説明

災害用避難着

【課題】緊急的な避難が必要な災害時に、裸の状態の避難者が羞恥心を感じることなく迅速に避難できるようにする。
【解決手段】布材を前合わせ式の浴衣状に形成してなり本体10で少なくとも避難者の胴体部分を覆う災害用避難着1であって、本体10の背中側を構成する所定範囲が、2つに折り畳まれて重ねられた状態で折り線側を除く周縁部を係着手段としての面状ファスナ25,26係着されて袋状とされ内部に収納スペースを有した袋体2を構成し、袋体2の収納スペース内に他の本体10の部分が折り畳まれた状態で収納され、保管状態とされることを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害用避難着に関し、殊に、入浴時など避難者が裸の状態にある場合に、緊急的に体を覆うことで羞恥心により躊躇することなく避難できるようにするための災害用避難着に関する。
【背景技術】
【0002】
温泉旅館や日帰り入浴施設などの施設を利用している際に地震や火災等の災害に遭った場合には、短時間で安全な場所まで避難する必要性が生じる。そのとき、避難者が裸の状態である場合、衣服を置いた衣服保管場所に行って自分の衣服を確保して着用するのは、実際にはその時間的な余裕がないのが通常である。
【0003】
そして、その災害が地震である場合には、棚やロッカーが倒れて自分の衣服を取り出せなかったりガラスや脱衣物が散乱して自分の衣服を発見できなかったりして、すぐに自分の衣服を着用することができない状況が多い。また、火災の場合には煙や炎に遮られて自分の衣服の保管場所まで容易には行けない状況も生じうる。さらに、大勢の避難者がいる場合には、パニック状態が発生して一層衣服を着る余裕のない状態となってしまう。
【0004】
そのため、自己の安全確保を最優先した場合、裸のまま最短時間で避難することが最善の方法である。しかし、特に女性の場合など、羞恥心が邪魔をして裸のまま避難することに躊躇しがちになるのが普通であり、逃げ遅れて災害の犠牲になりやすいと言われている。また、足元にガラスの破片や金属片が散乱している状況においては、裸足でその上を歩くことにも躊躇が生じるため、迅速な避難を遂行することの妨げとなりやすい。
【0005】
この問題に対し、特開2006−214068号公報には、防水生地からなり頭部をフードとし下方を胴体部として、フード先端から胴体部にかけて前面部に縦長でスライドファスナーを有する開閉自在な開口部を備えた略円錐状の携帯マントを、災害時において人体を完全に覆う目的で使用することが開示されている。
【0006】
この携帯マントは、折り畳むことにより外ポケットに挿入自在とされ、コンパクトな状態にして携帯することができるとともに、地震等の災害時におけるトイレ行為や着替えの際に、人体をスッポリと覆うことができるため、羞恥心を感じることなくこれらの行為を行えるという利点がある。しかしながら、この携帯マントは、頭からスッポリと被って使用する方式であるため、周囲の目視が困難であるとともに体の動きが規制されることから、緊急時における避難行動をとりにくくするという欠点がある。
【0007】
また、この携帯マントはコンパクトで携帯に便利な状態に折り畳まれるものの、これを開いて着用可能な状態にするには比較的手間を要するとともに、初めて使用する者にとっては直感的に使用方法が理解できない可能性も高く、入浴施設等の常備用避難着として好適なものではない。
【特許文献1】特開2006−214068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、緊急的な避難が必要となる災害時に、裸の避難者が羞恥心を感じることなく迅速に避難できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、布材を前合わせ式の浴衣状に形成してなり、本体で少なくとも避難者の胴体部を覆う災害用避難着であって、本体の背中側を構成する所定範囲が、2つに折り畳まれて重ねられた状態で折り線側を除く周縁部を所定の係着手段で係着されて袋状とされ内部に収納スペースを有した袋体を構成し、その袋体の収納スペース内に他の本体部分が折り畳まれた状態で収納され、保管状態とされることを特徴とするものとした。
【0010】
このように、コンパクトに折り畳まれて袋体に収納される災害用避難着とし、その係着手段を解除することによりすぐに着用出来る状態になり、且つ、少なくとも胴体部分を覆うことのできる浴衣式としたことにより、直感的に使用方法を理解できるとともに短時間で裸体を隠して羞恥心を感じることなく避難可能な状態とすることができる。
【0011】
また、その係着手段は、一組以上の面状ファスナからなるものとすれば、両側から引っ張るだけで折り畳まれた部分を袋体から容易に引き出すことができ、短時間で体を覆うことが可能な状態となり、この場合、係着される周縁部の略中央位置に、所定の掛止手段に掛止するための掛止構造が折り重なる両端部側に対で設けられており、両掛止構造を離反方向に牽引することで係着手段が解除されて収納された本体部分が露出するものとすれば、両掛止構造を引っ張るだけで袋体が開いて内部に折り畳まれた本体部分が落下しながら広がるため、より短時間で着用できる状態となる。
【0012】
さらに、上述した災害用避難着において、その両腕を通す部分は、袖が省略または半袖とされたものとすれば、より布地が少なくなってコンパクト化が容易なものとなる。さらにまた、その本体の前合わせ部には一組以上の面状ファスナが本体の内径を調整可能な状態で設けられていることを特徴としたものとすれば、避難着の装着時間が短縮化されるとともに、フリーサイズとしての利用も可能となる。
【0013】
加えて、上述した災害用避難着において、その本体の背面側下端縁略中央位置から、上向きに所定長さのスリットが設けられており、本体前合わせ部における両端縁側とスリットによる両端縁側が所定の係着手段で各々筒状体を形成するように係着され、2つの筒状部に分岐したパンツ式となることを特徴としたものとすれば、緊急な事態を脱した後でより活動的な被服にして使用することができる。
【0014】
さらに加えて、上述した災害用避難着において、袋体の表面所定位置には災害用避難着であることを表示する表示部が設けられているものとすれば、災害用避難着の存在を認識していなかった避難者でもすぐに認識可能として、これを使用できるようになる。そして、袋体に他の本体部分を折り畳んで収納した状態で、袋体の収納スペース内に足保護用の一足の履物が収納されていることを特徴とするものとすれば、散乱したガラス等の危険物を踏むことを躊躇することなく一層短時間で避難出来るものとなる。
【発明の効果】
【0015】
前合わせ式の浴衣状としてその背中側の部分で構成される袋体に他の部分が折り畳まれて収納されて、使用時に容易に開いて直感的に着用可能とした本発明によると、緊急的な避難が必要となる災害時に、裸の状態の避難者が羞恥心を感じることなく迅速に避難することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1(A),(B),(C),(D)は、本実施の形態の災害用避難着1の構成及び機能を説明するための図を示している。この災害用避難着1は、入浴施設を利用中に地震などの緊急的な避難を要する災害が発生した場合に、避難者が裸の状態であっても短時間で着用可能として、羞恥心により躊躇することなく迅速に避難させるためのものである。従って、災害用避難着1は入浴施設の脱衣所において目立ちやすく利用しやすい位置、例えば出入り口の最短距離の位置等に予め設置しておくことを想定したものである。
【0018】
図1(A)を参照して、災害用避難着1は、全体として所定形状の布材を縫製してなるものであり、その背中側の所定部分が他の本体部分を折り畳んだ状態で収納するための袋体2を構成する点を特徴としている。この袋体2は、長方形をその中間位置で2つ折りにして重ね合わせて半分の長方形とし、その折り線部分を除く周縁部(3辺)が対の面状ファスナ25,26(図(B)参照)からなる係着手段で係着されており、その他の本体部分がコンパクトに折り畳まれた状態で内側の収納スペースに収まっている。尚、この袋体2の外面全体または周縁部表面に、黄色や目立つ蛍光色等の色彩を施すことにより、避難者においてその発見及び緊急時用のものであることの認識が容易なものとなる。
【0019】
この袋体2の内部に他の本体部分が収納される災害用避難着1には、脱衣所の壁に設けたフック等の掛止手段に掛止するための掛止構造として、掛輪23,24が袋体2の重ね合わせによる周縁部中央位置の両側に対で設けられている。また、袋体2の表面略中央位置には、「入浴中の災害用避難着」等の災害用の避難着であることを表示する表示部21が設けられているとともに、その使用方法を説明するための説明部22が設けられており、これらを表側にした状態で施設利用者が目視及び認識しやすい位置に複数配置される。
【0020】
そして、地震等の災害が発生した場合には、上述したように自分の衣類を確保して着る余裕がない状況になるところ、図1(B)に示すように、この災害用避難着1は、掛輪23,24を把持してこれを互いに引き離すように引っ張るだけで、面状ファスナ25,26の係着が解除されて袋体2が開き、内部の本体10が露出するようになっている。
【0021】
この場合、掛輪23が壁のフック等の掛止手段に掛かったままの状態で一方の掛輪24を引き下げるようにしてもよく、これによりワンモーションのみで本体10が落下するように一瞬にして引き出されるため、災害用避難着1をより短時間で図1(C)のような状態に開くことが可能となる。
【0022】
また、この災害用避難着1は、袖のない袖口12a,12bだけの浴衣状とされるとともに前合わせ部11a,11bを重ね合わせて着る、前合わせ式となっており、前合わせ部11a,11bには面状ファスナ15,16の組み合わせによる係着手段が複数設けられている。このように、浴衣状の前合わせ式として面状ファスナによる係着としたことで、避難者は予備知識がなくても直感的に容易に短時間で着用出来るようになっている点が特徴である。
【0023】
その係着手段の一方を構成する面状ファスナ15は、左右方向に長く避難着の内径(サイズ)を調整可能な状態とされているため、本実施の形態の災害用避難着1はフリーサイズとして使用することができる。従って、配備コストを低廉に抑えやすいとともに、利用者が自分に合ったサイズを探す手間を省略できるようになっている。
【0024】
図1(D)は、図(C)の背面図を示している。災害用避難着1は、上述したように本体10背面側の部分の所定範囲を袋体2に使用しているため、背中部分に袋体2が長方形状に開いた状態となっている。また、本体10の背面側の下端縁中央位置からはスリット17が上向きに設けられており、図2の正面図に示すように、つなぎ風のパンツ式にすることも可能となっている。
【0025】
このようにパンツ式とした場合、前合わせ部11a,11bの下部両端縁側とスリット17による両端縁側を面状ファスナ16等の係着手段により係着することにより、2つの筒状部を形成る。例えば、図1(C)の状態にした災害用避難着1を着用して緊急的に危険な場所から避難した後、図2のようなパンツ式とすることにより、前合わせ部下側の乱れが気にならない活動的な被服になる。
【0026】
尚、図3に示すように、災害用避難着1の本体10を袋体2内に折り畳んで収納する際に、一足のスリッパ等の履物30を一緒に収納しておくことが推奨される。即ち、袋体2を開くことにより履物30が落下して取り出され、これを履くことにより、散乱したガラス等の危険物を裸足で踏むことの躊躇が生じることなく、安全且つ迅速に避難しやすいものとなる。
【0027】
図4は、本実施の形態の災害用避難着1を実際に作成し、図2のようなつなぎ風パンツ式の状態にして実際に着用した状態を示す写真である。右が正面視であり、左が背面視であるが、着用した女性の胴体の殆ど総て及び脚部大部分を覆い隠した状態となっているため、羞恥心を感じることなくあらゆる動作が可能な状態となっている。
【0028】
尚、上述した本実施の形態の説明において、入浴施設利用中の災害に対応する場合の機能について説明したが、本発明はこれに限定されず、利用者が素裸や裸に近い状態にあるときに生じた災害時の避難において、同様にその有用性が期待できるものである。従って、代表的な温泉旅館の入浴施設のみならず、例えば温浴設備のある総ての施設、スーパー銭湯・日帰り温泉・健康ランド・サウナ・岩盤浴施設・ゴルフ場・スポーツクラブやホテルのスパ・企業保養所・エステ・病院・介護施設など、様々な施設における配備が想定される。
【0029】
以上、述べたように、緊急的な避難が必要な災害時において、本発明により避難者が裸の状態の場合であっても、羞恥心を感じることなく短時間且つ迅速に避難できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)は本発明の実施の形態の災害用避難着を袋体に収納した状態を示す正面図、(B)は(A)の状態から袋体を開いた状態を示す正面図、(C)は(B)の状態から本体を広げた状態を示す正面図、(C)は(B)の背面図。
【図2】図1(C)の災害用避難着をパンツ式にした状態を示す正面図。
【図3】図1(A)の袋体に履物を収納して開いた状態を示す正面図。
【図4】図2の災害用避難着を実際に作成して着用した状態を示す写真。
【符号の説明】
【0031】
1 災害用避難着、2 袋体、10 本体、12a,12b 袖口、15,16,25,26 面状ファスナ、17 スリット、21 表示部、23,24 掛輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布材を前合わせ式の浴衣状に形成してなり、本体で少なくとも避難者の胴体部を覆う災害用避難着であって、前記本体の背中側を構成する所定範囲が、2つに折り畳まれて重ねられた状態で折り線側を除く周縁部を所定の係着手段で係着されて袋状とされ内部に収納スペースを有した袋体を構成し、該袋体の収納スペース内に他の本体部分が折り畳まれた状態で収納され、保管状態とされることを特徴とする災害用避難着。
【請求項2】
前記係着手段は、一組以上の面状ファスナからなることを特徴とする請求項1に記載した災害用避難着。
【請求項3】
前記係着される周縁部の略中央位置に、所定の掛止手段に掛止するための掛止構造が折り重なる両端部側に対で設けられており、前記両掛止構造を離反方向に牽引することで前記係着手段が解除されて収納された前記本体部分が露出する、ことを特徴とする請求項2に記載した災害用避難着。
【請求項4】
前記本体の両腕を通す部分は、袖が省略または半袖とされていることを特徴とする、請求項1,2または3に記載した災害用避難着。
【請求項5】
前記本体の前合わせ部に、一組以上の面状ファスナが前記本体の内径を調整可能な状態で設けられている、ことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載した災害用避難着。
【請求項6】
前記本体の背面側下端縁略中央位置から、上向きに所定長さのスリットが設けられており、前記本体の前合わせ部における両端縁側と前記スリットによる両端縁側が所定の係着手段で各々筒状体を形成するように係着され、2つの筒状部に分岐したパンツ式となることを特徴とする、請求項1,2,3,4または5に記載した災害用避難着。
【請求項7】
前記袋体の表面所定位置に、災害用避難着であることを表示する表示部が設けられている、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6に記載した災害用避難着。
【請求項8】
前記袋体に他の前記本体部分を折り畳んで収納した状態で、前記収納スペース内に足保護用の一足の履物が収納されている、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6または7に記載した災害用避難着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37674(P2010−37674A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200304(P2008−200304)
【出願日】平成20年8月3日(2008.8.3)
【出願人】(505153096)有限会社バースケア (5)
【Fターム(参考)】