説明

濃厚液状調味料またはその製造方法、濃厚すし酢またはその製造方法

【課題】 本発明は、食塩の溶解度を高めてより食塩濃度の高い濃厚な調味料を提供すること、特に、濃厚化することで作業性やコスト面で大きなメリットが期待できるすし酢について、従来より濃厚なすし酢を提供することを課題とする。
【解決手段】 水分含量当たり食塩を36質量/質量%以上およびフルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする濃厚液状調味料(特に濃厚すし酢)、;濃厚な液状調味料を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、水分含量当たり塩分を36質量/質量%以上含有できるようになった濃厚液状調味料(特に濃厚すし酢)の製造方法、;を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の調味料より食塩濃度の高い濃厚な液状調味料に関する。特に、通常のすし酢よりも酢酸濃度も食塩濃度も高い濃厚なすし酢に関する。
【背景技術】
【0002】
液状調味料には多くの種類がある。醤油、ドレッシング、味つけぽん酢、麺つゆ、鍋物調理用調味料、すし酢、などが挙げられる。これら液状調味料の中には、防腐性の向上や取扱いの簡便性、物流コストなどを考慮して、粉末化したり、濃縮などにより濃厚化した調味料も存在する。
例えば、調味料の一つである「すし酢」について、以下のような背景から粉末のすし酢が提供されている(特許文献1参照)。すなわち、業務用において大量の酢飯を作る場合、例えば10L〜20L入りのすし酢を用いて酢飯を作ろうとすると、すし酢は比重が1.2〜1.3程度と非常に重いこともあり取扱いが不便である。また、すし酢の比重が重いことは物流コストがかかることも問題である。これらの問題を解決する手段の一つとして、この粉末のすし酢が提供されている。
この他にも、例えば、保存性・作業性を高める目的で濃縮した清酒または料理酒(特許文献2参照)や、製造コストや流通コストを抑える目的で凍結濃縮されたつゆ(特許文献3参照)、などが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−230044号公報
【特許文献2】特開2005−143418号公報
【特許文献3】特開2004−113165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液状調味料の一つであるすし酢を例にとって本発明の課題を説明する。
通常のすし酢は、例えば炊飯米100当たり8〜11程度の割合で混合するところ、粉末のすし酢は炊飯米100当たり3〜4程度の量を用いればよいように設計されていることが多く、重たいすし酢を炊飯米に大量に混合しなくて済むという点や流通コストの面では優れている。しかし、粉末状であるが故に炊飯米に均一に混ざりにくいという欠点があった。
この欠点を解消しようとすると、すし酢を「濃厚化」することが考えられる。すなわち、液状の濃厚なすし酢であれば、取扱い面、流通コストの面ではメリットも享受できるのと同時に、粉末のすし酢に比べて炊飯米への混合のし易さは格段に高くなる。
しかしながら、「濃厚化」には限界があった。濃厚化の限界の理由としては、濃縮コスト等の影響もあるが、食塩の溶解度に限界があることが大きく影響している。すなわち、調味料(すし酢も含めて)には味付けのために食塩が用いられていることが一般的であるが、濃厚にしようとすると食塩の溶解度に限界があり、それ以上には濃厚化できないという問題があったのである。
【0005】
ここで、食塩は一般に100gの常温水に36g弱程度しか溶解しないことが知られている(「海から来た宝物 塩の大研究 さまざまな用途を発見しよう:2008年7月17日発行、発行所 PHP研究所」など参照)。実際に、本発明者が実験を行うと、水分当たり35.7質量/質量%(水100g当たり35.7g)しか溶解しなかった(後記試験例1参照)。
このように、食塩の溶解度には限界があるため、すし酢など液状調味料を単純に濃厚化しようとしても限界があった。
【0006】
この食塩の溶解限界の問題は調味料の中でもすし酢において顕著である。すし酢は、一般的には酢酸濃度が2.0〜3.5質量/容量%程度、食塩濃度は5〜8質量/容量%程度(多いものだと10質量/容量%以上)、砂糖などの糖類は30〜70質量/容量%程度であり、水分含量が低いため、水分当たりの食塩濃度が高い。これをさらに濃厚化しようとすると、さらに砂糖や塩を増やすためにますます水分含量が低くなるため食塩の溶解限界に達してしまい、濃厚化が困難となってしまう。処方にもよるが、例えば、1.2〜1.5倍程度にしか濃厚化できないというのが現状である。
【0007】
そこで、本発明では、食塩の溶解度を高めてより食塩濃度の高い濃厚な調味料を提供すること、中でも、濃厚化することで作業性やコスト面で大きなメリットが期待できるすし酢について、従来より濃厚なすし酢を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは液状調味料、特にすし酢において、食塩の溶解度を高める検討を重ねた。本発明者らは研究当初、一定量の水に対して食塩以外の固形分(糖類など)を溶解することで、食塩の溶解度を低めてしまうと考えていた。
ところが、驚くべきことに、食塩とともに「フルクトース」を溶解することにより、食塩の溶解度が却って向上することを見出した。つまり、通常であれば100gの常温水に36g未満しか溶解しない食塩が、フルクトース存在下で溶解することで、36g以上溶解するようになることを見出した。また、酢酸濃度が高い場合(例えば水分含量当たり酢酸が4質量/質量%以上)はより食塩の溶解度は低下し、100gの常温水に35.5g未満しか溶解しないこと、そして、酢酸濃度が高い場合でもフルクトースを共存させれば食塩溶解度が向上し、100gの常温水に35.5g以上溶解するようになること、をも併せて見出した。
これらの知見により、従来よりも濃厚な調味料、特には従来よりも濃厚なすし酢や鍋物調理用調味料、を製造するに至り、本発明を完成したのである。
【0009】
即ち、請求項1の発明は、水分含量当たり食塩を36質量/質量%以上およびフルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする濃厚液状調味料に関するものである。
請求項2の発明は、濃厚な液状調味料を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、水分含量当たり塩分を36質量/質量%以上含有できるようになった濃厚液状調味料の製造方法に関するものである。
請求項3の発明は、水分含量当たり酢酸が4.0質量/質量%以上の濃厚な食酢含有調味料であって、水分含量当たり塩分を35.5質量/質量%以上およびフルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする、食酢含有調味料に関するものである。
請求項4の発明は、水分含量当たり酢酸が4.0質量/質量%以上の濃厚な食酢含有調味料を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、水分含量当たり塩分を35.5質量/質量%以上含有できるようになった食酢含有調味料の製造方法に関するものである。
請求項5の発明は、酢酸濃度3.6質量/容量%以上の濃厚なすし酢であって、フルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする濃厚すし酢に関するものである。
請求項6の発明は、濃厚なすし酢を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、酢酸を3.6質量/容量%以上含有できるようになった濃厚すし酢の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の濃厚液状調味料は、所定の料理を調理する際または調味の際に、通常の液状調味料よりも少量用いればよいため、取扱い性に優れ、輸送コストを小さくできる。また、従来より食塩濃度を高くできるため保存性に優れ、長期保存が可能となり、さらに保存剤などの添加物の使用を抑制することも可能となる。
【0011】
また、本発明の濃厚すし酢は、炊飯米に混合する量が少ないにもかかわらず炊飯米に混合しやすいすし酢を提供するものである。
これにより、本発明の濃厚すし酢は、酢飯を製造する際に少量のすし酢を用いればよく、また炊飯米への混合も容易であるため取扱いが極めて容易である。また、本発明の濃厚すし酢は、酢酸濃度当たりの容量および重量が小さくなるため輸送コストが格段に小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔濃厚液状調味料〕
本発明における濃厚液状調味料とは、一般的な液状調味料よりも濃厚に製造されており、所定の風味の料理を調理したり、調味したりするに当たり、通常の液状調味料よりも少量用いればよいように調整された液状調味料を指す。
ここで、液状調味料とは、醤油、ドレッシング、味つけぽん酢、麺つゆ、鍋物調理用調味料、すし酢、などが挙げられるが、本発明においては食塩を含有しない調味料は含まない。特に、鍋つゆや麺つゆなど、従来でも濃厚品が広く普及している調味料においては、さらに濃厚化が可能となればより大きな需要が見込めるため、このような液状調味料は特に本発明を好適に用いることができる。
【0013】
なお、液状とは、固形状や粉末状とは異なるという意味合いであって、粘度が付いたもの(例えば500cp程度)も当然に含まれるものである。食塩が溶解する限りは、ペースト状、ゲル状などの商品形態であっても構わない。
【0014】
また、本発明の濃厚液状調味料の包装形態は特に限定はなく、それぞれの液状調味料で用いられる包装容器等を用いることができる。例えば、比較的少量の包装用ビンやプラスチックボトル、レトルトパウチ、20L程度のプラスチック包装材料、1tコンテナ、ローリー車、など様々な包装形態を採用することができる。
【0015】
本発明が好適に用いられる液状調味料の一つにすし酢がある。本発明における濃厚すし酢とは、一般的なすし酢よりも濃厚に製造されており、所定の風味の酢飯を製造するに当たり、通常のすし酢よりも少量用いればよいように調整されたすし酢を指す。ここで、すし酢とは、炊飯米(または炊飯時に浸漬米)に混合して酢飯を作ることを目的とした液状調味料を指す。
通常のすし酢は、一般的には酢酸濃度が2.0〜3.5質量/容量%程度、塩分は5〜8%程度、であるところ、本発明の濃厚すし酢は、例えば、酢酸濃度3.6質量/容量%以上、塩分10質量/容量%以上に調整されたものである。
そのため、通常のすし酢は酢飯を作る際に炊飯米1kg当たり80〜110g程度の割合で混合することが一般的であるが、本発明の濃厚すし酢は炊飯米1kg当たり例えば50〜70g程度の割合で混合することで、通常のすし酢を用いた場合と変わらない品質の酢飯を製造することができるものである。
ここで酢酸濃度とは、すし酢の容量当たりの酢酸の含有質量であり、例えば、食酢JASにも示されている通り水酸化ナトリウム溶液による滴定によって測定することができる。
【0016】
〔食塩含有量〕
液状調味料における食塩濃度は様々であるが、通常、醤油は10〜15質量/容量%程度、ドレッシングは3〜5質量/容量%程度、味つけぽん酢は7〜10質量/容量%程度、麺つゆは3〜15質量/容量%程度、鍋物調理用調味料は1.5〜16質量/容量%程度、すし酢は5〜8質量/容量%程度である。
なお、これらの濃度は、全容量に対する濃度であるので、水分含量当たりの食塩含有量(水分100g当たりの食塩含有量g)は、当然これよりも高くなるが、高くてもせいぜい25質量/質量%程度である。
【0017】
本発明の濃厚調味料は、この「水分含量当たりの食塩含有量」を36質量/質量%以上、好ましくは37質量/質量%以上にまで濃厚化した液状調味料である。また、水分含量当たりの酢酸が4質量/質量%以上の食酢含有調味料においては、水分含量当たり食塩を35.5質量/質量%以上含有するものである。
これより低い食塩含有量であれば、本発明によらずとも理論上食塩を溶解することが可能であるし、また、濃厚な液状調味料とは言えず、作業性や輸送コストの減少といった効果を奏することができないためである。
【0018】
本発明の液状調味料に含有する食塩は、液状調味料に塩味を付与するために含有する塩化ナトリウム、塩化カリウム等の食用塩類のことである。その含有量は、液状調味料に含まれる水分(質量)当たりの含有質量である。
なお、溶液中の食塩濃度は、例えば、硝酸銀溶液による電位差滴定によって測定することができる。なお、水分は乾燥による減量法によって測定することができる。
【0019】
〔フルクトース含有量〕
本発明においては、液状調味料にフルクトースを含有させることによって、食塩の溶解度を大幅に向上させることが可能となる。
【0020】
本発明の液状調味料にはフルクトースを水分含量当たり5質量/質量%以上含有することが必須である。これより少ないと、食塩の溶解度を高める効果が極めて小さいためである。好ましくは10質量/質量%以上、さらに好ましくは20質量/質量%以上とすることがよい。最も好ましくは50質量/質量%以上である。
一方、フルクトースの含有量の上限はフルクトースの溶解限界(水分含量当たり370質量/質量%程度)まで可能である。しかし、フルクトースは甘味のある食品であるため、それぞれの液状調味料に求められる甘味の量及び甘味の質によって、フルクトースの含有量を制限すべきである。従って、300質量/質量%以下が好ましく、さらには200質量/質量%以下が好ましい。
【0021】
ここで、フルクトースは、液糖に混合された状態で含有されても構わない。つまり、果糖ぶどう糖液糖などの形で含有しても構わない。果糖ぶどう糖液糖として含有しても食塩の溶解度を高める効果が発揮されるためである。
また、フルクトース単体で用いるよりも、果糖ぶどう糖液糖を用いた方が、安価であり、且つ、砂糖の味により近いので好ましい。ただし、果糖ぶどう糖液糖には水を含むため、高い濃度に濃厚化しようとすると限界がある。つまり、濃度の濃い調味料にするためにはフルクトースの方が好ましい場合もある。
【0022】
また、本発明の液状調味料には、フルクトースを唯一の糖類として含有させてもよいし、他の糖類と併用してもよい。必要に応じて、例えば、蔗糖、ぶどう糖、麦芽糖、オリゴ糖、糖アルコール、高甘味度甘味料(ステビア、甘草、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、等)、などと併用することができる。
例えば、すし酢の場合、通常は糖類としては砂糖を用いるため、糖類としてフルクトースだけを用いると、通常の砂糖を用いたときとは甘味の質が異なり、すし酢として違和感のあるものになってしまうことが懸念される。このような場合には、砂糖とフルクトースを併用したり、砂糖と果糖ぶどう糖液糖を併用したりするなどして、すし酢として適切な風味に調整することが必要である。
【0023】
なお、本発明においては、温度の限定をしていないが、詳細に限定するならば「常温」に調整した場合、さらに限定するならば「20℃」に調整した場合に、特許請求の範囲に示した要件を満たすものを指す。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0025】
〔試験例1〕(フルクトースによる食塩溶解度向上の検証)
表1に示す処方の原料を均一に混合した後、20℃において食塩を限界まで溶解して、食塩溶解量の限界を調べた。その結果を表1の<食塩溶解量>の欄に示した。
なお、食塩の溶解量の限界を調べる手順として、まず350gを溶解し、完全に溶解したら、0.5gを加えてさらに溶解する、といった作業を繰り返し、12時間混合を続けても溶解しなくなったら、その一つ前の食塩溶解量を限界と判断した。
ここでの溶解試験では、2000ccのガラスビーカーを用い、マグネチックスターラーを用いて500rpmの攪拌回転数によって溶解試験を行った。
また、ここでサンプル2と4に使用した食酢は、酢酸濃度が15質量/容量%、水分含量が87質量/容量%のものであり、サンプル2と4は水と食酢で合計1000mlよりも多くなっているが、これは水分含量をサンプル1と3に合わせるためである。
【0026】
【表1】

【0027】
表1を見て明らかなように、フルクトースを含有することによって(サンプル3,4)水分含量当たりの食塩溶解量が明らかに(5%ほど)増加し、溶解限界である36質量/質量%以上となった。
また、食酢を含むと(サンプル2)、それを含まない場合(サンプル1)に比べて、水分含量当たりの食塩溶解量は減少するが、この場合もフルクトースを含有することによって(サンプル4)、水分含量当たりの食塩溶解量が明らかに(5%ほど)増加した。
【0028】
〔試験例2〕(フルクトース含有量と食塩溶解度向上の関係)
表2に示す処方の原料を均一に混合した後、試験例1と同様にして食塩溶解量の限界を調べた。その結果を表2の<食塩溶解量>の欄に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、フルクトースを含有することによって、特に水分含量当たり5質量/質量%以上含有することによって(サンプル6〜12)、水分含量当たりの食塩溶解量が増加した。特に、フルクトースを水分含量当たり10質量/質量%以上、さらには20質量/質量%以上含有することによって(サンプル7〜12)、水分含量当たりの食塩溶解量の増加量が顕著であった。
【0031】
〔試験例3〕(フルクトース含有量と食塩溶解度向上の関係:水分含量当たり酢酸4.0質量/質量%の溶液にて試験)
試験例2と同様の試験を、表3に示す処方の水分含量当たり酢酸4.0質量/質量%の溶液にて行った。その結果を表3の<食塩溶解量>の欄に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
表3より、水分含量当たり酢酸4.0質量/質量%の溶液においても、フルクトースを含有することによって、特に水分含量当たり5質量/質量%以上含有することによって(サンプル14〜20)、水分含量当たりの食塩溶解量が増加した。特に、フルクトースを水分含量当たり10質量/質量%以上、さらには20質量/質量%以上含有することによって(サンプル15〜20)水分含量当たりの食塩溶解量の増加量が顕著であった。
【0034】
〔実施例1〕(濃厚すし酢による食塩溶解度向上効果の確認)
(1)フルクトースを用いない濃厚すし酢の調製
表4の濃厚すし酢1−1、2−1に示す処方にて、濃厚なすし酢の製造を試みた。
まず、水及び食酢に食塩の一部(130g)を溶解し、その後砂糖を全量溶解する。そして、完全に溶解した後、残り量の食塩を投入して混合した。実験は20℃にて行った。
なお、濃厚すし酢1−1、2−1は、それぞれ、通常のすし酢の1.5倍、1.75倍に濃厚化したすし酢を想定した処方である。
【0035】
【表4】

【0036】
上記した混合実験の結果、濃厚すし酢1−1の処方では全ての食塩が溶解したが、濃厚すし酢2−1の処方では、食塩が溶解仕切れずに残ってしまった。
なお、濃厚化の程度が1.5倍と1.75倍では水分含量当たりの食塩量が大きく異なるため、それが原因で溶解の程度に違いが現れたと考えられる。
【0037】
(2)フルクトースを用いた濃厚すし酢の調製
そこで、濃厚すし酢2−1の処方における砂糖の一部をフルクトース単品または果糖ぶどう糖液糖に置き換えた処方にて濃厚すし酢の製造を試みた(表5の処方)。
すなわち、‘濃厚すし酢2−2’は、濃厚すし酢2−1における砂糖の一部をフルクトースに置き換えたものであり、水分含量、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚すし酢2−1と変わらないものである。なお、フルクトースは砂糖よりも若干甘味度が高いため濃厚すし酢2−2は、濃厚すし酢2−1に比べて甘味度が高いすし酢となる(表5の甘味度参照。ただし、表5に記載の甘味度はフルクトースの甘味度を砂糖の1.24倍として算出した理論値。)。
‘濃厚すし酢2−3’は、濃厚すし酢2−1における砂糖の一部を果糖ぶどう糖液糖に置き換えたものであり、水分含量、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚すし酢2−1と変わらないものである。なお、本実施例で用いた果糖ぶどう糖液糖は果糖42質量/質量%、水分24.5質量/質量%含有するものである。また、固形分当たりで、砂糖よりも若干甘味度が低いため(砂糖の0.69倍)濃厚すし酢2−3は、濃厚すし酢2−1に比べて甘味度が低いすし酢となる。
‘濃厚すし酢2−4’は、濃厚すし酢2−1における砂糖の一部をフルクトースに置き換えたものであり、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚すし酢2−1と変わらないものである。なお、この処方は甘味度を濃厚すし酢2−1に合わせたものであるため、水分含量が濃厚すし酢2−1、2−1、2−3よりも多いものである。
【0038】
【表5】

【0039】
表5に示す通り、濃厚すし酢2−2、2−3、2−4は全て、食塩が問題なく溶解した。この結果より、砂糖をフルクトースに置き換えることで、従来ではできなかったより高濃度の濃厚すし酢(酢酸濃度3.6質量/容量%以上のすし酢)を作成することが可能であることが実証された。
なお、濃厚すし酢2−1と同等の甘味度に調整した濃厚すし酢2−4は、水分含量が多い分、濃厚すし酢2−2、2−3よりも食塩が溶解しやすかった。
【0040】
さらに、詳細な記載は省略するが、濃厚すし酢2−1と甘味度を合わせて、果糖ぶどう糖液糖を用いて調製した濃厚すし酢でも食塩が問題なく溶解した。そして、果糖ぶどう糖液糖を用いて調製した濃厚すし酢は、フルクトースを用いた濃厚すし酢2−4と比べて、甘味の質が砂糖に近く、すし酢としては好ましいことも確認できた。
【0041】
〔実施例2〕(濃厚な鍋物調理用調味料による食塩溶解度向上効果の確認)
実施例1のすし酢と同様の実験を、鍋物調理用調味料(以下、鍋つゆ)にて行った。
(1)フルクトースを用いない濃厚鍋つゆの調製
表6の濃厚鍋つゆ1−1、2−1に示す処方にて、濃厚な鍋つゆの製造を試みた。
まず、食塩を除く全原料と食塩の一部(105g)を混合溶解し、その後残り量の食塩を投入して混合した。実験は20℃にて行った。
なお、濃厚鍋つゆ1−1、2−1は、それぞれ、通常のすし酢の10倍、12倍に濃厚化した鍋つゆを想定した処方である。
【0042】
【表6】

【0043】
上記した混合実験の結果、濃厚鍋つゆ1−1の処方では全ての食塩が溶解したが、濃厚すし酢2−1の処方では、食塩が溶解仕切れずに残ってしまった。
【0044】
(2)フルクトースを用いた濃厚鍋つゆの調製
そこで、濃厚鍋つゆ2−1の処方における砂糖の一部をフルクトース単品または果糖ぶどう糖液糖に置き換えた処方にて濃厚な鍋つゆの製造を試みた(表7の濃厚鍋つゆ2−2、2−3、2−4に示す処方)。
すなわち、‘濃厚鍋つゆ2−2’は、濃厚鍋つゆ2−1における砂糖の一部をフルクトースに置き換えたものであり、水分含量、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚鍋つゆ2−1と変わらないものである。なお、フルクトースは砂糖よりも若干甘味度が高いため濃厚鍋つゆ2−2は、濃厚鍋つゆ2−1に比べて甘味度が高い鍋つゆとなる(表7の甘味度参照。ただし、表7に記載の甘味度はフルクトースの甘味度を砂糖の1.24倍として算出した理論値。)。
‘濃厚鍋つゆ2−3’は、濃厚鍋つゆ2−1の処方における砂糖の一部を果糖ぶどう糖液糖(実施例1で用いたものと同じもの)に置き換えたものであり、水分含量、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚鍋つゆ2−1と変わらないものである。なお、果糖ぶどう糖液糖は固形分当たりで、砂糖よりも若干甘味度が低いため濃厚鍋つゆ2−3は、濃厚鍋つゆ2−1に比べて甘味度が低いすし酢となる。
‘濃厚鍋つゆ2−4’は、濃厚鍋つゆ2−1における砂糖の一部をフルクトースに置き換えたものであり、酢酸濃度、食塩濃度は濃厚鍋つゆ2−1と変わらないものである。なお、この処方は甘味度を濃厚鍋つゆ2−1に合わせたものであるため、水分含量が濃厚鍋つゆ2−1、2−1、2−3よりも多いものである。
【0045】
【表7】

【0046】
表7に示す通り、濃厚鍋つゆ2−2、2−3、2−4は全て、食塩が問題なく溶解した。この結果より、フルクトースを用いることで、より高濃度の濃厚鍋つゆを作成することが可能であることが実証された。
なお、濃厚鍋つゆ2−1と同等の甘味度に調整した濃厚鍋つゆ2−4は、水分含量が多い分、濃厚鍋つゆ2−2、2−3よりも食塩が溶解しやすかった。
【0047】
さらに、詳細な記載は省略するが、濃厚鍋つゆ2−1と甘味度を合わせて、果糖ぶどう糖液糖を用いて調製した濃厚鍋つゆでも食塩が問題なく溶解した。そして、果糖ぶどう糖液糖を用いて調製した濃厚鍋つゆは、フルクトースを用いた濃厚鍋つゆ2−4と比べて、甘味の質が砂糖に近く、鍋つゆとしては好ましいことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、通常の液状調味料よりも少量用いればよく、取扱い性に優れ、さらに輸送コストに優れた、濃厚液状調味料を提供することを可能とする。
特に、本発明により、炊飯米に混合する量が少ないにもかかわらず炊飯米に混合しやすく、また炊飯米への混合も容易であるため取扱いが極めて容易であり、さらに酢酸濃度当たりの容量および重量が小さくなるため輸送コストが格段に優れた、濃厚すし酢を提供することを可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量当たり食塩を36質量/質量%以上およびフルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする濃厚液状調味料。
【請求項2】
濃厚な液状調味料を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、水分含量当たり塩分を36質量/質量%以上含有できるようになった濃厚液状調味料の製造方法。
【請求項3】
水分含量当たり酢酸が4.0質量/質量%以上の濃厚な食酢含有調味料であって、水分含量当たり塩分を35.5質量/質量%以上およびフルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする、食酢含有調味料。
【請求項4】
水分含量当たり酢酸が4.0質量/質量%以上の濃厚な食酢含有調味料を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、水分含量当たり塩分を35.5質量/質量%以上含有できるようになった食酢含有調味料の製造方法。
【請求項5】
酢酸濃度3.6質量/容量%以上の濃厚なすし酢であって、フルクトースを5質量/質量%以上含有してなることを特徴とする濃厚すし酢。
【請求項6】
濃厚なすし酢を製造するにあたり、水分含量当たりフルクトースを5質量/質量%以上含有させることを特徴とする、酢酸を3.6質量/容量%以上含有できるようになった濃厚すし酢の製造方法。