説明

灯油組成物

【課題】 酸化防止剤などの添加剤を添加することなしに、貯蔵安定性や良好な燃焼性を保持する実質的にサルファーフリーの灯油組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の灯油組成物は、ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(A)とジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(B)の質量比(A/B)が10以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油組成物に関し、特には極めて低い硫黄含有量の灯油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油は、家庭用ストーブやファンヒーター等の暖房用の燃焼機器やジエット燃料に使用される。このほか、ディーゼルエンジン用燃料の混合基材としても使用されている。このディーゼルエンジン用燃料としては排気ガス浄化触媒の被毒防止から硫黄分が殆どない、いわゆるサルファーフリーの燃料油(軽油、A重油)が望まれている。このため、これらの混合基材として用いられる灯油についてもサルファーフリーにする必要がある。
【0003】
一方、家庭用の暖房機器やジェット燃料についても、亜硫酸ガスなどに基づく異臭や環境負荷を低減するために、サルファーフリー化が要請されている。しかし、灯油中の硫黄分を現状以上に低減させるためには、一般に脱硫条件がよりシビアになり、組成変化による貯蔵安定性や燃焼性の悪化を引き起こす。
【0004】
このため、硫黄分を10質量ppm以下に低減した灯油については酸化防止性能や燃焼性能を向上させるために添加剤を添加することが提案されている(特許文献1及び2参照)。しかし、酸化防止性能を向上させるために、添加剤を添加する方法は製造コストを引き上げることになり、望ましいものではなかった。
【特許文献1】特開2004−182744号公報
【特許文献2】特開2004−182745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するもので、酸化防止剤などの添加剤を添加することなしに、貯蔵安定性や良好な燃焼性を保持する実質的にサルファーフリーの灯油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を進めた結果、貯蔵安定性や燃焼性の悪化が灯油中の硫黄分を低減する過程で起こる微量のオレフィン類の生成や微量の多環芳香族類の減少に起因し、これらの量が臭素指数及び吸光度と相関性があること、さらに特定の硫黄化合物が灯油貯蔵時の酸化過程で発生する活性種を安定化させる効果があること、及びこれらの量を特定範囲内に制限することにより、酸化防止剤を添加することなく貯蔵安定性の悪化を抑制できることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明の灯油組成物は、ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分とジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分の比が10以下であることを特徴とし、好ましくは硫黄分が10質量ppm以下、さらに好ましくは、硫黄分が5質量ppm以下、かつ臭素指数が90mg/100g以下、波長442nmでの吸光度が0.0021〜0.0094である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の灯油組成物は、サルファーフリーであるので、燃焼によって生ずる亜硫酸ガス等に基づく悪臭や環境負荷が低減されるとともに、貯蔵安定性や燃焼性が改善される効果を奏し、さらにこの結果、これらの改善に用いていた添加剤を添加する必要がなくなるので、製造コストを低減できるという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による灯油組成物は、ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(A)とジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(B)の質量比(A/B)が10以下とする。好ましくは6以下、さら好ましくは4以下である。A/B比が10を超えると、保管中に過酸化物が増加し、色相が劣化するなど、貯蔵安定性が悪化するという問題が生じるので好ましくない。ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(A)は少ないほうが好ましく、具体的には、5ppm以下、さらには1ppm以下が好ましい。ジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(B)は必ずしも少なければ良いものではなく、上記A/B比を満足するように含有されていることが必要である。具体的には、0.1〜5.0ppm程度含有されていることが好ましく、0.1〜2.0ppmがより好ましい。
【0010】
ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物とは、化学発光検出器付きガスクロマトグラフィー法(GC−SCD)により測定されるベンゾチオフェン骨格を有する化合物であり、ベンゾチオフェン及び炭素数1〜4の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基1〜2個で置換されたアルキルベンゾチオフェン化合物を含む。これらの化合物の具体例としては、ベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン等が挙げられる。
また、ジベンゾチオフェン由来の硫黄化合物とは、GC−SCDにより測定されるジベンゾチオフェン骨格を有する化合物であり、ジベンゾチオフェン及び炭素数1〜4の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基1〜4個で置換されたアルキルジベンゾチオフェン化合物を含む。これらの化合物の具体例としては、ジベンゾチオフェン、4-メチルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン、4−エチル−6−メチルジベンゾチオフェン等が挙げられる。これらのアルキルベンゾチオフェン化合物及びアルキルジベンゾチオフェン化合物において、複数のアルキル基を有する場合、アルキル基はそれぞれ同一であっても異なっていても構わない。
【0011】
また、燃焼で発生する亜硫酸ガス等の悪臭や環境負荷を低減するために、硫黄分を10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、特には1〜5質量ppmとすることが好ましい。硫黄分を1質量ppm未満にすることは、製造コストが大幅に高くなるため好ましくない。
【0012】
本発明の灯油組成物は、好ましくは臭素指数が90mg/100g以下であり、さらに好ましくは50〜85mg/100gである。臭素指数が90mg/100gを超えると貯蔵安定性が悪化し、酸化防止剤を添加する必要が生じるため好ましくない。臭素指数は、低い方が好ましいが、さらに低くするには、精製コストが急激に高くなることが予測される。また、臭素指数を低減しすぎると、硫黄分もそれに対応して低減され、特定硫黄化合物による酸化安定性効果が得られなくなることから、臭素指数は50mg/100g以上が好ましい。また、同様の理由により、波長442nmにおける吸光度は0.0021〜0.0094が好ましく、特には、0.0045〜0.0069が好ましい。
【0013】
本発明の灯油組成物は、原料油として、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等から得られる灯油留分、すなわち沸点が140〜280℃の範囲で留出する留分を用いて、水素化脱硫することにより得られる。例えば、常圧蒸留装置から留出する沸点範囲140〜280℃の留分をそのまま水素化脱硫したり、或いはこの留分に、接触分解装置や熱分解装置から留出する沸点範囲140〜280℃の留分を0〜40容量%で混合したものを原料とすることにより、簡便に得られる。
【0014】
その水素化脱硫は、水素化脱硫触媒として、Co、Mo、Niを含有し、又所望によりPを担持したものを用い、反応温度270〜350℃、好ましくは295〜320℃、反応圧力2.5〜7.0MPa、好ましくは2.7〜6.6MPa、液空間速度(LHSV)0.9〜6.0h−1、好ましくは0.9〜5.4h−1、水素/オイル比130〜280Nm/kLの条件の範囲で適宜選択して、上述した本発明の灯油組成物が得られるようにする。特には、水素圧、水素/オイル比は大きい方が良いが、あまり大きいと特定の硫黄化合物が除去されるため、上限を超えない様にする。またLHSV、反応温度は低めにするとよい。
本発明の灯油組成物は、上記のような各種の方法で得られた灯油組成物を、化学発光検出器付きガスクロマトグラフィー法(GC−SCD)や、公知の分析方法で、ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(A)とジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(B)を分析して、その質量比(A/B)が10以下のものを選択して調製することができる。さらに、2種以上の灯油基材を配合して本発明の範囲内になるように調整して製造することもできる。したがって、上記のような各種の方法で得られた灯油組成物は、A/B比が前記規定の範囲を外れていても、規定の範囲内の灯油組成物や別の規定の範囲外の灯油組成物と適宜の割合で混合することによって、本発明の灯油組成物を調製することができる。
【実施例】
【0015】
本発明の灯油油組成物について具体的に実施例により説明する。なお、本発明は、以下の実施例のように実施すれば実現できるが、本実施例に限定されるものではない。
【0016】
なお、本発明に用いる物性測定方法及び評価方法は、次に示した方法で測定されるものである。
1)密度:JIS K2249「原油及び石油製品密度試験方法」に規定された方法。
2)引火点:JIS K2265「原油及び石油製品引火点試験方法」に規定されたタグ密閉式引火点試験方法。
3)煙点:JIS K2537「煙点試験方法」に規定された方法。
4)蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験方法」に規定された方法。
5)動粘度:JIS K2283「動粘度試験方法」に規定された方法により、30℃で測定。
6)硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」に規定された方法。
7)窒素分:JIS K2606「窒素分試験方法(化学発光法)」に規定された方法。
8)臭素指数:JIS K2605「石油製品臭素価試験方法(付属書1)」に規定された臭素指数試験方法。
9)アニリン点:JIS K2256「アニリン点及び混合アニリン点試験方法」に規定された方法。
10)色(セーボルト):JIS K2580「石油製品−色試験方法(付属書1)」に準拠して、自動試験器の色差計を用いて測定した。
11)過酸化物価:JPI−5S−46−96「灯油の過酸化物価試験方法」に規定された方法。
12)吸光度:吸光度は、自記型分光光度計により50mm石英セルを用い対象液をノルマルデカンとして波長走査範囲を400〜500nmで波長を走査しその波長442nmの吸光度を測定。または、波長可変型分光光度計により50mm石英セルを用い対象液をノルマルデカンとして波長442nmの吸光度を測定。
13)硫黄化合物の硫黄分:化学発光検出器付きガスクロマトグラフィー法(GC−SCD)により測定。測定条件は次のとおりである。
カラム:SPB−1(SUPELCO社製)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:硫黄化学発光検出器
キャリアーガス流量:3ml/min
GC注入入口温度:330℃
カラム昇温条件:100℃→15℃/min→300℃
検出器温度:310℃
なお、ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物(A)及びジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物(B)は、硫黄分にGC−SCDにおける(A)及び(B)の面積割合を掛けて求めた。
【0017】
灯油組成物の調製
供試灯油1:常圧蒸留装置から留出した沸点範囲140〜280℃の留分を、Co、Mo、Pを担持した市販触媒を用い、反応温度316℃、反応圧力4.4MPa、水素/オイル比140±5Nm/kL、LHSV5.4h−1、水素純度85%の条件下で水素化精製して得た。
供試灯油2:常圧蒸留装置から留出した沸点範囲140〜280℃の留分を、Ni、Mo、Pを担持した市販触媒を用い、反応温度310℃、反応圧力2.7MPa、水素/オイル比130±5Nm/kL、LHSV0.9h−1、水素純度90%の条件下で水素化精製して得た。
供試灯油3:常圧蒸留装置から留出した沸点範囲140〜280℃の留分を、Co、Mo、Pを担持した市販触媒を用い、反応温度335℃、反応圧力4.3MPa、水素/オイル比110±5Nm/kL、LHSV5.2h−1、水素純度94%の条件下で水素化精製して得た。
供試灯油4:常圧蒸留装置から留出した沸点範囲140〜280℃の留分90容量%と熱分解装置から留出する沸点範囲140〜280℃の留分10容量%を混合し、Ni、Co、Moを担持した市販触媒を用い、反応温度295℃、反応圧力6.6MPa、水素/オイル比230〜280Nm/kL、LHSV1.1h−1、水素純度98%の条件下で水素化精製して得た。
上記で調製した各供試灯油1〜4の性状を表1に示した。
【0018】
次にこれらの供試灯油に酸化防止剤を添加せず、ASTM D873に準じ、各供試灯油150mLを耐圧容器に入れ、酸素を封入後、100℃の恒温槽で16時間保持して強制的に灯油を劣化させた。その後、恒温槽から取り出し、室温にまで降温して劣化前後の過酸化物価及び色(セーボルト)をそれぞれ石油学会法(JPI−5S−46−96)及び上記の方法によって測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0019】
【表1】

【0020】
上記結果から、本願発明は酸化防止剤を添加しなくても、酸化処理前後での過酸化物価の増加率が低く、また、色相の悪化程度も低い、すなわち、貯蔵安定性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の灯油組成物は、家庭用ストーブやファンヒーター等の暖房用燃焼機器のための燃料、ジエット燃料、さらにはディーゼルエンジン用燃料の混合基材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(A)とジベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の硫黄分(B)の質量比(A/B)が10以下であることを特徴とする灯油組成物。
【請求項2】
硫黄分が10質量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の灯油組成物。
【請求項3】
硫黄分が5質量ppm以下、臭素指数が90mg/100g以下、波長442nmの吸光度が0.0021〜0.0094である請求項1又は2に記載の灯油組成物。


【公開番号】特開2006−328216(P2006−328216A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153668(P2005−153668)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)