説明

潤滑組成物

【課題】 安価であり、増加したトルク、低下した高温高せん断粘度および増加した燃料経済性を提供する潤滑剤組成物。
【解決手段】 基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑剤組成物が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油を含み、基油中の直鎖パラフィン(normal paraffins)に対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑組成物と、これらを使用する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、変化するエンジンおよび工業的用途によって改善された機能を提供することができる高品質な潤滑剤が要求されるにしたがって、潤滑剤の間の組成差がますます重要性が増す問題となっている。例えば、トルクを増加することなどにより、機械において動力伝達を増大させることができる潤滑剤を製造する関心が大きくなりつつある。更には、最近のエンジンオイル規格は、標準化されたエンジン試験において燃料効率を実証する潤滑剤を必要とする。
【0003】
歴史的には、新しい性能要求を充たすために、調合物メーカーは、更に高耐久性の添加物パッケージを選択、包含させることにより、潤滑剤の価値を高めた。しかしながら、一部の添加物が極めて高価であるということは既知である。そして、潤滑剤組成物への更なる量の添加物を使用して、薄膜摩擦の低減または潤滑剤の有効寿命の延長などの種々の機能を得ることは、メーカーにとってかなり高コストである可能性がある。
【0004】
潤滑剤組成物の主要な構成成分は、比較的低価格な基油であることができる。基油は既知であり、グループI−Vにカテゴリー化されている。基油は、%飽和成分、%イオウ含量および粘度指数に基づいて所定のグループに入れられる。例えば、グループIII基油はすべて、90%より上の飽和成分、0.03%未満のイオウおよび120に等しいか、もしくはこれより大きい粘度指数を有する。しかしながら、芳香族成分、パラフィン系成分およびナフテン系成分の比率は、基油のグループ内で実質的に変わることができる。これらの比率の差がトルクの増加などの潤滑剤組成物の性質に影響を及ぼすことができるということは既知である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安価であり、増加したトルク、低下した高温高せん断粘度および増加した燃料経済性の少なくとも1つを提供することができる潤滑剤組成物が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にしたがえば、基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑剤組成物が提供される。
【0007】
一つの局面においては、基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法が提供される。
【0008】
もう一つの局面においては、もう一つの基油と比較して低下した高温高せん断粘度を有する基油を含む組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法が提供される。
【0009】
更なる局面においては、基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を機械に供給することを含んでなる、車両
において燃料経済性を増加させる方法が提供される。
【0010】
更なるもう一つの局面においては、基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を表面に供給することを含んでなる、表面間の流体の薄膜摩擦を低下させる方法が提供される。
【0011】
この開示の更なる目的および利点は、以下の説明において一部示されるであろうものであり、ならびにこの開示の実施により学習可能である。この開示の目的および利点は、添付のクレームにおいて特に指摘される要素および組み合わせにより実現され、達成されるであろう。
【0012】
前出の一般的な説明および以下の詳細な説明は両方とも例示および説明のみのものであり、クレームに述べられているこの開示を制約するものでないということが理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本開示は、基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑剤組成物に関する。
【0014】
この明細書中で使用される場合、用語「イソパラフィン」はヒドロカルビル分岐鎖を含むパラフィンを指す。
【0015】
この明細書中で使用される場合、用語「直鎖パラフィン」はヒドロカルビル直鎖を含むパラフィンを指す。
【0016】
この明細書中で使用される場合、用語「I/N比」は、直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比を指す。
【0017】
この明細書中で使用される場合、用語「ヒドロカルビル」、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、当分野の熟練者にはよく知られている、通常の意味で使用される。特に、これは、分子の残部に直接に結合する炭素原子を有し、主として炭化水素の性格を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例は、
(1)炭化水素置換基、すなわち脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基および芳香族、脂肪族および脂環式で置換された芳香族置換基、ならびに環が分子のもう一つの部分によって完結する(例えば、2つの置換基が一緒になって脂環式基を形成する)環状置換基;
(2)置換炭化水素置換基、すなわち本発明の文脈において、主たる炭化水素置換基を変えない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフロロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)を含有する置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、本発明の文脈において、主として炭化水素の性格を有する一方で、炭素原子から構成される環または鎖中に炭素以外を含有する置換基
を含む。ヘテロ原子は、イオウ、酸素、窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルなどの置換基を網羅する。一般に、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子ごとに2個以下、例えば1個以下の非炭化水素置換基が存在し;典型的には、ヒドロカルビル基中には非炭化水素置換基は存在しない。
【0018】
この明細書中での使用に好適な基油は、合成油または鉱油(mineral oils)またはこれらの混合物のいずれかから選択可能である。鉱油は、動物油および植物油(例えば、ひまし油、ラード油)ならびに液体石油などの他の鉱物質潤滑油(minera
l lubricating oils)および溶剤処理、酸処理、水素化異性化もしくは水素分解されたパラフィン系、ナフテン系もしくは混合パラフィン−ナフテン系タイプの鉱物質潤滑油を含む。石炭または頁岩由来の油も好適である。更には、ガス・ツー・リキッド由来の油も好適である。
【0019】
基油は、多量に存在することができ、ここで「多量」は潤滑剤組成物の50%に等しいか、それ以上、例えば約80から約98重量パーセントを意味すると理解される。
【0020】
基油は、意図される目的に好適ないかなる所望の粘度も有することができる。好適なエンジンオイル動的粘度の例は、約2から約150cStの範囲に、更なる例として、100℃で約5から約15cStの範囲にあることができる。このように、完全配合オイルは、約SAE15から約SAE250の、更なる例としては、約SAE20Wから約SAE50の粘度範囲を有すると等級付け可能である。好適な自動車油およびギアオイルは、15W−40、20W−50、75W−140、80W−90、85W−140、85W−90などのマルチグレードオイルも含む。
【0021】
合成油の非限定的な例は、重合および相互重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマーなど)などの炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)などおよびこれらの混合物などのポリアルファオレフィン;ポリ(2−ブテン)、ポリ(2−ペンテン)、ポリ(3−ヘキセン)などおよびこれらの混合物などのポリ内部オレフィン;ポリアルキルベンゼン(例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ−ノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、およびこれらの誘導体、類似体および同族体などを含む。
【0022】
末端ヒドロキシル部分をエステル化、エーテル化などにより変性したアルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマーとこれらの誘導体は、使用可能な既知の合成油のもう一つの類を構成する。このような油は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により製造される油、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500から1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000から1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)またはこれらのモノおよびポリカルボン酸エステル、例えば酢酸エステル、混合C3−8脂肪酸エステルまたはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
【0023】
使用可能な合成油のもう一つの類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と、種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)のエステルを含む。これらのエステルの特定な例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼラート、ジイソデシルアゼラート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール2モルの2−エチルヘキサン酸との反応により形成される複合エステルなどを含む。
【0024】
合成油として有用なエステルは、C5−12モノカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリオールおよびポリオールエーテルから製造されるものも含む。
【0025】
したがって、この明細書中で述べられるような組成物の製造に使用可能な使用される基油は、米国石油協会(API)基油互換性ガイドラインにおいて規定されている、グループI−Vの基油のいずれかから選択可能である。このような基油グループは次の通りである。
【0026】
グループIは、90%未満の飽和成分および/または0.03%より上のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上、120未満の粘度指数を有し;グループIIは、90%に等しいか、もしくはそれ以上の飽和成分および0.03%に等しいか、もしくはそれ未満のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上、120未満の粘度指数を有し;グループIIIは、90%に等しいか、もしくはそれ以上の飽和成分および0.03%に等しいか、もしくはそれ未満のイオウを含有し、120に等しいか、もしくはそれ以上の粘度指数を有し;グループIVはポリアルファオレフィン(PAO)であり;そしてグループVはグループI、II、IIIまたはIVに含まれないすべての他のベースストックを含む。一つの態様においては、基油は、グループII+基油を含む。もう一つの態様においては、基油はグループIII基油を含む。
【0027】
上記のグループの規定において使用される試験方法は、飽和成分についてはASTM D 2007;粘度指数についてはASTMD2270;およびイオウについてはASTM D 2622、4294、4927および3120の一つである。
【0028】
グループIVベースストック(basestocks)、すなわちポリアルファオレフィン(PAO)は、アルファ−オレフィンの水素化オリゴマーを含み、オリゴマー化の最も重要な方法はフリーラジカル法、チーグラー触媒法およびカチオン型のフリーデル・クラフツ触媒法である。
【0029】
ポリアルファオレフィンは、通常、100℃で2から100cStの、例えば100℃で4から8cStの範囲の粘度を有する。これらは、例えば約2から約30個の炭素原子を有する分岐鎖または直鎖のアルファ−オレフィンのオリゴマーであることができ、非限定的な例は、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ−1−ブテン、ポリ−1−ヘキセン、ポリ−1−オクテンおよびポリ−1−デセンを含む。ホモポリマー、インターポリマーおよび混合物が含まれる。
【0030】
上記に参照したベースストックのバランスに関しては、「グループIベースストック」は、1つ以上の他のグループからのベースストックが混和可能なグループIベースストックも含むが生成する混和物がグループIベースストックについて上記に規定したもののなかに入る特性を有することを前提とする。
【0031】
例示のベースストックは、グループIベースストックおよびグループlIベースストックとグループIブライト(bright)ストックとの混合物を含む。
【0032】
この明細書中での使用に好適なベースストックは、限定ではないが、蒸留、溶剤精製、水素化処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含む種々の異なる方法を用いて製造可能である。
【0033】
基油は、フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素由来の油であることができる。フィッ
シャー・トロプシュ合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を用いてHとCOを含有する合成ガスから製造可能である。基油として有用であるためには、このような炭化水素は、通常、更なる処理を必要とする。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号または第6,180,575号で開示されている方法を用いて水素異性化可能であり;米国特許第4,943,672号または第6,096,940号で開示されている方法を用いて水素化分解および水素異性化可能であり;米国特許第5,882,505号で開示されている方法を用いて脱ワックス可能であり;もしくは米国特許第6,013,171号;第6,080,301号;または第6,165,949号で開示されている方法を用いて水素化異性化および脱ワックス可能である。
【0034】
鉱物質もしくは合成の上記に開示したタイプの非精製、精製および再精製のオイル(ならびに、これらのいずれかの2つ以上の混合物)が基油中で使用可能である。非精製オイルは、更なる精製処理なしで鉱物質源または合成源から直接に入手されるものである。例えば、レトルト採取法から直接に入手されるシェール油、一次蒸留から直接に入手される石油、またはエステル化法から直接に入手され、更なる処理なしで使用されるエステルオイルが非精製オイルである。精製オイルは、1つ以上の性質を改善するために、1つ以上の精製段階で更に処理されていることを除いて、非精製オイルに類似している。溶剤抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、パーコレーションなどの多数のこのような精製手法は、当分野に熟練者に既知である。再精製オイルは、運転で既使用の精製オイルに適用された、精製オイルを入手するのに使用されるものに類似の方法により得られる。このような再精製オイルは、再生もしくは再処理オイルとしても既知であり、使用済添加物、混入物質およびオイル分解生成物の除去を目的とする手法によりしばしば更に処理される。
【0035】
一つの局面においては、この明細書中で使用される基油は、GF−4標準に合致することができ、国際潤滑剤標準化および認定委員会(ILSAC)により上記に示されている。
【0036】
一つの態様においては、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比は、約30から約400、例えば約50から約300の範囲にある。
【0037】
もう一つの局面においては、基油は、約23未満の平均パラフィン炭素数を更に含んでなることができる。「平均パラフィン炭素数」は、当分野の熟練者によれば、例えば組成物中の各タイプのパラフィン中の炭素数に各タイプのパラフィンの重量パーセントを掛け、次に積を足し合わせることにより容易に求められる。
【0038】
開示組成物は、用途の必要性によって、種々の量の添加物を供給することができる清浄剤防止剤(「DI」)パッケージも含んでなることができる。一つの局面においては、DIパッケージは、酸化防止剤、腐食防止剤、摩擦変性剤、磨耗防止剤、極圧添加剤、清浄剤、分散剤、発泡防止剤、流動点降下剤、脱臭剤、シール膨潤剤、脱乳化剤、着色剤および流動化剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を含んでなることができる。
【0039】
一つの態様においては、DIパッケージは、当分野の熟練者には既知の清浄剤のいずれかから選択される清浄剤を含んでなることができる。好適な清浄剤は、限定ではないが、マニッヒ塩基、ポリアルキレン基が約600から約2000、例えば約800から約1400などの数平均分子量を有する、ポリアルキレンアミン、ポリアルキレンスクシンイミド、ポリエーテルアミン、スルホネート、フェネート、サリシレートおよびカルボキシレートの中性もしくは過塩基性の(overbased)金属塩およびこれらの混合物を含む。
【0040】
この明細書中で使用される場合、用語「中性」および「過塩基性」は、当分野の熟練者にはよく知られた通常の意味で使用される。特に、「中性」は、塩に対する実質的に化学量論的量の金属を含有する塩錯体を意味すると理解される。「過塩基性」は、中性塩の形成に必要とされるものの化学量論に対して過剰で金属を含有する塩錯体を意味すると理解される。一つの局面においては、清浄剤は、約40から約600の、例えば約100から約400の、そして約140から約350の範囲の全塩基値(TBN)を有することができる。TBNはASTM 2896にしたがって測定される。
【0041】
中性もしくは過塩基性の金属塩の金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることができる。アルカリおよびアルカリ土類金属の非限定的な例は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウムおよびこれらの混合物を含む。一つの態様においては、清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートであることができる。
【0042】
もう一つの局面においては、開示組成物は、当分野の熟練者には既知の流動点降下剤のいずれかから選択される流動点降下剤を含んでなることができる。好適な流動点降下剤は、限定ではないが、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物の縮合生成物、エチレンビニルアセテートコポリマーなどのビニルカルボキシレートポリマーを含む。流動点降下剤として有用な化合物の他の非限定的な例は、ジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステルおよびビニルアルキルエーテルの重合により製造されるターポリマーを含む。このようなポリマーの製造およびこれらの使用の技術は、参照によりこの明細書に組み込まれている、米国特許第3,250,715号で開示されている。一つの態様においては、流動点降下剤はポリメタクリレートであることができる。
【0043】
更にもう一つの局面においては、開示組成物は、当分野の熟練者には既知の粘度指数向上剤のいずれかから選択される粘度指数向上剤を含むことができる。好適な粘度指数向上剤は、限定ではないが、窒素含有ポリマーと反応またはグラフトされたヒドロカルビルポリマー;ビニルピリジン、N−ビニルピロリドンおよびN,N'−ジメチルアミノエチレンなどの窒素含有モノマーと反応またはグラフトされたアルキルメタクリレートのコポリマー;1つ以上のアルキルアクリレートの重合または共重合から得られるポリアルキルアクリレート;官能基化されたポリマーなどを含む。官能基化されたポリマーの例は、限定ではないが、オレフィンコポリマーおよびアクリレートもしくはメタクリレートコポリマーを含む。官能基化されたオレフィンコポリマーは、例えばマレイン酸無水物などの活性なモノマーと更に反応またはグラフト可能な、スチレンモノマーまたはエチレンとプロピレンのコポリマーであることができる。このようなコポリマーはアルコールまたはアミンにより更に誘導体化可能である。他のこのようなコポリマーは、エチレンと、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンおよびスチレンなどのα−オレフィンのコポリマーを含むことができる。上記のコポリマーは窒素化合物と更に反応またはグラフト可能である。好適な粘度指数向上剤の他の例は、限定ではないが、ポリイソブチレン、メタクリレート、ポリアルキルスチレンおよびエチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエンポリマーを含む。一つの態様においては、粘度指数向上剤はエチレン−プロピレンコポリマーであることができる。
【0044】
場合によっては、他の構成成分が潤滑剤組成物中に存在することができる。他の構成成分の非限定的な例は、リン含有化合物、灰含有清浄剤、無灰清浄剤、過塩基性清浄剤、補助流動点降下剤、補助粘度指数向上剤、灰含有摩擦変性剤、無灰摩擦変性剤、窒素含有摩擦変性剤、窒素非含有摩擦変性剤、エステル化摩擦変性剤、補助極圧添加剤、防錆剤、補助酸化防止剤、補助腐食防止剤、補助発泡防止剤、チタン化合物、チタン錯体、有機可溶性モリブデン化合物、有機可溶性モリブデン錯体、ホウ素含有化合物およびホウ素含有錯
体と、これらの混合物を含む。
【0045】
この明細書中で開示されている潤滑剤組成物は、いかなるものの潤滑にも使用可能である。一つの局面においては、潤滑剤組成物は、エンジンの潤滑に使用されるエンジン組成物であることができる。しかしながら、当分野の通常の技術者ならば、いかなるものの潤滑、例えば薄膜摩擦が存在することができるか、もしくはトルクが最適化可能であるいかなる表面の潤滑に開示潤滑剤組成物が使用可能であるということを理解するであろう。更には、流体に開示組成物を供給することを含んでなる、表面間の流体の薄膜摩擦を低下させる方法が提供される。また、エンジン、トランスミッション、自動車ギア、ギアセットおよび/またはアクセルなどの機械を開示潤滑剤組成物により潤滑する方法もこの明細書中に開示されている。
【0046】
燃料経済性またはトルクの改善が問題である、いかなる機械にも潤滑剤組成物を供給することができるということが更に想定される。特に、基油を含み、もう一つの基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比と比較して、直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が低下した組成物を機械に供給することを含んでなる、車両中で燃料経済性を増加させる方法が提供される。一つの局面においては、機械は、エンジン、トランスミッション、自動車ギア、ギアセットおよびアクセルからなる群から選択される。加えて、機械に開示組成物を供給することを含んでなる、エンジン、トランスミッション、自動車ギア、ギアセットおよび/またはアクセルなどの機械において燃料経済性を改善する方法が提供される。
【0047】
基油を含み、もう一つの基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比と比較して、直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が低下した組成物を機械に供給することを含んでなる、機械におけるトルクを改善する方法も提供される。「トルクの改善」は、開示組成物を含まない機械と比較して、開示組成物を含む機械におけるピークトルクの増進を意味すると理解される。一つの局面においては、機械は、エンジン、トランスミッション、自動車ギア、ギアセットおよびアクセルからなる群から選択される。ピークトルクはすべてのエンジンファミリーに特有であり、当分野の通常の技術者によればシャーシーダイナモメーターを使用し、エンジンにより後輪から生じるトルクを測定することなどにより、容易に識別可能である。
【0048】
もう一つの基油と比較して低下した高温高せん断粘度(HTHSV)を有する基油を含む組成物を機械に供給することを含んでなる、機械におけるトルクを改善する方法がこの明細書で更に開示される。この明細書中で使用される場合、用語「もう一つの基油」は、グループI−V基油のカテゴリー化標準に合致する通常の基油を指す。基油のHTHSVは、当分野の通常の技術者によれば、例えば100℃でのASTM D 4683にしたがって容易に測定可能である。一つの局面においては、基油は、鉱物質基油、合成基油またはこれらの混合物、ポリアルファオレフィン、グループII+基油またはグループIll基油である。
【実施例】
【0049】
実施例1
グループIIもしくはIII基油が90%以上の飽和成分、0.03%未満のイオウを含み、約80から約120もしくはそれ以上の粘度指数を有するということは既知である。しかしながら、すべてのグループIIもしくはIII基油が同一の動力伝達性を有するとは限らない。表1に示すように、組成物中のパラフィン、シクロパラフィンおよび芳香族のタイプを求めるために、開示が参照により組み込まれている、procedure in Analytical Chemistry,64:2227(1992)にしたがって、種々のグループIIおよびIII基油を含む完全配合潤滑剤組成物を分析した。
【0050】
この実施例においては、2003 Chevrolet Silverado軽トラックを表1に掲げた潤滑剤組成物により潤滑された5.3LV8エンジンにより駆動した。このトラックをこの車両に対して適切な慣性および馬力吸収ファクターによりプログラムされたMustang Performanceダイナモメーター上に取り付けた。模擬の25%グレードでローギアでスロットルを一杯に開いてトラックを加速しながら、馬力を後輪で測定した。各実施例について10と15の間のトルクを読み取り、開示が参照により組み込まれている、SAEJ1349にしたがって3600と4200rpmの間のトルクピークにおけるデータを標準条件に補正した。ダブルフラッシュ法を使用して、トラックのクランクケース中で各実施例をフラッシュして、前の試験からの持ち込みを確実に最少とした。これに引き続いて30分の慣らし運転期間をおき、トラックをサードギアで60mphで30分間運転し、その後更なるトルク測定を行った。100℃でのASTM D 4683にしたがって各実施例のHTHSVも測定した。結果を下記で表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1で示すように、線形の関係がトルクと100℃HTHSV値の間に存在し、100℃HTHSV値が低いほど、トルクが高い。トルクと100℃HTHSV値の間の線形の相関は0.845のR値により示される。この結果は、実施例Aが最低の100℃HTHSV値(6.43mPas)を有し、最高のトルク量(326.1Nm)を生じたということを示す。比較として、実施例Eは、最高の100℃HTHSV値(7.22mPas)を有し、最低のトルク量(323.3Nm)を生じた。同様に、実施例Bは、実施例D(6.80mPas)よりも低い100℃HTHSV値(6.50mPas)を有し、実施例D(323.8Nm)よりも高いトルク量(325.2Nm)を生じた。このように、基油の100℃高温高せん断粘度を低下させることにより、トルクが改善可能であることが判る。
【0053】
表1でも判るように、最低の100℃HTHSV値を有する(したがって、最高のトルクを生じる)実施例は最低のI/N比も有する。例えば、上述のトルクおよび100℃HTHSV値に加えて、実施例Aは最低のI/N比(191)も有し、実施例Eは最高のI/N比(452)を有していた。このように、基油のI/N比を低下させることにより、トルクも改善可能であることが判る。当分野の通常の技術者ならば、トルクが高いほど、燃料経済性が良好であるということを理解するであろう。
【0054】
実施例2
この実施例においては、いくつかの異なるグループIIおよびII+基油を11.5重量%のDIパッケージ(Afton Chemical Corp.により提供されるHiTEC(登録商標)1136)、8.6重量%のエチレン−プロピレンオレフィンコポ
リマー粘度指数向上剤(Chevron Oroniteにより提供されているParatone(登録商標)8021)、および0.5重量%のポリメタクリレート流動点降下剤(RohMaxにより提供されているViscoplex(登録商標)1−440)とブレンドすることにより、完全調合された潤滑剤組成物を作製した。このDIパッケージは、カルシウム過塩基性清浄剤、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、アミン非含有有機摩擦変性剤、モリブデン含有摩擦変性剤、ジフェニルアミン酸化防止剤、硫化オレフィン酸化防止剤、発泡防止剤、およびプロセスオイルを含むものであった。
【0055】
各潤滑剤組成物を上述の手順にしたがって分析した。各実施例のHTHSVも上述の100℃でのASTM D 4683にしたがって測定した。結果を下記の表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2中の結果は、I/N比が減少するのにしたがって、100℃HTHSV値も減少する(したがって、トルクは増加する)ということを示す。例えば、実施例Fは、高I/N比(874)と、それに対応して高100℃HTHSV値(7.22mPas)を有していた。それゆえ、実施例Fは、実施例1で上述したように低トルクを有しなければならない。比較として、実施例Kは、低I/N比(48)と、それに対応して低100℃HTHSV値(6.75mPas)を有していた。それゆえ、実施例Kは、実施例1で上述したように高トルクを有しなければならない。実施例Jは、実施例Iよりも低いI/N比を有する一方で、著しく高い平均パラフィン炭素数を有し、これが低I/N比を相殺し、高100℃HTHSV値(7.08mPas)を生じる。それゆえ、実施例Jは、実施例Iよりも高いトルクを有しなければならない。
【0058】
この明細書の多数の個所で多数の米国特許、刊行された外国特許出願および刊行された技術論文が参照された。このような引用された文書はすべてこの明細書中で完全に述べられるようにこの開示の中に完全に組み込まれている。
【0059】
この明細書および添付のクレームの目的には、特記しない限り、明細書およびクレームで使用される量、パーセントまたは比率および他の数値を表すすべての数は、すべての場合において用語「約」により改変されると理解されるべきである。したがって、そうでないと明示しない限り、明細書および添付のクレームで示される数値パラメーターは、本発明により得ようとする所望の性質に依存して変わってもよい近似である。最低限でも、そして均等論の適用を請求の範囲に限定する試みとしてでなく、各数値パラメーターは、示されている有意の桁数を考慮して、そして通常の丸め手法を適用することにより少なくとも解釈されるべきである。
【0060】
この明細書および添付のクレームで使用される場合には、単数形は、一つの指示対象に明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むということが特記される。このように、
例えば「酸化防止剤」の指示は2つ以上の異なる酸化防止剤を含む。この明細書中で使用される場合、用語「含む」およびこの文法的な変形物は、非限定的であるように意図され、リスト中の項目を掲げることが掲げられた項目と置換または付加可能な他の同様な項目を排除することにならない。
【0061】
特別の態様を説明してきたが、出願人または当分野の他の熟練者に代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物が思い浮かぶ可能性がある。したがって、添付のクレームは、出願時および補正時には、このような代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物をすべて包含するように意図されている。
【0062】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
1.基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑剤組成物。
2.基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約50から約300の範囲にある、上記1に記載の潤滑剤組成物。
3.基油が約23未満の平均パラフィン炭素数を更に含んでなる、上記1に記載の潤滑剤組成物。
4.酸化防止剤、腐食防止剤、摩擦変成剤、耐磨耗剤、極圧添加剤、清浄剤、分散剤、発泡防止剤、流動点降下剤、脱臭剤、シール膨潤剤、脱乳化剤、着色剤および流動化剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を含む清浄剤防止剤パッケージを更に含んでなる、上記1に記載の潤滑剤組成物。
5.清浄剤が過塩基性フェネート、過塩基性サリシレート、過塩基性スルホネート、過塩基性カルボキシレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、上記3に記載の潤滑剤組成物。
6.粘度指数向上剤が窒素含有ポリマー型粘度指数向上剤分散剤、エステル含有ポリマー型粘度指数向上剤分散剤および非分散性粘度指数向上剤からなる群から選択される、上記3に記載の潤滑剤組成物。
7.粘度指数向上剤がエチレンと、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンおよびスチレンからなる群から選択されるα−オレフィンのコポリマーである、上記3に記載の潤滑剤組成物。
8.流動点降下剤がポリメタアクリレート、ポリアクリルアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物の縮合生成物、ビニルカルボキシレートポリマーならびにジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステルおよびアルキルビニルエーテルのターポリマーからなる群から選択される、上記3に記載の潤滑剤組成物。
9.リン含有化合物、灰含有清浄剤、無灰清浄剤、過塩基性清浄剤、補助流動点降下剤、補助粘度指数向上剤、灰含有摩擦変性剤、無灰摩擦変性剤、窒素含有摩擦変性剤、窒素非含有摩擦変性剤、エステル化摩擦変性剤、補助極圧添加剤、防錆剤、補助酸化防止剤、補助腐食防止剤、補助発泡防止剤、チタン化合物、チタン錯体、有機可溶性モリブデン化合物、有機可溶性モリブデン錯体、ホウ素含有化合物およびホウ素含有錯体からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を更に含んでなる、上記1に記載の潤滑剤組成物。
10.基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法。
11.基油が鉱油、合成油およびこれらの混合物である、上記10に記載の方法。
12.基油がポリアルファオレフィンである、上記10に記載の方法。
13.基油がグループII+基油である、上記10に記載の方法。
14.基油がグループIII基油である、上記10に記載の方法。
15.もう一つの基油と比較して低下した高温高せん断粘度を有する基油を含む組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法。
16.基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約
400の範囲にある組成物を車両に供給することを含んでなる、車両において燃料経済性を増加させる方法。
17.基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を表面に供給することを含んでなる、表面間の流体の薄膜摩擦を低下させる方法。
18.上記1に記載の潤滑剤組成物により潤滑されているエンジン、トランスミッションまたはギアセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある潤滑剤組成物。
【請求項2】
基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法。
【請求項3】
もう一つの基油と比較して低下した高温高せん断粘度を有する基油を含む組成物を機械に供給することを含んでなる、機械においてトルクを改善する方法。
【請求項4】
基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を車両に供給することを含んでなる、車両において燃料経済性を増加させる方法。
【請求項5】
基油を含み、基油中の直鎖パラフィンに対するイソパラフィンの比が約30から約400の範囲にある組成物を表面に供給することを含んでなる、表面間の流体の薄膜摩擦を低下させる方法。
【請求項6】
請求項1に記載の潤滑剤組成物により潤滑されているエンジン、トランスミッションまたはギアセット。

【公開番号】特開2008−274279(P2008−274279A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117026(P2008−117026)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】