説明

濃縮装置及び方法

【課題】バイオ原料の濃縮コストを従来よりも低減する装置の提供。
【解決手段】微細藻類X1を培養液X2とともに収容する処理容器1と、該処理容器1の微細藻類X1に油分X3の体外分泌を促す刺激を与える刺激手段1,2,3と、微細藻類X1及び油分X3への付着性を有する付着性油X4を処理容器1に供給する油供給手段3と、付着性油X4の付着によって培養液X2中を凝集浮上した微細藻類X1及び油分X3を培養液X2から分離する分離手段4とを備える、濃縮装置A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ燃料の原料(バイオ原料)として微細藻類(植物プランクトン)が注目されている。微細藻類は、光合成によって体内に油分を生成する性質を持ち、トウモロコシ等の従来注目されていた原料に比べて油分の収率が高いことが期待されている。例えば、下記特許文献1には、このような微細藻類を用いたバイオ燃料の製造方法が開示されている。この製造方法は、培養装置を用いて培養液中で培養した微細藻類を遠心分離器や乾燥機を用いて脱水乾燥することにより濃縮した後に、所定の有機溶媒を用いて微細藻類から油分を抽出するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~eeeforum/3rd3EF/IS2.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術では、遠心分離や乾燥による微細藻類の濃縮に膨大なエネルギー(例えば電力)を必要とする。すなわち、従来技術には、濃縮コストが原因となってバイオ燃料の製造コストが実用的なコストから大幅に高くなるという問題がある。微細藻類を原料とするバイオ燃料の製造技術においては、濃縮コストの低減が克服すべき大きな解決課題となっている。
【0005】
本発明は、バイオ原料の濃縮コストを従来よりも低減することが可能な濃縮装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、濃縮装置に係る第1の解決手段として、微細藻類を培養液とともに収容する処理容器と、該処理容器の微細藻類に油分の体外分泌を促す刺激を与える刺激手段と、微細藻類及び油分への付着性を有する付着性油を処理容器に供給する油供給手段と、付着性油の付着によって培養液中を凝集浮上した微細藻類及び油分を培養液から分離する分離手段とを備える、という手段を採用する。
【0007】
濃縮装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、刺激手段は、油分の体外分泌を促す刺激として微細藻類を加圧する、という手段を採用する。
【0008】
濃縮装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、処理容器の内容物を攪拌する攪拌装置をさらに備える、という手段を採用する。
【0009】
濃縮装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、処理容器は、微細藻類の一種であるボトリオコッカス・ブラウニーを収容する、という手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、濃縮方法に係る第1の解決手段として、培養液を含む微細藻類に油分の体外分泌を促す刺激を与える刺激工程と、微細藻類及び油分への付着性を有する付着性油を供給する油供給工程と、付着性油の付着によって培養液中を凝集浮上した微細藻類及び油分を培養液から分離する分離工程とを有する、という手段を採用する。
【0011】
濃縮方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、刺激工程において、油分の体外分泌を促す刺激として微細藻類を加圧する、という手段を採用する。
【0012】
濃縮方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、油供給工程と分離工程との間に攪拌工程を有する、という手段を採用する。
【0013】
濃縮方法に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーである、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油分を体外分泌させて微細藻類の表面を親油性とするので、付着性油が微細藻類の表面に付着することが可能となり、もって培養液中に存在する微細藻類を容易に凝集浮上、つまり微細藻類を培養液に対して相分離させることが可能である。すなわち、本発明によれば、微細藻類への刺激と付着性油の添加という低コストな処理によって微細藻類を培養液から相分離することが容易なので、遠心分離や乾燥による従来の濃縮技術に比べて微細藻類の濃縮コストを低減することが可能であり、よってバイオ原料の濃縮コストを従来よりも低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る濃縮装置Aのシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る濃縮方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る濃縮装置Aは、図1に示すように、処理容器1、付着性油タンク2、油供給ポンプ3及び脱水機4によって構成されている。この濃縮装置Aは、微細藻類培養装置から供給される微細藻類X1をバッチ処理することにより濃縮するものである。上記微細藻類X1は、大量の培養液X2(水分)を含む固水混合物であり、濃縮装置Aは、微細藻類X1を培養液X2から分離することにより濃縮する。
【0017】
上記微細藻類X1は、光合成によって体内で油分X3を合成する植物性プランクトンである。また、この微細藻類X1としては、体内で合成した油分X3を体外に積極的に分泌する性質をも兼ね備えたものがより好ましい。このような性質を備えた微細藻類X1としては、淡水域から汽水域(淡水と海水がまじり合った水域)に生息し、外敵から身を守る等のために重油に似た炭化水素(油分)を合成して体外に分泌するボトリオコッカス・ブラウニー(学名:Botryococcus braunii)が例示できる。ただし、体内で油分X3を合成する植物性プランクトンとしては、ボトリオコッカス・ブラウニーの他に種々のものが知られているので、微細藻類X1は、ボトリオコッカス・ブラウニーに限定されるものではない。
【0018】
処理容器1は、微細藻類X1及び培養液X2を微細藻類培養装置から受け入れて収容する槽である。また、この処理容器1は、付着性油タンク2から油供給ポンプ3を介して供給される加圧状態の付着性油X4を別途受け入れて微細藻類X1を加圧するための加圧容器としての機能を持つ。
【0019】
微細藻類X1の体内で生成された油分X3は、上記付着性油X4による加圧によって微細藻類X1の体内から体外に積極的に分泌され、微細藻類X1の表面に付着する。すなわち、微細藻類X1の表面は、加圧に起因する油分X3の体外分泌により親油性を帯びることになる。
【0020】
すなわち、上記付着性油X4による微細藻類X1の加圧は、微細藻類X1に油分X3の体外分泌を促す刺激に相当するものであり、処理容器1と付着性油タンク2と油供給ポンプ3とは本実施形態における刺激手段を構成している。なお、微細藻類X1に油分X3の体外分泌を促す刺激は、必ずしも加圧に限定されず、微細藻類X1に油分X3の体外分泌を促い得るものであれば他の物理的あるいは化学的な刺激であっても良い。
【0021】
また、この処理容器1は、図示するように攪拌装置1aを備えている。この攪拌装置1aは、例えば所定形状の攪拌翼を一定回転数で回転させることによりより処理容器1の内容物(微細藻類X1、培養液X2、油分X3及び付着性油X4)を攪拌するものであり、当該内容物を良好に混合させるために備えられている。
【0022】
また、処理容器1は、図示するように掻取装置1bをも備えている。この掻取装置1bは、処理容器1の内容物における浮上物を掻き取って回収し、この浮上物を脱水機4に供給する。上記浮上物は、付着性油X4が付着することによって培養液X2中から浮上した培養液X2、油分X3及び付着性油X4の混合物である。また、処理容器1の底部には内容物を外部に排出するための排出弁1cが設けられている。処理容器1における不要な内容物は、この排出弁1cを介して処理容器1の外部に排出される。
【0023】
付着性油タンク2は、所定の付着性油X4を貯留する貯留槽であり、付着性油X4を油供給ポンプ3に供給する。付着性油X4は、油分X3によって親油性を帯びた微細藻類X1の表面に付着する性質を有する油である。このような付着性油X4は、より良好な付着性能を確保する観点から、油分X3と同程度の濡れ性を有するもの、さらには油分X3と同程度の炭素数(炭素数が12〜40程度)を有する炭化水素油が好ましい。
【0024】
油供給ポンプ3は、付着性油タンク2から供給された付着性油X4を所望の吐出圧力となるように圧縮して処理容器1に供給する圧縮ポンプである。脱水機4は、掻取装置1bから供給された浮上物から水分を除去するためのものであり、例えばフィルタープレス型脱水機やベルトプレス型脱水機である。掻取装置1bが処理容器1の内容物の上面近傍から掻き取った浮上物には、若干の培養液X2が残留水分として含まれている。脱水機4は、微細藻類X1及び油分X3の濃縮率をより向上させるために、上記残留水分を除去する。
【0025】
次に、このように構成された濃縮装置Aの動作、つまり濃縮装置Aによる濃縮処理の各工程について、図2の工程図に沿って説明する。
【0026】
本濃縮装置Aでは、微細藻類培養装置で培養された微細藻類X1が培養液X2とともに処理容器1に収容される(ステップS1)。そして、付着性油X4が付着性油タンク2から油供給ポンプ3を介して処理容器1に加圧供給されることにより、微細藻類X1及び培養液X2に付着性油X4が添加されると共に、処理容器1内の微細藻類X1が所定圧に加圧される(ステップS2)。この段階において、処理容器1内の内容物は、微細藻類X1と培養液X2と付着性油X4とが所定圧の加圧環境に曝された密閉状態となる。
【0027】
このような密閉状態において、処理容器1に備えられた攪拌装置1aが作動を開始することにより、処理容器1の内容物である微細藻類X1、培養液X2及び付着性油X4が一定時間T1(処理時間)に亘って加圧攪拌される(ステップS3)。すなわち、微細藻類X1が一定時間T1に亘って加圧環境下に曝されるので、微細藻類X1の体内の油分X3が体外に積極的に分泌されて微細藻類X1の表面に付着し、この結果として微細藻類X1の表面を親油性とする。なお、油分X3の体外分泌は、あくまでも微細藻類X1の表面を親油性とすることが目的なので、上記加圧は、微細藻類X1の表面を親油性とするために必要最小限のもので良い。
【0028】
これと当時に、一定時間T1に亘る攪拌によって微細藻類X1と付着性油X4とが積極的に接触するので、油分X3が付着して親油性となった微細藻類X1の表面に付着性油X4がさらに付着する。そして、このような一定時間T1に亘る攪拌後に処理容器1の内容物を一定時間に亘って静置すると、微細藻類X1は付着性油X4の付着によって浮力が与えられるので培養液X2中を浮上すると共に、付着性油X4が結着材として作用して微細藻類X1がより大きな塊として凝集する。この結果、処理容器1内における内容物の上面近傍には、微細藻類X1、油分X3及び付着性油X4を主成分とする浮上物が時間経過とともに徐々に集合する。すなわち、処理容器1の内容物は、最終的には上層の浮上物と下層の培養液X2とに相分離する(ステップS4)。
【0029】
そして、処理容器1の内容物が十分に相分離したタイミングで掻取装置1bが作動することにより、上記浮上物は、処理容器1の内容物の上層から掻き取られる(ステップS5)。この結果、上記浮上物は、処理容器1の外部に取り出されて脱水機4に供給される。そして、このような浮上物の処理容器1外への取り出しによって処理容器1内に残留する培養液X2は、排出弁1cが閉状態から開状態に変化することにより処理容器1の外部に排水される(ステップS6)。このように処理容器1の外部に取り出された培養液X2は、例えばろ過処理を経て清浄化された後に微細藻類培養装置に戻される。
【0030】
ここで、処理容器1から脱水機4に供給された浮上物は、微細藻類培養装置から処理容器1に濃縮対象物として供給された微細藻類X1と培養液X2との混合物に比べると、培養液X2が分離除去されて大幅に濃縮されたものである。しかしながら、微細藻類X1と油分X3とが凝集する際に若干の培養液X2を取り込むこと、また掻取装置1bによる掻き取の際に浮上物に加えて若干の培養液X2を掻き取ってしまう等の理由から、掻取装置1bによって処理容器1から取り出された浮上物には、若干の培養液X2が残留水分として含まれている。
【0031】
このような浮上物が脱水機4に供給されることによって、浮上物が脱水処理される(ステップS7)。この結果、浮上物に含まれる上記残留水分は大幅に除去される。そして、脱水機4によって最終処理された処理物は、濃縮物として脱水機4から外部に取り出される(ステップS8)。
【0032】
このような本濃縮装置Aによれば、油分X3を体外分泌させて微細藻類X1の表面を親油性とするので、付着性油X4が容易に微細藻類X1の表面に付着し、培養液X2中に存在する微細藻類X1を容易に凝集浮上、つまり培養液X2に対して相分離させることが可能である。すなわち、本発明によれば、微細藻類X1への刺激と付着性油X4の添加という低コストな処理によって微細藻類X1を培養液X2から相分離することが容易なので、遠心分離や乾燥による従来の濃縮技術に比べて微細藻類X1の濃縮コストを低減することが可能であり、よってバイオ原料の濃縮コストを従来よりも低減させることが可能である。
【0033】
また、本濃縮装置Aによれば、微細藻類X1だけが培養液X2から分離されるではなく、当該微細藻類X1が体外分泌した油分X3も微細藻類X1とともに培養液X2から分離されるので、後工程で油分X3を成果物として回収する場合に、微細藻類X1の表面を親油姓とするために体外分泌された油分X3を無駄にしないのでより多くの油分X3を回収することができる。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。上記実施形態にに係る濃縮装置Aでは、攪拌翼を備えた攪拌装置1aによって処理容器1の内容物を攪拌するようにした。この攪拌は、微細藻類X1及び油分X3と付着性油X4とをより均一に混合させて、より多くの微細藻類X1及び油分X3に付着性油X4を付着させて浮上させるためのものである。しかしながら、このような攪拌装置1aに代えて、例えば処理容器1の各所に噴射ノズルを複数設け、各噴射ノズルから微細粒子状の付着性油X4を処理容器1中に分散状に噴射することによって微細藻類X1及び油分X3に付着性油X4を確実に付着させることが考えられる。
【符号の説明】
【0035】
A…濃縮装置、1…処理容器、1a…攪拌装置、1b…掻取装置、2…付着性油タンク、3…油供給ポンプ、4…脱水機、X1…微細藻類、X2…培養液、X3…油分、X4…付着性油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を培養液とともに収容する処理容器と、
該処理容器の微細藻類に油分の体外分泌を促す刺激を与える刺激手段と、
微細藻類及び油分への付着性を有する付着性油を処理容器に供給する油供給手段と、
付着性油の付着によって培養液中を凝集浮上した微細藻類及び油分を培養液から分離する分離手段と
を備える濃縮装置。
【請求項2】
刺激手段は、油分の体外分泌を促す刺激として微細藻類を加圧する請求項1記載の濃縮装置。
【請求項3】
処理容器の内容物を攪拌する攪拌装置をさらに備える請求項1または2記載の濃縮装置。
【請求項4】
処理容器は、微細藻類の一種であるボトリオコッカス・ブラウニーを収容する請求項1〜3のいずれか一項に記載の濃縮装置。
【請求項5】
培養液を含む微細藻類に油分の体外分泌を促す刺激を与える刺激工程と、
微細藻類及び油分への付着性を有する付着性油を供給する油供給工程と、
付着性油の付着によって培養液中を凝集浮上した微細藻類及び油分を培養液から分離する分離工程と
を有する濃縮方法。
【請求項6】
刺激工程において、油分の体外分泌を促す刺激として微細藻類を加圧する請求項5記載の濃縮方法。
【請求項7】
油供給工程と分離工程との間に攪拌工程を有する請求項5または6記載の濃縮方法。
【請求項8】
微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーである請求項5〜7のいずれか一項に記載の濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−85539(P2012−85539A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232600(P2010−232600)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】