説明

瀬替え用の堰堤形成材及びこの堰堤形成材を使用する瀬替えシステム

【課題】河川改修工事のためのドライの作業帯域を容易にもたらすことができると共に、河川の増水に速やかに対応することができる瀬替え用堰堤形成材を提供すること。
【解決手段】河川の水の流れを偏らせ、水流を途絶えさせた作業帯域を形成する瀬替えのための堰堤形成材であって、この前記堰堤形成材を水充填用の密封空間と、この密封空間内へ注水するための注水口17と、この密封空間からの排水口27とを備えた長尺袋状の水嚢1で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の改修工事を行う場合に、改修工事を行う区間の水の流れを川幅方向の一部帯域、例えば半分の帯域へ偏らせ、水流を途絶えさせた帯域に工事のためのドライの作業帯域を作る、いわゆる瀬替えに関するものであり、特に、この瀬替えを行う際に用いられる堰堤形成材、及びこの堰堤形成材を使用する瀬替えシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市河川など、普段の水深が10〜20cm程度の河川の改修工事を行う場合、瀬替えは、改修工事箇所を囲むように土嚢を積み重ねて土嚢による堰堤を作ることによって行われている。土嚢は、通常、現場で袋に土砂を詰めて作られ、このような土嚢が3段くらい積み上げられて堰堤が形成される。土嚢は河積を侵さないよう小型のものが使用され、1箇所の作業帯域を形成するための土嚢数は200〜400個に及ぶ。このように形成された堰堤によって水の流入を阻止された帯域は、ポンプ等により水が排出されドライの帯域になされる。このようにして作業帯域が確保され、この作業帯域に、例えば、掘削用の作業用機械を投入し、川底を掘り下げ、掘り下げ後の川底に根固めブロックを敷き詰める、あるいは河床に堆積した土砂を除去する、などの改修工事が行われる。
【0003】
改修工事中に、川上での降雨などによって河川の水嵩が上昇するおそれが生じた場合、工事を中断し、作業機械などを撤収し、土嚢を撤去しなければならない。しかしながら、水嵩の上昇は、降雨などの報知があってから早ければ30分くらいのうちに始まり、このような短時間内では、作業用機械などの撤収と作業員の退去を行うのが精一杯であるため、大半の土嚢は仕方なく放置され、流されてしまうという事態が往々にして発生する。流された土嚢は拾い集めて処分しなければならず、また、河川が常態に戻った後、作業再開のために、新たに土嚢を作り、作業帯域の周囲に積み上げて堰堤を作り、水を排除してドライの作業帯域を作るという作業が改めて必要なため、最初に作業帯域を作る場合と同じくらいの手間がかかり、時間と経費もかかる。
【0004】
作業帯域を変更する際は、新しい作業帯域への土嚢の搬送、同作業帯域での土嚢の積み上げなどで、手間と時間が掛かる人的作業を必要とする場合が多い。
【0005】
土嚢の設置及び撤去には、レッカー車など、経費の掛かる大型機械も必要である。
【0006】
土嚢の製作には土砂が必要であり、見込まれる土嚢数に応じて見積もられた量の土砂が予め現場に運ばれて用意されるが、工事完了時に残土が発生すると、その処分を行わなければならず、これによっても手間と費用がかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、河川改修工事のためのドライの作業帯域を容易にもたらすことができると共に、河川の増水に速やかに対応することができる瀬替え用の堰堤形成材及びこの堰堤形成材を使用した瀬替えシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する請求項1に記載の発明は、河川の水の流れを偏らせ、水流を途絶えさせた作業帯域を形成する瀬替えのための堰堤形成材であって、上記堰堤形成材は、水充填用の密封空間と、この密封空間内へ注水するための注水口と、この密封空間からの排水口とを備えた長尺袋状の水嚢であることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の水嚢によれば、形成すべき作業帯域を囲むように配置し、その密封空間に水を注入ことにより、河川の流水側からの側圧を受けても不動の堰堤を容易に構築することができる。すなわち、瀬替えのための堰堤を比較的簡単な作業で迅速に形成することができる。また、河川の増水が予想されるとき、その内部からの排水を行って軽量化することにより、河川から容易に引き上げることができる。また、河川の水面が通常の状態に戻ったとき、同じ作業帯域を容易に復旧形成することができる。更に、或る作業帯域での改修工事を終了し、或いはその作業帯域での工事を中断し、別の帯域へ工事箇所を移す場合の移設が簡単に行える。
【0010】
請求項2に係る水嚢は、上記排水口が切れ目状またはスリット状の排水口であり、この切れ目状またはスリット状の排水口が、スライドファスナーによって形成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、緊急時に水嚢内部からの排水を行う際、スライドファスナーのスライダーの操作により、排水口の開放を素早く行うことができ、したがって、排水を素早く開始することができる。また、切れ目状またはスリット状の排水口は、水嚢から流出する水の水圧によって大きく口が開き、急速な排水が行える。
【0012】
請求項3に係る水嚢は、上記排水口が、上記水嚢の接地部となる底面部の近傍に設けられていることを特徴とする。
【0013】
これにより、水嚢内の水が底面部近くまで速やかに排出され、したがって大部分の水が排出されることになるので、水嚢が軽量化され、緊急時における河川からの水嚢の引き上げ作業が容易になる。
【0014】
請求項4に係る水嚢は、その横断面が台形を呈するように形成され、この水嚢内には、台形形状を維持するための複数の仕切り板が、上記水嚢の長手方向に所定の間隔を空けて取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
これにより、水嚢は、注水後にも横断面台形形状が確実に維持され、広幅の底面部が川底にしっかりと安定的に接触し、流水側から受ける水圧をしっかりと受け止めることができる据わりのよい堅実な堰堤をもたらすことができる。
【0016】
請求項5に係る水嚢は、その外面に、上記水嚢を吊下げるために該水嚢に巻き掛けられる水嚢吊下げ用ベルトのベルト通しが設けられていることを特徴とする。
【0017】
このようにすれば、水嚢吊下げ用ベルトを水嚢に巻き掛ける際、この水嚢吊下げ用ベルトをベルト通しに通すことによって、水嚢の吊り箇所が一定し、水嚢を安定的に安全に吊り上げ、吊り降ろすことができる。
【0018】
請求項6に係る水嚢は、その外面に、該水嚢に防水シートを取り付けるための背びれを有しており、該背びれには、防水シート連結ロープ挿通用の複数の穿孔が設けられていることを特徴とする。
【0019】
これにより、背びれに設けた複数の穿孔を利用し、防水シートの一縁部に同様に設けた穿孔との間に連結ロープを掛け渡すことによって水嚢に防水シートを簡単に取り付けることができる。水嚢に大型の防水シート取り付け、この防水シートを水嚢から水流のある側へ延ばし河床に敷くようにすれば、シート上を水が流れるようにすることができ、シート下の河床から作業帯域側への漏水を防ぐことができる。また、水嚢に取り付けた防水シートを水嚢の底部の方へ回し、水嚢の下に敷くようにすれば、水嚢の底部とその下の河床部との間の水密性が図られ、水流のある河床から作業帯域側への漏水を防ぐことができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6に記載の水嚢を使用する瀬替えシステムであって、河川の改修工事のための瀬替え用の堰堤形成箇所に向けて、上記水嚢を降下させ、また上記堰堤形成箇所から上記水嚢を上昇させる水嚢昇降装置を有することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、改修作業中に河川増水の警報が出されると、急遽排水が行われ軽量になった水嚢は、水嚢昇降装置によって、増水による影響を受けない高さ位置まで迅速に吊り上げられ、河川の水位が平常な状態に戻ったときには、水嚢昇降装置によって降下せしめられ、注水され、元の位置に水嚢による堰堤を作り、作業帯域を迅速に復旧させることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、上記水嚢昇降装置が、河川上に張り渡したロープに、このロープに沿って移動可能に吊下げられていることを特徴とする。
【0023】
これにより、水嚢昇降装置を河川上に容易に設置することができ、また、水嚢昇降装置に吊下げた水嚢を堰堤形成予定箇所の上方へ容易に移動させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、瀬替え用の堰堤を短時間で設置することができ、河川の増水の虞があるときにはこの堰堤を短時間で撤去することができ、河川の流れが平常時の状態に戻ったときには作業帯域を迅速に復旧することができ、堰堤を形成するための水嚢は何度でも繰返し利用することができ、これらのことから、河川工事の際の瀬替えに要する作業、作業時間、作業費を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明による水嚢の実施の形態を斜視図にて示している。
【0026】
図示の水嚢1は、塩ビターポリンなど柔軟性、防水性のある強靭な素材で製作された長尺の袋状となされており、横断面が台形に形成され、頂面部11、左右の側面部12,13、底面部14、及び端面部15,16を有し、これら各部により内部に水充填用の密封空間が形成されている。
【0027】
水嚢1の頂面部11には、端面部15の付近に、上記密封空間内へ水を注入するための注水口17が設けられており、この注水口17は水中ポンプへ接続されるホースより成っている。図示の実施の形態では注水口17は1つであるが、必要に応じて2つ以上設けてもよい。
【0028】
水嚢1には、その両端部に接続用ひれ18,19が設けてある。一方の接続用ひれ18は、端面部15の頂縁部15aと平行に、この頂縁部15aから若干距離を隔てて頂面部11から延出して設けられた帯片状の頂部ひれ18aと、この頂部ひれ18aに整列され、側面部12,13の側縁部12a,13aと平行に、側面部12,13から延出して設けられた帯片状の側部ひれ18b,18cとから成っている。他方の接続用ひれ19は、端面部16の頂縁部16aから延出して設けられた帯片状の頂部ひれ19aと、2つの側縁部16b,16cから延出して設けられた帯片状の側部ひれ19b,19cとから成っている。これら頂部ひれ18a,19a及び側部ひれ18b,18c,19b,19cには、ハト目孔が帯片の長手方向に所定の間隔で整列して形成されている。
【0029】
上記接続用ひれ18,19は、上記頂部ひれおよび側部ひれに加えて、これら頂部ひれおよび側部ひれに整列して底面部14に設けられた底部ひれを有しているようにしてもよい。
【0030】
これら接続用ひれ18,19は水嚢1を接続するために使用され、図1の右端には、これら接続用ひれ18,19を使用して2つの水嚢を接続したときの接続部が示されており、図2にはこの接続部の拡大尺斜視図が示されている。図2を参照して接続の仕方を説明すると、右側の水嚢1Aの端面部15が左側の水嚢1Bの端面部16(共に図1参照)に当接され、次いで左側の水嚢1Bの頂部ひれ19aと側部ひれ19b,19c(19cは図1参照)が、右側の水嚢1Aの頂部ひれ18aと側部ひれ18b,18c(18cは図1参照)へ向けてそれぞれ倒伏され、同様に、右側の水嚢1Aの頂部ひれ18aと側部ひれ18b,18c(18cは図1参照)が、左側の水嚢1Bの頂部ひれ19aと側部ひれ19b,19cへ向けてそれぞれ倒伏される。次いで、倒伏された頂部ひれ18aと19aとの間で向かい合うハト目孔間、及び倒伏された側部ひれ18b,18cと19b,19cとの間で向かい合うハト目孔間に紐が掛け渡され、向かい合っているひれ同士、即ち18aと19a、18bと19b、18cと19cが互いに連結される。
【0031】
ハト目孔間の紐の掛け渡し方法の一例が図3に示されている。図3において、例えば、右側が頂部ひれ18a、左側が頂部ひれ19aとすると、紐20aの一方端部を頂部ひれ19aのハト目孔19a1に挿通した状態で、紐20aの両端部を結び、結びこぶ20a1を作り、紐20aを輪状にする。このように輪状にした紐20aの、結びこぶ20a1の対極側にあるループ部20a2を、頂部ひれ18aのハト目孔18a1に裏から表へ向けて挿通し、引き出し、隣のハト目孔18a2へ向けて延伸させる。次いで、ハト目孔19a2と18a2についても同様に紐20bを挿通し、その際、紐20bのループ部20b2が上記ループ部20a2を通過するようにする。以下同様に、紐20c、20dの挿通が行われる。最後の紐20eについては、結びこぶ20e1の対極側は分断されていて、その結果もたらされている2つの端部のうちの一方の端部がハト目孔18a5とループ部20d2に挿通された後、他方の端部に結び合わされ、これによって結びこぶ20e2が作られ、それによって紐20eは輪状になされる。
【0032】
側部ひれ18bと19b、及び側部ひれ18cと19cとの間でも同様に紐を掛け渡して結合が行われるが、図1および図2では、側部ひれ18cと19cとの連結、頂部ひれ18aと頂部ひれ19aの連結、側部ひれ18bと19bの連結が通しで行われ、上記結びこぶ20e2と同様の結びこぶは、最後の2つのハト目孔間に通された紐について形成される場合を示している。
【0033】
水嚢1には、更に、図1に示すように、頂面部11と側面部13とが交わる稜部に、水嚢1の略全長に渡って、水嚢1から延出する背びれ23が設けてある。背びれ23は、水嚢1に取り付けられた短尺の帯状の背びれ23aを連ねて形成されており、各短尺の背びれ23aには複数のハト目孔(穿孔)が長手方向に所定の間隔で設けられている。
【0034】
この背びれ23は、大きな防水シートを水嚢1へ装着する場合に使用される。水嚢1への防水シートの装着は、背びれ23に設けたハト目孔を利用し、防水シートの一縁部に同様に設けたハト目孔(穿孔)との間に連結ロープを交互に掛け渡すことによって行われる。
【0035】
取り付けられた防水シートは、河川内に設置された水嚢から水流のある側へ延ばし、河床に敷くようにすれば、防水シート上を水が流れ、防水シートの下の河床から水嚢の底面部の下を抜ける漏水を防止することができる。また、この防水シートを河川内に設置された水嚢の底面部の下側へ回し、水嚢の下に敷くようにすれば、水嚢の底面部とその下の河床部との間の水密性が図られ、水流のある河床から水嚢の下を抜ける漏水を防止することができる。
【0036】
水嚢1には、更に、図1及び図2に示すように、水嚢1を河川の所定位置に係留するために使用されるアンカーリング21,22が設けられており、これらアンカーリングは、図2に示すように、取付け用舌片21a,22aにより側面部12,13にしっかりと取り付けられている。これらアンカーリング21,22は、河床や河岸などに定着されたアンカーにロープによって連結され、それによって水流の作用を受ける注水前の或いは注水中の水嚢を河川の所定の箇所に定置するように使用される。
【0037】
水嚢1には、更に、図1に示すように、側面部12,13の外側に、水嚢吊下げ用ベルトのベルト通し24が設けてある。図示の実施の形態では、このベルト通し24は、水嚢1の両端部付近と中央付近の3箇所に設けられており、各箇所では上下2段に設けられている。ベルト通し24に水嚢吊下げ用ベルトを挿通することによって、ベルトによる水嚢の吊り下げ個所が定まり、水嚢の安定的な昇降が行われる。
【0038】
水嚢1の内部には、図1に示すように、満水時にも水嚢の横断面台形の形状を維持するための膜状の中仕切り25が所定の間隔を置いて取り付けられている。この中仕切り25は、水嚢1と同様の上記素材にて製作されており、全体的に、図4に示すように、台形の四隅を円弧状に切り欠いた形状を有している。四隅を切り欠いた結果として残った形の上底縁部25a、辺縁部25bおよび下底縁部25cは、水嚢1の内側に溶着または逢着により固着される。即ち、中仕切り25の上底縁部25aは水嚢1の頂面部11の内面に、辺縁部25bは側面部12および13の内面に、下底縁部25cは底面部14の内面にそれぞれ固着される。このように水嚢1内に中仕切り25を設けることにより、水嚢1が満水になった場合に、この中仕切り25がもたらす拘束作用により、頂面部11、側面部12,13および底面部14の外方への膨出が防止され、水嚢の横断面台形形状が維持され、したがって水嚢1は河床に対し安定的に据わりよく着座することができる。
【0039】
上記中仕切り25を上述のように水嚢1へ取り付けたことにより中仕切り25と水嚢1との間にできる四隅の開口、即ち、中仕切り25の切欠き部分で形成される開口26a,26b,26c,26d(図1)は、注水口17から注入される水を、中仕切り25を通過させて水嚢1の内部全体に行き渡らせるための通水口として、また、水嚢1からの排水時に中仕切り25を通過させ、下記排水口へ向けて水を流すための通水口として作用する。
【0040】
このように通水口を設ける代わりに、中仕切り25を網目状や格子状の材料で形成することにより、満水時の水嚢1の台形形状維持と、中仕切り25を通しての水の流通を行うようにしてもよい。
【0041】
水嚢1には、更に、切れ目状またはスリット状の開閉可能の排水口27が形成されている。本実施の形態では、この排水口27はスライドファスナー、特に防水性スライドファスナーによって形成されている。この排水口27は、側面部12,13にそれぞれ3箇所づつ、端面部15,16にそれぞれ1箇所づつ、底面部14に近接した箇所すなわち底面部14の近傍に、該底面部に沿って設けられている。
【0042】
側面部12の排水口27は、図1に示すように、水嚢1の両端部の近傍と中央部に配置されており、各排水口27は、隣り合う2つの中仕切り25の間において、中仕切り間の間隔の略全長に渡って延伸している。隣り合う中仕切り25間の間隔は、頂面部11の幅または水嚢1の高さと略同じ長さになされており、したがって排水口27も頂面部11の幅または水嚢1の高さと略同じか、それよりも幾分短い長さになっている。水嚢1の具体的な寸法の例としては、頂面部11の幅が約540mm、底面部14の幅が約1000mm、高さが約530mm、長さが約6100mmであり、隣り合う中仕切り25の間隔は約540mmである。したがって、その場合の排水口27の長さは約530〜540mmとなされる。これによって、水嚢1からの排水時に比較的大きな排水口が得られる。しかしながら、排水口27の長さ寸法は、上述したものに限定されるものではなく、一定の排水速度が得られるのであれば、それよりも短くてもよい。端面部15,16に設けられる排水口27も、側面部12,13の排水口27と同様な寸法を有している。
【0043】
図5は、水を満たした状態の水嚢1において、スライドファスナーのスライダーを操作し、排水口27を開放したときの状態を示している。開放された排水口27は奔出する水の圧力によって上下に大きく口を開き、多量の水を短時間の内に排出する。水嚢1と排水口27が上述のような具体的な寸法を有している場合、すなわち、水嚢1の容量が約2500リットル、排水口27の長さが約530mmである場合、水嚢1からの大部分の水の排出は約5分で達成されることが実験で確認されている。
【0044】
なお、図5において、端面部15に設けた排水口27は閉鎖されたままの状態で示されているが、この排水口27も必要に応じて開放される。それによって、水嚢列の端部にある水嚢からの排水時間は更に早められる。
【0045】
次に、図6及び図7を参照して、上記水嚢1を用いた瀬替えシステムの実施の形態について説明する。
【0046】
図6は、河川60の瀬替えを行った区間の斜視図であって、図中60a,60bは護岸、60cは河床を示している。
【0047】
この実施の形態では、瀬替えは四つの水嚢1a,1b,1c,1dを用いて行われており、これら水嚢1a〜1dは端部が図2に示したように連結され水嚢列を形成している。この水嚢列のうち、水嚢1c〜1dは直線状に連結され、上流側の一つの水嚢1aは水流を河川の片側方向へ誘導する導流部として水嚢1bに対して斜行して連結されている。
【0048】
図6は、満水の水嚢1a〜1dが既に河川内の所定の位置に設置され、堰堤を形成している状態を示しているが、そこに至るまでの作業として、先ず、連結された水嚢1a〜1dが注水されていない状態で、以下に詳述する水嚢昇降装置70に吊下げられる。本実施の形態では、五つの水嚢昇降装置70が、河川60中の所望の箇所に水嚢1a〜1dを降下させることができるように設置されている。水嚢昇降装置70に水嚢1a〜1dを吊下げた当初の状態では、水嚢1a〜1dは河川の水面より上方に位置せしめられており、また排水口27は全て閉鎖されている。
【0049】
その状態から、水嚢列は水嚢昇降装置70を操作することにより、水平姿勢を保った状態で河床へ向けて降下せしめられる。河床へ到達する前後に、上記注水口17からの注水が開始される。満水になるまでの間に、水嚢列が河川60の流水の影響を受け、所期の設置位置から外れる可能性がある場合には、上記アンカーリング21,22と河床または護岸に打設されたアンカーとの間にロープが張られ、水嚢列の位置決めがなされる。
【0050】
図6は満水になった状態の水嚢1a〜1dを示している。満水状態の水嚢は2〜3t(上述の具体的な寸法の水嚢の場合、1つの水嚢の重量は約2.5tである)の大重量となって河床に不動に着座し、河川60の水流Fから受ける水圧にも動じない堰堤100を形成する。その場合、明らかなように、水嚢1a〜1dの大きさは河川60の水深に応じて決められており、設置された水嚢1a〜1dによって形成された堰堤100の上面は、水流Fの水面Faより上に位置する。
【0051】
水嚢1aの片方の、連結されていない方の端部は護岸60aに接触した状態に置かれるが、この接触部からの水の侵入がある場合には、土嚢を使用して侵入を食い止める。水嚢1dの下流側の端部と護岸60aとの間の範囲は、土嚢を積み重ねて形成した堰堤101によって封鎖されている。この箇所に土嚢を使用するのは、下記作業帯域61へ河川改修用の作業用機械を投入する際に、この堰堤101を乗越えさせて作業用機械を走行させるためであるが、乗越えの必要のない投入が行えるのであれば、堰堤101は本発明の上記水嚢で形成してもよい。
【0052】
上記堰堤100及び101によって囲まれ、封鎖された河川60の帯域は、ポンプによって内部の水が排除され、ドライ状態の作業帯域61となされる。このように、瀬替えによってもたらされた作業帯域61には、例えば、掘削用の作業用機械を投入して川底を掘り下げ、掘り下げた後の川底に根固めブロックを敷き詰めるなどの改修工事が行われる。
【0053】
図7は、水嚢昇降装置70の具体的構成を示している。図示のように、水嚢昇降装置70は、上側滑車71と下側滑車72とを有しており、上側滑車71は、河川60の上方において、河岸60a及び60bにそれぞれ固定的に仮設された支持部材74,75間に張り渡された支持ロープ73に、吊下した状態で取り付けられており、下側滑車72は上側滑車71に対して上下動可能に設けられている。下側滑車72を上下動可能に支持するために、上側滑車71を回転可能に保持している保持枠71aに一端を固定されて垂下する吊りロープ76が、下側滑車72に掛けられ、次いで上方へ延伸して上側滑車71に掛けられ、更に支持部材74に取り付けられた中継滑車77を経由して支持部材74へ達するように掛け渡されている。
【0054】
支持部材74にはロープ76を係止してその長手方行への移動を抑止する係止部材74aが設けてあり、この係止部材74aは、下側滑車72を上下動させる際にはロープ76の係止を解除し、また、下側滑車72が所望の高さ位置にもたらされた際にはロープ76の係止を行う。
【0055】
下側滑車72を回転可能に保持する保持枠72aには、その下部に水嚢吊下げ用フック72bが取り付けてあり、このフック72bには、水嚢1に掛け回された水嚢吊下げ用ベルト78の上部に設けられたループ部が掛けられる。水嚢吊下げ用ベルト78は、水嚢1に掛け回される際、図1及び図2に示すベルト通し24に通され、これによって水嚢1は予め決められた位置で吊り上げられる。
【0056】
上記支持ロープ73は、2つの支持滑車79a,79bにエンドレスに掛け渡されている。一方の支持滑車79aは、チェーンブロック74bを介して支持部材74に取り付けられた保持枠74cに軸受けされており、他方の支持滑車79bは、支持部材75に取り付けられた保持枠75aに軸受けされている。図7には明確には示されていないが、支持滑車79aは中継滑車77と共に保持枠74cに装着されている。すなわち、保持枠74cは中継滑車77と支持滑車79aとの両方を並列的に保持している。保持枠74cはチェーンブロック74bの一方のフック74b1に掛けられており、チェーンブロック74bの他方のフック74b2は支持部材74に掛けられている。
【0057】
チェーンブロック74bのラチェットレバー74b3を操作することにより、支持滑車79a,79b間の距離が調整され、それによってこれら支持滑車間に展張された支持ロープ73の緊張状態が調節される。このように張設された支持ロープ73は、河岸から手動で循環移動させることができ、したがって、水嚢昇降装置70に吊られた注水前の、または排水された状態の水嚢1の川幅方向での位置調整を手動で行うことができる。しかしながら、支持ロープ73の循環移動は駆動装置を用いて行ってもよい。
【0058】
図6に示すように設置された作業帯域61における河川改修工事の最中に、河川60の増水が報知されると、工事は直ちに中断され、水嚢1a〜1dに設けられている排水口27が、スライドファスナーのスライダーを操作することにより開放される。これにより、水嚢1a〜1d内の水が開放状態の排水口27から奔出し、水嚢1a〜1dの軽量化が図られる。
【0059】
水嚢1a〜1dから大部分の水が放出された時点で、作業者は各水嚢昇降装置70の吊りロープ76を係止部材74aから外し、自分の手元の方へ手繰る。それによって、下側滑車72が上側滑車71に対して引き上げられるので水嚢吊下げ用フック72bに吊られた水嚢1が河床から引き上げられる。水嚢1の引き上げは、当該水嚢が河川増水に影響を受けない高さに至るまで行われ、次いで吊りロープ76は係止部材74aに係止され、水嚢1は引き上げられた所望の高さ位置に保持される。
【0060】
作業帯域61内で使用されていた作業用機械は、作業を行っていた箇所から直接に、あるいは搬出可能な箇所まで移動させた後、重機によって河川外へ搬出され、また、使用されていた土嚢も河川外へ搬出される。土嚢は使用されるにしても、その使用量は従来に比較して極めて少ないため、その搬出にはさほど多くの時間や作業を必要としない。
【0061】
このようにして、河川の増水が始まる前に、水嚢を始めとして、作業用機械、土嚢などを、素早く水流の影響の及ばない範囲まで、あるいは河川外へ移すことができ、それらの流失を未然に防ぐことができる。
【0062】
河川60の水位が常態に戻ると、作業者は、吊りロープ76を係止部材74aから外し、中継滑車77の方向へ向けてロープ滞留部分を送り出すように操作する。それによって上側滑車71と下側滑車72との間で吊りロープ76が延長せしめられので、上側滑車71に対して下側滑車72が降下せしめられ、したがって、この下側滑車72に吊下げられている水嚢1は河床へ向けて降下せしめられる。
【0063】
水嚢1が水面に達する前に排水口27は閉鎖せしめられ、河床へ到達する前後に、水中ポンプによる注水口17からの注水が開始される。満水になるまでの間に、水嚢1が流水の影響を受け、所期の設置位置から外れる可能性がある場合には、上記アンカーリング21,22と河床または護岸に打設されたアンカーとの間にロープが張られ、水嚢1の位置決めがなされる。注水の開始作業およびアンカー止め作業は、当初堰堤を形成したときと同様に行われる。水嚢列は、先に堰堤を形成していた箇所の真上に吊り上げられていたので、降下後も同じ位置を占めることができ、したがって作業帯域を元通りに復旧させることができ、この復旧作業は極めて簡単に行われる。
【0064】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では、排水口は水嚢の底面部の近傍のみに設けられているが、それに付加して、それより上方の位置に設けてもよく、また、これら排水口の数を、必要に応じて増減させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による水嚢の斜視図である。
【図2】図1に示す水嚢の結合の仕方を示す拡大尺部分図である。
【図3】水嚢の結合部における紐の掛け方を説明する図である。
【図4】水嚢内に取り付けられている中仕切りの正面図である。
【図5】図1に示す水嚢の排水時の状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の瀬替えシステムによって河川改修のための作業帯域を形成した河川区間の斜視図である。
【図7】本発明の瀬替えシステムで用いられる水嚢昇降装置の正面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 水嚢
11 頂面部
12,13 側面部
14 底面部
15,16 端面部
17 注水口
18,19 接続用ひれ
20 紐
21,22 ロープアンカー
23 背びれ
24 ベルト通し
25 中仕切り
27 排水口
60 河川
61 作業帯域
70 水嚢昇降装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の水の流れを偏らせ、水流を途絶えさせた作業帯域を形成する瀬替えのための堰堤形成材であって、
前記堰堤形成材は、
水充填用の密封空間と、この密封空間内へ注水するための注水口と、この密封空間からの排水口とを備えた長尺袋状の水嚢である、
ことを特徴とする堰堤形成材。
【請求項2】
前記排水口は、切れ目状またはスリット状の開閉可能の排水口であり、この切れ目状またはスリット状の排水口は、スライドファスナーによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の堰堤形成材。
【請求項3】
前記排水口は、前記水嚢の接地部となる底面部の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の堰堤形成材。
【請求項4】
前記水嚢は、横断面が台形を呈するように形成され、
前記水嚢内には、この台形形状を維持するための複数の仕切り板が、前記水嚢の長手方向に所定の間隔を空けて取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の堰堤形成材。
【請求項5】
前記水嚢は、その外面に、前記水嚢を吊下げるために該水嚢に巻き掛けられる水嚢吊下げ用ベルトのベルト通しが設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の堰堤形成材。
【請求項6】
前記水嚢は、その外面に、該水嚢に防水シートを取り付けるための背びれを有しており、
前記背びれには、防水シート連結ロープ挿通用の複数の穿孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の堰堤形成材。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の水嚢を使用する瀬替えシステムであって、
河川の改修工事のための瀬替え用の堰堤形成箇所に向けて、前記水嚢を降下させ、また前記堰堤形成箇所から前記水嚢を上昇させる水嚢昇降装置を有する、
ことを特徴とする瀬替えシステム。
【請求項8】
前記水嚢昇降装置は、河川上に張り渡したロープに、このロープに沿って移動可能に吊下げられていることを特徴とする請求項7に記載の瀬替えシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−185473(P2009−185473A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24712(P2008−24712)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(390034430)大和小田急建設株式会社 (13)
【Fターム(参考)】