説明

炭化水素系重質原料の改質装置

【課題】過剰な熱分解を抑制して、軽質油の収率を向上させることにある。
【解決手段】重質油W(炭化水素系重質原料)の一部を燃焼させることによって加熱すると共に、重質油Wのガス化を行うガス化部3と、重質油Wを収容すると共に、ガス化部3から供給される熱のうち第1熱交換器10で調整した後の熱を受けることにより内部の温度をガス化部3の温度より低い1次分解温度に維持する1次熱分解部1と、この1次熱分解部1で重質油Wから分離された軽質成分を収容すると共に、ガス化部3から供給される熱のうち第1熱交換器10及び第2熱交換器20で調整した後の熱を受けることにより内部の温度をガス化部3の温度より低くかつ1次分解温度より高い2次分解温度に維持する2次熱分解部2とを備えた構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製において生じた蒸留残渣等の重質油、オイルシェール等の天然重質油、プラスチック廃棄物、石炭、コールタール等の炭化水素系重質原料を改質処理する炭化水素系重質原料に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の炭化水素系重質原料の改質装置としては、例えば高温ガスの熱を利用したものとして下記特許文献1に示すものが知られている。
この改質装置は、超臨界水雰囲気中で炭化水素系重質原料を燃焼させることによって生じた高温ガスの熱を利用して、順次供給される炭化水素系重質原料の予熱および加熱を行うことにより、当該炭化水素系重質原料のガス化、軽質油化等を行うようになっている。
したがって、高温ガスの熱を利用して、効率よく炭化水素系重質原料の改質を行うことができる利点がある。
【特許文献1】特開2003−139244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記炭化水素系重質原料の改質装置においては、炭化水素系重質原料が熱分解によって軽質化されながら、順次高温のガス化領域に移動するため、温度の高い領域では過剰に熱分解され軽質化されすぎることになる。このため、ガス成分が多くなってしまい、中間留分としての灯油や軽油等の基材となる軽質油の収率を上げるのが難しいという問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、過剰な熱分解を抑制して、軽質油の収率を向上させることのできる炭化水素系重質原料の改質装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、炭化水素系重質原料の一部を燃焼させることによって加熱すると共に、当該炭化水素系重質原料のガス化を行うガス化部と、炭化水素系重質原料を収容すると共に、上記ガス化部から供給される熱のうち第1熱交換器で調整した後の熱を受けることにより内部の温度を上記ガス化部の温度より低い1次分解温度に維持する1次熱分解部と、この1次熱分解部で炭化水素系重質原料から分離された軽質成分を収容すると共に、上記ガス化部から供給される熱のうち上記第1熱交換器及び第2熱交換器で調整した後の熱を受けることにより内部の温度を上記ガス化部の温度より低くかつ上記1次分解温度より高い2次分解温度に維持する2次熱分解部とを備えていることを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記1次熱分解部は、反応容器内における上下方向の途中に位置し、当該反応容器外から供給される炭化水素系重質原料を収容する熱分解容器を備えており、上記ガス化部は、上記反応容器内の下端部に位置し、上記1次熱分解部から流出する炭化水素系重質原料を上記下端部に収容すると共に、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて炭化水素系重質原料を一部燃焼によりガス化するようになっており、上記2次熱分解部は、上記反応容器内の上記1次熱分解部の上方に位置し、当該1次熱分解部から上方に移動する上記軽質成分及び上記ガス化部から上記1次熱分解部の上方に移動する高温ガスを収容するようになっており、上記第1熱交換器は、上記熱分解容器の外面に沿うように配置され、上記ガス化部及び上記高温ガスから上記1次熱分解部に供給される熱の一部を吸収することにより、当該1次熱分解部の内部の温度を上記1次分解温度に維持するようになっており、上記第2熱交換器は、上記反応容器内における上記ガス化部と上記2次熱分解部との間に配置され、上記ガス化部から上記2次熱分解部内に流入する高温ガスの熱の一部及び上記ガス化部から2次熱分解部に供給される熱の一部を上記第1熱交換器と共同して吸収することにより、当該2次熱分解部の内部の温度を上記2次分解温度に維持するようになっており、上記反応容器の上端部には、上記2次熱分解部で軽質成分を改質した後の改質生成物を回収する回収口が設けられていることを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記第1熱交換器内を通ることにより上記ガス化部及び上記高温ガスから上記1次熱分解部に供給される熱の一部を吸収して水蒸気となった冷却水を、上記1次熱分解部内に収容された炭化水素系重質原料中に供給するようになっていることを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明において、上記熱分解容器には、当該熱分解容器内における炭化水素系重質原料の最高液面位置から当該炭化水素系重質原料をガス化部に流下させる液面調整管路が設けられていることを特徴としている。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記ガス化部は、反応容器内における上下方向の途中に位置し、当該反応容器外から供給される少なくとも炭化水素系重質原料、酸化剤及び水を受けて当該炭化水素系重質原料を一部燃焼によりガス化する閉じられた構造のガス化容器を備えており、上記第1熱交換器及び上記第2熱交換器は、上記ガス化容器から排出される高温ガスの熱の一部を冷却水によって吸収するようになっており、上記1次熱分解部は、上記反応容器内の下端部に位置し、当該反応容器外から供給される炭化水素系重質原料を上記下端部に収容すると共に、上記第1熱交換器で加熱されて水蒸気となった冷却水を炭化水素系重質原料内に注入することにより、上記1次分解温度を維持するようになっており、上記2次熱分解部は、上記反応容器内の上記1次熱分解部の上方に位置し、上記1次熱分解部から上方に移動する上記軽質成分を収容すると共に、上記ガス化容器から排出され上記第1熱交換器及び上記第2熱交換器を通過後上記1次熱分解部の上端から上方に流出する高温ガスを収容することにより、上記2次分解温度を維持するようになっており、上記反応容器の上端部には、2次熱分解部で軽質成分を改質した後の改質生成物を回収する回収口が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れかに記載の発明において、上記1次分解温度は、380〜450℃であり、上記2次分解温度は、450〜550℃であり、ガス化部の雰囲気温度は、800から1200℃であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成された請求項1〜6に記載の発明によれば、ガス化部から供給される熱を第1熱交換器で調整することにより、1次分解温度を、ガス化部の温度より低いある特定の狭い温度範囲内に安定的に制御することができる。また、2次分解温度についても、ガス化部から供給される熱を第1熱交換器及び第2熱交換器で調整することにより、ガス化部の温度より低く、かつ1次分解温度より高いある特定の狭い温度範囲内に安定的に制御することができる。即ち、種々の炭化水素系重質原料の特性に応じた1次分解温度及び2次分解温度を選定することができる。
【0012】
このため、1次熱分解部において炭化水素系重質原料が過度に熱分解されるのを防止することができ、また2次熱分解部においても、軽質成分が過度に熱分解されるのを防止することができるので、灯油や軽油等の基材となる軽質油を多く含む改質生成物を得ることができる。即ち、軽質油の収率を向上させることができる。
【0013】
また、1次分解温度及び2次分解温度を第1熱交換器及び第2熱交換器によって制御しているので、当該第1熱交換器及び第2熱交換器で吸収した熱をエネルギ源として利用することができる。従って、炭化水素系重質原料の改質装置及びその周辺の設備全体のエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、ガス化部において、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて、炭化水素系重質原料を一部燃焼(即ち、炭化水素系重質原料を完全燃焼させる理論酸素量より少ない酸素量の下で行う不完全燃焼)により高温ガスを発生させているので、このガス化により、H2、CH4、CO等の有用ガスを発生させることができる。
【0015】
更に、上記COについては、反応容器内を水蒸気の亜臨界(高圧水蒸気)あるいは超臨界の雰囲気状態まで加熱及び加圧した場合に、次の式(1)で示す反応により、水素が活発に生じる。即ち、COは、水素の発生に寄与することができる。
CO+H2O→CO2+H2 …(1)
【0016】
しかも、一部燃焼によって発生したH2、CH4、CO等は、燃料電池やガスタービンなどに利用可能な有用な燃料の基材となる改質生成物として回収口から回収することもできる。
【0017】
更に、ガス化部に供給する例えば空気や酸素等の酸化剤の供給量を調整することにより、炭化水素系重質原料の燃焼を抑制して、ガス化部の温度をある一定の範囲に安定的に制御することができる。
【0018】
また、1次熱分解部は炭化水素系重質原料を収容する熱分解容器を有し、第1熱交換器は熱分解容器の外面に沿うように配置され高温ガス等からの熱を吸収するようになっているので、1次分解温度を特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0019】
更に、2次熱分解部は反応容器内の1次熱分解部の上方に位置し、当該1次熱分解部から上方に移動する軽質成分及びガス化部から上方に移動する高温ガスを収容するようになっており、第2熱交換器は反応容器内におけるガス化部と2次熱分解部との間に配置され、ガス化部から2次熱分解部内に流入する高温ガスの熱の一部及びガス化部から2次熱分解部に供給される熱の一部を第1熱交換器と共同して吸収するようになっているので、2次分解温度を特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、第1熱交換器を通って水蒸気となった冷却水を1次熱分解部内に収容された炭化水素系重質原料中に供給しているので、上記水蒸気によって、炭化水素系重質原料を加熱することができると共に、当該炭化水素系重質原料を充分に撹拌することができる。従って、1次熱分解部内に蓄えられた炭化水素系重質原料の全体を1次分解温度にほぼ均一に加熱することができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、熱分解容器内における炭化水素系重質原料の最高液面位置から当該炭化水素系重質原料をガス化部に流下させる液面調整管路が設けられているので、炭化水素系重質原料を1次熱分解部に一定時間滞留させた後、当該1次熱分解部から排出することができる。従って、炭化水素系重質原料が1次熱分解部において過度に熱分解されるのを防止することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、ガス化部において、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて、炭化水素系重質原料を一部燃焼によりガス化するようになっているので、請求項2に記載の発明と同様にH2、CH4、CO等の有用ガスを発生させることができると共に、ガス化部の温度をある一定の範囲に安定的に制御することができる。
【0023】
また、ガス化部がガス化容器によって閉じられた空間を構成するようになっているので、当該ガス化部で発生した高温ガスの熱量のうち一定の熱量を第1熱交換器及び第2熱交換器を介して冷却水側に移動させることができる。
【0024】
そして、1次熱分解部に収容された炭化水素系重質原料には第1熱交換器で加熱されて水蒸気となった冷却水であって、上述のように熱量が制御された冷却水を注入するようになっているので、1次分解温度を特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0025】
また、2次熱分解部にはガス化部で熱量が制御された高温ガスであって、第1熱交換器及び第2熱交換器で更に熱量が制御された後の高温ガスが1次熱分解部の上端から上方に流入することになるので、2次分解温度を特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、1次分解温度が380〜450℃であるので、炭化水素系重質原料から沸点の比較的低い軽質成分を熱分解により取り出すことができる。この場合、1次分解温度が380℃以上であるので、充分な量の軽質成分を取り出すことができる。また、1次分解温度が450℃以下であるので、炭化水素系重質原料に含有されている硫黄、窒素、種々の金属等の不純物や、コークスの発生しやすい成分が軽質成分に混入する割合を低減することができる。
【0027】
そして、1次熱分解部で分離した軽質成分を2次熱分解部に移行させることにより、当該軽質成分をさらに熱分解して軽質化した改質生成物を得ることができる。この場合、2次分解温度が450℃以上であるので、軽質成分の軽質化、脱硫等の改質がなされた改質生成物を得ることができる。従って、灯油や軽油等の基材となる価値の高い軽質油を多く含む改質生成物を得ることができる。
【0028】
また、2次分解温度が550℃以下であるので、軽質成分におけるコーキングの発生を充分抑えることができる。なお、このコーキングの発生については、上述した1次熱分解部においてコークスの発生しやすい成分が軽質成分に混入する割合が低減されていることからも、抑えることができる。従って、上述した不純物及びコークスの極めて少ない改質生成物を得ることができる。
【0029】
更に、ガス化部の温度が800〜1200℃であるので、十分な量の有用ガスを発生させることができると共に、ガス化部を囲むべく構成する部材に耐熱不足や耐用期間の低下等の問題が生じるのを防止することができる。即ち、ガス化部の温度が800℃未満であると、酸化反応速度が十分でなく、未反応の残渣が残りやすくなるからであり、1200℃を超えると、ガス化部を構成する部材に耐熱不足や耐用期間の低下等の問題が生じるおそれがあるからである。
【0030】
なお、1次分解温度、2次分解温度及びガス化部の温度は、上述した380〜450℃、450〜550℃及び800〜1200℃のそれぞれの温度範囲より極めて狭い特定の温度範囲に制御することができ、種々の炭化水素系重質原料の種類に応じた最適な温度で、炭化水素系重質原料及び軽質成分の改質を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1の実施の形態)
本発明を実施するための最良の形態としての第1の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
この第1の実施の形態で示す炭化水素系重質原料の改質装置は、図1に示すように、重質油(炭化水素系重質原料)Wに対して軽質化を伴う改質処理を行うものであり、重質油Wの一部を燃焼させることによって加熱すると共に、当該重質油Wのガス化を行うガス化部3と、重質油Wを収容すると共に、ガス化部3から供給される熱のうち第1熱交換器10で調整した後の熱を受けることにより内部の温度を上記ガス化部3の温度より低い1次分解温度に維持する1次熱分解部1と、この1次熱分解部1で重質油Wから分離された軽質成分を収容すると共に、上記ガス化部3から供給される熱のうち第1熱交換器10及び第2熱交換器20で調整した後の熱を受けることにより内部の温度をガス化部3の温度より低くかつ1次分解温度より高い2次分解温度に維持する2次熱分解部2とを備えている。また、重質油Wは、この例では石油精製設備において減圧蒸留した後のアスファルトに相当するものを示している。
【0033】
1次熱分解部1は、反応容器4内における上下方向の途中に配置された重質油Wを収容する熱分解容器11を備えた構成になっている。反応容器4は、上下方向に長い円筒状の側壁部4aを有し、当該側壁部4aの上下の各端部がそれぞれ底板部4b及び天板部4cによって閉じられた構造になっている。また、反応容器4は、耐熱性を有する断熱性素材によって構成されている。
【0034】
熱分解容器11は、円筒状の周壁部11aと、当該周壁部11aの下端部を覆う底板部11bとを有し、開口部を上方に向けた状態で、反応容器4の軸心部に配置されている。また、熱分解容器11には、底板部11bの軸心部を上下に貫通するようにして円筒状の液面調整管(液面調整管路)11cが設けられ、液面調整管11cの下端部に仕切板11dが設けられている。
【0035】
液面調整管11cは、熱分解容器11内に供給された重質油Wの最高液面位置から当該重質油Wをガス化部3に流下させることによって、上記最高液面位置を一定に維持するようになっている。
また、反応容器4の天板部4cには、熱分解容器11における周壁部11aと液面調整管11cとの間に重質油Wを滴下させるノズル41が設けられていると共に、2次熱分解部2で軽質成分を改質した後の改質生成物を回収する回収口42が設けられている。
【0036】
仕切板11dは、液面調整管11cから半径方向外側に円板状に広がるように形成されており、反応容器4と同軸状の位置にあって熱分解容器11の底板部11bを超える広がりを有すると共に、ガス化部3の上端を画する位置に配置されている。この仕切板11dは、耐熱性を有する断熱性素材で構成されている。
【0037】
ガス化部3は、反応容器4内の下端部であって仕切板11dの下側に位置し、1次熱分解部1から液面調整管11cを通って流出する重質油Wを底板部4b上に収容すると共に、1つ又は複数の燃焼用ノズル3aから酸化剤及び水の供給を受けて底板部4b上に溜まった重質油Wを一部燃焼によりガス化するようになっている。
【0038】
各燃焼用ノズル3aは、反応容器4の側壁部4aに設けられており、酸化剤及び水を底板部4b上の重質油Wに向けて噴出するようになっている。なお、燃焼用ノズル3aからは、酸化剤及び水に加えて燃焼が容易な燃料を供給してもよい。酸化剤としては、酸素、空気等が用いられる。
【0039】
2次熱分解部2は、反応容器4内における1次熱分解部1の上方に位置し、当該1次熱分解部1から上方に移動する上記軽質成分及びガス化部3から仕切板11dの周囲を通り、更に1次熱分解部1の周囲を通って当該1次熱分解部1の上方に移動する高温ガスを収容するようになっている。また、2次熱分解部2には、水憤ノズル2aから水が噴射されるようになっている。水憤ノズル2aは、反応容器4の側壁部4aに設けられており、高温の水蒸気となった水を、2次熱分解部2の下方位置から上方に向けて噴出するようになっている。
【0040】
第1熱交換器10は、熱分解容器11の周壁部11a及び底板部11bの外面に沿うように配置されていると共に、液面調整管11cの外面に沿うように配置された伝熱管を備えたもので構成されており、ガス化部3及び高温ガスから1次熱分解部1に供給される熱の一部を吸収することにより、当該1次熱分解部1の内部の温度(即ち、重質油Wの温度)を1次分解温度に維持するようになっている。
【0041】
また、第1熱交換器10は、その伝熱管の端部が底板部11bに連結されることによって当該熱分解容器11内に連通しており、当該伝熱管内でガス化部3及び高温ガスから熱を受けて水蒸気となった冷却水が重質油W中に下方から供給されるようになっている。従って、重質油Wの温度は、冷却水によっても制御され、上述した1次分解温度に維持されることになる。
【0042】
第2熱交換器20は、反応容器4内におけるガス化部3と2次熱分解部2との間における反応容器4の側壁部4aに沿う高温ガスの通路に配置された伝熱管を備えたもので構成されており、ガス化部3から2次熱分解部2内に流入する高温ガスの熱の一部及びガス化部3から2次熱分解部2に供給される熱(例えば放射熱)の一部を第1熱交換器10と共同して吸収することにより、2次熱分解部2内の温度を2次分解温度に維持するようになっている。なお、2次熱分解部2内の温度は、水憤ノズル2aから噴出される水によっても、2次分解温度に制御されるようになっている。
【0043】
第2熱交換器20の伝熱管内を通って加熱され例えば水蒸気となった冷却水は、ノズル41から滴下させる重質油Wの予熱や、ガス化部3に供給される酸化剤、水、燃料などの予熱や、水憤ノズル2aから噴出する水の予熱や、その他の関連設備のエネルギ源としてに有効に使われるようになっている。
【0044】
また、上記1次分解温度は、380〜450℃に制御され、上記2次分解温度は、450〜550℃に制御され、ガス化部3の雰囲気温度は、800から1200℃に制御されるようになっている。
【0045】
このように、反応容器4内は、高圧水蒸気あるいは超臨界水の高温高圧状態になる。ただし、反応容器4を囲むように図示しない圧力容器を設け、この圧力容器と反応容器4との間に、例えば水蒸気を供給し、この水蒸気の圧力を反応容器4内の圧力と同程度の圧力に制御することにより、内圧を保持するための強度を反応容器4にもたせる必要のない構造になっている。これにより、反応容器4については、強度の低い安価な耐熱性材料で構成することが可能である。
【0046】
上記のように構成された炭化水素系重質原料の改質装置においては、ガス化部3において、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて、重質油Wを一部燃焼(即ち、不完全燃焼)により高温ガスを発生させているので、このガス化により、H2、CH4、CO等の有用ガスを発生させることができる。
【0047】
更に、上記COについては、反応容器4内を水蒸気の亜臨界あるいは超臨界の雰囲気状態まで加熱及び加圧することにより、上述した式(1)に示す反応により、水素が活発に生じる。即ち、COは、水素の発生に寄与することができる。
【0048】
ここで発生したH2は、活性度が高いことから、重質油Wに含まれている通常の水素では分解し得ない硫黄の芳香環化合物であるチオフェン系硫黄、例えばジベンゾチオフェン(DBT)、ジメチルジベンゾチオフェン等を硫化水素(H2S)に転換することができる。従って、例えば2次熱分解部2に移動した軽質成分を上記水素で改質することができるので、硫黄分の少ない改質生成物を得ることができると共に、当該改質生成物を回収口42から回収することができる。
【0049】
しかも、一部燃焼によって発生したH2、CH4、CO等は、燃料電池やガスタービンなどに利用可能な有用な燃料の基材となる改質生成物として回収口42から回収することができる。
【0050】
更に、ガス化部3に供給する例えば空気や酸素等の酸化剤の供給量を調整することにより、重質油Wの燃焼を抑制して、ガス化部3の温度を800〜1200℃の範囲のある一定の狭い範囲の温度に安定的に制御することができる。
【0051】
また、1次熱分解部1は重質油Wを収容する熱分解容器11を有し、第1熱交換器10は熱分解容器11や液面調整管11cの外面に沿うように配置された伝熱管を有し、当該伝熱管で加熱されて水蒸気となった冷却水を重質油W中に注入するようになっているので、1次分解温度を、380〜450℃の温度範囲のうちの特定の狭い温度範囲内に安定的に制御することができる。
【0052】
更に、2次熱分解部2は反応容器4内の1次熱分解部1の上方に位置し、当該1次熱分解部1から上方に移動する軽質成分及びガス化部3から上方に移動する高温ガスを収容するようになっており、第2熱交換器20は反応容器4内におけるガス化部3と2次熱分解部2との間に配置され、ガス化部3から2次熱分解部2内に流入する高温ガスの熱の一部及びガス化部3から2次熱分解部2に供給される熱の一部を第1熱交換器10と共同して吸収するようになっており、更に水憤ノズル2aは加熱されて水蒸気となった水を2次熱分解部2内に供給するようになっているので、2次分解温度を450〜550℃の温度範囲のうちの特定の狭い温度範囲内に安定的に制御することができる。
【0053】
このため、1次熱分解部1において重質油Wが過度に熱分解されるのを防止することができ、また2次熱分解部2においても、軽質成分が過度に熱分解されるのを防止することができるので、灯油や軽油等の基材となる軽質油を多く含む改質生成物を得ることができる。即ち、軽質油の収率を向上させることができる。
【0054】
また、1次分解温度及び2次分解温度を第1熱交換器10及び第2熱交換器20によって制御しているので、当該第1熱交換器10及び第2熱交換器20で吸収した熱をエネルギ源として利用することができる。従って、重質油Wの改質装置及びその周辺の設備全体のエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0055】
一方、1次分解温度が380〜450℃であるので、重質油Wから沸点の比較的低い軽質成分を熱分解により取り出すことができる。この場合、1次分解温度が380℃以上であるので、充分な量の軽質成分を取り出すことができる。また、1次分解温度が500℃以下であるので、重質油Wに含有されている硫黄、窒素、種々の金属等の不純物や、コークスの発生しやすい成分が軽質成分に混入する割合を低減することができる。
【0056】
そして、1次熱分解部1で分離した軽質成分を2次熱分解部2に移行させることにより、当該軽質成分をさらに熱分解して軽質化した改質生成物を得ることができる。この場合、2次分解温度が450℃以上であるので、軽質成分の軽質化、脱硫等の改質がなされた改質生成物を得ることができる。従って、この点からも灯油や軽油等の基材となる価値の高い軽質油を多く含む改質生成物を得ることができる。
【0057】
また、2次分解温度が550℃以下であるので、軽質成分におけるコーキングの発生を充分抑えることができる。なお、このコーキングの発生については、上述した1次熱分解部1においてコークスの発生しやすい成分が軽質成分に混入する割合が低減されていることからも、抑えることができる。従って、上述した不純物及びコークスの極めて少ない改質生成物を得ることができる。
【0058】
更に、ガス化部3の温度が800〜1200℃であるので、十分な量の有用ガスを発生させることができると共に、ガス化部3を構成する反応容器4に耐熱不足や耐用期間の低下等の問題が生じるのを防止することができる。即ち、ガス化部3の温度が800℃未満であると、酸化反応速度が十分でなく、未反応の残渣が残りやすくなるからであり、1200℃を超えると、ガス化部3を構成する反応容器4の耐熱不足や耐用期間の低下等の問題が生じるおそれがあるからである。
【0059】
また、第1熱交換器10の伝熱管を通って水蒸気となった冷却水を1次熱分解部1内の重質油W中に下方から供給しているので、水蒸気によって、当該重質油Wを充分に撹拌することができる。従って、1次熱分解部1内に蓄えられた重質油Wの全体を1次分解温度にほぼ均一に加熱することができる。
【0060】
更に、熱分解容器11内における重質油Wの最高液面位置から当該重質油Wをガス化部3に流下させる液面調整管11cが設けられているので、重質油Wを1次熱分解部1に一定時間滞留させた後、当該1次熱分解部1から排出することができる。従って、重質油Wが1次熱分解部1において過度に熱分解されるのを防止することができる。
【0061】
{発明を実施するための異なる形態}
【0062】
次に、本発明を実施するための異なる形態としての第2の実施の形態について図2を参照しながら説明する。ただし、第1の実施の形態で示し構成要素と共通する要素には同一の符号を付して説明する。
【0063】
(第2の実施の形態)
【0064】
この第2の実施の形態で示す炭化水素系重質原料の改質装置におけるガス化部3は、反応容器4内における上下方向の途中に位置するガス化容器31を備えている。ガス化容器31は、上下方向に長い円筒状の側壁部31aを有し、当該側壁部31aの上下の各端部がそれぞれ底板部31b及び天板部31cによって閉じられた構造になっている。このガス化容器31は、耐熱性を有する断熱性素材によって構成されている。
【0065】
また、ガス化容器31は、反応容器4の軸心部に当該反応容器4と同軸状に設けられており、当該ガス化容器31の軸心部には、天板部31cから円筒管31dが垂下するように設けられている。そして、反応容器4の天板部4c及びガス化容器31の天板部31cを貫通して円筒管31d内に達するように、重質油供給管32及び酸化剤供給管33が設けられている。
【0066】
重質油供給管32は、重質油Wと水を、円筒管31dを介してガス化容器31内に供給するようになっており、酸化剤供給管33は、酸素や空気等の酸化剤を、円筒管31dを介してガス化容器31内に供給するようになっている。重質油供給管32から供給された重質油Wは、酸化剤によって一部燃焼しながら降下し、未燃焼分が底板部31b上に蓄えられるようになっている。なお、重質油供給管32からは、重質油W及び水に加えて燃焼が容易な燃料を供給してもよい。
【0067】
また、ガス化容器31には、酸素、空気等の酸化剤及び水を底板部31b上の重質油Wに向けて噴出することにより、当該重質油Wを一部燃焼によりガス化する1つ又は複数の燃焼用ノズル31eが側壁部31aに設けられている。なお、燃焼用ノズル31eからは、酸化剤及び水に加えて燃焼が容易な燃料を供給してもよい。
【0068】
更に、ガス化容器31の天板部31cには、当該ガス化容器31内で発生した高温ガスを排出するガス排出口31fが設けられている。
【0069】
第1熱交換器10及び第2熱交換器20は、ガス排出口31fに連結されたガス排出管34を介して直列に連結されており、ガス化容器31から排出される高温ガスの熱の一部を冷却水によって吸収するようになっている。なお、ガス排出管34には、ガス排出口31fに近い側に第2熱交換器20が連結されている。
【0070】
1次熱分解部1は、反応容器4内の下端部に位置し、当該反応容器4外から供給される重質油Wを底板部4b上に収容するようになっている。また、1次熱分解部1内には、第1熱交換器10で加熱されて水蒸気となった冷却水を重質油W内に注入するための管材12が設けられている。即ち、1次熱分解部1における1次分解温度は、第1熱交換器10から重質油W中に供給される冷却水によって維持されるようになっている。
【0071】
また、反応容器4内には、ガス化容器31から排出され第2熱交換器20及び第1熱交換器10を通過した後の高温ガスを1次熱分解部1の上端から上方に噴出する管材21が設けられている。
【0072】
2次熱分解部2は、反応容器4内の1次熱分解部1の上方に位置し、1次熱分解部1から上方に移動する軽質成分を収容すると共に、ガス化容器31から排出され第2熱交換器20及び第1熱交換器10を通過後1次熱分解部1の上端から上方に流出する高温ガスを収容することにより、2次分解温度を維持するようになっている。なお、2次分解温度は、水憤ノズル2aから噴出される水によっても、維持されるようになっている。水憤ノズル2aは、第1の実施の形態と同様のものである。
【0073】
1次熱分解部1において重質な成分として底板部4b上に残った残渣油は、ピッチとして底板部4bから排出されるようになっている。
【0074】
上記のように構成された炭化水素系重質原料の改質装置においては、ガス化部3において、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて、重質油Wを一部燃焼(不完全燃焼)によりガス化するようになっているので、H2、CH4、CO等の有用ガスを発生させることができると共に、酸化剤等の供給量を調整することによりガス化部3の温度を800〜1200℃内のある特定の範囲に安定的に制御することができる。
【0075】
また、ガス化部3がガス化容器31によって閉じられた空間を構成するようになっているので、当該ガス化部3で発生した高温ガスの熱量のうち一定の熱量を第1熱交換器10及び第2熱交換器20を介して冷却水側に移動させることができる。
【0076】
そして、1次熱分解部1に収容された重質油Wには第1熱交換器10で加熱されて水蒸気となった冷却水であって、上述のように熱量が制御された冷却水が注入されるようになっているので、1次分解温度を380〜450℃内のある特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0077】
また、2次熱分解部2にはガス化部3で熱量が制御された高温ガスであって、第1熱交換器10及び第2熱交換器20で更に熱量が制御された後の高温ガスが1次熱分解部1の上端から上方に流入することになるので、2次分解温度を450〜550℃内のある特定の狭い温度範囲内により正確に制御することができる。
【0078】
なお、上記各実施の形態においては、炭化水素系重質原料として、石油精製設備において減圧蒸留した後のアスファルトに相当する重質油Wを示したが、この炭化水素系重質原料としては、オイルシェール等の天然重質油、プラスチック廃棄物、石炭、コールタール、その他の炭化水素系重質原料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の第1実施の形態として示した炭化水素系重質原料の改質装置の概略構成図である。
【図2】この発明の第2実施の形態として示した炭化水素系重質原料の改質装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0080】
1 1次熱分解部
2 2次熱分解部
3 ガス化部
4 反応容器
10 第1熱交換器
11 熱分解容器
11c 液面調整管
20 第2熱交換器
31 ガス化容器
42 回収口
W 重質油(炭化水素系重質原料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系重質原料の一部を燃焼させることによって加熱すると共に、当該炭化水素系重質原料のガス化を行うガス化部と、
炭化水素系重質原料を収容すると共に、上記ガス化部から供給される熱のうち第1熱交換器で調整した後の熱を受けることにより内部の温度を上記ガス化部の温度より低い1次分解温度に維持する1次熱分解部と、
この1次熱分解部で炭化水素系重質原料から分離された軽質成分を収容すると共に、上記ガス化部から供給される熱のうち上記第1熱交換器及び第2熱交換器で調整した後の熱を受けることにより内部の温度を上記ガス化部の温度より低くかつ上記1次分解温度より高い2次分解温度に維持する2次熱分解部とを備えていることを特徴とする炭化水素系重質原料の改質装置。
【請求項2】
上記1次熱分解部は、反応容器内における上下方向の途中に位置し、当該反応容器外から供給される炭化水素系重質原料を収容する熱分解容器を備えており、
上記ガス化部は、上記反応容器内の下端部に位置し、上記1次熱分解部から流出する炭化水素系重質原料を上記下端部に収容すると共に、少なくとも酸化剤及び水の供給を受けて炭化水素系重質原料を一部燃焼によりガス化するようになっており、
上記2次熱分解部は、上記反応容器内の上記1次熱分解部の上方に位置し、当該1次熱分解部から上方に移動する上記軽質成分及び上記ガス化部から上記1次熱分解部の上方に移動する高温ガスを収容するようになっており、
上記第1熱交換器は、上記熱分解容器の外面に沿うように配置され、上記ガス化部及び上記高温ガスから上記1次熱分解部に供給される熱の一部を吸収することにより、当該1次熱分解部の内部の温度を上記1次分解温度に維持するようになっており、
上記第2熱交換器は、上記反応容器内における上記ガス化部と上記2次熱分解部との間に配置され、上記ガス化部から上記2次熱分解部内に流入する高温ガスの熱の一部及び上記ガス化部から2次熱分解部に供給される熱の一部を上記第1熱交換器と共同して吸収することにより、当該2次熱分解部の内部の温度を上記2次分解温度に維持するようになっており、
上記反応容器の上端部には、上記2次熱分解部で軽質成分を改質した後の改質生成物を回収する回収口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素系重質原料の改質装置。
【請求項3】
上記第1熱交換器内を通ることにより上記ガス化部及び上記高温ガスから上記1次熱分解部に供給される熱の一部を吸収して水蒸気となった冷却水を、上記1次熱分解部内に収容された炭化水素系重質原料中に供給するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の炭化水素系重質原料の改質装置。
【請求項4】
上記熱分解容器には、当該熱分解容器内における炭化水素系重質原料の最高液面位置から当該炭化水素系重質原料をガス化部に流下させる液面調整管路が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の炭化水素系重質原料の改質装置。
【請求項5】
上記ガス化部は、反応容器内における上下方向の途中に位置し、当該反応容器外から供給される少なくとも炭化水素系重質原料、酸化剤及び水を受けて当該炭化水素系重質原料を一部燃焼によりガス化する閉じられた構造のガス化容器を備えており、
上記第1熱交換器及び上記第2熱交換器は、上記ガス化容器から排出される高温ガスの熱の一部を冷却水によって吸収するようになっており、
上記1次熱分解部は、上記反応容器内の下端部に位置し、当該反応容器外から供給される炭化水素系重質原料を上記下端部に収容すると共に、上記第1熱交換器で加熱されて水蒸気となった冷却水を炭化水素系重質原料内に注入することにより、上記1次分解温度を維持するようになっており、
上記2次熱分解部は、上記反応容器内の上記1次熱分解部の上方に位置し、上記1次熱分解部から上方に移動する上記軽質成分を収容すると共に、上記ガス化容器から排出され上記第1熱交換器及び上記第2熱交換器を通過後上記1次熱分解部の上端から上方に流出する高温ガスを収容することにより、上記2次分解温度を維持するようになっており、
上記反応容器の上端部には、2次熱分解部で軽質成分を改質した後の改質生成物を回収する回収口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素系重質原料の改質装置。
【請求項6】
上記1次分解温度は、380〜450℃であり、上記2次分解温度は、450〜550℃であり、ガス化部の雰囲気温度は、800から1200℃であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の炭化水素系重質原料の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104260(P2006−104260A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290189(P2004−290189)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】