説明

炉心スプレーライン肘部溶接継手を補修するための装置および方法

【課題】主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する肘部クランプ組立体を提供すること。
【解決手段】肘部クランプ組立体は、対向する関係で主管の両側に固定可能な上部クランプ体(12)および下部クランプ体(14)を含む。上部および下部クランプ体は主管を貫通して延在可能なクランプボルト(16)によって接続される。肘部ボス(17)は肘部管に固定可能で、交差ボルト(19)は肘部管を貫通して延在可能であり、肘部ボスとクランプボルトと間を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概ね肘部溶接継手に関し、具体的には沸騰水型原子炉内の炉心スプレーライン肘部溶接継手を補修または構造的に代替するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
稼働中の沸騰水型原子炉内の炉心スプレー配管システムは典型的には溶接構造である。しかし、炉心スプレーシステム配管の溶接は、粒界応力腐食割れ(IGSCC:intergranular stress corrosion cracking)の影響を受けやすい。結果的に、炉心スプレーラインの溶接肘部継手は亀裂する可能性がある。
【0003】
大半の稼働中の原子炉に共通して、炉心スプレー冷却水は原子炉容器の内側の配管によって原子炉炉心領域に供給される。この内部配管の一部は、原子炉容器壁の曲率半径に沿う水平部分である。例示的炉心スプレーラインを図1に示す。水平配管の近位端部は炉心スプレーノズル貫通部においてT−ボックスに接続される。この水平炉心スプレーラインの遠位端部は短半径肘部に溶接される。図1に示すように、炉心スプレーラインの遠位端部を短半径肘部に接合する溶接はP4a溶接と示され、短半径肘部を降水管に接合する溶接はP4b溶接と示される。
【特許文献1】米国特許第5,521,951号広報
【特許文献2】米国特許第5,530,219号広報
【特許文献3】米国特許第5,602,887号広報
【特許文献4】米国特許第5,623,525号広報
【特許文献5】米国特許第5,642,955号広報
【特許文献6】米国特許第5,646,969号広報
【特許文献7】米国特許第5,675,619号広報
【特許文献8】米国特許第5,699,397号広報
【特許文献9】米国特許第5,802,686号広報
【特許文献10】米国特許第5,905,771号広報
【特許文献11】米国特許第5,947,529号広報
【特許文献12】米国特許第6,857,814号広報
【特許文献13】米国特許第6,131,962号広報
【特許文献14】米国特許第6,201,847号広報
【特許文献15】米国特許第6,345,084号広報
【特許文献16】米国特許第6,375,130号広報
【特許文献17】米国特許第6,421,406号広報
【特許文献18】米国特許第6,456,682号広報
【特許文献19】米国特許第7,203,263号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
P4a溶接に亀裂が発生した場合には、冷却水を原子炉炉心に供給する炉心スプレーラインの構造的一体性が失われる。炉心スプレーラインのこの溶接位置において円周方向の壁部貫通亀裂が発生した場合のP4a溶接の分離を防止するために、先制的な補修が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例示的一実施形態では、肘部クランプ組立体は、(直線状の、または湾曲した)主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する。肘部クランプ組立体は、対向する関係で主管の両側に固定可能な上部クランプ体および下部クランプ体を含む。上部および下部クランプ体は主管を貫通して延在可能なクランプボルトによって接続される。肘部ボスは肘部管に固定可能で、交差ボルトは肘部管を貫通して延在可能であり、肘部ボスとクランプボルトとの間で接続される。
【0006】
他の例示的実施形態では、肘部クランプ組立体は、上部および下部クランプ体の1つと連結し、クランプボルトの頭部と係合可能な締付機構、ならびに、肘部ボスに取り付けられる固定機構であって、交差ボルトの頭部と係合可能な固定機構を含む。
【0007】
さらに他の例示的実施形態では、肘部クランプ組立体を使用して、(直線状の、または湾曲した)主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する方法は、接合範囲において主管および肘部管を貫通する第1の開口を形成するステップと、対向する関係で主管の両側に上部クランプ体および下部クランプ体を固定するステップと、第1の開口を貫通して延在可能なクランプボルトによって上部および下部クランプ体を接続するステップと、肘部管を貫通する第2の開口を形成するステップと、第2の開口を貫通して交差ボルトを延在させ、交差ボルトをクランプボルトに接続することによって、肘部管に肘部ボスを固定するステップと、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
主管(直線状であるか、または原子炉容器の円筒形内面と同心となるように湾曲している)と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替し、具体的には沸騰水型原子炉内の短半径肘部に炉心スプレー水平管を接合するP4a溶接を代替するクランプ装置を本明細書で説明する。クランプ装置は様々なサイズの炉心スプレーラインを有する原子炉プラントに適用可能である。
【0009】
図2は炉心スプレーラインに取り付けられた肘部クランプ組立体10を示す。図3および図4は肘部クランプ組立体10の等角図である。肘部クランプ組立体10は、上部クランプ体12および下部クランプ体14を含み、上部クランプ体12および下部クランプ体14は炉心スプレーラインの水平部分と接する。クランプ体12、14は、水平管に形成される孔を貫通するクランプボルト16、および、クランプボルト16の端部に螺合されるクランプボルトナット18によって、水平管上の所定の位置に保持される。肘部ボス17は肘部管に固定可能で、交差ボルト19は肘部管を貫通して延在可能であり、肘部ボス17とクランプボルト16との間で接続される。
【0010】
炉心スプレーラインの外径は、指定された製造公差内で変更されてよい。また、形成された湾曲した管は、大方の場合、断面が僅かに楕円形である。そのため、上部および下部クランプ体12、14に機械加工された曲率半径は、管の公称曲率半径より僅かに小さい。これによって、クランプ体12、14は炉心スプレーラインと適切に接することが確実となる。
【0011】
上部および下部クランプ体12、14の両方は球形の座面20に適合する形態を有し(feature)、それらはクランプボルトナット18およびクランプボルト16の球形の座面とそれぞれ対合する(図5および図6参照)。さらに、上部クランプ体12は、(非円形に、好ましくは正方形に)形状付けされ機械加工された凹部22を含み、凹部22は、クランプボルトナット18の回転を防止するために、クランプボルトナット18と接する。上部および下部クランプ体12、14は、湾曲した管と接するように機械加工されることが好ましい(すなわち、この機械加工された表面は、湾曲した管によって画定される平面内の管の湾曲に沿う、すなわちその湾曲を模す)。
【0012】
下部クランプ体14はクランプボルト留め具24(図7)を収容し、クランプボルト留め具24は下部クランプ体14の機械加工された凹部26に備えられる。クランプボルト留め具24は、留め具24および下部クランプ体14が共有する界面の形態によって、3つの異なる位置において拘束的に保持される。クランプボルト留め具24の機能は、クランプボルト16の回転を防止し、それによってクランプボルトの予圧を維持することである(下記にさらに詳細に説明する)。
【0013】
クランプボルトナット18の内側ねじはクランプボルト16の外側ねじと噛合する。ナット18は略正方形の形状および球形の座面を有し、球形の座面は上部クランプ体12と接する。クランプボルト16の遠位端部は、クランプボルトナット18の遠隔取付けを容易にするために、クランプボルト18のねじ内径より僅かに小さい直径に機械加工される。
【0014】
図8を参照すると、クランプボルト軸の中央部分は拡大した直径を有する部分28を含む。この部分28は交差ボルト19の頭部30と接する。小さい唇部すなわち突縁部32がこの中央の部分28と一体となり、交差ボルト19の頭部30は取付けの際に突起した唇部32に載るので、突縁部32はクランプボルト16に対する交差ボルト19の適切な配置を確実にする。
【0015】
クランプボルト16の近位端部は球形の座面34およびラチェット歯36を含み、この球形の座面34およびラチェット歯36はそれぞれ、下部クランプ体14、およびクランプボルト留め具24の歯38と接する。クランプボルト留め具24はヘアピンに似た形状であることが好ましく、それは本質的に一端で接合される2つの片持ち梁からなる。第1および第2の片持ち梁の自由端部においても、両方の梁が一体に接合される共通する端部においても、保持する形態が存在する。さらに、第1の片持ち梁の端部における保持する形態はまた、クランプボルト16の歯38と接する歯36、および、ボルトの予圧を増加する方向にクランプボルト16の回転を制限する(すなわち、クランプボルトがボルトの予圧を損なうことを防止する)機能を含む。
【0016】
交差ボルト19の頭部すなわち遠位端部30は、クランプボルト16と接する。交差ボルト19のこの端部は、炉心スプレー流の流体流れ抵抗を最小にするように形状が球形であることが好ましい。交差ボルト19の近位端部は外側ねじ付きで設計され、外側ねじは交差ボルトナット40の内側ねじと噛合する。交差ボルト19の最遠位端部は、交差ボルトナット40のねじ内径より僅かに小さい直径に機械加工されることが好ましく、それによって、交差ボルトナット40の遠隔取付けを容易にする導入部が形成される。
【0017】
交差ボルトナット40は、図4および図9に示される交差ボルトナット留め具42に担持され、交差ボルトナット留め具42は、開口44を貫通する4つの平頭ねじによって肘部ボス17に締結される。肘部ボス17の他方の端部は、スリーブ突起を除いて、炉心スプレーラインの短半径肘部の外面の形状に機械加工され、スリーブ突起は、炉心スプレーラインの短半径肘部に機械加工された孔と接する。この形態は短半径肘部に肘部ボス17を固定または固着し、それによって、交差ボルト19に不要な曲げ荷重を加えることとなる肘部ボス17の不要な動きを防止する。
【0018】
肘部クランプ組立体10の取付けは、まず、図10に示すように短半径肘部および水平配管部分においてEDM(放電加工機:electiric dischrge machining)等により孔46を機械加工形成することによって行われる。交差ボルト19が短半径肘部に設けられた孔を貫通して挿入される。次いで、下部クランプ体14、クランプボルト留め具24およびクランプボルト16が炉心スプレーラインの下側に組立体として一体にされる。クランプボルト16の遠位端部が、水平配管の下側に設けられた孔を貫通して挿入され、交差ボルト19の頭部30の孔に係合され、最終的には水平配管の上側に設けられた孔から表面に出される。次いで、上部クランプ体12およびクランプボルトナット18がクランプボルト16の遠位端部のまわりに配置される。
【0019】
次いで、クランプボルト16がクランプボルトナット18のねじに係合するように回転され、クランプボルト16は公称予圧まで締め付けられる。交差ボルト留め具42が取り付けられた肘部ボス17が、交差ボルト19の近位端部のまわりに配置され、その後に交差ボルトナット40が配置される。交差ボルトナット40は交差ボルト19に螺合され、公称予圧まで締め付けられる。最終的には、クランプボルト16および交差ボルトナット40はそれらの最終的な指定の値まで予圧を付勢される。
【0020】
説明された肘部クランプ組立体は、沸騰水型原子炉内の短半径肘部に炉心スプレー水平配管を接合するP4a溶接を支持または構造的に代替する。クランプ組立体は遠隔的に取付け可能で、様々なサイズの炉心スプレーラインを有する原子炉プラントに適用可能である。
【0021】
本発明は現在最も実現的で好ましい実施形態であると考えられるものに関連して説明されたが、本発明は、開示された実施形態に限定されるのではなく、むしろそれとは反対に、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる様々な改良および均等な構成を網羅することを意図することを理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】炉心スプレー冷却水を原子炉炉心領域に供給するための内部配管の水平部分の図である。
【図2】肘部クランプが取り付けられた炉心スプレーラインの斜視図である。
【図3】および
【図4】肘部クランプ組立体の等角図である。
【図5】上部クランプ体の図である。
【図6】下部クランプ体の図である。
【図7】クランプボルト留め具が所定の位置にある下部クランプ体の図である。
【図8】クランプボルトの図である。
【図9】交差ボルトナット留め具の図である。
【図10】は取付け方法の一ステップを示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10 肘部クランプ組立体
12 上部クランプ体
14 下部クランプ体
16 クランプボルト
18 クランプボルトナット
17 肘部ボス
19 交差ボルト
20 球形の座面
22 機械加工された凹部
24 クランプボルト留め具
26 機械加工された溝状凹部
28 直径拡大部分
30 交差ボルト頭部
32 唇部または突縁部
34 球形の座面
36 ラチェット歯
38 歯
40 交差ボルトナット
42 交差ボルトナット留め具
44 開口
46 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する肘部クランプ組立体であって、
前記主管を貫通して延在可能なクランプボルト(16)によって接続される、対向する関係で前記主管の両側に固定可能な上部クランプ体(12)および下部クランプ体(14)と、
前記肘部管に固定可能な肘部ボス(17)と、
前記肘部管を貫通して延在可能であり、前記肘部ボスと前記クランプボルトとの間に接続される交差ボルト(19)と
を有する肘部クランプ組立体。
【請求項2】
前記上部クランプ体(12)は形状付けされた凹部(22)を有し、前記形状付けされた凹部は前記クランプボルト(16)と係合可能な相補的な形状付けされたクランプボルトナット(18)を収容し、前記形状付けされた凹部は前記クランプボルトナットの回転を防止することを特徴とする請求項1記載の肘部クランプ組立体。
【請求項3】
前記下部クランプ体(14)は、前記クランプボルト(16)の頭部を収容するように形状付けされた機械加工された凹部、および、前記機械加工された凹部に隣接して配置される溝状凹部(26)を有し、前記肘部クランプ組立体は、前記溝状凹部に収容され、前記クランプボルトに対する予圧を保持するように前記クランプボルト頭部と係合可能なクランプボルト留め具(24)をさらに有することを特徴とする請求項2記載の肘部クランプ組立体。
【請求項4】
前記クランプボルト頭部は、その外周のまわりにラチェット歯(36)を有し、前記ラチェット歯は、前記クランプボルト留め具が前記溝状凹部(26)に収容される場合、前記クランプボルト留め具(24)上の対応する歯(38)に係合することを特徴とする請求項3記載の肘部クランプ組立体。
【請求項5】
前記対応する歯(38)および前記ラチェット歯(36)は、前記クランプボルト(16)の回転を、前記クランプボルトに対する予圧を増大する方向に制限するように構成されることを特徴とする請求項4記載の肘部クランプ組立体。
【請求項6】
前記交差ボルト(19)は、前記交差ボルトの接続端部において、前記クランプボルト(16)に接続され、前記接続端部は流体流れ抵抗を最小とするように形状付けられることを特徴とする請求項1記載の肘部クランプ組立体。
【請求項7】
交差ボルトナット留め具(42)が前記肘部ボス(17)に固定され、前記交差ボルトは前記肘部ボスと前記クランプボルト(16)との間に交差ボルトナット(40)によって固定され、前記交差ボルトナットは前記交差ボルトナット留め具に収容され、前記交差ボルトナットおよび前記交差ボルトナット留め具は、前記交差ボルトに対する予圧を保持するのに役立つ締付構造を含むことを特徴とする請求項1記載の肘部クランプ組立体。
【請求項8】
前記クランプボルト(16)は、前記交差ボルト(19)が接する直径拡大部分(28)を有することを特徴とする請求項1記載の肘部クランプ組立体。
【請求項9】
主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する肘部クランプ組立体であって、
前記主管を貫通して延在可能なクランプボルト(16)によって接続される、対向する関係で前記主管の両側に固定可能な上部クランプ体(12)および下部クランプ体(14)と、
前記上部および下部クランプ体の1つと連結され、前記クランプボルトの頭部に係合可能な締付機構(24)と、
前記肘部管に固定可能な肘部ボス(17)と、
前記肘部管を貫通して延在可能であり、前記肘部ボスと前記クランプボルトとの間で接続される交差ボルト(19)と、
前記肘部ボスに取り付けられる固定機構(42)であって、前記交差ボルトの頭部と係合可能な固定機構と
を有する肘部クランプ組立体。
【請求項10】
肘部クランプ組立体を使用して、主管と肘部管との間の接続を構造的に支持または代替する方法であって、前記肘部クランプ組立体が、上部クランプ体(12)および下部クランプ体(14)と、前記肘部管に固定可能な肘部ボス(17)と、前記肘部ボスとクランプボルト(16)との間に接続される交差ボルト(19)とを有し、
接合範囲において前記主管および前記肘部管を貫通する第1の開口(44)を形成するステップと、
対向する関係で前記主管の両側に前記上部クランプ体および前記下部クランプ体を固定するステップと、
前記第1の開口を貫通して延在可能な前記クランプボルト(16)によって前記上部および下部クランプ体を接続するステップと、
前記肘部管を貫通する第2の開口(46)を形成するステップと、
前記第2の開口を貫通して前記交差ボルトを延在させ、前記交差ボルトを前記クランプボルトに接続することによって、前記肘部管に前記肘部ボスを固定するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−122100(P2009−122100A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286270(P2008−286270)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(508177046)ジーイー−ヒタチ・ニュークリア・エナージー・アメリカズ・エルエルシー (101)
【氏名又は名称原語表記】GE−HITACHI NUCLEAR ENERGY AMERICAS, LLC