炎症性腸疾患の予防または治療剤
【課題】安全性および有効性が高く低価で供給可能な、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防または治療剤の提供。
【解決手段】水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有する組成物。
【解決手段】水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防または治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称であり、例えば、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis: UC)、クローン病(Crohn’s Disease: CD)等が知られている。これらは厚生労働省により特定難治性疾患に指定されている。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患であり、場合により下血を伴う下痢や、頻繁に起こる腹痛が特徴的な症状として現れる。病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がる。
【0004】
わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は、近年では毎年およそ5,000人ずつ増加し、特定疾患医療受給者証交付件数によれば現在では100,000人を超えると報告され、米国では1,000,000人とも言われている。
【0005】
発症年齢のピークは男性で20〜24歳、女性では25〜29歳と若年層の羅患が多いが、若年者から高齢者まで発症する。
【0006】
その原因としては、腸内細菌の関与や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与等が考えられているが、まだ明らかにされていない。
【0007】
潰瘍性大腸炎の患者には、重症の場合や薬物療法が効かない場合には手術が必要となるが、原則的には薬による内科的治療が行われる。現在、潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療は存在しないが、腸の炎症を抑制する有効な治療方法として、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、副腎皮質ステロイド剤、免疫調節剤等の薬物治療や血球成分除去療法等が知られている(特許文献1、2参照)。
【0008】
クローン病は、口腔から肛門に至るまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こり得るが、小腸の末端部が好発部位で、腹痛や下痢、血便、体重減少等が生じる病気である。
【0009】
わが国のクローン病の患者数は、近年では毎年およそ1,500人ずつ増加し、特定疾患医療受給者証交付件数によれば現在では30,000人を超えると報告されている。
【0010】
10歳代〜20歳代の若年者に好発し、発症年齢は男性で20〜24歳、女性で15〜19歳が最も多くみられる。
【0011】
その原因は、未だ明らかにされておらず根本的な治療法がないのが現状であるが、腸管に生じた炎症を抑制して症状を和らげ、かつ栄養状態を改善するために、急性期や増悪期には栄養療法と薬物療法を組み合わせた内科的治療が主に行われている。
【0012】
治療薬には、主に5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイドや6-MPやアザチオプリン等の免疫調節剤が用いられている。また寛解を維持するために5-アミノサリチル酸製剤や免疫調節剤が用いられている。瘻孔合併等の難治患者では抗TNFα受容体拮抗薬が比較的早期の段階で用いられるようになってきている。また、血球成分除去療法が行われることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2005−509619号公報
【特許文献2】特表2009−543873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、非侵襲的で安全性が高く、患者によらず有効性を発揮できる治療薬を低薬価で提供することが望まれており、従来の内科的治療に用いられる治療薬においてもさらなる改善が期待されている。
【0015】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、安全性および有効性が高く低価で供給可能な炎症性腸疾患の予防または治療剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤によれば、安全性および有効性が高く、かつ低価で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの摘出した大腸の長さと血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの摘出した大腸におけるMPO活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸における白血球、リンパ球、顆粒球の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1におけるLDH活性の測定による水酸化フラーレンの細胞傷害性の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1におけるTNF-α刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1におけるIL-1β刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した腎臓、肝臓、脾臓重量の測定結果を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸長さ、大腸重量の測定結果を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸長さ、大腸重量の測定結果を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例1におけるIL-1β刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図15】図15は、実施例3の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例3の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血液検査の測定結果を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例3の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例3の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有している。
【0021】
これらのフラーレン類におけるフラーレンとしては、例えば、C60、C70、およびC60とC70との混合物等が挙げられる。薬理学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アミン等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0022】
水酸化フラーレンとしては、例えばC60(OH)n(nは30〜48の整数を示す。)で表されるものを用いることができる。このような水酸化フラーレンは、赤外線吸収スペクトル分析(水酸基が存在し、炭素−水素単結合および炭素−酸素二重結合がないこと)、元素分析(水素と酸素の元素数の値が近いこと)、水分測定(含有水分量の見積もり)、紫外可視スペクトル分析(共役二重結合数の減少)、水への溶解度測定、または水中における粒径分布測定、あるいはこれらの組み合わせによって同定できる。
【0023】
ポリビニルピロリドン包接フラーレン(以下「PVPフラーレンと言う。」)は、ポリビニルピロリドンとフラーレンとの複合体である。PVPフラーレンは、既に市販されているものを用いることができ、また公知の方法により製造することができる。例えば、フラーレンの有機溶媒溶液をポリビニルピロリドンの有機溶媒溶液に室温において添加し、十分に混合した後、有機溶媒を減圧等により除去し、水溶液や粉末として得ることができる。
【0024】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば粘度測定法で3,000〜3,000,000、中でも6,000〜1,500,000のものを用いることができる。
【0025】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、治療目的に応じて各種の薬学的投与形態とすることができ、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤とすることができる。これらの投与剤は、薬学的に許容される担体等を用い、この分野で通常知られた慣用的な製剤方法により製剤化することができる。
【0026】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を用いることができる。さらに、錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0027】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン末、カンテン末等の崩壊剤等を用いることができる。
【0028】
カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0029】
経口用液体製剤とする場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0030】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を用いることができる。
【0031】
注射剤とする場合、液剤、乳剤および懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を用いることができる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するに十分な量の食塩、ブドウ糖、またはグリセリンを医薬製剤中に含有させてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0032】
さらに上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤における有効成分の水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩の含有量は特に限定されず、適宜選択することができるが、いずれも通常製剤中1〜80質量%程度とするのが好ましい。
【0033】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて適宜決定される。例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤及び乳剤は経口投与される。注射剤は単独でまたはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、さらに必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下、または腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択できる。本発明の有効成分である水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩は、低毒性であるため、安全に使用することができる。有効成分(フラーレン類)の投与量は通常10〜4000mg/日程度、好ましくは100〜1000mg/日程度を目安とするのがよい。また、これら本発明の製剤は1日1回または2〜4回程度に分けて投与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において、炎症性腸疾患のin vivo薬効評価試験は主にDSS誘発マウス大腸炎モデルにより行った。炎症性腸疾患の研究には自然発症大腸炎モデル、化学的・免疫学的機序による大腸炎モデル、遺伝子改変による大腸炎モデルに至るまで、多種多様なモデルが考案されているが、DSS誘発マウス大腸炎モデルは、炎症性腸疾患の薬効評価研究に多く用いられているものであり、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)溶液をマウスに飲水させることにより大腸炎の誘発を惹起する方法である。
【0037】
7週齢で購入したC57BL/6J系雄性マウス(SPF)を1週間予備飼育し、無作為に2群に分けた後、一方を対照群、他方をDSS投与群とした。その後、DSS(分子量36,000〜40,000、MP Biomedicals)を超純水に2.5%濃度に溶解させ、飲料水として7日間、自由摂取させた。
【0038】
DSS飲水投与前および投与後における両群のマウスの体重を測定した。その間体重測定は1日1回行った。最終日にマウスを安楽死させ、大腸組織を摘出後、その全長、重量を測定した。便の通常剖検に加え、便潜血測定キット(シオノギ)を用いて血便の状態を観察し、5の強陽性から1の陰性までの5段階でスコア化した。
【0039】
体重、血便スコア、大腸の長さ等は一群5〜7匹により得られた値の群毎の平均値±標準誤差を算出した。体重および大腸の長さのデータについては、Student-t検定もしくは多重比較により群間の比較を行った。いずれの検定においてもp<0.05の場合を統計的に有意であるとした。
<実施例1>
マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにC60(OH)36 205μg/mouse(フラーレン単体の濃度:100μg/mouse)、C60(OH)44224μg/mouse(フラーレン単体の濃度:100μg/mouse)、5-アミノサリチル酸(5-ASA、SIGMA社製)5mg/mouse、またはN-アセチルシステイン(NAC、SIGMA社製) 1mg/mouseを7日間経口投与した。
【0040】
その後、体重測定を行い、DSS投与開始7日後に解剖して、剖検を実施すると共に、大腸の長さと血便スコアの測定および血球検査を行った。
【0041】
体重の測定結果を図1に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも体重減少を抑制し、C60(OH)36は既存の医薬品である5-ASA およびNACよりも効果的に体重減少を抑制した。
【0042】
大腸の長さと血便スコアの測定結果を図2に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも大腸の長さの短縮を抑制し、血便スコアの上昇も抑制した。C60(OH)36は既存の医薬品である5-ASAおよびNACよりも効果的な傾向が確認された。
【0043】
大腸粘膜におけるMPO活性は、解剖し大腸を回収した後、ホモジナイズし、遠心処理後、上清液について、ELISAにより測定した。MPO(Myeloperoxidase:抗酸化酵素ミエロペルオキシダーゼ)は、好中球と単球のみに存在し、過酸化水素と塩素イオンから次亜塩素酸が産生される反応を触媒する。その結果を図3に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも好中球等の浸潤を抑制していることが示唆された。
【0044】
また解剖時に採取した血液中の血球検査において、白血球、リンパ球、顆粒球の測定結果を図4に示す。DSS投与により白血球、リンパ球、顆粒球が増加した。水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44)やNACを投与することで血球増加が抑制される傾向が認められた。
【0045】
次に、水酸化フラーレンの細胞傷害性をLDHアッセイにより評価した。ヒト腸管上皮細胞株(Caco2)を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44 )を加えて24時間インキュベートした後、上清を回収した。一連の酵素反応によりNADHと水素イオンの存在下でテトラゾリウム塩INTがホルマザンに還元されることによるLDH活性をホルマザンの吸光度を測定することにより定量し細胞傷害性を評価した。
【0046】
その結果を図5に示す。水酸化フラーレンはCaco2細胞に対して細胞傷害性をほとんど示さなかった。
【0047】
またCaco2細胞を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、各水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44 )を加えた後、30分後に炎症性サイトカインであるTNF-αで刺激した。24時間後に上清を回収し、上清中のインターロイキン-8(IL-8)量をELISAにより評価した。その結果を図6に示す。また、刺激物質をIL-1βに変えて各水酸化フラーレン(C60(OH)12、C60(OH)24、C60(OH)36、C60(OH)44)培地で懸濁させて添加した後のIL-8遊離量を測定した結果を図7に示す。水酸化フラーレンを添加することで、各種炎症性サイトカインであるTNF-α及びIL-1β刺激によるIL-8の産生が濃度依存的に抑制された。このことは水酸化フラーレンによる抗炎症作用を示唆している。
<実施例2>
PVP-フラーレンについて安全性と抗炎症作用の評価を行った。
【0048】
安全性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にPVP-フラーレン51mg/0.5ml/mouse(フラーレン 150μg/0.5ml/mouse)、PVP 51mg/0.5ml/mouse、または生理食塩水を7日間経口投与した。
【0049】
その後、体重測定を行い、解剖して、全血と糞の回収、臓器の測定、および大腸長さ、大腸重量の測定を行った。
【0050】
体重の測定結果を図8に、腎臓、肝臓、脾臓重量の測定結果を図9に、大腸長さ、大腸重量の測定結果を図10に示す。PVP-フラーレンは顕著な副作用を呈することなく、極めて安全であることが示唆された。なお、図示はしていないが、血球検査、生化学試験においても異常は認められなかった。
【0051】
炎症性腸疾患に対する有用性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにPVP-フラーレン51mg/0.5ml/mouse(フラーレン 150μg/0.5ml/mouse)、PVP 51mg/0.5ml/mouse、5-ASA 5mg/mouse、Vitamin E 2.5mg/0.5ml/mouse、生理食塩水を7日間経口投与した。
【0052】
その間、体重測定を行い、DSS投与開始7日後に解剖して、大腸長さ、大腸重量、血便スコアの測定を行った。
【0053】
体重測定の結果を図11に、大腸長さ、大腸重量の結果を図12に、血便スコアの結果を図13に示す。
【0054】
PVP-フラーレンは既存の医薬品に比べて体重減少の抑制、大腸長さの短縮と大腸重量減少の抑制、血便スコアの上昇の抑制に効果的な傾向が確認された。またPVP単独投与の場合に比べてもこれらの抑制に効果的な傾向が確認された。
【0055】
またCaco2細胞を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、PVP-フラーレンを加えた後、30分後に炎症性サイトカインであるIL-1βで刺激した。24時間後に上清を回収し、上清中のインターロイキン-8(IL-8)量をELISAにより評価した。その結果を図14に示す。PVP-フラーレンを添加することで、IL-1β刺激によるIL-8の産生が濃度依存的に抑制され、PVP-フラーレンによる抗炎症作用を示唆している。
<実施例3>
フラーレン(C60)について安全性と抗炎症作用の評価を行った。
【0056】
安全性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にフラーレン 100μg/0.5ml/mouse、または超純水を7日間経口投与した。
【0057】
その後、体重測定と血液検査を行った。
【0058】
体重の測定結果を図15に、血液検査(単球、血小板数、白血球、リンパ球)の測定結果を図16に示す。フラーレンは顕著な副作用を呈することなく、極めて安全であることが示唆された。
【0059】
抗炎症作用の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにフラーレン 100μg/0.5ml/mouse、5-ASA 5mg/mouse、Milli-Q水を7日間経口投与した。
【0060】
その後、体重測定を行い、解剖して、血便スコアの測定を行った。
【0061】
体重の測定結果を図17に、血便スコアの測定結果を図18に示す。フラーレンは体重減少を抑制するとともに血便スコアの上昇も抑制し、既存の医薬品である5-ASAと同様の傾向が確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患の予防または治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称であり、例えば、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis: UC)、クローン病(Crohn’s Disease: CD)等が知られている。これらは厚生労働省により特定難治性疾患に指定されている。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患であり、場合により下血を伴う下痢や、頻繁に起こる腹痛が特徴的な症状として現れる。病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がる。
【0004】
わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は、近年では毎年およそ5,000人ずつ増加し、特定疾患医療受給者証交付件数によれば現在では100,000人を超えると報告され、米国では1,000,000人とも言われている。
【0005】
発症年齢のピークは男性で20〜24歳、女性では25〜29歳と若年層の羅患が多いが、若年者から高齢者まで発症する。
【0006】
その原因としては、腸内細菌の関与や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与等が考えられているが、まだ明らかにされていない。
【0007】
潰瘍性大腸炎の患者には、重症の場合や薬物療法が効かない場合には手術が必要となるが、原則的には薬による内科的治療が行われる。現在、潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療は存在しないが、腸の炎症を抑制する有効な治療方法として、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、副腎皮質ステロイド剤、免疫調節剤等の薬物治療や血球成分除去療法等が知られている(特許文献1、2参照)。
【0008】
クローン病は、口腔から肛門に至るまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こり得るが、小腸の末端部が好発部位で、腹痛や下痢、血便、体重減少等が生じる病気である。
【0009】
わが国のクローン病の患者数は、近年では毎年およそ1,500人ずつ増加し、特定疾患医療受給者証交付件数によれば現在では30,000人を超えると報告されている。
【0010】
10歳代〜20歳代の若年者に好発し、発症年齢は男性で20〜24歳、女性で15〜19歳が最も多くみられる。
【0011】
その原因は、未だ明らかにされておらず根本的な治療法がないのが現状であるが、腸管に生じた炎症を抑制して症状を和らげ、かつ栄養状態を改善するために、急性期や増悪期には栄養療法と薬物療法を組み合わせた内科的治療が主に行われている。
【0012】
治療薬には、主に5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイドや6-MPやアザチオプリン等の免疫調節剤が用いられている。また寛解を維持するために5-アミノサリチル酸製剤や免疫調節剤が用いられている。瘻孔合併等の難治患者では抗TNFα受容体拮抗薬が比較的早期の段階で用いられるようになってきている。また、血球成分除去療法が行われることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2005−509619号公報
【特許文献2】特表2009−543873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、非侵襲的で安全性が高く、患者によらず有効性を発揮できる治療薬を低薬価で提供することが望まれており、従来の内科的治療に用いられる治療薬においてもさらなる改善が期待されている。
【0015】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、安全性および有効性が高く低価で供給可能な炎症性腸疾患の予防または治療剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤によれば、安全性および有効性が高く、かつ低価で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの摘出した大腸の長さと血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスの摘出した大腸におけるMPO活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸における白血球、リンパ球、顆粒球の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1におけるLDH活性の測定による水酸化フラーレンの細胞傷害性の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1におけるTNF-α刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1におけるIL-1β刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した腎臓、肝臓、脾臓重量の測定結果を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例2の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸長さ、大腸重量の測定結果を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスより摘出した大腸長さ、大腸重量の測定結果を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例2の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例1におけるIL-1β刺激後の上清中のIL-8量のELISAによる測定結果を示すグラフである。
【図15】図15は、実施例3の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例3の安全性評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血液検査の測定結果を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例3の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの体重変化の測定結果を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例3の抗炎症作用評価におけるDSS投与群および非投与群のマウスの血便スコアの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有している。
【0021】
これらのフラーレン類におけるフラーレンとしては、例えば、C60、C70、およびC60とC70との混合物等が挙げられる。薬理学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アミン等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0022】
水酸化フラーレンとしては、例えばC60(OH)n(nは30〜48の整数を示す。)で表されるものを用いることができる。このような水酸化フラーレンは、赤外線吸収スペクトル分析(水酸基が存在し、炭素−水素単結合および炭素−酸素二重結合がないこと)、元素分析(水素と酸素の元素数の値が近いこと)、水分測定(含有水分量の見積もり)、紫外可視スペクトル分析(共役二重結合数の減少)、水への溶解度測定、または水中における粒径分布測定、あるいはこれらの組み合わせによって同定できる。
【0023】
ポリビニルピロリドン包接フラーレン(以下「PVPフラーレンと言う。」)は、ポリビニルピロリドンとフラーレンとの複合体である。PVPフラーレンは、既に市販されているものを用いることができ、また公知の方法により製造することができる。例えば、フラーレンの有機溶媒溶液をポリビニルピロリドンの有機溶媒溶液に室温において添加し、十分に混合した後、有機溶媒を減圧等により除去し、水溶液や粉末として得ることができる。
【0024】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば粘度測定法で3,000〜3,000,000、中でも6,000〜1,500,000のものを用いることができる。
【0025】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤は、治療目的に応じて各種の薬学的投与形態とすることができ、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤とすることができる。これらの投与剤は、薬学的に許容される担体等を用い、この分野で通常知られた慣用的な製剤方法により製剤化することができる。
【0026】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を用いることができる。さらに、錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0027】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン末、カンテン末等の崩壊剤等を用いることができる。
【0028】
カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0029】
経口用液体製剤とする場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0030】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を用いることができる。
【0031】
注射剤とする場合、液剤、乳剤および懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を用いることができる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するに十分な量の食塩、ブドウ糖、またはグリセリンを医薬製剤中に含有させてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0032】
さらに上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤における有効成分の水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩の含有量は特に限定されず、適宜選択することができるが、いずれも通常製剤中1〜80質量%程度とするのが好ましい。
【0033】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて適宜決定される。例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤及び乳剤は経口投与される。注射剤は単独でまたはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、さらに必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下、または腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患の予防または治療剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択できる。本発明の有効成分である水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩は、低毒性であるため、安全に使用することができる。有効成分(フラーレン類)の投与量は通常10〜4000mg/日程度、好ましくは100〜1000mg/日程度を目安とするのがよい。また、これら本発明の製剤は1日1回または2〜4回程度に分けて投与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において、炎症性腸疾患のin vivo薬効評価試験は主にDSS誘発マウス大腸炎モデルにより行った。炎症性腸疾患の研究には自然発症大腸炎モデル、化学的・免疫学的機序による大腸炎モデル、遺伝子改変による大腸炎モデルに至るまで、多種多様なモデルが考案されているが、DSS誘発マウス大腸炎モデルは、炎症性腸疾患の薬効評価研究に多く用いられているものであり、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)溶液をマウスに飲水させることにより大腸炎の誘発を惹起する方法である。
【0037】
7週齢で購入したC57BL/6J系雄性マウス(SPF)を1週間予備飼育し、無作為に2群に分けた後、一方を対照群、他方をDSS投与群とした。その後、DSS(分子量36,000〜40,000、MP Biomedicals)を超純水に2.5%濃度に溶解させ、飲料水として7日間、自由摂取させた。
【0038】
DSS飲水投与前および投与後における両群のマウスの体重を測定した。その間体重測定は1日1回行った。最終日にマウスを安楽死させ、大腸組織を摘出後、その全長、重量を測定した。便の通常剖検に加え、便潜血測定キット(シオノギ)を用いて血便の状態を観察し、5の強陽性から1の陰性までの5段階でスコア化した。
【0039】
体重、血便スコア、大腸の長さ等は一群5〜7匹により得られた値の群毎の平均値±標準誤差を算出した。体重および大腸の長さのデータについては、Student-t検定もしくは多重比較により群間の比較を行った。いずれの検定においてもp<0.05の場合を統計的に有意であるとした。
<実施例1>
マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにC60(OH)36 205μg/mouse(フラーレン単体の濃度:100μg/mouse)、C60(OH)44224μg/mouse(フラーレン単体の濃度:100μg/mouse)、5-アミノサリチル酸(5-ASA、SIGMA社製)5mg/mouse、またはN-アセチルシステイン(NAC、SIGMA社製) 1mg/mouseを7日間経口投与した。
【0040】
その後、体重測定を行い、DSS投与開始7日後に解剖して、剖検を実施すると共に、大腸の長さと血便スコアの測定および血球検査を行った。
【0041】
体重の測定結果を図1に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも体重減少を抑制し、C60(OH)36は既存の医薬品である5-ASA およびNACよりも効果的に体重減少を抑制した。
【0042】
大腸の長さと血便スコアの測定結果を図2に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも大腸の長さの短縮を抑制し、血便スコアの上昇も抑制した。C60(OH)36は既存の医薬品である5-ASAおよびNACよりも効果的な傾向が確認された。
【0043】
大腸粘膜におけるMPO活性は、解剖し大腸を回収した後、ホモジナイズし、遠心処理後、上清液について、ELISAにより測定した。MPO(Myeloperoxidase:抗酸化酵素ミエロペルオキシダーゼ)は、好中球と単球のみに存在し、過酸化水素と塩素イオンから次亜塩素酸が産生される反応を触媒する。その結果を図3に示す。C60(OH)36とC60(OH)44はいずれも好中球等の浸潤を抑制していることが示唆された。
【0044】
また解剖時に採取した血液中の血球検査において、白血球、リンパ球、顆粒球の測定結果を図4に示す。DSS投与により白血球、リンパ球、顆粒球が増加した。水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44)やNACを投与することで血球増加が抑制される傾向が認められた。
【0045】
次に、水酸化フラーレンの細胞傷害性をLDHアッセイにより評価した。ヒト腸管上皮細胞株(Caco2)を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44 )を加えて24時間インキュベートした後、上清を回収した。一連の酵素反応によりNADHと水素イオンの存在下でテトラゾリウム塩INTがホルマザンに還元されることによるLDH活性をホルマザンの吸光度を測定することにより定量し細胞傷害性を評価した。
【0046】
その結果を図5に示す。水酸化フラーレンはCaco2細胞に対して細胞傷害性をほとんど示さなかった。
【0047】
またCaco2細胞を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、各水酸化フラーレン(C60(OH)36、C60(OH)44 )を加えた後、30分後に炎症性サイトカインであるTNF-αで刺激した。24時間後に上清を回収し、上清中のインターロイキン-8(IL-8)量をELISAにより評価した。その結果を図6に示す。また、刺激物質をIL-1βに変えて各水酸化フラーレン(C60(OH)12、C60(OH)24、C60(OH)36、C60(OH)44)培地で懸濁させて添加した後のIL-8遊離量を測定した結果を図7に示す。水酸化フラーレンを添加することで、各種炎症性サイトカインであるTNF-α及びIL-1β刺激によるIL-8の産生が濃度依存的に抑制された。このことは水酸化フラーレンによる抗炎症作用を示唆している。
<実施例2>
PVP-フラーレンについて安全性と抗炎症作用の評価を行った。
【0048】
安全性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にPVP-フラーレン51mg/0.5ml/mouse(フラーレン 150μg/0.5ml/mouse)、PVP 51mg/0.5ml/mouse、または生理食塩水を7日間経口投与した。
【0049】
その後、体重測定を行い、解剖して、全血と糞の回収、臓器の測定、および大腸長さ、大腸重量の測定を行った。
【0050】
体重の測定結果を図8に、腎臓、肝臓、脾臓重量の測定結果を図9に、大腸長さ、大腸重量の測定結果を図10に示す。PVP-フラーレンは顕著な副作用を呈することなく、極めて安全であることが示唆された。なお、図示はしていないが、血球検査、生化学試験においても異常は認められなかった。
【0051】
炎症性腸疾患に対する有用性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにPVP-フラーレン51mg/0.5ml/mouse(フラーレン 150μg/0.5ml/mouse)、PVP 51mg/0.5ml/mouse、5-ASA 5mg/mouse、Vitamin E 2.5mg/0.5ml/mouse、生理食塩水を7日間経口投与した。
【0052】
その間、体重測定を行い、DSS投与開始7日後に解剖して、大腸長さ、大腸重量、血便スコアの測定を行った。
【0053】
体重測定の結果を図11に、大腸長さ、大腸重量の結果を図12に、血便スコアの結果を図13に示す。
【0054】
PVP-フラーレンは既存の医薬品に比べて体重減少の抑制、大腸長さの短縮と大腸重量減少の抑制、血便スコアの上昇の抑制に効果的な傾向が確認された。またPVP単独投与の場合に比べてもこれらの抑制に効果的な傾向が確認された。
【0055】
またCaco2細胞を96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、PVP-フラーレンを加えた後、30分後に炎症性サイトカインであるIL-1βで刺激した。24時間後に上清を回収し、上清中のインターロイキン-8(IL-8)量をELISAにより評価した。その結果を図14に示す。PVP-フラーレンを添加することで、IL-1β刺激によるIL-8の産生が濃度依存的に抑制され、PVP-フラーレンによる抗炎症作用を示唆している。
<実施例3>
フラーレン(C60)について安全性と抗炎症作用の評価を行った。
【0056】
安全性の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にフラーレン 100μg/0.5ml/mouse、または超純水を7日間経口投与した。
【0057】
その後、体重測定と血液検査を行った。
【0058】
体重の測定結果を図15に、血液検査(単球、血小板数、白血球、リンパ球)の測定結果を図16に示す。フラーレンは顕著な副作用を呈することなく、極めて安全であることが示唆された。
【0059】
抗炎症作用の評価は次の手順により行った。マウスC57BL/6にDSS(2.5%)を自由飲水させ、DSS投与群のマウスにフラーレン 100μg/0.5ml/mouse、5-ASA 5mg/mouse、Milli-Q水を7日間経口投与した。
【0060】
その後、体重測定を行い、解剖して、血便スコアの測定を行った。
【0061】
体重の測定結果を図17に、血便スコアの測定結果を図18に示す。フラーレンは体重減少を抑制するとともに血便スコアの上昇も抑制し、既存の医薬品である5-ASAと同様の傾向が確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項2】
水酸化フラーレンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項3】
フラーレンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項4】
炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎またはクローン病である請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項1】
水酸化フラーレン、ポリビニルピロリドン包接フラーレン、フラーレン、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類を有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項2】
水酸化フラーレンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項3】
フラーレンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【請求項4】
炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎またはクローン病である請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の予防または治療剤。
【図16】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【公開番号】特開2013−87108(P2013−87108A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231446(P2011−231446)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503272483)ビタミンC60バイオリサーチ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503272483)ビタミンC60バイオリサーチ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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