説明

濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法及びその評価方法を用いた濁水対策用のフェンスの設置方法

【課題】必要とする入力データを絞っても設置位置の評価が定量的に行える濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法を提供すること。
【解決手段】濁水対策用のフェンス3を貯水池2の両岸に差し渡すように浮上させて配設することによりフェンス3の下流側2bの上層にフェンスにより分画された分画層4を形成させ、濁水をフェンス3をくぐり抜けて分画層4下方の下層流入層5を流下させることにより貯水池2の汚濁の長期化を避ける貯水設備の濁水対策用のフェンスの評価方法である。フェンス3設置時に下流側表層に確保される分画層4の安定度に注目した水理的指標(例えば、フルード数Fdリチャードソン数Riを用いることにより、濁水対策用のフェンスの設置位置(開口高さd)又はフェンス深さhが適切であるか否かを定量的に評価する。この評価方法を用いることにより濁水対策用のフェンスの最適な設置位置を算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム貯水池に代表される洪水時の濁水化等の成層破壊による水質障害の発生を防止、抑制するための濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法及びその評価方法を用いた濁水対策用のフェンスの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム貯水池などの閉鎖性水域では、降雨による大規模な出水が発生した場合に、集水域から土粒子など大量の濁質が流入して貯留水が濁水化することで、放流水が長期間にわたって濁水化する、いわゆる濁水長期化現象が発生することが問題となっている。これは、平水時に貯水池に流入する清澄な河川の水であっても、出水時には掃流土砂により濁水化するためである。このような河川の濁水化は、河川のBOD,T-N,T-P,SSなどの数値を測定することにより確認され報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。そして、この非特許文献1では、出水時の河川水質は掃流土砂による濁度だけでなく栄養塩濃度も上昇すると報告されている。
【0003】
このような貯水池の洪水時の濁水長期化対策の一つとして、図1に示すように、ダム1の上流の貯水池2内の両岸に差し渡すようにして浮上式のフェンス3を設置した貯水設備が提案されている(例えば、非特許文献1、2または特許文献1参照。)。ここで、フェンス3は、フェンス本体30と、このフェンス本体30の一側縁を貯水池2内で浮上させるためのフロート31と、フェンス本体30の他側縁を湖底に向けて沈降させる重り32とから大略構成され、この重り32を固定した他側縁はフェンス3の最深部を形成することになる。
【0004】
このような貯水設備によれば、貯水池2内に浮上式のフェンス3を設置することにより、貯水池2はフェンス3を境界として上流側2aと下流側2bとに区分される。貯水池2内に流入する流入水は上流側2aより最深部32の下をくぐり抜けて流れ、フェンス3により遮られた下流側2bの上層部では、流入水の流れの生じにくい部分を発生させることができる。以下、このフェンス下流の流入水の流れの生じにくい上層部の部分を分画層4と呼称し、その下方の部分を下層流入層5と呼称する。
【0005】
このように洪水時に備えて浮上式のフェンス3を設置すれば、洪水時の流入水は上流側2aから下流側2bへ流れてダム1から放水される際に、下流側2bでは主に下層流入層5を流れる。この下層流入層5の上層にあたる分画層4では、フェンス3の作用により成層が保護され、流入水が汚染されても汚染されずに維持されることができる。これにより、分画層4に滞留する滞留水の量を多くすれば、貯水池2内の貯留水の大部分が汚染から回避されることにより、放流水の濁水化期間の短縮化を図ることができる。
【0006】
このようなフェンス3の有無や、フェンス3を追加設置した場合の濁水化期間に与える影響は、非定常二次元モデルを用いたシミュレーションにより解析されている(例えば、非特許文献1参照。)。そこでは出水規模やフェンスあるいは選択取水対策の効果が内部フルード数との関係で検証され、フェンスを設置しない場合(無対策時)には、小規模かつ成層破壊の可能性が小さい出水でも濁水長期化が生じると報告され、フェンスの有効性が確認されている。
【0007】
また、貯水池2における洪水時の濁水シミュレーションも検討されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2005−120582号公報
【非特許文献1】宇田克己、「蓮ダムの清流保全対策について(4D−P28)」、第9回世界湖沼会議(滋賀県)論文集、P529-532(2001年11月11日)
【非特許文献2】吉村佐他、「寺内ダム貯水池における水質管理の調査報告」、ダム技術No.114、P1−P12(1996年3月)
【非特許文献3】梅田信他、「ダム貯水池における洪水時濁水シミュレーションモデルの開発」、平成14年度ダム水源地環境技術研究所所報p3−p17、財団法人ダム水源地環境センター(平成15年11月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
濁水長期化対策には、フェンスの設置が有効であることは確認されているが、フェンスを浮上させて設置する際に、どのような仕様のフェンス(例えば、フェンス深さh)を何処に(又は湖底2cから最深部32までの距離=開口高さ)に設置すればよいかについては十分な検討がなされていない。設置者が設置環境を考慮して適宜判断して経験と勘により設置しているのが現状である。
【0009】
フェンス仕様(フェンス深さh)が不適切であれば、分画層の有効体積を十分に確保できない。濁水長期化対策を講じる必要があるダム貯水池等では、洪水規模、地形等の濁水化に影響する諸条件がさまざまであるため、最適なフェンス仕様や設置位置を評価判断する基本的考法の提案が望まれる。
【0010】
また、非特許文献1には、フェンス3の有無や、フェンス3を追加設置した場合の濁水化期間に与える影響が現状フェンスとの関係で非定常二次元モデルを用いたシミュレーションにより解析されているが、フェンスを浮上させて設置する際に、フェンスをどこに設置すればよいか、またはフェンス深さをどの程度にすればよいかについては具体的に検討されていない。
【0011】
また、非特許文献3には、貯水池2における洪水時の濁水シミュレーションが検討されているだけであり、同様にフェンスを浮上させて設置する際に、フェンスをどこに設置し、またはフェンス深さをどの程度にすればよいかについては検討されていない。
【0012】
ダム貯水池等においては、洪水規模、地形等の濁水化に影響する諸条件がさまざまであるため全ての条件を考慮して濁水対策用のフェンスの設置位置やフェンス深さを評価したのでは、入力情報が膨大となり、かつ、条件が複雑となるとの課題がある。
【0013】
現在、こうしたシミュレーション解析によるフェンスの設置位置やフェンス深さについての評価方法は、用いるモデルの適用性の整理を含め、明確化されていないと考えられる。
【0014】
そこで、本発明の目的は、必要とする入力データを絞っても設置位置の評価が定量的に行える濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者等は、必要とする入力データを絞っても濁水対策用のフェンスのフェンス仕様及び設置位置の評価が行える手法について検討したところ、独自に実施した2次元水理実験の知見に基づいて、洪水規模および成層状態に応じた最適なフェンス仕様と設置位置の設定方法が提供できることを認め本発明に到達した。
【0016】
すなわち、本発明は、濁水対策用のフェンスを貯水池の両岸に差し渡すように浮上させて配設することにより該フェンスの下流側の上層にフェンスにより分画された分画層を形成させ、濁水をフェンスをくぐり抜けて分画層下方の下層を流下させることにより貯水池の汚濁の長期化を避ける濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法であって、
浮上式のフェンス設置時に下流側表層に確保される分画層の安定度に注目した水理的指標を用いることにより、濁水対策用のフェンスの設置位置又はフェンス深さが適切であるか否かを定量的に評価する濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法である。
【0017】
この水理的指標は、次式(I)で示されるフルード数又は次式(II)で示されるリチャードソン数が例示される。
【0018】
【数3】

【0019】
【数4】

【0020】
ここで、Fd:内部フルード数
Ri:リチャードソン数
v:流入流速(m/s)
g:重力加速度(9.8m/s2
ρ1:下層水密度(g/cm3
ρ2:上層水(下流側表層水)密度(g/cm3
h:濁水対策用のフェンス深さ(m)である。
【0021】
このような濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法は、濁水対策用のフェンスの設置方法に応用することができる。例えば、前記水理的指標は、濁水流入量、貯水池の地形及び成層条件に関する関数であり、前記濁水流入量及び前記成層条件を設定することにより前記フェンスを設置すべき位置の必要な最低全水深条件を算出し、該算出された最低全水深条件を満たす位置に前記フェンスを設置することができる。
【0022】
ここで、この成層条件は、例えば、成層厚さ及び前記成層を形成する成層水と該成層の下層を形成する下層水との水密度差である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に従えば、必要とする入力データを絞っても設置位置の評価が定量的に行える。これにより、必要データを絞ったマクロ的解析を行うことにより、濁水対策用のフェンス設置の対策計画段階等において、簡易で合理的な評価を行うことが可能となる。また、一般に大きな作業量を必要とする詳細な数値シミュレーションを大幅に合理化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、貯水池模型を用いた水理実験の概要について説明する。
[水理実験の概要]
(貯水池模型)
まず、図2は、図1の浮上式のフェンスを設置した貯水設備を水理模型により説明するための水理実験に利用される貯水池模型を横断面により説明する図である。以下の説明では、図1に示す貯水設備と同一機能を有する部位部材は、貯水池模型においても説明の簡略化のために同一番号乃至は同一名称を付して詳細な説明は省略することがある。
【0025】
この図2において、符号2は長手方向に延びる長方形の容器により構成された貯水池の模型(貯水池模型2)であり、この貯水池模型2は、ダムにより堰き止められた貯水池の要部を説明している。この貯水池模型2では、両岸に差し渡すようにして浮上式のフェンス3が設置されている。このフェンス3は、実施設においては、フェンス本体30と、フェンス本体30の一側縁を貯水池2内で浮上させるためのフロート31と、フェンス本体30の他側縁を湖底2cに向けて沈降させる重りとにより大略構成され、この重りを固定した他側縁はフェンス3の最深部32を形成している。
【0026】
また、予備実験による実験流量内でフェンスが流水に対してほぼ鉛直姿勢を保つことを確認した上で、実験模型では、モデルの簡略化のため不透水性の剛体フェンスを用いた。
【0027】
このような貯水池模型2では、フェンス3を境界として上流側2aと下流側2bとに区分され、貯水池2内に流入する流入水は上流側2aより最深部32の下をくぐり抜けて下層流入層5を流れる。フェンス3により遮られた下流側2bの上層部には、流入水の流れの生じにくい分画層4が形成されている。
【0028】
ここで、符号Hは貯水池模型2(又は貯水池2)の全水深、符号hはフェンス深さ、符号dはフェンス3の開口高さ(湖底2cから最深部32までの距離)であり、H=h+dを満たす。また、ρ1は下層流入層5の密度、ρ2は分画層4の密度(上層水密度)であり、一般に上層水密度ρ2は、温度の低い濁水流入水からなる下層水密度ρ1よりも低密度(ρ1>ρ2)である。
【0029】
この水理実験に採用した貯水池模型2の原型としては、幅200m、水深30m、最大設定流量750m3/秒の貯水池2を想定した。この貯水池2を横断して配設されたフェンスからフェンス幅15mを切り出して貯水池原型量とし、この貯水池原型量に対してフルード数相似で1/50の2次元水路による水理模型量とした。フェンスとしては深さ5m、10m、15mの3種類を用意し、これらの貯水池原型量及び水理模型量の詳細を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
(実験)
純水に添加した食塩濃度差により下層水密度ρ1の密度を変化させるとともに流動状態および成層状態の変化を目視により観測するために下層水(流入水)のみに染料を添加して着色させた。
【0032】
表2に記載のとおり、上層水密度ρ2と下層水密度ρ1との密度差(ρ1−ρ2)Δρ及び濁水の流量を計画値に従って変化させた。貯水池模型2の適宜の箇所に電導度測定装置及び流速計を配設し、そのときの流入流速、電導度を測定した。その結果、貯水池横断方向の流速分布及び電導度分布の変化は無視できる程度に小さいことを大略確認し、また、フェンス下流の成層状態を示す密度ρ1、ρ2は計画値と大略同じであった。
【0033】
【表2】

【0034】
つぎに、表2に記載の条件で、フェンス深さh、密度差Δρ、流量をそれぞれ変化させた場合の界面位置(躍層位置)の変動状況(成層界面上昇量)を可視化された下層水(流入水)と無色の上層水との境目を、フェンス位置を起点として25m地点、50m地点、75m地点、100m地点、150m地点、200m地点、250m地点について目視によりスケールで計測した。
(結果)
実験結果の解析から、成層界面位置は、図3に示すように、流動時には、下層静止時に対してフェンスによる分画層と下層水との成層界面の上昇が見られた。
【0035】
成層界面の上昇量ΔUは、流下方向でやや変化しているが、流下方向に配置した複数の計測点の変化量を平均させ、結果を表2に併せて示し、また、フェンス深さhごとに界面上昇量ΔUと流量との関係を整理し、図4(密度差Δρ:1000ppm)及び図5(密度差Δρ:2000ppm)にまとめた。
【0036】
図4及び図5から、同一密度差Δρ及び同一フェンス深さhを対比すると、流量が大きくなるほど界面上昇量ΔUの増大が確認された。また、図4と図5との対比から、他の条件が同一であれば、密度差Δρが大きくなるほど界面上昇量ΔUが小さくなる傾向が認められた。
【0037】
しかしながら、フェンス深さhに対しては、同一密度差Δρでは、フェンス深さh=10mとフェンス深さh=15mを対比するとフェンス深さh=15mの方が界面上昇量ΔUの増大傾向が確認され、全水深は一定のため、下層流入流速が大きくなるためと考えられたが、フェンス深さh=5mでは、フェンス深さh=10mの場合よりも変化が増大していた。
【0038】
以上の結果より、フェンス深さhの決定は、下層流入流速により単純に評価できないことが確認され、かつ、全水深が一定であれば、フェンス深さhに最適値が存在し、また、フェンス深さhを一定とすれば、成層状態が安定するために必要な全水深の必要条件があることが示唆された。
【0039】
そこで、本発明者等は、得られた結果を成層界面上昇量と内部フルード数又はリチャードソン数との関係で整理することを試み、結果を図6及び図7に示した。ここで、内部フルード数Fd及びリチャードソン数Riは、図2で定義される下記式(I)及び式(II)である。
【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
この結果、成層界面の上昇量ΔUは、図6及び図7に示すとおり、流入流速と成層強度との関係の指標である内部フルード数Fdに比例し、リチャードソン数Riに反比例した関係を有することが確認できた。
【0043】
これにより、このような内部フルード数またはリチャードソン数と成層界面上昇量の関係を用いれば、密度差(Δρ=ρ1−ρ2)、濁水の流入流量(又は流入流速)等の簡易に設定又は測定可能な値から、フェンス深さhや設置位置によるフェンスの成層保持効果の定量的な評価が可能と考えられた。
【0044】
つぎに、具体的な実施例について説明するが、本発明はこの実施例には限定されない。
(実施例1)
貯水池等においては、温度分布を計測した別の多くのデータより、初期の成層状態の厚み(躍層位置)は、大略一定であることが確認されている。そこで、この実施例1では、初期の躍層位置が一定であることを利用し、この躍層位置をフェンス深さとして設定した場合のフェンス位置を設定する例である。
【0045】
まず、フェンス設置対象としての貯水池の鉛直方向の密度分布を測定する。貯水池に滞留する水の鉛直方向の密度分布は水平方向に略一様であるので、これにより初期の成層状態の厚み(躍層位置)hを設定する。また、この密度分布の測定結果より上層水密度ρ2と下層水密度ρ1の密度差Δρ(ρ1−ρ2)を求め、密度差Δρ(kg/m3)と下層密度ρ1(kg/m3)との比Δρ/ρ1を把握する。
【0046】
ついでこれらの値から、成層強度の水理的指標として,(Δρ/ρ1)*g=g’(m/s2)を演算し、設定した躍層位置(フェンス深さ)h(m)を用いてg’h(m2/s2)を算出する。ここで、gは重力加速度(m/s2)である。
【0047】
つぎに、式(I)のフルード数Fdについて、許容値aを設定して式(I’)とする。
【0048】
【数7】

【0049】
この式(I’)を流入流速v(m/s)について整理すると式(III)となる。
【0050】
【数8】

【0051】
この式(III)より流入速度v(m/s)の最大値である流入速度の限界条件(最大流速)を求める。
【0052】
つぎに、貯水池等の単位幅流量をQ(m2/s),全水深をH(m),開口高さをd(m)(d=H−h)とすれば、流入流速vは、v=Q/d= Q/(H−h)(m/s)と一般化される。これにより、式(I)のフルード数Fdについて許容値aを設定し式(I’’)を得る。
【0053】
【数9】

【0054】
この式(I’’)を全水深Hで整理すると、式(IV)となる。
【0055】
【数10】

【0056】
この式(IV)において、フェンス深さhは測定された密度分布より設定された躍層位置であり、また、単位幅流量Qの値を設定すれば、全水深Hの最小値、すなわち、必要な全水深Hが算出される。
【0057】
これにより、フェンス深さ及び単位幅流量を所定の値に設定すれば必要な全水深Hが求められるので、この全水深Hを最低全水深条件として、この全水深Hを満たす位置からフェンスの設置を選定すればよいことになる。通常、貯水池の湖底2cは、傾斜しているので全水深Hは設置位置より異なる。この全水深H(又は開口高さd)を満足させる湖底2cの特定位置にフェンス3を設置させれば、全水深H(最低全水深条件)を満足させることができ、これにより、全水深Hを満たすフェンス3の設置位置を特定することができる。
(実施例2)
つぎに、初期の成層状態の厚み(躍層位置)が、用いるフェンス3のフェンス深さhと一致していない場合の実施例について説明する。
【0058】
実際の貯水池等では成層状態がフェンス深さhと必ずしも一致しておらず、設置したフェンス深さhが分画層形成の上で有効に働いていない状況も考えられる。また、昼間は日射等の影響により表層の水温が上昇して、さらに気象条件等によりその程度は大きく異なる場合も想定される。
【0059】
そこで、この実施例では、初期の成層状態の厚み(躍層位置)がフェンス深さhと一致していない一例として、図8の温度分布9に示すように、分画層4の鉛直方向(深度方向)の温度分布が表層付近に行くに従って温度上昇が見られる貯水設備に本発明に係る評価法を適応する実施例を説明する。
【0060】
このような、温度分布9を有する貯水設備において、初期密度分布を2成層場に置き換えて仮定した解析を行ってもよいが、フェンス3の最深部32と略同一深さとなる下流側2bの分画層4の底面4a付近に撹拌装置(表層内循環流発生装置)としての一台または複数台の曝気装置8を配設する。
【0061】
このような曝気装置8を配設すれば、曝気装置8から排出される気泡8aにより分画層4内の滞留水は鉛直方向に撹拌できる。これにより分画層4の鉛直方向(深度方向)の温度分布は、無対策時の温度分布9が表層に向けて急激に温度が上昇しているのに対して、対策時の温度分布9’は、分画層4内の鉛直方向に略均一な温度分布を呈することになる。
【0062】
このような表層内循環流発生装置を用いた密度分布改善技術を適用すれば、フェンス深さに対して成層厚みが極端に薄い場合において、成層厚みを厚くすることにより、成層状態の厚み(躍層位置)とフェンス深さとを一致させることができる。
【0063】
また、このような密度分布改善技術を適用すれば、分画層4の密度分布は、初期の成層状態の密度分布とは異なるので、実施例1に従って、再び全水深Hを算出すれば、総合的にこの密度分布改善技術が、対象貯水池に適切であったか否かを数値をもって定量的に評価を行うこともできる。これにより、上述の実施例1の適用が可能となり、大略のフェンス設置位置を求めることができる。
(濁水対策検討システムの概要)
以上に説明した知見に基づき、図9に示すような本発明に係る濁水対策検討システムが提案される。この図9において検討に基本的に必要な情報は、濁水流入量、貯水池等の地形(水深)および初期条件における成層状態を示す鉛直密度分布である。濁水流入量、貯水池等の地形(水深)からは流速が演算され、また、初期条件における成層状態を示す鉛直密度分布は水温を計測することにより把握可能である。
【0064】
これらの絞られた必要な情報を用いて、濁水対策用のフェンスによる分画層の安定性についての上述の式(I)又は式(II)で定義される水理的指標(フルード数又はリチャードソン数)を算出し、整理する。
【0065】
これらの水理的指標は,成層を増強する技術的手段を講じる場合などの特別の場合を除いては一定とみなし、この水理的指標として一定の許容値を想定すれば、濁水化現象に影響する諸要素が異なる状況下においても,濁水化抑制効果に関係する許容流速や最適なフェンス深さ等について、統一的かつ定量的な検討,評価が可能となる。
【0066】
例えば、水理的指標を表す関係式(式Iまたは式II)において成層条件及び流入量に関する要素を固定することにより,フェンス深さhと全水深Hとの関係に基づいて設置位置(開口高さd)による対策効果を数値により定量的に比較評価することができ、これにより、フェンスの最適な設置場所の導入計画策定が可能となる。
【0067】
また、上述の式(I)又は式(II)において、事前あるいは追加的な検討により想定される水理的指標の許容値aを設定することにより,許容される流入流速(許容流量)を求めることができ、これにより、想定される流入量における上述の対策効果が有効であるか否かの評価も可能となる。
【0068】
さらに、初期成層条件がフェンス深さhと一致しない場合等には、貯水池内の密度分布を改善する技術(例えば表層内循環流発生装置)の適用を考慮することも有効と考えられ、これにより対策効果の増強提案も行える。
【0069】
さらに、貯水池の地形等の条件が複雑でその影響が考えられる場合には、その影響を評価するために数値シミュレーション等の高度化解析技術が必要となる場合もある。このような場合、本発明に係る上述の導入計画策定、対策効果の評価、対策効果の増強提案などの評価方法を事前に採用して総合評価することにより、数値シミュレーション等の高精度化技術の解析ケースを絞り込むことができる。これにより、本発明は、これらの高精度化技術に付加的に利用でき、効率的な解析が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、本発明を図面に基づいて説明したが、実際の効果の程度を評価するためは、各指標の値と実測結果との関連付けが必要と考えられる。また、この検討は単純化した流動条件を前提としていることから、洪水時の流入密度流の実態を確認した上で行うことが望ましいと考えられる。
【0071】
さらに、複雑な地形影響の評価等の必要に応じて、注目した鉛直混合過程を反映した数値シミュレーション等により予測精度を上げることも考えられる。
【0072】
この検討フローによれば,ダム貯水池等の濁水対策用のフェンスによる濁水化抑制効果を最大化するための最適な設置位置,設置水深等を迅速・容易に判断することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】一般的な濁水対策用のフェンスを設置した状態の貯水設備の概要を説明する図である。
【図2】水理指標としてのフルード数またはリチャードソン数を説明する図である。
【図3】洪水時の成層界面の上昇状況を説明する図である。
【図4】流量と界面上昇量との関係を説明する図である。
【図5】流量と界面上昇量との関係を説明する図である。
【図6】水理指標としてのフルード数と成層変化量の関係を説明する図である。
【図7】水理指標としてのリチャードソン数と成層変化量の関係を説明する図である。
【図8】循環装置を設置した場合における分画層内の成層状態変化(温度分布の変化)の例を模式的に示す図である。
【図9】提案に基づく濁水対策検討システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0074】
1:ダム
2:貯水池(貯水池模型)
2a:上流側
2b:下流側
2c:湖底
3:フェンス
30:フェンス本体
31:フロート(浮体)
32:重り(最深部)
4:分画層
4a:底面(分画層4と下層流入層5との成層界面)
5:下層流入層
8:撹拌装置(曝気装置又は表層内循環流発生装置)
9:温度分布(無対策時の温度分布)
9’:温度分布(対策時の温度分布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁水対策用のフェンスを貯水池の両岸に差し渡すように浮上させて配設することにより該フェンスの下流側の上層にフェンスにより分画された分画層を形成させ、濁水をフェンスをくぐり抜けて分画層下方の下層を流下させることにより貯水池の汚濁の長期化を避ける濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法であって、
浮上式のフェンス設置時に下流側表層に確保される分画層の安定度に注目した水理的指標を用いることにより、濁水対策用のフェンスの設置位置又はフェンスの深さが適切であるか否かを定量的に評価する濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法。
【請求項2】
前記水理的指標は、次式(I)で示されるフルード数又は次式(II)で示されるリチャードソン数であることを特徴とする請求項1記載の濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法。
【数1】

【数2】

ここで、Fd:内部フルード数
Ri:リチャードソン数
v:流入流速(m/s)
g:重力加速度(9.8m/s2
ρ1:下層水密度(g/cm3
ρ2:上層水(下流側表層水)密度(g/cm3
h:フェンス深さ(m)である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の濁水対策用のフェンスの設置位置の評価方法を用いた濁水対策用のフェンスの設置方法であって、
前記水理的指標は、濁水流入量、貯水池の地形及び成層条件に関する関数であり、前記濁水流入量及び前記成層条件を設定することにより前記フェンスを設置すべき位置の必要な最低全水深条件を算出し、該算出された最低全水深条件を満たす位置に前記フェンスを設置することを特徴とする濁水対策用のフェンスの設置方法。
【請求項4】
前記成層条件は、成層厚さ及び前記成層を形成する成層水と該成層の下層を形成する下層水との水密度差であることを特徴とする請求項3記載の濁水対策用のフェンスの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−174967(P2008−174967A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9329(P2007−9329)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(592250698)株式会社四電技術コンサルタント (15)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】