説明

濾過フィルタおよびその製造方法、並びに濾過装置

【課題】海水濾過フィルタとして利用可能な程度に微細孔の径が小さく、しかも耐薬品性および耐熱性が高い濾過フィルタ、該濾過フィルタの製造方法および該濾過フィルタを用いた濾過装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る濾過フィルタは、複数の微細孔を有する多孔質体と、多孔質体の微細孔が開口している面、および微細孔の内壁の少なくとも一部分を覆うように多孔質体の微細領域表面形状に沿って成膜された酸化膜とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濾過フィルタ、該濾過フィルタの製造方法および濾過装置に関し、特に、海水濾過フィルタとして利用可能な濾過フィルタ、該濾過フィルタの製造方法および該濾過フィルタを用いた濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、海水を淡水化するための海水濾過フィルタとして、有機物からなる円柱状の濾過膜(逆浸透膜、RO膜ともいう)が知られている。濾過膜は、例えば1nm以下の径を有する不規則な微細孔を多数有し、海水中に含まれるナトリウムイオン等と水分子を分離することにより、海水を淡水化する。濾過膜の種類は多岐に渡っており、用途に応じて使い分けられている。海水濾過フィルタとして使用可能な濾過膜としては、例えば、非特許文献1に記載のものがある。
【0003】
図8に、円柱状の濾過膜を用いた濾過装置の模式図を示す。円柱状濾過膜には、軸方向に貫通する1つの中空空間を有するチューブ型の円柱状濾過膜1A(図1(A)参照)と、軸方向に貫通する複数の中空空間を有するモノリス型の円柱状濾過膜1B(図1(B)参照)とがある。図8(A)に示すように、チューブ型の円柱状濾過膜1Aを用いた濾過装置2Aでは、円柱状濾過膜1Aの外周壁のまわりに原液(海水)を送り、中空空間の内周壁から染み出した濾液(淡水)を回収する。一方、図8(B)に示すように、モノリス型の円柱状濾過膜1Bを用いた濾過装置2Bでは、円柱状濾過膜1Bの各中空空間内に原液を送り、円柱状濾過膜1Bの外周壁から染み出した濾液を回収する。
【0004】
しかしながら、有機物からなる濾過膜を用いた濾過フィルタは、近年改善されてきてはいるものの依然として十分な耐薬品性および耐熱性を有しているとはいえず、また、目詰まり等の理由で比較的頻繁に交換しなければ十分な量の濾液を回収できないという問題があった。
【0005】
ところで、濾過フィルタとしては、上記有機物からなる濾過膜を用いたものの他、セラミック、酸化アルミニウム等の無機物からなる濾過膜や、ポーラスアルミナ等の多孔質構造を有するメソポーラス基板を用いたものも知られている(例えば、特許文献1参照)。これらは、上記有機物からなる濾過膜よりも耐薬品性、耐塩性および耐熱性が高いという特徴がある。なお、無機物からなる濾過膜は、微細孔の径に応じて限界濾過膜膜(UF膜)、ナノフィルタ膜(NF膜)およびマイクロフィルタ膜(MF膜)に分類される。
【0006】
しかしながら、無機物からなる濾過膜およびメソポーラス基板は、微細孔の径を1nm以下にまで小さくするのが非常に困難なので、これらを海水濾過フィルタとして利用することは今のところできていない。
【0007】
なお、無機物からなる濾過膜については、特許文献2において、アルミナ製多孔管の表面にチタニア超微粒子の堆積層を形成し、さらにこの堆積層を1200℃の高温で2時間焼成することによって厚さ約70μmの焼結層(チタニア層)を形成してなるものが開示されている。しかしながら、この濾過膜は、チタニア層における微細孔の径を制御するのが非常に困難であるため、径が小さすぎて透水圧(原液を送り込む際に当該原液に加えるべき圧力)が大きくなったり、径が大きすぎて十分な濾過性能が発揮できなかったりすることがあり、やはり海水濾過フィルタとして利用するのは困難であった。また、この濾過膜は、1000℃を超える高温で長時間にわたって焼成することによりチタニア層を形成する必要があるので、製造コストが高くつくという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“東洋紡の水関連事業:ホロセップHBシリーズ、HJ”、[online]、平成23年9月2日検索、インターネット<URL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/h2/mb/HB-series.htm>
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−272886号公報
【特許文献2】特開平5−85855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、海水濾過フィルタとして利用可能な程度に微細孔の径が小さく、微細孔の径の制御が容易であり、耐薬品性および耐熱性が高く、しかも安価な濾過フィルタおよび該濾過フィルタの製造方法、並びに該濾過フィルタを用いた濾過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る濾過フィルタは、複数の微細孔を有する多孔質体と、多孔質体の微細孔が開口している面、および微細孔の内壁の少なくとも一部分を覆うように多孔質体の微細領域表面形状に沿って成膜された酸化膜と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記濾過フィルタは、酸化膜が成膜された後の微細孔の最大径が、海水中に含まれるナトリウムの水和物の径よりも小さいことが好ましい。かかる濾過フィルタは、海水濾過フィルタとして使用することができる。
【0013】
上記酸化膜としては、例えば、チタン、ガリウム、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、バナジウムまたはシリコンの単一組成酸化膜またはこれらの混晶酸化膜が挙げられる。
【0014】
上記酸化膜は、例えばミストCVD法で成膜することができる。ミストCVD法によれば、多孔質体の微細領域表面形状に沿った均一な厚さの酸化膜を安価に製造することができる。
【0015】
上記多孔質体としては、例えば、軸方向に貫通する少なくとも1つの中空空間を有する円柱状濾過膜を用いることができる。この場合は、当該円柱状濾過膜の外周壁および内周壁の少なくとも一方に酸化膜を成膜すればよい。
【0016】
上記多孔質体としては、厚さ方向に貫通する微細孔が面内に配列されたメソポーラス基板を用いることもできる。この場合は、メソポーラス基板の少なくとも一方の面に酸化膜を成膜すればよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る濾過フィルタの製造方法は、複数の微細孔を有する多孔質体が配置された成膜室を昇温する昇温工程と、溶液を振動させてミストを発生させるミスト発生工程と、ミストを昇温後の成膜室内に導入し、多孔質体の微細孔が開口している面においてCVD反応を起こさせ、上記の面および微細孔の内壁の少なくとも一部分が覆われるように多孔質体の微細領域表面形状に沿って酸化膜を成膜する成膜工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
上記酸化膜としては、例えば、チタン、ガリウム、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、バナジウムまたはシリコンの単一組成酸化膜またはこれらの混晶酸化膜が挙げられる。
【0019】
上記多孔質体としては、例えば、軸方向に貫通する少なくとも1つの中空空間を有する円柱状膜を用いることができる。この場合は、成膜工程において、中空空間内にミストが導かれることが好ましい。
【0020】
なお、成膜工程においてミストを中空空間内に導くための構成としては、例えば、中空空間に挿入されたノズルからミストを放出させる構成が考えられる。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る濾過装置は、上記いずれかの濾過フィルタと、該濾過フィルタの少なくとも酸化膜が成膜された面に光を照射する光照射手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、海水の淡水化が可能な程度にまで無機物からなる濾過膜およびメソポーラス基板の微細孔の径を小さくすることができるので、有機物からなる濾過膜では得られなかった様々なメリットを享受することができる。
【0023】
すなわち、本発明によれば、耐薬品性、耐塩性および耐熱性が高い濾過フィルタを提供することができる。また、無機物からなる濾過膜およびメソポーラス基板を用いた濾過フィルタは、有機物からなる濾過膜を用いたものよりも機械的強度が高いため、膜厚を小さくすることができる。したがって、本発明によれば、有機物からなる濾過膜を用いた場合よりも透水圧を下げることができるので、高出力な加圧ポンプを不要とすることができるとともに、加圧ポンプのランニングコストを低減することができ、ひいては濾過装置のランニングコストを低減することができる。
【0024】
また、本発明によれば、下地である多孔質体の微細領域表面形状に沿って一様な厚さの酸化膜を成膜することができるので、酸化膜の膜厚を制御することにより、微細孔の径を高精度に制御することができる。
【0025】
また、本発明によれば、比較的簡素な装置で、しかも安価に上記濾過フィルタを製造することができる製造方法を提供することができる。
【0026】
また、本発明によれば、目詰まりが起こりにくく、メンテナンスの費用や手間を低減することができる濾過装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明で使用する多孔質体の斜視図であって、(A)はチューブ型の円柱状濾過膜、(B)はモノリス型の円柱状濾過膜、(C)はメソポーラス基板である。
【図2】本発明に係る製造方法において、チューブ型の円柱状濾過膜に酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置の模式図である。
【図3】本発明に係る製造方法において、モノリス型の円柱状濾過膜に酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置の模式図である。
【図4】本発明に係る製造方法において、メソポーラス基板に酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置の模式図である。
【図5】チューブ型の円柱状濾過膜からなる濾過フィルタを用いた、本発明に係る濾過装置の模式図である。
【図6】メソポーラス基板のSEM画像であって、(A)は酸化膜を成膜する前のSEM画像、(B)は酸化膜を成膜した後のSEM画像である。
【図7】酸化膜成膜前後における微細孔の径の変化を説明するための分布図である。
【図8】円柱状濾過膜を用いた濾過装置の模式図であって、(A)はチューブ型の円柱状濾過膜を用いた濾過装置、(B)はモノリス型の円柱状濾過膜を用いた濾過装置である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る濾過フィルタおよびその製造方法の好ましい実施形態について説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成要素は同一であるものとする。また、以下では、海水を淡水化するための海水濾過フィルタについて説明するが、これは単なる一例であり、本発明は海水濾過フィルタ以外の各種濾過フィルタにも適用可能である。
【0029】
[多孔質体の構成]
図1に、本発明に係る濾過フィルタを製造する際に使用する多孔質体を示す。後で詳細に説明するが、本発明に係る濾過フィルタは、図1(A)〜(C)に示されているいずれかの多孔質体に酸化膜を成膜することにより製造される。
【0030】
図1(A)は、軸方向に貫通する1つの中空空間を有するチューブ型の円柱状濾過膜1Aの斜視図である。円柱状濾過膜1Aは主に酸化アルミニウムからなり、その外周壁および中空空間の内周壁には、多数の微細孔が不規則に存在している。外周壁の微細孔は、網目のように張り巡らされた複雑な内部通路を介して内周壁の微細孔へと続いている。
【0031】
円柱状濾過膜1Aは、外径φ1aが10mm、中空空間の径φ2aが7mm、外周壁において開口している微細孔(不図示)の径が100nmである。また、円柱状濾過1Aの内部通路は、外周壁から遠ざかるにつれて径が大きくなる傾向にある。したがって、酸化膜が成膜される前の円柱状濾過膜1Aによれば、外形寸法が100nm未満の粒子だけを透過させ、回収することができる(図8(A)参照)。
【0032】
図1(B)は、軸方向に貫通する複数の中空空間を有するモノリス型の円柱状濾過膜1Bの斜視図である。円柱状濾過膜1Aと同様、円柱状濾過膜1Bは主に酸化アルミニウムからなり、その外周壁および各中空空間の内周壁には、多数の微細孔が不規則に存在している。内周壁の微細孔は、網目のように張り巡らされた複雑な内部通路を介して外周壁の微細孔へと続いている。
【0033】
円柱状濾過膜1Bは、外径φ1bが30mm、各中空空間の径φ2bが3mm、内周壁において開口している微細孔(不図示)の径が4nmである。また、円柱状濾過膜1Bの内部通路は、各中空空間の内周壁から遠ざかるにつれて径が大きくなる傾向にある。したがって、酸化膜が成膜される前の円柱状濾過膜1Bによれば、外形寸法が4nm未満の粒子だけを透過させ、回収することができる(図8(B)参照)。
【0034】
図1(C)は、厚さ方向に貫通する複数の微細孔が面内に配列されたメソポーラス基板1Cの斜視図である。メソポーラス基板1Cは、例えば、微細孔を形成すべき位置に傷をつけたアルミニウム基板を陽極酸化することにより作成することができる。
【0035】
メソポーラス基板1Cは、微細孔の径φ3cが30nmである。また、メソポーラス基板1Cの微細孔は、径φ3cを保ったまま一方の面から他方の面に向かって真っ直ぐに延びている。したがって、酸化膜が成膜される前のメソポーラス基板1Cによれば、外形寸法が30nm未満の粒子だけを透過させ、回収することができる。
【0036】
[濾過フィルタの製造方法、酸化膜の成膜装置]
続いて図2を参照しつつ、多孔質体として図1(A)に示すチューブ型の円柱状濾過膜1Aを用いる場合の、本発明に係る濾過フィルタの製造方法および酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置10Aについて説明する。
【0037】
図2に示す成膜装置10AはミストCVD装置であり、下記の構成を有している。すなわち、成膜装置10Aは、空気源11と、空気源11から送り出される空気の流量を調節するための流量調節弁12と、溶液13aが入れられたミスト発生源13と、水14aが入れられた容器14と、容器14の底面に取り付けられた超音波振動子15と、石英管からなる成膜室16と、成膜室16の回りに巻き付けられた電熱線からなるヒータ17とを備えている。
【0038】
この成膜装置10Aを用いた酸化膜の成膜においては、まず、円柱状濾過膜1Aが成膜室16内に配置される。本発明では、円柱状濾過膜1Aの配置態様は特に限定されないが、均一な厚さの酸化膜を成膜するという観点から、円柱状濾過膜1Aの位置または向きは成膜中に変更可能であることが好ましい。円柱状濾過膜1Aの配置が完了すると、ヒータ17によって成膜室16が所定温度(例えば、300〜500℃)にまで昇温される。なお、ミストCVD法においては、成膜室16を減圧したり、成膜室16を不活性ガスで満たしたりする必要はない。したがって、ミストCVD法によれば、比較的簡素な装置で、しかも安価に酸化膜を成膜することができる。
【0039】
成膜室16の昇温が完了すると、超音波振動子15の振動が開始される。超音波振動子15が所定周波数(例えば2.4MHz)で振動すると、その振動が水14aを介して溶液13aに伝播し、溶液13aからミストが発生する。発生したミストは、空気源11から送られてきた空気に押し出され、昇温後の成膜室16に導入される。
【0040】
成膜室16に導入されたミストは、高温により分解されながら酸化膜を成膜すべき円柱状濾過膜1Aの面(外周壁の表面)に到達する。そして、円柱状濾過膜1Aの外周壁の表面においてCVD反応が起こり、多孔質体の微細領域表面形状に沿って酸化膜が成膜される。その結果、ミストが到達した面および微細孔の内壁の少なくとも一部分が酸化膜によって覆われる。例えば、溶液13aが溶質としてのチタンアセチルアセトナートと、溶媒としてのメタノールおよび超純水とからなる場合は、酸化チタン膜が成膜される。この他、成膜装置10Aでは、下表に示す酸化膜や、シリコンの酸化膜が成膜可能である。
【表1】

【0041】
酸化膜は、単一組成膜であっても混晶膜であってもよい。混晶膜とする場合は、2種類以上の溶質を混合した溶液13aからミストを発生させるか、または、別々に発生させた2種類以上のミストを同時に成膜室16に導入すればよい。
【0042】
また、酸化膜は、薄い単一組成膜または混晶膜を複数層積層した多層構造とすることもできる。多層構造にすれば、多孔質体に対する酸化膜の密着性を向上させることができる。また、多層構造にすれば、最表面層の結晶性および平坦性、並びに水への親和性が向上し、原液の透水圧を低減させることもできる。
【0043】
酸化膜の成膜が完了すると、酸化膜付きの円柱状濾過膜1A(濾過フィルタ)が成膜室16から取り出される。以上により、本発明に係る濾過フィルタの製造は終了する。
【0044】
上記の通り、本発明に係る製造方法は、長時間にわたる高温での焼成工程を要しない。したがって、上記本発明によれば、特許文献2に記載の方法よりも短時間かつ安価に濾過フィルタを製造することができる。
【0045】
表2に、酸化チタン膜の成膜時間(膜厚)と透水圧との関係を示す。
【表2】

上表に示すように、酸化チタン膜を成膜する前の透水圧は5〜6気圧であったが、酸化チタン膜を10分間成膜した後の透水圧はそれよりも高い6〜7気圧、酸化チタン膜を20分間成膜した後の透水圧はさらに高い11〜12気圧であった。すなわち、透水圧は、酸化チタン膜の成膜時間を長くするにつれて増加した。これは、成膜時間に応じた厚さの酸化チタン膜が成膜されたことにより微細孔の径が小さくなり、水分子が微細孔および内部通路を通過する際の圧力損失が増加したためである。
【0046】
次に、図3および図4を参照しつつ、図1(B)に示すモノリス型の円柱状濾過膜1Bに酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置10B、10B’、および図1(C)に示すメソポーラス基板1Cに酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置10Cについて説明する。
【0047】
図3(A)に示すように、成膜装置10Bは、円柱状濾過膜1Bの各中空空間にミストを導入するためのミスト導入機構18を備えている。ミスト導入機構18は、ミストを周囲に放出するための貫通孔が設けられた中空棒状の複数の突出ノズル18aを有し、各突出ノズル18aは円柱状濾過膜1Bの中空空間に挿入されている。これにより、円柱状濾過膜1Bの各中空空間内にミストが導かれ、各中空空間の内周壁に酸化膜を成膜することができる。
【0048】
成膜装置10Bは、ミスト導入機構18が突出ノズル18aの突出方向に沿って往復移動可能になっているか、または円柱状濾過膜1Bが軸方向に沿って往復移動可能になっていることが好ましい。これにより、突出ノズル18aの挿入深さを変化させながら成膜を行うことができ、均一な厚さの酸化膜を成膜することができる。
【0049】
図3(B)に示すように、成膜装置10B’は、円柱状濾過膜1Bの遠端部(石英管の入口から遠い方の端部)を覆うように設けられた排気機構19を備えている。成膜装置10B’では、この排気機構19を作動させることにより生じた空気の流れに乗ってミストが中空空間内に導かれる。これにより、各中空空間の内周壁に酸化膜を成膜することができる。
【0050】
図4に示すように、メソポーラス基板1Cに酸化膜を成膜する際に使用する成膜装置10Cは、図2に示す成膜装置10Aと何ら変わるところがない。メソポーラス基板1Cは、一方の面にミストが効率よく到達するような位置に配置される。
【0051】
成膜装置10B、10B’、10Cによれば、成膜装置10Aと同様、各種酸化膜(単一組成膜、混晶膜、多層構造のものを含む)を成膜することができる。
【0052】
[濾過装置]
図5に、チューブ型の円柱状濾過膜1Aに酸化膜を成膜してなる濾過フィルタ3を用いた濾過装置4を示す。本発明に係る濾過装置4は、光照射手段5を備えている点において従来から存在している濾過装置2Aと異なっている(図8(A)参照)。光照射手段5は、例えば、紫外波長の光を照射可能な発光ダイオードからなる。光照射手段5は、濾過フィルタ3の方に向けられ、少なくとも酸化膜が成膜されている面に紫外光を照射する。
【0053】
本発明に係る濾過装置4によれば、光触媒効果を有する酸化膜の超親水性および光分解作用を発現させることができるので、目詰まりが起こりにくく、メンテナンスにかかる手間や費用を低減させることができる。なお、光触媒効果を有する酸化膜の代表例は酸化チタン膜である。
【0054】
[実験結果]
図6は、成膜装置10Cを用いてメソポーラス基板1Cの一表面にミストCVD法により酸化ガリウム膜を成膜させた結果を示すSEM画像である。同図(A)に示すように、酸化ガリウム膜を成膜する前の微細孔の径は約200nmであったが、酸化ガリウム膜を成膜した後においては、同図(B)に示すように、微細孔の径が一様に小さくなっていた。つまり、ミストCVD法のような成膜技術を用いて酸化膜を成膜することにより、図7に示すように、成膜前の微細孔の開口形状および面内分布を維持しながら、径を一様に小さくすることが確認できた。
【0055】
この他、本願発明者は、セラミックからなる円柱状濾過膜1A、1B上に酸化チタン膜を成膜することで、微細孔の径を1nm以下とすることにも成功している。
【0056】
以上のように、本発明に係る濾過フィルタは、無機物の多孔質体(濾過膜またはメソポーラス基板)を用いているので、有機物の多孔質体を用いた濾過フィルタに比べて耐薬品性、耐塩性および耐熱性を高めることができる。また、本発明に係る濾過フィルタは、酸化膜の膜厚を制御して微細孔の最大径を例えば海水中に含まれるナトリウムの水和物の径よりも小さくすることにより、海水濾過フィルタとして利用することができる。なお、酸化膜の膜厚は、成膜時間、成膜室の温度、および溶液に含まれる金属の濃度を変化させることにより、任意に制御することができる。
【0057】
また、本発明に係る濾過フィルタの製造方法は、ミストCVD法により多孔質体に酸化膜を成膜するので、成膜室を減圧したり、成膜室を不活性ガスで満たしたりする工程を省略することができる。すなわち、本発明に係る濾過フィルタの製造方法によれば、比較的簡素な装置で、しかも安価に濾過フィルタを製造することができる。
【0058】
また、本発明に係る濾過装置は、光触媒効果を有する酸化膜の超親水性および光分解作用を発現させることができるので、目詰まりが起こりにくく、メンテナンスにかかる手間や費用を低減させることができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。例えば、本発明では、円柱状濾過膜およびメソポーラス基板の他、高い耐薬品性および耐熱性を有する他の多孔質体を使用することもできる。ただし、微細孔の径が大きすぎると、酸化膜の成膜時間が長くなってしまう点に注意が必要である。
【0060】
また、上記実施形態では、チューブ型円柱状濾過膜の外周壁、モノリス型円柱状濾過膜の内周壁、およびメソポーラス基板の一表面に酸化膜を成膜したが、さらに他の部分(例えば、チューブ型円柱状濾過膜の内周壁)に酸化膜が成膜されても差し支えない。
【0061】
また、上記実施形態では、ミストCVD法により酸化膜を成膜したが、他の手法により成膜してもよい。酸化膜を成膜可能な他の手法としては、真空蒸着法、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム加熱蒸着法、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法、スパッタ蒸着法等がある。
【0062】
また、本発明では、酸化膜に適当な元素(例えば、ヒ素、モリブデン、窒素)をドーピングしてもよい。これにより、光触媒効果を高めたり、耐薬品性および耐塩性をさらに改善したりすることができる。
【0063】
さらに、本発明に係る濾過フィルタの製造方法は、ゼオライト等の粉体に酸化膜を成膜する際にも利用することができる。ゼオライト等の粉体は、吸着孔によって該吸着孔に適合するサイズの物質を捕捉することができるが、本発明によれば、吸着孔の大きさを自由に変えることができるので、任意の物質を捕捉させることができる。
【符号の説明】
【0064】
1A、1B 円柱状濾過膜(多孔質体)
1C メソポーラス基板(多孔質体)
2A、2B 濾過装置
3 濾過フィルタ
4 濾過装置
5 光照射手段
10A、10B、10C 成膜装置
11 空気源
12 流量調節弁
13 ミスト発生源
14 容器
15 超音波振動子
16 成膜室
17 ヒータ
18 ミスト導入機構
19 排気機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微細孔を有する多孔質体と、
前記多孔質体の前記微細孔が開口している面、および前記微細孔の内壁の少なくとも一部分を覆うように、前記多孔質体の微細領域表面形状に沿って成膜された酸化膜と、
を備えたことを特徴とする濾過フィルタ。
【請求項2】
前記酸化膜が成膜された後の前記微細孔の最大径が、海水中に含まれるナトリウムの水和物の径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の濾過フィルタ。
【請求項3】
前記酸化膜が、チタン、ガリウム、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、バナジウムまたはシリコンの単一組成酸化膜またはこれらの混晶酸化膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の濾過フィルタ。
【請求項4】
前記酸化膜が、ミストCVD法で成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の濾過フィルタ。
【請求項5】
前記多孔質体が、軸方向に貫通する少なくとも1つの中空空間を有する円柱状フィルタであり、前記円柱状フィルタの外周壁および内周壁の少なくとも一方に前記酸化膜が成膜されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の濾過フィルタ。
【請求項6】
前記多孔質体が、厚さ方向に貫通する前記微細孔が面内に配列されたメソポーラス基板であり、前記メソポーラス基板の少なくとも一方の面に前記酸化膜が成膜されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の濾過フィルタ。
【請求項7】
複数の微細孔を有する多孔質体が配置された成膜室を昇温する昇温工程と、
溶液を振動させてミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを昇温後の前記成膜室内に導入し、前記多孔質体の前記微細孔が開口している面においてCVD反応を起こさせ、前記面および前記微細孔の内壁の少なくとも一部分が覆われるように前記多孔質体の微細領域表面形状に沿って酸化膜を成膜する成膜工程と、
を含むことを特徴とする濾過フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記酸化膜が、チタン、ガリウム、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、バナジウムまたはシリコンの単一組成酸化膜またはこれらの混晶酸化膜であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質体が、軸方向に貫通する少なくとも1つの中空空間を有する円柱状フィルタであり、
前記成膜工程において、前記ミストが前記中空空間内に導かれることを特徴とする請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記成膜工程において、前記中空空間に挿入されたノズルから前記ミストを放出させることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の濾過フィルタと、
前記濾過フィルタの少なくとも前記酸化膜が成膜された面に光を照射する光照射手段と、
を備えたことを特徴とする濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71301(P2012−71301A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192410(P2011−192410)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(511187214)ROCA株式会社 (1)
【Fターム(参考)】