説明

潤滑油組成物

【課題】多段変速機や無段変速機のような自動変速機において、クラッチ締結時における高い伝達トルク容量と変速ショック防止性の両立をはかることのできる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に、イミド化合物と、アミド化合物と、脂肪族アミン化合物とを配合した潤滑油組成物であって、イミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で300〜1000質量ppmであり、アミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で380〜1300質量ppmであり、脂肪族アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で35〜360質量ppmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段変速機や無段変速機等の自動変速機に用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多段変速機や無段変速機等の自動変速機に用いられる潤滑油には高い動力(トルク)伝達容量が求められる。それ故、動力伝達容量が大きく良好に動力を伝達できる各種組成の自動変速機用の潤滑油組成物が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
特許文献1に記載の潤滑油組成物は、耐摩耗性および極圧性に優れ、摩擦係数を長時間高く維持でき、大容量のトルクを伝達すべく、潤滑油基油に対して、硫黄系極圧剤と、リン系極圧剤と、アルカリ土類金属系清浄剤とを配合した構成が採られている。
特許文献2に記載の潤滑油組成物は、動力伝達容量を高め、かつシャダー振動防止性能を向上すべく、潤滑油基油に対して、所定の構造を有するコハク酸ビスイミドを有効量配合した構成が採られている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−100487号公報
【特許文献2】特開平9−202890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動変速機用のクラッチ摩擦特性としては、締結時の伝達トルク容量の指標となる静摩擦係数μsが高いことだけではなく、変速ショック(シャダー)を防止してスムーズな変速を可能とする指標である「停止直前の摩擦係数と動摩擦係数との比μ0/μd」が十分に小さいこと、例えば1.05以下であることも求められる。一方、市場における自動車は、新車においては、国産、外国産と様々なメーカーの車種があり、そこに使用されているクラッチの材質や機構も様々である。さらに経年劣化の度合いも様々である。
しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2などに開示された潤滑油組成物では未だ十分なクラッチ摩擦特性を発揮するに至っていない。
そこで、本発明は、多段変速機や無段変速機のような自動変速機において、クラッチ締結時における高い伝達トルク容量と変速ショック防止性の両立をはかることのできる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような潤滑油組成物を提供するものである。
[1]潤滑油基油に、イミド化合物と、アミド化合物と、脂肪族アミン化合物とを配合した潤滑油組成物であって、前記イミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で300〜1000質量ppmであり、前記アミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で380〜1300質量ppmであり、前記アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で35〜360質量ppmであることを特徴とする潤滑油組成物。
[2]上述した[1]に記載の潤滑油組成物において、前記イミド化合物、アミド化合物および脂肪族アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で1000〜2000質量ppmであることを特徴とする潤滑油組成物。
[3]上述した[1]または[2]に記載の潤滑油組成物において、前記イミド化合物がコハク酸イミド化合物であることを特徴とする潤滑油組成物。
[4]上述した[1]〜[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物が多段変速機用または無段変速機用であることを特徴とする潤滑油組成物。
[5]上述した[4]に記載の潤滑油組成物であって、前記無段変速機は、金属ベルトを用いたベルト式無段変速機であることを特徴とする無段変速機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の潤滑油組成物によれば、基油に特定の3種の有機窒素化合物(イミド化合物、アミド化合物および脂肪族アミン化合物)を所定量配合しているので、静止摩擦係数(μs)が高く、従って伝達トルク容量が高い。さらに多段変速機や無段変速機のような自動変速機用として使用した場合、伝達トルク容量を低下させることなく、変速ショック防止性(シャダー防止性)にも優れる。本発明の潤滑油組成物は、特に、金属ベルトを用いたベルト式無段変速機用として好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油に、少なくともイミド化合物と、アミド化合物と、脂肪族アミン化合物とが配合されたものである。以下、詳細に説明する。
(潤滑油基油)
潤滑油基油としては、鉱油と合成油とのうちの少なくともいずれか一方、すなわちそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて用いたり、鉱油と合成油とを組み合わせて用いてもよい。
これらの鉱油や合成油としては特に制限はないが、一般に変速機の基油として用いられるものであれば適用できる。特に、100℃における動粘度が1mm2/s以上50mm2/s以下、特に2mm2/s以上15mm2/s以下が好ましい。動粘度が高すぎると低温粘度が悪化し、低すぎると無段変速機のギヤ軸受、クラッチなどの摺動部位における摩耗が増大するおそれがある。このため、好ましくは100℃における動粘度が1mm2/s以上50mm2/s以下、特に2mm2/s以上15mm2/s以下のものが用いられる。
また、潤滑油基油の低温流動性の指標である流動点については、特に制限されないが、−10℃以下、特に−15℃以下が好ましい。
さらに、潤滑油基油としては、特に制限されないが、飽和炭化水素成分が90質量%以上、硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上が好ましい。ここで、飽和炭化水素成分が90質量%より少なくなると、劣化生成物が多くなるという不都合が生じるおそれがある。また、硫黄分が0.03質量%より多くなると、劣化生成物が多くなるという不都合が生じるおそれがある。さらに、粘度指数が100より小さくなると、高温での摩耗が増大するという不都合が生じるおそれがある。このことにより、飽和炭化水素成分が90質量%以上、硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上の鉱油や合成油が好適に用いられる。
【0008】
そして、鉱油としては、例えばパラフィン基油鉱油、中間基系鉱油、ナフテン基系鉱油などが用いられる。具体的には、溶剤精製あるいは水添精製による軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどが例示できる。
一方、合成油としては、ポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、シリコーンオイルなどが用いられる。特に、ポリオレフィン、ポリオールエステルが好ましい。
【0009】
(イミド化合物)
本発明の潤滑油組成物に配合されるイミド化合物としては、μ比が増大し、その結果としてシャダー防止性に優れる点でコハク酸イミドが好ましい。特に、数平均分子量500〜3000のアルキル基またはアルケニル基を側鎖に有するコハク酸イミドが好ましい。このようなコハク酸イミドとしては、様々なものがあり、例えば、ポリブテニル基またはポリイソブテニル基を有するコハク酸イミドが挙げられる。ここでいうポリブテニル基とは、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものまたは、ポリイソブテニル基を水添した物として得られる。なお、コハク酸イミドとしては、いわゆるモノタイプのアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド、あるいは、いわゆるビスタイプのアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドのいずれでもよい。
【0010】
側鎖を有するコハク酸イミドの製造法としては任意の従来の方法を採用することができる。例えば、数平均分子量500〜3000程度のポリブテンまたは塩素化ポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃程度で反応させて得られるポリブテニルコハク酸にポリアミンを反応させることでポリブテニルコハク酸イミドを得ることができる。
ポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テト
ラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
また、アルケニルまたはアルキルコハク酸イミドとしては、これとアルキルフェノール、硫化アルキルフェノール等の芳香族化合物をマンニッヒ縮合させたアルキルフェノールまたは硫化アルキルフェノール誘導体も好ましく用いられる。このアルキルフェノールのアルキル基は通常炭素数3〜30のものが使用される。
【0011】
このような、数平均分子量500〜3000のアルキル基またはアルケニル基を側鎖に有したコハク酸イミドにおいては、側鎖の数平均分子量が500未満であると、基油への分散性が悪化してしまい好ましくない。一方、この側鎖の数平均分子量が3000を超えると、潤滑油組成物を調製する際のハンドリング性が悪化する。また、組成物の粘度が上がり過ぎて、例えば湿式クラッチに適用した場合に、その摩擦特性が悪化するおそれがある。
【0012】
前記したコハク酸イミドはホウ素変性して用いることも好ましい。例えば、アルコール類、ヘキサン、キシレンなどの有機溶媒に前記ポリアミンとポリブテニルコハク酸(無水物)とホウ酸などのホウ素化合物を加え、適当な条件で加熱することでホウ素化ボリブテニルコハク酸イミドを得ることができる。なお、ホウ素化合物としては、ホウ酸以外にも、ホウ酸無水物、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸エステル、ホウ酸アミド、酸化ホウ素などが挙げられる。中でも、ホウ酸が特に好ましい。
【0013】
このようなホウ素変性コハク酸イミドは、構造がバルキーなので、組成物に配合すると動摩擦係数を高くすることが可能となり、結果として伝達トルク容量を高くできるので好ましい。
前記したホウ素変性コハク酸イミドを配合する場合は、ホウ素分は、組成物全量基準で50〜3000質量ppmであることが好ましく、さらに好ましくは50〜2500質量ppmである。ホウ素が50質量ppm以上であると、潤滑油組成物としたときの耐熱性が向上する。また、ホウ素分が3000質量ppm以下であると、ホウ素部分の加水分解を抑えることができ、さらに製造コストを抑えることもできるので好ましい。
【0014】
本発明の潤滑油組成物において、配合されるイミド化合物由来の窒素分は、組成物全量基準で300〜1000質量ppmであることが必要であり、好ましくは400〜800質量ppmである。イミド化合物由来の窒素分が300質量ppm未満であると、潤滑油組成物としたときの伝達トルク容量が不十分なものとなる。また、イミド化合物由来の窒素分が1000質量ppmを超えると、潤滑油組成物としたときの変速ショックが大きくなる。また、基油として鉱油を用いた場合に溶解性が悪化する。
【0015】
(アミド化合物)
本発明の潤滑油組成物に配合されるアミド化合物としては、例えば、脂肪酸とアミン(含アンモニア)とを縮合させて得られる脂肪酸アミドが挙げられる。
ここで、脂肪酸としては、好ましくは炭素数8〜30の飽和または不飽和の直鎖もしくは分岐脂肪酸が挙げられる。また、脂肪酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよい。具体的には、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸(ラウリル酸)、イソラウリン酸、ミリスチン酸、イソミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、マロン酸、コハク酸、およびセバシン酸等が挙げられる。
アミンとしては、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、ジメタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、エタノールプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン、ジオクタノールアミン等のアルカノールアミン(アルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)およびこれらの混合物等が挙げられる。
さらに、アミンとしては、上述したモノアミン以外に、分子中に複数のアミノ基を有するいわゆるポリアミンも好適である。ポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
上述した脂肪酸とアミンとの縮合物であるアミド化合物としては、イソステアリン酸とトリアミン、テトラアミン、ペンタアミン等の各種ポリアミンとの縮合物であるポリアミド、オレイン酸とポリアミンとの縮合物であるポリアミド、あるいは、ラウリン酸とポリアミンとの縮合物であるポリアミドが好適である。
【0016】
本発明の潤滑油組成物において、配合されるアミド化合物由来の窒素分は、組成物全量基準で380〜1300質量ppmであることが必要であり、好ましくは500〜1000質量ppmである。アミド化合物由来の窒素分が380質量ppm未満であると、潤滑油組成物としたときの変速ショック防止性能が不十分なものとなる。また、アミド化合物由来の窒素分が1300質量ppmを超えると、潤滑油組成物としたときの伝達トルク容量が不足する。
【0017】
(脂肪族アミン化合物)
本発明の潤滑油組成物に配合される脂肪族アミン化合物としては、上述したアミド化合物を製造する際に用いられる脂肪族アミン化合物のうち、比較的分子量が高いものが好適に使用できる。具体的には、オレイルアミン、ステアリルアミン、イソステアリルアミン等である。
また、脂肪族アミン化合物は、単体ではなく、混合脂肪酸アミン、牛脂プロピレンジアミンのような形態で使用することも好ましい。
【0018】
本発明の潤滑油組成物において、配合される脂肪族アミン化合物由来の窒素分は、組成物全量基準で35〜360質量ppmであることが必要であり、好ましくは100〜300質量ppmである。脂肪族アミン化合物由来の窒素分が35質量ppm未満であると、潤滑油組成物としたときの初期変速ショック防止性能が不十分なものとなる。また、脂肪族アミン化合物由来の窒素分が360質量ppmを超えると、潤滑油組成物としたときの伝達トルク容量が不足するとともに、スラッジの生成など耐久性能が問題となる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物においては、前記したイミド化合物、アミド化合物および脂肪族アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で1000〜2000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは1100〜1900質量ppmである。
すなわち、これら3成分全体の配合量が上述の範囲内にあると、伝達トルク容量と変速ショック防止性という、一般にトレードオフの関係にある湿式クラッチ性能をより満足させることが可能となる。
【0020】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、本発明の目的、すなわち変速ショックが少なく、高い伝達トルク容量が安定して得られれば、添加剤を適宜配合できる。
添加剤としては、例えば酸化防止剤、金属不活性化剤、消泡剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、界面活性剤、着色剤などが適宜用いられる。
【0021】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、あるいは硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、およびノニルフェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系を挙げることができる。特にアルキル基の炭素数が4〜24、特には6〜18の化合物が好ましく用いられる。これらの化合物を一種または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、および2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール等を挙げることができる。
【0023】
硫黄系酸化防止剤としては、ジアルキルチオジプロピオネート、ジアルキルジチオカルバミン酸誘導体(金属塩は除く)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、メルカプトベンゾチアゾール、五硫化リンとオレフィンとの反応生成物、および硫化ジセチル等が挙げられる。
上述した各種の酸化防止剤は、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。特に、アミン系やフェノール系、あるいはアルキルジチオリン酸亜鉛などが好ましく用いられる。これらの酸化防止剤は、組成物全量基準で0.05〜3質量%の割合で配合することが好ましい。
【0024】
金属不活性化剤としては、例えばベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどが、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。これら金属不活性化剤は、組成物全量基準で0.01〜5質量%の割合で配合することが好ましい。
消泡剤としては、例えばシリコーン系化合物、エステル系化合物などが、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの消泡剤は、組成物全量基準で、0.05〜5質量%の割合で配合することが好ましい。
【0025】
粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体などのオレフィン系共重合体、分散型オレフィン系共重合体、スチレン−ジエン水素化共重合体などのスチレン系共重合体が、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの粘度指数向上剤は、組成物全量基準で、0.01〜10質量%の割合で配合することが好ましい。
流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレートなどが用いられる。この流動点降下剤は、組成物全量基準で、0.01〜10質量%の割合で配合することが好ましい。
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが用いられる。この界面活性剤は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の割合で配合することが好ましい。
【0026】
上述した本発明の潤滑油組成物は、多段変速機や、チェーンを用いたチェーン式無段変速機、金属ベルトを用いたベルト式無段変速機あるいはトラクションドライブを用いたトラクションドライブ式無段変速機など、各種の自動変速機を対象とすることができる。
【実施例1】
【0027】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
なお、本発明は、これらの実施例などの記載内容に何ら制限されるものではない。
【0028】
〔実施例1〜9、比較例1〜6〕
表1〜2に示す組成の潤滑油組成物を調製し、SAENo.2摩擦試験機を用い、下記に示す実験条件にて、ダイナミック時に動的摩擦係数(μd)、静止摩擦係数(μo)を、スタティック時に静摩擦係数(μs)を評価した(JASOM348−2002準拠)。具体的には、実機ミッションに使用しているセルロース系クラッチ材料を用いて、面圧:0.2〜0.3N/mm2、油温:100℃、ダイナミック回転数:3000rpm、スタティック回転数:0.7rpmの条件で評価を行った。
上記の実験条件で、3000サイクルにおけるμd、μsを測定し、またμ比(μ0/μd)を求めた。μsが0.1より大きいものは、伝達トルク容量が実用上十分高いと言え、μ比が1以下のものは、変速ショック防止性に優れると言える。
【0029】
結果を表1〜2に示す。なお、使用した各成分は、以下のとおりである。
(1)潤滑油基油:流動点−30℃、100℃動粘度3.5mm2/s、%CA0.1質量%以下のパラフィン系基油
【0030】
(2)添加剤:
(2-1)A成分:イミド化合物
A1:ポリブテニルコハク酸イミド
(ポリブテニル基の分子量Mw950、化合物中の窒素量:1.5質量%)
A2:ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド
(ポリブテニル基の分子量Mw2200、化合物中の窒素量:0.5質量%)
A3:ポリブテニルコハク酸イミド
(ポリブテニル基の分子量Mw280、化合物中の窒素量:5質量%)
【0031】
(2-2)B成分:アミド化合物
B1:イソステアリン酸とテトラエチレンペンタミンとの縮合物であるポリアミド(化合物中の窒素量:5質量%)
B2:オレイン酸とジエチレンペンタミンとの縮合物であるポリアミド(化合物中の窒素量:3質量%)
B3:ラウリン酸とヘキサエチレンペンタミンとの縮合物であるポリアミド(化合物中の窒素量:8質量%)
【0032】
(2-3)C成分:脂肪族アミン化合物
C1:オレイルアミン(化合物中の窒素量:5質量%)
C2:混合脂肪酸アミン(化合物中の窒素量:3質量%)
C3:牛脂プロピレンジアミン(化合物中の窒素量:8質量%)
【0033】
(2-4)D成分:酸化防止剤
D1:アルキルジフェニルアミン(化合物中の窒素量:4.8質量%)
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
〔評価結果〕
表1の実施例1〜9からわかるように、本発明の潤滑油組成物は、いずれもμsが0.1以上であり伝達トルク容量が大きく、しかもμ比(μ0/μd)が1以下と小さいので変速ショック防止性にも優れている。
一方、表2に示すように、比較例1では、アミド化合物や脂肪族アミン化合物の配合量は十分であるが、イミド化合物の配合量が少ないためμsが非常に小さく、トルク伝達容量がかなり不足することがわかる。また、比較例2では、脂肪族アミン化合物の配合量は十分であるが、イミド化合物とアミド化合物の配合量がいずれも少ないので、μsの値がまだ十分ではなく、トルク伝達容量が不足することがわかる。比較例3では、脂肪族アミン化合物が配合されていないので、μ比が大きく、変速ショック防止性能に劣ることがわかる。比較例4では、イミド化合物の配合量が多すぎるため、μsは大きいものの、μ比が大きく、変速ショック防止性能に非常に劣ることがわかる。比較例5では、イミド化合物の配合量が少なすぎ、アミド化合物の配合量が多すぎるために、μ比は1以下であるが、μsが0.09とやや低く、トルク伝達容量が不足することがわかる。比較例6でも、イミド化合物と脂肪族アミン化合物の配合量が多すぎるために、μ比は1以下であるが、μsが0.08とやや低く、トルク伝達容量が不足することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、多段変速機や、金属ベルトタイプ、チェーンタイプ、トラクションドライブタイプなどの無段変速機に用いられる自動変速機用潤滑油組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、イミド化合物と、アミド化合物と、脂肪族アミン化合物とを配合した潤滑油組成物であって、
前記イミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で300〜1000質量ppmであり、
前記アミド化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で380〜1300質量ppmであり、
前記脂肪族アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で35〜360質量ppmであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物において、
前記イミド化合物、アミド化合物および脂肪族アミン化合物の配合量が、組成物全量基準かつ窒素換算量で1000〜2000質量ppmであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の潤滑油組成物において、
前記イミド化合物がコハク酸イミド化合物であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の潤滑油組成物が多段変速機用または無段変速機用であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の潤滑油組成物であって、
前記無段変速機は、金属ベルトを用いたベルト式無段変速機であることを特徴とする無段変速機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−120760(P2009−120760A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297923(P2007−297923)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】