説明

灯油組成物

【課題】
本発明は灯油組成物に関し、さらに詳しくは、従来ガソリン基材として利用されてきた重質分解ナフサを灯油の原料基材として用いてなる、貯蔵安定性に優れる灯油組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理して得られた、ヨウ素価7以下、窒素濃度2質量ppm以下を持つ灯油組成物である。さらに本発明は、重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理する工程を含む、灯油組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は灯油組成物に関し、さらに詳しくは、従来ガソリン基材として利用されてきた重質分解ナフサを灯油の原料基材として用いてなる、貯蔵安定性に優れる灯油組成物、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油製品の需要構造の変化により原油中の重質留分を軽質の石油製品とすることが課題となっている。特に、重質油から軽質油を製造する技術として分解処理技術の普及が進んでおり、中でも、流動接触分解(FCC)により生成する軽油留分(LCO留分)をガソリンおよび軽油、A重油に使用する方法が広くおこなわれている。しかし、該分解工程は高温プロセスで行われる為、重質油の炭化水素鎖が開裂されてアルキルラジカルが発生する。その為、該分解系基材を灯油基材として使用すると、発生したアルキルラジカルが灯油の貯蔵安定性を悪化させる懸念があった。また、分解系基材は、オレフィン分、硫黄分、及び多環芳香族分がいずれも多く、セタン価が低いことから、灯油基材として活用することが困難と考えられていた。その為、従来、分解系基材を灯油に使用することは一般的ではなかった。しかし近年、石油製品の需要構造の変化に柔軟に対応するために、該分解系基材を灯油に適用することが要求されている。
【0003】
特許文献1は、流動接触分解(FCC)から生成する灯油留分(蒸留範囲が通常の灯油に匹敵する留分)を分留し、該灯油留分を水素化処理することにより灯油を製造する方法を開示している。特許文献2及び3は、石油精製プラントの各装置から得られる特定の重質油の中から選ばれる少なくとも1種を熱分解処理して得られた軽質留分と、FCC装置から得られるLCO留分とを特定の割合で含む混合基材の脱硫及び脱窒素処理油から得られた灯油留分を含有させた灯油組成物を開示している。特許文献4は、流動接触分解(FCC)装置より得られたLCO留分を水素化分解した後、分離して得られた沸点範囲190℃以上の留分からなる基材を1〜20容量%含有する灯油組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−212579号公報
【特許文献2】特開2008−201949号公報
【特許文献3】特開2008−201950号公報
【特許文献4】特開2009−292857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は分解系基材を灯油基材として好適に活用する事を目的とする。分解系基材としては、ガソリン基材として使用されている重質分解ナフサと軽質分解軽油がある。しかし上述の通り、分解系基材を灯油に添加すると灯油の貯蔵安定性が悪化するという懸念がある。そこで本発明は、重質分解ナフサを添加した灯油組成物であって、重質分解ナフサを添加していない灯油組成物と同等またはそれ以上の貯蔵安定性を有する灯油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、重質分解ナフサと灯油留分を混合し、水素化処理することにより、貯蔵安定性、特には、カラー安定性及び酸化安定性に優れた灯油組成物を提供できる事を見出した。
【0007】
即ち本発明は、重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理して得られた、ヨウ素価7以下、窒素濃度2質量ppm以下を持つ灯油組成物及び、該灯油組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の灯油組成物は、重質分解ナフサを添加していない灯油組成物と同等またはそれ以上の貯蔵安定性を有する。本発明の製造方法によれば、分解系基材であり、通常ガソリンまたは軽油の基材として利用されている重質分解ナフサを灯油基材として好適に活用する事ができ、かつ、重質分解ナフサを添加していない灯油組成物と同等またはそれ以上の貯蔵安定性を有する灯油組成物を提供する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明において、
(1)ヨウ素価はJIS K 0070「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に基づき測定される値である。
(2)窒素分はJIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に基づき測定される値である。
(3)硫黄分はJIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に基づき測定される値である。
(4)オレフィン分はJPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法(HPLC)」に基づき測定される値である。
(5)芳香族分はJPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法(HPLC)」に基づき測定される値である。
(6)蒸留性状はJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」に基づき測定される値である。
(7)密度はJIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」に基づき測定される値である。
(8)引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に基づき測定される値である。
(9)煙点はJIS K 2537「石油製品−灯油及び航空タービン燃料油−煙点試験方法」に基づき測定される値である。
(10)セ−ボルト色はJIS K 2580「石油製品−色試験方法」に基づき測定される値である。
(11)過酸化物価は石油学会法JPI−5S−46−96「灯油の過酸化物価試験方法」に基づき測定される値である。
【0010】
本発明の灯油組成物は、重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理して得られた灯油組成物であり、ヨウ素価7以下、好ましくは5以下、窒素分の含有量2質量ppm以下、好ましくは1質量ppm以下を持つ。ヨウ素価が前記上限値以下であれば、熱による貯蔵安定性の悪化を防止できるため好ましい。また、窒素濃度が前記上限値以下であれば、色相の安定性が図れ、熱によるカラー安定性の悪化を低減できる。窒素分の含有量は少ないほど好ましく、0質量ppmであることが最も好ましい。
【0011】
重質分解ナフサと灯油留分の混合物を水素化処理する条件は、混合物の組成に応じて、ヨウ素価及び窒素含有量が上記範囲になるように適宜選択すればよい。例えば、反応塔圧力4〜7MPa、より好ましくは4.7〜6.2MPa、さらに好ましくは5〜5.3MPaであり、水素分圧4〜6.5MPa、より好ましくは4.5〜6MPa、さらに好ましくは4.6〜5MPaであるのが好ましい。該混合物の水素化処理は、水素分圧が高い点で後の段落で説明する重質分解ナフサの選択的水素化脱硫とは異なる。また、反応塔温度は200℃〜400℃、より好ましくは250℃〜375℃、さらに好ましくは270℃〜330℃であり、液空間速度は0.1〜4V/H/V、より好ましくは0.2〜2V/H/Vであり、原料油供給速度は4〜40キロバレル/日(kBD)、より好ましくは5〜37キロバレル/日(kBD)、さらに好ましくは7.6〜33キロバレル/日(kBD)であるのがよい。
【0012】
上記水素化処理に使用する触媒としては、元素周期律表第6族金属及び/又は第8族〜第10族金属の酸化物及び/又は硫化物が好ましい。例えば、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等の酸化物及び/又は硫化物の一種又は二種以上を組合せて使用することができる。これらの活性成分の触媒組成中の含有量は、酸化物及び/又は硫化物として5重量%〜35重量%、好ましくは10重量%〜25重量%の範囲であるのがよい。触媒は担持触媒であるのが好ましく、活性金属成分の担持の方法は、公知の方法に従えばよい。担体材料は無機酸化物がよく、例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、炭素、ジルコニア、マグネシア、及び結晶性アルミノ珪酸塩等の一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、アルミナ、シリカ、及びシリカアルミナが好ましい。特には、アルミナを担体としたモリブデン系触媒が好適であり、助触媒としてコバルトやニッケルを添加して活性の向上を図るのがよく、特には、酸化コバルト及び酸化モリブデンを含む触媒が好ましい。
【0013】
上記水素化処理に使用する触媒の形状としては、球形粒状、不定形顆粒状、円柱状ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられるが、反応塔の形式や大きさ、操作条件、経済性等に応じて適宜選択すればよい。反応塔は、固定床、流動床又は沸騰床等のいずれの形式でも使用することができるが、装置面又は操作上から固定床を採用することが好ましい。又、二基以上の反応塔を多数並列に配列し、結合して使用することもできる。触媒の形状は、反応塔内の充填密度を制御できる形状およびサイズを選定すればよい。通常、直径として平均0.5mm〜5mm、好ましくは1〜3mm、より好ましくは1〜2mm、長さとして平均0.5mm〜20mm、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜6mmのものが充填密度の増加と圧力損失の抑制の観点から好適である。また、触媒は微粉体であってもよい。
【0014】
本発明の灯油組成物に配合される重質分解ナフサとしては、流動接触分解処理ナフサ(FCCナフサ)、コーカー処理ナフサ、水素化分解処理ナフサ、及びナフサの沸点範囲を有する他のガソリン混合成分から成るナフサ等が挙げられる。中でも、FCCナフサ及びコーカー処理のナフサはオレフィンをより多く含有する為、重質分解ナフサの供給原料として好ましい。分解ナフサを製造するプロセスは、使用する装置、運転条件および用いる触媒を特に限定するものでなく、公知の製造工程を採用すればよい。
【0015】
重質分解ナフサの原料油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残油、常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる留出油留分である減圧軽油、原油を常圧蒸留して得られる留出油留分のうちの直留軽油留分、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油を熱分解して得られる熱分解重質軽油留分等が挙げられる。また、接触分解プロセスで得られるガソリン留分より沸点の高いライトサイクルオイルや水素化分解プロセスで得られる減圧蒸留残油留分を用いることができる。特に、上述した留分を水素化精製処理したものが好ましく、1つの留分を単独で水素化精製処理したものでもよいし、2つ以上の留分を混合して水素化精製処理したものであってもよい。硫黄分、窒素分、バナジウム分、ニッケル分の含有量が比較的低い原料油を使用する場合は水素化精製処理せずに用いることができる。
【0016】
重質分解ナフサの全オレフィン濃度は、一般に、60重量%以下、より典型的には50重量%以下、さらには5〜40重量%である。また、重質分解ナフサは15重量%以下、より典型的には0.02〜5重量%のジエン濃度を有することもできる。高いジエン濃度は、安定性及び色の劣った灯油生成物を生じる可能性があるため好ましくない。重質分解ナフサの硫黄含有量は、一般に、0.05〜0.7重量%、より典型的には0.07〜0.5重量%である。重質分解ナフサの窒素含有量は、一般に、5〜500質量ppm、より典型的には20〜200質量ppmである。
【0017】
本発明において重質分解ナフサは予め水素化脱硫されたものが好ましい。重質分解ナフサの水素化脱硫は従来公知の方法で行えばよく、反応塔は固定床、流動床又は沸騰床のいずれの形式も使用することができるが、装置面又は操作上から固定床を採用することが好ましい。又、二基以上の反応塔を多数並列に配列し、結合して使用することもできる。特には、本発明の重質分解ナフサは選択的水素化脱硫されたものであることが好ましい。選択的水素化脱硫は、触媒及びプロセス条件を選択することによって、オレフィンの水素添加及びオクタン価の低減を最小にしつつ硫黄を除去する方法である。
【0018】
重質分解ナフサの選択的水素化脱硫は公知の方法を使用すればよく、例えば、エクソンモービル社のSCANファイニング(SCANfining)プロセスが挙げられる。SCANファイニングは、ナフサ原料材を水素化脱硫するための一段及び二段水素化脱硫工程を含む方法であり、例えば、米国特許第5,985,136号公報、米国特許第6,013,598号公報、及び米国特許第6,126,814号公報に記載されている(前記特許の記載内容は引用により本明細書中に含まれるものとする)。該SCANファイニングの一態様としては、使用する触媒が、触媒の全重量を基準として約1重量%〜約10重量%のMoO3、及び約0.1重量%〜約5重量%のCoOを含み、かつCo/Mo原子比約0.1〜約1.0、メジアン細孔直径約60Å〜約200Å、MoO3表面濃度約0.5×10-4〜3×10-4gMoO3/m2、及び平均粒子サイズ直径約2.0mm未満を有する方法である。選択的水素化脱硫には、担持触媒を用いてもよく、上記混合物の水素化処理のために例示した担体材料を使用することができる。
【0019】
選択的水素化脱硫の反応条件は、所望する脱硫率等に応じて適宜選択することができるが、通常、反応塔温度200℃〜400℃、好ましくは200℃〜350℃、より好ましくは250℃〜330℃であり、反応塔圧力1MPa〜3MPa、好ましくは1.5〜2.6MPa、より好ましくは1.7〜2.2MPaであり、水素分圧0.8MPa〜2.8MPa、好ましくは1.2〜2.5MPa、より好ましくは1.35〜2MPaであり、液空間速度0.1〜4V/H/V、好ましくは0.2〜2V/H/Vであり、原料油供給速度5〜15キロバレル/日(kBD)、好ましくは6〜14キロバレル/日(kBD)、より好ましくは6.3〜13.5キロバレル/日(kBD)である。
【0020】
本発明において、選択的水素化脱硫された重質分解ナフサは、ヨウ素価20〜200、好ましくは50〜100であり、窒素分の含有量5〜50質量ppm、好ましくは10〜40質量ppmであり、オレフィン量15〜40容量%、好ましくは20〜35容量%であり、芳香族量15〜50容量%、好ましくは20〜40容量%であるのがよい。
【0021】
重質分解ナフサは灯油組成物全量を基準に1〜30容量%、好ましくは5〜15容量%となる量で含有されるのがよい。重質分解ナフサの含有量が前記上限超ではヨウ素価を低減することが難しくなり好ましくない。重質分解ナフサの含有量が前記下限値未満では実質的に灯油留分のみとなりガソリン基材の振替による増産効果がなくなり好ましくない。
【0022】
本発明において灯油留分は原油等から精製された灯油留分であり、特に制限されるものではなく、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油、水素化分解軽油と共に製造される水素化分解灯油、前記灯油留分(直留灯油、水素化分解灯油)を水素化精製して得られる水素化精製灯油等が挙げられる。特には、原油を直接蒸留して得られる灯油であり、水素化処理されていない直留灯油であるのがよい。灯油留分の性状は、通常、沸点範囲が145〜300℃であり、50容量%留出温度(T50)が185〜220℃であり、硫黄分が20質量ppm以下であり、特には硫黄分が10質量ppm以下であることが好ましい。また、オレフィン含有量が5容量%以下、好ましくは0〜3容量%であり、芳香族量が30容量%以下、好ましくは15〜30容量%であるのがよい。
【0023】
本発明の灯油組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記基材以外の他の基材を配合することができるが、灯油の95%留出温度は270℃以下である事がJIS K2203に規定されているため、重質な成分が少ない方が良い。そのような基材としては、例えば、水素化分解軽油、軽質流動接触分解軽油、脱ろう脱硫灯油、及びGTL灯油等が挙げられる。これらの基材の配合量は、灯油組成物全量を基準に通常30容量%以下であり、好ましくは15容量%以下、より好ましくは10容量%以下である。硫黄濃度が低い基材の場合は、上記重質ナフサと灯油留分を混合し水素化処理をした後で、混合することができる。硫黄濃度が高い基材の場合は、重質ナフサ及び灯油留分と該基材を混合した後で水素化処理をするのが好ましい。硫黄濃度が高い基材としては軽質流動接触分解軽油が該当する。軽質流動接触分解軽油を混合する場合、軽質流動接触分解軽油は直留灯油よりも脱硫しにくいため、水素化処理条件を厳しくして行うのが良い。
【0024】
本発明の灯油組成物において、オレフィン分の含有量は5容量%以下であり、好ましくは0容量%以上3容量%以下、更に好ましくは0容量%以上2容量%以下である。オレフィン分が前記上限値以下ならば、熱による安定性悪化が小さいため好ましい。オレフィン分の含有量は少ないほど好ましく、0容量%が最も好ましい。
【0025】
本発明の灯油組成物において、芳香族分の含有量は30容量%以下であり、好ましくは15容量%以上25容量%以下、更に好ましくは15容量%以上22容量%以下である。芳香族分が前記上限値以下ならば、燃焼性の悪化を防止し、吹き消え(ブロ−アウト)が起こる危険性を低減できる。
【0026】
本発明の灯油組成物に含まれる硫黄分は、20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下である。硫黄分が前記上限値より少なければ、硫黄分に由来する臭気等が強くならないため好ましい。硫黄分の含有量は少ないほど好ましい。
【0027】
本発明の灯油組成物において、セ−ボルト色は+25以上であるのが好ましく、より好ましくは+27以上+30以下である。セ−ボルト色が+25以上ならば、品質面及び外観上の問題、例えば、貯蔵劣化によるスラッジ生成などの問題が発生しにくいため好ましい。
【0028】
本発明の灯油組成物において、蒸留性状は、初留点140〜170℃、好ましくは145〜165℃、50%留出温度180〜220℃、好ましくは185〜215℃、70%留出温度195〜230℃、好ましくは200〜225℃、90%留出温度215〜260℃、好ましくは220〜250℃、95%留出温度220〜270℃、好ましくは225〜260℃である。初留点が上記上限値より低ければ、着火し難い等の問題が生じる可能性が少ないため好ましい。初留点が上記下限値より高ければ、引火点が高くなりJISK 2203で定められる灯油の引火点規格値である40℃を下回る可能性が少なくなるため好ましい。また、50%留出温度、70%留出温度、90%留出温度、及び95%留出温度が上記上限値より低ければ、着火し難く定常燃焼に至るまでに時間がかかる等の問題が生じる可能性が少なくなるため好ましい。また50%留出温度、70%留出温度、90%留出温度、及び95%留出温度が上記下限値より高ければ、芯式・放射形石油ストーブ使用時において、炎を燃焼筒の上部から出さずに、燃焼筒を赤熱した状態に保つという安定した燃焼状態を保つことができ、また、消火の際に鎮火し難い等の問題が起きる可能性が少なくなるため好ましい。
【0029】
本発明の灯油組成物において、15℃における密度は、0.78〜0.81g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.785〜0.805g/cm3である。15℃における密度が前記下限値以上であれば、燃費を良好に保てるので好ましい。
【0030】
本発明の灯油組成物において、引火点は、40℃以上であることが好ましく、より好ましくは40〜60℃であり、更に好ましくは41〜60℃である。引火点が40℃以上であれば、常温で可燃性蒸気が発生することがなく、静電気などで着火する危険性を低減できるので好ましい。
【0031】
本発明の灯油組成物において、煙点は、21〜27mmであることが好ましく、23〜27mmであることがより好ましい。煙点が21mm以上であれば、燃焼性が良好であるので好ましい。
【0032】
本発明の灯油組成物において、過酸化物価は、過酸化物の生成による燃焼不良への懸念から5mg/kg未満、更には2mg/kgであることが好ましく、1mg/kg以下であることが最も好ましい。
【0033】
本発明の灯油組成物は、必要に応じて燃料油添加剤を添加することができる。燃料油添加剤としては、シッフ型化合物やチオアミド型化合物等の金属不活性剤、有機りん系化合物等の表面着火防止剤、琥珀酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン等の清浄分散剤、多価アルコール及びそのエーテル等の氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル等の助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の帯電防止剤、アルケニル琥珀酸エステル等の錆止め剤等の公知の燃料油添加剤が挙げられる。また、本発明の灯油組成物には、本発明の効果を阻害しない程度にフェノール系、アミン系等の公知の酸化防止剤を添加することができる。上記各種添加剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて添加してもよい。添加剤の添加量は、本発明の目的を阻害しない範囲で、適宜設定することができる。
【0034】
本発明の灯油組成物は、例えば、各種石油ストーブ類、石油ファンヒーター類、及び石油式給湯器等の民生用暖房機器、直火式の食品乾燥用燃料、工業用燃料、石油発動機用燃料、及びソルベント等、各種用途に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0036】
重質分解ナフサ
重質分解ナフサは選択的水素化脱硫されたものを使用した。該重質分解ナフサの性状は以下の通りであった。
ヨウ素価:85
窒素濃度:35質量ppm
オレフィン量:25容量%
芳香族量:33容量%
硫黄濃度:28質量ppm
【0037】
灯油留分
灯油留分は直留灯油を使用した。該灯油留分の性状は以下の通りであった。
沸点範囲:150〜270℃
50容量%留出温度(T50):190〜210℃
ヨウ素価:2.5
窒素濃度:1質量ppm以下
オレフィン量:1容量%以下
芳香族量:18容量%
硫黄濃度:3質量ppm
【0038】
[実施例1〜3]
灯油組成物の製造
灯油組成物全量に対する重質分解ナフサの含有量が表1に記載の容量%となるように重質分解ナフサと灯油留分とを混合した。各混合物は、水素化脱硫装置を用いて下記の反応条件で水素化処理した。
触媒担持金属:酸化モリブデン−酸化コバルト/アルミナ
反応塔圧力:5.1MPa
水素圧力:4.8MPa
通油速度:18.8キロバレル/日
反応塔温度:305℃
液空間速度:0.9V/H/V
【0039】
得られた各灯油組成物の性状を測定した。結果を表1に示す。尚、測定に使用したHPLCの装置及び分析条件は以下の通りである。
装置:HPLC
型番:LC−20ADシステム
製造元:島津製作所
移動相:n−へキサン
ポンプ流量:1ml/min
カラム:硝酸銀含浸シリカカラム、アミン修飾シリカカラム
カラム温度:40℃
試料濃度:5vol%(n−へキサン希釈)
注入量:10μl
検出器:示差屈折率検出器(RI)
【0040】
[比較例1〜3]
灯油組成物全量に対する重質分解ナフサの含有量が表1に記載の容量%となるように重質分解ナフサと灯油留分とを混合し、水素化処理せずに各混合物の性状を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
[参考例1]
灯油留分を実施例1〜3と同様の条件で水素化処理して得られた灯油の性状を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
[参考例2]
水素化処理していない灯油留分の性状を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
[カラー安定性]
上記各灯油組成物を室温下明所で7日間保存した後、及び室温下暗所で6ヵ月間保存した後のセーボルトカラーを測定した。セ−ボルトカラーの測定はJIS K 2580に準拠して行った。また、表2に示す温度、圧力下で、各灯油組成物に酸素を吹き込み加熱し、加速試験後のセーボルトカラーを測定した。加速試験はJIS K 2287(ガソリン酸化安定性試験方法)に記載されているのと同じ容器、装置を用いて行った。但し、チャッキ弁により試験中は酸素圧が一定になるようにした。詳細には、SUS製容器に各灯油組成物を100ml入れ、酸素を500kPaまで充填して密封した後、表2に記載の各温度に加熱されたオイルバス中に各容器を16時間浸した。その後、オイルバスから各容器を取り出して冷却し、試料を回収してセーボルトカラーを測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、重質分解ナフサと灯油留分を混合して得られた比較例1及び2の灯油組成物、及び重質分解ナフサのみからなる比較例3は、長時間の保存、及び加速試験後にカラー安定性が低下する。これに対し、灯油留分と重質分解ナフサを混合した後に水素化処理した実施例1乃至3の灯油組成物は、長時間の保存、及び加速試験後でも優れたカラー安定性を示す。
【0047】
[過酸化物価]
上記各灯油組成物を室温下暗所で6ヵ月間保存した後の過酸化物価を石油学会法JPI−5S−46−96に準拠して測定した。また、表3に記載の温度にて、上記カラー安定性試験と同じ方法で加速試験を行った後の過酸化物価を測定した。さらに、各灯油組成物をASTM D2274の条件下(95℃、16hr、酸素バブリング)で保存した後の過酸化物価を測定した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すように、本願発明の灯油組成物は、長時間の保存、及び加速試験後でも、重質分解ナフサを混合していない灯油留分(参考例1)と同等の過酸化物価を有し、酸化安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、分解系基材であり、通常ガソリンまたは軽油の基材として利用されている重質分解ナフサを灯油基材として好適に活用する事ができ、かつ、重質分解ナフサを添加していない灯油組成物と同等またはそれ以上の貯蔵安定性を有する灯油組成物を提供する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理して得られた、ヨウ素価7以下、窒素濃度2質量ppm以下を持つ灯油組成物。
【請求項2】
重質分解ナフサが予め選択的に水素化されているものである、請求項1に記載の灯油組成物。
【請求項3】
灯油留分が、原油を直接蒸留して得られる灯油であり、水素化処理されていない灯油(直留灯油)である、請求項1または2に記載の灯油組成物。
【請求項4】
重質分解ナフサを1〜30容量%で含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の灯油組成物。
【請求項5】
オレフィン量が5容量%以下であり、芳香族量が30容量%以下であり、及び硫黄分が20質量ppm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の灯油組成物。
【請求項6】
重質分解ナフサと灯油留分を混合し、該混合物を水素化処理する工程を含む、灯油組成物の製造方法。
【請求項7】
重質分解ナフサと灯油留分を混合する前に、重質分解ナフサを選択的に水素化する工程を含む、請求項6に記載の灯油組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−40283(P2013−40283A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178321(P2011−178321)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)