説明

炎症の治療用薬剤の投与

【課題】病的炎症を長期的に低減する方法の提供。
【解決手段】α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に特異的に結合する薬剤の投与により、患者の病的炎症を長期的に低減する。好ましくは、α4インテグリン二量体に結合するモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片が使用される。具体的には、ナタリズマブが例示される。該薬剤は、多発硬化症によって引き起こされる炎症、クローン病、潰瘍性大腸炎または炎症性腸疾患等に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、アルファ−4(α4)サブユニットを含むインテグリン受容体に特異的に結合し、阻害する薬剤およびその治療上の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、感染または損傷に対する血管化組織の反応であり、血管の内皮細胞への白血球の接着と周囲組織へのそれらの浸潤による影響を受ける。通常の炎症では、浸潤白血球は、有毒なメディエータを放出して侵入生物を殺滅し、壊死組織片および死細胞を貪食し、組織修復および免疫応答に役割を果たす。しかしながら、病的炎症では、浸潤白血球は、過剰反応性で、重篤または致命的な障害を引き起こし得る。例えば、Hickey、Psychoneuroimmunology II(Academic Press 1990)(非特許文献1)を参照のこと。
【0003】
インテグリンは、細胞接着、免疫細胞の移動および活性化に関与する細胞表面糖タンパク質のファミリーである。α4インテグリンは、好中球を除くすべての循環白血球によって発現され、ベータ1またはベータ7インテグリンサブユニットとともにヘテロ二量体受容体を形成する。アルファ−4ベータ−1(α4β1)およびアルファ−4ベータ−7(α4β7)二量体は、血管内皮を横切る白血球の移動に役割を果たし(Springer等、1994、Cell、76、301〜14頁(非特許文献2)、およびButcher等、1996、Science、272、60〜6頁(非特許文献3)、実質における細胞の活性化および生存に寄与する(Damle等、、1993、J.Immunol.、151、2368〜79頁(非特許文献4)、Koopman等、1994、J.Immunol.、152、3760〜7頁(非特許文献5)、およびLeussink等、、2002、Acta Neuropathol.、103、131〜136頁)(非特許文献6)。
【0004】
特に、α4β1(超後発抗原−4[VLA−4]としても知られている)は、慢性炎症の多くの部位で血管内皮により発現される(Bevilacqua等、1993 Annu. Rev. Immunol.、11、767〜804頁(非特許文献7)、およびPostigo等、1993 Res. Immunol.、144、723〜35頁(非特許文献8))血管細胞接着分子−1(VCAM−1)に結合する(Lobb等、1994 J.Clin. Invest.、94、1722〜8頁(非特許文献9))。α4β7二量体は、粘膜アドレッシン細胞接着分子(MAdCAM−1)と相互作用し、リンパ球の腸へのホーミングを媒介する(Farstad等、、1997 Am. J. Pathol. 150、187〜99頁(非特許文献10)、Issekutz等、、1991 J. Immunol. 147、4178〜84頁(非特許文献11))。血管内皮上のMAdCAM−1の発現も炎症性腸疾患(IBD)患者の腸管における炎症の部位で増加している(Briskin等、.、1997 Am. J. Pathol. 151、97〜110頁(非特許文献12))。
【0005】
α4インテグリンのような接着分子は、治療薬の潜在的標的である。例えば、α4インテグリンがサブユニットであるVLA−4受容体は、脳内皮細胞にあるリガンドと相互作用するので、重要な標的である。脳における炎症に起因した疾患および状態は、特に重度な結果を有する。他の例において、α4β7インテグリン二量体は、胃腸管におけるリンパ球のホーミングおよび病的炎症に関与するため、重要な標的である。
【0006】
α4β1インテグリンは、活性化リンパ球および単球の細胞表面上に発現する。これは、急性炎症性脳病変および多発硬化症(MS)に随伴する血液脳関門(BBB)の崩壊の病因に関連付けられた(Coles等、1999 Ann. Neurol. 46(3)、296〜304頁(非特許文献13))。α4インテグリンに対する薬剤が、動物モデルにおいてin vitroおよびin vivoでそれらの抗炎症能について試験された。Yednock等、1992 Nature 356、63〜66頁(非特許文献14)、1998年11月24日にBendig等に対して発行された米国特許第5840299号(特許文献1)、および1999年12月14日にThorsett等に対して発行された米国特許第6001809号(特許文献2)を参照のこと。in vitro実験で、α4インテグリン抗体が脳内皮細胞へのリンパ球の付着を阻害することが示されている。多発硬化症を模擬した人工的に誘発された状態である実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を有する動物に対するα4インテグリン抗体の効果を試験した実験で、抗α4インテグリン抗体の投与により動物における脳の炎症と後続の麻痺が予防されることが示された。ひとまとめにすると、これらの実験により、抗α4インテグリン抗体は多発硬化症ならびに他の炎症性疾患および障害を治療するための潜在的に有用な治療薬であることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5840299号
【特許文献2】米国特許第6001809号
【特許文献3】米国特許第6225447号
【特許文献4】米国特許第6180336号
【特許文献5】米国特許第6172197号
【特許文献6】米国特許第6140471号
【特許文献7】米国特許第5969108号
【特許文献8】米国特許第5885793号
【特許文献9】米国特許第5872215号
【特許文献10】米国特許第5871907号
【特許文献11】米国特許第5858657号
【特許文献12】米国特許第5837242号
【特許文献13】米国特許第5733743号
【特許文献14】米国特許第5565332号
【特許文献15】米国特許第5939598号
【特許文献16】国際公開第90/07861号
【特許文献17】米国特許第6054297号
【特許文献18】米国特許第5693761号
【特許文献19】米国特許第5585089号
【特許文献20】米国特許第5530101号
【特許文献21】米国特許第5224539号
【特許文献22】国際公開第92/22653号
【特許文献23】米国特許第6113898号
【特許文献24】米国特許第5840299号
【特許文献25】米国特許第6197946号
【特許文献26】米国特許第5849992号
【特許文献27】米国特許第5565362号
【特許文献28】米国特許第5336894号
【特許文献29】米国特許第5304489号
【特許文献30】米国特許出願第08/452098号
【特許文献31】米国特許第5223409号
【特許文献32】国際公開第91/07141号
【特許文献33】国際公開第91/07149号
【特許文献34】米国特許第5264563号
【特許文献35】国際公開第97/17613号
【特許文献36】国際公開第97/17614号
【特許文献37】英国特許第2220211号
【特許文献38】米国特許第5057540号
【特許文献39】国際公開第98/40100号
【特許文献40】国際公開第90/14837号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hickey、Psychoneuroimmunology II(Academic Press 1990
【非特許文献2】Springer等、1994、Cell、76、301〜14頁
【非特許文献3】Butcher等、1996、Science、272、60〜6頁
【非特許文献4】Damle等、1993、J.Immunol.、151、2368〜79頁
【非特許文献5】Koopman等、1994、J.Immunol.、152、3760〜7頁
【非特許文献6】Leussink等、2002、Acta Neuropathol.、103、131〜136頁
【非特許文献7】Bevilacqua等、1993 Annu. Rev. Immunol.、11、767〜804頁
【非特許文献8】Postigo等、1993 Res. Immunol.、144、723〜35頁
【非特許文献9】Lobb等、1994 J. Clin. Invest. 94、1772〜8頁
【非特許文献10】Farstad等、1997Am. J. Pathol. 150、187〜99頁
【非特許文献11】Issekutz等、1991 J. Immunol. 147、4178〜84頁
【非特許文献12】Briskin等、1997 Am. J. Pathol. 97〜110頁
【非特許文献13】Coles等、1999 Ann. Neurol. 46(3)、296〜304頁
【非特許文献14】Yednock等、1992 Nature 356、63〜66頁
【非特許文献15】Schreiber等、1991 Gastroenterology 101、1020〜30頁
【非特許文献16】Munkholm等、1994 Gut 35、360〜2頁
【非特許文献17】Stein等、2001 Surg. Clin. North Am. 81、71〜101頁、viii
【非特許文献18】Morrison等、1984 Proc. Natl. Acad. Sci. 81、6851頁
【非特許文献19】Neuberger等、1984 Nature 312、604頁
【非特許文献20】Takeda等、1985 Nature 314、452頁
【非特許文献21】Queen等、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 86、10029〜10033頁(1989)
【非特許文献22】Newman、Biotechnology、1992、10、1455〜60頁
【非特許文献23】Cole等、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss、77頁(1985)
【非特許文献24】Sigma、Biochemicals and Reagents、Sigma−Aldrich(2001)
【非特許文献25】Sambrook等、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press、New York、2nd edition 1989)
【非特許文献26】Smith and Scott、Meth. Enzymol. 217、228〜257頁(1993)
【非特許文献27】Smith and Scott、Science 249、386〜390頁(1990)
【非特許文献28】Immun. Rev. 62、185頁(1982)
【非特許文献29】Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th edition、Osol、A.(ed.)、1990
【非特許文献30】Kensil等、in Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(編集Powell & Newman、Plenum Press、NY、1995
【非特許文献31】Stoute等、1997 N. Engl. J. Med. 336、86〜91頁
【非特許文献32】Chang等、1998 Advanced Drug Delivery Reviews 32、173〜186頁
【非特許文献33】Lesczek Krowczynski、Extended−Release Dosage Forms、1987(CRC Press,Inc.)
【非特許文献34】Agis F. Kydonieus、Controlled Release Technologies:Methods,Theory and Applications、1980(CRC Press,Inc.)
【非特許文献35】Yednock等、1992 Nature 356、63頁
【非特許文献36】Baron等、1993 J. Exp. Med. 177、57頁
【非特許文献37】Hamann等、1994 J. Immunol. 152,3238頁
【非特許文献38】Podolsky等、1993 J. Clin. Invest. 92、372頁
【非特許文献39】van Dinther−Janssen等、1991 J. Immunol. 147、4207頁
【非特許文献40】van Dinther−Janssen等、1993 Annals Rheumatic Diseases 52、672頁
【非特許文献41】Elices等、1994 J. Clin. Invest. 93、405頁
【非特許文献42】Postigo等、1992 J, Clin. Invest. 89、1445頁
【非特許文献43】Mulligan等、1993 J. Immunol. 150、2407頁
【非特許文献44】Yang等、1993 PNAS 90、10494頁
【非特許文献45】Burkly等、1994 Diabetes 43、529頁
【非特許文献46】Baron等、1994 J. Clin. Invest. 93、1700頁)
【非特許文献47】Sasseville等、1994 Am. J. Path. 144、27頁
【非特許文献48】Cybulsky等、1991 Science 251、788〜91頁
【非特許文献49】Li等、1993 Arterioscler. Thromb. 13、197頁
【非特許文献50】Rabb等、1995 Springer Semin. Immunopathol.16、417〜25頁
【非特許文献51】Paul、Immunology(3d ed.、Raven Press、1993
【非特許文献52】Paul等、1996 Transplant International 9、420〜425頁
【非特許文献53】Georczynski等、1996 Immunol. 87、573〜580頁
【非特許文献54】Georczynski等、1995 Transplant Immunol. 3、55〜61頁
【非特許文献55】Yang等、1995 Transplantation 60、71〜76頁
【非特許文献56】Anderson等、1994 APMIS 102、23〜27頁
【非特許文献57】Schlegel等、J. Immunol. 155、3856〜3865頁(1995)
【非特許文献58】Steinback等、1995 Urol. Res. 23、175〜83頁
【非特許文献59】Orosz等、1995 Int. J. Cancer 60、867〜71頁
【非特許文献60】Freedman等、1994 Leuk. Lymphoma 13、47〜52頁
【非特許文献61】Okahara等、1994 Cancer Res. 54、3233〜6頁
【非特許文献62】Springer、1990 Nature 346、425〜433頁、Osborn、1990 Cell 62、3頁
【非特許文献63】Hynes、1992 Cell 9、11頁
【非特許文献64】Durelli等、Lancet 359、1453〜60頁、2002
【非特許文献65】Reess等、2002 Mult. Scler, 8、15〜8頁
【非特許文献66】Dhib−Jalbut、2002 Neurology 58、S3〜9頁
【非特許文献67】Weinstock−Guttman等、2000 Drugs 59、401〜10頁
【非特許文献68】Walker等、2001 Mult. Scler. 7、305〜12頁
【非特許文献69】S. Hauser、「Multiple sclerosis and other demyelinating diseases」、in Harrison’s Principles of Internal Medicine 2287〜95頁(13th ed.、Isselbacher等、ed.1994)
【非特許文献70】Geisler等、1996 Arch. Neurol. 53、185〜8頁
【非特許文献71】Munschauer等、1997 Clin, Ther.19、883〜93頁
【非特許文献72】Poser等、1983 Ann. Neurol. 13、227〜31頁
【非特許文献73】Lublin等、1996 Neurology 46、907〜11頁
【非特許文献74】Kurtzke、1983 Neurology 33、1444〜52頁
【非特許文献75】Grimaud等、1996 Magn.Reson. Imaging 14、495〜505頁
【非特許文献76】Tubridy等、1999 Neurology 53、466〜72頁
【非特許文献77】Noether、1987 J. Amer. Stat. Assoc. 82、645〜7頁
【非特許文献78】MS/MRI Analysis Group、1995 Neurology 4、1277〜1285頁
【非特許文献79】Jacobs等、1996 Ann. Neurol. 39、285〜294頁
【非特許文献80】PRISMS(Prevention of Relapses and Disability by Interferon beta−1a Subcutaneously in Multiple Sclerosis)Study Group、1998 Lancet 352、1498〜1504頁
【非特許文献81】Johnson等、1995 Neurology 45、1268〜76頁
【非特許文献82】Best等、1976 Gastroenterology 70、439〜441頁
【非特許文献83】Summers等、1979 Gastroenterology 77、847〜69頁
【非特許文献84】Irvine等、1994 Gastroenterology 106、287〜96頁
【非特許文献85】Landis等、Int’l Stat. Rev. 46、237〜54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
α4インテグリンに関連する病的炎症の他の特定の例において、クローン病(CD)は、腸管の慢性、不治、再発性、経管性の炎症である。この疾患は、T細胞、マクロファージおよび好中球に関連する、腸粘膜における不適切な免疫細胞移動および活性化を特徴とする(Schreiber等、1991 Gastroenterology 101、1020〜30頁(非特許文献15))。クローン病に対する主要医学治療としては、低い有効性を有する5−アミノサリチル酸(5−ASA)および様々な短および長期副作用を有するコルチコステロイドなどがある(Munkholm等、1994 Gut 35、360〜2頁(非特許文献16))。主要治療に不応性の患者にはアザチオプリン、6−メルカプトプリンおよびメトトレキサートのような免疫抑制薬を投与するが、これらの薬剤は、作用の発現が遅く、重篤な副作用を有する可能性がある(Stein等、2001 Surg. Clin. North Am. 81、71〜101頁、viii(非特許文献17))。より最近、作用の発現がより速やかな生物学的薬剤がクローン病の治療用に導入されたが、そのような薬剤も同様に長期有効性や副作用のような問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、α4インテグリンに選択的に結合する薬剤の長期投与により、患者における病的炎症を長期的に低減する方法を提供する。抗α4薬剤の長期投与法は、(1)薬剤がα4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に特異的に結合し、(2)薬剤を繰り返して投与して、α4インテグリン受容体の飽和が病的炎症を抑制するのに十分なレベルに維持されるように設計する。本発明の薬剤は、α4サブユニットを含むすべてのインテグリン二量体の結合と阻害による炎症の抑制に有用であり、あるいは、特異的二量体、例えば、α4β1に結合するように設計することができる。
【0011】
一実施形態において、長期投与法の有効性は、特異的インテグリン二量体の飽和を測定することにより判定することができる。特定の例において、α4β1インテグリン二量体が多発硬化症に関与すると考えられており、したがって、有効な長期投与法に要求される飽和のレベルは、α4β1二量体受容体の飽和の測定により測定することができる。
【0012】
複数のインテグリン二量体が病的炎症に関与すると考えられている他の実施形態において、二量体受容体の組み合わせの飽和を測定して、長期投与法の有効性を判定することができる。特定の例において、α4β1およびα4β7二量体は、炎症性腸疾患に伴う病的炎症に関与していると考えられている。したがって、α4β1およびα4β7の飽和レベルの測定は、特定の長期投与法の有効性を判定するうえで有用であると思われる。
【0013】
一実施形態において、長期投与法の成功は、病的炎症の生理学的マーカーを評価することにより判定することができる。例えば、MSに対して行われる長期投与法において、投与法の成功は、映像技術、例えば、磁気共鳴画像(MRI)を用いた脳病変のレベルの検出により確認することができる。他の例において、CDに対して行われる長期投与法において、投与法の成功は、患者における血清中C反応性タンパク質のレベルの検出により確認することができる。さらに他の例において、投与法の成功は、良好な状態、例えば、CD患者におけるCDAIの低下に関連する一連の基準値を用いて判断することができる
本発明の他の実施形態は、対象における胃腸管の炎症性疾患を治療または改善するのに十分な治療上有効な量のナタリズマブ(natalizumab)を含む組成物を投与することを含む、対象の胃腸管の炎症性疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎および炎症性腸疾患)の治療を意図するものである。
【0014】
特定の実施形態において、本発明は、患者におけるα4インテグリン受容体の飽和のレベルが65〜100%となるように薬剤の反復投与を行い、それにより、患者における病的炎症の長期抑制をもたらす投与法を特徴とする。他の特定の実施形態において、患者における少なくとも約75〜100%のレベルが得られるように薬剤を繰り返して投与する。さらに他の特定の実施形態において、患者における少なくとも約80〜100%のレベルが得られるように薬剤を繰り返して投与する。
【0015】
本発明の特徴は、患者における病的炎症の望ましくない影響を長期、例えば、6か月間、1年間、2年間またはそれ以上の期間にわたり抑制することができることである。
【0016】
本発明の方法の態様は、抗α4インテグリン薬の十分なレベルを長期にわたって維持して、病的炎症をそのような期間にわたり抑制することである。
【0017】
本発明の特徴は、該投与法が単回投与と比較して病的炎症のレベルを長い期間にわたって低くすることである。
【0018】
本発明の利点は、本発明の方法に用いる薬剤が許容性が良好であり、低い毒性を有することである。
【0019】
本発明のこれらおよび他の目的、利点ならびに特徴は、下により十分に述べる方法および処方の詳細を読むことにより、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ナタリズマブの投与後のMS患者における新たなGd促進病変の累積平均数を示す線グラフである。
【図2】ナタリズマブMS試験中の各時点の活性スキャンを示す図である。活性スキャンは、1つまたは複数の新たなGd促進病変を含むものである。
【図3A】,
【図3B】,
【図3C】3mg/kgMS試験における投与開始後の各時点のナタリズマブの血清中濃度を示す図である。
【図4A】,
【図4B】,
【図4C】6mg/kgMS試験における投与開始後の各時点のナタリズマブの血清中濃度を示す図である。
【図5A】,
【図5B】,
【図5C】,
【図5D】,
【図5E】,
【図5F】MS試験において維持されていた受容体飽和のレベルを示す図である。示したレベルは%値である。
【図6】CD試験における投与後の所定の臨床的応答の基準値を達成した患者の割合を示す図である。
【図7】CD試験における投与後の所定の寛解の基準値を達成した患者の割合を示す図である。
【図8】CD試験において、高い基準値のC反応性タンパク質を有していた患者サブセットにおける血清中C反応性タンパク質の平均変化を示す図である。基準値(mg/l単位)は、偽薬38.44(N=26)、3+0mg/kg群32.35(N=38)、3+3mg/kg群41.16(N=33)および6+6mg/kg群333(N=26)であった。
【図9A】活動性クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)を有する患者における循環好酸球に対するナタリズマブの影響を示す図である。ナタリズマブが、3mg/kgナタリズマブを注入後にクローン病(n=18)および潰瘍性大腸炎患者(n=12)の循環好酸球数を有意に増加させたことが示されている。
【図9B】活動性クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)を有する患者における循環好酸球に対するナタリズマブの影響を示す図である。ナタリズマブの投与が3mg/kgナタリズマブ注入後にクローン病および潰瘍性大腸炎患者の単球数を有意に増加させたことが示されている。
【図10A】活動性クローン病患者における活性化抗原発現TCRαβ+細胞に対するナタリズマブの影響を示す図である。3mg/kgのナタリズマブ注入後少なくとも4週目までのTCRαβ+細胞発現CD26、HLA−DR、CD8DRおよびCD8CD28の有意な増加が示されている。
【図10B】活動性潰瘍性大腸炎患者における活性化抗原発現TCRαβ+細胞に対するナタリズマブの影響を示す図である。3mg/kgのナタリズマブ注入後少なくとも4週目までのTCRαβ+細胞発現CD26、HLA−DR、CD8DRおよびCD8CD28の有意な増加が示されている。
【図10C】活動性クローン病患者における活性化抗原発現TCRαβ+細胞ならびに免疫記憶マーカーおよびナイーブマーカーに対するナタリズマブ投与の影響を示す図である。ナタリズマブ注入後少なくとも4週目までの免疫記憶マーカー(CD45RO)およびナイーブ(CD45RA)TCRαβ+細胞の有意な増加が示されている。
【図10D】活動性潰瘍性大腸炎病患者における活性化抗原発現TCRαβ+細胞ならびに免疫記憶マーカーおよびナイーブマーカーに対するナタリズマブ投与の影響を示す図である。ナタリズマブ投与後1週目の免疫記憶マーカー(CD45RO)、ナイーブ(CD45RA)CD69およびCD38の各TCRαβ+細胞の有意な増加が示されている。
【図11A】活動性クローン病患者における循環TCRγδ+およびNK型細胞に対するナタリズマブの影響を示す図である。
【図11B】潰瘍性大腸炎患者における循環TCRγδ+およびNK型細胞に対するナタリズマブの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の方法および治療薬を述べる前に、本発明は、記載する特定の方法および治療薬に限定されるものではなく、もちろん、それ自体変わり得るものであることを理解すべきである。本明細書で用いる用語は、特定の実施形態のみを述べる目的のためのものであり、限定するものではない。
【0022】
一連の値を記載する場合、当該範囲の上限と下限との間にある、状況から他の状態が明らかでない限り、下限の単位の少数第1位までの各値、および当該範囲における他の指定する、もしくは間にある値は、本発明の範囲内に含まれることが理解される。これらのより小さい範囲の上および下限は、指定する範囲における特に除外される限界までのより小さい実体に独立に含まれていてよい。指定する範囲が限界の1つまたは両方を含む場合、含まれる限度の両方のいずれかを除外した範囲も本発明に含まれる。
【0023】
特に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の技術者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。本明細書に記載するのと類似または同等の方法および材料も本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書で言及するすべての刊行物は、当該刊行物を引用することに関連して方法および/または材料を開示し、記述するために本明細書で参考として援用する。
【0024】
本明細書で用いているように、単数形(「a」、「and」および「the」)は、状況から他の状態が明らかでない限り、複数指示物を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、1つの「抗体」と言及すれば、複数のそのような抗体を含み、「当該用量」と言及すれば、1つまたは複数の用量の表示または当業者に知られているその同等物を含む、などである。
【0025】
本明細書で述べる刊行物は、本願書の提出日前のそれらの開示のためにだけ記載する。本明細書におけるいずれについても、本発明が先行発明によるそのような刊行物に先行する権利を与えられないということを容認されたこととして解釈すべきではない。さらに、記載された発行の日付が独立に確認する必要がある実際の発行の日付と異なることがある。
【0026】
定義
本明細書で用いている「抗α4薬剤」という用語は、α4サブユニットを含むインテグリンに特異的に結合し、インテグリンの活性を阻害する薬剤を指す。これは、α4インテグリンに特異的に結合する薬剤ならびにα4インテグリンを含むインテグリン二量体、例えば、アルファ−4ベータ−1(α4β1)またはアルファ−4ベータ−7(α4β7)に結合する薬剤を含む。「薬剤」という用語は、合成および組換え分子(例えば、抗体、小分子、ペプチド、または他の合成により生成された分子もしくは化合物、ならびに組換えにより生成された遺伝子産物)ならびに天然に存在する化合物(例えば、ポリペプチド、抗体など)を含むことを意味する。
【0027】
長期投与法に関連して本明細書で用いている「有効性」という用語は、特定の治療計画の有効性を指す。有効性は、本発明の薬剤に反応しての疾患の経過の変化に基づいて測定することができる。例えば、MSの治療では、有効性は、再発−寛解MSにおける再発の頻度により、およびMRIのような方法を用いて検出されるような中枢神経系における新たな病変の存否により測定することができる。
【0028】
長期投与法に関連して本明細書で用いている「成功」という用語は、特定の治療計画の有効性を指す。これは、有効性、毒性(例えば、製剤または投与単位の副作用および患者耐性)、患者服薬遵守などのバランスを含む。「成功」とみなされる長期投与法では、最も好ましい患者転帰をもたらすために患者ケアの種々の側面と有効性とのバランスをとらなければならない。
【0029】
本明細書で用いている「特異的に結合する」という用語は、特異的結合対の1つの構成員がその特異的結合相手以外の分子に対して有意な結合を示さない状況(例えば、その結合相手に対しては約1000倍以上の親和力を有する)を指す。本発明では、抗α4インテグリン薬剤は、α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む受容体以外のポリペプチドに対して有意な結合を示さない。例えば、α4インテグリンに107モル/l以上、好ましくは108モル/l以上の結合親和力で結合する本発明の方法で用いる抗体は、α4インテグリンに特異的に結合すると言われる。
【0030】
本明細書で用いている「実質的に相同」という用語は、ポリペプチドにおける1つまたは複数のアミノ酸が機能的に同等なアミノ酸で置換され、それにより該ポリペプチドの結合特性に全くまたはほとんど影響を及ぼさない変化をもたらすような配列中の変化を有するポリペプチドを意味するものである。例えば、配列内の1つまたは複数のアミノ酸残基が同様な極性の他のアミノ酸で置換されていてよい。
【0031】
本明細書で用いている「免疫応答を誘発する」および「宿主免疫応答を誘発する」という用語は、対象への本発明の薬剤の導入による対象におけるα4インテグリンを含む受容体に対する免疫学的応答の発生を指す。対象における免疫応答は、血清免疫反応性を約1:100の血清希釈度を用いて測定した場合、無処置対象の少なくとも2倍のα4インテグリン受容体との血清反応性、より好ましくは無処置対象の反応性の3倍、さらに好ましくは無処置対象の反応性の4倍の血清反応性によって特徴付けることができる。
【0032】
「賦形剤」という用語は、単に担体として作用することを意図された、すなわち、それ自体では生物活性を有することを意図されない製剤の一部をなす化合物を意味する。
【0033】
本明細書で用いている「アジュバント」という用語は、本発明の薬剤に対する免疫応答を増強するが、それ自体では免疫応答を誘発しない組成物添加剤を指す。アジュバントは、リンパ球リクルートメント、T細胞刺激、B細胞刺激およびマクロファージ刺激を含むが、これらに限定されない様々な生物学的機作を用いて免疫応答を増強することができる。
【0034】
「治療すること」および「治療」などの用語は、本明細書では所望の薬理学的および生理学的効果を得る手段に対して一般的に用いる。効果は、疾患、その症状または状態を予防または部分的に予防するという点での予防効果であってよく、かつ/または疾患、状態、症状またはその疾患による有害な影響の部分的または完全な治癒という点での治療効果であってよい。本明細書で用いている「治療」という用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる治療を含み、(a)疾患の素因を有する可能性があるが、それ(疾患の素因)を有するとまだ診断されていない対象において疾患が起こることを予防すること、(b)疾患を抑制すること、すなわち、その発生を阻止すること、または(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患および/またはその症状もしくは状態の退縮をもたらすことを含む。本発明は、病的炎症に関連する疾患に罹患している患者の治療を対象とする。本発明は、長期間にわたる病的炎症に起因する、かつ/または、長期間にわたり生物系に存在する不適切な炎症に対する生理反応により引き起こされるような有害な影響を予防し、抑制し、または軽減することに関する。
【0035】
本明細書で用いている「病的炎症」という用語は、喘息、アテローム動脈硬化症、AIDS痴呆、糖尿病、炎症性腸疾患、慢性関節リウマチ、移植拒絶反応、移植片対宿主疾患、多発硬化症(特に、さらなる脱髄を抑制するため)、腫瘍転移、腎炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、慢性前立腺炎、鎌状赤血球貧血による合併症、紅斑性狼瘡および白血球媒介性急性肺損傷を含むが、これらに限定されない疾患に伴う不適切かつ慢性炎症を指す。そのような炎症は、浸潤性白血球を含む炎症細胞の反応の増大によって特徴付けられる。時間の経過に伴い、そのような病的炎症はしばしば、不適切な炎症の部位における組織の損傷をもたらす。
【0036】
「Antegren(登録商標)」は、AN100226(抗体コード番号)またはナタリズマブ(USAN名)としても知られている抗体を含むことを意味する。Antegren(登録商標)は、組換えヒト化抗α4インテグリン抗体である。好ましくは、哺乳動物における治療する疾患または状態は、治療上有効な量のAntegren(登録商標)を投与したとき調節されるものである。
【0037】
発明の一般的態様
本発明は、選択的接着分子阻害物質(SAMI)として知られている新しく出現しつつあるクラスの新規化合物の長期投与がインテグリン二量体に関連する障害における炎症の長期抑制の維持をもたらすのに十分であるという驚くべき結果に基づいている。反復投与の停止により、炎症の抑制は逆転する(例えば、図2を参照)。炎症抑制薬の以前の投与では、炎症抑制薬の投与が身体自体の応答系の反応を引き起こし、これがひいては、炎症の病的なものとしての認識と結果としての病的炎症の長期軽減をもたらすと信じて、全く異なる投与法がとられていた。本願発明者らが本明細書で示したことは、長期投与法が短期投与法よりも有効であるだけでなく、実際に病的炎症の抑制を維持することが要求されることである。したがって、本発明のいくつかのより重要な利点を認識するためには、抗α4インテグリン薬剤のレベルが何か月間にも、または何年間にもわたり維持される必要がある。
【0038】
本発明は、再発性MSまたは中等度から重度の活動性CDを有する患者における抗α4インテグリン抗体ナタリズマブの大規模な無作為化プラセボ比較試験の結果に基づいている。ナタリズマブは、α4インテグリンに対する組換えヒト化モノクローナル抗体拮抗薬である。これらの2つの試験の結果は、ナタリズマブの投与によりMSおよびCD患者の徴候および症状が改善されることを示すものであった。本発明は、primatized(商標)抗体を含む他のキメラ抗体を含めることも意図している。
【0039】
投与法は主薬の形態および主薬を投与するために開発された製剤に依存するので、一般的な意味では、本発明の方法は特定の投与法に関係しない。しかし、本明細書に記載した特定の実施例は、ナタリズマブの非経口投与を用いて得られた。本発明は、α4インテグリンに特異的に結合する抗体を用いて記載されているが、例えば、インテグリン二量体(二量体がα4インテグリンを含む場合)の両相手を認識する2価または多価抗体の長期投与を含めることも意図している。
【0040】
本発明の一般的な概念は、数か月間または数年間にわたり患者の循環系に比較的一定の量の主薬を導入することに関する。α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に選択的に結合する薬剤のこの長期の導入により、病的炎症の抑制が一定の期間にわたり一定のレベルに維持される。主薬の治療レベルを一定の期間にわたり維持することにより、患者における病的炎症を長期的に抑制することができる。
【0041】
非常に特異的な意味では、本発明は、約65%〜約100%、より好ましくは約75%〜約100%、さらにより好ましくは約80%〜約100%の範囲のα4インテグリンを含む二量体のヒト患者における受容体飽和レベルを得て、維持することを含む。これらの受容体飽和レベルがこれらのレベルに長期的に(例えば、6か月間など)維持されて、病的炎症の継続的抑制が可能となる。
【0042】
α4インテグリンに選択的に結合する薬剤
α4インテグリンに結合し、その活性を阻害する能力を有する様々なタイプの薬剤を本発明の実施に用いることができる。そのような多くの薬剤が特定され、特性が検討された。特定の薬剤を以下に記載する。本明細書に開示した教示事項から、具体的に記載した薬剤を生物学的に模倣する仕方で、またはそれと同様に、α4を含むインテグリン二量体を阻害することができる他の薬剤を特定することは十分に当業者の技術の範囲内にあり、本発明は、そのような薬剤およびそのような薬剤の組合わせの長期投与を含めることも意図している。
【0043】
抗体
1つの特定の実施形態において、本発明の薬剤は、α4インテグリンまたはα4β1もしくはα4β7のようなα4を含む二量体に選択的に結合する抗体もしくはその免疫活性な断片である。
【0044】
本発明の薬剤が抗体である場合、モノクローナル抗体が好ましい。一般的に種々のエピトープに対して誘導された種々の抗体を含むポリクローナル抗体製剤と異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一エピトープに対して誘導される。モノクローナル抗体の第2の利点は、それらが他の免疫グロブリンによる汚染を受けない手段、例えば、ファージディスプレイまたはハイブリドーマからの分離により合成されることである。本発明はポリクローナルおよびモノクローナル抗体を本発明の薬剤として含むことを意図するものであるが、高度に特異的であるのでモノクローナル抗体が好ましく、したがって、本発明は主としてモノクローナル抗体について述べる。
【0045】
さらに、当技術分野で利用可能な技術を用いて他の抗体を特定することができる。例えば、本発明のモノクローナル抗体をファージディスプレイ技術を用いて生産することができる。次いで、α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に選択的に結合する抗体断片を分離する。ファージディスプレイによりそのような抗体を生産する具体例としての好ましい方法は、米国特許第6225447号(特許文献3)、第6180336号(特許文献4)、第6172197号(特許文献5)、第6140471号(特許文献6)、第5969108号(特許文献7)、第5885793号(特許文献8)、第5872215号(特許文献9)、第5871907号(特許文献10)、第5858657号(特許文献11)、第5837242号(特許文献12)、第5733743号(特許文献13)および第5565332号(特許文献14)に開示されている。
【0046】
モノクローナル抗体は、通常のハイブリドーマ法を用いて生産することもできる。これらの方法は、多くの特異的抗原に対する高レベルのモノクローナル抗体を分泌するハイブリッド細胞系を生産するために広く適用されており、本発明のモノクローナル抗体を生産するためにも用いることができる。例えば、マウス(例えば、Balb/cマウス)を腹腔内注射により抗原性α4インテグリンエピトープで免疫化することができる。免疫応答の発現が可能となるのに十分な時間が経過した後に、マウスを屠殺し、脾臓細胞を摘出し、当技術分野でよく知られている技術を用いて骨髄腫細胞と融合させる。得られた融合細胞、すなわちハイブリドーマを選択培地中で成長させ、生存細胞をそのような培地中で限界希釈条件を用いて成長させる。クローニングおよび再クローニングの後に、標的、すなわち、α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に選択的に結合する抗体(例えば、IgGもしくはIgMクラスまたはIgG1サブクラスの)を分泌するハイブリドーマを分離することができる。ヒト使用のための特異的薬剤を生産するために、分離したモノクローナルを用いてキメラおよびヒト化抗体を生産することができる。
【0047】
本発明の抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異的、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、Fab断片、F(ab’)断片、Fab発現ライブラリーにより生産される断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)および上のいずれかのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない。より好ましくは、抗体は本発明のヒト抗原結合抗体断片であり、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)およびVLまたはVHドメインを含む断片を含むが、これらに限定されない。単鎖抗体を含む抗原結合抗体断片は、可変領域単独または次の全部または一部との組合せを含んでいてよい。すなわち、ヒンジ領域、CH1、CH2およびCH3ドメイン。可変領域とヒンジ領域、CH1、CH2およびCH3ドメインとのあらゆる組合せを含むことができる抗原結合断片も本発明に含まれる。本発明の抗体は、鳥および哺乳動物を含むあらゆる動物起源のものであってよい。好ましくは、抗体は、ヒト、ネズミ(例えば、マウスおよびラット)、ロバ、ヒツジ、サル、ウサギ、ヤギ、モルモット、ブタ、ラクダ、ウマまたはニワトリ(または他の鳥)である。本明細書で用いているように、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1つもしくは複数のヒト免疫グロブリンで形質転換した動物から分離され、以下および例えば、Kucherlapati等による米国特許第5939598号(特許文献15)に記載されているように、内因性免疫グロブリンを発現しない抗体を含む。
【0048】
キメラおよびヒト化抗体は、非ヒト抗体から生産することができ、それらが生産される元の抗体と同じまたは同様な親和力を有することができる。キメラ抗体を生産する技術(Morrison等、1984 Proc. Natl. Acad. Sci. 81、6851頁(非特許文献18)、Neuberger等、1984 Nature 312、604頁(非特許文献19)、Takeda等、1985 Nature 314、452頁(非特許文献20))は、例えば、適切な抗原特異性のマウス抗体分子の遺伝子を適切な生物活性のヒト抗体分子の遺伝子とともにスプライシングすることを含む。そのような抗体は、本発明の範囲内にある。例えば、マウスモノクローナル抗体の可変(V)領域をコードする核酸をヒト定常(C)部、例えば、IgG1またはIgG4をコードする核酸と結合させることができる。したがって、得られる抗体は、一般的に非ヒト抗体由来の抗原結合ドメインとヒトまたは霊長類動物抗体由来のCもしくはエフェクタードメインを有する種ハイブリッドである。
【0049】
ヒト化抗体は、主としてヒト抗体(すなわち、アクセプター抗体)由来であるが、実質的に非ヒト抗体(ドナー抗体)由来の相補性決定領域を有する可変領域を有する抗体である。例えば、Queen等、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 86、10029〜10033頁(1989)(非特許文献21)、国際公開第90/07861号(特許文献16)、米国特許第6054297号(特許文献17)、第5693761号(特許文献18)、第5585089号(特許文献19)、第5530101号(特許文献20)および第5224539号(特許文献21)を参照のこと。これらの抗体の定常部(1つまたは複数)も一般的にヒト抗体由来である。ヒト可変ドメインは、一般的に所望の非ヒト可変領域結合ドメインと高い相同性を示す配列を有するヒト抗体から選択される。重鎖および軽鎖可変残基は、同じ抗体または異なるヒト抗体から得ることができる。さらに、配列は、国際公開第92/22653号(特許文献22)に記載されているように、いくつかのヒト抗体の共通として選択することができる。
【0050】
「primatized(商標)抗体」は、霊長類可変配列または抗原結合部分、およびヒト定常部配列を含む組換え抗体である。Newman、Biotechnology、1992、10、1455〜60頁(非特許文献22)を参照のこと。抗体の霊長類化は、サル可変ドメインとヒト定常配列を含む抗体の生成をもたらす。さらなる詳細については、米国特許第6113898号(特許文献23)を参照のこと。この技術は、抗原性であるためヒトに投与したとき拒絶されないように抗体を修飾する。この技術は、ヒト抗原または受容体でカニクイザルを免疫化することに依拠している。この技術は、ヒト細胞表面抗原に対する高親和力モノクローナル抗体を生成させるために開発された。
【0051】
ヒト可変領域内の特定のアミノ酸を、置換のために予測される立体配座と抗原結合特性に基づいて選択する。これは、コンピュータモデル作製、可変領域内の特定の位置におけるアミノ酸の挙動および結合特性の予測、および置換の効果の所見のような手法を用いて決定することができる。例えば、アミノ酸が非ヒト可変領域とヒト可変領域とで異なっている場合、非ヒト可変領域のアミノ酸組成を反映するように、ヒト可変領域を変化させることができる。
【0052】
特定の実施形態において、本発明の長期投与法に用いる抗体は、本明細書で参考として援用する米国特許第5840299号(特許文献24)に開示されているヒト化抗体である。
【0053】
他の実施形態において、ヒト抗体遺伝子を含む形質転換マウスを抗原性α4インテグリン構造で免疫化することができ、ハイブリドーマ技術を用いて、α4インテグリンに選択的に結合するヒト抗体を生成させることができる。
【0054】
キメラのヒトおよび/またはヒト化抗体は、組換え発現、例えば、ヒトハイブリドーマ(Cole等、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss、77頁(1985)(非特許文献23))、骨髄腫細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞における発現を用いて生成させることができる。あるいは、形質転換動物のゲノムへの導入とその後の形質転換動物の乳汁中の発現のために、抗体コード配列を導入遺伝子に組み込むことができる。例えば、米国特許第6197946号(特許文献25)、第5849992号(特許文献26)、第5565362号(特許文献27)、第5336894号(特許文献28)および第5304489号(特許文献29)を参照のこと。適切な導入遺伝子としては、乳腺特異的遺伝子、例えば、カゼインまたはβ−ラクトグロブリンからのプロモーターおよび/またはエンハンサーを有する導入遺伝子などがある。
【0055】
小分子
本発明用の小分子は、一般的に有機分子であるが、多数の化学物質クラス、好ましくは、50ダルトンより大きく、約4000ダルトンより小さい分子量を有する小有機化合物を含む。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用に必要な官能基、特に、水素結合を含み、また、一般的に少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、好ましくは、少なくとも2つの官能化学基を含む。候補薬剤は、しばしば、上の官能基の1つまたは複数で置換された、炭素環式または複素環式構造および/または芳香族または多環式芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、その誘導体、構造的類似体または組合せを含むが、これらに限定されない生体分子のうちにも見出される。
【0056】
小分子は、合成または天然化合物のライブラリーを含む広範囲の源から得ることができる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、広範囲の有機化合物および生体分子のランダムおよび誘導合成の多数の手段が利用可能である。あるいは、細菌、菌類、植物および動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーが利用可能または容易に生産される。さらに、天然または合成により生産されるライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的および生化学的手段により容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリーを生産するのに用いることができる。既知の薬剤は、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化のような誘導または無作為化学修飾に供して、構造的類似体を生成させることができる。
【0057】
抗α4インテグリンペプチド
本発明の方法は、α4インテグリンまたはα4サブユニットを含む二量体に結合することができるあらゆるペプチドを用いて実施することができる。特異的α4インテグリン受容体または標的とする受容体の細胞外マトリックスの領域または天然リガンドと実質的に相同であるペプチドは、本発明の方法に含まれる。例えば、α4β1受容体の長期阻害のために、フィブロネクチンIIICS領域の少なくとも一部を含むペプチド(例えば、CS−1ペプチド配列の少なくとも一部またはCS−1配列と実質的に相同の配列を含むペプチド)を用いて、受容体に結合させ、α4を含むインテグリンの活性を阻害することができる。例えば、その全部を参考として援用する米国特許出願第08/452098号(特許文献30)を参照のこと。
【0058】
免疫応答を誘発する薬剤
特定の実施形態において、本発明の薬剤は、α4インテグリンの免疫原性断片を含むペプチドまたはペプチド様物質である。免疫原性断片は、α4のエピトープを含む断片であり、一般的に天然に存在する哺乳動物α4タンパク質の少なくとも3、5、7,10、15、17または20連続アミノ酸を有する。ヒトおよびマウスα4のペプチド配列は、GenBank(受入れ番号AA59613およびNP_034706)から入手できる。当業者はα4のアミノ酸配列に基づき、またはそれらをコードする野生型ヌクレオチド(例えば、それぞれGenBank受入れ番号L12002およびNM_01056)を用いて本発明のペプチド薬剤を容易に設計することができる。適切なペプチドが設計されたならば、最初に所望の免疫原性活性を有することが知られている抗体、例えば、α4構造に選択的に結合し、α4を含むインテグリンの活性を阻害する能力を特徴とする抗体に対してスクリーニングすることができる。
【0059】
免疫原性断片は、免疫原性応答を促進するアミノ酸類似体または他の構造要素を有するようにも設計してもよい。特に、ペプチド断片は、免疫応答を誘発するそれらの能力を妨げることなく、該分子の全体的免疫原性を増大させる変異CまたはN末端を有していてもよい。そのような類似体の例は、α、α−ジ置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、γ−N,N,N−トリメチルリシン、γ−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジンおよび5−ヒドロキシリシンを含むが、これらに限定されない。他の有用な類似体は、Sigma、Biochemicals and Reagents、Sigma−Aldrich(2001)(非特許文献24)に見出すことができる。断片は、対象への投与後に対象における分子の追跡を可能とするために検出できるように標識してもよい。
【0060】
ペプチド、類似体構造、ペプチド様物質等は、天然源から分離し、次いで、場合によって処理する(例えば、ペプチド切断により)か、あるいは固相合成または組換え発現のような当技術分野で知られている従来技術により合成することができる。例えば、Sambrook等、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press、New York、2nd edition 1989)(非特許文献25)を参照のこと。自動ペプチド合成は、Applied Biosystems(Foster City、California)のような製造業者からの市販の装置を用いて実施することができ、実施する方法も確立されている。タンパク質の組換え生産は、ファージもしくは細菌細胞のような原核生物系または酵母、昆虫もしくは哺乳類細胞のような真核生物系を用いてもよい。あるいは、タンパク質は、当技術分野で知られている無細胞in vitro系を用いて生産することができる。
【0061】
他の例において、α4またはα4インテグリンを含む二量体に特異的に結合するペプチドを特定するためにin vitroでスクリーニングすることができる多数のペプチドを発現するファージペプチドディスプレイライブラリーを用いることができる。ファージディスプレイ技術は、ランダムまたは選択的に無作為化されたペプチドの多様な集団を発現させる手段を提供する。ファージディスプレイの様々な方法およびペプチドの多様な集団を生成する方法も当技術分野で知られている。例えば、Ladner等(米国特許第5223409号(特許文献31))は、ファージの表面上の結合ドメインの多様な集団を調製する方法を記載している。Ladner等は、ファージディスプレイライブラリーを生成するのに有用なファージベクターならびに潜在的結合ドメインを選択し、ランダムに、もしくは選択的に変異させた結合ドメインを生成する方法を記載している。ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングは、一般的に、精製標的分子を用いるライブラリーのin vitroパンニングを必要とする。標的分子に結合するファージを回収することができ、個々のファージをクローン化することができ、クローン化ファージによって発現されたペプチドを測定することができる。
【0062】
同様に、SmithおよびScott(Meth. Enzymol. 217、228〜257頁(1993)(非特許文献26)およびScience 249、386〜390頁(1990)(非特許文献27))は、ベクターおよび発現するペプチドの集団を多様化させる方法を含むファージペプチドディスプレイライブラリーを生成する方法を記載している(国際公開第91/07141号(特許文献32)および国際公開第91/07149号(特許文献33)も参照)。ファージディスプレイ技術は、例えば、ランダムペプチドまたは所望通りに偏ったペプチドを生産するのに用いることができるコドンによる突然変異誘発法とともに用いるときに特に強力なものとすることができる(例えば、米国特許第5264563号(特許文献34)を参照)。これらおよび他のよく知られている方法を用いて、1つまたはいくつかの選択される器官にホーミングするペプチドを特定するために本発明のin vivoパンニング法に供することができるファージディスプレイライブラリーを生成することができる。
【0063】
ペプチドファージディスプレイライブラリーの分子は、問題のペプチドの回収または同定を促進することができる複合体として示すこともできる。本明細書で用いているように、「複合体」という用語は、固体基体、プラスチックミクロビーズ、オリゴヌクレオチドまたはバクテリオファージ等の物理的、化学的または生物学的部分(これらに限定されないが)に結合したライブラリーのペプチドまたはペプチド様物質を意味する。その部分は、薬剤を同定または回収する手段を提供することができる。
【0064】
免疫応答を誘発するために用いられる一部の薬剤は、α4インテグリンに対する免疫応答を誘導するための適切なエピトープを模倣するが、小さすぎて、それら自体では免疫原性を示すことができない。このような場合、ペプチド薬剤を適切な担体に結合させて、免疫応答を促進することができる。適切な担体としては、血清アルブミン、スカシガイヘモシアニン(KLH)、免疫グロブリン分子、サイログロブリン、卵白アルブミン、破傷風トキソイド、またはジフテリア、大腸菌、コレラもしくはピロリ菌(H.pylori)のような他の病原性細菌からのトキソイド、または弱毒化トキシン誘導体などがある。他の担体としては、MHC複対立遺伝子、例えば、すべてのヒトMHC対立遺伝子の少なくとも75%に結合するT細胞エピトープなどがある。そのような担体は、当技術分野で時には「普遍的T細胞エピトープ」として知られている。普遍的T細胞エピトープの例として以下のものが挙げられる。
インフルエンザヘマグルチニン:HA307−319 PKYVKQNTLKLAT(配列番号2)
PADRE AKXVAAWTLKAAA(配列番号3)、Xは好ましくはシクロヘキシルアラニン、チロシンまたはフェニルアラニンである。
マラリアCS:T3エピトープ EKKIAKMEKASSVFNV(配列番号4)
B型肝炎表面抗原:HBsAg19−28 FFLLTRILTI(配列番号5)
熱ショック蛋白65:hsp65153−171 DQSIGDLIAEAMDKVGNEG(配列番号6)
カルメット−ゲラン桿菌 QVHFQPLPPAVVKL(配列番号7)
破傷風トキソイド:TT830−844 QYIKANSKFIGITEL(配列番号8)
破傷風トキソイド:TT947−967 FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE(配列番号9)
HIV gp120T1 KQIINMWQEVGKAMYA(配列番号10)
免疫応答を刺激または促進するための他の担体としては、IL−1、IL−1αおよびβペプチド、IL−2、γ−INF、IL−10、GM−CSFのようなサイトカインならびにマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)1αおよびβならびにRANTES(すなわち、regulation upon activation normal T cell expressed and secreted)のようなケモカインなどである。免疫原性薬剤は、国際公開第97/17613号(特許文献35)および国際公開第97/17614号(特許文献36)に記載されているように、組織にわたる輸送を促進するペプチドに結合させることもできる。
【0065】
免疫原性薬剤は、化学的架橋により担体に結合させることができる。薬剤を担体に結合させる手法は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオナート(SPDP)およびスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)を用いるジスルフィド結合の形成(ペプチドがスルフヒドリル基を欠いている場合、システイン残基の付加によりこれが可能となる)を含むが、これらに限定されない。これらの試薬は、それ自体と1つのタンパク質上にあるペプチドシステインとの間のジスルフィド結合およびリシン上のε−アミノまたは他のアミノ酸における他の遊離アミノ基を介してのアミド結合を形成する。様々なそのようなジスルフィド/アミド形成剤は、Immun. Rev. 62、185頁(1982)(非特許文献28)に記載されている。他の二官能性カップリング剤は、ジスルフィド結合ではなく、チオエーテルを形成する。これらのチオエーテル形成剤の多くは市販されており、6−マレイミドカプロン酸、2−ブロモ酢酸、2−ヨード酢酸および4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸の反応性エステルなどである。カルボキシル基は、それらをスクシンイミドまたは1−ヒドロキシル−2−ニトロ−4−スルホン酸ナトリウム塩と組合わせることにより活性化させることができる。
【0066】
ペプチド薬剤も担体との融合タンパク質(すなわち、異種ペプチド)として発現させることができる。ペプチド薬剤は、そのアミノ末端、そのカルボキシル末端または両方において担体に結合させることができる。場合によって、免疫原性ペプチドの複数の繰返し体を融合タンパク質に存在させることができる。場合によって、免疫原性ペプチドは、例えば、異種ペプチドの複数のコピーに、ペプチドのNおよびC末端で結合させることができる。ある種の担体ペプチドは、担体ペプチドに対するヘルパーT細胞応答を誘発させる役割を果たしている。誘発されたヘルパーT細胞が次に、担体ペプチドに結合した免疫原性ペプチドに対するB細胞応答を誘発する。
【0067】
薬剤が個人に投与すべき本発明による抗体、ポリペプチド、ペプチド、小分子または他の製薬上有用な化合物であるかどうかにかかわりなく、投与は、長期投与法による。実際の投与量ならびに投与の速度および時間経過は、患者の性質と重症度に依存する。治療の処方、例えば、用量等に関する決定は、一般開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、一般的に治療する障害、個々の患者の状態、送達の部位、投与の方法および開業医に知られている他の因子を考慮に入れる。上述の手法およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th edition、Osol、A.(ed.)、1990(非特許文献29)に見出すことができる。
【0068】
薬剤組成物
本発明は、病的炎症を伴う障害に罹患しやすい、かつ/または罹患している対象における慢性病的炎症の低減のための薬剤組成物も提供する。
【0069】
本発明の製剤は、好ましくは製剤の約0.1〜約10%の濃度の薬剤を含む。それらは、他の製薬上活性な化合物とともに適宜用いることもできる。以下の方法および賦形剤は、単に典型的なものであり、限定的なものではない。
【0070】
経口剤については、薬剤は、単独または、適切な添加剤、例えば、ラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプンもしくはジャガイモデンプンのような通常の添加剤、結晶性セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプンもしくはゼラチンのような結合剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンもしくはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤、タルクもしくはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、ならびに所望ならば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料および着香料と配合して、錠剤、散剤、粒剤もしくはカプセル剤を調製して用いることができる。
【0071】
薬剤が抗体である場合、製剤を非経口剤形で投与することが好ましい。好ましい剤形は、意図される投与方式および治療適用に依存する。組成物は、所望の製剤によって、動物またはヒトへの投与用の薬剤組成物を調合するのに一般的に用いられる賦形剤と定義されている製薬上許容できる無毒性の担体または希釈剤を含んでいてもよい。希釈剤は、配合剤の生物活性に影響を及ぼさないように選択する。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液およびハンクス液である。さらに、薬剤組成物または製剤は、他の担体、アジュバントまたは無毒性、非治療用、非免疫原性安定化剤等を含んでいてもよい。プロテオグリカンのような担体分子も含んでいてよい。そのような担体分子の特定の例は、ヘパリン硫酸、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸、ヘパラン硫酸およびデルマチン硫酸、ペルレカンならびにペントポリ硫酸のようなグリコサミノグリカンを含むが、これらに限定されない。
【0072】
本発明の抗体は、界面活性剤を添加もしくは添加しない水および油のような滅菌済み液体であってよい薬剤担体を含む生理学的に許容できる希釈剤中該物質の溶液の注射剤または懸濁剤として投与することができる。他の製剤は、石油、動物、植物または合成起源、例えば、落花生油、大豆油および鉱油の製剤である。一般的に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールが特に注射液剤用の好ましい液体担体である。本発明の薬剤は、有効成分の持続的放出を可能にするように処方することができる徐放性製剤、例えば、デポー注射剤、インプラント製剤または浸透圧ポンプとして投与することができる。
【0073】
さらに、抗体である本発明の薬剤は、全または部分抗体(例えば、単鎖Fv)をコードするポリヌクレオチドを対象に投与することにより提供することができる。このポリヌクレオチドは、対象における治療上有効な量の抗体の発現を可能にするように適切な賦形剤に加えて対象に投与する。
【0074】
本発明の薬剤は、植物油もしくは他の同様な油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステルまたはプロピレングリコールのような水性または非水性溶媒に溶解、懸濁または乳化することにより、注射用製剤中に配合することができる。製剤は、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤および保存料のような通常の添加剤を含んでいてもよい。
【0075】
薬剤は、吸入または肺送達により投与するためのエアゾール製剤で用いることができる。本発明の薬剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容できる加圧噴射剤中に配合することができる。
【0076】
さらに、薬剤は、乳化基剤または水溶性基剤のような様々な基剤と混合することにより坐剤に調剤することができる。本発明の薬剤は、坐剤により直腸に投与することができる。坐剤には、体温で融解するが、室温では固化するココアバター、カーボワックスおよびポリエチレングリコールのような賦形剤を含めることができる。
【0077】
本発明の薬剤の投与は、非経口的注射を含む都合のよい手段により行うことができ、全身または局所送達であってよい。本発明の薬剤は、治療的投与用の様々な製剤に組み込むことができる。より詳細には、本発明の薬剤は、製薬上許容できる適切な担体または希釈剤との組合せにより薬剤組成物に配合することができ、錠剤、カプセル剤、散剤、粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、ミクロスフェア剤およびエアゾール剤のような固体、半固体、液体または気体状の製剤に配合することができる。そのようなものとして、薬剤の投与は、経口、口内、直腸内、非経口的、腹腔内、皮内、経皮、気管内、鼻腔内、胃、筋肉内、頭蓋内、皮下投与等の様々な方法で実現することができる。主薬は、投与後に全身性であってよく、あるいは、局所投与、壁内投与の使用、もしくは埋め込みの部位の主薬の用量を保持する役割を果たすインプラントの使用により局在化してもよい。
【0078】
各用量単位、例えば、ティースプーン一杯、テーブルスプーン一杯、錠剤または坐剤が、あらかじめ決定した量の本発明の1つまたは複数の薬剤を含む組成物を含む、シロップ剤、エリキシル剤および懸濁剤のような経口または直腸投与用の単位剤形を提供することができる。同様に、注射または静脈内投与用の単位剤形は、本発明の薬剤を、滅菌水、正常食塩水または他の製薬上許容できる担体中溶液として組成物中に含むことができる。
【0079】
徐放性製剤用のインプラントは、当技術分野でよく知られている。インプラントは、生分解性または非生分解性ポリマーを用いてミクロスフェア、スラブ等として調剤される。例えば、乳酸および/またはグリコール酸のポリマーは、宿主による許容性が良好である侵食性ポリマーをなす。インプラントは、主薬の局所濃度が身体の残部と比較して当該部位で増加するように、タンパク質沈着の部位(すなわち、神経変性疾患に伴うアミロイド沈着の形成の部位)の近傍に留置する。
【0080】
対象への投与のための一般的な用量単位は、静脈内投与に適した液剤、1日2〜6回服用する錠剤、または1日1回服用し、比較的に高い含量の有効成分を含む1回放出カプセル剤または錠剤等を含むが、これらに限定されない。時間放出効果は、異なるpH値で溶解するカプセル材料、浸透圧により徐々に放出するカプセルにより、または他の既知の放出制御手段により得ることができる。
【0081】
抗体およびペプチドを含む本発明の特定の薬剤は、時としてアジュバントとともに投与する。免疫応答を誘発するために、様々なアジュバントを抗α4インテグリン薬剤と併用することができる。好ましいアジュバントは、定性的な応答形態に影響を及ぼす薬剤の立体配座の変化を引き起こすことなく、薬剤に対する固有の応答を増強させる。好ましいアジュバントは、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、3De−O−アシル化モノホスホリル脂質A(MPL(商標))(英国特許第2220211号(RIBI ImmunoChem Research Inc.、Hamilton、Montana、現在Corixaの一部)(特許文献37)を参照)である。Stimulon(商標)QS−21は、南アフリカに見出されるQuillaja Saponaria Molina樹の樹皮から分離されたトリテルペングリコシドまたはサポニンである(Kensil等、in Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(編集Powell & Newman、Plenum Press、NY、1995(非特許文献30))、米国特許第5057540号(特許文献38)(Aquila BioPharmaceuticals、Framingham、MA)を参照)。他のアジュバントは、場合によってモノホスホリルリピドA(Stoute等、1997 N. Engl. J. Med. 336、86〜91頁)(非特許文献31)のような免疫増強薬と併用される、水中油型乳剤(スクアレンまたは落花生油)である。他のアジュバントは、CpGである(国際公開第98/40100号)(特許文献39)。あるいは、薬剤をアジュバントに結合させることができる。しかし、そのような結合は、宿主免疫応答の性質に影響を及ぼすように所望のα4エピトープの立体配座を実質的に変化させるものであるべきはない。アジュバントは、主薬とともに治療用組成物の成分として投与することができ、あるいは、別個に、治療薬の投与前に、同時に、または投与後に投与することができる。
【0082】
投与用として好ましいクラスのアジュバントは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよび硫酸アルミニウムである。そのようなアジュバントは、MPLまたは3−DMP、QS−21、ポリグルタミン酸もしくはポリリシンのような多量体もしくは単量体アミノ酸のような他の特異的免疫促進薬とともに、または単独で用いることができる。他のクラスのアジュバントは、水中油型乳剤である。そのようなアジュバントは、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−アラ−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP)テラミド(商標)のような他の特異的免疫促進薬または他の細菌細胞壁成分とともに、または単独で用いることができる。水中油型乳剤としては、(a)Model 110Y微量流動化装置(Microfluidics、Newton MA)のような微量流動化装置を用いてサブミクロン粒子に調剤した5%スクアラン、0.5%トウィーン80および0.5%スパン85を含む(場合によって種々の量のMTP−PEを含む)MF59(国際公開第90/14837号(特許文献40))、(b)微量流動化処理してサブミクロン乳剤に、またはボルッテックス処理してより大きい粒径の乳剤に調剤した10%スクアラン、0.4%トウィーン80、5%プルロニック(pluronic)保護ポリマーL121およびthr−MDPを含むSAF、(c)2%スクアラン、0.2%トウィーン80およびモノホスホリル脂質A、トレハロースジミコラート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(Detox(商標))を含むRibi(商標)アジュバントシステム(RAS)(Ribi Immunochem、Hamilton、MT)などがある。他のクラスの好ましいアジュバントは、Stimulon(商標)(QS−21、Aquila、Framingham、MA)のようなサポニンアジュジュバントまたはISCOMs(免疫促進複合体)およびISCOMATRIXのようなそれから発生した粒子である。他のアジュバントとしては、完全および不完全フロイントアジュバント(IFA)、インターロイキン(IL−1、IL−2およびIL−12)のようなサイトカイン、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)ならびに腫瘍壊死因子(TNF)などがある。そのようなアジュバントは一般的に市販されている。
【0083】
アジュバントは、単一組成物として薬剤とともに投与することができ、あるいは、薬剤の投与前、同時に、もしくは投与後に投与することができる。薬剤とアジュバントは、同じバイアルに包装し、供給することができ、あるいは、別個のバイアルに包装し、使用前に混合することができる。薬剤とアジュバントは、一般的に意図する治療適用を示したラベルとともに包装する。薬剤とアジュバントを別個に包装する場合、包装には一般的に使用前の混合に関する指示書を含む。アジュバントおよび/または担体の選択は、アジュバントを含む製剤の安定性、投与経路、投与計画およびワクチン接種する動物種におけるアジュバントの有効性のような因子に依存する。ヒトでは、製薬上許容できる好ましいアジュバントは、管轄規制機関によりヒトへの投与が承認されたものである。ヒトにおけるそのような好ましいアジュバントの例としては、ミョウバン、MPLおよびQS−21などがある。場合によっては、2種以上のアジュバントを同時に用いることができる。好ましい組合せは、ミョウバンとMPL、ミョウバンとQS−21、MPLとQS−21およびQS−21とMPLなどである。また、フロイントの不完全アジュバントを、場合によってミョウバン、QS−21およびMPLならびにそのすべての組合せのいずれかと併用することができる(Chang等、1998 Advanced Drug Delivery Reviews 32、173〜186頁)(非特許文献32)。
【0084】
長期投与計画
本発明の長期治療計画は、病的炎症のを抑制を必要とする患者における病的炎症を抑制するのに十分な受容体飽和を維持するレベルの抗α4インテグリン薬剤を提供する。本発明の方法は、2週間に1回、または1か月に1回から2か月に1回の投与を必要とし、少なくとも6か月間、より好ましくは1年間またはそれより長い期間にわたり反復投与を行う。本発明の方法は、約65%〜約100%、より好ましくは約75%〜約100%、さらにより好ましくは約80%〜約100%の範囲のα4インテグリンを含む二量体(例えば、VLA−4)のヒト患者における受容体飽和レベルを得て、維持することを含む。これらの受容体飽和レベルがこれらのレベルに長期的に(例えば、6か月間など)維持されて、病的炎症の継続的抑制が可能となる。
【0085】
特定の実施形態において、抗α4インテグリン薬剤は、抗体、好ましくはヒト化またはヒト抗体(例えば、ナタリズマブ)であり、その投与は1か月ごとである。受容体飽和レベルをモニターして投与法の有効性を判定し、生理学的マーカーを測定して投与法の成功を確認することができる。確認として、抗体の血清中濃度をモニターして、身体のクリアランスを確認し、治療の有効性に対する半減期の影響の可能性を検討することができる。
【0086】
薬剤の用量単位での投与量は、アジュバントも投与するかどうかに依存し得るものであり、一般的にアジュバントが存在する場合にはより高い用量が必要である。本発明の薬剤による免疫化においては、用量は、約0.0001〜約100mg/kg、さらに通常、約0.01〜5mg/kg宿主体重である。例えば、用量は約1mg/kg体重または約10mg/kg体重であり得る。用量および頻度は、患者における薬剤の半減期によって変わり得る。用量および投与頻度は、投与が予防的か治療的かによって変わり得る。抗体投与では、毎回の投与での注射は一般的に約2.0〜8.0mg/kgである。本明細書に記載した教示によれば、患者から体液試料、一般的に血清または脳脊髄液試料を採取し、当技術分野でよく知られている方法を用いてインテグリン受容体飽和度を測定することにより、有効量をモニターすることができる。理想的には、試料を初回投与前に採取し、その後の試料は毎回の免疫化の前および/または後に採取し、測定する。特に好ましい量は、1か月当たり患者体重1kg当たりナタリズマブ3mgまたはそれと同等な免疫活性な断片である。
【0087】
アジュバントを投与する場合、用量は、個々のアジュバントおよび抗α4薬剤の免疫原性のレベルによって増加する。本発明により選択する個々の薬剤の用量は、本明細書に記載した教示事項を考慮して、標準投与法により決定する。
【0088】
反復個別投与からなる長期投与の代替法として、用量が、炎症を抑制するのに十分な受容体飽和のレベルが維持されるようなものであるならば、抗α4薬剤を徐放性製剤として投与することができる。例えば、放出制御系を用いて本発明の範囲内の抗α4薬剤を長期的に投与することができる。適切な放出制御剤形の考察は、Lesczek Krowczynski、Extended−Release Dosage Forms、1987(CRC Press,Inc.)(非特許文献33)に見出すことができる。
【0089】
様々な放出制御技術が非常に広いスペクトルの薬物剤形に及んでいる。放出制御技術は、物理的系および化学的系を含むが、これらに限定されない。物理的系は、マイクロカプセル形成、マクロカプセル形成および膜システムのような速度制御膜を含む貯蔵系、中空繊維、超微細孔性三酢酸セルロース、ならびに多孔性重合物質および発泡体のような、速度制御膜を含まない貯蔵系、無孔性重合体または弾性体マトリックス(例えば、非侵食性、侵食性、環境因子移入および分解性)に物理的に溶解したシステムおよび無孔性重合体または弾性体マトリックス(例えば、非侵食性、侵食性、環境因子移入および分解性)に物理的に分散した物質を含む一体系、外側制御層と化学的に類似または類似していない貯蔵層を含む積層構造、ならびに浸透圧ポンプまたはイオン交換樹脂への吸着のような他の物理的方法を含むが、これらに限定されない。
【0090】
化学的系は、重合体マトリックスの化学的侵食(例えば、不均一または均一侵食)または重合体マトリックスの生物学的侵食(例えば、不均一または均一)を含むが、これらに限定されない。放出制御のためのシステムのカテゴリーのさらなる考察は、Agis F. Kydonieus、Controlled Release Technologies:Methods,Theory and Applications、1980(CRC Press,Inc.)(非特許文献34)に見出すことができる。
【0091】
本発明の方法は、病的炎症を伴う、もしくはそれに起因する障害に罹患している患者を治療するために、または特定の障害のリスクがある患者を予防的に治療するために用いることができる。予防的に治療するために必要な投与法と治療に必要な投与法は異なる可能性があり、特定の使用目的と治療する障害ごとに投与法を設計することが必要である。
【0092】
いくつかの方法において、2種以上の薬剤(例えば、異なる結合特異性を有するモノクローナル抗体)を同時に投与する。その場合、投与する各薬剤の用量は、示されている範囲内にある。受容体飽和レベルを測定することにより、あるいは、疾患の経過の他の指標を追跡することにより示されるので、間隔は不規則であってもよい。
【0093】
当業者は、用量段階は特定の薬剤、症状の重症度および副作用に対する対象の感受性の関数として変わり得ることを容易に認識するであろう。特定の薬剤のあるものは他のものよりも強力である。所与の薬剤の好ましい用量は、当業者によって様々な手段により容易に決定される。好ましい手段は、所与の薬剤の生理学的効力を測定することである。
【0094】
治療適応
本発明の徐放性製剤は、広範囲の望ましい効果を得るために用いることができる。特に、本発明の製剤は、病的炎症を標的とする抗炎症薬の長期投与により治療可能であるあらゆる疾患状態または症状を本質的に治療するのに有用である。
【0095】
本発明はまた、α4依存性相互作用を遮断する抗α4インテグリン薬剤の能力を利用する治療の方法を提供する。内皮細胞上のVCAM−1リガンドとのα4依存性相互作用は、中枢神経系のそれ(α4依存性相互作用)を含む多くの炎症性反応における初期の事象である。炎症に起因し、急性および/または慢性臨床的増悪を有する望ましくない疾患および状態としては、多発硬化症(Yednock等、1992 Nature 356、63頁(非特許文献35)、Baron等、1993 J. Exp. Med. 177、57頁(非特許文献36))(非特許文献35)、髄膜炎、脳炎、脳卒中、他の大脳外傷、潰瘍性大腸炎およびクローン病(CD)を含む炎症性腸疾患(IBD)(Hamann等、1994 J. Immunol. 152,3238頁)(非特許文献37)、(Podolsky等、1993 J. Clin. Invest. 92、372頁(非特許文献38))、慢性関節リウマチ(van Dinther−Janssen等、1991 J. Immunol. 147、4207頁(非特許文献39)、van Dinther−Janssen等、1993 Annals Rheumatic Diseases 52、672頁)(非特許文献40)、Elices等、1994 J. Clin. Invest. 93、405頁(非特許文献41))、Postigo等、1992 J, Clin. Invest. 89、1445頁(非特許文献42))、喘息(Mulligan等、1993 J. Immunol. 150、2407頁(非特許文献43))および急性若年発症糖尿病(1型)(Yang等、1993 PNAS 90、10494頁(非特許文献44))、Burkly等、1994 Diabetes 43、529頁(非特許文献45))、Baron等、1994 J. Clin. Invest. 93、1700頁(非特許文献46))、AIDS痴呆(Sasseville等、1994 Am. J. Path. 144、27頁(非特許文献47))、アテローム動脈硬化症(Cybulsky等、1991 Science 251、788〜91頁(非特許文献48)、Li等、1993 Arterioscler. Thromb. 13、197頁(非特許文献49))、腎炎(Rabb等、1995 Springer Semin. Immunopathol.16、417〜25頁(非特許文献50)、鼻炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、慢性前立腺炎、鎌状赤血球貧血の合併症、紅斑性狼瘡および成人呼吸促迫症候群において発生するような急性白血球媒介性肺損傷などがある。
【0096】
炎症性腸疾患は、クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎と称する2つの類似疾患の総称である。CDは、肉芽腫性炎症性反応による腸壁の全層の明確に範囲が定まった、一般的に貫壁性疾患によって特徴付けられる特発性の慢性潰瘍収縮性炎症性疾患である。この疾患は最も一般的には末端回腸および/または結腸を冒すが、口から肛門までの胃腸管のあらゆる部分に及ぶ可能性がある。潰瘍性大腸炎は、主として結腸粘膜および粘膜下に限定される炎症性反応である。リンパ球およびマクロファージは、炎症性腸疾患の病変部に多数存在し、炎症性損傷に寄与している可能性がある。
【0097】
喘息は、気管支気道の発作性収縮を増強する様々な刺激に対する気管気管支樹の反応性の亢進を特徴とする疾患である。刺激は、ヒスタミン、好酸球性および好中球性走化因子、ロイコトリエン、プロスタグランジンおよび血小板活性化因子などのIgE被覆マスト細胞からの炎症の様々なメディエータの放出を引き起こす。これらの因子の放出は、炎症性損傷を引き起こす好塩基球、好酸球および好中球を動員する。
【0098】
アテローム動脈硬化症は、動脈(例えば、冠動脈、頚動脈、大動脈および腸骨動脈)の疾患である。基礎病変であるアテロームは、脂質のコアと線維性被覆キャップを有する内膜内の隆起した限局性プラークからなる。アテロームは、動脈血流障害をもたらし、罹患した動脈を弱くする。心筋および脳梗塞は、この疾患の主要な結果である。マクロファージおよび白血球がアテロームに動員され、炎症性損傷に寄与する。
【0099】
慢性関節リウマチは、主として関節の障害と破壊をもたらす慢性再発性炎症性疾患である。慢性関節リウマチは、通常は最初に手および足の小関節を冒すが、その後、手首、肘、くるぶしおよび膝に及ぶことがある。関節炎は、滑膜細胞と循環から関節の滑膜裏層中に浸潤する白血球との相互作用に起因する。例えば、Paul、Immunology(3d ed.、Raven Press、1993)(非特許文献51)を参照のこと。
【0100】
抗α4薬剤の長期投与の他の適応は、臓器または移植片拒絶の治療である。近年、皮膚、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓および骨髄のような組織および臓器の移植の外科手術手技の有効性の著しい改善があった。たぶん重大な問題は、移植した同種移植片または臓器に対するレシピエントにおける免疫寛容をもたらす十分な薬剤が欠如していることである。同種細胞または臓器を宿主に移植する場合(すなわち、提供者と被提供者が同じ種の異なる個体である)、宿主免疫系が、移植組織の破壊につながる、移植における外来抗原に対する免疫応答(宿主対移植片病)を引き起こす可能性がある。CD8+細胞、CD4+細胞および単球はすべて、移植組織の拒絶に関与する。α4インテグリンに対する抗体は、とりわけ、被提供者における同種抗原誘発免疫応答を遮断し、それにより、そのような細胞が移植組織または臓器の破壊に関与することを防止するのに有用である。例えば、Paul等、1996 Transplant International 9、420〜425頁(非特許文献52)、Georczynski等、1996 Immunol. 87、573〜580頁(非特許文献53)、Georczynski等、1995 Transplant Immunol. 3、55〜61頁(非特許文献54)、Yang等、1995 Transplantation 60、71〜76頁(非特許文献55)、Anderson等、1994 APMIS 102、23〜27頁(非特許文献56)を参照のこと。
【0101】
抗α4薬剤の関連する使用目的は、「宿主対移植片」病(GVHD)に関連する免疫応答の変調である。例えば、Schlegel等、J. Immunol. 155、3856〜3865頁(1995)(非特許文献57)を参照のこと。GVHDは、免疫適格細胞が同種被移植者に移行した場合に起こる潜在的に致命的疾患である。このような状況では、提供者の免疫適格細胞が被移植者の組織を攻撃する可能性がある。皮膚、腸上皮および肝臓の組織は、しばしば標的であり、GVHDの経過中に破壊される可能性がある。この疾患は、骨髄移植におけるように、免疫組織が移植されている場合に特に重大な問題であるが、心臓および肝臓移植などの他の場合に、さほど重大でないGVHDも報告された。本発明の治療薬は、とりわけ、提供者のT細胞の活性化を阻害し、それにより、宿主における標的細胞を溶解するそれらの能力を妨げるのに用いる。
【0102】
本発明の抗α4薬剤のさらなる使用目的は、腫瘍転移を阻害することである。いくつかの腫瘍細胞がα4インテグリンを発現すると報告され、α4インテグリンに対する抗体が内皮細胞へのそのような細胞の接着を阻害すると報告された(Steinback等、1995 Urol. Res. 23、175〜83頁(非特許文献58)、Orosz等、1995 Int. J. Cancer 60、867〜71頁(非特許文献59)、Freedman等、1994 Leuk. Lymphoma 13、47〜52頁(非特許文献60)、Okahara等、1994 Cancer Res. 54、3233〜6頁)(非特許文献61)。
【0103】
本発明の抗α4薬剤のさらなる使用目的は、多発硬化症を治療することである。多発硬化症(MS)は、米国において250000〜350000人が罹患していると推定される進行性の神経学的自己免疫疾患である。多発硬化症は、特定の白血球が神経線維を覆う絶縁鞘であるミエリンを攻撃し、その破壊を開始する、特異的自己免疫反応の結果であると考えられる。多発硬化症の動物モデルにおいて、α4β1インテグリンに対するマウスモノクローナル抗体は、内皮に対する白血球の接着を阻害し、それにより、動物における中枢神経系の炎症とその後の麻痺を予防することが示された。
【0104】
MSの発症は、劇的であるか、あるいは患者に医療処置を求めさせないほど温和である。最も一般的な症状は、脱力(1つまたは複数の肢の)、視神経炎に起因する視力障害、感覚障害、複視および運動失調などである。疾患の経過は、(1)再発性MS、(2)慢性進行性MS、および(3)非活動性MSの3つの一般的なカテゴリーに層別化することができる。再発性MSは、神経学的機能不全の反復性発作を特徴とする。MS発作は、一般的に数日から数週間にわたって発生し、完全な回復、部分的な回復、または全く回復しない状態が後続する。まれにはある程度の回復が2年間以上持続することがあるが、発作からの回復は一般的に最大症状から数週間から数か月以内に起こる。
【0105】
慢性進行性MSは、緩やかな進行性悪化をもたらし、安定化または寛解の期間はない。この型は、再発性MSの既往歴を有する患者に発生するが、20%の患者では再発を想起させることができない。進行性経過中に急性再発も起こることがある。
【0106】
第3の型は、非活動性MSである。非活動性MSは、程度が可変性の固定した神経学的欠損を特徴とする。非活動性MSを有するほとんどの患者が再発性MSの既往歴を有する。
【0107】
MSの経過は、患者の年齢にも依存する。例えば、有望な予後因子としては、早期発症(小児期を除く)、再発性経過、および発症5年後に残存作業不能がほとんどないことなどがある。これに対して、不良な予後は、晩年の発症(すなわち、40歳以上)および進行性経過に関連する。慢性進行性MSはMSを再発させる晩年に始まる傾向があるので、これらの変数は相互に依存する。慢性進行性MSによる作業不能は、通常個々の患者における進行性対麻痺または四肢麻痺に起因する。本発明の1態様において、患者が疾患の再発期でなく、寛解状態にあるときに、患者を治療することが好ましい。
【0108】
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)または経口コルチコステロイド(例えば、経口プレドニゾンまたは静脈内メチルプレドニゾロン)の短期使用がMSの急性増悪を有する患者を治療するための唯一の特異的治療処置である。
【0109】
MSのより新規の治療としては、患者へのインターフェロンβ1b、インターフェロンβ1aおよびコパキソン(登録商標)(以前はコポリマー1として知られていた)の投与などがある。これらの3種の薬剤は疾患の再発率を有意に低減することが示された。これらの薬剤は一般的に、筋肉内または皮下に自己投与するものである。
【0110】
現在利用可能ないずれの治療も脱髄またはMSを抑制しない。本発明の1態様は、本明細書に開示した薬剤で単独または他の標準治療モダリティー(modality)と併用してMSを治療することを意図している。標準治療モダリティーは、以下を含むが、それらに限定されない。患者における疾患の状態に依存する本明細書に開示した方法および組成物と併用してMSを治療する際に使用する本明細書で述べなかったさらなる治療モダリティーは、熟達した開業医には明らかであろう。MSおよび他の病的炎症に対するそのようなさらなる治療モダリティーは、他の免疫調節薬または免疫抑制薬などであろう。
【0111】
上述した薬剤および薬剤組成物は、多発硬化症、炎症性腸疾患、喘息、アテローム動脈硬化症、慢性関節リウマチ、臓器または移植片拒絶および移植片対宿主病を含む前記の炎症性疾患の予防的および/治療的治療のために長期的に投与することができる。治療的適用においては、組成物を、そのような疾患に罹患している疑いのある、もしくは既に罹患している患者に疾患の症状またはその合併症を治癒、もしくは少なくとも部分的に抑制するのに十分な量で投与する。これを達成するのに十分な量は、治療上、または製薬上有効な量と定義する。
【0112】
予防的適用においては、薬剤組成物を個々の疾患に罹りやすい、もしくはそのリスクがある患者に疾患のリスクを除去もしくは低減、または発症を遅延させるのに十分な量で長期的に投与する。多発硬化症が寛解した患者では、リスクは、NMR画像法により、または場合によって、患者により認められる前兆により評価することができる。
【0113】
上述の状態の治療のための本発明の組成物の有効な投与法は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、および投与した他の薬剤などの多くの種々の因子によって異なる。したがって、治療用量は、安全性および有効性を最適化するように調節する必要がある。一般的に、当該投与法の各投与量は、約0.0001〜100mg/kg、さらに通常、0.01〜5mg/kg宿主体重の範囲であろう。1つの好ましい投与法は、300mgを1か月当たり1回、少なくとも6か月間、より好ましくは12か月間、また、たぶん数年間にわたり投与することである。好ましい他の投与法は、1か月当たり、患者の体重1kg当たり3mgである。そのような投与法は、治療を必要とする小児または青年患者に好ましいものであると思われる。
【0114】
併用治療
本発明の抗α4薬剤は、急性および慢性炎症に対する有効な量の他の治療薬とともに用いることができる。そのような薬剤としては、接着分子(例えば、他のインテグリン)の他の拮抗薬、セレクチンおよび免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリー構成員などがある(Springer、1990 Nature 346、425〜433頁、Osborn、1990 Cell 62、3頁(非特許文献62)、Hynes、1992 Cell 9、11頁(非特許文献63))。インテグリンは、一般的に短い細胞質ドメインを有するα鎖(120〜180kDa)およびβ鎖(90〜110kDa)からなる膜貫通糖タンパク質である。例えば、3種の重要なインテグリン(すなわち、LFA−1、Mac−1およびP15095)は、CD11a、CD11bおよびCD11cと称する異なるαサブユニットとCD18と称する共通のβサブユニットを有する。LFA−1(αLβ2)は、リンパ球、顆粒球および単球上に発現し、主として、ICAM−1と称するIgファミリー構成員のリガンド(counter−receptor)および関連リガンドに結合する。ICAM−1は、白血球および内皮細胞を含む多くの細胞上に発現し、細胞内皮上でTNFおよびIL−1のようなサイトカインによりアップレギュレートされる。Mac−1(αMβ2)は、好中球および単球上に分布し、ICAM−1にも結合する。第3のβ2インテグリンであるP15095(αXβ2)も好中球および単球上に見出される。セレクチンは、L−セレクチン、E−セレクチンおよびP−セレクチンからなる。
【0115】
抗α4薬剤と併用することができる他の抗炎症薬としては、インターロイキンIL−1からIL−13、腫瘍壊死因子αおよびβ、インターフェロンα、βおよびγ、腫瘍増殖因子β(TGF−β)、コロニー刺激因子(CSF)ならびに顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)のようなサイトカインの抗体および他の拮抗薬などがある。他の抗炎症薬としては、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、エキソタキシンおよびIL−8のようなケモカインの抗体および他の拮抗薬などがある。他の抗炎症薬としては、NSAIDS、ステロイドおよび炎症の小分子抑制薬などがある。併用治療用の薬剤の製剤、投与経路および有効濃度は、α4インテグリンに対するヒト化抗体について上述したとおりである。
【0116】
α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体を媒介し、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)を治療する薬剤と併用するさらなる薬剤は、5−アミノサリチル酸、グルココルチコイド、チオグアニン誘導体、メトトレキサート(MTX)、シクロスポリン、抗生物質およびインフリキシマブを含むが、これらに限定されない。
【0117】
5−アミノサリチル酸は、ジアゾ結合によりスルファピリジンに結合したメサラミンの複合体であり、通常、500mg/日〜約6g/日の量で投与するスルファサラジン(アズルフィジンとしても知られている)を含む。5−アミノサリチル酸は、グルココルチコイドと併用投与することもできる。5−アミノサリチル酸は、潰瘍性大腸炎を治療するために本明細書で述べた他の薬剤のうちの1つとの併用治療に用いるが、クローン病を治療するためにも用いることができる。メサラミンの非スルホンアミド含有製剤は、ASACOL(登録商標)、CLAVERSA、SALOFALK、PENTASA(登録商標)、DIPENTUM(登録商標)、COLAZIDEおよびROWASA(登録商標)を含むが、これらに限定されない。
【0118】
グルココルチコイドは、UCに有効であることが最初に示された1955年以来、IBDの急性重篤増悪の治療の頼みの綱となっている。経口プレドニゾンは、本明細書で開示した薬剤のいずれかと併用投与することができる。一般的に、20〜40mgの経口プレドニゾンを1日1回投与する。グルココルチコイドも静脈内に、また浣腸剤により、抗α4インテグリン薬と併用して、または同時に、またはその投与前/後の短時間内に投与することができる。例えば、ヒドロコルチゾンは、停留浣腸剤(100mg/60mL)として入手可能であり、通常の用量は、2〜3週間にわたり1夜当たりに60mL浣腸剤1つである。当業者により理解されるように、本明細書で述べた治療および薬剤と併用する場合には、これを変更することができる。用いることができる他のステロイド剤は、メタスルホ安息香酸プレドニゾロン、ピバル酸チキソコルトール、プロピオン酸フルチカゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾンおよびブデソニドを含むが、これらに限定されない。
【0119】
チオグアニン誘導体もIBD、CDおよびUCの治療に有用である。これらは、6−メルカプトプリン(6−MP)およびアザチオプリン(IMURAN)を含むが、これらに限定されない。これらの2つの薬物は、本明細書で述べるα4インテグリン調節薬のいずれかと同様に併用することができる。
【0120】
メトトレキサート(MTX)も本明細書で述べるα4インテグリン調節薬との併用が考えられる。好ましくは、MTXは筋肉内注射(i.m.)により対象に抗α4インテグリン薬剤と併用して投与する。MTXは、ステロイド依存性CDに有効であるが、UCには有用ではない。MTXは、対象当たり、1週当たり約15〜25mg、または当業者により必要と判断される量で投与することができる。
【0121】
シクロスポリン(例えば、SANDIMMUNE(登録商標)、NEORAL(登録商標))も腸の病的炎症を治療するために本明細書で述べるα4インテグリン調節薬と併用することができる。これを用いて、グルココルチコイドに応答しない急性の重症UCを治療することができる。
【0122】
インフリキシマブ(すなわち、REMICADE(登録商標))も本明細書に示すα4インテグリン調節薬と併用してCDを治療するために用いることができる。インフリキシマブは、TNFに結合し、それによりその活性を中和する免疫グロブリンである。CDP571のような他の抗TNF抗体も本明細書に開示するα4インテグリン調節薬と併用することができる。
【0123】
抗生物質もUC、IBDおよびCDを調節するために本明細書に示すα4インテグリン調節薬と併用することが考えられる。例えば、患者にメトロニダゾールまたはシプロフロキサシン(またはその薬理学的同等物)をα4インテグリン媒介薬と併用して、または混合物の形で投与することができる。
【0124】
IBD、CDおよびUCの支持治療をα4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体を媒介する薬剤とともに使用して、炎症性腸疾患、クローン病および潰瘍性大腸炎を治療することも考えられる。支持治療は、鎮痛薬、抗コリン薬および下痢止め薬を含むが、これらに限定されない。そのような支持治療を併用することは、患者の症状を低減し、生活の質を改善する支持治療の開始に有用であり得る。支持治療としては、鉄、葉酸塩およびビタミンB12の経口投与などがある。下痢止め薬は、排便の頻度を低減させ、直腸緊急を軽減させるために軽度疾患を有する患者に投与することができるジフェノキシラート、コデイン、ロペラミドおよび抗コリン薬(またはその薬理学的同等物)を含むが、これらに限定されない。コレスチラミンは、本明細書に記載した長期投与法による治療の前に、既に限定回結腸切除を受けていた患者における胆汁塩誘発性結腸分泌を予防するために患者に用いることができる。抗コリン薬は、臭化クリジニウム、塩酸ジシクロミン、ベラドンナのチンキ剤等を含むが、これらに限定されない。これらは、腹部けいれん、疼痛および直腸緊急の低減に有用である。
【0125】
MSの治療のために、抗α4インテグリン薬剤(例えば、抗α4インテグリン抗体、小分子α4インテグリン拮抗薬等)は、MSに伴う症状を治療し、改善し、または軽減するために用いられる他の化合物または組成物と併用することができる。
【0126】
MSに伴う症状を治療し、改善し、または軽減するために用いられる他の薬剤は、筋弛緩薬(例えば、ジアゼパム、シクロベンザプリン、クロナゼパム、クロニジン、プリミドン等)、抗コリン薬(例えば、プロパンテリン、ジシクロミン等)、中枢神経系興奮薬(例えば、ペモリン)、非ステロイド抗炎症薬(イブプロフェン、ナプロキセンおよびケトプロフェンのようなNS)、インターフェロン、免疫グロブリン、グラチラマー(Copaxone(登録商標))、ミトキサントロン(Novantron(登録商標))、ミソプロストール、腫瘍壊死因子α阻害薬(例えば、ピルフェニドン、インフリキシマブ等)およびコルチコステロイド(例えば、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド)を含むが、これらに限定されない。
【0127】
多発硬化症の治療用の一般的な薬剤は、インターフェロンβ1b(Betaserone(登録商標))、インターフェロンβ1a(Avonex(登録商標))、高用量インターフェロンβ1a(Rebif)、グラチラマー(Copaxonone(登録商標))、免疫グロブリン、ミトザントロン(Novantrone((登録商標))、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン等)などである。他のコルチコステロイドも用いることができ、コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プロドニゾロン、6α−メチルプレドニゾロン、トリムシノロンおよびベタメタゾンなどである。
【0128】
本明細書に開示する化合物および組成物と併用される薬剤の剤形は、対象および用いる薬剤の組合せによって異なるであろう。例えば、インターフェロンは一般的に次のように投与する。インターフェロンβ1a(Avonex(登録商標))は、30μgを1週間に1回投与し、インターフェロンβ1aは約22μgまたは44μgを1週間に3回投与し、インターフェロンβ1b、(Betaserone(登録商標))は250μgを1日おきに投与する(Durelli等、Lancet 359、1453〜60頁、2002(非特許文献64))。一般的にインターフェロンは、再発性または寛解性多発硬化症に対して投与する。したがって、本明細書に開示する抗α4インテグリン薬剤との併用に際して、インターフェロンの好ましい範囲は、該薬剤を本明細書に開示する他の抗α4インテグリン化合物および組成物と併用して投与する方法によって約0.1μg〜約250μg、より好ましくは約0.5μg〜約50μgであると思われる。
【0129】
本発明とともに使用することができると考えられるNSまたはNSAIDsは、非選択的COX阻害薬および選択的COX−2阻害薬を含むが、これらに限定されない。非選択的COX阻害薬は、サリチル酸誘導体(例えば、アスピリン、サリチル酸ナトリウム、コリントリサリチル酸マグネシウム、サルサラート、ジフルニザル、スルファサラジンおよびオルサラジン)、パラアミノフェノール誘導体(例えば、アセトアミノフェン)、インドールおよびインジン酢酸(例えば、トルメチン、ジクロフェナクおよびケトロラク)、ヘテロアリール酢酸(例えば、アブプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェンプロフェンおよびオキサプロジン)、アントラニル酸またはフェナメート(例えば、メフェナム酸およびメクロフェナム酸)、エノール酸(例えば、ピロキシカムおよびメロキシカムのようなオキシカム)およびアルカノン(例えば、ナブメトン)を含むが、これらに限定されない。選択的COX−2阻害薬は、ジアリール置換フラノン(例えば、ロフェコキシブ)、ジアリール置換ピラゾール(例えば、セレコキシブ)、インドール酢酸(例えば、エトドラク)およびスルホンアニリド(例えば、ニメスリド)などである。NSは、例えば、Avonex(登録商標)を服用している患者が経験するかぜ様症状を軽減するためにしばしばインターフェロンと併用投与する。一般的なNS薬は、ナプロキセン、イブプロフェンおよびケトプロフェンなどである。パラセタモールもしばしば患者に投与される。Reess等、2002 Mult. Scler, 8、15〜8頁(非特許文献65)を参照のこと。
【0130】
酢酸グラチラマー(GA、Copaxone(登録商標))は、ミエリン塩基性タンパク質反応性T細胞の活性化を阻害し、抗炎症作用特徴とするT細胞レパートリーを誘導する合成分子である。さらに、酢酸グラチラマーは、中枢神経系(CNS)にアクセスできるが、インターフェロンβはできない(Dhib−Jalbut、2002 Neurology 58、S3〜9頁(非特許文献66)、Weinstock−Guttman等、2000 Drugs 59、401〜10頁(非特許文献67))。
【0131】
ミトキサントロンは、二次性進行性多発硬化症(SP−MS)の治療に有効であることが示されたアントラセンジオン合成薬剤である。しかし、この薬剤の使用は、その心臓毒性により再び制限されている(Weinstock−Guttman等、2000)。
【0132】
腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、脱髄における重要なサイトカインである可能性がある(Walker等、2001 Mult. Scler. 7、305〜12頁(非特許文献68))。したがって、TNF−α機能に拮抗する、またはその合成を阻害する薬剤の使用は、本明細書に開示する薬剤および化合物との併用に有用であると思われる。これは、抗TNF−α抗体(例えば、インフリキシマブ)ならびにピルフェニドンのような薬剤を含んでいてよい。ピルフェニドンは、TNF−αの合成を低減させ、TNF−αの受容体を遮断することが示された非ペプチド薬剤である。前出。
【0133】
ほとんどの脱髄状態および疾患における長年の頼みの綱は、ACTH、グルココルチコイドおよびコルチコイドステロイドの使用であった。これらの薬剤は、その抗浮腫および抗炎症作用のために用いられている。ACTHは、5%デキストロースおよび水500mL中80Uで6〜8時間にわたり3日間対象に静脈内投与する。本剤はまた、7日間にわたり12時間ごとに40Uの用量で40U/mlで筋肉内投与し、その後、用量を3日ごとに減量する。S. Hauser、「Multiple sclerosis and other demyelinating diseases」、in Harrison’s Principles of Internal Medicine 2287〜95頁(13th ed.、Isselbacher等、ed.1994(非特許文献69))を参照のこと。メチルプレドニゾロンは、一般的に好ましくは朝に500ml D5Wで6時間にわたり緩やかに投与する。一般的な用量は、1000mg1日1回3日間、500mg1日1回3日間および250mg1日1回3日間などである。前出。メチルプレドニゾロン−プレドニゾンも一般的に併用投与する。一般的に、1000mgの静脈内メチルプレドニゾロンを3日間にわたり投与した後、経口プレドニゾンを1日1mg/kgで14日間投与する。したがって、本明細書に開示する化合物および組成物との併用では、ステロイドを必要に応じて、約1〜14日間にわたり約1〜約1000mg/kgの量で投与してもよい。
【0134】
MSのような脱髄状態における副作用は、疲労および認識機能の低下である。塩酸アマンタジンおよびペモロンのような薬剤は、MSに伴う疲労を治療するために頻繁に用いられている(Geisler等、1996 Arch. Neurol. 53、185〜8頁(非特許文献70))。
【0135】
そのような併用治療の利点は、現在一部の薬物で遭遇しているクラス特異的および薬剤特異的副作用を軽減することができる点である。インターフェロンβのクラス特異的副作用としては、注射2〜6時間後に始まり、一般的に注射24時間後に消失する発熱、悪寒、筋痛、関節痛および他のかぜ様症状などがある。時折、インターフェロンβは先在性MS症状の一過性の悪化も誘発する。薬剤特異的副作用としては、インターフェロンβ1bによる注射部位反応などがある。これらの作用の管理は、用量および投与時間を調整し、アセトアミノフェン、非ステロイド抗炎症薬(NSまたはNSAIDS)およびステロイドの適切な配合を処方することにより実現することができる。Munschauer等、1997 Clin, Ther.19、883〜93頁(非特許文献71)を参照のこと。
【0136】
したがって、投与する特定の薬物の量を少なくすることができる薬物の併用によって、患者が経験する有害な副作用を低減することができる。
【0137】
併用投与するとき、小化合物であるα4インテグリン拮抗薬は、他の化合物もしくは組成物と同じ製剤に混入して、または別個の製剤で投与することができる。併用投与するとき、抗α4抗体は、一般に他の化合物および組成物と別個の製剤で投与することができる。併用投与するとき、抗α4薬剤は、症状を治療し、改善し、もしくは軽減するために用いる他の化合物および組成物の前、後、または同時に投与することができる。
【0138】
実施例
以下の例は、いかにすれば本発明の実施形態を製造し使用することができるか、その代表例を当業者に完全に開示し説明するために示すものであって、本発明者がその発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではないし、下記の実験のみが、実行したすべてのまたは唯一の実験である、として示すことを意図するものではない。使用する数(例えば、量、温度など)について正確さを保証するために努力は行っているが、若干の実験誤差および偏差は容認されるべきである。特に断らない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度数であり、圧力は常圧または常圧付近である。
【実施例1】
【0139】
再発性多発硬化症におけるナタリズマブの比較臨床試験
患者集団
アメリカ、カナダおよび英国の26の医療センターが、1999年9月から2000年5月までに213名の患者を登録した。機関内審査委員会または中央および地方の倫理委員会がプロトコルを承認した。患者は全員、文書によるインフォームドコンセントを与えた。独立した安全データモニタリング委員会によって試験の監視を行った。
【0140】
適格な被験者は、18〜65歳の年齢であり、Poserの基準に従って、臨床的または実験室的裏付けにより、再発寛解型であれ二次性進行型であれ、明確なMSと規定されること(Poser等, 1983 Ann. Neurol. 13:227−31 (非特許文献72); Lublin等, 1996 Neurology 46(非特許文献73): 907−11)、すなわち、過去2年間に少なくとも2回の再発履歴があり、基準値のKurtzke 拡大障害状態評点(EDSS)(Kurtzke, 1983 Neurology 33:1444−52(非特許文献74))が2と6.5の間であり、T2強調脳MRI上で最低3箇所の病変部があることを必要条件とした。過去3か月以内に免疫抑制的または免疫調節的な治療を受けたか、または過去30日以内に再発を経験したかコルチコイドの全身投与を受けた患者は除外した。
【0141】
試験設計および無作為化
コンピュータで生成したブロック無作為化スケジュールにより、患者を以下の3つの治療群のうちの1つに無作為に割り当てた: 3mg/kgナタリズマブ群、6mg/kgナタリズマブ群または偽薬群。患者は28日の間隔で6回の静脈注射を受け、次いで、6か月安全性事後観察を行った。治療割り当てに関しては、調査員、他のすべての試験員および患者を盲験化した。
【0142】
試験手順および評価項目
非増強陽子密度T2強調MRI脳スキャンおよびGd強化造影T1強調MRI脳スキャンを、各治療(0〜5か月目)直前のスクリーニングフェーズ中(−1か月目)および最後の治療(6か月目)後に得た。事後観察MRIスキャンを9か月目および12か月目に得た。脳全体にわたる3mm厚の46枚の軸スライス像を得た。MRI分析は、患者の治療および履歴について盲験化した単一施設によって行った。病変は経験を積んだ2名の臨床医がハードコピー画像上で一致して識別したものである。
【0143】
予期される主要結果の測定は、最初の注入から最後の注入後1か月までの期間として定義される6か月の治療期間中の新たなGd強化造影病変部の数で行った。この他に評価したMRIパラメーターには、持続的なGd強化造影病変部(前月の月毎のスキャンでも強化造影された強化造影病変部)の数;Gd強化造影病変部(半自動局所的閾値法によって測定した;Grimaud等, 1996 Magn. Reson. Imaging 14: 495−505(非特許文献75))の体積;新たな活発な病変(すなわち、新たなGd強化造影病変部に加えて、新たな、または拡大した、非強化造影T2病変部)の数;および活性部スキャン(すなわち、1または複数の新たなGd強化造影病変部を含むもの)の数を含めた。
【0144】
臨床評価項目には、再発頻度およびEDSSにおける変化ならびにビジュアルアナログスケール(VAS)を使用した自己申告による包括的評価を含めた。有害事象はすべて記録した。患者は、治療神経医と評価神経医(両者とも患者の治療割り当てを知らない)によって、スケジュール化した四半期の間隔で、また、再発が疑われる時にはスケジュール外の訪問で診察した。治療神経医は病歴および検査を担当し、有害事象を記録した。評価神経医は神経状態を評価し患者の病歴や以前のEDSS評点についての知識なしでEDSS評点を割り当てた。
【0145】
客観的再発は、少なくとも30日の安定期間後に、少なくとも48時間続く新たなまたは増悪したMSの徴候を示す急性発作の発生として規定した。それはまた、評価神経医による決定に従って、基準値と比較して、EDSS評点で少なくとも1点の増加、2つの機能システム評点(FSS)において少なくとも1点の増加、または1つのFSSにおいて少なくとも2点の増加を伴うものとした。再発に関する上記基準を満たさないが、治療神経医が再発を構成するとして評価した神経症状も記録した(再発合計)。
【0146】
ビジュアルアナログスケール(VAS)で、患者は、3および6か月の治療後に、基準値でのその全体的な健康評価を反映する10cmラインに沿う位置を示した。なお、評点は高い方がより健康な状態を反映する。
【0147】
患者は12か月目まで臨床的に事後観察した。治療を中止したが、終点に達しなかった患者は事後観察評価のために戻るように促した。
【0148】
統計分析
ナタリズマブについての以前の臨床試験において第1回注入後最初の12週間で観察された、新たなGd強化造影病変部の数に基づいて試料サイズ評価を行った(Tubridy等, 1 999 Neurology 53: 466−72(非特許文献76))。この前回の試験結果に基づき、5%有意水準での両側2群比較に適した試料サイズ方法論を用いて、Wilcoxon−Mann−Whitney統計(Noether, 1987 J. Amer. Stat.Assoc. 82: 645−7(非特許文献77))に基づき、検出力80%のためには各群におよそ73名の患者が必要であることが推定された。
【0149】
6mg/kgのナタリズマブと偽薬の間のGd強化造影病変部数の1次比較に加え、Gd強化造影体積もWilcoxon−Mann−Whitney順位和検定で評価した。実行していないため欠けている1または複数のMRIスキャン値は、欠けている値(欠測値)を、その患者について得られているスキャン上の病変の平均数に置き替えることにより代替した。過去30日以内にコルチコイドの全身投与を受けた患者から得られたMRIスキャンは廃棄し、欠測値として扱った。主要結果変数についての群評点と順位評点には均等割付評点を使用してCochran−Mantel−Haenszel相関統計、全3群からのデータを使用して、用量反応関係を試験した。
【0150】
ピアソンのカイ二乗検定を使用して患者と再発の割合を比較した。EDSSとVASにおける基準値からの変化を、独立変数として試験センター群および治療群を用いた二元配置分散分析法を使用して分析した。
【0151】
すべての分析は無作為化された患者をすべて含み、方針遵守原則に従った。すべての報告P値は両側である。基準値における3群間の個体群特性、MS病歴、登録EDSS(entry EDSS)およびMRIパラメーターに著しい違いはなかった(表1)。
【0152】
【表1】

【0153】
主要結果
偽薬群における患者は6か月の治療期間の間に平均9.6の新たなGd強化造影病変を示した。ナタリズマブ投与を受けた群における対応する値は3mg/kg群で0.7(P<0.0001)であり、6mg/kg群で1.1 (P<0.0001)であった (表2を参照) 。この差異は、3mg/kg群および6mg/kg群でそれぞれ93%および88%の新たなGd強化造影病変部の減少となる。偽薬に対する治療群の違いは1回目の注入後に明らかであった(図1)。
【0154】
【表2】

【0155】
二次MRI結果
持続的な強化造影病変部の累積数、新たな活性病変部、強化造影病変部の合計体積および1〜6か月目の活性部スキャン割合には有意で顕著な縮小があった(表2;図2)。
【0156】
臨床効能結果
6か月の治療期間に、71名の偽薬患者のうちの26名で合計35の再発が報告され; 3mg/kgのナタリズマブの投与を受けた68名の患者のうちの13名で18の再発が報告され、また、6mg/kgの投与を受けた74名の患者のうちの14名で15の再発が報告された(P=0.05、偽薬対ナタリズマブ治療を受けた全患者)。より厳格な客観的再発基準を適用しても効果は同じく強く、15名の偽薬患者で18件の再発が、3mg/kgのナタリズマブの投与を受けた3名の患者で3件の再発が、6mg/kgのナタリズマブの投与を受けた8名の患者で8件の再発があった(P=0.05)。偽薬群においては、治療群中よりも多くの再発にステロイド治療を必要とした(偽薬群で22、3mg/kgナタリズマブ群で5、6mg/kgナタリズマブ群で7、P=0.007、偽薬対ナタリズマブ治療を受けた全患者)。
【0157】
VASにおいては、ナタリズマブ群の患者は6か月目までに健康状態の改善を報告したが、偽薬群中の患者は変化を報告せず、この時点での群間の違いは顕著であった(P=0.033、偽薬対ナタリズマブ治療を受けた全患者)。いずれの群でもEDSSの著しい変化は治療期間中には観察されなかった。
【0158】
抗体濃度および受容体飽和
各訪問で患者から血清試料を集め、酵素免疫吸着測定法(ELISA)を使用して、ナタリズマブに対して特異的な抗体を定量的に分析した。各注入の前、1回目の注入および最後の注入の後で2時間、24時間、1、2および3週目に、治療群当たり12〜14名の患者の亜群においてナタリズマブ血清中レベルおよびナタリズマブによる受容体占有率も測定した。
【0159】
ELISAアッセイを使用して血清中の抗体濃度を決定した。簡単に言えば、ナタリズマブに特異的に結合する捕捉抗体の2.0μg/mL溶液を、重炭酸ナトリウム含有溶液でpH8.3に調整した。抗体溶液100μLを、Costar 96ウエルマイクロタイタープレートの各ウエルに加えた。プレートをプレート用シールテープで覆い、12〜26時間、常温でインキュベートした。プレートを吸引し、ブロッキングバッファー(PBS、pH 7.4中0.25%カゼイン)200μLを各ウエルに加え、常温でさらに1時間インキュベートした。次いで、プレートを乾燥し、後の使用のために保存するか、または300μL洗浄バッファー(TBS、pH 7.5、0.05%トゥイーン−20を含む)で1回洗浄した。プレートを乾燥した場合、それらは、使用直前に300μL洗浄バッファーを各ウエルに加え、1〜2分インキュベートすることにより再水和した。プレートを吸引し、ティッシュペーパー上に逆さまに置いて余計な水分を吸収した。
【0160】
ELISA(0.05%トゥイーンを含むPBS中0.25%カゼイン、pH 7.4)に先立ち試験試料をカゼイン希釈剤中で希釈した。典型的には、ナタリズマブ値が正確であることを保証するため、各試料について2または3の希釈液を試験する。残りのステップの正確さをモニターするために、既知量のナタリズマブを使用して希釈対照試料も調製した。
【0161】
参照標準、試験試料または希釈対照試料100μLを各ウエルに加え、プレートを常温で60〜75分間インキュベートした。洗浄バッファーでプレートを3回洗い、さらに、残っている水分を除いた。新たに希釈したマウス抗ヒトIgG4アルカリフォスファターゼ100μLを各ウエルに加え、プレートを常温でさらに60分間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを洗浄バッファーで4回洗浄し、さらに、残っている水分を除いた。100μLの蛍光性基質Aを、較正したマルチチャンネルピペッターを用いて加え、プレートを常温で45〜60分インキュベートした。各ウエル中のレベルは、fmax蛍光マイクロプレートリーダーを使用し、SOFTmaxProバージョン1.31のプロトコルファイルconc102.pprを用いて決定した。
【0162】
結果を図3および4に示す。これらの図の中で示されるように、ナタリズマブのレベルは、投与の間に減少し、7か月目または8か月目(すなわち、最終投与後2〜3か月)までには、抗体は大多数の患者で検出できなくなった。
【0163】
血清中抗体濃度を測定すると共に、FACS分析を使用して、受容体飽和レベル、特にVLA−4飽和レベルを投薬試験の間に決定した。VLA−4飽和の決定はフローサイトメトリーを使用して、イムノアッセイによって決定した。
【0164】
患者から得た血液試料およそ1mLを2本の15mLポリプロピレンチューブに小分けし、チューブ上の14mL目盛まで冷洗浄バッファー(ヒト血清[Scantibodies Laboratory, Inc. Part 3SH341]PBSで3%まで希釈)を加えた。チューブを10〜15℃で5分間、2,200rpmで遠心分離し、液体を吸引して廃棄する。細胞ペレットを合計1 mLの冷バッファー中に再懸濁する。
【0165】
ナタリズマブストック参照標準液500μg/mLを洗浄バッファーを用いて調製する。希釈したナタリズマブストック参照液20μLを第1のチューブに加え、20μL洗浄バッファーを第2のチューブに加えた。両方のチューブを暗所において30分間氷上でインキュベートした。インキュベーション後に、チューブを洗浄バッファーで14mL目盛まで満たし、冷所中、2,200rpmで5分間遠心分離した。上清を吸引し、洗浄ステップを2回繰り返した。2回目の洗浄後、細胞を1mL目盛までの洗浄バッファー中に再懸濁した。
【0166】
Rフィコエリトリン(PE)−結合抗ヒトCDw49d抗体(Pharmingen, Cat. #3 1475X)10μLを各チューブに加え、チューブを穏やかに渦攪拌した。チューブは暗所中2〜8℃で10〜15分間インキュベートした。インキュベーション後、IX溶解液2mL、pH 7.4を加え、各チューブを穏やかに渦攪拌した。チューブを2〜8℃で10〜15分間インキュベートし、冷所中、5分間遠心分離し、細胞ペレットから上清を吸引した。細胞ペレットを冷染色バッファー4mLに再懸濁し、冷所中2,200rpmでチューブを再び遠心分離した。次いで、上清を非常に注意して除き、定着剤溶液(Ortho定着剤、pH 7.6)0.5mLを加え、細胞が定着剤中に確実に再懸濁するように直ちにチューブを渦攪拌した。チューブはFACS分析までアルミホイルで覆った。
【0167】
次いで、分析したナタリズマブを含むかまたは含まない試料中のVLA−4受容体飽和について、各試料をFACS CaliburフローサイトメーターおよびCellQuest(商標)ソフトウェアを使用して分析した。CellQuest(商標)ソフトウェアは、フローサイトメーターからのデータの獲得および分析を可能にする。
【0168】
受容体飽和レベルを図5に示す。1〜4か月目の受容体飽和レベルはその月の投与に先立って測定した。1か月の投与間隔によって生じた受容体飽和レベルは一貫してかなり高く、こうした長期レベルは、病理炎症および疾患に付随する生理的特徴の抑制を維持するのに十分であった。平均して、飽和レベルは、平均少なくとも67%、中央値少なくとも75%で1か月間維持された。これらのレベルは、治療を受けた患者における脳病変部の抑制に十分なものであった(図1を参照)。2〜5か月目(および5か月目の投与後21週間)までの注入前試験で決定された飽和の最小レベルは、ナタリズマブに対する抗体反応を有する1名の患者による平均および中央値と比較して、特に低い。
【0169】
患者の受容体飽和レベルが低下するにつれ治療効果も低下した。42%の平均値受容体飽和レベル、および41%の受容体飽和レベル中央値の被治療集団では、患者集団中での脳病変の抑制につながらず(図2および5を参照)、したがって、α4阻害剤などの薬剤を使用して病理炎症を有効に抑制するには、これ以上の長期受容体飽和レベルが必要である。
【0170】
安全性および許容性
MS患者は、6か月の治療期間にわたって、3または6mg/kgの服用量で繰り返したナタリズマブ治療を良好に許容するように思われた。各群で同様の数の患者が治療により起こる有害事象を経験した。有意なものではなかったが、ある種の有害事象は、偽薬群と比較してナタリズマブ群でより一般的に生じた(表3)。持続性の軽度のリンパ細胞増加症が、6か月の処理期間中、ナタリズマブ治療群で見られた。
【0171】
【表3】

【0172】
偽薬治療群および治療群における重大な有害事象(SAE)の報告数に著しい違いはなかった(すなわち、7名の偽薬処置患者が11例のSAEを報告し、ナタリズマブ3mg/kg投与を受けた5名の患者が5例のSAEを報告し、ナタリズマブを6mg/kg投与を受けた3名の患者が4例のSAEを報告した)。これらのうち、4例は、免疫に仲介されたもので、試験薬と関係があると考えられた。血清疾患の報告が、偽薬群を含め3例あった。3mg/kg群で蕁麻疹と気管支痙攣を伴うアナフラキシー反応が1例あったが、これは抗ヒスタミン剤およびステロイド処理で速やかに終息した。偽薬群を含む各群で1例ずつ3例の血清病の報告があった。1事象だけが補体レベルの変化を伴い、すべてが同じ調査のサイトで生じた。全体として、これらの事象は、250回の注入中1回未満で併発した。
【0173】
有害事象のために治療を中止した患者の数に違いはなかった(すなわち、偽薬群で3名、3mg/kg群で4名、6mg/kg群で3名)。試験中、偽薬患者で血胸を合併した胸膜癌腫症の結果、死亡例が1例あった。
【0174】
抗体形成速度も評価した。全体として15名のナタリズマブ治療を受けた患者(11%)は抗ナタリズマブ抗体を発生し、うち13名は処理期間中、2名は治療後の事後観察期間であった。抗ナタリズマブ抗体の存在を示す臨床的関連事象は、(もしあったとしても)現在知られていない。
【0175】
ナタリズマブの最大の血清中濃度は服用量に依存し、反復服用で観察される顕著な蓄積はなかった。3mg/kgナタリズマブ投与を受けた患者は、治療期間中、VLA−4受容体の80%を超える飽和を示し、受容体占有率はより高く(およそ90%)、6mg/kgナタリズマブ投与を受けた患者ではより長くなった。
【0176】
治療後事後観察:6〜12か月
新たな強化造影病変部および活性部スキャン(9か月目と12か月目を合算)の累積数は、3群すべて(表2)において類似していた。9か月目では6mg/kg群に、より活性が少ない傾向があった。3群間で報告された臨床的再発の総数に顕著な違いはなく、所定の客観的基準による測定して偽薬群で24、3mg/kg群で24、および6mg/kg群で26であった。
【0177】
この試験は、第一に、α4インテグリン媒介白血球接着および流通(trafficking)の選択的な阻害がMSの長期的治療への有効な手法であるということについてヒトにおける強いMRIおよび臨床的証拠を提供する。α4インテグリン特異的ヒト化単クローン抗体ナタリズマブは、両服用量レベルとも、偽薬と比較して、6か月の治療期間にわたってMS患者における新たなGd強化造影炎症性脳病変の抑制に関し、高度に、統計的に有意な結果を実証した。ナタリズマブ治療した患者におけるこうした病変部の縮小は、1回目の注入の1か月後に観察され、治療期間を通じて保持された。両服用量レベルでも、縮小はおよそ90%であり、ベータインターフェロンで報告されている50〜70の%の縮小(MS/MRI Analysis Group(MS/MRI分析グループ), 1995 Neurology 4: 1277−1285(非特許文献78); Jacobs et al, 1996 Ann.Neurol. 39: 285−294(非特許文献79); and PRISMS (Prevention of Relapses and Disability by Interferon beta−1a Subcutaneously in Multiple Sclerosis) Study Group(多発硬化症におけるベータ1aインターフェロンの皮下投与による再発および障害の予防試験グループ), 1998 Lancet 352: 1498−1504(非特許文献80))より大きな効果であった。
【0178】
さらに、この試みでのMRIの結果に対するナタリズマブの効果は、臨床的観察によって支持される。臨床的結果に対する効果を示すために、この試験に予定能を加えたものではない。それにもかかわらず、ナタリズマブによる治療では、再発率が顕著に低下し、患者の中で健康状態の増大が観察される結果となった。報告されたすべての臨床再発例を考慮すると、ナタリズマブ群では両方とも、6か月の治療期間中、経験される再発は偽薬群より著しく少なかった。所定の基準(客観的特徴における変化を必要とするという点でより厳密な尺度)を用いて、これらのエピソードにおける顕著な低減も観察された。再発に対するナタリズマブの効果は、MSに対して現在認められている治療(それらはおよそ30%の効果を示す)(MS/MRI Analysis Group, supra; Jacobs等,前掲; PRISMS Study Group,前掲; Johnson等, 1995 Neurology 45: 1268−76(非特許文献81))を凌駕する。
【0179】
重要なことは、ナタリズマブ群中では、治療終了後に新たなMRI病変や再発に対するリバウンド効果が観察されなかった点である。さらに、6か月間のナタリズマブの毎月の注入は十分に許容されるもので、偽薬と類似した、MSの長期的治療として許容される安全性プロフィールを伴っていた。
【0180】
この試験の結果は、MS患者における急性炎症性脳病変の病因において、α4インテグリンのおよびそれ(病因)を発現する免疫細胞の役割を一層の支持するものである。新たなGd強化造影病変部の縮小は治療1か月後に明白であった。この観察結果は、新たな病変部の出現を防ぐことにより、病変発生においてナタリズマブが初期に作用することを示唆する。
【0181】
要約して言えば、再発性MS患者におけるこの偽薬比較臨床試験で、ナタリズマブは、臨床的に意味のあるパラメーターに対して強い効果を実証した。この6か月の試験中、治療は良好に許容された。この試験で観察された、新たな炎症性CNS病変部の出現、臨床的再発の発生、および患者の健康状態改善に対するナタリズマブの有益な効果は、現在進行中であるより長期的な試験における障害への効果が観察される可能性を示す。
【実施例2】
【0182】
クローン病におけるナタリズマブの比較臨床試験
方法
二重盲検偽薬対象臨床試験で、軽症から重篤な活性状態までのクローン病(CD)患者248名を無作為化し、偽薬もしくは3mg/kgナタリズマブ注入後に偽薬注入を受ける2群;または4週の間隔で3mg/kgもしくは6mg/kgのナタリズマブ注入を受ける2群とした。結果測定にはクローン病活性指数(CDAI)、健康関連クオリティーオブライフ(QOL)、および血清C反応性タンパク量を含めた。ナタリズマブは、臨床寛解率および臨床応答率を増加させ、活性なCD患者におけるQOLを改善すると共に、この疾患の治療に許容可能な安全性プロフィールを実証した。
【0183】
患者集団
地方の倫理学委員会から承認を得た後に、各センターでは、CDAIが少なくとも220であるが450以下として定義された軽症から活性なCDに罹患していることを示す臨床的証拠を有していた18歳以上の男女の患者をスクリーニングした。スクリーニングされた311名の患者のうち、248名は1999年9月から2000年8月まで、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、ドイツ、イスラエル、オランダ、スウェーデンおよび英国の35の試験センターで無作為化された。患者は全員説明を受け、文書による同意を与えた。3か月以内にメトトレキサート、シクロスポリンまたは何らかの試験用薬剤の投与を受けた患者は除外し、アザチオプリンまたは6−メルカプトプリンの投与を受けていた患者は、少なくとも4か月間安定した服用量上であったことを必要条件とした。他に除外したものとしては、以前に抗体治療を受けていた者;25mg/日を超える服用量の経口プレドニゾロンを現に使用している者;基本食または腸管外栄養を現に使用している者;腸の感染性または新生物疾患;3か月以内の腸外科手術;結腸瘻造設術、回腸瘻孔設置術または回腸直腸吻合を伴う結腸直腸吻合術の存在;主として繊維症狭窄の存在に起因する症状;および患者が近い将来、緊急の腹部外科手術を必要とする可能性があるという臨床的印象がある場合が挙げられる。
【0184】
試験設計および無作為化
コンピュータで生成したブロック無作為化スケジュールにより、適格患者を4つの治療投薬計画のうちの1つに任意に割り当てた。各群は、4週の間隔によって一定間隔で2回の静脈注射を受けた。4つの処理投薬計画は偽薬の2回注入;偽薬注入後3mg/kgナタリズマブの1回注入;および3または6mg/kgナタリズマブの2回注入とした。治療割り当てに関しては、調査者、他のすべての試験スタッフおよび患者を盲験化した。
【0185】
試験手順および評価項目
主要効能評価項目は6週目における患者の寛解率(CDAI<150)とした。CDAIは8つの関連する変数:1日当たりの液便または非常に軟かい便の数、腹部の痛みまたは痙攣の重篤さ、一般的な健康状態、疾患の腸外症状の存在、腹部腫瘤の存在、下痢止め薬の使用、ヘマトクリット値および体重を組み込んだものである(Best et a/., 1976 Gastroenterology 70: 439−441(非特許文献82); およびSummers et al, 1979 Gastroenterology 77: 847−69(非特許文献83))。150未満の評点は寛解を示し、150〜219は軽度に活性な疾患、220と450の間は中程度に活性な疾患、450を超える評点は重篤な活性を示した。追加の前向き評価項目は、臨床的反応(すなわち、CDAIの少なくとも70点の低減)を示す患者の割合であった、炎症性腸疾患に特異的アンケート、IBDQ(Irvine等, 1994 Gastroenterology 106: 287−96(非特許文献84))およびC反応性タンパクの血清レベルによって測定される、健康と関連するクオリティーオブライフとした。
【0186】
試験の全体にわたって、有害事象の記録および臨床的試験室的モニタリングを含む安全性評価を行った。独立した安全データモニタリング委員会が、モニタリングレベルを補足した。血清試料は各訪問で集められ、酵素免疫吸着測定法(ELISA)によってナタリズマブに対する抗体を分析した。
【0187】
統計分析
効能分析はすべて、intent−to−treat(ITT)で欠測値には直前の観測値を繰り越す(LOCF)集団を利用した。この集団は無作為化された患者全員(n=248)を含んだ。救命用薬物治療を使用した患者は、治療失敗例として分類した。安全集団(n=244)は、無作為化された投薬された者からなるものとした。4名の患者は不適格であったため投薬しなかった。
【0188】
統計検定はすべて両側として、5%を有意統計レベルとした。偽薬と比較した個々の活性処理対に対し、3種の一対比較を行った。寛解率と応答率は、階層(strata)として国を使用して、Cochran Mantel−Haenszelのカイ2乗検定(一般的関連)(Landis等, 1978 Int’l. Stat. Rev.46: 237−54(非特許文献85))によって分析した。寛解および反応に対する共変量の影響(有無)は、ロジスティックス回帰を使用して、6週目に分析した。
【0189】
ナタリズマブ群中で40%の応答率および偽薬群中で15%の応答率として5%の有意水準で応答率の差異を検出する80%の検出力をもたらすように、1群当たりの被験者試料サイズを60名と計算した。
【0190】
国群および治療群の効果を固定した二元配置分散モデルを使用して基準値からの平均CDAI減少を比較した。活性治療群の各々を偽薬群と比較する差異を検定した。
【0191】
C反応性タンパクとIBDQのデータを、Wilcoxon−Mann−Whttney検定を用いて分析し、3つの活性治療群の各々と偽薬群間の基準値からの変化を比較した。将来を見越して計画された分析ではC反応性タンパク量を基準値(0週目)で正常な範囲の上限値である8mg/l以上の値を有する患者と比較した。
【0192】
結果
個体群特性、CDAI評点、疾患部位および薬物治療は、基準値において群中で同程度であった(表4)。0週目の評価時に、ほとんどの患者は、5−ASA化合物(48〜64%)、経口ステロイド(46〜63%)またはアザチオプリン/6−メルカプトプリン(18〜37%)を含むCDのための他の薬物治療を他の薬剤とももにまたは他の薬剤なしで受けていた。12週目まで完了する前に27名の患者が、この試験から離脱した(偽薬群のうちの10名、3+0、3+3および6+6mg/kgのナタリズマブ群のそれぞれ、6名、5名および6名)。
【0193】
【表4】

【0194】
臨床応答、寛解、および平均CDAI評点
臨床応答(すなわち、基準値からのCDAIの少なくとも70点減少)を達成する患者の割合は、4、6および8週目に3群のナタリズマブ群すべてにおいて偽薬より統計的に有意に大きく(表5および図6)、この結果は、2回のナタリズマブ投与を受けた2群では12週目まで持続した。臨床的応答率における改善のための傾向は、早くも第1回投与後の2週目で観察され、3+3mg/kgナタリズマブ群が、この時点で偽薬との統計的に有意な差を実証した。平均CDAI評点(表6)中の基準値からの減少についての結果は、応答率についての知見に一致している。
【0195】
【表5】

【0196】
【表6】

【0197】
第1回治療後4週目であって、患者が2回目の治療を受ける前に、ナタリズマブの3群はすべて、偽薬群の患者と比較して統計的に有意に高い寛解率を有していた(表5および図7)。しかし、6週目では、偽薬群と比較して3+3mg/kgのナタリズマブ群でのみ、前向きに定義された主要な評価項目(患者の臨床的寛解率)が、統計的に有意に高かった。8週目では、ナタリズマブ(3または6mg/kgの一方)の2回注入を受けた群は両方とも、偽薬群と比較して、統計的に有意に高い寛解率を実証した。12週目で、3+3mg/kgのナタリズマブ群は、臨床的寛解について偽薬に対し統計的に有意な利点を示し続け、一方、6+6mg/kg群は、この結果について偽薬を上回る利点を有する強い傾向を示した。
【0198】
寛解または応答の予測変数
寛解または臨床の反応を予測する基準値変数を識別するため、6週目の結果を使用して分析を行った。検討した変数としては、疾患部位、疾患の継続期間、基準値CDAI評点、経口ステロイドの併用、アザチオプリンまたは6−メルカプトプリンの併用および腸管外の症状を含めた。基準値CDAI評点は寛解の重要な予測変数であった(P<0.001);より高い基準値CDAIを有する患者は寛解を達成する傾向が低かった。しかし、基準値CDAIは、応答可能性を予測するものではなかった。分析した他のすべての変数は寛解または応答の有意な予測変数とは限らなかった。
【0199】
クオリティーオブライフ
6週目では、偽薬群と比較して、すべてのナタリズマブ治療群において平均評点における統計的に有意な改善が観察された。12週目までには、ナタリズマブの2回注入を受けた治療群だけが、偽薬群より有意に高いIBDQ評点を保持し続けた(表7)。
【0200】
【表7】

【0201】
C反応性タンパク質
基準値で血清C反応性タンパク質のレベルが上昇していた患者は、試験期間中、周期的な評価を受けた。ナタリズマブの2回注入を受けた者は、偽薬群の患者と比較してC反応性タンパクの平均血清レベルについて基準値から有意な低減を示した(図8)。その改善効果は、3mg/kgナタリズマブの2回注入を受けた患者では12週目まで維持された。
【0202】
安全性および許容性
すべての服用量レベルにおいて、ナタリズマブ治療は、12週の試験期間を通じて良好に許容された。有害事象のため、各群で同程度の数の患者が試験から離脱した(すなわち、偽薬群のうちの2名、3mg/kgナタリズマブ群のうちの1名、3+3mg/kgナタリズマブ群の2名および6+6mg/kgナタリズマブ群のうちの3名)。全体として、31名の患者が主要な試験期中に重大な有害事象を報告した(すなわち、偽薬群のうちの9名、3mg/kgナタリズマブ群のうちの8名、3+3mg/kgナタリズマブ群の8名および6+6mg/kgナタリズマブ群の6名)。重大な有害事象はいずれも試験薬に関連づけられるものとは評価されず、また、いずれも致命的ではなかった。大多数はCDに関連した合併症または徴候のための入院であった。治療により現れた有害事象を経験する患者の数は様々な治療群で同程度であり、偽薬群のうち52名(83%)、3mg/kgナタリズマブ群のうち51名(78%)、3+3mg/kgのナタリズマブ群のうち57名(88%)および6+6mg/kgナタリズマブ群のうち41名(80%)であった。表8は、偽薬群と比較してナタリズマブ群において少なくとも5%大きな発生率であるCDと関係しない有害事象を示す。これらの様々なタイプの有害事象のいずれも、偽薬群とは統計的に有意差はなく、また、いずれも、中程度から重篤なCDに罹患している患者においてナタリズマブの使用が許容しがたい安全性プロフィールを提示するものとは認められない。
【0203】
【表8】

【0204】
抗ナタリズマブ抗体は12週目で13名のナタリズマブ被治療患者(7%)で検出された。全体として、検出可能な抗ナタリズマブ抗体を有する患者は、検出可能な抗ナタリズマブ抗体を有しない人々と同様に、有害事象または重大な有害事象を経験する傾向はなかった。
【0205】
2名の患者が注入反応を経験した。両者とも、事象は2回目の注入中に生じた。3+3mg/kgナタリズマブ群の患者は、軽度の痒みおよび紅斑症状を経験し、その後、抗ナタリズマブ抗体陽性であることが見つかった。6+6mg/kgナタリズマブ群の患者は、軽度の痒みおよび咳症状を経験した。これらの症状は治療することなく解消され、その後、患者には検出可能な抗ナタリズマブ抗体に陰性であることがわかった。
【0206】
前向きに定義された主要な効能評価項目(臨床的寛解は6週目でCDAI <150として定義した)では、3+3mg/kgナタリズマブ群についてのみ偽薬より統計的に有意に優っていたが、この結果では、4個の別個の時点で3+3mg/kg群(週4、6、8および12)および2個の別個の時点で6+6mg/kg群(4週および8週目。12週目も傾向としては優っている)に、偽薬群に優る利点が観察された。臨床的応答(基準値からのCDAIの少なくとも70点の低下として定義される)を経験した患者の割合は、3つのナタリズマブ群すべてについて4、6および8週目の時点で、およびナタリズマブの2回注入を受けた2つの治療群について12週目の時点で偽薬群より有意に優れていたという知見と組み合わせると、これらのデータは、中程度から重篤な活性CDの治療におけるナタリズマブの効能を立証する強い証拠となる。さらに、CDAIにおける改善に基づいた、臨床的反応および寛解率に対するナタリズマブの有益な効果は、IBDQによって測定した健康に関連するQOLの有意な改善および血清C反応性タンパク質(一般的な炎症を定量するために用いられる急性期反応物)における改善によって確証される。
【0207】
CD試験における受容体飽和の投薬レベルはMS試験の投薬と同程度であり、したがって、受容体飽和レベルはCD試験におけるのと同程度であるべきであるC反応性タンパク量およびCDAIによって実証される患者の全面的な健康状態における改善によって実証されるように、CD試験での受容体飽和レベルはこのように炎症レベルの低減に関係している。
【0208】
安全性に関する重大な懸念はナタリズマブ治療群のうちのいずれにも認められなかった。検出可能な抗ナタリズマブ抗体を生成する患者の割合は低く、検出可能な抗ナタリズマブ抗体に関連した重大な有害事象はなかった。
【0209】
本試験は、中程度から重篤な活性度のCDの臨床的特徴および症状の治療において、ナタリズマブによるα4インテグリンの拮抗作用の有効性および許容性についての説得力のある証拠を提供する。さらに、α4インテグリン拮抗作用がCDを治療するための有効な機作であることをこれらのデータがもたらすという事実は、このモダリティーが、長期自己免疫疾患および炎症性疾患の治療に、より広く適用し得る可能性を高めている。
【実施例3】
【0210】
活性な炎症性腸疾患における活性化循環白血球に対するナタリズマブの効果
白血球サブセットの輸送は、炎症性腸疾患(IBD)の病因に関係する。α4インテグリン類は白血球の血管内皮通過の主要なメディエータであり、それらは好中球以外ではすべての白血球で発現されることから、炎症性腸疾患(IBD)患者の基本的な血中白血球サブセット、ナチュラルキラー(NK)細胞および活性化されたT細胞上に、単一の3mg/kgナタリズマブ(Antegren(登録商標))の注入で効果を及ぼす。単一の3mg/kgナタリズマブの注入は、動物および健康な治験参加者の末梢循環白血球を持続的に高めることも前に示されている(A six−month weekly intravenous toxicity study with Antegren(商標) in cynomolgous monkeys with a six−week recovery, Athena Report 1998, No. 723−013−098)。しかし、好中球以外の白血球がすべてα4インテグリンを発現するが、ナタリズマブが白血球サブセットに差次的効果を及ぼし得るか否かは知られていなかった。
【0211】
方法
30名のクローン病(CD;18名はナタリズマブ、12名は偽薬)および10名の潰瘍性大腸炎(UC;全員ナタリズマブ投与を受ける。偽薬投与なし)患者の末梢血から抽出された白血球(1、2、4、8および12週目ならびに注入後)を、蛍光表示式細胞分取器(FACS)によって分析した。血清ナタリズマブ量および疾患活性評点は各時点で測定した。
【0212】
基準値と比較して有意の変化(p<0.05)および相関性をWilcoxon−Spearman検定によりそれぞれ検定した。白血球サブセット中の変化を分析するWilcoxon符号付順位検定を治療群内でのみ基準値と比較した(p<0.05が有意差を表す)。Spearman順位相関検定を用いて、ナタリズマブの投与を受けた患者における疾患活性パラメーター、ナタリズマブ量、および白血球サブセットの間の相関性を評価した。
【0213】
ナタリズマブ/偽薬注入の直前に、および注入後1、2、4、8および12週目にも静脈血を採取した。Lymphoprep法(Nycomed, Denmark)を用い、コンソート30ソフトウェア(Amlot et al, 1996 Clin. Exp. Immunol.105:176−82)と共に多色蛍光表示式細胞分取器(FACS; Becton Dickenson, Oxford,UK)による分析に先立って末梢血リンパ細胞(PBL)を分離した。FACS分析を使用し、以下のマーカー:CD19(B細胞)、TCRαβ(T細胞)、CD3(全T細胞)、TCRγδ(T細胞)、CD4(ヘルパー/Th−1 T細胞)、CD8(細胞傷害性/サプレッサーT細胞)およびCD16(NK細胞)を発現するPBLの割合を測定した。
【0214】
ナイーブ(CD45RA)および免疫記憶(CD45RO)T細胞サブセットならびに「NK−T細胞」(CD57+/CD3+)以外に、活性化抗原のCD38、CD25(一連のインターロイキン−2受容体)、CD26、CD69およびHLA−DRを発現するTCRαβ細胞の割合を、測定した。活性化抗原CD28およびHLA−DRを発現する細胞傷害性/サプレッサーT細胞(CD8+)の割合も測定した。
【0215】
結果
好酸球、単球、BおよびT細胞数はすべて、≧1週後のナタリズマブについては有意に増加した。リンパ細胞数、B細胞およびT細胞両方の合計は基準値レベルと比較して有意に増加した。好中球数および好塩基性数は変わらなかった。活性化マーカーCD25、CD26、HLA−DR、CD8DR、CD8、CD28、CD45ROおよびCD45RAを発現するT細胞は、UCおよびCD患者において、基準値と比較して、≧4週目および1週目でそれぞれ有意に増加した。CD38+およびCD69+T細胞はUC患者についてのみ≧1週で増加した。NK細胞はすべての患者において注入後変化がなかった。また、NK型T細胞(CD57+)はCD患者でのみ1週目で増加した。ガンマデルタ(γδ)T細胞の有意の変化はCD/UC患者では見出されなかった。T細胞サブセットの変化は疾患活性または血清ナタリズマブ量と関連しなかった。ナタリズマブ後に見られる白血球変化は偽薬では検出されなかった。
【0216】
リンパ細胞数は注入後4週目でクローン病患者(p=0.002)と潰瘍性大腸炎(p=0. 02)の両方で増加したままであり、8週目で治療前の値に戻った(Gordon et al, 2002 Aliment. Pharm. & Ther. 16:699−706; and Gordon et al, 2001 Gastroenterology 121: 268−74)。
【0217】
血中好酸球および単球に対するナタリズマブの影響を図9Aと9Bに示す。好中球数と好塩基球数は、試験した患者群すべてで変わらなかった。図10と11は、クローン病および潰瘍性大腸炎患者中の特定の血中T細胞サブセットおよびナチュラルキラー細胞に対するナタリズマブ投与の効果を示す。エラーバーは、各図表中の標準偏差を表す。
【0218】
基礎的な白血球サブセットの有意の変化は偽薬注入では検出されなかった。11名の偽薬患者への偽薬投与を表9に示す。活性化抗原を発現するリンパ細胞の若干の変化はクローン病患者でのみ個別の時点で検出された(表10)。
【0219】
【表9】

【0220】
表9は偽薬投与後の白血球サブセット平均値(SD);いずれの群でも基準値(0週目)と比較して有意差はない。
【0221】
【表10】

【0222】
表10縦欄は、クローン病試験の偽薬群患者のT細胞サブセットおよびNKタイプ細胞数の平均(SD)を、基準値と比較して示す(Wilcoxon符号付順位検定p<0.05)。基準値と比較した有意差は太字で示す。各平均に対する標準偏差はイタリック体の数字で示す。クローン病または潰瘍性大腸炎患者のいずれかにおいても、リンパ細胞数と疾患活性評点の合計間との間に有意の相関性はなく(表11および12)、また、個々のリンパ細胞サブセットと疾患活性との間にも何らかの有意の相関性は見つからなかった。注入後1、2または4週目に血清ナタリズマブ量と白血球サブセットの変化の間に有意の相関性は検出されなかった。8週目のほとんどすべての患者においてナタリズマブは検出できなかった。したがって、この時点では相関性は計算しなかった。
【0223】
【表11】

【0224】
表11 リンパ球サブセット数とCDAI評点(クローン病患者)またはPowell−Tuck評点(潰瘍性大腸炎)の間には有意の相関は見出されなかった。
【0225】
【表12】

【0226】
表12 疾患活性とリンパ球サブセット数との間には、4週目の全リンパ球数を除いて有意の相関は見出されなかった(p=0.04)。
【0227】
上記のデータに基づいて、単一の3mg/kgナタリズマブ注入は、活性IBDに罹患している患者における白血球サブセットのすべてではないが大部分の血中レベルを増加させた。血中の好酸球、単球およびリンパ細胞数は、ほとんどの患者で注入後少なくとも4週間で基準値以上に有意に上昇した。広範囲の血中T細胞サブセットは、前処理値、特に発現する活性化抗原以上に有意に増加した。しかし、NK細胞数(CD16+/CD3−)はナタリズマブによって影響されず、CD57+T細胞へのナタリズマブによる影響は、他のT細胞サブセットより遥かに少なかった。γδT細胞受容体を発現するリンパ細胞もナタリズマブによって影響されず、これらの細胞ではα4インテグリンが発現されないか低いレベルでしか発現されないことを示唆している。
【0228】
したがって、活性IBDに罹患している患者では、ナタリズマブは、多くの白血球および活性化されたリンパ細胞サブセットの輸送を制限し、血中に維持するのかもしれない。NK細胞、γδ細胞、好中球および好塩基球は、ナタリズマブの投与に影響されないようであり、このことは、ナタリズマブがこれらの細胞型の輸送にはそれほど重要でないメディエータであることを示唆しているかもしれない。
【0229】
本発明をその特定の実施形態に関して記載してきたが、発明の真の精神および範囲から外れることなく様々な変更が可能であり、等価物への置換が行なわれ得ることを当業者は理解すべきである。さらに、特定の状況、材料、組成物、方法、方法ステップまたはステップを本発明の目的、精神および範囲に適合させるように、多くの修正を行うことが可能である。そのような修正はすべて、本発明の範囲内であることが意図される。
【0230】
2002年2月25日および2002年4月23日にそれぞれ出願された米国仮出願番号第60/360,134号および第60/374,501号は、参照によってすべての目的についてそれらの全体が本願に組み入れられる。また、本願で引用した参考文献はすべて、参照によってすべての目的についてそれらの全体が本願に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病的炎症を長期的に低減することを必要とする患者における病的炎症を低減する方法であって、
α4インテグリンを阻害する、または、α4インテグリンを含む二量体を阻害する、患者に治療上有効な量の薬剤を、長期投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記長期投与が少なくとも6か月間にわたることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記長期投与が少なくとも12か月間にわたることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体に結合するように前記薬剤が繰り返して投与され、前記投与により患者における病的炎症を長期的に抑制するのに十分なレベルのα4インテグリン受容体飽和が維持されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記患者におけるα4インテグリン受容体飽和が少なくとも約65%〜約100%となるように前記薬剤が繰り返して投与されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記飽和が少なくとも75%であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記飽和が少なくとも80%であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤がα4インテグリン二量体に結合することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤がモノクローナル抗体またはその免疫活性な断片であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体がナタリズマブであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記α4インテグリン二量体がα4β1であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が少なくとも1つのα4インテグリン二量体受容体を飽和させるのに十分な量で投与され、それにより、病的炎症を抑制することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記二量体受容体がα4β1またはα4β7であり、前記病的炎症が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記二量体受容体がα4β1またはα4β7であり、前記病的炎症が胃腸管の炎症性疾患によって引き起こされることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記胃腸管の炎症性疾患がクローン病、潰瘍性大腸炎または炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記病的炎症が胃腸管の炎症性疾患により引き起こされることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記胃腸管の炎症性疾患がクローン病、潰瘍性大腸炎または炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記病的炎症が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
対象における病的炎症を治療するための長期投与の有効性を判定する方法であって、
前記病的炎症がα4インテグリンによって調節され(modulate)、前記α4インテグリンまたはα4インテグリンを含む二量体の飽和度を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記α4インテグリン二量体がα4β1またはα4β7であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記病的炎症がクローン病によって引き起こされ、患者におけるC反応性タンパク質および/またはCDAIの測定によりα4インテグリンの飽和度を測定することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記病的炎症が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記病的炎症が胃腸管の炎症性疾患であり、前記患者における胃腸管の炎症性疾患を治療または改善するのに十分な治療上有効な量のナタリズマブまたはその免疫活性な断片を、前記治療または改善を必要とする患者に長期的に投与することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記胃腸管の疾患が炎症性腸疾患、クローン病または潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ナタリズマブを約1mg/kg患者〜約20mg/kg患者の量で少なくとも6か月間に渡り4週間ごとに注入により投与することを特徴とする、請求項23または24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記注入による投与を少なくとも12か月間にわたり行うことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記病的炎症が多発硬化症であり、多発硬化症の症状を軽減するのに十分な治療上有効な量のナタリズマブまたはその免疫活性な断片を、前記多発硬化症の症状の軽減を必要とする患者に長期的に投与することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項28】
ナタリズマブを約1mg/kg患者〜約20mg/kg患者の量で、少なくとも6か月間に渡り4週間ごとに注入により投与することを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記注入による投与を少なくとも12か月間に渡り行うことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
患者における病的炎症の長期治療用の組成物であって、
前記病的炎症の長期治療を必要とする患者における前記病的炎症の症状を軽減するのに十分な量の薬剤を含むことを特徴とする組成物。
【請求項31】
前記薬剤がα4インテグリン活性および/またはα4インテグリン二量体活性を阻害することを特徴とする請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記組成物がさらに安定化剤、担体および/または添加剤を含むことを特徴とする請求項30または31のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
前記薬剤がナタリズマブであることを特徴とする請求項30または31のいずれかに記載の組成物。
【請求項34】
ナタリズマブが、少なくとも6か月間にわたる4週間ごとの投与で約1mg/kg患者〜約20mg/kg患者の量で静脈内注入するために、処方されることを特徴とする請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記病的炎症が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項33に記載の組成物。
【請求項36】
前記病的炎症が胃腸管の炎症性疾患によって引き起こされることを特徴とする請求項33に記載の組成物。
【請求項37】
前記胃腸管の炎症性疾患がクローン病、潰瘍性大腸炎または炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
患者における病的炎症の長期治療のための併用治療であって、
請求項30乃至請求項33のいずれか1項に記載の組成物と前記病的炎症を改善する化合物とを用いることを特徴とする併用治療。
【請求項39】
前記病的炎症が胃腸管の炎症性疾患によって引き起こされることを特徴とする請求項38に記載の併用治療。
【請求項40】
前記胃腸管の炎症性疾患が潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患またはクローン病であり、前記化合物が5−アミノサリチル酸、グルココルチコイド、チオグアニン誘導体、メトトレキサート、シクロスポリン、TNFに結合するモノクローナル抗体または抗生物質であることを特徴とする請求項39に記載の併用治療。
【請求項41】
前記病的炎症が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項38に記載の併用治療。
【請求項42】
病的炎症の長期治療を必要とする患者に対する病的炎症の長期治療用薬剤を調製するための、α4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項43】
前記病的の状態が多発硬化症によって引き起こされることを特徴とする請求項42に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項44】
前記病的の状態が胃腸管の炎症性疾患によって引き起こされることを特徴とする請求項42に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項45】
前記α4インテグリン阻害物質がナタリズマブであり、前記胃腸管の炎症性疾患がクローン病、炎症性腸疾患または潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項44に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項46】
前記患者に投与されたとき前記α4インテグリン受容体が病的炎症を抑制するのに十分なレベルに飽和されるように、前記薬剤を処方することを特徴とする請求項42に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項47】
前記患者に投与されたとき前記薬剤が少なくとも約65%から約100%のα4インテグリン受容体飽和をもたらすことを特徴とする、請求項46に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項48】
前記飽和が少なくとも75%であることを特徴とする請求項47に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項49】
前記飽和が少なくとも80%であることを特徴とする請求項47に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項50】
前記阻害物質がα4インテグリン二量体に結合することを特徴とする、請求項42乃至請求項47のいずれか1項に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項51】
前記阻害物質がモノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項42乃至請求項47のいずれか1項に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項52】
前記モノクローナル抗体がナタリズマブまたはその免疫活性な断片であることを特徴とする請求項51に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項53】
前記阻害物質がα4β1に結合することを特徴とする請求項50に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項54】
前記薬剤が1つまたは複数の二量体受容体を飽和させるのに十分な量で投与され、それにより、病的炎症を抑制することを特徴とする請求項42に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項55】
前記薬剤がさらに胃腸管の炎症性疾患を改善する化合物を含むことを特徴とする、請求項44に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項56】
前記化合物が5−アミノサリチル酸、グルココルチコイド、チオグアニン誘導体、メトトレキサート、シクロスポリン、TNFに結合するモノクローナル抗体、抗生物質、鎮痛薬、下痢止め薬または抗コリン薬であることを特徴とする、請求項55に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項57】
前記阻害物質がナタリズマブであり、少なくとも6か月間にわたり4週間ごとに前記ナタリズマブを必要とする患者へ静脈内注入をするために、約1mg/kg患者〜約20mg/kg患者の量で処方することを特徴とする、請求項42乃至請求項56のいずれか1項に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。
【請求項58】
前記阻害物質を少なくとも12か月間にわたる前記患者への静脈内注入のために処方することを特徴とする、請求項57に記載のα4インテグリン阻害物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2011−140493(P2011−140493A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−15696(P2011−15696)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【分割の表示】特願2003−570787(P2003−570787)の分割
【原出願日】平成15年2月25日(2003.2.25)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】