説明

炭化珪素質触媒体及びその製造方法

本発明の炭化珪素質触媒体は、骨材としての炭化珪素粒子が相互間に細孔を保持した状態で結合することによって構成された、多孔質でハニカム形状の多孔質ハニカム構造体と、多孔質ハニカム構造体の表面に担持された、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒とを備えた炭化珪素質触媒体であって、触媒が、多孔質ハニカム構造体の表面に、珪素を含む酸化物を含有した皮膜を介在させた状態で担持され、かつ、皮膜が、多孔質ハニカム構造体を構成する全元素の2〜10質量%の酸素を含有してなり、再生時等において高温に曝されても白色化したり、破損を生じることがなく、耐熱性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素質触媒体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、炭化珪素質の多孔質ハニカム構造体に、自動車排ガス浄化用の酸化触媒に代表されるアルミナ及びセリアを含有した触媒が担持された炭化珪素質触媒体であって、特にディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを含んだ排ガス浄化用触媒体として有用で、再生時等において、高温に曝されても白色化したり、破損を生じることのない、耐熱性に優れた炭化珪素質触媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の排ガス浄化用触媒体(例えば、排ガス浄化用のフィルタ)を構成する多孔質ハニカム構造体の骨材としては、コーディエライトが用いられてきたが、耐熱性や化学耐久性の観点から、近年では、炭化珪素(SiC)等の非酸化物セラミックスが用いられるようになっている。
【0003】
非酸化物セラミックスの中でも炭化珪素からなる多孔質ハニカム構造体を用いた触媒体(例えば、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを含んだ排ガス浄化用のフィルタ)は、捕集されたパティキュレートを燃焼させてフィルタを再生する際に、高温に耐えることができるため特に有用である。
【0004】
図1、2に、ディーゼルエンジンの排ガス中のパティキュレートを捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)に用いられる一般的な多孔質ハニカム構造体1を示す。DPFは、この多孔質ハニカム構造体1の複数を縦横方向への段積み状態で接合した後、全体の外形形状を円形、楕円形その他の形状に切削加工することにより作製される。
【0005】
多孔質ハニカム構造体(ハニカムセグメント)1は、多孔質の隔壁2によって仕切られることによって形成された多数の流通孔3を有している。流通孔3はハニカム構造体1を軸方向に貫通しており、隣接している流通孔3における一端部が充填材4によって交互に目封じされている。すなわち、一の流通孔3においては、左端部が開口している一方、右端部が充填材4によって目封じされており、これと隣接する他の流通孔3においては、左端部が充填材4によって目封じされるが、右端部は開口されている。
【0006】
このような構造とすることにより、図2において矢印で示すように、排ガスは左端部が開口している流通孔に流入した後、多孔質の隔壁を通過して他の流通孔から流出する。そして、隔壁2を通過する際に排ガス中のパティキュレートが隔壁2に捕捉されるため、排ガスの浄化を行うことができる。
【0007】
なお、図1に示す多孔質ハニカム構造体1は、全体形状が正方形の断面を有しているが、三角形断面、六角形断面等の適宜の断面形状を有するものであってもよい。また、図1に示す流通孔3は、四角形の断面形状を有しているが、三角形、六角形、円形、楕円形、その他の形状を有するものであってもよい。
【0008】
捕集されたパティキュレートを燃焼させてフィルタを元の状態に戻す再生時には、フィルタとして酸化触媒を多孔質ハニカム構造体の表面に予め担持させたものを用いることによって燃焼を促進させる、所謂触媒担持手法が採用されている。この手法に用いられる酸化触媒としては、触媒としての白金等の貴金属粒子、この貴金属粒子を分散して配置するための基材としてのアルミナ、ジルコニア、希土類、アルカリ土類の粉末、並びに助触媒としてのセリア等の酸化物微粉末が用いられている。
【0009】
このような酸化触媒を、骨材である炭化珪素からなる構造体の表面に担持させた従来の触媒体として、ハニカム構造に形成された多孔質炭化珪素焼結体(構造体)の孔部内面に触媒担持用のシリカ膜を形成すると共に、このシリカ膜を含む多孔質炭化珪素焼結体(構造体)の酸素濃度を0.005質量%から2質量%としたものが知られている(特許文献1参照)。
【0010】
また、ハニカム構造に形成された多孔質炭化珪素焼結体(構造体)の孔部内面に強度増加用のシリカ膜を形成すると共に、このシリカ膜を含む多孔質炭化珪素焼結体(構造体)の酸素濃度を1質量%から10質量%としたものも知られている(特許文献2参照)。
【0011】
さらには、骨材としての炭化珪素粒子と結合材としての金属珪素とを含有し、これらの表面又は周辺に0.03〜15質量%の酸素を含有する相を形成したものが知られている(特許文献3参照)。
【0012】
【特許文献1】特許第2731562号公報
【特許文献2】特開2000−218165号公報
【特許文献3】特開2002−154882号公報
【0013】
しかしながら、従来の触媒体(例えば、フィルタ等)では、スートが多孔質ハニカム構造体に過剰量に堆積した状態で再生すると、再生の際に過度の高温に曝されることになり、触媒体(例えば、フィルタ等)が変色したり、破損するという問題があった。
【0014】
本発明者等は、上述の問題が、多孔質ハニカム構造体が炭化珪素や金属珪素のような非酸化物セラミックスから構成される場合のみに特異的に発生することを見出した。また、炭化珪素や金属珪素からなる多孔質ハニカム構造体に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒が担持されている場合であって、かつこのような多孔質ハニカム構造体に過剰量のスートが堆積した状態で燃焼させることにより、温度上昇及びスート燃焼による還元によって酸素濃度が1%以下程度まで低下した場合に、炭化珪素や金属珪素からなる多孔質ハニカム構造体の表面に、保護膜として機能するシリカ膜が形成されずに、急激な酸化反応が生じて、多孔質ハニカム構造体の表面が急激に酸化されることを見出した。
【0015】
上述のような急激な酸化反応が生じると、酸化による反応熱で多孔質ハニカム構造体の内部の温度が、1700℃以上の高温に上昇することがあり、このような温度上昇によって、多孔質ハニカム構造体が破損してしまうことがあった。
【0016】
上述の酸化反応は、SiCが酸化して表面にSiOの固体膜を生成する反応ではなく、下記式(1)、(2)に示すようにSiOが気体(ガス)として揮散する反応である。
【0017】
SiC(固体)+O(気体)=SiO(気体)+CO(気体)…(1)
Si(固体)+O(気体)=SiO(気体)+1/2O(気体)…(2)
【0018】
さらに、発生したSiOガスが雰囲気中の酸素と化合してSiOのファイバーを生成して表面に析出する。このため、このような酸化反応が生じた部分では、生成したSiOファイバーにより白色に変色する。
【0019】
このとき、アルミナ及びセリアは、上記式(1)におけるSiCや、上記式(2)におけるSiの酸化が生じる温度を低下させるように作用する。この理由は明確に判明しているわけではないが、上記式(1)、(2)におけるSiO(気体)と、触媒成分のアルミナやセリアとの間での化学的な相互作用が影響しているものと考えられる。
【0020】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであり、炭化珪素質ハニカム構造体にアルミナ及びセリアを含有した触媒が担持された炭化珪素質触媒体であって、再生時等において、高温に曝されても白色化したり、破損を生じることのない、耐熱性に優れた炭化珪素質触媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の炭化珪素質触媒体及びその製造方法が提供される。
【0022】
[1]骨材としての炭化珪素粒子が相互間に細孔を保持した状態で結合することによって構成された、多孔質でハニカム形状の多孔質ハニカム構造体と、前記多孔質ハニカム構造体の表面に担持された、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒とを備えた炭化珪素質触媒体であって、前記触媒が、前記多孔質ハニカム構造体の表面に、珪素を含む酸化物を含有した皮膜を介在させた状態で担持され、かつ、前記皮膜が、前記多孔質ハニカム構造体を構成する全元素の2〜10質量%の酸素を含有していることを特徴とする炭化珪素質触媒体。
【0023】
このように構成することによって、再生時等において、多孔質ハニカム構造体の表面における激しい酸化反応が抑制されて、高温に曝されても白色化したり、破損を生じることのない、耐熱性に優れたものとすることができる。
【0024】
[2]前記皮膜が、元素として、アルミナ及び/又はジルコニアを含有している前記[1]に記載の炭化珪素質触媒体。
【0025】
このように構成することによって、皮膜の耐熱性をさらに向上させることができ、炭化珪素質触媒体全体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0026】
[3]前記皮膜が、結晶相として、クリストバライト、ジルコン及びムライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有していることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の炭化珪素質触媒体。
【0027】
このように構成することによって、皮膜の耐熱性をさらに向上させることができ、炭化珪素質触媒体全体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0028】
[4]前記炭化珪素粒子が、結合材としての金属珪素によって結合していることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の炭化珪素質触媒体。
【0029】
このように構成することによって、骨材としての炭化珪素粒子を結合する結合材としての金属珪素が、再生時等において、炭化珪素と同様に酸化反応をし、多孔質ハニカム構造体の表面における激しい酸化反応を抑制するため、白色化したり、破損を生じることがない。
【0030】
[5]炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られた前記ハニカム構造体を、本焼成し、次いで酸素含有雰囲気下で熱処理して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた前記多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とする炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0031】
このように構成することによって、耐熱性を向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【0032】
[6]前記熱処理を、酸素及び水蒸気含有雰囲気下で行う前記[5]に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0033】
このように構成することによって、多孔質ハニカム構造体の表面に酸化皮膜の形成を促進させることができ、耐熱性をさらに向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【0034】
[7]前記熱処理を、天然ガスを燃料としたバーナー燃焼加熱により行う前記[5]又は[6]に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0035】
このように構成することによって、多孔質ハニカム構造体の表面に酸化皮膜の形成を促進させることができ、耐熱性をさらに向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【0036】
[8]前記熱処理を、800〜1400℃の温度で行う前記[5]〜[7]のいずれかに記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0037】
このように構成することによって、保護膜として機能する(炭化珪素と触媒成分との酸化反応を抑制する)のに十分な酸化皮膜の生成と、圧力損失の上昇の抑制とを共に図ることができ、耐熱性をさらに向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【0038】
[9]炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られた前記ハニカム構造体を、酸素含有雰囲気下でバインダーを除去した後に熱処理し、次いで本焼成して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた前記多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とする炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0039】
このように構成することによって、耐熱性を向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【0040】
[10]前記熱処理を、400〜1000℃の温度で行う前記[9]に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【0041】
このように構成することによって、保護膜として機能するのに十分な酸化皮膜の生成と、圧力損失の上昇の抑制とを共に図ることができ、耐熱性をさらに向上させた炭化珪素質触媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に用いられる多孔質ハニカム構造体の一の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す多孔質ハニカム構造体の一の実施の形態おけるA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…多孔質ハニカム構造体、2…隔壁、3…流通孔、4…充填材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の炭化珪素質触媒体は、多孔質ハニカム構造体と、多孔質ハニカム構造体の表面に担持された触媒とを備えるものである。多孔質ハニカム構造体は、骨材としての多数の炭化珪素粒子が相互間に多数の細孔を保持した状態で結合することによって構成される。
【0045】
触媒は、アルミナ及びセリアを主成分として含有するものである。アルミナ及びセリア以外に、貴金属成分やアルカリ土類金属等のその他の成分を含有していてもよい。この触媒は、多孔質ハニカム構造体の表面に、珪素を含む酸化物を含有した皮膜を介在させた状態で担持され、かつ、この皮膜は、多孔質ハニカム構造体を構成する全元素の2〜10質量%の酸素を含有している。
【0046】
多孔質ハニカム構造体は、炭化珪素粒子が相互に直接結合していてもよく、炭化珪素粒子の相互間に炭化珪素以外の結合材を介在させた状態で結合していてもよい。このような結合材としては、例えば、ガラス、酸化珪素、金属珪素、窒化珪素、粘土等を挙げることができる。中でも、金属珪素が、炭化珪素と同様に酸化反応を生じる物質であることから好ましい。
【0047】
皮膜に含有される酸素の量(酸素含有量)は、多孔質ハニカム構造体を構成する全元素の2〜10質量%であり、3.5〜8質量%が好ましい。酸素含有量が2質量%未満であると、保護膜として機能するために十分な量の酸化皮膜が生成しない。酸素含有量が10質量%を超えると、酸化物である皮膜の量が多くなり過ぎて、気孔率が低下し、DPF用途における重要特性である圧力損失を増大させる。
【0048】
上記皮膜は、元素として、アルミナ及び/又はジルコニアを含有していることが好ましい。また、皮膜は、結晶相として、クリストバライト、ジルコン及びムライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有していることが好ましい。このような物質を含有することにより、皮膜の耐熱性をさらに向上させることができる。すなわち、シリカの融点が1730℃程度であるのに対して、シリカ、アルミナの反応生成物であるムライトは1850℃、シリカ、ジルコニアの反応生成物であるジルコンは2550℃程度の融点を有するため、耐熱性をさらに高めることができる。
【0049】
本発明の炭化珪素質触媒体の製造方法は、炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られたハニカム構造体を、本焼成し、次いで酸素含有雰囲気下で熱処理して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とする。この場合、熱処理は、本焼成した後に降温の過程で同一の炉において連続して行ってもよいし、一度本焼成を終えて炉から取り出された焼成体(多孔質ハニカム構造体)に対して別の炉を用いて行ってもよい。
【0050】
本焼成の後の熱処理は、800〜1400℃の温度で行うことが好ましい。800℃未満であると、保護膜として機能するために十分な量の酸化皮膜が生成しないことがある。また、1400℃を超えると、酸化物である皮膜の量が多くなり過ぎて、気孔率が低下し、DPF用途における重要特性である圧力損失を増大させることがある。
【0051】
この場合、熱処理を行う際に、酸素及び水蒸気を一定量(例えば、酸素2〜20容量%、水蒸気5〜30容量%程度)含有する雰囲気で行うことが、酸化皮膜の形成を促進させる上で好ましい。
【0052】
この場合、メタンを主成分とする炭化水素からなる天然ガスを用いたバーナー燃焼加熱により行うことが、炭化水素の燃焼により酸素、水蒸気を一定量含有する雰囲気に制御することが可能であり、電気炉に比較してエネルギーコストを低く抑えることができる上で好ましい。
【0053】
また、本焼成を、最高温度から降温する過程で、不活性ガス雰囲気から酸素雰囲気に切り換えて行ってもよい。
【0054】
本発明の炭化珪素質触媒体の製造方法は、炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られたハニカム構造体を、酸素含有雰囲気下でバインダーを除去した後に熱処理し、次いで本焼成して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とするものであってもよい。
【0055】
この方法における熱処理は、400〜1000℃の温度で行うことが好ましい。熱処理の温度が400℃未満であると、保護膜として機能するのに十分な酸化膜が生成しないことがある。また、1000℃を超えると、本焼成前に粒子表面の皮膜量が多くなり過ぎて焼結を阻害することがある。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の炭化珪素質触媒体及びその製造方法を実施例によってさらに具体的に説明する。
【0057】
セラミックス原料として、平均粒径が48μmのSiC粉と、金属Si粉とを80:20の比率(質量比)で混合し、造孔材としてデンプンを加え、さらに、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤、並びに水を添加し、真空土練機により可塑性の坏土を作製した。
【0058】
この坏土を押出成形してハニカム構造体とした後、このハニカム構造体をマイクロ波及び熱風で乾燥し、隔壁(図2における隔壁2)の厚さが310μm、セル密度が46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面の一辺が35mmの正方形、長さが152mmのハニカム成形体とした。そして、この成形体を大気雰囲気中400℃で脱脂し、その後、Ar不活性雰囲気中で約1450℃で本焼成して、Si結合SiCの多孔質ハニカム構造体(ハニカムセグメント)とした。
【0059】
ハニカムセグメントの平均細孔径を水銀圧入法によって測定し、気孔率をアルキメデス法により測定した。その結果、気孔率52%、平均細孔径20μmの担体となっていた。これを基材Aとする。
【0060】
また、セラミックス原料として、平均粒径が12μmのSiC粉、焼結助剤としての酸化鉄、酸化イットリウム、有機バインダとしてのメチルセルロース、造孔剤としてのデンプン、界面活性剤及び水を添加し、真空土練機により可塑性の坏土を作製した。
【0061】
この坏土を押出成形してハニカム構造体とした後、このハニカム構造体をマイクロ波及び熱風で乾燥し、隔壁の厚さが310μm、セル密度が46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面の一辺が35mmの正方形、長さが152mmのハニカム成形体とした。そして、この成形体を大気雰囲気中550℃で脱脂し、その後、Ar不活性雰囲気中で2300℃で本焼成することにより、再結晶SiCの多孔質ハニカム構造体(ハニカムセグメント)とした。
【0062】
このハニカムセグメントの平均細孔径を水銀圧入法により測定し、気孔率をアルキメデス法により測定した。その結果、気孔率42%、平均細孔径10μmの担体となっていた。これを基材Bとする。
【0063】
次に、以上によって作製した基材A、Bを表1に示す方法で熱処理することにより、表面に皮膜(酸化皮膜)を形成した。
【0064】
実施例1〜6、13、14、18、19において、熱処理は、下記(1)及び(2)で示すように、本焼成後に行う方法(表1の「熱処理工程」の欄においては「本焼後」と表示)と、脱脂後における本焼成前に行う方法(表1の「熱処理工程」の欄においては「脱脂後」と表示)の2通りで実施した。
【0065】
(1)熱処理を本焼成後に行う方法:脱脂(脱バインダー)した後、Ar雰囲気下での本焼成をし、次いで熱処理をする方法(実施例1〜6及び18、19が該当する)。
【0066】
(2)熱処理を脱脂後における本焼成前に行う方法:脱脂(脱バインダー)したん後、熱処理を行い、次いでAr雰囲気下で本焼成をする方法(実施例13、14が該当する)。
【0067】
なお、実施例15では、上記熱処理において、ウエッターを用いて、エアーをバブリングさせることにより、HOを含ませて炉内に送り込むことにより行った(表1の「熱処理条件、温度、時間」の欄においては「蒸気吹込みと表示」と表示)。このときのウエッターのヒーター温度は40℃とした。
【0068】
また、実施例16、17では、LNG(液化天然ガス)を燃料として用いてバーナー燃焼加熱により熱処理を行った(表1の「熱処理条件、温度、時間」の欄においては「バーナー燃焼」と表示)。空気と燃料の比は最高温度域で、おおよそ1.2程度とした。
【0069】
また、実施例7〜9では、ゾルのプレコート後に熱処理を行った(表1の「プレコート」の欄においては「ZrO」又は「Al」と表示)。すなわち、実施例6〜8では、硝酸溶液のアルミナゾル及びジルコニアゾル(必要に応じてさらにシリカゾル)にディッピングによりウオッシュコートした。コート量は30g/Lとした。その後、表1に示す温度の熱処理によって焼き付けた。この焼き付けの後、表1に示す温度で熱処理を行った。焼成後において、X線回折により結晶相の同定を行ったところ、実施例7、8ではジルコン、実施例9ではムライトが生成していることが確認された。すなわち、実施例7〜9では、以下の手順での処理を行ったものである。すなわち、脱脂(脱バインダー)した後、Ar雰囲気下で本焼成をし、次いでゾルプレコートし、次いで熱処理をした。
【0070】
実施例10〜12では、原料に前駆体を添加して熱処理を行った(表1の「原料添加」の欄においては「ZrO」又は「Al」と表示)。すなわち、基材Aの作製段階において、原料に対してジルコニア、アルミナを5質量%ずつ添加して本焼成し、その後、表1に示す温度で熱処理を行った。焼成後において、X線回折により結晶相の同定を行ったところ、実施例10、11ではジルコン、実施例12ではムライトが生成していることが確認された。
【0071】
比較例1では、基材Aに対して、本焼成のみを行い、熱処理を行なわなかった。比較例2〜4では、熱処理を本焼成後に行う方法(比較例2、3が該当する)及び脱脂後における本焼成前に行う方法(比較例4が該当する)を用いて、表1に示す温度で熱処理を実施した。比較例5では、基材Bに対して、本焼成工程のみを行い、熱処理を行なわなかった。
【0072】
以上の熱処理によって皮膜を形成した後、ハニカムセグメントの表面にアルミナ及びセリアを担持させた。この担持は、以下の手順で行った。
【0073】
市販のγ−アルミナ粉末(比表面積;200m/g)、(NHPt(NO水溶液及びセリアの粉末をポットミル内で2時間攪拌混合した後、得られた(白金+セリア)含有γ−アルミナ粉末に、市販のアルミナゾルと水分を添加し、ポットミル内で10時間湿式粉砕することにより、触媒液(ウオッシュコート用スラリー)を調製した。そして、この触媒液に対するディップコーティングを行うことにより50g/Lの担持量になるように触媒をコーティングした。
【0074】
表1に示す、「酸素含有量分析」欄における酸素含有量は、JIS R1616「ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法」に準拠して、不活性ガス融解−赤外線吸収法により測定した。測定は、酸素分析装置(堀場製作所(株)製、商品名:「EGAW−650W」)を用いて行った。
【0075】
表1に示す、「酸化試験」は低酸素分圧下酸化試験によって行った。すなわち、得られた炭化珪素質触媒体を、電気炉内で酸素1容量%+Arガスの低酸素分圧雰囲気下で1200℃、10min保持し、その外観変化及び質量変化(%)(酸化増量)を検査した。
【0076】
表1に示すように、実施例1〜19の場合の方が、比較例1、2、4、5の場合に比べて急激な酸化が抑制された良好な結果となっている。また、比較例3においては、酸化物である皮膜の量が多くなり過ぎて、気孔率(%)が低下し(基材Aを用いた場合、他の例では気孔率(%)が51及び52%であるのに対し、比較例3では、47%に低下)、圧力損失を増大させてしまっている。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の炭化珪素質触媒体は、耐熱性、耐久性等に優れているため、各種産業における浄化装置、例えば、DPF等のディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートを含んだ排ガス浄化用のフィルタとして好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材としての炭化珪素粒子が相互間に細孔を保持した状態で結合することによって構成された、多孔質でハニカム形状の多孔質ハニカム構造体と、前記多孔質ハニカム構造体の表面に担持された、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒とを備えた炭化珪素質触媒体であって、
前記触媒が、前記多孔質ハニカム構造体の表面に、珪素を含む酸化物を含有した皮膜を介在させた状態で担持され、かつ、前記皮膜が、前記多孔質ハニカム構造体を構成する全元素の2〜10質量%の酸素を含有していることを特徴とする炭化珪素質触媒体。
【請求項2】
前記皮膜が、元素として、アルミナ及び/又はジルコニアを含有している請求項1に記載の炭化珪素質触媒体。
【請求項3】
前記皮膜が、結晶相として、クリストバライト、ジルコン及びムライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素質触媒体。
【請求項4】
前記炭化珪素粒子が、結合材としての金属珪素によって結合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素質触媒体。
【請求項5】
炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られた前記ハニカム構造体を、本焼成し、次いで酸素含有雰囲気下で熱処理して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた前記多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とする炭化珪素質触媒体の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を、酸素及び水蒸気含有雰囲気下で行う請求項5に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理を、天然ガスを燃料としたバーナー燃焼加熱により行う請求項5又は6に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を、800〜1400℃の温度で行う請求項5〜7のいずれかに記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。
【請求項9】
炭化珪素粒子を含む原料を押出成形してハニカム形状のハニカム構造体を得、得られた前記ハニカム構造体を、酸素含有雰囲気下でバインダーを除去した後に熱処理し、次いで本焼成して、多孔質ハニカム構造体を得、得られた前記多孔質ハニカム構造体の表面に、アルミナ及びセリアを主成分として含有する触媒を担持させることを特徴とする炭化珪素質触媒体の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理を、400〜1000℃の温度で行う請求項9に記載の炭化珪素質触媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/014171
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513018(P2005−513018)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011591
【国際出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】