説明

濃縮管およびその濃縮管を用いたガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置

【課題】検出器の感度を向上させたり、計量管の体積を大きくしたりすることなく、水素ガス中に含まれる微量不純物の測定を可能にする濃縮管およびガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を実現する。
【解決手段】ガスクロマトグラフ測定装置において試料の濃縮に用いられる濃縮管であって、内部に水素透過膜を有することを特徴とする濃縮管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス中の微量不純物をガスクロマトグラフで高感度に分析するために用いられる濃縮管、およびその濃縮管を用いたガスクロマトグラフ測定方法とガスクロマトグラフ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は従来のプロセスガスクロマトグラフの一例を示す基本構成図であり、試料ガスSG、キャリアガスCG、計量管11、サンプルバルブ12、切換バルブRV11およびRV12、プレカットカラム13、流量調整カラム14、分離カラム15、検出器16から構成される。17a〜17eは流路であり、17aは試料ガス導入路、17bは試料ガス排出路、17cはキャリアガス導入路である。
【0003】
非測定時は、サンプルバルブ12、切換バルブRV11、RV12の流路は実線の状態に保持される。試料ガスSGは試料ガス導入路17aから供給され、計量管11を経て試料ガス排出路17bから廃棄される。キャリアガスCGは流路が二手に分かれ、一方は切換バルブRV11を通過して流路17eに流入し、流量調整カラム14を経て分離カラム15に送り込まれる。もう一方は流路17dに流入し、切換バルブRV12、プレカットカラム13、サンプルバルブ12、切換バルブRV11を経て廃棄される。
【0004】
測定時は、サンプルバルブ12、切換バルブRV11、RV12の流路は破線の状態に保持される。流路17dに流れていたキャリアガスCGは、切換バルブRV12、流量調整カラム14、切換バルブRV11を経て廃棄される。流路17eに流れていたキャリアガスCGは、サンプルバルブ12の方に流路が切り換わり、計量管11、プレカットカラム13を経て分離カラム15に流れる。計量管11により採取された一定量の試料ガスSGは、キャリアガスCGによって分離カラム15に送り込まれ、分離カラム15で分離した成分が検出器16により測定される。
【0005】
燃料電池では高純度の水素ガスを使用する。しかし、たとえば、水素の高純度ガスに含まれる微量不純物の測定を行う場合、検出器16の感度に比べて計量管11に採取された微量不純物の濃度が低い場合には、不純物濃度の測定をすることができない。
【0006】
このような構成の測定器の感度を向上させる方法としては、試料ガスSGを流す計量管11の体積を大きくし、試料ガスSGの絶対量を増やす方法が考えられる。
【0007】
しかし、計量管11の体積を増やして試料ガスSGの絶対量を増やすと、検出器16で得られる不純物成分のピーク面積は増大するが、ピーク幅が広くなってしまうため、結果的に検出の感度向上は期待されるほどではない。
【0008】
そのため、計量管11は設計上そのサイズに上限が設けられるのが一般的であり、計量管11の体積を増やすことなく不純物の検出感度を向上させる手法が必要とされる。
【0009】
【特許文献1】特開平5−099910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題をなくし、検出器の感度を向上させたり、計量管の体積を大きくしたりすることなく、水素ガス中に含まれる微量不純物の測定を可能にする濃縮管およびガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を実現することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するために、本発明の請求項1では、ガスクロマトグラフ測定装置において試料の濃縮に用いられる濃縮管であって、内部に水素透過膜を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2では、請求項1に記載の濃縮管において、前記水素透過膜はパラジウム膜であることを特徴とする。
【0013】
請求項3では、請求項1または2に記載の濃縮管において、前記水素透過膜が十分な水素透過性を発揮すると推定される温度とする温度調整手段を有することを特徴とする。
【0014】
請求項4では、水素中の不純物の濃度を測定するガスクロマトグラフ測定方法において、
内部に水素透過膜を有する濃縮管に一定量の試料ガスを流通させる第1のステップと、
前記濃縮管を密閉し一定時間保持する第2のステップと、
前記濃縮管内の試料を分離カラムに供給し、測定を行う第3のステップと、
を有することを特徴とするガスクロマトグラフ測定方法。
【0015】
請求項5では、請求項4に記載のガスクロマトグラフ測定方法において、前記水素透過膜としてパラジウム膜を使用することを特徴とする。
【0016】
請求項6では、請求項4または5に記載のガスクロマトグラフ測定方法において、前記濃縮管における水素透過膜を、試料の濃縮時に十分な水素透過性を発揮すると推定される温度に調整することを特徴とする。
【0017】
請求項7では、水素中の不純物の測定を行うガスクロマトグラフ測定装置において、
内部に水素透過膜を有する濃縮管と、
前記濃縮管に一定量の試料を流通させるとともに、濃縮された試料を前記濃縮管から採取する試料供給手段と、
前記濃縮管から取り出された試料を選択的に測定手段に導くための切換バルブと、
を有することを特徴とする。
【0018】
請求項8では、請求項7に記載のガスクロマトグラフ測定装置において、前記水素透過膜はパラジウム膜であることを特徴とする。
【0019】
請求項9では、請求項7または8に記載のガスクロマトグラフ測定装置において、前記濃縮管は、試料の濃縮時に、前記水素透過膜が十分な水素透過性を発揮すると推定される温度とする温度調整手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
このように、濃縮管の内部に水素透過膜を設けることにより、水素中の微量不純物のみを効率的に濃縮することができる濃縮管を実現することができる。そして、この濃縮管を用いることにより、検出器の感度を向上させたり、計量管の体積を大きくしたりすることなく、水素ガス中に含まれる微量不純物の測定を可能にするガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の濃縮管およびガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明によるプロセスガスクロマトグラフの一実施例を示す基本構成図である。SGは水素を主成分とする試料ガス、CGはキャリアガス、R1は試料ガスSGの圧力調整を行う減圧弁、1は試料ガスSGの濃縮を行う濃縮管、2は濃縮管1の内部に設けられたパラジウム膜、7は濃縮管1の温度調整を行う温度調整器、V1は濃縮管1への試料ガスSGの供給を制御する制御弁、V2は濃縮管1からの試料ガスSGの排出を制御する制御弁、V3は濃縮管1から濃縮された試料を採取するための制御弁、V4は試料ガスSGおよびキャリアガスCGの排出を制御する制御弁、RR1およびRR2は流量調整のためのレストリクタ(可変抵抗)、3はプレカットカラム、4はガスの流量を調整する流量調整カラム、5は試料の成分分離を行う分離カラム、6は検出器である。また、RV1〜RV3は試料ガスSGおよびキャリアガスCGの流路の切換を行う切換バルブであり、ON時は破線が導通し、OFF時は実線が導通する。さらに、8a〜8fは流路であり、8aは試料ガスSG導入路、8bは試料ガスSG排出路、8cは試料ガスSGおよびキャリアガスCG排出路、8dはキャリアガスCG導入路、8eと8fはキャリアガスCGの流路となっている。減圧弁R1および制御弁V1〜V3により試料供給手段を構成する。
【0023】
パラジウム膜は、高温(300℃〜400℃程度)にすると水素のみを透過する性質(水素透過性)を有することが知られている。そのため、濃縮管1をおよそ350℃に加熱して試料ガスSGを供給すると、内部のパラジウム膜2が水素透過性を発揮して試料ガスのうち水素のみがパラジウム膜を通過するため、流路8bからは水素のみが排出される。
【0024】
測定動作時は、濃縮管1に試料ガスSGを流通させて濃縮を行う第1のステップと、濃縮された試料ガスSGを濃縮管1に入れたまま保持する第2のステップと、濃縮管1の中の試料ガスSGを分離カラム5に送り、測定を行う第3のステップに分けられる。
【0025】
第1のステップでは、制御弁V1,V2を開き、制御弁V3,V4を閉じ、切換バルブRV1〜RV3はすべてOFFに設定する。減圧弁R1の二次圧を200kPaに設定し、濃縮管1を350℃に加熱する。たとえば、濃縮管1の体積を3mlとし、制御弁V2の出口流量が100ml/minの状態で3分間経過すると、制御弁V2の出口からは水素ガスのみが排出されるため、濃縮管1には100ml/min×3min=300ml分の試料ガスSGに含まれる不純物が濃縮されることになる。濃縮管1の体積を3mlとすると、不純物濃度は100倍となり、測定対象である試料ガスSGの不純物を効率よく溜めることができる。
【0026】
また、この時、切換バルブRV1、RV2、RV3はOFFに設定し、流路は実線の状態に保持される。キャリアガスCGは流路8dから導入後、流路が二手に分かれ、一方は切換バルブRV2を通過して流路8fに流入し、流量調整カラム4を経て分離カラム5に送り込まれる。もう一方は流路8eに流入し、切換バルブRV3、プレカットカラム3、切換バルブRV1、RV2を経て廃棄される。
【0027】
第2のステップでは、制御弁V1〜V4をすべて閉じ、RV1〜RV3をすべてOFFに設定する。濃縮管1から測定に必要な試料を一定量採取する直前まで、この状態で一定時間濃縮管1を保持し、濃縮管1の内部の試料ガスの濃度分布を均一化する。
制御弁V1を閉じて試料ガスの供給を停止させた直後は、濃縮管1の内部において、流路8bに排出されずに残った不純物がパラジウム膜2付近に集中し、管全体の濃度分布に差があると考えられる。濃縮管内の試料の濃度分布が均一でないと、測定結果のピークの位置や形に悪影響を与えるため、濃縮管1内部の濃度分布を均一化し、安定化させる。
【0028】
第3のステップでは、まず切換バルブRV2およびRV3をONに設定し、次に制御弁V1,V3,V4を順に開き、その後切換バルブRV1をONとすることで、濃縮管1に濃縮された試料を採取し、測定を行う。
【0029】
第3のステップにおいて、最初に切換バルブRV2およびRV3をONに設定(切換バルブRV1はOFFのまま)すると、キャリアガスCGの流路のうち一方は切換バルブRV2(破線)、RV1(実線)を経由してプレカットカラム3に流入し、その後切換バルブRV3(破線)を通り分離カラム5に流れる。もう一方は流路8eに流入し、切換バルブRV3(破線)を経由して流量調整カラム4を通り、その後切換バルブ2(破線)を通って廃棄される。
【0030】
次に制御弁V1を開き、試料ガスSGの供給を再開させる。濃縮管1と制御弁V3の間や制御弁V3とV4の間の流路には、試料ガスSGやキャリアガスCGとは無関係の不要成分が残留している可能性があるため、制御弁V3,V4を開き流路8cに排出する。不要成分を排出し終わると最後に切換バルブRV1をON(破線)にし、濃縮管1内の試料をプレカットカラム3、切換バルブRV3を経由して分離カラム5に導入する。分離カラム5で不純物成分の分離を行い、検出器6で分離した成分を測定する。
切換バルブRV1からプレカットカラム3に流れていたキャリアガスCGは、流路が制御弁V4の方へ切り換わり、流路8cから廃棄される。
【0031】
なお、本実施例では水素透過膜としてパラジウム膜を使用したが、これに限定されるものではなく、水素透過性を有する素材であれば適用可能である。また、他の素材を使用する場合であって、水素透過性に温度特性がある場合には、その素材が水素透過性を発揮する温度に調整されるよう、濃縮管やガスクロマトグラフ装置全体を構成する。
【0032】
また、本発明では水素透過膜を使用して水素ガス中に含まれる微量不純物の測定を可能とする濃縮管およびガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を実現したが、膜が透過性を発揮する成分と試料ガスの主成分となる成分を合わせれば、水素以外の試料ガスに含まれる微量不純物の測定を可能とする濃縮管およびガスクロマトグラフ測定方法およびガスクロマトグラフ測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明によるプロセスガスクロマトグラフの一実施例を示す基本構成図。
【図2】図2は従来のプロセスガスクロマトグラフの一例を示す基本構成図。
【符号の説明】
【0034】
1 濃縮管
2 パラジウム膜
3 プレカットカラム
4 流量調整カラム
5 分離カラム
6 検出器
7 温度調整器
8a〜8f 流路
SG 試料ガス
CG キャリアガス
R1 減圧弁
RV1〜RV3 切換バルブ
V1〜V3 制御弁
RR レストリクタ(可変抵抗)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフ測定装置において試料の濃縮に用いられる濃縮管であって、内部に水素透過膜を有することを特徴とする濃縮管。
【請求項2】
前記水素透過膜はパラジウム膜であることを特徴とする請求項1に記載の濃縮管。
【請求項3】
前記水素透過膜が十分な水素透過性を発揮すると推定される温度とする温度調整手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の濃縮管。
【請求項4】
水素中の不純物の濃度を測定するガスクロマトグラフ測定方法において、
内部に水素透過膜を有する濃縮管に一定量の試料ガスを流通させる第1のステップと、
前記濃縮管を密閉し一定時間保持する第2のステップと、
前記濃縮管内の試料を分離カラムに供給し、測定を行う第3のステップと、
を有することを特徴とするガスクロマトグラフ測定方法。
【請求項5】
前記水素透過膜としてパラジウム膜を使用することを特徴とする請求項4に記載のガスクロマトグラフ測定方法。
【請求項6】
前記濃縮管における水素透過膜を、試料の濃縮時に十分な水素透過性を発揮すると推定される温度に調整することを特徴とする請求項4または5に記載のガスクロマトグラフ測定方法。
【請求項7】
水素中の不純物の測定を行うガスクロマトグラフ測定装置において、
内部に水素透過膜を有する濃縮管と、
前記濃縮管に一定量の試料を流通させるとともに、濃縮された試料を前記濃縮管から採取する試料供給手段と、
前記濃縮管から取り出された試料を選択的に測定手段に導くための切換バルブと、
を有することを特徴とするガスクロマトグラフ測定装置。
【請求項8】
前記水素透過膜はパラジウム膜であることを特徴とする請求項7に記載のガスクロマトグラフ測定装置。
【請求項9】
前記濃縮管は、試料の濃縮時に、前記水素透過膜が十分な水素透過性を発揮すると推定される温度とする温度調整手段を有することを特徴とする請求項7または8に記載のガスクロマトグラフ測定装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−192704(P2007−192704A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12066(P2006−12066)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)