説明

炭含有繊維およびその製造方法

【課題】 炭の有する諸性能が付与され、VOC吸着性にも優れる炭の含有繊維とその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる炭の含有繊維は、炭の粉を含有させてなるレーヨン繊維において、前記炭の粉は、平均粒子径が1.2μm以下であり、最大粒子径が2.2μm以下であり、セルロース分に対する割合が15質量%以上である、VOC吸着性にも優れる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンなどのVOC吸着性にも優れる炭含有繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭を、合成樹脂などの化合材料に混合したり、紙を抄造するためのパルプなどの紙スラリーに混合したりして、炭の吸放湿性、脱臭性などの特性を製品に付与することが一般的に行なわれている。
そのような従来技術として、特定条件を満たす有機溶剤を吸着させた活性炭微粒子を用いる機能性再生セルロース組成物の製法(特許文献1参照)、炭を微粉砕した炭パウダーが繊維中に分散された炭含有繊維(特許文献2参照)などがある。
しかしながら、前記特許文献1の技術では、有機溶剤が必須であり、前記有機溶剤が繊維化を阻害する原因となる点で問題がある。前記特許文献2の技術の如く、単に炭を微粉砕した炭パウダーを分散含有させた炭含有繊維では、該繊維が発揮する諸性能が、炭単独が有する諸性能よりも劣ってしまう場合がある。これは、炭の多孔質構造が繊維原料の合成樹脂などで覆われてしまったりすることなどによる。
【0003】
そこで、前記問題を解決するための炭含有繊維が種々提案されている。具体的には、例えば、レーヨン繊維の母体内に、その表面が滑らかな球形ではなく、凹凸をもった不定形である備長炭を粉砕してなる多数の微粒子を埋入させることによって、備長炭微粒子を繊維表面に露出させ、その多孔質構造が繊維原料の合成樹脂などで覆われてしまうことがないよう工夫した、消臭性レーヨン繊維(特許文献3参照)が知られている。また、平均粒子径0.01〜1.0μmの木炭粉をレーヨン繊維に担持させてなり、木炭粉が1〜60質量%含まれるという構成を採用することによって、繊維中の木炭の表面積を増やすことを工夫した、木炭担持繊維(特許文献4参照)も知られている。
【特許文献1】特公平6−99595号公報
【特許文献2】特開2000−290826号公報
【特許文献3】特開2001−98412号公報
【特許文献4】特開2001−262431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献3、特許文献4に記載の繊維に関し、本発明者が追試したところによると、炭の有する諸性能(ガス吸着性、マイナスイオン効果、電磁波遮蔽性、遠赤外線による温室効果、調湿効果)が殆ど阻害されることなく付与された、良好な繊維ではあるが、ガス吸着性のうち、VOC(Volatile Organic Compound:揮発性有機化合物)の吸着性に関しては、乏しかったり、不安定であったりして、いまだ改良の余地のあることが分かった。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、VOC吸着性にも優れる炭含有繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その過程において、前記特許文献3や前記特許文献4に記載の技術を用いても十分なVOC吸着能が安定して発揮されないのは、粗大粒子が繊維から脱落することがあり、この脱落を十分に抑制できていないためであることが分かった。すなわち、前記従来技術でも、粒子径の小さな木炭粉は繊維中に強固に担持され、脱落することは殆どないが、粗大粒子は繊維から脱落しやすく、しかも、粒子径が大きいために、脱落した粗大粒子が数として少ない場合であっても、体積としては大きく脱落することとなるため、繊維中の木炭粉量の絶対値が低下し、結果として、VOCを吸着するために十分な量の木炭粉が、繊維内に確保されない、ということが分かったのである。そして、平均粒子径および最大粒子径のいずれが大きい場合であっても、繊維から木炭などの炭の粉が脱落することを防止できず、そのために、初期性能に優れる炭含有繊維であっても、経時安定性が低く、期待される性能を徐々に発揮し得なくなることが分かった。
【0006】
かかる知見に基づき、十分なVOC吸着能を経時的にも安定して発揮させるためには、繊維中の炭の粉がVOC吸着能に優れ、かつ、その多くが繊維内に確保されるように、炭の粉の平均粒子径や最大粒子径、セルロース分に対する割合を工夫すれば良いことを見出し、それを確認して、本発明を完成するに至った。加えて、炭が木炭である場合には、平均粒子径や最大粒子径の工夫により、炭の粉が繊維から脱落するのが防止され、炭含有繊維の経時安定性が向上するだけでなく、VOCに対する初期吸着性能も顕著に高まるということも分かった。
すなわち、本発明にかかる炭含有繊維は、炭の粉を含有させてなるレーヨン繊維において、前記炭の粉は、平均粒子径が1.2μm以下であり、最大粒子径が2.2μm以下であり、セルロース分に対する割合が15質量%以上である、VOC吸着性にも優れる繊維である。
【0007】
本発明にかかる炭含有繊維の好ましい第1の実施形態では、前記炭が木炭であり、前記炭の粉は、平均粒子径が0.65μm以下である。
本発明にかかる炭含有繊維の好ましい第2の実施形態では、前記炭が活性炭である。
本発明にかかる炭含有繊維の製造方法は、平均粒子径が1.2μm以下、最大粒子径が2.2μm以下である炭の粉を水に分散させて5〜25質量%の水分散液とし、前記水分散液とビスコースを、セルロース分に対する前記炭の粉の割合が15質量%以上となるようにして混合して、この混合液を紡糸する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭の有する諸性能が良好に発揮され、VOC吸着性にも優れる炭含有繊維およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかる炭含有繊維およびその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔炭〕
ガス吸着性や吸放湿性、脱臭性、帯電防止性、イオン交換機能など、炭が有する各種の機能を発揮できるものであれば、原材料や製造方法などは特に限定されないが、木炭(特に後述する製造方法で得られる活性化木炭)や活性炭が好ましい。
炭を粉砕して微細な粉にすることで、表面積が増大し、吸着機能などがより高まるとともに、レーヨン繊維に対する担持処理が行い易くなる。
【0010】
炭の粉は、平均粒子径1.2μm以下であることが必要である。平均粒子径が1.2μmを超えると、炭の粉が繊維から脱落する。一方、平均粒子径が小さいほど、単位質量当たりの表面積が大きくなり、表面性状に基づく諸機能が向上する。具体的には、例えば、炭の粉の平均粒子径が0.65μm以下であることが好ましい。特に、木炭を用いる場合、その粉の平均粒子径が0.65μm以下であると、VOC吸着能が顕著に向上する。ただし、炭の粉の平均粒子径が小さい場合には、比表面積が向上するという点では利点となるが、後述の如く炭の粉を水に分散させる際に、水分散液の濃度をかなり低下させないと充分な流動性が得られず、この水分散液をビスコースに添加混合することが困難となるおそれがあるので、0.2μm以上であることが好ましい。平均粒子径0.3〜0.6μmのものが特に好ましい。
【0011】
活性化木炭を使用する場合、活性化木炭、さらに、これを粉砕した活性化木炭粉には、低温炭化部分と高温炭化部分とが混在する。個々の活性化木炭粉に低温炭化部分と高温炭化部分が存在することが好ましいが、低温炭化部分からなる活性化木炭粉と高温炭化部分からなる活性化木炭粉とが均一に分散していてもよい。
前記炭の粉は、最大粒子径が2.2μm以下であり、好ましくは2.0μm以下である。最大粒子径が2.2μmを超えると後述する紡糸工程以降における、繊維からの炭の粉末の脱落が多くなってしまい、十分なVOC吸着能が得られない。粒子径2.0μm以下の占める割合が90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%である。粒子径2.0μm以下の占める割合が少なくなるほど、最大粒子径が2.2μm以下の炭の粉が得られ難くなる。
【0012】
粒子径1.0μm以下の占める割合が80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。粒子径1.0μm以下の占める割合が80%以上であると、繊維中に含有させても、繊維からの脱落や繊維強度の低下を招き難いため、繊維中に炭の粉を多く含有させることができ、その結果、炭の粉の有する諸性能をより顕著に発揮させることができる。
粉砕装置および粉砕条件は、基本的には通常の炭の粉の製造技術が適用できる。粉砕装置として、ジェットミルなどの乾式粉砕装置や、トロンミルなどの湿式粉砕装置、旋回渦流式粉砕装置などが用いられる。旋回渦流式粉砕装置は、回転ローター等で発生させた旋回渦流中で原料が衝撃破砕や磨砕作用を繰り返すことで微細な粉砕物が得られる装置であり、原料がカッターや磨砕具に対して直接に接触せずに粉砕されるために、粉砕物に金属などの異物が混入することが少ないという利点がある。本発明では、まず、乾式粉砕装置によってある程度粉砕し、次いで、湿式粉砕装置によって微細に粉砕する方法が、特に好ましい。第1段階目の粉砕、すなわち、乾式粉砕によって、例えば平均粒径を6μm以下となるように粉砕し、粗大粒子を予め取り除いておくことにより、第2段階目の粉砕、すなわち、湿式粉砕での粉砕効率が向上する。そして、前記湿式粉砕を行う段階では、粗大粒子が存在しないために、非常に効率良く均一に粉砕され、表面に凹凸の少ない炭の粉が得られる。また、湿式粉砕では、分散媒である水と分散質である炭の粉が十分に接触して、両者がよくなじむため、そのまま水分散液として用い、後述するようにビスコースへ添加すれば、炭の粉がビスコース中、さらに、繊維化後のレーヨン繊維中でも安定して存在することとなるため、好ましい。この場合には、湿式粉砕の段階で、分散剤を添加しておくと良い。水分散液や分散剤に関しては、後に詳述する。
【0013】
<木炭>
木炭とは、木材を炭化して得られる炭素を主成分とする固体生成物のことであり、例えば、活性化木炭や備長炭などが挙げられる。中でも、以下に詳しく述べる活性化木炭を用いることが好ましい。
(活性化木炭)
活性化木炭とは、木炭の原料、炭化処理条件などを適切に設定することによって、物理的および化学的に活性化した木炭であり、前記したガス吸着性などの機能が格段に向上する。活性化木炭の製造方法は、木材チップを450〜550℃で熱処理して炭化させる低温炭化工程と、低温炭化工程に引き続いて、木材チップの炭化物を800〜900℃で、好ましくは3〜60分、さらに好ましくは5〜15分熱処理して、さらに炭化させる高温炭化工程と、高温炭化工程の終了時点で、炭化物に水を接触させる活性化工程とを含む。
【0014】
前記木材チップとは、木材の細片すなわちチップである。木材チップの原木としては、主に、杉材、ヒマラヤ杉材、赤松材等の針葉樹材が用いられ、特に赤松材が好ましい。木材製品として利用し難く安価な細い木材や廃材を利用することができる。パルプ製造やボード建材の原料として大量に工業生産されている木材チップ製品を用いることもできる。
木材チップの形状および寸法は特に限定されないが、木材チップの差し渡し径を測ったときに、その最大径が10〜60mmのものが好ましい。大き過ぎる木材チップは十分な炭化を行い難く、小さ過ぎる木材チップは取扱い難く、製造歩留りも悪い。
前記低温炭化工程では、基本的には、通常の木炭製造装置および製造処理条件を採用すればよい。熱処理の温度を450〜550℃に設定する。熱処理時間は、木材チップの全体が十分に炭化される程度で良く、木材チップあるいは製造装置の条件によっても異なるが、通常は100〜120時間をかけて処理される。
【0015】
熱処理雰囲気は、空気の流入を遮断した状態で行う。モミ殻やオガクズで木材チップを覆った状態で処理することができる。
前記高温炭化工程では、基本的には、通常の木炭製造装置および製造処理条件を採用し、熱処理の温度を800〜900℃、熱処理時間を好ましくは3〜60分、さらに好ましくは5〜15分に設定する。高温炭化工程では、前工程で低温炭化された木材チップ炭化物の表面に近い一部分のみを高温炭化し、木材チップ炭化物の中心部分には低温炭化部分を残しておく。
処理時間によって、得られる活性化木炭に含まれる高温炭化部分と低温炭化部分との比率が調整される。処理時間が短すぎたり長すぎたりすると、高温炭化部分と低温炭化部分とのそれぞれの特性が十分に発揮できない。前記低温炭化工程と同じ装置で、熱処理温度を上昇させることで、低温炭化された木材チップ炭化物をそのまま高温炭化させることが好ましい。熱処理雰囲気は、酸素を供給した状態にする。
【0016】
高温炭化工程で熱処理を行った炭化物に水を接触させると、炭化物は急速に冷却されて消火する。その際に、水の化学的および物理的な作用によって、炭化物に複雑な形状の微細孔が形成されたり、炭化物の表面が改質されて吸着能などが向上したりする活性化が行われる。
なお、水は液体状態であってもよいが、通常は水蒸気状態で炭化物に接触することになる。活性化工程の具体的処理装置や処理条件は、既知の活性炭製造技術において行われている水との接触処理と同様でよい。但し、活性化木炭を得るための活性化工程における炭化物への水の接触は、活性炭製造技術において行なわれるいわゆる水蒸気賦活とは異なる。すなわち、活性炭製造における水蒸気賦活では、一次炭といわれる原料炭素に水蒸気を通じ、1000℃付近で反応させることにより、一次炭中に残存または吸着されていた不純物や一部の炭素がガス化して除去され、内部表面積が大きくなっているものであって、上述の活性化炭素製造における炭化物への水の作用(炭化物の急速な冷却による水の化学的および物理的な作用)とは明らかに異なる。
【0017】
活性化木炭は、内部に多数の微細孔を有する多孔質構造であり、この微細孔による物理的な吸着作用を有するとともに、微細孔の表面が化学的あるいは物理的に活性化されていて高い吸着能を発揮する。備長炭との比較において具体的に以下に説明する。
電子スピン共鳴法により、活性化木炭と備長炭を分析したところ、活性化木炭では1重項のシグナルが検出され、備長炭ではシグナルは検出されなかった。そして、前記活性化木炭において検出されたシグナルのg値は、2.00であり、自由電子に近い値であった。このことから、前記シグナルは、水素と結合していない炭素のダングリングボンドに由来する不対電子が原因であると推測される。他方、X線回折により、活性化木炭と備長炭を分析したところ、活性化木炭は非晶質に特有の幅の広いピークのみが得られ、備長炭は非晶質に特有のピークに加えて結晶質による鋭いピークも得られたことから、活性化木炭は非晶質からなり、備長炭は非晶質と結晶質からなることが分かった。
【0018】
木炭が非晶質であると、炭素の結合に欠陥が多くなり、その結果、自由電子様の不対電子が存在することになって、他の物質との反応性が生じる。活性化木炭は、非晶質部分が多いため、備長炭などよりも優れた吸着能を発揮するものと推測される。
なお、X線光電子分光法により分析したところ、活性化炭素の原子組成は、炭素89.1%、酸素10.9%であり、官能基としてヒドロキシル基(−OH)、カルボキシル基あるいはエステル基(−COOR:RはHあるいはアルキル基)を有することが推測された。また、活性化木炭を水中に分散させて、ラジカル発生の有無を調べた結果、ラジカルが生じなかったことから、活性化木炭中の不対電子は、吸着能の向上に寄与するものの、水と反応してラジカルを生じるほどの反応性まではもたないことが分かる。これらの実験事実から、吸着性を発揮する原因となる活性化木炭表面の官能基は、過酸化物ラジカルなどのように反応性の高い遊離基ではなく、不対電子をもつ炭素原子(有機ラジカル)や炭素に結合し、かつ、不対電子をもつヒドロキシル基、酸素原子などであると推測される。
【0019】
前記製造方法から判るように、活性化木炭は、原料となる木材チップ以外の添加剤や活性化処理剤を使用する必要がない。
活性化木炭は、吸着能に優れ、吸放湿性、脱臭性、防黴性、遠赤外線放射性、導電性、電磁波吸収性、イオン調整機能などに優れている。活性化木炭の吸着能は、吸着物質と接触したときの立ち上がり速度が大きい。また、吸着物質を分解する作用があるため、活性化木炭の微細孔に吸着物質が詰まって吸着能が低下することが防げ、長期間にわたって安定した吸着能を発揮できる。活性化木炭には、低温炭化工程で炭化された低温炭化部分と、高温炭化工程でさらに炭化された高温炭化部分とが混在している。通常は、中心側に低温炭化部分、外周側に高温炭化部分が存在する。
【0020】
低温炭化部分は、酢酸やアンモニアなどの比較的高分子量の化合物に対する吸着性が優れている。高温炭化部分は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エチレンなどの比較的低分子量の化合物に対する吸着性に優れている。活性化木炭は、低温炭化部分と高温炭化部分の機能や役目を相乗的に発揮させることができる。
<活性炭>
活性炭は、気体または溶液中の溶質などに対して強い吸着能を示す炭素質の物質であって、木炭などを賦活することにより得られるものである。賦活方法としては、例えば、水蒸気賦活、薬品賦活その他の方法が挙げられるが、特に、水蒸気賦活が好ましい。
【0021】
活性炭の原料としては、木炭、果実炭、石炭、ピッチコークスなどの公知の原料が使用できるが、特に針葉樹由来の木炭を原料とする活性炭は、比表面積が大きく、VOC吸着特性に優れる炭含有繊維を得ることができるため、好ましい。
水蒸気賦活は、例えば、1000〜1200℃において木炭などの原料に水蒸気を通じて行う。
薬品賦活は、例えば、木炭などの原料を乾燥後粉砕し、塩化亜鉛、リン酸、亜硫酸、アルカリなどの溶液に浸し、次いで、焼成、炭化して行う。不純物は水洗、除去しても良い。
【0022】
その他の方法としては、例えば、木炭などの原料を、空気、二酸化炭素、塩素ガス中で加熱し、原料の一部を酸化する方法、炭を減圧下に強熱する方法、赤熱した炭を水、硝酸中に浸す方法などが挙げられる。
〔炭含有繊維の製造〕
本発明にかかる炭含有繊維を製造する場合は、上述した、平均粒子径が1.2μm以下、最大粒子径が2.2μm以下である炭の粉を用い、前記条件を満たす炭の粉とビスコースを混合分散して、この混合液を紡糸する。
まず、レーヨン繊維の原料であるビスコースに上述の条件を満たした炭の粉を分散させる。ビスコースは、セルロースを含む溶液であり、通常のビスコース製造工程を経て製造されたものが用いられる。ビスコースと炭の粉を撹拌混合して、炭の粉分散ビスコースを調製する。炭の粉の分散は、ビスコースの製造工程の何れの段階でも可能であるが、硫化工程や熟成工程などを終えたビスコースが紡糸工程に入る直前に行うのが好ましい。
【0023】
予め、炭の粉を水に分散させて5〜25質量%の水分散液とし、これをビスコースに添加することが好ましい。上述したように、炭を湿式粉砕する場合には、湿式粉砕後の水分散液をそのまま用いても良いし、さらに水で希釈して用いても良い。25質量%を超えると、前記分散液がチキソトロピーを有し、静置すると流動性を失ってしまうおそれがあるため、ビスコースへの連続的な添加・混合が困難となる。5質量%未満であると、ビスコースに添加・混合した際に、粘度が低くなり過ぎ、水分散液の添加・混合後のビスコースが有する曳糸性が低下し、ビスコース再生時に再生途中の糸条が切れ、繊維化が困難となるおそれがある。また、木炭を用いる場合、5〜25質量%の水分散液をビスコースに添加することで得られうる繊維は、繊維表面に皺を有し、表面積が増加することによって、VOC吸着性が向上するということが分かった。好ましくは7〜22質量%、さらに好ましくは8〜16質量%、特に好ましくは9〜12質量%である。9〜12質量%の水分散液をビスコースに添加・混合したものを紡糸して得られる木炭含有繊維は、繊維表面の皺が大きく、深い溝を形成し、VOC吸着性が顕著に向上することが分かった。
【0024】
前記分散は、セルロース分に対する前記炭の粉の割合が15質量%以上となるように行う。50質量%以下であることが好ましい。前記割合が15質量%未満では、VOC吸着性が十分に発揮されない。一方、50質量%を超えると、紡糸性が低下したり、得られたレーヨン繊維から炭の粉が脱落しやすくなったり、レーヨン繊維の強度や伸度などの性能が低下したりすることがある。木炭を用いる場合、前記割合が40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは20〜38質量%、さらに好ましくは25〜35質量%である。活性炭を用いる場合、前記割合が50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは17〜45質量%、さらに好ましくは20〜43質量%である。
【0025】
また、本発明にかかる炭の粉は粒子径が小さく、凝集し易いので、分散剤を添加することが好ましい。前記分散剤としては、アニオン系の界面活性剤が有効であり、特に限定するわけではないが、例えば、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩などが挙げられる。前記分散剤の添加量としては、特に限定されないが、例えば、分散液に対して2〜10質量%の割合とすることができる。
次に、炭の粉が分散された前記ビスコースを紡糸して、炭の粉が含有されたレーヨン繊維を得る。紡糸工程は、セルロース再生工程や凝固工程などからなる。
製造された炭含有繊維は、レーヨン繊維に特有の多孔質構造の内部に、炭の粉が担持された状態になっている。炭の粉はレーヨン繊維内に強固に捉えられていて容易に脱落し難くなっている。しかも、レーヨン繊維は、一般的な合成繊維とは違って、ビスコースに含まれていたセルロースが本来の繊維状態に再生することによって形成されるので、炭の粉の微細な多孔質構造が高分子などで埋められてしまうことはない。ビスコースおよびレーヨン繊維の製造過程における種々の処理は、炭の粉の表面の化学的性状を変化させることがないので、炭の粉の表面が有する化学的な機能が損なわれることもない。
【0026】
紡糸された炭含有繊維は、必要に応じて、延伸、切断、乾燥その他の加工工程を経て製品となる。炭含有繊維の繊維径は、5〜50μm程度のものが用いられる。炭含有繊維は、一定の長さに切断された短繊維(ステープル)と、実質的に無限長の長繊維(フィラメント)の形態の何れでも提供できる。短繊維の繊維長は、利用目的や要求性能によって適宜に設定できるが通常、130mm以下程度のものが使用される。
〔使用用途〕
炭含有繊維は、単独あるいは別の材料と組み合わせて各種製品を製造することができる。
【0027】
炭含有繊維を集積させれば炭含有綿が得られる。炭含有繊維あるいは炭含有綿から炭含有糸を製造することができる。炭含有糸は、炭含有繊維のみからなるもののほか、他の繊維と混紡することもできる。例えば、レーヨン繊維に比べて強度や耐久性に優れる合成繊維を組み合わせることで炭含有糸の強度や耐久性を向上させることができる。通常、黒色を呈する炭含有繊維に白色その他の別の色を有する繊維を組み合わせれば、黒色以外の炭含有糸を得ることができる。炭含有糸は、各種布製品の縫製や刺繍などに利用することができる。
炭含有糸を用いて編織布を製造することができる。編織布を構成する糸として、炭含有糸と通常の繊維糸とを組み合わせることができる。炭含有繊維を集積させた不織布を製造することができる。炭含有繊維を、紙の抄造原料の一部に加えておけば、炭含有紙が得られる。炭含有繊維を、合成樹脂に混合して、炭含有繊維が配合された繊維含有合成樹脂製品を得ることができる。炭含有繊維を、セメントや石膏その他の建築材料に含有させておくことができる。
【0028】
炭含有繊維あるいは炭含有繊維を含む材料を用いて製造される具体的製品を例示すると、農園芸用シート、マット材、保温シートなどが挙げられる。VOC吸着性に優れ、中でも、他の炭含有製品では吸着が非常に困難なトルエンなどの非極性のVOCに対しても良好な吸着性を示すことから、そのような非極性VOCの除去を目的とした用途に使用できる。また、本発明にかかる炭含有繊維は、VOC吸着性だけでなく、通常炭が発揮する性能も良好に発揮することができるため、調湿材料として、建築用、工業用、農業用に利用できる。防臭特性に優れていることから消臭用シートにも利用できる。野菜、果物、切り花などの鮮度保持シート、鮮度保持用成形品にも利用できる。帯電(静電気)防止用成形品としても利用できる。電磁波遮蔽特性に優れていることから、電子機器の誤動作防止対策やテレビやラジオなどへの干渉予防対策、携帯電話からの電磁波の放出防止対策などに利用する電磁波シールド材に利用したり、半導体分野で利用したりすることもできる。各種衣料品や寝装品、家庭用品に利用することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例によって本発明の炭含有繊維の製造方法をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例における測定方法および評価方法を以下に示す。
<炭の粒子径の測定>
後述する各実施例、比較例における、湿式粉砕後の各水分散液(但し、湿式粉砕を行わない場合には、乾式粉砕後の炭の粉を水に分散させたもの)を、堀場製作所社製の精製粒度分布径測定器LA−920に通過させることにより、前記各水分散液に含まれる各炭の粒子の粒子径を測定した。
【0030】
<繊維物性の測定>
JIS L 1015に準じて、繊度、乾強度、湿強度、乾伸度、湿伸度を測定した。 <繊維中の炭の粉の粒子数の測定>
測定対象となる繊維を束ね、1mmφのスリットに差し込んだ後、カミソリ刃でスリット表面に沿って切断した。この切断面を顕微鏡で観察して、任意の繊維20本あたりに存在する、粒子径が1.0μm以上または2.2μmを超える粒子の個数を計測した。
<VOC吸着性の測定>
5リットルのテドラーバックに測定試料を3.0g入れ、さらに所定の濃度に調整した測定対象ガスを3リットル注入し、ガス濃度の経時的な変化を検知管により測定した。
【0031】
<脱落試験>
測定対象となる繊維を20g採取し、500mmφセミランダムカード(大和機工社製)に3回通した後、前記VOC吸着性の測定方法と同様にして、初発濃度40ppmのトルエンを測定対称ガスとし、24時間経過後のトルエン濃度を測定することにより、そのVOC吸着性を測定した。また、前記した繊維中の炭の粉の粒子数の測定と同様の方法で、セミランダムカードに通す前と後の繊維について、同一の断面を顕微鏡で観察・比較し、炭の粉の脱落の有無を観察した。
−木炭を用いた実施例、比較例−
〔実施例1〕
<活性化木炭の製造>
赤松材をチップ化(最大差し渡し径10〜50mm、厚さ3〜5mm)して炭材を得た。
【0032】
前記炭材を100m平窯に入れ、500℃で約140時間かけて炭材を炭化させた(低温炭化工程)。
前記低温炭化工程の終了後、窯全体の炭材を撹拌することで急激に酸素を与え、次いで温度を850℃に上昇させて40分間かけて十分に精錬を行った(高温炭化工程)。
前記高温炭化工程の終了後、水をかけて消火させた。この処理によって活性化が行われ、活性化木炭が得られた(活性化工程)。このようにして得られた活性化木炭は、組織の結着密度が高く、固いものであった。炭素率は85%以上であった。
<木炭含有繊維の製造>
前記操作で得られた活性化木炭を、乾式粉砕機(セイシン社製)を用いて乾式粉砕することにより、1〜60μmレベルとした。前記乾式粉砕後の木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダ(商品名「デモールT」、花王社製)を、木炭粉の濃度が20質量%となるように水に分散させ、この分散液を湿式粉砕機(三井鉱山社製)を用いて2時間湿式粉砕処理することにより、下記木炭含有繊維の製造に用いる水分散液とした。
【0033】
上記水分散液とは別に、レーヨン繊維の原料パルプを、約18%の苛性ソーダに浸漬し、圧搾・粉砕によりアルカリセルロースを得た。次に、アルカリセルロースを老成し、二硫化炭素を反応させて、セルロースザンテートを得た。さらに、セルロースザンテートを希釈苛性ソーダで溶解し、ビスコースを得た。ビスコースを得るために用いた、セルロース、水酸化ナトリウム、二硫化炭素の割合は、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.7質量%であった。
ビスコースを紡糸する直前に、前記工程で得られた水分散液を、インジェクションポンプを用いて、セルロース分に対する木炭粉の割合が33.3質量%となるように、定量的かつ連続的に添加して、ビスコースと活性化木炭粉とを均一に混合した。活性化木炭粉が配合されたビスコースを、2浴緊張紡糸法により、繊維化した。このとき、ノズル径0.09mm、孔数4000の紡糸口金から紡糸速度50m/分で紡糸して凝固・再生浴に送った。凝固・再生浴は、硫酸:100g/リットル、硫酸亜鉛:15g/リットル、硫酸ナトリウム:350g/リットルの組成を有するミューラー浴(50℃)を用いた。
【0034】
ビスコースを繊維化して得られたビスコースレーヨンの糸条を、51mmに切断して、熱水処理、水流化処理、水洗処理を順次施して精練した。精練後、圧縮ローラーで余分な水分を繊維から落とした後、60℃で7時間乾燥して、繊維Aを得た。
〔実施例2〕
ビスコースへの水分散液添加を、セルロース分に対する木炭粉の割合が25.0質量%となるように行った点以外は、実施例1と同様にして、繊維Bを得た。
〔実施例3〕
ビスコースへの水分散液添加を、セルロース分に対する木炭粉の割合が17.6質量%となるように行った点以外は、実施例1と同様にして、繊維Cを得た。
【0035】
〔実施例4〕
ビスコースに添加する水分散液中の木炭粉の濃度を10.0質量%とした点以外は、実施例1と同様にして、繊維Dを得た。得られた繊維Dは他の繊維と比べて大きくて深い皺を多数有するものであった。
〔実施例5〕
ビスコースに添加する水分散液として、木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が10質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で6回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、繊維Eを得た。得られた繊維Eは、繊維Dと同様、他の繊維と比べて大きくて深い皺を多数有するものであった。
【0036】
〔実施例6〕
ビスコースに添加する水分散液として、木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で3回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、繊維Fを得た。
〔比較例1〕
ビスコースに添加する水分散液として、湿式粉砕の操作を実施例6と同様に変更した点と、この木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が10質量%となるように水に分散させたものを用いた点と、ビスコースへの水分散液添加をセルロース分に対する木炭粉の割合が10.0質量%となるように行った点以外は、実施例1と同様にして、繊維Gを得た。
【0037】
〔比較例2〕
ビスコースに添加する水分散液として、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で1回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点と、この木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させたものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、繊維Hを得た。
〔比較例3〕
ビスコースに添加する水分散液として、旋回渦流式粉砕装置を用いて粉砕した木炭粉を用いた点と、この木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させたものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、繊維Iを得た。
【0038】
〔比較例4〕
ビスコースに添加する水分散液として、乾式粉砕のみで湿式粉砕を行っていない木炭粉を用いた点と、この木炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、木炭粉の濃度が25質量%となるように水に分散させたものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、繊維Jを得た。
〔比較例5〕
何も添加することなく、単に実施例1と同様の方法でビスコースを紡糸することにより、繊維Kを得た。
【0039】
〔各繊維の性能〕
<繊維物性の評価>
各実施例、比較例にかかる各繊維A〜Kについて、上述の測定方法に従って、繊維物性を測定した。繊度については、各繊維とも5.6dtexであった。その他の繊維物性についての結果を、各繊維に含有される木炭粉の粒子径、繊維中の木炭粒子数、用いた水分散液の濃度および繊維中の木炭粉の含有割合とともに表1に示す。
<VOC吸着性の評価>
次に、各繊維A〜Kについて、上述の測定方法に従って、トルエン吸着性(初期性能)と、脱落試験における脱落の有無および脱落試験後のトルエン吸着性を測定した。結果を、表1に併せて示す。
【0040】
【表1】

【0041】
さらに、トルエン以外のVOC吸着性能を見るために、実施例1における繊維の紡糸条件のみを変更して、繊度が1.7dtexの繊維Lを得た。また、実施例2における繊維の紡糸条件のみを変更して、繊度が1.7dtexの繊維Mを得た。これら繊維L,Mと比較例4にかかる繊維Kを用いて、ホルムアルデヒドについても吸着性を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
<混綿フェルトの評価>
前記繊維Lを用いて、常法により木炭含有繊維と他の繊維材料からなる混綿フェルトを作成し、アセトアルデヒド吸着性を評価した。表中の混綿について、用いた繊維とその混綿比は、以下のとおりである。
混綿X:カネカロン/繊維L/レーヨン=50/30/20
混綿Y:カネカロン/繊維L/レーヨン=60/30/10
混綿Z:カネカロン/繊維L=70/30
結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
<反復的な吸着性の評価>
前記繊維L,Mを用いて、該繊維の反復的な吸着性を評価した。具体的には、上述の測定方法に従って、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドの吸着性を、次のように繰り返し測定した。すなわち、吸着性の測定を行った後、9時から16時まで天日乾燥させて、再度吸着性を測定する、という一連の操作を繰り返し行った。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
〔考察〕
(1)表1を見ると、実施例にかかる各繊維A〜Fは、繊維断面に含まれる粒子径2.2μmを超える粒子の数が0個であったことから、繊維化前に最大粒子径が2.2μm以下であっただけでなく、繊維化後においても、二次粒子化などによって最大粒子径が2.2μmを超えてしまう、といったことはないことが実証されている。
(2)表1から、実施例の各繊維A〜Fのいずれについてみても、繊維が実用上耐え得る繊維能力を有していることが分かった。
(3)また、表1から、実施例の各繊維A〜Fが比較例の繊維G,I,Jと比べて良好なトルエン吸着性を発揮していることも分かる。特に、水分散液濃度が10.0質量%で、大きくて深い皺を多数有する実施例4,5にかかる繊維D,Eは、吸着性が極めて優れていることが分かる。
【0048】
(4)一方、繊維中のセルロース分に対する木炭粉の割合が10.0質量%である比較例1にかかる繊維Gでは、トルエン吸着能が実施例にかかる各繊維A〜Fよりも著しく劣っていることが分かった。また、木炭粉の最大粒子径は本発明の範囲内にあるが、平均粒子径が本発明の範囲外にある、比較例2にかかる繊維Hについて見ると、トルエン吸着能が実施例にかかる各繊維A〜Fよりも著しく劣っていることが分かった。これは、木炭粉の平均粒子径が1.31μmと大きいため、繊維Hを得るまでの段階で、繊維から粗大粒子が脱落したためと考えられる。脱落試験によっても、繊維Iは木炭粉が脱落しやすく、この脱落により、トルエン吸着性がさらに低下していることが分かる。
【0049】
(5)木炭粉の平均粒子径は本発明の範囲内にあるが、最大粒子径が本発明の範囲外にある、比較例3にかかる繊維Iについて見ると、トルエン吸着能が実施例にかかる各繊維A〜Fよりも著しく劣っていることが分かった。これは、木炭粉の最大粒子径が2.5μmと大きいため、繊維Iを得るまでの段階で、繊維から粗大粒子が脱落したためと考えられる。脱落試験によっても、繊維Iは木炭粉が脱落しやすく、この脱落により、トルエン吸着性がさらに低下していることが分かる。
(6)木炭粉の平均粒子径が2.62μmであり、最大粒子径が12μmである、比較例4にかかる繊維Jについては、表面積が他の繊維よりも小さいために、トルエン吸着性も実施例にかかる各繊維A〜Fより著しく劣っており、さらに、脱落試験において、脱落が多く見られたうえに、トルエン吸着性能も低下していることが分かった。
【0050】
(7)表2から、本発明にかかる木炭含有繊維が、トルエンのみならず、アセトアルデヒドなどの他のVOCについても吸着性に優れることが分かる。表3から、本発明にかかる木炭含有繊維を他の繊維と組み合わせて用いても、VOC吸着性に優れることが分かる。
(8)表4からは、本発明にかかる木炭含有繊維を複数回にわたって繰り返し使用しても優れたVOC吸着性を発揮することが分かった。
−活性炭を用いた実施例、比較例−
〔実施例7〕
ヤシガラ由来の活性炭(フタムラ化学社製)を、トルネードミルを用いて粉砕し、さらにジェットミルで微粉化した(乾式粉砕)。前記乾式粉砕後の活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダ(商品名「デモールT」、花王社製)を、活性炭粉の濃度が20質量%となるように水に分散させ、この分散液を湿式粉砕機(三井鉱山社製)を用いて2時間湿式粉砕処理することにより、下記活性炭含有繊維の製造に用いる水分散液とした。
【0051】
上記水分散液とは別に、レーヨン繊維の原料パルプを、約18%の苛性ソーダに浸漬し、圧搾・粉砕によりアルカリセルロースを得た。次に、アルカリセルロースを老成し、二硫化炭素を反応させて、セルロースザンテートを得た。さらに、セルロースザンテートを希釈苛性ソーダで溶解し、ビスコースを得た。ビスコースを得るために用いた、セルロース、水酸化ナトリウム、二硫化炭素の割合は、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%であった。
ビスコースを紡糸する直前に、前記工程で得られた水分散液を、インジェクションポンプを用いて、セルロース分に対する活性炭粉の割合が33.3質量%となるように、定量的かつ連続的に添加して、ビスコースと活性炭粉とを均一に混合した。活性炭粉が配合されたビスコースを、2浴緊張紡糸法により、繊維化した。このとき、ノズル径0.09mm、孔数4000の紡糸口金から紡糸速度50m/分で紡糸して凝固・再生浴に送った。凝固・再生浴は、硫酸:100g/リットル、硫酸亜鉛:15g/リットル、硫酸ナトリウム:350g/リットルの組成を有するミューラー浴(50℃)を用いた。
【0052】
ビスコースを繊維化して得られたビスコースレーヨンの糸条を、51mmに切断して、熱水処理、水流化処理、水洗処理を順次施して精練した。精練後、圧縮ローラーで余分な水分を繊維から落とした後、60℃で7時間乾燥して、実施例7にかかる繊維A2を得た。
〔実施例8〕
ビスコースへの水分散液添加を、セルロース分に対する活性炭粉の割合が25.0質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、実施例8にかかる繊維B2を得た。
【0053】
〔実施例9〕
ビスコースへの水分散液添加を、セルロース分に対する活性炭粉の割合が17.6質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、実施例9にかかる繊維C2を得た。
〔実施例10〕
ビスコースに添加する水分散液中の活性炭粉の濃度を10.0質量%とした点以外は、実施例7と同様にして、実施例10にかかる繊維D2を得た。
〔実施例11〕
ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が10質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で10回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例7と同様にして、実施例11にかかる繊維E2を得た。
【0054】
〔実施例12〕
ビスコースへの水分散液添加を、セルロース分に対する活性炭粉の割合が17.6質量%となるように行った点以外は、実施例11と同様にして、実施例12にかかる繊維F2を得た。
〔実施例13〕
活性炭として赤松を原料とする活性炭を用い、ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で15回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例7と同様にして、実施例13にかかる繊維G2を得た。
【0055】
〔実施例14〕
活性炭として赤松を原料とする活性炭を用い、ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で15回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点と、ビスコースへの水分散液添加をセルロース分に対する活性炭粉の割合が50.0質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、実施例14にかかる繊維H2を得た。
【0056】
〔実施例15〕
活性炭として赤松を原料とする活性炭を用い、ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で20回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点と、ビスコースへの水分散液添加をセルロース分に対する活性炭粉の割合が42.9質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、実施例15にかかる繊維I2を得た。
【0057】
〔実施例16〕
活性炭として赤松を原料とする活性炭を用い、ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で8回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点と、ビスコースへの水分散液添加をセルロース分に対する活性炭粉の割合が42.9質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、実施例16にかかる繊維J2を得た。
【0058】
〔比較例6〕
ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が10質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で10回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点と、ビスコースへの水分散液添加をセルロース分に対する活性炭粉の割合が10.0質量%となるように行った点以外は、実施例7と同様にして、比較例6にかかる繊維K2を得た。
〔比較例7〕
ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で15回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例7と同様にして、比較例7にかかる繊維L2を得た。
【0059】
〔比較例8〕
ビスコースに添加する水分散液として、活性炭粉とナフタリンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを、活性炭粉の濃度が18質量%となるように水に分散させた後、湿式粉砕機(Dyno Mill KDL−PILOT、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて、20リットル/分の流量で3回湿式粉砕機を通過させたものを用いた点以外は、実施例7と同様にして、比較例8にかかる繊維M2を得た。
〔各繊維の性能〕
<繊維物性の評価>
各実施例、比較例にかかる各繊維A2〜M2について、上述の測定方法に従って、繊維物性を測定した。各繊維の繊維物性についての結果を、各繊維に含有される活性炭粉の粒子径、繊維中の活性炭粒子数、用いた水分散液の濃度および繊維中の活性炭粉の含有割合とともに表5に示す。
【0060】
<VOC吸着性の評価>
次に、各繊維A2〜M2について、上述の測定方法に従って、トルエン吸着性(初期性能)と、脱落試験における脱落の有無および脱落試験後のトルエン吸着性を測定した。結果を、表5に併せて示す。
【0061】
【表5】

【0062】
〔考察〕
(1)表5を見ると、実施例にかかる各繊維A2〜J2は、繊維断面に含まれる粒子径2.2μmを超える粒子の数が0個であったことから、繊維化前に最大粒子径が2.2μm以下であっただけでなく、繊維化後においても、二次粒子化などによって最大粒子径が2.2μmを超えてしまう、といったことはないことが実証されている。
(2)表5から、実施例の各繊維A2〜J2のいずれについてみても、繊維が実用上耐え得る繊維能力を有していることが分かった。
(3)また、表5から、繊維中のセルロース分に対する活性炭粉の割合が10.0質量%である比較例5にかかる繊維K2では、トルエン吸着能が実施例にかかる各繊維A2〜J2よりも著しく劣っていることが分かった。
【0063】
(4)活性炭粉の平均粒子径は本発明の範囲内にあるが、最大粒子径が本発明の範囲外にある、比較例6にかかる繊維L2、および、活性炭粉の最大粒子径は本発明の範囲内にあるが、平均粒子径が本発明の範囲外にある、比較例7にかかる繊維M2について、粒子径に関する条件以外はほぼ同等の条件で作製した実施例7にかかる繊維A2と比較すると、上述の活性化木炭における実施例と比較例の間に見られる差ほど顕著な差ではないが、やはり、繊維A2よりも繊維L2、繊維M2の方が初期性能に劣っていることが分かる。また、これらの繊維L2および繊維M2は、脱落試験において、脱落が多く見られたうえ、トルエン吸着性能も低下していることが分かった。そのため、脱落を防止して経時的に安定したVOC吸着性能を有する活性炭含有繊維を得るためには、活性炭粉の平均粒子径と最大粒子径がともに本願発明の条件を満たしている必要のあることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明にかかる炭の含有繊維およびその製造方法は、例えば、炭の有する各種性能、特に、VOC吸着性にも優れる各種衣料品や寝装品、家庭用品として、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭の粉を含有させてなるレーヨン繊維において、前記炭の粉は、平均粒子径が1.2μm以下であり、最大粒子径が2.2μm以下であり、セルロース分に対する割合が15質量%以上である、VOC吸着性にも優れる、炭含有繊維。
【請求項2】
前記炭の粉のセルロース分に対する割合が50質量%以下である、請求項1に記載の炭含有繊維。
【請求項3】
前記炭の粉の平均粒子径が0.2μm以上である、請求項1または2に記載の炭含有繊維。
【請求項4】
前記炭の粉の最大粒子径が2.0μm以下である、請求項1から3までのいずれかに記載の炭含有繊維。
【請求項5】
前記炭の粉の80%以上が粒子径1μm以下のものである、請求項1から4までのいずれかに記載の炭含有繊維。
【請求項6】
前記炭が木炭であり、その粉の平均粒子径が0.65μm以下である、請求項1から5までのいずれかに記載の炭含有繊維。
【請求項7】
前記木炭が活性化木炭である、請求項6に記載の炭含有繊維。
【請求項8】
前記炭が活性炭である、請求項1から5までのいずれかに記載の炭含有繊維。
【請求項9】
平均粒子径が1.2μm以下、最大粒子径が2.2μm以下である炭の粉を水に分散させて5〜25質量%の水分散液とし、前記水分散液とビスコースを、セルロース分に対する前記炭の粉の割合が15質量%以上となるようにして混合し、この混合液を紡糸する、請求項1から8までのいずれかに記載の炭含有繊維の製造方法。
【請求項10】
前記炭の粉が、炭を乾式粉砕し、次いで、湿式粉砕することにより得られたものである、請求項9に記載の炭含有繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−179931(P2008−179931A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264761(P2007−264761)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(591264267)ダイワボウレーヨン株式会社 (13)
【出願人】(597021369)日の丸カーボテクノ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】