説明

炭化水素ニトロ化のための等温反応器

炭化水素原料と含水硝酸との反応によりニトロアルカン類を合成するための方法と装置が開示される。含水硝酸のための複数の投入口を有する等温的反応器を使用することにより、炭化水素原料は、反応器中を流れる時含水硝酸の複数の流れに連続的に曝露される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロアルカン類を合成するための方法に関する。さらに詳しくは本発明は、炭化水素原料が反応器中を流れる時、含水硝酸の複数の流れに連続的に曝露されるように、含水硝酸を導入するための複数の投入口を有する等温反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素のニトロ化では、反応条件と原料構造に依存して様々な生成物が製造される。例えば、プロパンニトロ化の商業的蒸気相法は、4つのニトロ−パラフィン生成物(ニトロメタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン、及びニトロエタン)の混合物を、基本的に固定された相対的濃度で与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしいくつかの生成物は他の生成物より好ましく、あまり有用ではない化合物を犠牲にして、より有用なニトロ化化合物を選択的に製造することが長期的な目標となっている。従来の反応器のデザインは、混合、温度制御、及び腐食問題を考慮している。さらに従来の反応器は所望の生成物に対して高い選択性を示さないため、下流分離法は非常に資本集約的となる。従って、選択的にニトロ化されたニトロパラフィン類の製造のための、より経済的で選択的な方法と反応器に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
簡単な要約
ある態様において、少なくとも1つのニトロアルカンの合成法が提供される。この方法は、反応器中で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて反応生成物を生成させ、ここで炭化水素原料が反応器の少なくとも一部の中を流れる時、炭化水素原料は含水硝酸の複数の流れに連続的に曝露され、そして反応生成物から少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、ことを含んでなる。
【0005】
別の態様において、少なくとも1つのニトロアルカンの別の合成法が提供される。この方法は、第1の反応器部分中で炭化水素原料に含水硝酸を連続的に反応させて第1の生成物流を得て、ここで炭化水素原料が第1の反応器部分中を流れる時、含水硝酸が複数の投入口を介して導入され、第2の反応器部分中で第1の生成物流に含水硝酸をさらに反応させて第2の生成物流を得て、そして第2の生成物流から少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、ことを含んでなる。
【0006】
さらに別の態様において、炭化水素をニトロ化するための装置が提供される。この装置は、炭化水素原料を受け取るための入り口と、反応生成物を放出するための出口とを有する反応器と、反応器中の充填材料と、反応器中の複数の異なる位置で硝酸を導入するための複数の口とを、含んでなり、こうして炭化水素原料が入り口から出口に流れる時、炭化水素原料が硝酸による連続的反応を受けるようになっている。
【0007】
前記要約は単に例示するのみであり、決して限定するものではない。例示した態様、実施態様、及び上記特徴以外に、さらなる態様、実施態様、及び特徴は、図面と以下の詳細な説明を参照することにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例に従って、少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための反応器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ある態様において、少なくとも1つのニトロアルカンの合成法が提供される。この方法は、等温的又はほぼ等温的に行われ、所望のニトロアルカンに対する高い選択性、高い反応器生産性(生成物lb/反応器の単位容積)、及び高い原料変換率が有効に得られる。別の態様において等温的又はほぼ等温的アルカンニトロ化法を実施するための装置が提供される。装置は、腐食問題の可能性を低下させる反応器設計を含んでよい。
【0010】
図1は、少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための装置100を例示する。装置100は、少なくとも第1の反応器部分102と第2の反応器部分103とを有する反応器101を含む。炭化水素原料104は、第1の反応器部分102中で反応器の圧力と反応温度で複数の含水硝酸流105a-jと反応して、第1の反応生成物106を生成する。第1の反応器部分102は、炭化水素原料104を受け取るための入り口107と、第1の反応生成物106を放出するための出口108とを有する。炭化水素原料104と含水硝酸流105a-j中の含水硝酸は反応器の圧力と反応温度で反応して、第1の反応生成物106が少なくとも1つの所望のニトロアルカンを含むようになる。第1の反応生成物106は、例えば2-ニトロプロパンを含む。炭化水素原料104は、炭化水素原料104が第1の反応器部分102の少なくとも一部の中を流れる時、含水硝酸流105a-jに連続的に曝露される。例えば炭化水素原料104は、含水硝酸流105a-jの5回〜10回の流れに曝露される。実施態様では炭化水素原料104は、まず含水硝酸流105aに、次に含水硝酸流105bに、次に含水硝酸流105cに、次に含水硝酸流105dに、次に含水硝酸流105eに、次に含水硝酸流105fに、次に含水硝酸流105gに、次に含水硝酸流105hに、次に含水硝酸流105iに、次に含水硝酸流105jに曝露される。
【0011】
ある例では、炭化水素原料104は、基本的にプロパンと酢酸とからなる。他の例では炭化水素原料104は、特に限定されないが、以下の1つ以上を含む:アルカン類とシクロアルカン類(アルキル置換シクロアルカン類を含む)、例えば、プロパン、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、2,3-ジメチルブタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、及びメチルシクロヘキサン;アリールアルカン類、例えばエチルベンゼン、トルエン、キシレン、イソプロピルベンゼン;1-メチルナフタレンと2-メチルナフタレンと4-メチルビフェニル;縮合シクロアルカン類;アルキル置換縮合アリール化合物;縮合シクロアルカン−アリール化合物(アルキル置換誘導体を含む)、例えば、テトラリン、デカリン、及びメチルナフタレン;及びカルボン酸類、例えば酢酸、プロパン酸、ブタン酸、及びヘキサン酸。反応物がまだ利用可能な水素を有する場合は、すでに1つ以上のニトロ置換基を有する反応物のニトロ化も企図される。
【0012】
第1の反応器部分102と第2の反応器部分103はまた、反応物混合と熱伝達を改良するために、及び/又は反応器の容積を変化させるために、それぞれ充填材料109と充填材料110が充填される。反応器の充填は、例えばプロパンニトロ化系が好ましく、ここで生成物流中の2,2-ジニトロプロパンの濃度を上げることが好ましい。適切な充填材料109と110には、例えば、ランダム充填物(例えば、1 1/2" Pall Rings, IMTP(登録商標)、又はCascade Mini-Rings(登録商標))、又は組織化充填物(例えば、蒸留装置中で一般的に使用されるような充填物)がある。他の充填材料は当該分野で公知であり、使用される。
【0013】
第1の反応器部分102は、腐食耐性物質、例えば、チタン、ジルコニウム、又はタンタルを含んでよい。例えば腐食耐性材料はライナーでもよく、これは、第1の反応器部分102中で炭化水素原料104と含水硝酸105a-jが反応する時、これらに曝露される。
【0014】
各流れ105a-j中の含水硝酸の流速を制御するために、流量計111a-jが使用される。含水硝酸流105a-jはまた、含水硝酸流105a-jへの炭化水素原料104の連続的曝露間で異なる時間を与えるように配置される。さらに各含水硝酸流105a-j中の含水硝酸の濃度も変化させられる。含水硝酸流105a-jはまた、第1の反応器部分102に入る前に加熱される。
【0015】
炭化水素原料104は第1の反応器部分102中で含水硝酸流105a-jと連続的に反応して、第1の反応生成物106を与える。第1の反応生成物106は、少なくとも1つのニトロアルカン、例えば2-ニトロプロパンを含む。含水硝酸流105a-jは、炭化水素原料104が第1の反応器部分102中を流れる時、複数の投入口112a-jを介して導入される。第1の反応器部分102は基本的に等温的に作用し、その結果各投入口112a-j間の各反応器部分中の平均温度範囲は、40℃未満、好ましくは30℃未満、さらに好ましくは20℃未満となる。含水硝酸流105a-jはまた、入り口107を介して炭化水素原料104とともに導入される。第1の反応生成物106はさらに、第2の反応器部分103中で残存する含水硝酸と反応して、第2の反応生成物113を与える。第2の反応生成物113は、第1の反応生成物106より多くの所望のニトロアルカン、例えば、2-ニトロプロパンを含む。
【0016】
含水硝酸流105a-jは、少なくとも約10重量%、好ましくは少なくとも約15重量%、さらに好ましくは少なくとも約20重量%の酸を含有する水溶液の形で、第1の反応器部分102に供給される。さらにこの溶液は、約50重量%未満の、好ましくは約40重量%未満の、さらに好ましくは約35重量%未満の、及びさらに好ましくは約30重量%未満の酸を含有する。他の実施態様において硝酸溶液は、約15〜約40重量%の酸を含有する。さらなる実施態様において、硝酸溶液は、約18〜約35重量%の酸を含有する。
【0017】
含水硝酸流105a-j中の炭化水素原料104と含水硝酸のモル比は、少なくとも約0.3:1、さらに好ましくは、少なくとも約0.5:1である。
【0018】
反応器圧力は少なくとも約500psi(34atm)、好ましくは、少なくとも約1000psi(68atm)、さらに好ましくは少なくとも約1200psi(82atm)、そしてさらに好ましくは約1300psi(87atm)である。ある実施態様において圧力は、約1600psi(109atm)又はそれ以下、好ましくは約1500psi(102atm)又はそれ以下、さらに好ましくは約1400psi(95atm)又はそれ以下である。別の実施態様において、圧力は約1000psi(68atm)〜1400psi(95atm)である。例えば、背圧調整器の使用により、圧力を所望の範囲に維持するために、当該分野で公知の種々の方法が使用される。
【0019】
第1の反応器部分102内の反応温度は、少なくとも約140℃より高く約325℃未満になるように制御される(例えば、反応の熱と、硝酸注入の流速、濃度、及び温度とをバランスさせて)。他の実施態様において温度は、少なくとも約215℃〜約325℃未満である。ある実施態様において温度は少なくとも約180℃、少なくとも約200℃、少なくとも約230℃、又は少なくとも約240℃である。他の実施態様において温度は、約290℃未満、約280℃未満、約270℃未満、又は約250℃未満である。さらなる実施態様において温度は、約200〜250℃である。さらに別の実施態様において温度は、約215〜280℃、又は約220〜約270℃である。
【0020】
反応器101中の反応物の全体的滞留時間は、好ましくは、少なくとも約30秒、さらに好ましくは、少なくとも約90秒である。滞留時間は、例えば反応器の長さ及び/もしくは幅、又は充填材料の使用を含む種々の方法により制御される。滞留時間は、反応器の容積を入り口流速で割ることにより決定される。
【0021】
反応器101は、下向構成の反応器でもよい。すなわち、長円形で細長い(例えば、チューブ型)反応器であり、反応物が入り口を通って又は反応器の上部の近くで添加され、次に反応が起き所望の生成物が生成するのに充分な滞留時間の間反応器を流れるように、反応器は配置される。生成物混合物は、出口を通って又は反応器の底の近くで採取される。
【0022】
下向構成の反応器の操作は、一般に水平の、上向の、コイル状の、又はバッチ型のオートクレーブ型の装置を利用する先行技術のシステムに対していくつかの利点を提供する。特に本発明の下向構成は、そのような先行技術のシステムと比較して、比較的低レベルの酸化副産物を含有するニトロ化化合物を提供する。
【0023】
特定の理論に拘束されるつもりはないが、下向反応器の利点は、反応器内の液相の量と滞留時間を最小にする能力により得られると考えられる。一般に液相は、低モル比の炭化水素対硝酸を含む。この低モル比は、ニトロ化を犠牲にして酸化作用を促進し、従って、酸化は主に液相で起きる。下向反応器(細流床反応器とも呼ばれる)では、気体は連続相であり、液体は反応器の壁又は充填物に沿ってしたたる。従って、下向構成反応器中の液相の量は低レベルで維持され、従って酸化作用は最小となる。
【0024】
これに対して、上向反応器(気泡カラムとも呼ばれる)では、液体は連続相である(及び気泡は連続液相に沿って急速に上昇する)。すなわち、上向反応器は、液体の滞留を最大にする。上記したように酸化は主に液相で起きるため、上向反応器は酸化副産物の生成を最大にする。同様に、コイル型及び水平型反応器構成もまた液体の滞留時間を上昇させ、従って下向反応器と比較して酸化作用を上昇させる。コイル型反応器のさらなる欠点は、この形での大規模反応器の作成が困難なため、工業的規模の製造にあまり適していないことである。
【0025】
反応器101中の液体充填速度は、約0.05〜60gpm/ft2(空の塔の断面積1平方フィート当たりの液体流のガロン数)、好ましくは約2〜40gpm/ft2、及びさらに好ましくは約25〜35gpm/ft2である。
【0026】
反応器101中の充填空隙比は、65%より大きく、好ましくは90%より大きく、さらに好ましくは95%より大きい。乾燥充填比表面積は、約10ft2/ft3〜700ft2/ft3である。
【0027】
反応器101に含水硝酸を正確に分配するために、はしご型分配器又は他の気−液コントラクター(例えば噴霧塔)が使用される。
【0028】
第2の反応器部分103は、腐食耐性物質、例えばチタン、ジルコニウム、又はタンタルを含んでよい。例えば腐食耐性材料はライナーでもよく、これは、第1の反応生成物106と残存含水硝酸が反応する時、これらに曝露される。
【実施例】
【0029】
断熱ミキサーと反応器(実施例1〜2)及びラボスケール反応器(実施例3〜6)のコンピューターシミュレーションを使用して種々の例を示す。
【0030】
ラボスケール反応器は単一チューブのシェルアンドチューブ熱交換器であり、反応器の長さに沿って温度プロフィールを測定するために、反応器の中央に沿って軸方向にサーモウェルが位置する。反応器は36インチの長さ(実施例3〜5)と30インチの長さ(実施例6)であり、外径1.25インチの304ステンレスのシェルを有し、このシェルは外径1/2インチ(内径0.37インチ)の2型チタンプロセスチューブと外径1/8インチ(内径0.093インチ)の2型チタンサーモウェルを有する。温度プロフィール測定のために、非常に細い可動性の熱電対がサーモウェルに挿入される。サーモウェルは取り出すことができ、反応器に充填剤を充填できる。反応器は縦に設置される。硝酸とプロパン反応物流は、Swagelok(登録商標)「T」取付具中で室温で混合した後、反応器に入る。反応物への反応器シェル向流に熱油が供給される。反応器流出液(反応生成物)は、シェルアンドチューブ熱交換器で水を冷却液として使用して冷却される。次に流出液は気体で減圧され、液体が採取され、測定、分析される。
【0031】
以下の実施例3〜6では、気体、水溶液、ニトロパラフィン油、及びスクラバー液はGC/MSにより、水分含量はカールフィッシャー力価測定により、強酸/弱酸定量は電位差滴定により、そして弱酸の同定と定量はHPLCにより、ニトロ化反応の物質収支が測定される。
【0032】
後述の表に示す計量値は以下のように計算される:
硝酸変換率(%)=100 ×(流入硝酸−流出硝酸)/流入硝酸;
プロパン変換率(%)=100 ×(流入プロパン−流出プロパン)/流入プロパン;
硝酸収率=消費された硝酸g数/生成したニトロパラフィンg数;
有機物収率=消費されたプロパンと酢酸g数/生成したニトロパラフィンg数;
ニトロメタン選択性(%)=100 × ニトロメタンg数/生成したニトロパラフィンg数;
ニトロエタン選択性(%)=100 × ニトロエタンg数/生成したニトロパラフィンg数;
1-ニトロプロパン選択性(%)=100 × 1-ニトロプロパンg数/生成したニトロパラフィンg数;
2-ニトロプロパン選択性(%)=100 × 2-ニトロプロパンg数/生成したニトロパラフィンg数。
【0033】
消費された硝酸のg数は、供給原料中の硝酸のモル数から反応生成物中の酸化窒素のモル数を引き、次に硝酸の分子量を使用してモル数をグラム数に変換することにより算出される。
ニトロパラフィンのグラム数は、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、及び2-ニトロプロパンを含む。
【0034】
[実施例1:30重量%の硝酸を使用する温度上昇に対する複数の投入口の影響]
プロパンと酢酸を30重量%の含水硝酸と、180℃の反応温度、1300psi(87atm)の反応器圧力、約120秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比が約1.4:1で反応させる。含水硝酸原料は、10個の投入口に均等に分割する。追加の含水硝酸を30℃で加える。原料供給速度を表1に示す。
【表1】

【0035】
表2は、10個の投入口を有する反応器を使用した上記ニトロ化反応の温度と、1個のみの投入口を有する反応器を使用した同じ反応の温度との比較を示す。
【表2】

【0036】
これらの2つのケースは、1個の原料供給点に対して、硝酸原料供給を10個の等しい部分に分割する効果を示している。10投入口反応器の温度はほとんど等温的であり、平均温度範囲は各反応段で16.8℃であり、一方1個の入り口を使用する時の反応段は79.1℃である。追加の投入口(10個を超える)を有する反応器の使用及び/又は各口への硝酸濃度と原料供給温度の改変は、各反応段で温度範囲をさらに小さくするために使用される。
【0037】
表3は、1、3、5、及び10個の投入口と、30重量%の硝酸と上記プロセス条件を使用する時の種々の温度範囲を示す。
【表3】

【0038】
[実施例2:64重量%の硝酸を使用する温度上昇に対する複数の投入口の影響]
プロパンと酢酸を64重量%の含水硝酸と、180℃の反応温度、1300psi(87atm)の反応器圧力、約120秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比が約1.4:1で反応させる。含水硝酸原料は、10個の投入口に均等に分割する。追加の含水硝酸を30℃で加える。原料供給速度を表4に示す。
【表4】

【0039】
本例は、高濃度硝酸を使用する影響を示す。反応の熱と反応物の蒸発熱をバランスさせることが有益であると考えられる。後述のように実施例2は、64重量%の含水硝酸を使用することが、実施例1の30重量%の含水硝酸を使用することと同様に、このバランスを満足させないことを示唆する。
【0040】
表5は、10個の投入口を有する反応器を使用する上記ニトロ化反応と、1個のみの投入口を有する反応器を使用する同じ反応の温度の比較を示す。
【表5】

【0041】
これらの2つのケースは、実施例1より高濃度の含水硝酸を使用する時、1個の原料供給点に対して、10個の等しい口に硝酸原料供給を分割する影響を示している。10個の投入口を有する反応器の温度はほとんど等温的ではなく、反応器の長さにわたって上昇し続ける。各反応段における平均温度範囲は、実施例とほぼ同じである(それぞれ、16.9℃対16.8℃)。しかし含水硝酸のより高濃度のために、反応により得られる熱の正味の量が冷却の量より大きいため、温度は反応器の長さに沿って上昇し続ける。すなわち反応器の出口温度は、10個の投入口の場合は投入口が1個の場合より低い(それぞれ、271.6℃対284.2℃)が、大きな差ではない。
【0042】
表6は、1、3、5、及び10個の投入口と、64重量%の硝酸と上記プロセス条件を使用する時の種々の温度範囲を示す。
【表6】

【0043】
実施例3〜6では1個のみの投入口を使用されるが、小規模のラボスケール反応器、高い表面積対容量比、及び反応器デザインが、温度制御を可能にする。
【0044】
[実施例3:180℃でのプロパンのニトロ化]
プロパンと酢酸を30重量%の含水硝酸と、180℃の反応温度、1400psi(96.7atm)の反応器圧力、約105秒の滞留時間(室温と1400psiでの原料供給の流速により割った反応器の容積に基づく)で反応させる。プロパン対硝酸のモル比は約1.9:1である。供給原料組成と反応生成物組成を、以下の表7に要約する。
【表7】

【0045】
この反応の主要な性能計量値を表8に要約する。
【表8】

【0046】
[実施例4:200℃でのプロパンのニトロ化]
プロパンと酢酸を30重量%の含水硝酸と、200℃の反応温度、1400psi(96.7atm)の反応器圧力、約120秒の滞留時間(室温と1400psiでの原料供給の流速により割った反応器の容積に基づく)で反応させる。プロパン対硝酸のモル比は約1.35:1である。供給原料組成と反応生成物組成を、以下の表9に要約する。
【表9】

【0047】
この反応の主要な性能計量値を表10に要約する。
【表10】

【0048】
[実施例5:235℃でのプロパンのニトロ化]
プロパンと酢酸を30重量%の含水硝酸と、235℃の反応温度、1400psi(96.7atm)の反応器圧力、約120秒の滞留時間(室温と1400psiでの原料供給の流速により割った反応器の容積に基づく)で反応させる。プロパン対硝酸のモル比は約1.35:1である。供給原料組成と反応生成物組成を、以下の表11に要約する。
【表11】

【0049】
この反応の主要な性能計量値を表12に要約する。
【表12】

【0050】
表13は、実施例3〜5からの反応温度180℃、200℃、及び235℃のニトロメタン選択性を要約し、温度を変えることによりニトロメタン選択性が広範囲に制御できることを示す。実施例3〜5はまた、2-ニトロプロパン選択性が反応温度の上昇とともに低下することを示唆する。
【表13】

【0051】
[実施例6:ニトロメタン重量%に対する内部反応器温度の影響]
プロパンと酢酸を、種々の濃度の含水硝酸と、230〜240℃の反応温度、1400psi(96.7atm)の反応器圧力、106〜121秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比は3:1〜4:1で反応させる。生成したニトロメタンの重量%を表14に要約する。
【表14】

【0052】
上記したように高濃度硝酸は、ピーク内部温度と熱油(又は反応)温度とのより大きな差を与える。温度差の上昇の影響は、ニトロメタン生成の増加、すなわち他の所望のニトロアルカン類(例えば、2-ニトロプロパン)の生成の減少である。
【0053】
等温的又はほぼ等温的反応デザインの1つの目標は、所望のニトロアルカンに対する選択性を改良することである。実施例1と2で例示したように、ほぼ等温的反応は、複数の投入口と低濃度の含水硝酸を用いて達成される。実施例3〜5で例示したように、反応温度が上昇するとニトロメタン選択性が上昇する。実施例6で例示したように、含水硝酸濃度が上昇するとニトロメタン生成が上昇する(及び2-ニトロプロパン生成が減少する)。従って、より低濃度の硝酸と複数の投入口を使用することにより、所望のニトロアルカン類(例えば、2-ニトロプロパン)の選択性と生成量が上昇する。
【0054】
好適な実施態様に従って上記で本発明を説明したが、本開示の本質と範囲内で修飾が可能である。すなわち本出願は、本明細書に開示した一般的原理を使用して本発明の任意の変更、利用、又は改変を包含するものである。さらに本出願は、本発明に関する分野の既知のもしくは一般的な慣習内の、かつ以下の請求項の範囲内にある、本開示から展開されるものも包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのニトロアルカンの合成方法であって、以下のステップ:
反応器中で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて反応生成物を生成させ、ここで該炭化水素原料が該反応器の少なくとも一部の中を流れる時、該炭化水素原料は該含水硝酸の複数の流れに連続的に曝露され、そして
該反応生成物から少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのニトロアルカンは、2-ニトロプロパンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素原料は、含水硝酸の5回〜10回の流れに曝露される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器はチタンライナーを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応器はジルコニウムライナーを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応器はタンタルライナーを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器は下向構成である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応器はランダム充填物を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応器は組織化充填物を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記各流れ中の硝酸の流速を制御するために流量計を使用することをさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記含水硝酸への前記炭化水素原料の連続的曝露間で異なる時間を与えるように、前記流れを配置することをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記各流れ中の前記含水硝酸の濃度を制御することをさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応器に入る前に硝酸を加熱することをさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記各流れ中の含水硝酸の濃度は10〜40重量%である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのニトロアルカンの合成方法であって、以下のステップ:
第1の反応器部分中で炭化水素原料に含水硝酸を連続的に反応させて、第1の生成物流を得、ここで該炭化水素原料が第1の反応器部分中を流れる時、該含水硝酸が複数の投入口を介して導入され、
第2の反応器部分中で第1の生成物流と含水硝酸をさらに反応させて、第2の生産物流を得、そして
第2の生成物流から少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、
を含む方法。
【請求項16】
炭化水素をニトロ化するための装置であって、
炭化水素原料を受け取るための入り口と、反応生成物を放出するための出口とを有する反応器と、
該反応器中の充填材料と、
該反応器中の複数の異なる位置で硝酸を導入するための複数の口とを、
含み、ここで、該炭化水素原料が入り口から出口に流れる時、該炭化水素原料が硝酸による連続的反応を受ける、前記装置。
【請求項17】
チタンライナーをさらに含む、請求項16に記載の反応器。
【請求項18】
ジルコニウムライナーをさらに含む、請求項16に記載の反応器。
【請求項19】
前記充填物はランダムである、請求項16〜18のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項20】
前記充填物は組織化されている、請求項16〜18のいずれか1項に記載の反応器。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508364(P2013−508364A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535206(P2012−535206)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048482
【国際公開番号】WO2011/049682
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(591252611)アンガス ケミカル カンパニー (32)
【Fターム(参考)】