説明

炭化水素冷媒用の潤滑油基油

【課題】炭化水素系冷媒を用いた冷却装置の磨耗が少なく、潤滑性に優れた潤滑油基油を提供する。
【解決手段】炭素数1〜8の炭化水素化合物から実質的に成る冷媒用の、潤滑油基油であって、該潤滑油基油が、数平均分子量300〜3200の、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、又はこれらの混合物からなることを特徴とする潤滑油基油。該潤滑油基油は、冷却システムでの摩耗量、冷媒との相溶性、及び体積抵抗率において優れた特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素冷媒用の潤滑油基油、即ち、炭化水素冷媒を用いた冷却機用の潤滑油の基油、及び該基油を含む潤滑油組成物に関し、詳細には、ポリオキシプロピレングリコール及び/又はポリオキシプロピレントリオールからなり、優れた潤滑機能を有する、基油及び該基油を含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮型冷凍機の冷媒としては、ジクロロフルオロメタン等のクロロフルオロカーボンが多く用いられてきたが、クロロフルオロカーボンはオゾン層を破壊するおそれがあることから、水素含有フロン化合物が検討されてきた。しかし、水素含有フロン化合物は、地球温暖化への影響が懸念されている。
【0003】
そこで、このような問題のない、炭化水素系の冷媒の使用が検討されている。しかし、炭化水素系冷媒を使用した場合に、潤滑油として従来使用されている鉱油やアルキルベンゼンを使用すると、炭化水素系冷媒が該潤滑油に完全に溶け込み、該潤滑油の粘度が低下し、潤滑性能が悪くなると共に、冷媒の冷却能が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、鉱油等に代えて、ポリアルキレングリコール誘導体を基油として用いることが知られている(例えば、特許文献1)。さらに、冷凍機が運転される温度範囲では相分離しない、冷媒との相溶性に優れたポリアルキレングリコール誘導体も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−158671号公報
【特許文献2】再公表WO2007/026647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、上記特許文献2にあるように、冷媒と潤滑油は、低温から高温まで幅広い温度範囲内で相分離することなく、系内を循環することが必要であるというのが技術常識であった。該常識は、環境保護に適した冷媒として、注目されている炭化水素、アンモニア、二酸化炭素等のいわゆる自然冷媒であっても同様であり、冷媒と潤滑油は相分離しないことが必要であるとされている。ところが、炭化水素を冷媒に用いた冷却システムにおいて、炭化水素との相溶性がより高い潤滑油を用いても、冷却機、特に圧縮機の磨耗を低減することができないという問題が生じた。そこで、該問題を解決するために、相溶性の異なる潤滑油を用いて種々検討したところ、驚いたことに、相溶性が低い基油を用いた方が、装置の磨耗が少なく、優れた潤滑性を得ることができることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、炭素数1〜8の炭化水素化合物から実質的に成る冷媒用の、潤滑油基油であって、該潤滑油基油が、数平均分子量300〜3200の、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、又はこれらの混合物からなることを特徴とする潤滑油基油である。
また、本発明は、圧縮機、凝縮器、蒸発器および膨張弁を備え、冷媒と潤滑油基油とが封入された冷却システムであって、
冷媒が、炭素数1〜8の炭化水素化合物であって、潤滑油基油として、JIS K2211に従う、冷媒/潤滑油基油(質量比)=80/20での相溶性試験において、90℃から−60℃の温度範囲で二層分離を示すものである、冷却システムである。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の潤滑油基油を用いると、冷却システム、主として圧縮機、における装置の磨耗により潤滑油中に排出される金属粉の量が顕著に低減される。これは、従来の技術常識に反するものである。その理由については不明であるが、冷媒がフルオロカーボンから、ハイドロフルオロカーボンそして、炭化水素への変遷に従い、冷媒の極性が変化しており、冷媒と冷凍機油による冷却システムがもたらす系内の潤滑性が変化すると考えられる。つまり冷媒に応じて、本発明で用いた装置の磨耗量等の直接的且つ明確な指標を用いて、冷凍機油の相溶性と、潤滑性との関係を見直す必要があると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の潤滑基油を使用することができる冷却システムの一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の潤滑基油を使用することができる圧縮機の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の潤滑油基油(以下「基油」という場合がある)は、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、又はこれらの混合物である。但し、プロピレンオキサイドの重合過程で副生成物として生成される少量のモノオールは含んでいてよい。好ましくはポリオキシプロピレングリコールが使用される。ポリオキシプロピレングリコールとポリオキシプロピレントリオールと混合して使用する場合には、粘性、熱安定性の点から、トリオールはグリコールとの合計質量の50%以下であることが好ましい。
【0011】
ポリオキシプロピレングリコール及び/又はトリオールは、開環付加重合触媒の存在下、ポリオキシプロピレングリコールの場合には例えばエチレングリコール、及びプロピレングリコール等を開始剤として、ポリオキシプロピレントリオールの場合にはトリオール、例えばグリセリン等を開始剤として用い、プロピレンオキサイドをアニオン開環付加重合させて、夫々、得ることができる。開環付加重合触媒としては、アルカリ金属化合物触媒、複合金属シアン化物錯体触媒等が挙げられる。アルカリ金属化合物触媒としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩等が挙げられる。好ましくは、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が使用される。
【0012】
開始剤としては、2価もしくは3価のアルコール類、アミン類、フェノール類、これらのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。2価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が、3価アルコールとしてはグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0013】
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類;N−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−アミノメチルピペラジン等の複素環式アミン類;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族アミン類;トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0014】
フェノール類としては、ビスフェノールA、レゾルシノール等が挙げられる。開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記開始剤のうち、2価もしくは3価のアルコール類が好ましく、特に、粘性が低く、熱安定性が良好である点から、プロピレンオキサイドを開環又は付加重合して得られるもの、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。
【0015】
得られる基油は、その数平均分子量が300〜3200であり、好ましくは500〜2000である。数平均分子量が前記下限値以上のものは、冷媒との適度な相溶性を備えることができ、且つ、前記上限値以下のものは、基油として適した動粘度を有する。該分子量範囲は、オキシプロピレン単位の重合度で約5〜約50に相当する。該数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準試料として測定することができる。
【0016】
該基油は、JIS K2211に従い、冷媒/潤滑油基油(質量比)=80/20での相溶性試験において、90℃から−60℃の温度範囲で二層分離を示す。この範囲すべて若しくは一部で冷媒との相溶性がある潤滑油基油は、装置の磨耗量が多く、潤滑効果が十分ではない。従って、本発明は、圧縮機、凝縮器、蒸発器および膨張弁を備え、冷媒と潤滑油基油とが封入された冷却システムであって、冷媒が、炭素数1〜8の炭化水素化合物であって、潤滑油基油として、JIS K2211に従う、冷媒/潤滑油基油(質量比)=80/20での相溶性試験において、90℃から−60℃の温度範囲で二層分離を示すものである、冷却システムも提供する。
【0017】
本発明の基油は、100℃における動粘度が2〜200mm2/sであることが好ましい。動粘度が前記下限値以上のものは、シール性に優れ、冷媒の漏れを発生する危険性が無い。加えて、前記上限値以下のものは、粘性抵抗が小さく、潤滑性に優れる。好ましくは、100℃における動粘度が5〜100mm2/sである。より好ましくは、冷媒/基油の質量比80/20の場合に10mm2/s程度である。
【0018】
さらに、該基油は、体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは6×1010Ω・cm以上、最も好ましくは1×1011Ω・cm以上である。体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上のものは、十分な電機絶縁性を示す。一方、静電気の発生を防ぐ点で、体積抵抗率が、1×1015Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは1×1014Ω・cm以下である。
【0019】
本発明は、上記潤滑油基油と酸化防止剤とを含有する潤滑油組成物にも関する。該組成物は、必要に応じて下記その他の添加剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系の酸化防止剤が挙げられ、具体的にはフェノール系としてはジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等、アミン系としてはコハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(商品名 TINUVIN622 BASF社製)等が挙げられる。その他の添加剤としては、トリクレジルホスフェート(TCP)などのリン酸エステル、又はトリスノニルフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステルなどの極圧剤;フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキサイド、エポキシ化大豆油などの安定剤;ベンゾトリアゾールやその誘導体などの銅不活性化剤;シリコーン油やフッ化シリコーン油などの消泡剤;耐荷重添加剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤等が挙げられる。酸化防止剤の配合量は、基油との合計質量に対し、0.01〜1質量%が好ましい。その他の添加剤の配合量は、通常、基油および酸化防止剤との合計質量に対し、0.5〜10質量%である。
【0020】
本発明において、冷媒は、炭化水素化合物から実質的になる。ここで、用語「実質的」は、不可避的に含まれる不純物を除き、炭化水素のみからなることを意味する。該炭化水素化合物は炭素数が1〜8であり、好ましくは1〜5、さらに好ましくは3〜5である。炭素数が前記範囲内のものは、その沸点が、冷媒としての使用に適している。該炭化水素化合物の例としては、メタン,エタン,エチレン,プロパン,シクロプロパン,プロピレン,n−ブタン,イソブタン,n−ペンタン,イソペンタンなどを挙げることができ、プロピレンまたはプロパンが好ましい。これらの炭化水素化合物は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
本発明の基油もしくは潤滑油組成物の使用量は、冷媒/基油もしくは潤滑油組成物の質量比として、99/1〜10/90の範囲で広く変えることができ、90/10〜50/50の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の基油もしくは潤滑油組成物は、カーエアコン、室内空調機、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機もしくはショーケースの各種給湯システム、冷凍・暖房システム、ガスヒートポンプシステム等、種々の冷却システムに使用することができる。特に、図1に示す圧縮機1、凝縮器2、膨張弁3、蒸発器4を備える、圧縮式冷却システムに好ましく使用され、圧縮機1の摺動部に潤滑性を与える。
【0023】
図2は、圧縮機1の一例である、密閉型回転式圧縮機の縦断面図である。図2において、プロパン等の冷媒は供給管13から供給され、モーター機構11によって駆動される圧縮機構12によって圧縮され、ケーシング10内に一旦吐出された後、吐出管14から凝縮機へと送られる。潤滑油組成物15は、圧縮機構12内の摺動部の摩擦を低減するが、部品の磨耗を完全に防止することは難しく、磨耗により生じた金属粉が潤滑油組成物15内に溜まる。該金属粉の量を測定することによって、潤滑油の潤滑性能を直接的に評価することができる。なお、本発明の潤滑油組成物15が、他の型式の圧縮機、例えば往復式圧縮機においても使用することができることは言うまでもない。
【0024】
次に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
5Lのオートクレーブに、開始剤であるプロピレングリコール400gと、触媒として水酸化カリウム(純度95質量%)12gを添加し、オートクレーブの温度を110℃に昇温し、プロピレンオキサイド3600gを10時間かけて導入した。オートクレーブ内の圧力が一定になり、プロピレンオキサイドが全て反応した事を確認して、内容物を抜き出した。該内容物に、合成ケイ酸マグネシウム(キョーワド600S、協和化学工業社製)を加えて触媒を吸着させた後、不溶物をろ過により除去し、ポリオキシプロピレングリコールを得た。得られたポリオキシプロピレングリコールのGPCにより求めた数平均分子量は580であった。なお、GPCの詳細については後述する。
【実施例2】
【0026】
プロピレングリコールの量を200gに変えたことを除き、実施例1と同様にして、ポリオキシプロピレングリコールを得た。
【実施例3】
【0027】
プロピレングリコール400gをトリプロピレングリコール300g、プロピレンオキサイドの量を3500gに変えたことを除き、実施例1と同様にして、ポリオキシプロピレングリコールを得た。
【実施例4】
【0028】
プロピレングリコールをポリプロピレングリコールに変え、プロピレンオキサイドの量を3000gに変えたことを除き、実施例1と同様にして、ポリオキシプロピレングリコールを得た。
【0029】
<比較例1>
5Lのオートクレーブに粉末状ナトリウムメトキシド162gを添加後、110℃に昇温し、プロピレンオキサイド4350gを10時間かけて導入した。プロピレンオキサイドを導入後圧力一定になりプロピレンオキサイドが全て反応した事を確認して内容物を抜き出した。その後、実施例1と同様に、触媒を除去し、数平均分子量(Mn)1480のポリオキシプロピレンメチルエーテルを得た。
【0030】
<比較例2>
5Lのオートクレーブにn−ブタノール(協和発酵ケミカル社製)を222g、触媒としてtert−ブチルアルコール配位子を有する複合金属シアン化物錯体0.3gを添加した。その後、130℃において、プロピレンオキサイド200gを2時間かけて導入して、初期活性を起こした後、130℃においてプロピレンオキサイド3976gを6時間かけて導入後、圧力一定になりプロピレンオキサイドが全て反応した事を確認して内容物を抜き出し、数平均分子量(Mn)1470のポリオキシプロピレンブチルエーテルを得た。
【0031】
<比較例3>
5Lのオートクレーブに2-エチルヘキシルアルコール(協和発酵ケミカル社製)を520g、触媒として水酸化カリウム(純度95質量%)14.8gを添加し、100℃で1時間減圧処理を行い、水分を除去しながらアルコラート化した。次いで、オートクレーブの温度を110℃に昇温し、プロピレンオキサイド4176gを10時間かけて導入した。オートクレーブ内の圧力が一定になり、プロピレンオキサイドが全て反応した事を確認して、内容物を抜き出した。該内容物に、合成ケイ酸マグネシウム(キョーワド600S、協和化学工業社製)を加えて触媒を吸着させた後、不溶物をろ過により除去した。得られたポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテルは数平均分子量(Mn)が1170であった。
【0032】
<比較例4>
オクタデシルアルコール(カルコール8098、花王社製)540gを用い、水酸化カリウム9.8gを添加して120℃で1時間減圧処理を行った後、プロピレンオキサイド2552gを添加したことを除き、比較例3と同様にして、数平均分子量(Mn)1550のポリオキシプロピレンオクタデシルエーテルを得た。
【0033】
<比較例5>
5Lのオートクレーブにプロピレングリコールを304g、触媒として水酸化カリウム(純度95質量%)12.3gを添加し、昇温後、110℃においてプロピレンオキサイド2552gとエチレンオキサイド1232gを10時間かけて導入した。圧力一定になりプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドが全て反応した事を確認して内容物を抜き出した。実施例1と同様に触媒を除去し、数平均分子量(Mn)1022のポリオキシ(プロピレン/エチレン)グリコールを得た。
【0034】
<比較例6>
5Lのオートクレーブに28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液を500g添加し、110℃に昇温後、プロピレンオキサイド2007gを4時間かけて導入した。圧力一定になった後、80℃に冷却し460gのパール状水酸化ナトリウムを添加した。120℃で1時間減圧処理を行い、水分を除去しながらアルコラート化した。その後塩化メチルを700g3時間かけて導入し、3時間熟成を行った。熟成後80℃に冷却し、リン酸800gを加えて中和させたのち、蒸留水を500g入れて中和塩を分離した。次に、合成ケイ酸マグネシウム(キョーワド600S、協和化学工業社製)を加えて、触媒を吸着させた後、不溶物をろ過により除去し、数平均分子量(Mn)191のプロピレングリコールジメチルエーテルを得た。
【0035】
<比較例7>
基油として、市販の鉱油(SUNISO 5GS、日本サン石油株式会社製)を用いた。
【0036】
<比較例8>
基油として、市販のポリオールエステル(モービルEALアークティック68、 エクソンモービル有限会社製)を用いた。
【0037】
上記各基油を、以下の方法で評価した。結果を表1及び2に示す。なお、これらの表において、POはプロピレンオキサイドを、EOはエチレンオキサイドを表わし、括弧内の数値は、数平均分子量から算出したモノマーの平均付加モル数である。
<分子量>
下記条件で基油のGPC測定を行い、数平均分子量(Mn)を求めた。
[GPC測定条件]
使用機種:HLC−8220GPC(東ソー社製)
データ処理装置:SC-8020(東ソー社製)
使用カラム:TSG gel G2500H(東ソー社製)
カラム温度:40℃、検出器:RI、溶媒:テトロヒドロフラン、流速0.6ml/分
試料濃度:0.25質量%、注入量:10μl
検量線作成用標準サンプル:ポリスチレン([Easical]PS−2[Polystyrene Standards]、Polymer Laboratories社製)
【0038】
<冷媒との相溶性>
JIS K2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に基づいて、基油20質量%と冷媒(プロパン)80質量%の混合物を、恒温槽中で、室温から−60℃まで徐々に冷却して相分離が始まる温度、及び、室温から+90℃まで徐々に昇温して相分離が始まる温度を、夫々、光学センサーを用いて測定した。なお、表中、「部分相溶」はこの条件下(−60℃から90℃迄)で、部分的に相分離が観察されたことを、「完全相溶」は常に溶解していたことを、「非相溶」は常に二層分離していたことを表す。
【0039】
<動粘度>
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて、温度40℃及び100℃の動粘度(mm2/s)を測定した。
【0040】
<磨耗量>
図2に示すような圧縮機を有する圧縮型冷却システムに、冷媒としてプロパンと各実施例及び比較例の基油を、プロパン/基油=80/20質量%の割合で封入し、100時間連続運転をした後、圧縮機中の基油を回収し、該基油中の固形分を300メッシュ金網を用いたろ過により分離して、定量した。該固形分は圧縮機内の部品の磨耗により析出した金属分であり、該量が少ない程、潤滑性が優れることを示す。なお、酸化防止剤の磨耗量に対する影響は無視できると考えられるので、本評価では添加しなかった。
【0041】
<体積抵抗率>
JIS C2101「電気絶縁油」の「体積抵抗率試験方法」に基づいて、基油の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
【0042】
【表1】

【表2】

【0043】
表2に示すように、冷媒との相溶性が高い基油は(比較例1〜4、6〜8)は、いずれも表1に示す実施例の基油に比べて、磨耗量が多かった。主鎖中にポリオキシエチレンを含むもの(比較例5)は、相溶性が低く磨耗量も少なかったが、体積低効率が低く、炭化水素系冷媒用には不適であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の潤滑油基油は、炭化水素系冷媒を用いた冷却システムでの装置の磨耗を防ぎ、潤滑油として有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧縮機
2 凝縮器
3 膨張弁
4 蒸発器
10 ケーシング
11 モーター機構
12 圧縮機構
13 供給管
14 吐出管
15 潤滑油組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜8の炭化水素化合物から実質的に成る冷媒用の、潤滑油基油であって、該潤滑油基油が、数平均分子量300〜3200の、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、又はこれらの混合物からなることを特徴とする潤滑油基油。
【請求項2】
100℃における動粘度が2〜200mm/sである、請求項1に記載の潤滑油基油。
【請求項3】
前記冷媒がプロパンである、請求項1又は2に記載の潤滑油基油。
【請求項4】
前記冷媒がプロピレンである、請求項1又は2に記載の潤滑油基油。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑油基油と酸化防止剤とを含む、潤滑油組成物。
【請求項6】
カーエアコン、室内空調機、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機もしくはショーケースの給湯システム、冷凍・暖房システム、又はガスヒートポンプシステムに用いられる、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
圧縮機、凝縮器、蒸発器および膨張弁を備え、冷媒と潤滑油基油とが封入された冷却システムであって、
冷媒が、炭素数1〜8の炭化水素化合物であって、潤滑油基油として、JIS K2211に従う、冷媒/潤滑油基油(質量比)=80/20での相溶性試験において、90℃から−60℃の温度範囲で二層分離を示すものである、冷却システム。
【請求項8】
前記潤滑油基油が、数平均分子量300〜3200の、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、又はこれらの混合物からなる、請求項7に記載の、冷却システム。
【請求項9】
前記冷却システムが、カーエアコン、室内空調機、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機もしくはショーケースの給湯システム、冷凍・暖房システム、又はガスヒートポンプシステムである、請求項7または8に記載の冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233091(P2012−233091A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102845(P2011−102845)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】