらに限定される訳ではないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、ポリ(メチルフェニル)シロキサン類、その他を含む。さらに別の有用な合成潤滑油は、限定される訳ではないが、リンを含む酸の液状エステル(例、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスフィン酸のジエチルエステルなど、テトラヒドロフランの重合体、その他を含む。
【0081】
潤滑油は、未精製、精製および再精製油から得ることができる。これらの油は、天然、合成あるいは以上に開示した2以上の分類に属するものの混合物のいずれであってもよい。未精製油は、天然もしくは合成原料(例、石炭、シェール、もしくはタールサンドビチューメン)から精製や処理なしで得られるものである。未精製油の例は、限定される訳ではないが、乾留操作により直接得られるシェール油、蒸留により直接得られる石油系油、もしくはエステル化方法により直接得られるエステル油を含む。これらの例は、いずれも、さらに処理を実施することなく使用される。精製油は、未精製油に類似するが、さらに一つ以上の性質を改善するため一つ以上の精製工程により処理されている点で異なる。このような精製技術は、当業者に知られており、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸もしくはアルカリ抽出、濾過、パーコレーション、水素化処理、脱蝋などを含む。再精製油は、精製油を得るために使用される方法と類似の方法で使用済み油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生油もしくは再処理油としても知られ、多くの場合、消耗した添加剤や油分解産物を除去するための手法によって追加処理されている。
【0082】
ワックスの水添異性化により得られる潤滑油の基材油を、単独あるいは上記天然および/または合成基材油と組み合わせて使用することもできる。そのようなワックス異性化油は、天然もしくは合成ワックス又はそれらの混合物を水添異性化触媒の存在下で水添異性化処理することにより製造される。
【0083】
天然のワックスとして代表的なものは、鉱物油の溶媒脱蝋によって回収されるスラックワックスである。合成ワックスとして代表的なものは、フィッシャー−トロプシュ法により製造されるワックスである。
【0084】
本発明の潤滑油組成物は、さらに補助的な機能を付加するために周知の添加剤を含むことができ、これによりそれらの添加剤が分散もしくは溶解している最終的な潤滑油組成物が得られる。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、摩耗防止剤、清浄剤(例、金属含有清浄剤)、錆止め剤、曇り止め剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰性分散剤、染料、極圧剤、その他、およびそれらの混合物と混合することができる。様々な添加剤が知られており、商業的に入手できる。添加剤およびそれらの類似化合物は、一般的な混合方法によって、本発明の潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0085】
酸化防止剤の例は、これらに限定される訳ではないが、アミン型(例、ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類;アルキル化フェニレンジアミン類);フェノール型(例、BHT、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールおよび2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノールのような立体障害があるアルキルフェノール類);およびそれらの混合物を含む。
【0086】
無灰性分散剤の例は、これらに限定される訳ではないが、無水ポリアルキレンコハク酸;無水ポリアルキレンコハク酸の窒素原子を含まない誘導体;コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、ヒドロカルビルモノアミン類、ヒドロカルビルポリアミン類、マンニッヒ塩基、ホスホノアミド類、およびホスホルアミド類からなる群より選ばれる塩基性窒素化合物;トリアゾール類(例、アルキルトリアゾール類、およびベンゾトリアゾール類);カルボン酸エステルを一つ以上の他の極性官能基(例、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシル、カルボキシル、その他)と共に含む共重合体(例えば、アクリル酸もしくはメタクリル酸長鎖アルキルと上記官能基を有するモノマーとの共重合により得られる生成物);その他、およびそれらの混合物を含む。これらの分散剤の誘導体(例、ホウ素化コハク酸イミド類のようなホウ素化分散剤)も用いることができる。
【0087】
錆止め剤の例は、これらに限定される訳ではないが、ノニオン性ポリオキシアルキレン剤(例、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、およびモノオレイン酸ポリエチレングリコール);ステアリン酸および他の脂肪酸類;ジカルボン酸類;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;強スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸類;それらの部分エステルおよびそれらの含窒素誘導体;合成アルカリールスルホン酸類(例、ジノニルナフタレンスルホン酸金属塩類);その他、およびそれらの混合物を含む。
【0088】
摩擦調整剤の例は、これらに限定される訳ではないが、アルコキシ化脂肪族アミン;ホウ素化脂肪族エポキシド;脂肪族亜リン酸、脂肪族エポシキド、脂肪族アミン、ホウ素化アルコキシ化脂肪族アミン、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ素化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン(同明細書に記載されている内容は、参照のため本明細書に組み込まれる);C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれる含窒素化合物との反応生成物から得られる摩擦緩和剤;その他、およびそれらの混合物を含む。
【0089】
消泡剤の例は、これらに限定される訳ではないが、メタクリル酸アルキルの重合体;ジメチルシリコーンの重合体;その他、およびそれらの混合物を含む。
【0090】
以上述べた添加剤を使用する場合、機能的に有効な量を使用して、必要とされる性質を潤滑剤に与えるようにする。そのため、例えば、仮に添加剤が摩擦調整剤である場合、摩擦調整剤の機能的な有効量は、潤滑剤に必要とされる摩擦調整性能を付与するために充分な量である。これらの添加剤の使用における個々の濃度は、潤滑油組成物全質量に対して、一般に約0.001質量%乃至約20質量%であり、ある態様においては約0.01質量%乃至約10質量%である。
【0091】
本発明の潤滑油組成物の最終的な適用分野としては、例えば、クロスヘッドディーゼルエンジンに用いる舶用シリンダ潤滑油、トランクピストンエンジン油、自動車および鉄道のクランクケース潤滑油その他、機能性流体、重機械(例えば製鉄所)の潤滑油その他、あるいはベアリングのグリースその他が可能である。潤滑油組成物が液体であるか、あるいは固体であるかは、一般に増粘剤の有無による。代表的な増粘剤には、酢酸ポリウレア、ステアリン酸リチウム、およびその他が含まれる。
【0092】
本発明の別の形態では、前述したプロピレンオリゴマーは、本発明の過塩基性塩の製造に使用されるアルキルヒドロキシ芳香族化合物中間体を生成するためのアルキル化剤であることに加えて、アルキルヒドロキシ芳香族化合物以外の反応生成物を生成するために用いることもできる。例えば、前述したプロピレンオリゴマーを用いて、オキソアルコール類、エトキシ化アルキルフェノールのようなアルコキシ化アルキルヒドロキシ芳香族類、アルキルベンゼン及びアルキルトルエンのようなアルキル芳香族類、アルキル化ジフェニルアミン類、およびアルキルメルカプタン類等も生成することができる。これらの反応生成物の形成方法は、当業者が予測できる範囲にある。本発明のプロピレンオリゴマーは、例えば、高沸点有機溶媒として直接使用することもできる。
【0093】
本発明の他の態様では、本発明の潤滑油添加剤を、添加剤のパッケージもしくは濃縮物として提供できる。添加剤濃縮物では、添加剤が、実質的に不活性で通常は液体である有機希釈剤(例、鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエン、あるいはキシレン)に加えられて、添加剤濃縮物を形成する。これらの濃縮物は、通常、約20質量%乃至約80質量%の上記希釈剤を含む。一般には100℃において約4乃至約8.5cSt、好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油が希釈剤として用いられるが、添加剤および最終的に生産される潤滑油に対して相容性がある合成油や他の有機液体を使用することもできる。添加剤パッケージも、上記のような様々な他の添加剤を、必要とされる量かつ潤滑性粘度を有する必要量の油と直接組み合わせることが容易な比率で含むことができる。
【0094】
以下に記載の本発明を限定する意図のない実施例において、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0095】
[実施例1]
(プロピレンオリゴマーの製造)
プロピレンオリゴマーは、プロピレンを多量に含む原料油(平均で81.4質量%のプロピレン、17.4質量%のプロパン、0.8質量%のエタン、および0.4質量%のイソブタンを含む)及び多量の液体リン酸触媒を用いるオリゴマー化処理によって得た。供給量は7.1KBPD(千バレル/日)に、圧力は670psigに、そして温度は245°F(118℃)にした。オリゴマー化反応において、リン酸触媒の酸強度は114%乃至115%であった。プロピレンオリゴマーは、最下層の留分として蒸留した。プロピレンオリゴマーは、ASTM D86で測定される、少なくとも248.5℃の初留点と342.9℃の終留点とを有し、そして下記第1表に示す炭素原子数分布を有していた。
【0096】
第1表
────────────────
質量%
────────────────
13
14 3.1
15 21.3
16 15.1
17 12.8
18 13.6
19 7.3
20 6.6
21 7.1
22 3.2
23 2.8
24 2.7
25 1.5
26 1.2
27+ 1.7
────────────────
【0097】
[実施例2〜5]
(プロピレンオリゴマーの製造)
各プロピレンオリゴマーは、実施例1と同一の成分、量、および条件を用い、オリゴマー化反応の異なる時点で蒸留したプロピレンオリゴマーを用いて製造した。それぞれの初留点、終留点、および炭素原子数分布を、下記の第2表に示す。
【0098】
第2表
──────────────────────────────────
実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
──────────────────────────────────
IBP(℃) 221 228 229 249
FBP(℃) 338 327 336 336
12− 0 0 0 0
12 9.7 0.9 0.6 0.6
13 0 4.4 6.4 6.4
14 13.6 13.7 14.0 14.0
15 19.5 20.7 20.6 20.6
16 10.1 10.9 11.1 11.1
17 9.4 10.3 9.7 9.7
18 10.5 11.4 10.7 10.7
19 5.5 6.0 5.6 5.6
20 5.0 5.2 4.9 4.9
21 5.2 5.2 5.3 5.3
22 2.5 2.9 2.4 2.4
23 2.2 2.2 2.2 2.2
24 2.3 2.2 2.2 2.2
25 1.2 1.3 1.3 1.3
26 1.0 1.2 1.0 1.0
27+ 2.3 1.5 1.2 1.2
──────────────────────────────────
【0099】
[実施例6]
(アルキルヒドロキシ芳香族化合物の製造)
実施例1のプロピレンオリゴマーでフェノールをアルキル化することによりアルキルフェノールを製造した。4リットルの丸底フラスコに、実施例1のプロピレンオリゴマー744g(3.03モル)およびフェノール1128g(12モル)を加えた。各反応体を混合し、80℃まで加熱した。この温度でアンバーリストTM36触媒(ローム・アンド・ハース社)89.3gを加え、反応混合物の温度を110℃まで上昇させた。この温度で大気圧下、窒素中、反応を4時間進行させた。反応混合物を100℃まで冷却し、濾過により触媒を除去した。次に反応混合物を30mmHgの真空下で230℃まで加熱し、この条件を15分間維持して過剰のフェノールを蒸留した。得られたアルキルフェノールの分析結果は以下の通りである。
モノアルキルフェノール:92.85%
パラアルキルフェノール:87.76%
オルトアルキルフェノール:5.09%
ジアルキルフェノール:1.34%
未反応オレフィン:4.39%
エーテル:1.29%
フェノール:0.13%
【0100】
[実施例7]
(オリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩の製造)
実施例6のアルキル化したフェノール802gを、130N油747g、アルキルアリールスルホン酸44.1g、および消泡剤SI200(ダウ・コーニング社より入手可能)0.2gと一緒にして、4リットルのフラスコに環境温度にて入れた。混合物を25分間かけて110℃まで加温し、その際に加温した消石灰380gを加えた。加温状態で消石灰を加えたのち、硫黄112.7gを加え、そして反応温度を20分かけて150℃まで上昇させた。硫黄を添加したのち、反応器の圧力を680mmHgまで低下させた。硫化の過程で生じるHSガスは、苛性ソーダバブラー2台で捕捉した。150℃でエチレングリコール58.2gを45分間かけて加えた。150℃で2−エチルヘキサノール328gを15分間かけて加えた。次に、反応物を1時間かけて170℃まで加熱し、この工程でエチレングリコール95.5gを添加した。
【0101】
エチレングリコールの添加に続いて、圧力を僅かに上昇させて720mmHgとし、反応条件を20分間維持した。温度を170℃に維持して、圧力を760mmHgまで上昇させた。大気圧で、二酸化炭素9gを30分間かけて添加した。二酸化炭素の添加に続けて、エチレングリコール79.2gを1時間かけて添加し、そしてCOの添加速度を増加させ、0.8g/分とした。約120gのCOを添加して、この炭酸化工程を停止した。
【0102】
215℃で30mmHgの条件で、1時間かけて溶媒を蒸留した。80mmHgで窒素パージしながら、一時間かけて温度を更に220℃まで上昇させた。生成物をセライトを用いて165℃でろ過した。ろ過したアルキルフェノールの過塩基性塩を、5リットル/時間/kg(生成物の質量)の条件で、150℃の空気中にて4時間かけてガス抜きした。生成物はCa:9.46%、S:3.2%、100℃における動粘度:235.2cSt、そしてTBN:260mg/KOH/gを有していた。
【0103】
[比較例1]
(プロピレン四量体の製造)
リン酸の酸強度が111%乃至112%であること以外は実施例1のプロピレンオリゴマーと基本的に同様な方法により、プロピレン四量体を製造した。得られたプロピレンオリゴマーは、ASTM D86で測定される180℃の初留点と219℃の終留点とを有していた。下記の第3表に、プロピレン四量体の炭素原子分布を示す。
【0104】
第3表
────────────────
質量%
────────────────
2.1
10 3.5
11 6.3
12 59.5
13 8.2
14 7.0
15 12.0
16+ 1.3
────────────────
【0105】
[比較例2]
(アルキルフェノールの製造)
実施例1のプロピレンオリゴマーに代えて比較例1のプロピレン四量体を用いたこと以外は実施例3と基本的に同様な方法により、アルキルフェノールを製造した。生成したアルキルフェノールの分析結果は次の通りである。
モノアルキルフェノール:95.84%
パラアルキルフェノール:87.97%
オルトアルキルフェノール:7.87%
ジアルキルフェノール:1.73%
軽質アルキルフェノール:1.54%
未反応オレフィン:4.39%
エーテル:0.59%
フェノール:1.03%。
【0106】
[比較例3]
(プロピレン四量体アルキルフェノールからの過塩基性硫化アルキルフェノールの製造)
比較例2に記載したアルキルフェノールを使用して、実施例4と基本的に同様な方法により、過塩基性硫化アルキルフェノールを製造した。生成した過塩基性硫化アルキルフェノールの分析結果は次の通りである。Ca:9.68%、S:3.37%、100℃における動粘度:406.3cSt、そしてTBN:271mg/KOH/g。
【0107】
[比較例4]
(添加剤パッケージの製造)
下記の(a)〜(h)を含む添加剤パッケージを製造した:(a)比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノール24.1質量%;(b)エチレンカーボネートで処理したビスコハク酸イミド分散剤(MW2300のポリブテンから誘導したもの)の油状濃縮物35.2質量%;(c)低過塩基性カルシウムスルホネートの油状濃縮物10.6質量%;(d)第二級ジチオリン酸亜鉛摩耗防止剤の油状濃縮物13.4質量%;(e)コハク酸イミド分散剤(MW1000のポリブテンから誘導したもの)のモリブデン酸硫化物複合体の油状濃縮物1.7質量%;(f)ホウ素化グリセロールモノオレイン酸摩擦調整剤3.11質量%;(g)消泡剤0.05質量%;及び(h)残部のエクソン150N(I種基材油であり、エクソン・モービル社から商業的に入手可能)。
【0108】
[比較例5]
(潤滑油組成物の製造)
エクソン150N(I種基材油)74質量%とエクソン600N(I種基材油であり、エクソン・モービル社から商業的に入手可能)26質量%との混合物91.1質量%、および粘度指数向上剤(Paratone8004)8.9質量%の混合物に、比較例4の添加剤パッケージを添加することにより潤滑油組成物を製造した。潤滑油組成物中の添加剤パッケージの最終的な濃度は9.65質量%であった。
【0109】
[実施例8]
(添加剤パッケージの製造)
比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールに代えて実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩23.6質量%を用いたこと以外は比較例4と同じ成分を同じ量で含む添加剤パッケージを製造した。
【0110】
[実施例9]
(潤滑油組成物の製造)
エクソン150N(I種基材油)74質量%とエクソン600N(I種基材油)26質量%との混合物91.1質量%、および粘度指数向上剤(Paratone8004)8.9質量%の混合物に、実施例8の添加剤パッケージを添加することにより潤滑油組成物を製造した。潤滑油組成物中の添加剤パッケージの最終的な濃度は9.65質量%であった。
【0111】
[試験]
(相容性試験1)
相容性試験1では、実施例8の添加剤パッケージと比較例4の添加剤パッケージとを比較した。この試験では、添加剤パッケージが時間の経過に応じて、沈殿物、凝集物、あるいはゲルを形成する傾向を評価した。添加剤パッケージをガラスフラスコに注いで20℃で保管した。パッケージの相容性を80℃で試験するために、パッケージに毎日、加熱サイクル(80℃で8時間、次いで20℃で14時間)を与えた。試験を28日間実施して、この期間の終わりに評価を行なった。下記の基準に基づき評価した。
0=沈降物無し。
1=濁っているが沈殿物無し。
2=沈殿物有り。
3=ゲル化した。
下記の第4表に、試験の結果を示す。
【0112】
相容性試験1を同じ時間と温度の条件で適用して、実施例9及び比較例5の潤滑油組成物も評価した。下記の第4表に、試験の結果を示す。
【0113】
(相容性試験2)
本発明のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩の相容性を更に示すため、実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩と比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールのそれぞれを、高過塩基性カルシウムスルホネートを当量のカルシウム基準で含む添加剤パッケージと一緒にした。すなわち、各パッケージは、実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩もしくは比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールに由来する、添加剤パッケージ1kg当たり100ミリモルのカルシウムと、基油の残りのスルホネートに由来する、添加剤パッケージ1kg当たり100ミリモルのカルシウムを含む。これらの添加剤パッケージをガラスフラスコに注いで20℃で保管した。パッケージの相容性を80℃で試験するために、パッケージに毎日加熱サイクル(80℃で8時間、次いで20℃で14時間)を与えた。試験を28日間実施して、この期間の終わりに評価を行なった。評価は相容性試験1と同様にして行なった。下記の第4表に、この試験の結果を示す。
【0114】
第4表
───────────────────────────────────
性能試験 実施例7 実施例7 比較例3 比較例3
───────────────────────────────────
相容性試験1 20℃ 80℃ 20℃ 80℃
−添加剤パッケージ 2 2 2 2
−添加剤パッケージ+油 2 2 2 2
相容性試験2 20℃ 80℃ 20℃ 80℃
−添加剤パッケージ 2 2 2 2
───────────────────────────────────
0=沈殿物無し 1=濁っている 2=沈殿物有り 3=ゲル化した
【0115】
(コマツホットチューブ(KHT)試験)
実施例9及び比較例5の潤滑油組成物を、コマツホットチューブ(KHT)試験にて評価した。潤滑油組成物を、適切な空気流を用い一定の期間で温度調節したガラス管を通過させた。試験温度を290℃として、試験を16時間実施した。次に、ガラス管を冷却および洗浄し、ガラス管の内部表面に残るラッカー沈着物の色を、0〜10(0=黒、10=清浄)の範囲で評価するカラーメリットを用いて決定した。ガラス管が沈着物により完全に塞がれた場合には、試験結果を「閉塞」と記録する。下記の第5表に、コマツ熱管試験の結果を示す。
【0116】
(分散性試験)
実施例9及び比較例5の潤滑油組成物を、分散性試験にて評価した。この試験では、油及び黒色物質の分散性を濾紙上で測定することにより、油がアスファルテン質及び炭素質の物質を保持する能力を評価した。新鮮な油及び老化した油の双方とも、加熱条件の処理が異なるもの、そして水を添加したものと添加していないものについて、分散性を測定した。
【0117】
新鮮な試料は、主に潤滑油組成物とカーボンブラックとから構成した。老化した試料は、新鮮な潤滑油組成物を酸化条件下で高温で加熱することにより老化させたものの混合物から構成した。老化した試料には、老化の行程に次いで、カーボンブラックを添加した。
【0118】
新鮮な油の試料及び老化した油の試料の双方とも、水を添加したものと添加していないものについて3つの異なる熱処理(合計で6つの異なる処理)を行った。処理した試料を次いで濾紙上に滴下し、48時間インキュベータ中に置いて発色させた。発色の後、液滴は、軽質油に囲まれた小さく暗いスラッジ領域を形成した。油及びスラッジ領域の直径を測定し、そして油:スラッジの直径の比率を計算した。試験結果は、6X(6つの異なる処理から得た油:スラッジの直径比の合計)として記録した。下記の第5表に、分散性試験の結果を示す。
【0119】
第5表
──────────────────────────────
性能試験 実施例9 比較例5
──────────────────────────────
コマツ熱管試験 8 8
分散性試験 489/600 492/600
──────────────────────────────
【0120】
(潤滑油の低温粘度性能)
実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩と比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールの低温粘度性能を、5W30油及び5W40油中として比較した。
【0121】
5W30油は、下記の(a)〜(j)を含む:(a)ホウ素化ビスコハク酸イミド分散剤の油状濃縮物3質量%;(b)エチレンカーボネートで処理したビスコハク酸イミド分散剤の油状濃縮物5質量%;(c)低過塩基性カルシウムスルホネートの油状濃縮物1.36質量%;(d)テレフタル酸とビスコハク酸イミド分散剤の塩の油状濃縮物0.4質量%;(e)第二級ジチオリン酸亜鉛摩耗防止剤の油状濃縮物1.08質量%;(f)モノコハク酸イミド分散剤のモリブデン酸硫化物複合体の油状濃縮物0.4質量%;(g)アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%;(h)フェノール型(フェノール系)酸化防止剤0.5質量%;(i)消泡剤30ppm;及び(j)残部であるIII種基材油の混合物。実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩、そして比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールを、当量のカルシウム基準で、5W30油に添加した。5W30油に添加した実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩は2.32質量%であった。5W30油に添加した比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールは2.37質量%であった。
【0122】
5W40油は、下記の(a)〜(j)を含む:(a)ホウ素化ビスコハク酸イミド分散剤の油状濃縮物3質量%;(b)エチレンカーボネートで処理したビスコハク酸イミド分散剤の油状濃縮物5質量%;(c)低過塩基性カルシウムスルホネートの油状濃縮物1.36質量%;(d)テレフタル酸とビスコハク酸イミド分散剤の塩の油状濃縮物0.4質量%;(e)第二級ジチオリン酸亜鉛摩耗防止剤の油状濃縮物1.08質量%;(f)モノコハク酸イミド分散剤のモリブデン酸硫化物複合体の油状濃縮物0.4質量%;(g)アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%;(h)フェノール型(フェノール系)酸化防止剤0.5質量%;(i)消泡剤30ppm;及び(j)残部であるIII種基材油の混合物。実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩、そして比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールを、当量のカルシウム基準で、5W40油に添加した。5W40油に添加した実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩は2.32質量%であった。5W40油に添加した比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールは2.37質量%であった。
【0123】
最終的な5W30及び5W40油の低温粘度性能は、ASTM D4684の小型回転粘度計(Mini−Rotary Viscometer:MRV)試験を使用して評価した。
【0124】
(ASTM D4684 小型回転粘度計(MRV)試験)
この試験では、小型回転粘度計のセル中にて、試験油を先ず加熱し、次いで試験温度(この場合、−35℃)まで冷却した。各セルは調整された回転子−固定子のセットを含むものである。回転子の軸には錘を取り付けた紐が巻き付けられていて、この紐によって回転子が回転される。試験結果は、パスカル単位で加えた力に対する「<」として降伏応力で記録した。次いで150gの錘を付与して、油の見かけ粘度を決定する。見かけ粘度が大きいほど、油は油ポンプの供給口に十分にかつ連続的に供給されなくなる。試験結果は、センチポイズ単位の粘度として記録した。
【0125】
下記の第6表及び第7表の各々に、5W30及び5W40油のMRV試験の結果を示す。
【0126】
第6表
5W30油
──────────────────────────────
性能試験 実施例7 比較例3
──────────────────────────────
MRV
降伏応力 0<Y<=35 0<Y<=35
粘度 18512 18224
──────────────────────────────
【0127】
第7表
5W40油
──────────────────────────────
性能試験 実施例7 比較例3
──────────────────────────────
MRV
降伏応力 0<Y<=35 0<Y<=35
粘度 33946 36225
──────────────────────────────
【0128】
(腐食試験)
ASTM D6594−06の腐食試験により、実施例7のオリゴマー化したアルキルフェノールの過塩基性塩を含む油、および比較例3の過塩基性硫化アルキルフェノールを含む油の腐食性を評価した。この試験では、鉛(Pb)、スズ(Sn)もしくは銅(Cu)から形成した金属製試験管を、一定量の空気を流しながら168時間にわたって高温(135℃)の油中に配置した。腐食量は、油中の金属量の百万分率(ppm)として示す。使用した潤滑油組成物は、上述した潤滑油低温性能試験の5W30に関するものと同じである。下記の第8表に、腐食試験の結果を示す。
【0129】
第8表
────────────────────────────
性能試験 実施例7 比較例3
────────────────────────────
腐食試験
Pb(ppm) 78 106
Cu(ppm) 9 9
Sn(ppm) 1 1
────────────────────────────
【0130】
本明細書中に開示される態様について、さまざまな変更が可能である。従って、以上の説明は限定的に解釈されるべきではなく、好ましい態様の例示にすぎない。例えば、上記および本発明を実施するための最良の態様として記載もしくは示唆された機能は、説明のみを目的としている。その他の変更や方式も、本発明の範囲や精神を逸脱することなく、当業者は実施できるであろう。さらに当業者は、本明細書に添付されている請求項の範囲と精神の中で他の変更を行なうことも可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩であって、該アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基が、ASTM D86で測定される、少なくとも195℃の初留点と325℃を超え400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物から誘導されたものであるオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩。
【請求項2】
プロピレンオリゴマーが、ASTM D86で測定される少なくとも220℃の初留点を有する請求項1に記載の過塩基性塩。
【請求項3】
プロピレンオリゴマーが、ASTM D86で測定される330℃乃至375℃の終留点を有する請求項1もしくは2に記載の過塩基性塩。
【請求項4】
プロピレンオリゴマーが、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも50質量%含む炭素原子分布を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の過塩基性塩。
【請求項5】
プロピレンオリゴマーが、C27+の炭素原子を有するものを1質量%乃至5質量%含む1乃至4のいずれか一項に記載の過塩基性塩。
【請求項6】
上記の塩がアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の過塩基性塩。
【請求項7】
オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物が、硫化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の過塩基性塩。
【請求項8】
ヒドロキシ芳香族化合物がフェノールであって、オレフィン混合物がプロピレンの五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、もしくはそれらの混合物を含む請求項1乃至7のいずれか一項に記載の過塩基性塩。
【請求項9】
下記の工程を含む、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩の製造方法:
(a)ヒドロキシ芳香族化合物を、ASTM D86で測定される、少なくとも195℃の初留点と325℃を超え400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーを含むオレフィン混合物でアルキル化してアルキルヒドロキシ芳香族化合物を得る工程;
(b)工程(a)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和して、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;
(c)工程(b)のアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をオリゴマー化して、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を得る工程;そして
(d)工程(c)のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を過塩基化して、オリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を得る工程。
【請求項10】
プロピレンオリゴマーがASTM D86で測定される少なくとも220℃の初留点と330℃乃至375℃の終留点とを有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プロピレンオリゴマーが、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも50質量%含み、かつC27+の炭素原子を有するものを少なくとも1質量%含む炭素原子分布を有する請求項9もしくは10に記載の方法。
【請求項12】
(a)潤滑性粘度を有する主要量の油および(b)請求項1乃至9のいずれか一項に記載のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む潤滑油組成物。
【請求項13】
潤滑油組成物の哺乳類に対する影響としての内分泌系撹乱性を軽減する方法であって、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のオリゴマー化したアルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を、潤滑性粘度を有する主要量の油を含む潤滑油組成物に添加することを含む方法。
【請求項14】
ASTM D86で測定される少なくとも195℃の初留点と325℃を超え400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマー。
【請求項15】
(a)全質量に対して少なくとも50質量%のプロピレンを含む原料油に、酸強度が114%乃至122%の液体リン酸触媒を、オリゴマー化条件下の反応域において接触させること;そして(b)ASTM D86で測定される少なくとも195℃の初留点と325℃を超え400℃以下である終留点とを有するプロピレンオリゴマーであって、C14乃至C20の炭素原子を有するものを少なくとも50質量%含む炭素原子分布を有するプロピレンオリゴマーを分離することを含む方法。

【公表番号】特表2013−518970(P2013−518970A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551952(P2012−551952)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/023022
【国際公開番号】WO2011/096920
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【出願人】(598066514)シェブロン・オロナイト・エス.アー.エス. (20)
【Fターム(参考)】