説明

炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法

【課題】本発明は放電管から放射される放射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することを目的とした炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法を得る。
【解決手段】本発明の炎症性サイトカインの産生抑制装置1は、放電管2と、該放電管2から放射される放射光のうち、波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる波長透過手段4と、前記放電管2の発光を制御する発光制御手段5とを備える構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患の罹患を予防し、罹患時の症状を軽減し、又は、炎症性疾患を抑制する働きのある、炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な波長の光を患部に照射することにより様々な疾患を治療(疾患の罹患を予防するために健常者に対して行う予防治療を含む、以下同じ)する光線治療装置が開発されている(特許文献1,2等参照)。このような中、特許出願人も、デジタルスチルカメラ等で用いられる閃光放電管を、このような光線治療装置に利用できないか研究しているところである。
【0003】
具体的には、特許出願人は、炎症性疾患の多くが生体内における炎症性サイトカインの過剰な炎症反応と関連している(例えば、特許文献3等参照)ことに着目し、この炎症性サイトカインと閃光放電管から照射される照射光との関係について研究を行っていた。
【0004】
この炎症性サイトカインは、炎症を促進する働きがあり、各種刺激によって血球から産生される。健常時は、この炎症性サイトカインは、同じく血球から産生されて炎症を抑制する活性を有する抗炎症性サイトカインとの互いの産生量が適宜調整されていることにより、生体内における炎症反応が過剰になることなく正常範囲内に制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−325684号公報
【特許文献2】特開2008−307306号公報
【特許文献3】特開2010−235447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、本願出願人は、この炎症性サイトカインの産生を抑制すれば、少なくとも、炎症性疾患の罹患を予防し、罹患時の症状を軽減し、又は、炎症性疾患を抑制することができると考えた。そこで、本願出願人は、閃光放電管から放射される放射光を照射することにより、この炎症性サイトカインの産生を抑制することが可能かについて研究を行っていた。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、放電管から放射される放射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる、炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炎症性サイトカインの産生抑制装置は、放電管と、該放電管から放射される放射光のうち、波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる波長透過手段と、前記放電管の発光を制御する発光制御手段とを備えるという構成を有している。
【0009】
かかる構成によれば、波長透過手段は、本願出願人によって発見された炎症性サイトカインの産生を抑制する働きを有する波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる。波長透過手段が透過する上限値である780nmの波長は、可視光(線)の上限値であり、炎症性サイトカインの産生を抑制する一方、疾患の罹患を予防したい部位又は罹患した部位(当該部位と医学的に関連があるため当該部位の治療に効果がある部位を含む。以下同じ)に照射する際の熱的影響を最小限に抑えることができる技術的意味を有する値である。当該装置は、各種疾患(例えば、炎症や肌荒れなど)を予防したい部位又は罹患した部位に波長透過手段から透過した透過光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。そして、炎症性サイトカインの産生が抑制されることによって、例えば、炎症性疾患は、その罹患が予防され、罹患時の症状が軽減され、又は、炎症性疾患が抑制される。
【0010】
また、請求項2記載の発明において、前記波長透過手段は、波長が746nm以下の放射光を透過させることが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、波長透過手段は、炎症性サイトカインの産生を抑制する働きがより効果的に認められる波長の上限値である746nm以下の範囲内の放射光を透過させる。当該装置は、各種疾患を予防したい部位又は罹患した部位に波長透過手段から透過した透過光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生をより効果的に抑制することができる。
【0012】
また、請求項3記載の発明において、前記波長透過手段は、波長が600nm以上700nm以下の範囲内の放射光を透過させることが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、波長透過手段は、炎症性サイトカインの産生を抑制する働きが更に効果的に認められる波長が600nm以上700nm以下の範囲内の放射光を透過させる。当該装置は、各種疾患を予防したい部位又は罹患した部位に波長透過手段から透過した透過光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を更に効果的に抑制することができる。
【0014】
また、請求項4記載の発明において、前記発光制御手段は、前記放電管を1回又は複数回に分けて閃光発光させることが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、発光制御手段は、波長透過手段を透過した透過光を炎症性サイトカインの抑制に効果のあった閃光発光させて照射することができる。よって、当該装置は、炎症性サイトカインの産生を更に効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明の炎症性サイトカインの産生を抑制する方法は、上記のいずれかに記載された炎症性サイトカインの産生抑制装置を用いて炎症性サイトカインの産生を抑制する方法であって、前記発光制御手段は、前記放電管を発光させて光を放射させ、該放射させた光を前記波長透過手段に透過させ、該透過させた透過光を生体の特定部位に照射するという方法を有している。
【0017】
かかる方法によれば、波長透過手段は、本願出願人によって発見された炎症性サイトカインの産生を抑制する働きを有する波長の放射光を透過させる。当該装置は、各種疾患(例えば、炎症や肌荒れなど)を予防したい部位又は罹患した部位に波長透過手段から透過した透過光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。そして、炎症性サイトカインの産生が抑制されることによって、例えば、炎症性疾患は、その罹患が予防され、罹患時の症状が軽減され、又は、炎症性疾患が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法によれば、放電管から放射される放射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、波長ごとの血管内皮細胞増殖因子(hVEGF)の産生量を示すグラフ、(b)は、波長ごとの炎症性サイトカインの産生比を示すグラフ
【図2】本発明の実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置の制御回路図
【図3】同実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置の外観図
【図4】同実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置に用いたバンドパスフィルタ(波長透過手段)の透過光の分光特性を示すグラフ
【図5】同実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置のブロック図
【図6】同実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置の実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置(以下、単に「産生抑制装置」と略す)について、図面を参酌しつつ、説明する。まず、同実施形態に係る産生抑制装置が産生を抑制する炎症性サイトカインの働きについて、図1(a)及び図1(b)を参酌しつつ説明する。
【0021】
炎症性サイトカインは、生体内の多彩な細胞間情報を担う可溶性タンパク質の総称であるサイトカインの一種である。特に、炎症性サイトカインは、生体内における様々な炎症症状を引き起こす原因因子として関与し、活性化マクロファージや活性化血管内皮細胞から産生される。
【0022】
具体的に例示すると、炎症性サイトカインには、実験等で検証された代表的な炎症性サイトカインである、(h)VEGF(血管内皮細胞増殖因子、Vascular Endothelial Growth Factor)、TNFα(腫瘍壊死因子、tumor necrosis factor−α)、IL−1β(インターロイキン1β、interleukin−1β)、IFNγ(インターフェロンγ、interferonγ)、IL−6(インターロイキン6、interleukin−6)、IL−12a(インターロイキン12a、interleukin−12a)などが分類される。
【0023】
本願出願人は、この炎症性サイトカインが放電管から照射される照射光の特定の波長でhVEGFの産生量が他の波長と比較して強く抑制されることを発見した。
【0024】
すなわち、図1(a)に示すように、キセノン放電管を発光させてヒト表皮細胞に照射した照射光を半値幅40nmのバンドパスフィルタで所定の中心波長ごとに分光し、中心波長毎のhVEGFの産生量を比較した結果、中心波長600nm〜中心波長700nmの間で産生量が最も少なくなることがわかった。
【0025】
また、図1(b)に示すように、同じくキセノン放電管を発光させてヒト表皮細胞に照射した照射光を半値幅40nmのバンドパスフィルタで所定の中心波長ごとに分光し、中心波長毎の炎症性サイトカインの産生比(照射しない場合を基準とした比率)を比較した結果、中心波長650nmで最も低くなる(強く抑制される)ことがわかった。なお、図1(b)で示す照射光の波長ごとの炎症性サイトカインの産生比は、照射光を照射しなかった場合を基準(「1」とした)とした相対的な値で示されている。各炎症性サイトカインの産生比は、波長ごとに、左からTNFα、IL−1β、IFNγ、IL−6、IL−12aの順にその産生比の結果を示す。
【0026】
また、炎症性サイトカインは、生体において多種類のサイトカインが複雑なネットワークを形成しながら、全体として方向性のある活性を発揮する。炎症性サイトカインは、同じく血球から産生され、炎症を抑制する活性を有する抗炎症性サイトカインとのバランスが崩れることにより、炎症反応の過剰な疾患状態を惹起させる。なお、抗炎症性サイトカインの一つであるIL−4(インターロイキン1α、interleukin−4)には、効果がない(産生が抑制されない)ことも実験等から判明している。
【0027】
そして、この炎症性サイトカインの産生を抑制することにより、新規メカニズムの炎症性疾患治療が可能となる。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る産生抑制装置について、図2〜図5を参酌しつつ説明する。同実施形態に係る産生抑制装置1は、主に、炎症性疾患の罹患を予防し又は罹患時の当該疾患の症状を軽減する予防治療を受ける被治療者や、炎症性疾患を抑制することにより炎症性疾患の治療を受ける被治療者(患者)などの治療を受けるために当該装置を使用する使用者に光を照射する装置である。
【0029】
同実施形態に係る産生抑制装置1は、図2で図示する産生抑制装置の制御回路図に示されているように、放電管2と、該放電管2から放射される放射光を照射する照射範囲を制御する照射範囲制御手段3と、放電管2から放射される放射光のうち波長が特定の範囲内の放射光を透過させる波長透過手段4と、放電管2の発光を制御する発光制御手段5と、放電管2及び発光制御手段5に電気を供給する電源供給手段6と、放電管2、照射範囲制御手段3、波長透過手段4、発光制御手段5及び電源供給手段6を収納するとともに、波長透過手段4から透過された透過光を使用者の予防したい部位又は罹患した部位(特定部位)に照射可能な構造を有する装置本体7(図3参照)と、を備える。
【0030】
放電管2は、炎症性サイトカインの産生を抑制するために使用者の生体の予防したい部位又は罹患した部位に照射する光源となる。放電管2は、例えば、キセノン放電管やハロゲン放電管などの閃光放電管であって、特に、本実施形態では、キセノン放電管を用いる例を説明する。
【0031】
照射範囲制御手段3は、放電管2から放射される放射光を波長透過手段4に導くとともに、波長透過手段4を透過した透過光が使用者の予防したい部位又は罹患した部位に照射されるように、放電管2から略全方位に放射される放射光の照射範囲を制御する。照射範囲制御手段3は、具体的には、放射光を特定の照射方向に反射させて制御する反射傘などの反射部材、放射光を屈折させることにより集光・発散させて制御する光学部材、放射光を導く光路を用いて制御する導光体、及び、これらの組み合わせなどである。
【0032】
波長透過手段4は、放電管2から放射された放射光の、1以上の特定の波長、又は、1以上の特定範囲の波長の放射光のみを透過する光学フィルタである。本実施形態に係る光学フィルタは、特定範囲の波長(帯)の放射光のみを選択的に透過するバンドパスフィルタ(干渉フィルタ)を例に説明する。
【0033】
波長透過手段4は、波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる。図4に図示する各バンドパスフィルタを透過した透過光の分光特性(分光透過率)のグラフからわかるように、この波長範囲の下限値は、(図4の実線Cでその分光特性を示す)中心波長600nmのバンドパスフィルタCを透過する透過光の透過率が最大となる波長(実線C上のb点に対応する波長566.5nm)の透過率の2分の1(半分)となる短波長側の波長(実線C上のa点に対応する波長)である。上限値は、可視光の最大波長である。
【0034】
前述のとおり、中心波長600nmのバンドパスフィルタCは、図1(a)で示すとおり、hVEGFの産生量を抑制する働きがある波長を透過する光学フィルタである。また、この中心波長600nmのバンドパスフィルタCより短波長側の(図4の実線Bでその分光特性を示す)中心波長500nmのバンドパスフィルタBは、図1(a)で示す結果より、hVEGFの産生量を抑制する効果が低いと考えられる。よって、中心波長600nmのバンドパスフィルタCの短波長側の波長aは、炎症性サイトカインを抑制する働きがある下限値であると評価できる。
【0035】
また、近赤外線(波長780nm超)は、使用者に照射する際に熱的な影響が大きいため、波長透過手段4は、この近赤外線に至るまでの可視光線(波長780nm以下)の上限値を上限とされている。
【0036】
また、波長透過手段4は、好ましくは、波長が566.5nm以上746nm以下の範囲内の放射光を透過させるようにしてもよい。この波長範囲の上限値は、(図4の実線Eでその分光特性を示す)中心波長700nmのバンドパスフィルタEを透過する透過光の透過率が最大となる波長(実線E上のd点に対応する波長676.5nm)の透過率の2分の1(半分)となる長波長側の波長(実線E上のf点に対応する波長)である。
【0037】
前述のとおり、中心波長700nmのバンドパスフィルタEは、図1(a)で示すとおり、hVEGFの産生量が抑制する働きがある波長を透過する光学フィルタである。また、この中心波長700nmのバンドパスフィルタEより長波長側の(図4の実線Fでその分光特性を示す)中心波長880nmのバンドパスフィルタFは、図1(a)で示す結果より、hVEGFの産生量を抑制する効果が低いと考えられる。よって、中心波長700nmのバンドパスフィルタEの長波長側の波長(実線E上のf点に対応する波長)は、炎症性サイトカインを抑制する働きがある値であると評価できる。
【0038】
なお、波長780nmも、中心波長880nmのバンドパスフィルタFを透過する透過光の波長よりも短波長側であるため(実線E上のg点に対応する波長)、この波長の照射光を照射することによる炎症性サイトカインの抑制効果を否定するものではなく、その働きが高く評価できるというものである。
【0039】
また、波長透過手段4は、より好ましくは、波長が600nm以上700nm以下の範囲内の放射光を透過させるようにしてもよい。図1(a)で示すとおり、hVEGFの産生量を抑制することができる波長の透過光を透過する光学フィルタである中心波長600nm及び700nmのバンドパスフィルタC,Eの中心波長(実線C上のc点に対応する波長及び実線E上のe点に対応する波長)を用いることにより、更に炎症性サイトカインが高く抑制できる。
【0040】
また、前述のとおり、図1(b)でその抑制効果のある(図4の実線Dでその分光特性を示す)中心波長650nmのバンドパスフィルタDを透過する透過光の波長の範囲が、中心波長600nmと中心波長700nmのバンドパスフィルタC,Eの間に位置しており、その波長の範囲がそれぞれの波長の範囲と重なっていることから、中心波長600nm〜中心波長700nmのバンドパスフィルタC〜Eを透過する波長の透過光に抑制効果があると考えられる。なお、図4の実線Aは、光学フィルタを透過させていない状態の透過光の分光特性である。
【0041】
発光制御手段5は、図5に示す制御ブロック図に示されるように、放電管2の発光を制御する機能を有する発光制御部8と、その動作状態を表示する動作表示手段9と、を備える。
【0042】
発光制御部8は、具体的には、放電管2を1回又は複数回に分けて閃光発光させたり、所定の発光間隔で発光制御させたり、複数回に分けて閃光発光させる場合は、更に、放電管2が放射する放射エネルギーを所定の放射エネルギー以下に抑えて閃光発光させるなどの様々な発光パターンで放電管2を発光制御する。
【0043】
動作表示手段9は、図3に示すように、照射可能状態を表示する照射状態表示用LED10と、故障が発生していることを報知して使用者に警告する警告用LED11と、次の照射可能状態になるまでの待ち時間を表示する待ち時間表示用ディスプレイ(7セグメントディスプレイ)12と、を備える。なお、動作表示手段9の各構成は、LEDや7セグメントディスプレイである例を示したが、これに限定されず、各種ランプや液晶ディスプレイなどであってもよく、また、外部端末の表示部に表示されるものであってもよい。
【0044】
照射状態表示用LED10は、照射光の照射の準備が完了したときに緑色点灯して表示する。照射状態表示用LED10は、具体的には、放電管2の充電が完了したときや、前の照射からの待ち時間(30秒)経過後に点灯する。
【0045】
警告用LED11は、電源供給手段6が異常(電圧異常、充電異常等)となったときや、装置本体7の内部の温度が上昇したときなどに赤色点灯して表示する。警告用LED11は、1回の照射終了後30秒間は、次の照射を開始させないため、その期間にも点灯する。
【0046】
待ち時間表示用ディスプレイ12は、照射可能な状態を「00」で表示する。待ち時間表示用ディスプレイ12は、照射可能な状態までの待ち時間を「00」以外の数値で表示し、「00」までカウントダウンすることで表示する。また、待ち時間表示用ディスプレイ12は、故障発生時、その発生した故障を対応する識別番号で表示する故障表示用ディスプレイとしても機能する。
【0047】
電源供給手段6は、図2に示すように、放電管2の発光エネルギーを蓄える蓄電手段13と、該蓄電手段13を充電する充電回路14と、蓄電手段13に電気を供給する電源部15と、該電源部15のオン・オフを切り替える電源スイッチ16(図3も参照)と、を備える。電源供給手段6は、放電管2以外にも、発光制御手段5の電源としても用いられる。
【0048】
蓄電手段13は、例えば、放電管2を発光させるのに必要な電気容量を有し、放電管2と並列に接続される主コンデンサである。充電回路14は、電源部15を介して供給される電気を蓄電手段13に充電する。電源部15は、例えば、プラグ受け(電源コンセント)に接続して電気の供給を受け付けるためのプラグ17(図3参照)と電源ケーブル18(図3参照)と、を備える。なお、電源部15は、電池又は充電池などを備えるものであってもよい。
【0049】
装置本体7は、図3に示すように、少なくとも一つの開口を有する略直方体形状に形成されており、放電管2、照射範囲制御手段3、波長透過手段4、発光制御手段5、電源供給手段6などを内蔵させるケーシングである。この装置本体7は、一方の面(以下、「前面」と称する)に形成された開口部19から使用者の手を挿入して、手の甲に特定範囲の波長の光を照射するための台である載置部20と、該載置部20内で照射される照射光が開口部19から漏れることを防止する漏光防止手段21と、放電管2等で高温となる内部を冷却するための冷却手段22と、持ち運ぶために把持する取手23と、を備える。
【0050】
載置部20は、開口部19から挿入された使用者の手の位置を位置決めするためのガイド24と、使用者の手が所定の位置に配置され、照射可能な状態になっていることを検出する自動開始用センサ25と、を備える。
【0051】
ガイド24は、各指を挿入可能な間隔を空けて並列に複数配置される。自動開始用センサ25は、具体的には赤外線LEDと赤外フォトトランジスタとを有し、赤外線LEDから発光された光を赤外線フォトトランジスタで受光し、所定時間(例えば、2秒以上)その受光を遮ることにより感知する。すなわち、自動開始用センサ25は、使用者が挿入した手によって赤外線LEDと赤外線フォトトランジスタとの間の光が遮断されることにより、手が挿入されたことを検出する。発光を終了して、再び、赤外線LEDから照射された光を赤外線フォトトランジスタが検出するまで、発光が開始されない。
【0052】
漏光防止手段21は、内部で照射される光が開口部19から漏れないように光を遮断する遮光カバーである。漏光防止手段21は、使用者が手を挿入する際には開らき、手の装入がし易くなっており、発光時には手を挿入しているスペースを残して開口部19の上半分を塞ぐように閉まるように開口部19に配置される。漏光防止手段21は、具体的には、減光フィルタ(NDフィルタ)や遮蔽板である。
【0053】
冷却手段22は、冷却ファン(図示せず)で熱源を冷却し、装置本体7の後部(上面後端)に設けられた排気口26,…から高温の空気を排気する。なお、冷却手段22は、空冷方式に限定されるものではなく、その用途又は冷却容量などによって水冷方式としてもよい。
【0054】
次に、本発明の実施形態に係る産生抑制装置1を用いて炎症性サイトカインの産生を抑制する方法について、説明する。
【0055】
まず、電源スイッチ16をオンにし、照射状態表示用LED10が緑色点灯するのを確認してから、開口部19から手を挿入し、ガイド24,…間に指を挿入して載置部20の所定位置に手を配置する。使用者の手がガイド24,…に収まると、自動開始用センサ25が感知し、発光制御手段5が放電管2を発光させて光を放射させる。放射させた光は、所定間隔で複数回閃光発光し、波長透過手段4を透過して、使用者の予防したい部位又は罹患した部位に照射される。
【0056】
このように、波長透過手段4は、本願出願人によって発見された炎症性サイトカインの産生を抑制する働きを有する波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる。波長透過手段4が透過する上限値である780nmの波長は、可視光(線)の上限値であり、炎症性サイトカインの産生を抑制する一方、疾患の罹患を予防したい部位又は罹患した部位に照射する際の熱的影響を最小限に抑えることができる技術的意味を有する値である。当該装置1は、各種疾患(例えば、炎症や肌荒れなど)を予防したい部位又は罹患した部位に波長透過手段4から透過した透過光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。そして、炎症性サイトカインの産生が抑制されることによって、例えば、炎症性疾患は、その罹患が予防され、罹患時の症状が軽減され、又は、炎症性疾患が抑制される。
【0057】
また、発光制御手段5は、放電管2から波長透過手段4を透過させて照射する照射光の放射エネルギーを、各種疾患の予防したい部位又は罹患した部位が許容可能な所定の放射エネルギー以下に抑えて放電管2の発光を制御する。よって、当該装置1は、各種疾患の予防したい部位又は罹患した部位に照射される放射エネルギーが所定の放射エネルギーを超えることがないため、予防したい部位又は罹患した部位に熱的な損傷を与えることがなく、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。
【0058】
次に、本実施形態に係る産生抑制装置1の効果を確認した実施結果を、図6を参酌しつつ説明する。この実施例は、実験を開始してから定期的に薬剤を塗布して炎症(マウス耳介炎症)を起こさせて、そのときのマウスの耳厚の変化量を、キセノン放電管の光を照射しない場合(図6の破線で示されるグラフ)と、キセノン放電管の光を中心波長650nm(半値幅40nm)のバンドパスフィルタ(波長透過手段4)に透過させた透過光を照射した場合(図6の実線で示されるグラフ)とで比較したものである。
【0059】
本実施例では、実験開始日(0日)、及び、実験経過7日後及び15日後に炎症を起こさせた。中心波長650nmの透過光を照射する場合においては、最初に炎症を起こす5日前(−5日)からキセノン放電管の光を照射し、1日当たり25回を5秒間隔で照射した。
【0060】
この結果、照射しなかった場合よりも中心波長650nmの照射光を照射した場合の方がマウスの耳厚変化量が軽減され、すなわち、腫れが抑制されていることがわかった。特に実験経過14日後で、照射しなかった場合と比較して約35%も耳の腫れが抑制された(4回実施した平均値)。
【0061】
これは、中心波長650nmの照射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生が抑制されたためである。しかも、本実施例では、炎症を発生させる前から照射光を照射しており、このことが炎症(の重症化)の予防又は罹患時の症状の軽減に効果があることを示している。また、炎症性サイトカインの産生を抑制することができることから、炎症性疾患の抑制にも効果があると考えられる。
【0062】
このことからも、本発明の産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法によれば、放電管から放射される放射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができ、炎症性疾患の罹患を予防し、罹患時の症状を軽減し、又は、炎症性疾患を抑制させることができる。
【0063】
なお、本発明に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0064】
例えば、上記実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置1及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法は、手に照射する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、炎症性サイトカインの産生の抑制を予防したい他の生体の部位又は罹患した他の生体の部位に照射するようにしてもよく、その生体の部位は、肩や腰、足、全身などどのような場所に照射されるような場合であってもよい。また、人間に照射する場合に限定されるものではなく、人間以外の動物などの生体に対し、治療のために光を当該特定部位に照射するようにしてもよい。これらの場合は、本実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置1の構造に限定されず、適宜、照射する生体の特定部位に適した構造とすることを妨げるものではない。
【0065】
また、上記実施形態に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置1及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法は、波長透過手段4にバンドパスフィルタを用いる例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ショートパスフィルタ(長波長カットフィルタ)とロングパスフィルタ(短波長カットフィルタ)との組み合わせにより、入射された入射光の特定範囲の波長を選択して透過させるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る炎症性サイトカインの産生抑制装置及び炎症性サイトカインの産生を抑制する方法は、放電管と、該放電管から放射される放射光のうち、波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる波長透過手段と、前記放電管の発光を制御する発光制御手段とを備える構成を有することによって、放電管から放射される放射光を照射することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することが必要な用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 (炎症性サイトカインの)産生抑制装置
2 放電管
3 照射範囲制御手段
4 波長透過手段
5 発光制御手段
6 電源供給手段
7 装置本体
8 発光制御部
9 動作表示手段
10 照射状態表示用LED
11 警告用LED
12 待ち時間表示用ディスプレイ
13 蓄電手段
14 充電回路
15 電源部
16 電源スイッチ
17 プラグ
18 電源ケーブル
19 開口部
20 載置部
21 漏光防止手段
22 冷却手段
23 取手
24 ガイド
25 自動開始用センサ
26 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、該放電管から放射される放射光のうち、波長が566.5nm以上780nm以下の範囲内の放射光を透過させる波長透過手段と、前記放電管の発光を制御する発光制御手段とを備えることを特徴とする炎症性サイトカインの産生抑制装置。
【請求項2】
前記波長透過手段は、波長が746nm以下の放射光を透過させる請求項1に記載の炎症性サイトカインの産生抑制装置。
【請求項3】
前記波長透過手段は、波長が600nm以上700nm以下の範囲内の放射光を透過させる請求項1又は請求項2に記載の炎症性サイトカインの産生抑制装置。
【請求項4】
前記発光制御手段は、前記放電管を1回又は複数回に分けて閃光発光させる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の炎症性サイトカインの産生抑制装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炎症性サイトカインの産生抑制装置を用いて炎症性サイトカインの産生を抑制する方法であって、前記発光制御手段は、前記放電管を発光させて光を放射させ、該放射させた光を前記波長透過手段に透過させ、該透過させた透過光を生体の特定部位に照射することを特徴とする炎症性サイトカインの産生を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−147866(P2012−147866A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7456(P2011−7456)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】