説明

炭化水素の製造方法及び炭化水素製造システム

【課題】炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収できる炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭化水素の製造方法は、炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理工程(S3)と、前記水性スラリーから、前記炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収工程(S4)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の製造方法及び炭化水素製造システムに関し、特に、炭化水素生産性微生物が生産した炭化水素の効率的な回収に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを用いた液体燃料の製造は、持続的な経済発展に不可欠な技術である。例えば、光合成により炭化水素を生産する微細藻類による液体燃料の製造は、その潜在的生産能力の大きさから期待が大きい。
【0003】
このような微細藻類を用いる場合、まず培養された微細藻類をろ過、遠心分離等の固液分離操作で濃縮して収穫し、次いで収穫された藻体から液体燃料となる油状物質を回収する。微細藻類から油状物質を回収する操作としては、従来、主に圧搾、抽出等の単位操作が用いられていた。
【0004】
しかしながら、濃縮されたペースト状の藻体においては目的とする油状物質量に比べて水分量がはるかに大きく、また、微細藻類の多くが厚い細胞壁をもつことから、圧搾法は、効率の良い油状物質の回収方法とはいえなかった。
【0005】
また、抽出法では、抽出に用いる溶媒に、毒性のないこと、水と相溶でないこと、目的物質の溶解性能に優れていること、水との密度差が大きいこと、安価で入手し易いことといった要件と同時に、沸点が低く容易に回収及び再利用が可能であることが求められる。溶媒抽出を効率的に行うには、また、藻体と溶媒との接触を促進する必要があるため、藻体を取り囲む水分をできるだけ少なくすることが求められる。このような様々な要件を全て満たす抽出法による回収プロセスは、操作が煩雑で、エネルギー消費も大きいため、経済性を含めて課題が多かった。このような課題は、微細藻類を用いた液体燃料製造の実用化を阻む一大障壁となっていた。
【0006】
そこで、微細藻類を高温高圧で保持する水熱処理を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2)。この方法では、水熱反応によって、微細藻類を構成するセルロース等の固体バイオマス成分を液化することができるため、藻体から効率よく油状物質を生産することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−041545号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Inoue et al., Biomass and Bioenergy, Vo.6, No.4, pp.269-274, 1994
【非特許文献2】Dote et al., Fuel, Vol.73, No.12, pp.1855-1857, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、水熱処理を用いた方法においては、上述のとおり、得られる油状物質に固体バイオマス成分に由来する成分が必然的に含有されるため、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に回収することは困難であった。
【0010】
すなわち、水熱処理により得られる油状物質においては、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素以外の夾雑物質(例えば、含酸素化合物)の混入を避けることができなかった。具体的に、例えば、上記非特許文献1の第271ページのTable 1には、水熱処理により得られたFraction 3について、元素組成で酸素が10%以上含有されていたことが示されている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収できる炭化水素の製造方法及び炭化水素製造システムを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法は、炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理工程と、前記水性スラリーから、前記炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収できる炭化水素の製造方法を提供することができる。
【0013】
また、前記加熱処理工程における前記温度が、75℃以上、150℃未満であることとしてもよい。こうすれば、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を確実に製造することができる。
【0014】
また、前記炭化水素生産性微生物は、炭化水素生産性微細藻類であることとしてもよい。さらに、この場合、前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニー又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類であることとしてもよい。この場合、前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニーA品種又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類であることとしてもよい。また、前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニーB品種又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類であることとしてもよい。こうすれば、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を確実に回収することができる。
【0015】
また、前記いずれかの製造方法は、前記回収工程で得られた前記水性スラリーの残渣からエネルギーを回収するエネルギー回収工程をさらに含むこととしてもよい。この場合、前記加熱処理工程において、前記エネルギー回収工程で回収された前記エネルギーを利用して、前記水性スラリーを加熱することとしてもよい。こうすれば、水性スラリーの残渣を有効に利用して、エネルギーを自給しながら炭化水素を製造することができる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る炭化水素製造システムは、炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理部と、前記水性スラリーから、前記炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収部と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収できる炭化水素製造システムを提供することができる。
【0017】
また、前記炭化水素製造システムは、前記回収部で得られた前記水性スラリーの残渣からエネルギーを回収するエネルギー回収部をさらに含むこととしてもよい。この場合、前記加熱処理部において、前記エネルギー回収部で回収された前記エネルギーを利用して、前記水性スラリーを加熱することとしてもよい。こうすれば、水性スラリーの残渣を有効に利用して、エネルギー自給型の炭化水素製造システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収できる炭化水素の製造方法及び炭化水素製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において使用した処理装置の主な構成を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が抽出物重量に与える影響を検討した結果の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が抽出物重量に与える影響を検討した結果の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持圧力が抽出物重量に与える影響を検討した結果の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持圧力が抽出物重量に与える影響を検討した結果の他の例を示す説明図である。
【図7】加熱を伴わない加圧が抽出物重量に与える影響を検討した結果の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において水性スラリーに対するヘキサン添加の有無が抽出物重量に与える影響を検討した結果の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において水性スラリーに対するヘキサン添加の有無が抽出物重量に与える影響を検討した結果の他の例を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において水性スラリーに対するヘキサン添加の有無が抽出物重量に与える影響を検討した結果のさらに他の例を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が抽出物重量及び回収率に与える影響を検討した結果のさらに他の例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が回収率に与える影響を検討した結果のさらに他の例を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が回収率に与える影響を検討した結果のさらに他の例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法において保持温度が回収率に与える影響を検討した結果のさらに他の例を示す説明図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法の他の例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る炭化水素の製造方法の一例において行われる主な処理を示す説明図である。
【図17】本発明の一実施形態に係る炭化水素製造システムの一例に含まれる主な構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0021】
本実施形態に係る炭化水素の製造方法(以下、「本方法」という)は、炭化水素生産性微生物を使用して炭化水素を製造する方法である。すなわち、本方法は、例えば、いわゆる水生バイオマスから化石燃料を代替する液体燃料を製造する方法の一つとして有望なものである。
【0022】
本方法で使用する炭化水素生産性微生物は、培養することにより炭化水素を生産する微生物であれば特に限られず、任意の種類の微生物を適宜選択して使用することができる。すなわち、例えば、光合成により炭化水素を生産する微生物を好ましく使用することがで
きる。
【0023】
より具体的には、光合成により炭化水素を生産する微細藻類(炭化水素生産性微細藻類)を使用することができる。この炭化水素生産性微細藻類としては、例えば、ボツリオコッカス ブラウニー(Botryococcus braunii)や、他の炭化水素生産性の緑藻(Dunaliella)や珪藻類(Haslea)を使用することができる。
【0024】
ボツリオコッカス ブラウニーとしては、特に限られないが、例えば、ボツリオコッカス ブラウニーA品種やボツリオコッカス ブラウニーB品種を使用することができる。ボツリオコッカス ブラウニーのA品種及びB品種は、それぞれ公知の特徴により特定される(P.METZGER et al.Phytochemistry,Vol.24,No.10,pp.2305−2312,1985)。
【0025】
すなわち、ボツリオコッカス ブラウニーA品種は、例えば、脂肪酸由来の直鎖状炭化水素を生産する品種として特定される。具体的に、A品種は、例えば、炭素数が25以上、31以下の範囲内の奇数である直鎖状のアルカジエン及びアルカトリエンを生産するボツリオコッカス ブラウニーである。
【0026】
ボツリオコッカス ブラウニーB品種は、例えば、テルペン性の炭化水素を生産する品種として特定される。具体的に、B品種は、例えば、炭素数が30以上、37以下であるメチル化されたトリテルペン(polymethylated triterpenes:C2n−10)を生産するボツリオコッカス ブラウニーである。
【0027】
炭化水素生産性微生物により生産される炭化水素は、化石燃料を代替する液体燃料として使用可能な油状物質であり、例えば、炭素数が27以上の炭化水素である。具体的に、例えば、炭化水素生産性微細藻類の一種であるボツリオコッカス ブラウニー(具体的には、例えば、B品種)は、重油の一種である、ボツリオコッセン(botryococcene)と呼ばれる炭化水素を生産する。
【0028】
炭化水素生産性微生物としては、炭化水素を生産する能力の高いものが好ましく、例えば、培養することにより炭化水素の含有量が乾燥細胞体の20重量%以上となるものを好ましく使用することができる。具体的に、例えば、炭化水素の含有量が乾燥細胞体の20〜75重量%となる炭化水素生産性微生物(炭化水素生産性微細藻類等)を好ましく使用することができる。
【0029】
炭化水素生産性微生物は、栄養源を資化して炭化水素を生成し、生成した炭化水素を細胞内及び細胞外に蓄積することができる。すなわち、例えば、炭化水素生産性微生物は、生成した炭化水素の一部を油滴として細胞質内に蓄積するとともに、当該炭化水素の他の一部を細胞外に分泌する。そして、炭化水素生産性微生物が集合してコロニーを形成する場合には、分泌された炭化水素は当該コロニーを形成している細胞体間に蓄積する。したがって、このような炭化水素生産性微生物は、炭化水素蓄積性微生物(例えば、炭化水素蓄積性微細藻類)であるともいえる。培養された炭化水素生産性微生物を回収して乾燥させた後、その成分を分析することにより、上述した乾燥細胞体あたりの炭化水素の含有量を算出することができる。
【0030】
本実施形態においては、本方法の一例として、炭化水素生産性微生物として、炭化水素生産性微細藻類(以下、単に「微細藻類」という。)を使用する場合について説明する。
【0031】
図1は、本方法に含まれる主な工程を示す説明図である。図1に示すように、本方法は、培養工程S1、スラリー調製工程S2、加熱処理工程S3、回収工程S4を含む。
【0032】
培養工程S1においては、微細藻類を培養する。すなわち、微細藻類に光合成を行わせて炭化水素を生産させる。そして、炭化水素が蓄積された微細藻類を含有する培養液を得る。
【0033】
具体的には、まず栄養源を含有する培養液中に微細藻類を分散し、当該分散液を培養容器に入れる。そして、培養容器内において、微細藻類に光を照射しながら所定の温度及び雰囲気下で所定時間保持することにより培養する。培養中の微細藻類は、培養液中の栄養源を資化して光合成を行い、炭化水素を生成する。
【0034】
生成された炭化水素は、例えば、微細藻類の細胞質内に蓄積される。また、生成された炭化水素は、例えば、細胞外に分泌される。そして、微細藻類が集合してコロニーを形成する場合には、分泌された炭化水素は当該コロニーを形成している微細藻類の細胞体間に蓄積する。
【0035】
スラリー調製工程S2においては、上述のようにして培養された微細藻類の水性スラリーを調製する。この水性スラリーは、培養工程S1で得られた培養液を濃縮することにより調製することができる。すなわち、微細藻類を乾燥させることなく、培養液から直接、水性スラリーを調製する。
【0036】
具体的に、炭化水素を蓄積した微細藻類を含有する培養液から、ろ過等の脱水処理により水分の一部を除去することにより、含水率が低減された培養液の濃縮物として水性スラリーを調製する。水性スラリーの含水率は、例えば、60〜98重量%の範囲内とすることができ、好ましくは70〜80重量%の範囲内とすることができる。
【0037】
また、スラリー調製工程S2においては、微細藻類が生産した炭化水素の良溶媒を含有する水性スラリーを調製することもできる。すなわち、この場合、水性スラリーは、炭化水素を蓄積した微細藻類を含有する培養液の濃縮物に、当該炭化水素の良溶媒を添加することにより調製する。
【0038】
この良溶媒は、微細藻類が生産する炭化水素を溶解できる溶媒であれば特に限られず、例えば、低極性又は非極性の溶媒を好ましく使用することができ、特にn−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒を好ましく使用することができる。水性スラリーにおける良溶媒の添加率は、例えば、0.1〜10体積%の範囲内とすることができ、好ましくは0.2〜5体積%の範囲内とすることができる。
【0039】
加熱処理工程S3においては、微細藻類の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する処理(以下、「加熱処理」という。)を行う。
【0040】
加熱処理において水性スラリーを保持する温度(以下、「保持温度」という。)は、45℃以上、150℃未満の温度であれば特に限られず任意の温度とすることができる。すなわち、保持温度は、例えば、130℃以下とすることができ、100℃以下とすることができ、100℃未満とすることができる。また、保持温度は、例えば、50℃以上とすることができ、60℃以上とすることができ、75℃以上とすることができ、80℃以上とすることができ、85℃以上とすることができる。保持温度は、これらの各上限値と各下限値とを任意に組み合わせた範囲として設定することができる。
【0041】
45℃以上、150℃未満の範囲内で保持温度を低減させることで、従来の水熱液化反応又はこれに類似した反応に伴う夾雑物質の生成をより確実に抑制することができる。また、保持温度を低減させることで、加熱処理に要するエネルギーや時間を低減することができるとともに、加熱処理に使用する装置の簡素化を図ることもできる。
【0042】
また、45℃以上、150℃未満の範囲内で保持温度を増加させることで、従来の水熱液化反応又はこれに類似した反応に伴う夾雑物の生成を抑制しつつ、微細藻類が生産した炭化水素の選択的な回収をより効率よく行うことができるようになる。
【0043】
これらの効果を得るための保持温度は、例えば、50℃以上、150℃未満の範囲内とすることもでき、好ましくは60℃以上、150℃未満の範囲内とすることができ、より好ましくは75℃以上、150℃未満の範囲内とすることができ、特に好ましくは85℃以上、150℃未満の範囲内とすることができる。
【0044】
より具体的に、例えば、微細藻類としてボツリオコッカス ブラウニーA品種又はその変異株を使用する場合には、保持温度を45℃以上、150℃未満の範囲内とすることができ、50℃以上、150℃未満の範囲内とすることが好ましく、60℃以上、150℃未満の範囲内とすることがより好ましい。
【0045】
また、例えば、微細藻類としてボツリオコッカス ブラウニー(A品種及びB品種を含む)又はその変異株を使用する場合には、保持温度を75℃以上、150℃未満の範囲内とすることが好ましく、80℃以上、150℃未満の範囲内とすることがより好ましく、85℃以上、150℃未満の範囲内とすることが特に好ましい。
【0046】
また、保持温度は、例えば、45℃以上、130℃以下とすることができ、45℃以上、100℃以下とすることができ、45℃以上、100℃未満とすることができる。こうすれば、本方法により最終的に得られる油状物質における夾雑物質の混入を効果的に抑制することができる。
【0047】
また、保持温度は、例えば、50℃以上、130℃以下とすることができ、50℃以上、100℃以下とすることができ、50℃以上、100℃未満とすることができる。さらに、保持温度は、例えば、60℃以上、130℃以下とすることができ、60℃以上、100℃以下とすることができ、60℃以上、100℃未満とすることができる。
【0048】
これらの場合には、特に、微細藻類としてボツリオコッカス ブラウニーA品種又はその変異株を使用することで、夾雑物質の混入が効果的に抑制された最終的に得られる油状物質を効率よく製造することができる。
【0049】
また、保持温度は、例えば、75℃以上、130℃以下とすることができ、75℃以上、100℃以下とすることができ、75℃以上、100℃未満とすることができる。こうすれば、本方法により最終的に得られる油状物質における夾雑物質の混入をより効果的に抑制することができる。
【0050】
また、保持温度は、例えば、80℃以上、130℃以下とすることができ、80℃以上、100℃以下とすることができ、80℃以上、100℃未満とすることができる。こうすれば、本方法により最終的に得られる油状物質における夾雑物質の混入を効果的に抑制しつつ、当該油状物質の収量や、当該油状物質における微細藻類により生産された炭化水素の含有率をさらに効果的に高めることができる。
【0051】
また、保持温度は、例えば、85℃以上、130℃以下とすることができ、85℃以上、100℃以下とすることができ、85℃以上、100℃未満とすることができる。こうすれば、本方法により最終的に得られる油状物質における夾雑物質の混入を効果的に抑制しつつ、当該油状物質の収量や、当該油状物質における微細藻類により生産された炭化水素の含有率を特に効果的に高めることができる。
【0052】
また、加熱処理において、水性スラリーを保持温度に保持する時間(以下、「保持時間」という。)は、例えば、2〜60分の範囲内とすることができ、好ましくは5〜30分の範囲内とすることができる。
【0053】
また、加熱処理は、例えば、加熱された水性スラリーにおいて、水相と分離された、微細藻類が生産した炭化水素を含有する油相が形成されるまで、上述した保持温度で当該水性スラリーを保持する処理とすることもできる。
【0054】
また、加熱処理においては、水性スラリーを加熱するとともに加圧することもできる。すなわち、この場合、水性スラリーを大気圧より高い圧力(以下、「保持圧力」という。)下で、保持温度に保持することにより加熱処理を行う。
【0055】
加熱処理を実施する態様は特に限られず、例えば、水性スラリーを所定の容器内に入れて、当該容器内において当該水性スラリーを加熱し、上述の保持温度で保持する態様を挙げることができる。
【0056】
この場合、加熱処理においては、例えば、水性スラリーを保持する容器と、当該容器を加熱するヒータ等の加熱手段と、を備えた処理装置を使用できる。さらに、この処理装置は、容器内の温度を測定する温度センサー等の温度測定手段を備えることが好ましい。
【0057】
また、加熱処理において水性スラリーを加圧する場合には、当該水性スラリーは密閉系で保持する必要がある。したがって、この場合、水性スラリーを保持する容器は、当該水性スラリーを密閉状態で保持できる密閉容器であることが好ましい。
【0058】
加圧は、例えば、水性スラリーが保持された密閉容器内にガスを導入することにより行
うことができる。加圧に使用されるガスは特に限られず、例えば、窒素ガス、アルゴンガ
ス、ヘリウムガス等の不活性ガスを好ましく使用することができる。
【0059】
一方、加熱処理において水性スラリーを加圧する必要がない場合には、当該水性スラリーは開放系で保持してもよい。すなわち、本方法においては、水性スラリーを加圧することなく加熱処理を行うことができる。この場合、水性スラリーに対する加熱処理は、例えば、大気圧以下の圧力(いわゆる常圧)下で行う。もちろん、減圧する必要もない。
【0060】
具体的に、例えば、上述した保持温度の範囲のうち、上限が水の標準沸点である100℃未満の範囲内で加熱処理を行う場合には、水性スラリーに対して加圧することなく当該加熱処理を施すことができる。この場合、上述したような耐圧性の密閉容器を使用する必要はなく、また、加熱に要するエネルギーを低減することができる。
【0061】
こうして、加熱処理工程S3においては、水性スラリーに加熱処理を施すことにより、当該水性スラリーに含有される微細藻類から、炭化水素を含有する油状物質を溶出させる。
【0062】
回収工程S4においては、上述のように保持温度で保持された後の水性スラリーから、微細藻類により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する。すなわち、加熱処理が施された水性スラリーに所定の抽出処理を施すことにより、微細藻類が蓄積している炭化水素を抽出する。
【0063】
具体的に、まず加熱処理後の水性スラリーを冷却して、その温度を室温程度まで低下させる。次いで、この水性スラリーと、微細藻類が生産した炭化水素の良溶媒と、を混合して、当該炭化水素を当該良溶媒を含有する油相に移行させる。
【0064】
この良溶媒は、微細藻類が生産する炭化水素を溶解できる溶媒であれば特に限られず、例えば、低極性又は非極性の溶媒を好ましく使用することができ、特にn−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒を好ましく使用することができる。
【0065】
なお、上述のスラリー調製工程S2において水性スラリーに良溶媒が添加された場合には、回収工程S4において抽出に使用する良溶媒は、当該スラリー調製工程S2で使用されたものと同一種類とすることができ、また異なる種類とすることもできる。
【0066】
その後、水性スラリーと良溶媒との混合物から、微細藻類が生産した炭化水素を含有する油相を分離する。そして、分離された油相から減圧蒸発等の処理により溶媒を除去することにより、最終的に、微細藻類が生産した炭化水素を含有する油状物質を得る。
【0067】
こうして本方法により得られる油状物質は、従来の水熱処理を用いた方法により得られる油状物質に比べて、夾雑物質の含有率が低く、微細藻類が生産した炭化水素の含有率が高い組成物である。この油状物質における炭化水素の含有率は、例えば、75−90重量%の範囲内とすることができ、好ましくは85−90重量%の範囲内とすることができる。なお、通常、この油状物質には、微細藻類が生産した炭化水素以外にも、コロニーを形成していた細胞体間に蓄積されていた細胞外物質(マトリックス)や細胞内物質も含まれる。
【0068】
以上のとおり、本方法によれば、微細藻類により生産された炭化水素を選択的に且つ効率よく回収することができる。この効果は、特に、本方法において、回収工程S4に先立つ前処理工程として、従来にない加熱処理工程S3を採用したことにより達成されるものである。すなわち、この加熱処理は、固体バイオマス成分の液化や油状物質の流動性を高めるために行われる従来の高温処理(例えば、水熱液化処理)とは質的に異なる処理である。
【0069】
ここで、水熱液化処理におけるバイオマスの液化のメカニズムは次のとおりである。水熱液化処理においては、まずバイオマスを高温高圧で保持することにより、高温の水中で、加水分解等の分解反応により、固体バイオマス成分を構成する高分子(例えば、セルロース、ヘミセルロース、リグニン)の結合が開裂する。次いで、開裂により生成した生成物が、さらに各種反応により分解して低分子化合物となる。さらに、この低分子化反応の一方で、生成した低分子化合物が重合又は縮合する反応が進行する。
【0070】
このように、水熱液化反応においては、固体バイオマス成分の開裂反応を起こすことが、その後の液化反応の必須条件である。開裂反応を開始させるために必要な温度については、例えば、180〜200℃で、セルロースの比較的弱いエーテル結合が開裂を開始するという報告がある。したがって、一般に、バイオマスの水熱液化反応は、高圧下、当該バイオマスを250〜300℃で保持することにより行われる。
【0071】
この結果、水熱液化処理を行う従来法においては、微細藻類を構成する有機物質(細胞膜や細胞内物質)の一部が重油状物質に変換される。したがって、最終的に得られる抽出物は、微細藻類が生産した炭化水素のみならず、当該微細藻類の構成成分の液化により生成された重油状物質を不純物として必然的に含有することとなる。
【0072】
これに対し、本発明の発明者らは、従来の水熱液化処理における夾雑物質の混入を回避しつつ微細藻類が生産した炭化水素の回収率を向上させるという独自の目的を掲げて鋭意検討を重ね、その結果、意外にも水性スラリーを比較的低温で加熱する簡便な処理によって、当該目的を達成できることを見出したのである。
【0073】
すなわち、本方法の加熱処理においては、上述のとおり、微細藻類の水性スラリーを保持する温度が45℃以上、150℃未満と比較的低いため、水熱液化反応又はこれに類似した反応により固体バイオマス成分が液化し、夾雑物質が生成することを効果的に抑制することができる。
【0074】
この結果、本方法において回収される油状物質への夾雑物質(すなわち、微細藻類が生産した炭化水素以外の不純物)の混入を極めて効果的に回避することができる。このような効果は、特に、加熱処理における保持温度が100℃未満の場合に顕著となる。すなわち、この場合、上述の固体バイオマス成分の分解や重合、及びこれに伴う含酸素成分の生成は起こらない。したがって、本方法によれば、回収される油状物質における微細藻類が生産した炭化水素の含有率が極めて高く、高純度の炭化水素を効率よく製造することができる。
【0075】
このため、本方法においては、従来の水熱液化処理を用いる方法に比べて、最終的に得られる油状物質における夾雑物質の含有率を効果的に低減し、微細藻類が生産した炭化水素の含有率を効果的に高めることができる。したがって、本方法で得られる油状物質は、炭化水素を主体とするものであるため、クラッキング等の簡単な処理を施すことにより、自動車等の内燃機関の高品質な液体燃料として利用することができる。また、この油状物質は、実質的に酸素を含有しないため、発熱量が高い。なお、本方法においては、加熱処理によって、微細藻類により生産されてコロニーを形成する細胞体間に蓄積された炭化水素と、当該細胞体及びコロニーと、の物理化学的親和性を変化させ、当該炭化水素の分離及び回収を容易にすることができていると考えられる。
【0076】
したがって、本方法によれば、微細藻類が生産した炭化水素の含有率が高い、均質な油状物質を再現性よく得ることができる。本方法により得られる高品質の油状物質は、例えば、化石燃料を代替する液体燃料としての使用に適したものである。
【0077】
また、本方法においては、従来の方法に比べて、エネルギーの消費量や、処理に費やす時間を低減することができる。すなわち、本方法の加熱処理における加熱温度(保持温度)は、水熱液化処理における加熱温度に比べて低いため、当該水熱処理に比べて、加熱に要するエネルギーや時間を低減することができる。
【0078】
また、水熱液化処理では高圧での処理が必須であるのに対して、本方法の加熱処理においては、必ずしも加圧する必要がない。このため、本方法の加熱処理においては、水熱液化処理に比べて、加圧に要するエネルギーや時間を低減することができる。さらに、水熱液化処理で使用される装置には高い耐圧性等の特殊な性能が要求されるのに対して、本方法の加熱処理においては、より簡素化された装置を使用することができる。したがって、例えば、水熱液化処理を行う従来法に比べて、装置等の設備に要するコストを効果的に削減することができる。
【0079】
また、本方法においては、微細藻類を含有する培養液をそのまま使用して水性スラリーを調製し、さらに当該水性スラリーをそのまま加熱処理に供することができる。このため、本方法においては、例えば、回収された微細藻類をいったん乾燥させる処理を含む従来法に比べて、操作を簡素化し、乾燥等に必要な多大なエネルギーを削減することができる。
【0080】
また、本方法を実用化するに当たっては、例えば、微細藻類を培養する施設と、加熱処理や回収操作を行う施設と、を併設して、上述した一連の工程を限られた敷地内で効率よく連続的に行うことも可能である。こうすれば、培養液や水性スラリーの輸送に要するエネルギー、時間、労力をも低減することができる。
【0081】
なお、本方法は、図1に示された工程の全てを含むものに限られない。すなわち、例えば、本方法は、培養工程S1及びスラリー調製工程S2の一方又は両方を含まず、加熱処理工程S3及び回収工程S4を含む方法とすることができる。この場合、本方法の加熱処理工程S3においては、予め調製された水性スラリーが供給され、当該水性スラリーに対して上述したような加熱処理を行う。
【0082】
次に、本方法の具体的な実施例について説明する。なお、下記の実施例において、同様の加熱処理条件でも実験間で結果に相違がみられるのは、例えば、微細藻類の培養状態や収穫後の藻体の保存状態等、生物を使用することに起因して不可避的に生ずる他の条件の相違に由来するものと考えられる。
【実施例1】
【0083】
炭化水素生産性微生物としては、ボツリオコッカス ブラウニーを使用した。まず、この微細藻類をChu13培地中、照度12000ルクス(lx)の光照射下で30日間培養した。
【0084】
次いで、微細藻類を含有する培養液を回収し、細胞体を通過させない網目のメッシュで当該培養液をろ過して濃縮することにより水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して、水性スラリーに加熱処理を施した。
【0085】
図2には、加熱処理に使用した処理装置10の主な構成を示している。この処理装置10は、内部に水性スラリーSを密閉状態で保持可能な密閉容器C、当該密閉容器Cに保持された水性スラリーSを撹拌するためのミキサーM、当該密閉容器Cを加熱するためのヒータH、当該密閉容器Cの加圧に使用する窒素ガスが充填されたガスボンベG、当該密閉容器Cへの窒素ガスの供給量を調整するためのバルブV、当該密閉容器Cにおける温度及び圧力をそれぞれ測定するための温度センサーT及び圧力センサーPを備えていた。
【0086】
加熱処理を実行する際には、処理装置10において、温度センサーT及び圧力センサーPによる測定結果に基づいて、密閉容器Cにおける温度及び圧力をそれぞれ予め定められた保持温度及び保持圧力となるように調整した。
【0087】
具体的に、まず上述のように調製した水性スラリーSを密閉容器Cに入れた。次いで、水性スラリーSをミキサーMにより攪拌しながらヒータHにより加熱した。そして、水性スラリーを80℃、100℃、120℃、又は150℃の保持温度で、30分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0088】
加熱処理の後、ファンを用いた送風により水性スラリーを急冷し、その温度を室温まで低減させた。そして、冷却後の水性スラリーに、微細藻類が生産する炭化水素の良溶媒の一つであるn−ヘキサンを加え、分液ロートを用いて30秒間震盪抽出し、ヘキサン相を分離回収し、さらに減圧蒸発によりヘキサンを蒸発除去させた。
【0089】
こうして、微細藻類が生産した炭化水素を含有する油状物質として、粘性の高い油状の抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0090】
図3には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図3には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の重量(mg)と、を示している。なお、抽出物の重量は、1000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0091】
図3に示すように、80℃以上の保持温度で加熱処理を行うことにより、加熱処理を行わない場合に比べて、得られる抽出物の重量(すなわち、収率)が増加した。特に、保持温度が100℃以上で抽出物の重量が急増した。また、保持温度が100℃、120℃、150℃の場合で抽出物の重量に大きな差異はなかった。したがって、回収プロセスのエネルギー効率向上の観点及び抽出物における夾雑物質の混入を回避するという観点で、本方法の加熱処理における保持温度としては、150℃に比べて、120℃以下又は100℃以下を好ましく採用できると考えられた。
【実施例2】
【0092】
上述の実施例1と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーを培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、50℃、60℃、70℃、75℃、80℃、85℃又は90℃という100℃未満の保持温度で、10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0093】
加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0094】
図4には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図4には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の重量(mg)と、を示している。なお、抽出物の重量は、2000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0095】
図4に示すように、60℃以上の保持温度で加熱処理を行うことにより、加熱処理を行わない場合に比べて、得られる抽出物の重量(すなわち、収率)が増加した。特に、保持温度が75℃以上で抽出物の重量が急増した。さらに、75℃、80℃、85℃、90℃と保持温度が増加するにつれて、抽出物の重量も増加した。したがって、回収プロセスのエネルギー効率向上の観点及び抽出物における夾雑物質の混入を回避するという観点で、本方法の加熱処理における保持温度としては、例えば、75℃以上、100℃未満を好ましく採用できると考えられた。
【実施例3】
【0096】
上述の実施例1と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーを培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱するとともに、ガスボンベGから密閉容器C内に窒素ガスを導入することにより加圧した。そして、水性スラリーを、0.07MPa又は0.48MPaの保持圧力(ゲージ圧力)下、90℃の保持温度で10分保持することにより加熱処理を行った。加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。
【0097】
図5には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図5には、加熱処理における保持圧力(MPa)と、各保持圧力での加熱処理を経て得られた抽出物の重量(mg)と、を示している。なお、抽出物の重量は、1000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0098】
図5に示すように、保持圧力が0.07MPaの場合と、0.48MPaの場合と、で抽出物の重量に大きな差異はなかった。
【実施例4】
【0099】
上述の実施例1と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーを培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱するとともに、ガスボンベGから密閉容器C内に窒素ガスを導入することにより加圧した。そして、水性スラリーを、0.05MPa又は0.95MPaの保持圧力(ゲージ圧力)下、80℃の保持温度で10分保持することにより加熱処理を行った。加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。
【0100】
図6には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図6には、加熱処理における保持圧力(MPa)と、各保持圧力での加熱処理を経て得られた抽出物の重量(mg)と、を示している。なお、抽出物の重量は、2000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0101】
図6に示すように、保持圧力が0.05MPaの場合と、0.95MPaの場合と、で抽出物の重量に差異はなかった。
【実施例5】
【0102】
上述の実施例1と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーを培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーを加圧した。すなわち、水性スラリーを加熱することなく、ガスボンベGから密閉容器C内に窒素ガスを導入することにより加圧した。そして、水性スラリーを、0.2MPa、0.8MPa又は1.82MPaの圧力(ゲージ圧力)下、室温で10分保持した。その後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行った。
【0103】
図7には、このような処理により、2000mgの水性スラリーあたりで得られた結果を示す。図7に示すように、加熱を行わず、加圧のみを行った場合には、実質的に抽出物は得られなかった。
【実施例6】
【0104】
上述の実施例1と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーを培養した。次いで、微細藻類を含有する培養液を回収し、細胞体を通過させない網目のメッシュで当該培養液をろ過して濃縮した。
【0105】
そして、この培養液の濃縮物に、n−ヘキサンを添加することにより、n−ヘキサンを2.5体積%含有する水性スラリーを調製した。また、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを含有しない水性スラリーも調製した。
【0106】
そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、150℃の保持温度で10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。
【0107】
図8には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図8には、水性スラリーへのn−ヘキサンの添加を行った場合(左欄の「あり」)及びn−ヘキサンの添加を行わなかった場合(右欄の「なし」)のそれぞれについて、得られた抽出物の重量(mg)を示している。なお、抽出物の重量は、1000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0108】
図8に示すように、n−ヘキサンの添加の有無によって、抽出物の重量に大きな差異はなかった。
【実施例7】
【0109】
上述の実施例7と同様に、n−ヘキサンを2.5体積%含有する水性スラリーと、n−ヘキサンを含有しない水性スラリーと、それぞれを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、90℃の保持温度で10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。
【0110】
図9には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図9には、水性スラリーへのn−ヘキサンの添加を行った場合(左欄の「あり」)及びn−ヘキサンの添加を行わなかった場合(右欄の「なし」)のそれぞれについて、得られた抽出物の重量(mg)を示している。なお、抽出物の重量は、1000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0111】
図9に示すように、n−ヘキサンの添加の有無によって、抽出物の重量に大きな差異はなかった。
【実施例8】
【0112】
上述の実施例7と同様に、n−ヘキサンを2.5体積%含有する水性スラリーと、n−ヘキサンを含有しない水性スラリーと、それぞれを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、80℃の保持温度で10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。
【0113】
図10には、このようにして得られた抽出物の重量を測定した結果を示す。図10には、水性スラリーへのn−ヘキサンの添加を行った場合(左欄の「あり」)及びn−ヘキサンの添加を行わなかった場合(右欄の「なし」)のそれぞれについて、得られた抽出物の重量(mg)を示している。なお、抽出物の重量は、1000mgの水性スラリーから得られた重量である。
【0114】
図10に示すように、n−ヘキサンの添加の有無によって、抽出物の重量に大きな差異はなかった。
【実施例9】
【0115】
上述の実施例1〜8と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーB品種を培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、75℃、80℃、85℃、90℃又は120℃という保持温度で加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0116】
加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0117】
図11には、このようにして得られた抽出物の重量及び回収率を測定した結果を示す。図11には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の重量(mg)及び回収率(%)と、を示している。
【0118】
抽出物の回収率は、乾燥させた微細藻類に含有される炭化水素の重量に対する、回収された炭化水素の重量の割合として算出した。すなわち、回収率は、次の式;(溶媒抽出による炭化水素の回収率)=(抽出で得られた炭化水素の重量)/(乾燥微細藻類中の炭化水素の重量)×100(%);により算出した。
【0119】
図11に示すように、特に85℃〜120℃の保持温度で加熱処理を行うことによって効率よく炭化水素を回収することができた。すなわち、保持温度を85℃以上とすることにより、85%以上の高い回収率を達成することができた。
【実施例10】
【0120】
炭化水素生産性微生物としては、ボツリオコッカス ブラウニーA品種を使用した。より具体的には、ボツリオコッカス ブラウニーA品種のYamanaka株(Shigeru Okada et al.,Journal of Applied Phycology 7:555−559,1995)を使用した。このボツリオコッカス ブラウニーの培養、及び水性スラリーの調製は、上述の実施例1と同様に行った。なお、水性スラリーは0.1〜0.2重量%の微細藻類を含有していた。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃又は90℃という100℃未満の保持温度で、10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0121】
加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0122】
図12には、このようにして得られた抽出物の回収率を測定した結果を示す。図12には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の回収率(%)と、を示している。
【0123】
図12に示すように、60℃〜90℃の保持温度で加熱処理を行った全ての場合において、ほぼ全ての炭化水素を回収することができた。したがって、回収プロセスのエネルギー効率向上の観点及び抽出物における夾雑物質の混入を回避するという観点で、本方法の加熱処理における保持温度としては、例えば、60℃以上、100℃未満であれば好ましく採用できると考えられた。
【0124】
なお、炭化水素の回収率は、理論的には100%以下となるはずであるが、図12に示すように、実際には100%より大きな値が得られた。これは、回収率の算出において、乾燥微細藻類中の炭化水素の重量として、1回の測定で得られた値を使用し、且つ当該炭化水素の秤量値が52mgと微量であったため、誤差が生じたことによるものと考えられた。
【実施例11】
【0125】
上述の実施例10と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーA品種を培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、50℃又は60℃の保持温度で、10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0126】
加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0127】
図13には、このようにして得られた抽出物の回収率を測定した結果を示す。図13には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の回収率(%)と、を示している。なお、回収率の算出において使用した、乾燥微細藻類に含有される炭化水素の重量は20mgであった。
【0128】
図13に示すように、50℃及び60℃の保持温度で加熱処理を行うことにより、ほぼ全ての炭化水素を回収することができた。したがって、回収プロセスのエネルギー効率向上の観点及び抽出物における夾雑物質の混入を回避するという観点で、本方法の加熱処理における保持温度としては、例えば、50℃以上、100℃未満の範囲を好ましく採用できると考えられた。
【実施例12】
【0129】
上述の実施例10と同様に、ボツリオコッカス ブラウニーA品種を培養し、水性スラリーを調製した。そして、図2に示す処理装置10を使用して水性スラリーの加熱処理を行った。すなわち、水性スラリーを加熱して、40℃、50℃又は60℃の保持温度で、10分保持することにより加熱処理を行った。なお、水性スラリーに対する加圧は行わなかった。
【0130】
加熱処理の後、上述の実施例1と同様に、n−ヘキサンを使用した抽出処理を行い、微細藻類が生産した炭化水素を含有する抽出物を得た。また、比較のため、水性スラリーに加熱処理を施すことなく同様にn−ヘキサンを用いた抽出処理を施す方法も実施した。
【0131】
図14には、このようにして得られた抽出物の回収率を測定した結果を示す。図14には、加熱処理における保持温度(℃)と、各保持温度での加熱処理を経て得られた抽出物の回収率(%)と、を示している。なお、回収率の算出において使用した、乾燥微細藻類に含有される炭化水素の重量は150mgであった。
【0132】
図14に示すように、40℃〜60℃の保持温度で加熱処理を行った全ての場合において、55%以上の比較的高い回収率で炭化水素を回収することができた。特に、保持温度を40℃から50℃に高めることによって、回収率が飛躍的に増加した。したがって、回収プロセスのエネルギー効率向上の観点及び抽出物における夾雑物質の混入を回避するという観点で、本方法の加熱処理における保持温度としては、例えば、45℃以上、100℃未満の範囲を好ましく採用でき、50℃以上、100℃未満の範囲をより好ましく採用でき、60℃以上、100℃未満の範囲を特に好ましく採用できると考えられた。
【0133】
また、本方法は、図15に示すように、上述の回収工程S4で得られた水性スラリーの残渣(以下、「藻体残渣」という。)からエネルギーを回収するエネルギー回収工程S5をさらに含むこととしてもよい。すなわち、図15に示す例に係る本方法は、上述の培養工程S1、スラリー調製工程S2、加熱処理工程S3及び回収工程S4に加えて、エネルギー回収工程S5を含む。
【0134】
エネルギー回収工程S5においては、回収工程S4における油状物質の回収後に得られた藻体残渣から、本方法における加熱に利用できるエネルギーを生成する。すなわち、例えば、まず、藻体残渣から可燃性のバイオガスを生成する。そして、このバイオガスを燃料として使用して熱エネルギーを生成する。
【0135】
バイオガスは、例えば、メタン発酵により生成することができる。すなわち、藻体残渣を使用してメタン発酵を行い、メタンを主成分とするバイオガスを生成する。この場合、藻体残渣に100〜200℃で水熱可溶化処理を施し、当該処理後の藻体残渣をメタン発酵微生物に供給することが好ましい。
【0136】
ここで、本方法において得られる藻体残渣は、従来の水熱液化処理を用いた方法において得られる残渣に比べて、微細藻類に由来する成分を豊富に含有しており、熱エネルギーを取得する上で好ましい組成物である。
【0137】
すなわち、上述のとおり、従来の水熱液化処理においては、微細藻類を構成する有機物質の一部が重油状物質に変換されて、当該微細藻類が生産した炭化水素とともに回収される。したがって、水熱液化処理の結果として得られる残渣は、微細藻類を構成する有機物質の一部を欠如したものとなる。
【0138】
これに対し、本方法においては、微細藻類が生産した炭化水素を選択的に回収することができる。このため、炭化水素の分離後に得られる藻体残渣は、微細藻類を構成する有機物質を豊富に含むものとなる。したがって、本方法で得られる藻体残渣を利用することにより、水性スラリーの加熱等に利用できるエネルギーを効率よく回収することができる。
【0139】
本方法がエネルギー回収工程S5を含む場合、加熱処理工程S3において、当該エネルギー回収工程S5で回収されたエネルギーを利用して、水性スラリーを加熱することもできる。すなわち、この場合、例えば、藻体残渣から生成されたバイオガスを燃料として使用して、水性スラリーの加熱を行う。
【0140】
図16は、エネルギー回収工程S5を含む本方法の一例において行われる主な処理を示す説明図である。また、図17は、本実施形態に係る炭化水素製造システム(以下、「本システム」という。)の一例に含まれる主な構成を示す説明図である。
【0141】
本システムは、炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理部と、当該水性スラリーから、当該炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収部と、を含む。
【0142】
図17に示す例において、本システムは、加熱器や加熱貯槽を含む加熱処理部と、抽出塔や溶媒回収塔を含む回収部と、を備えている。加熱処理部によって、上述した加熱処理工程S3を実施することができ、回収部によって、上述した回収工程S4を実施することができる。すなわち、本システムによって、上述した加熱処理工程S3及び回収工程S4を含む本方法を好適に実施することができる。
【0143】
また、本システムは、回収部で得られた水性スラリーの残渣からエネルギーを回収するエネルギー回収部をさらに含むこともできる。図17に示す例において、本システムは、藻体残渣を使用したメタン発酵によりバイオガスを生成するエネルギー回収部を備えている。エネルギー回収部によって、上述したエネルギー回収工程S5を実施することができる。すなわち、本システムによって、上述した加熱処理工程S3、回収工程S4及びエネルギー回収工程S5を含む本方法を好適に実施することができる。
【0144】
また、本システムの加熱処理部においては、エネルギー回収部で回収されたエネルギーを利用して、水性スラリーを加熱することもできる。図17に示す例に係る本システムにおいては、エネルギー回収部で生成されたバイオガスを燃料として使用して、当該バイオガスを熱エネルギーに変換し、当該熱エネルギーを利用して、加熱処理部における水性スラリーの加熱を実施することができる。
【0145】
さらに、本システムは、微細藻類を培養する培養部や、当該微細藻類を含有する培養液を濃縮して水性スラリーを調製するスラリー調製部を含むことができる。図17に示す例において、本システムは、培養槽を含む培養部と、濃縮槽を含むスラリー調製部と、を備えている。培養部及びスラリー調製部によって、上述の培養工程S1及びスラリー調製工程S2をそれぞれ好適に実施することができる。
【0146】
ここで、図16及び図17を参照しつつ、本システムによって本方法を実施する具体的な例について説明する。
【0147】
まず、本システムの培養槽においては、微細藻類を培養液中で培養する。次に、炭化水素を生産した微細藻類を含有する培養液を回収し(図16のS21)、濃縮槽に移送する。濃縮槽においては、培養液を濃縮して(図16のS22)、水性スラリーを調製する(図16のS23)。
【0148】
培養液の濃縮は、例えば、生産した油状物質を含有する微細藻類は培養液中で静置すると浮上するという性質を利用した、浮上分離により行うことができる。図17に示す例において、濃縮槽は、無端状のベルトを備えたスキマーを備えている。そして、このスキマーで、培養液のうち微細藻類が濃縮された部分を掻き取ることによって、当該培養液を容易に濃縮することができる。この場合、例えば、加熱等により培養液から水分を蒸発させて濃縮する方法に比べて顕著に小さなエネルギーで培養液を濃縮することができる。
【0149】
得られた水性スラリーは、濃縮スラリー槽に溜める。一方、微細藻類と分離された培養液は、栄養塩を含有するため、濃縮槽から回収し、培養槽に再循環して、さらなる微細藻類の培養に利用する。
【0150】
次に、水性スラリーに加熱処理を施す(図16のS31)。すなわち、水性スラリーを濃縮スラリー槽から予熱器に導入して、当該予熱器により当該水性スラリーを予熱する。さらに、予熱された水性スラリーを加熱器によって所定の保持温度に加熱する。そして、保持温度まで加熱された水性スラリーを、加熱貯槽に溜め、当該保持温度で所定時間保持する。図17に示す例において、加熱器は熱交換器により実現される。加熱器には、ボイラーから蒸気、温水、熱媒油(例えば、シリコン油)等の熱移動媒体が供給される。ボイラーでは、燃料として、上述のバイオガスを使用することができる。すなわち、この例においては、水性スラリーの予熱温度と保持温度との温度差を、燃料としてバイオガスを使用した加熱により埋める。
【0151】
加熱処理後の水性スラリーは、冷却器により冷却する。図17に示す例において、冷却器は熱交換器により実現される。冷却器には、冷却塔から冷却水等の熱移動媒体が供給される。また、冷却器において温められた熱移動媒体は、予熱器に供給され、上述した水性スラリーの予熱に利用される。
【0152】
図17には、加熱処理における水性スラリー及び熱移動媒体の温度変化の具体的な例を示している。すなわち、濃縮スラリー槽から取り出された25℃の水性スラリーは、予熱器により65℃まで予熱され、加熱器により90℃の保持温度まで加熱される。そして、加熱貯槽において水性スラリーは90℃で保持され、その後、冷却器により30℃まで冷却される。なお、加熱器には熱媒ボイラーから105℃の熱移動媒体が供給され、水性スラリーとの熱交換により75℃まで温度が低下した当該熱移動媒体は当該熱媒ボイラーに戻される。一方、冷却塔から取り出された20℃の熱移動媒体は、冷却器における水性スラリーとの熱交換により80℃まで温められ、予熱器により40℃まで冷却されて、当該冷却塔に戻される。
【0153】
次に、冷却器で冷却した加熱処理後の水性スラリーを抽出塔に移送する。抽出塔では、ヘキサン等の炭化水素に対する良溶媒を使用して水性スラリーから炭化水素を抽出する(図16のS41)。すなわち、加熱処理によって微細藻類が生産した炭化水素を、溶媒相に移行させる。そして、抽出塔から、水性スラリーに含有されていた炭化水素と溶媒とを含有する粗抽出物を回収する(図16のS42)。
【0154】
粗抽出物は、加熱器により加熱し、溶媒回収塔に移送する。溶媒回収塔では、粗抽出物から溶媒を分離し(図16のS43)、微細藻類が生産した炭化水素を高純度で含有する油状物質を回収する(図16のS44)。溶媒の分離は、例えば、沸点差を利用して、蒸留により行う。得られた油状物質は、油状物質貯槽に溜める。また、回収された溶媒は、溶媒回収槽に移送し、さらに抽出塔に再循環して、新たな水性スラリーの溶媒抽出に利用する。
【0155】
一方、抽出塔からは、粗抽出物を分離した水性スラリーの残りの成分である藻体残渣を回収する(図16のS51)。抽出塔から回収した藻体残渣は、前処理装置に移送する。前処理装置においては、藻体残渣の前処理(例えば、水熱可溶化)を行うことにより、メタン発酵に適した藻体残渣を生成する。前処理を施した藻体残渣は、メタン発酵槽に移送する。メタン発酵槽においては、メタン発酵微生物に藻体残渣を供給し、メタン発酵を行う(図16のS52)。なお、メタン発酵後の残渣は、微細藻類の栄養源(窒素やリン)を含有するため、微細藻類の培養に再利用することができる。
【0156】
図16及び図17に示す例において、生成したバイオガスは、水性スラリーの加熱に利用する。すなわち、バイオガスは、水性スラリーの加熱熱源として利用する(図16のS53)。ボイラーにおいては、バイオガスを燃料として使用して、例えば、水蒸気を発生させ、又は熱媒油を加熱する。そして、この蒸気や熱媒油を加熱器に供給して、当該加熱器における当該蒸気や熱媒油との熱交換により水性スラリーの加熱を行う(図16のS31)。
【0157】
このように、本システムにおいては、藻体残渣から取得されたエネルギーを水性スラリーの加熱に利用する。このため、水性スラリーを加熱するために外部から新たにエネルギーを投入する必要がない。したがって、本システムは、外部から化石燃料等の新たな燃料の供給を受ける必要のない、エネルギー自給型(エネルギー自立型)の炭化水素製造システムとすることができる。
【0158】
また、図16及び図17に示す例において、バイオガスは、溶媒を分離するための粗抽出物の加熱にも利用する。すなわち、バイオガスを利用して生成された熱移動媒体を、粗抽出物を加熱する加熱器に供給する。そして、この加熱器により粗抽出物を加熱して、当該粗抽出物から溶媒を分離する(図16のS43)。なお、図17に示す溶媒回収塔の前段に設けられた加熱器の加熱熱源にも、同様にバイオガスを使用することができる。
【0159】
このように、本システムにおいては、藻体残渣から回収された熱エネルギーを抽出溶媒の蒸発に利用する。このため、抽出溶媒を加熱するために外部から新たに熱エネルギーを投入する必要がない。したがって、本システムは、外部から化石燃料等の新たな燃料の供給を受ける必要のない、エネルギー自給型(エネルギー自立型)の炭化水素製造システムとすることができる。
【符号の説明】
【0160】
10 処理装置、C 密閉容器、G ガスボンベ、H ヒータ、M ミキサー、P 圧力センサー、S 水性スラリー、T 温度センサー、V バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理工程と、
前記温度で保持された後の前記水性スラリーから、前記炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収工程と、
を含む
ことを特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程における前記温度が、75℃以上、150℃未満である
ことを特徴とする請求項1に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素生産性微生物は、炭化水素生産性微細藻類である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニー又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類である
ことを特徴とする請求項3に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニーA品種又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類である
ことを特徴とする請求項4に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記炭化水素生産性微細藻類は、ボツリオコッカス ブラウニーB品種又はその変異株であって炭化水素を生産する微細藻類である
ことを特徴とする請求項4に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項7】
前記回収工程で得られた前記水性スラリーの残渣からエネルギーを回収するエネルギー回収工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載された炭化水素の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程において、前記エネルギー回収工程で回収された前記エネルギーを利用して、前記水性スラリーを加熱する
ことを特徴とする請求項7に記載された炭化水素の製造方法。
【請求項9】
炭化水素生産性微生物の水性スラリーを加熱して45℃以上、150℃未満の温度で保持する加熱処理部と、
前記水性スラリーから、前記炭化水素生産性微生物により生産された炭化水素を含有する油状物質を回収する回収部と、
を含む
ことを特徴とする炭化水素製造システム。
【請求項10】
前記回収部で得られた前記水性スラリーの残渣からエネルギーを回収するエネルギー回収部をさらに含む
ことを特徴とする請求項9に記載された炭化水素製造システム。
【請求項11】
前記加熱処理部において、前記エネルギー回収部で回収された前記エネルギーを利用して、前記水性スラリーを加熱する
ことを特徴とする請求項10に記載された炭化水素製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−111865(P2010−111865A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234920(P2009−234920)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】