説明

灯油組成物及びその製造方法

【課題】暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能な灯油組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水素化精製油等の原料油を、水素化触媒存在下、反応温度100〜350℃、水素圧力1〜6MPa、液空間速度0.1〜4h−1、水素/油比70〜500NL/Lで深度水素化処理して得られる灯油基材であって、蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が300℃以下、30容量%留出温度が189〜210℃、50容量%留出温度が190〜230℃、70容量%留出温度が220〜250℃であり、ナフテン分が20容量%以上、全芳香族分が15容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下、ナフテン分/全芳香族分の容量比が2.0以上、硫黄分が10質量ppm以下、15℃における密度が770〜820kg/mである灯油基材を含有することを特徴とする灯油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油組成物に関する。詳しくは、石油ストーブや石油ファンヒーター等の暖房機器などに用いられる灯油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心が社会的に高まる中、室内暖房機器の分野では、暖房機器から排出される臭気物質(炭化水素等)や汚染物質(SOx等)を低減する技術が検討されている。例えば臭気物質の低減方法としては、暖房機器の燃焼部の改善、排出ガス浄化装置の装着等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、暖房機器の燃料としては、例えばn−パラフィンおよびi−パラフィン類よりなる灯油の使用が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭59−16814号公報
【特許文献2】特開昭63−150380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の灯油は、燃焼部の改善や排出ガス浄化装置の装着が施されていない既存の暖房機器の燃料としては十分とはいえない。また、従来の灯油を燃焼部の改善や排出ガス浄化装置の装着が施された暖房機器に用いる場合も、長期にわたってクリーンな燃焼を持続させることは必ずしも容易でない。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能な灯油組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の深度水素化処理が施された灯油基材であって、蒸留性状、ナフテン分、全芳香族分、二環以上の芳香族分、ナフテン分/全芳香族分の容量比、硫黄分、並びに密度が特定条件を満たす灯油組成物を暖房機器の燃料として用いた場合に上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の灯油組成物は、未精製油及び水素化精製油から選ばれる少なくとも1種を含む原料油を、水素化触媒存在下、反応温度100〜350℃、水素圧力1〜6MPa、液空間速度0.1〜4h−1、水素/油比70〜500NL/Lで深度水素化処理して得られる灯油基材であって、蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が300℃以下、30容量%留出温度が189〜210℃、50容量%留出温度が190〜230℃、70容量%留出温度が220〜250℃であり、ナフテン分が20容量%以上、全芳香族分が15容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下、ナフテン分/全芳香族分の容量比が2.0以上、硫黄分が10質量ppm以下、15℃における密度が770〜820kg/mである灯油基材を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、原料油を特定条件で深度水素化処理し、蒸留性状、ナフテン分、全芳香族分、二環以上の芳香族分、ナフテン分/全芳香族分の容量比、硫黄分、並びに密度が特定条件を満たす灯油基材を得る。本発明の灯油組成物は当該灯油基材を含有するものであり、これにより、灯油組成物の燃焼性を飛躍的に改善することができ、さらに高水準の燃焼性を長期間維持することができる。また、本発明の灯油組成物は、安定性、引火性、安全性、並びに暖房機器の燃焼部や排ガス浄化装置に対する適合性にも優れる。従って、本発明の灯油組成物を暖房機器に用いることにより、燃費の向上、臭気物質及び汚染物質の排出量の低減、暖房機器への負荷の低減などが実現可能となり、その結果、暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能となる。
【0009】
本発明の灯油組成物の全芳香族分が10容量%以下であることが好ましい。
【0010】
また、深度水素化処理に用いられる原料油は、その蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が310℃以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の灯油組成物の製造方法は、未精製油及び水素化精製油から選ばれる少なくとも1種を含む原料油を、水素化触媒存在下、反応温度100〜350℃、水素圧力1〜6MPa、LHSV0.1〜4h−1、水素/油比70〜500NL/Lで深度水素化処理し、蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が300℃以下、50容量%留出温度が190〜230℃であり、ナフテン分が20容量%以上、全芳香族分が15容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下、ナフテン分/全芳香族分の容量比が2.0以上、硫黄分が10質量ppm以下、15℃における密度が770〜820kg/mである灯油基材を得る工程を有することを特徴とする。
【0012】
上記製造方法によれば、暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能な本発明の灯油組成物を容易に且つ確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能な灯油組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(灯油基材)
本発明にかかる灯油基材は、未精製油及び水素化精製油から選ばれる少なくとも1種を含む原料油に特定の深度水素化処理を施すことにより得られる。
【0016】
未精製油及び水素化精製油としては、具体的には例えば、原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油、直留灯油を水素化精製して得られる水素化脱硫灯油、常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油留分を水素化精製して得られる水素化精製灯油、減圧軽油留分を水素化分解した水素化分解灯油、減圧軽油留分あるいは脱硫重油を接触分解して得られる接触分解灯油、直留重質油を熱分解して得られる熱分解灯油、熱分解灯油を水素化精製して得られる水素化脱硫灯油、残査油を水素化精製して得られる水素化脱硫灯油等が挙げられる。これらの原料油は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
原料油は、得られる灯油基材が本発明で規定する条件を満たせば、未精製油及び/又は水素化精製油のみからなるものであってもよく、また、他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分としては、直留灯油または水素化脱硫灯油または水素化精製灯油の抽出によりノルマルパラフィン分を除去した残分である脱ノルマルパラフィン灯油、天然ガス等を一酸化炭素と水素に分解した後にF−T(Fischer−Tropsch)合成で得られるGTL(Gas to Liquids)の灯油留分及び/又はその水素化分解物などが挙げられる。原料油がこれらの成分を含有する場合、未精製油及び水素化精製油の合計量は、50容量%以上であることが好ましく、60容量%以上であることがより好ましく、70容量%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
また、原料油の蒸留性状は特に制限されないが、その初留点は140℃以上であることが好ましい。また、原料油の終点は、好ましくは310℃以下、より好ましくは305℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。かかる蒸留性状を有する原料油を用いることで、本発明にかかる灯油基材を確実に得ることができる。また、原料油の蒸留性状が上記条件を満たすことで、より高い脱硫効果を得ることができる。
【0019】
原料油の深度水素化処理は、反応温度100〜350℃、水素圧力1〜6MPa、液空間速度0.1〜4h−1、水素/油比70〜500NL/Lの条件下で行われる。
【0020】
深度水素化処理における反応温度は、100〜350℃であり、好ましくは130〜320℃である。反応温度が100℃未満であると十分な水素化反応速度が得られず、一方、350℃を超えると水素化反応が反応平衡の点で不十分となる。
【0021】
深度水素化処理における水素圧力は、1〜6MPaであり、好ましくは2〜6MPaである。また、水素/油比は、70〜500NL/Lであり、好ましくは90〜400NL/Lである。水素圧力が1MPa未満の場合、及び水素/油比が70NL/L未満の場合には、脱硫反応又は水素化反応の促進効果が不十分となる。また、水素圧力が6MPaを超える場合、及び水素/油比が500NL/Lを超える場合には、製造コストが増大してしまう。
【0022】
深度水素化処理における液空間速度(Liquid Hourly Space Velocity、以下「LHSV」という)は0.1〜4h−1であり、好ましくは0.2〜3h−1である。LHSVは低いほど反応に有利であるが、0.1h−1未満の場合には、極めて大きな反応塔容積が必要となる。
【0023】
深度水素化処理に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、例えば水素化活性金属を多孔質担体に担持したものが挙げられる。多孔質担体としては無機酸化物が好ましく用いられる。具体的な無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトが挙げられ、このうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、ゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものが本発明において好適に用いられる。
【0024】
深度水素化処理に用いる触媒の活性金属としては周期律表第6族及び/または第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属であることが好ましい。より好ましくはRu,Rd,Ir,Pd,Pt,Ni,Co,Mo,Wから選ばれる少なくとも1種類である。活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでもよく、例えばPt−Pd,Pt−Rh,Pt−Ru,Ir−Pd,Ir−Rh,Ir−Ru,Pt−Pd−Rh,Pt−Rh−Ru,Ir−Pd−Rh,Ir−Rh−Ru,Co−Mo,Ni−Mo,Ni−Wなどの組み合わせを採用することができる。活性金属の担持量は特に限定されないが、触媒質量に対し金属量合計で0.1〜30質量%であることが望ましい。
【0025】
触媒は水素または硫化水素気流下において予備還元処理を施した後に用いるのが好ましい。一般的には水素または硫化水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
【0026】
上記の深度水素化処理により得られる本発明にかかる灯油基材は、蒸留性状、ナフテン分、全芳香族分、二環以上の芳香族分、ナフテン分/全芳香族分の容量比、硫黄分、並びに密度が特定条件を満たすものである。以下、灯油基材の諸性状について詳述する。
【0027】
(蒸留性状)
灯油基材の蒸留性状における初留点は140℃以上であり、終点は300℃以下であり、50容量%留出温度は190〜230℃である。
【0028】
灯油基材の初留点は、引火点低下による安全性への影響から、140℃以上であることが必要であり、143℃以上であることが好ましく、145℃以上であることがさらに好ましい。一方、低温時の着火特性維持の点から170℃以下であることが好ましく、165℃以下であることがより好ましい。
【0029】
灯油基材の終点は、300℃以下であることが必要であり、290℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。終点が300℃を超える場合は点火時にススが発生しやすく、芯式ストーブに使用した場合には芯にタールが付着しやすくなる。
【0030】
灯油基材の50容量%留出温度(以下、「T50」という)は190℃以上であることが必要であり、195℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。T50が190℃未満の場合は燃料消費率が悪化する。一方、燃焼性の点から、T50は、230℃以下であることが必要であり、225℃以下であることが好ましい。
【0031】
灯油基材のその他の蒸留性状は特に制限されないが、下記性状を満たしていることが望ましい。
【0032】
30容量%留出温度(以下、「T30」という)は、給油時の臭気低減および発熱量の点から、170℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。一方、低温時の着火性の点から、T30は210℃以下であることが好ましく、205℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0033】
70容量%留出温度(以下、「T70」という)は、発熱量の点から、220℃以上であることが好ましく、225℃以上であることがより好ましい。一方、燃焼性の点から、T70は、250℃以下であることが好ましく、245℃以下であることがより好ましい。
【0034】
95容量%留出温度(以下、「T95」という)は、燃焼性の点から、270℃以下であることが好ましく、268℃以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明でいう初留点、T30、T50、T70、T95、終点とは、それぞれJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0036】
(ナフテン分)
灯油基材のナフテン分は、20容量%以上であることが必要であり、好ましくは25容量%以上、より好ましくは28容量%以上である。ナフテン分が20容量%未満の場合には単位容量当たりの発熱量が不十分となる。
【0037】
本発明でいうナフテン分とは、ASTM D2425(Standard Test Method for Hydrocarbon Types in Middle Distillates by Mass Spectrometry)に順ずる方法にて測定されるナフテン系炭化水素の含有量(単位:容量%)を意味する。
【0038】
(芳香族分)
灯油基材の全芳香族分は、燃焼性の点から、15容量%以下であることが必要であり、好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下である。
【0039】
本発明でいう全芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」で測定される全芳香族分の値を意味する。
【0040】
また、上記全芳香族分のうち二環以上の芳香族分は、1容量%以下であることが必要であり、好ましくは0.8容量%以下、より好ましくは0.5容量%以下である。二環以上の芳香族分が1容量%を超えると燃焼性が著しく低下する。
【0041】
本発明でいう二環以上芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」で測定される二環芳香族分および三環以上芳香族分の総和を意味する。
【0042】
(ナフテン/全芳香族分の容量比)
灯油基材のナフテン分/全芳香族分の容量比は、燃料消費率と燃焼性とのバランスの点から、2.0以上であることが必要であり、好ましくは3.0以上である。
【0043】
ここでいうナフテン分及び全芳香族分は上述のナフテン分及び全芳香族分と同一の内容であり、それぞれASTM D2425(Standard Test Method for Hydrocarbon Types in Middle Distillates by Mass Spectrometry)、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」に準拠して求められる値を意味する。
【0044】
(硫黄分)
灯油基材の硫黄分は、燃焼排出ガス中の硫黄酸化物抑制、及び暖房用機器に装着されている排ガス後処理用触媒の寿命の点から、10質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下である。
【0045】
本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される値を意味する。
【0046】
(密度)
灯油基材の15℃における密度は、燃料消費率の点から770Kg/m以上であることが必要であり、好ましくは780Kg/m以上である。一方、燃焼性の点から、820Kg/m以下であることが必要であり、好ましくは810Kg/m以下である。本発明でいう15℃における密度とは、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」で測定される値である。
【0047】
(動粘度)
灯油基材の動粘度は特に制限されないが、芯式ストーブにおける芯への染み込み性の点から、30℃で1.7mm/s未満であることが望ましい。一方、芯式ストーブにおける消火後の余熱による芯からの染み出し防止の点から、30℃で1.0mm/s以上であることが望ましい。
【0048】
本発明でいう30℃における動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法」で測定される値を意味する。
【0049】
(引火点)
灯油基材の引火点は特に制限されないが、取り扱い上の安全性の点から40℃以上であることが望ましい。
【0050】
本発明でいう引火点とは、JIS K2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」のタグ密閉式で測定される値を意味する。
【0051】
(煙点)
灯油基材の煙点は特に制限されないが、芯式ストーブにおけるスス発生や不完全燃焼防止の点から、21mm以上であることが望ましい。
【0052】
本発明でいう煙点とは、JIS K2537「石油製品−航空タービン燃料油及び灯油−煙点試験方法」で測定される値を意味する。
【0053】
(セーボルト色)
灯油基材の色は特に制限されないが、不純物の識別等安全性への影響を考慮し、セーボルト色で+25以上であることが望ましい。
【0054】
ここでいうセーボルト色とは、JIS K2580「石油製品−色試験方法」中のセーボルト色試験方法で測定される値である。
【0055】
本発明の灯油組成物は、上記の灯油基材のみからなるものであってもよく、また、必要に応じて、後述する各種添加剤を含有してもよい。なお、本発明の灯油組成物が添加剤を含有する場合、組成物全体で、灯油基材について規定された条件を満たすことが好ましい。
【0056】
すなわち、灯油組成物の蒸留性状における初留点は、好ましくは140℃以上、より好ましくは143℃以上、さらに好ましくは145℃以上である。また、当該初留点は、好ましくは170℃以下、より好ましくは165℃以下である。また、灯油組成物の終点は、好ましくは300℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは280℃以下である。また、灯油組成物のT50は、好ましくは190℃以上、より好ましくは195℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。また、当該T50は、好ましくは230℃以下、より好ましくは225℃以下である。また、灯油組成物のT30は、好ましくは170℃以上、より好ましくは175℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。また、当該T30は、好ましくは210℃以下、より好ましくは205℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、灯油組成物のT70は、好ましくは220℃以上、より好ましくは225℃以上である。また、当該T70は、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下である。また、灯油組成物のT95は、好ましくは270℃以下、より好ましくは268℃以下である。
【0057】
また、灯油組成物のナフテン分は、好ましくは20容量%以上、より好ましくは25容量%以上、さらに好ましくは28容量%以上である。また、当該全芳香族分は、好ましくは15容量%以下、より好ましくは10容量%以下、さらに好ましくは8容量%以下である。また、当該全芳香族分のうち二環以上の芳香族分は、好ましくは1容量%以下、より好ましくは0.8容量%以下、さらに好ましくは0.5容量%以下である。また、灯油基材のナフテン分/全芳香族分の容量比は、好ましくは2.0以上であることが必要であり、好ましくは3.0以上である。また、灯油組成物の硫黄分は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは1質量ppm以下である。
【0058】
また、灯油組成物の15℃における密度は、好ましくは770Kg/m以上、より好ましくは780Kg/m以上である。また、当該密度は、好ましくは820Kg/m以下、より好ましくは810Kg/m以下である。また、灯油組成物の30℃における動粘度は、好ましくは1.0mm/s以上1.7mm/s未満である。
【0059】
また、灯油組成物の引火点は、好ましくは40℃以上であり、煙点は、好ましくは21mm以上である。さらに、灯油組成物の色は、セーボルト色で+25以上であることが望ましい。
(添加剤)
本発明の灯油組成物は、必要に応じて、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系化合物、N,N‘−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物などの酸化防止剤、シッフ型、チオアミド型化合物などの金属不活性剤、有機リン系化合物などの表面着火剤、コハク酸アミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコールおよびそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル、1−メトキシ−2−アセトキシプロパンなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤およびアゾ染料などの着色剤など、公知の燃料油添加剤を1種または数種組み合わせて添加してもよい。これら燃料油添加剤の添加量は任意であるが、通常その合計添加量が、0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
上述の添加剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また市販の添加剤を用いてもよい。なお、市販されている添加剤は、その添加剤が目的としている効果に寄与する有効成分を適当な溶剤で希釈している場合もある。有効成分が希釈されている市販添加剤を使用する場合には、灯油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲になるように市販添加剤を添加することが好ましい。
【0061】
上記構成を有する本発明の灯油組成物は引火性、燃焼性、安全性、並びに暖房機器に対する適合性の全てがバランスよく高められたものであり、暖房機器を長期にわたって安定的に運転することが可能なものである。従って、本発明の灯油組成物は、石油ストーブ(例えば芯式ストーブ)や石油ファンヒーター等の暖房機器に使用される暖房用燃料組成物として非常に有用である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1〜3、比較例1〜4]
実施例1〜3及び比較例1〜3においては、未成製油又は水素化精製油を表1、2に示す条件で水素化処理して灯油基材を得た。各灯油基材の諸性状を表1、2に示す。
【0064】
実施例1、2及び比較例1、2では、得られた灯油基材をそのまま試料油として以下の試験に供した。また、実施例3及び比較例3では、得られた灯油基材にフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール)を20質量ppm添加し、得られた灯油組成物を試料油とした。また、比較例4では、F−T合成で得られるGTLの灯油留分を水素化分解したものを試料油として用いた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
[燃焼試験]
次に、実施例1〜3及び比較例1〜4の各試料油を用いて燃焼試験を行った。具体的には、試験用暖房機器として、芯上下式ストーブ(開放式石油ストーブ芯式自然通気形、排ガス浄化装置あり、コロナ製 SX−E261Y)、及び石油ファンヒーター(開放式石油ストーブ気化式強制通気形、排ガス浄化装置なし、三菱電機製 KD−F32C)に試料油を充填し、点火−5時間の定常運転−消火を1サイクルとし、これらの工程を100サイクル繰り返した。
【0068】
本試験においては、1回目のサイクル後のTHC(Total HydroCarbon)濃度(以下、「THC濃度1」という)、並びに100回目のサイクル後のTHC濃度(以下、「THC濃度2」という)及びSOx濃度を測定した。具体的には、各サイクルの消火から30秒経過時までの間、暖房機器からの排出ガスをJIS S 3031法に準拠したX字管を用いて捕集し、排出ガス中のTHC濃度あるいはさらにSOx濃度を測定した。THC濃度1、2及びSOx濃度の測定の際には、分析計としてそれぞれ堀場製作所製 FIA−510H及び堀場製作所製 PG−200シリーズを用いた。得られた結果を表3、4に示す。表3、4中のTHC濃度1、2は全て比較例1のTHC濃度1を100としたときの相対値である。同様に、表3、4中のSOx濃度は比較例1のSOx濃度を100としたときの相対値である。THC濃度1、2は臭気物質の排出量の指標となり、SOx濃度は汚染物質の排出量の指標となる。
【0069】
また、本試験においては、1回目のサイクルにおける燃料消費率(以下、「燃料消費率1」という)、並びに最終サイクルにおける燃料消費率(以下、「燃料消費率2」という)を測定し、両者の差Δ(燃料消費率1−燃料消費率2)を求めた。得られた結果を表3、4に示す。燃料消費率1、2は比較例1の燃料消費率1を100としたときの相対値で示した。燃料消費率1は値が大きいほど燃費が悪いことを意味する。また、サイクル数が増加すると、燃焼部への固着物(例えば酸化劣化物)の付着等により暖房効率が悪化するため、通常、燃料消費率2は燃料消費率1よりも小さくなる。両者の差Δ(燃料消費率1−燃料消費率2)は、燃焼部への固着物の付着量及びTHC濃度(すなわち臭気物質の排出量)の指標となる。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表3に示したように、実施例1〜3においてはいずれも、良好な燃焼性を示し、また、排出ガス中の臭気物質及び汚染物質の発生が十分に抑制されていることが確認された。さらに、100サイクル時の燃料消費率の低下及びTHC濃度の増加の度合いが小さく、燃焼部分への酸化劣化物の固着が十分に抑制されていることが示唆された。
【0073】
これに対して、比較例1〜3の場合はTHC濃度1及びSOx濃度が高かった。また、Δ(燃料消費率1−燃料消費率2)が大きく、100サイクル後の暖房機器の燃焼部には酸化劣化物による固着物が多量付着していた。一方、比較例4の場合は、燃料消費率が大きい値を示し、THC排出量が多かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未精製油及び水素化精製油から選ばれる少なくとも1種を含む原料油を、水素化触媒存在下、反応温度100〜350℃、水素圧力1〜6MPa、液空間速度0.1〜4h−1、水素/油比70〜500NL/Lで深度水素化処理して得られる灯油基材であって、
蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が300℃以下、30容量%留出温度が189〜210℃、50容量%留出温度が190〜230℃、70容量%留出温度が220〜250℃であり、ナフテン分が20容量%以上、全芳香族分が15容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下、ナフテン分/全芳香族分の容量比が2.0以上、硫黄分が10質量ppm以下、15℃における密度が770〜820kg/mである灯油基材を含有することを特徴とする灯油組成物。
【請求項2】
前記灯油基材の全芳香族分が10容量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の灯油組成物。
【請求項3】
前記原料油の蒸留性状における初留点が140℃以上、終点が310℃以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の灯油組成物。

【公開番号】特開2008−260966(P2008−260966A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205784(P2008−205784)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【分割の表示】特願2003−354019(P2003−354019)の分割
【原出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)