説明

炭素材料、治具及び炭素材料の製造方法

【課題】発塵を抑制しつつ、窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができる炭素材料、治具及び炭素材料の製造方法の提供。
【解決手段】炭素基材表面に炭化金属層が形成された炭素材料において、上記炭化金属層は、炭化モリブデン又は炭化鉄から構成されている。モリブデン粒子又は鉄粒子と、熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤3中に埋め込まれた炭素基材2を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料、治具及び炭素材料の製造方法に関するものであり、不純物の放出を抑制でき、且つ、窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができる炭素材料、治具及び炭素材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材は、軽量であるとともに、化学的安定性や熱的安定性に優れるという特性を有している。しかし、発塵性を有するため、半導体製造工程等における材料としては使用が制限される。
そこで、下記特許文献1や、特許文献2に示されるように、ハロゲン化クロムガスにて炭素基材を処理することによって、炭素基材の表面にCr23からなる炭化クロム層を設け、その炭化クロム層に金属を溶射して被覆する発明が提案されている。しかしながら、金属を溶射できるようなCr23からなる層を形成するためには、長時間を要すると共に、水素ガス雰囲気中で処理することが必須となっていたり、或いは、減圧下で処理したり、処理が煩雑であるという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献3に示すように、遷移金属を含む金属粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤に埋め込まれた炭素基材を、炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理するような提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−143384号
【特許文献2】特開平8−143385号
【特許文献3】特開2010−132518号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記半導体製造工程等においては、窒素雰囲気中で各種の処理が行われることがあるため、炭素基材を覆う炭化金属層が、窒素雰囲気下における温度耐性に優れることが要求される。しかしながら、上記特許文献3に示す如く、遷移金属を炭素基材表面に形成するだけでは、必ずしも窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができない。
【0006】
本発明は、上記課題を考慮したものであり、発塵を抑制しつつ、窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができる炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、炭素基材表面に炭化金属層が形成された炭素材料において、上記炭化金属層は、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄から成ることを特徴とする。なお、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄から成るとは、炭化金属層における金属成分において、モリブデン及び/又は鉄が90重量%以上であることをいい、X線回折において他金属がほぼ検出されないレベルであることが好ましい。
上記構成の如く、炭素基材表面に炭化金属層が形成されているので、発塵を抑制することができる。加えて、上記炭化金属層は炭化モリブデン及び/又は炭化鉄から構成されているので、窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができる。
【0008】
上記炭化金属層は炭化モリブデンから成ることが望ましい。
炭化モリブデンは炭化鉄と比べて、窒素雰囲気下における温度耐性がより優れるからである。
【0009】
前記炭化金属層は、炭素基材表面の炭素と金属とが反応して形成した層であることが望ましい。
【0010】
また、上記目的を達成するために本発明は、窒素雰囲気下において用いられる治具であって、炭素基材に、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄を含む炭化金属層が形成されていることを特徴とする。
前記炭化金属層は炭化モリブデンから成ることが望ましく、前記炭化金属層は、炭素基材表面の炭素と金属とが反応して形成した層であることが望ましい。
【0011】
また、上記目的を達成するために本発明は、モリブデン粒子及び/又は鉄粒子と、熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤中に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することを特徴とする。
上記方法であれば、上記炭素材料を容易且つ安価に製造することができる。具体的には、以下の通りである。
【0012】
炭化モリブデンや炭化鉄から成る炭化金属層の製造方法としては、蒸着法やCVD法等が考えられる。蒸着法やCVD法では、原料として用いるモリブデンや鉄は酸化し易く、特にモリブデンは常温でも酸化するため、精密に脱酸素することできる真空設備が必要となる。また、蒸着装置やCVD装置においてハロゲン化合物を用いた場合には、スクラバー設備が必要になる。さらに、蒸着法やCVD法では、基材上に新たに膜を形成するものであるため基材との密着性が悪く、その製法上、複雑な形状の基材の全面に膜を形成することが困難であった。
したがって、炭素材に炭化モリブデンや炭化鉄を形成した材料は、生産コストが高騰するとともに、特性面でも満足するものが得られず、実用化が難しかった。
【0013】
これに対して、上記製造方法(CVR法)を用いれば、真空設備等を用いることなく、炭素基材に炭化モリブデンや炭化鉄から成る炭化金属層を形成させることができる。この炭化金属層は、炭素基材の表面の炭素と金属とが反応して表面が改質された層であり、剥がれ等が生じにくい密着性が非常に高い層である。また、酸化されやすいモリブデンを使用した場合でも、炭素基材やCVR法で使用する炭素部材(後述の炭素材からなる容器や炭素粉末)が炭素を含むため、モリブデン等が酸化した場合であっても、加熱処理によって還元され易くなる。このため、炭化モリブデンや炭化鉄から成る炭化金属層を炭素基材の表面に容易に形成できる。
【0014】
上記表面改質剤は、モリブデン粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤とから成ることが望ましい。
このような方法であれば、窒素雰囲気下における温度耐性が炭化鉄より優れた炭化モリブデンが炭素基材の表面に形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭素基材の表面に炭化モリブデンや炭化鉄から成る炭化金属層が形成されているので、発塵を抑制しつつ、窒素雰囲気下における温度耐性を向上させることができ、且つ、炭化金属層を安価に形成できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の炭素材料の製造方法に用いられる装置の一例を示す図である。
【図2】本発明材料Aと比較材料ZとのX線回折チャートを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における炭素材料は、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄から成る炭化金属層が炭素基材表面に形成された炭素材料である。この炭化金属層は、この炭化金属層は、炭素基材の表面の炭素と金属とが反応して表面が改質された層である。また、その製造方法は、モリブデンや鉄から成る金属粒子(モリブデンや鉄のみから構成されているのが、より望ましい)と熱分解性ハロゲン化水素発生剤等とを含む表面改質剤(粉体状)に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理する。
【0018】
本発明の炭素材料の製造方法においては、処理されるべき炭素基材を、その炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理している。この炭素部材としては、黒鉛坩堝等の炭素からなる容器、炭素粉末などが挙げられる。このように、炭素部材とともに、処理されるべき炭素基材を加熱処理することにより、短時間で炭素基材に炭化金属層を形成することができる。これは、炭素部材を用いることにより粉体に含まれるモリブデンや鉄、熱分解性ハロゲン化水素発生剤等の材料を効率的に炭素基材の表面処理に利用できるため、必要な熱量を下げることができるためであると推察される。
熱処理の時間は、1時間未満の処理にて炭素基材に炭化金属層を色むらなくほぼ均一に形成することができる。この炭化金属層は、30分もあれば十分形成することができる。この処理時間は、炭化金属層を厚くする必要がある場合には、より長時間、たとえば1時間以上行ってもよい。
【0019】
上記加熱処理は、800℃以上1500℃以下で行うことが好ましい。この温度範囲内で処理することにより、効率的に炭素基材を処理することができる。なお、温度が低すぎる場合には、炭化金属層の生成が遅くなる可能性があり、温度が高すぎる場合には、加熱処理において反応しなかった粉体が炭素基材に融着する可能性がある。
【0020】
また、上記加熱処理においては、常圧で処理することが好ましい。常圧で処理できることにより、真空ポンプ等の設備が不要であって、減圧にかかる時間が不要となり、処理が簡易となるとともに、処理時間の短縮となる。なお、減圧下で処理してもよいが、熱分解性ハロゲン化水素発生剤が低温での急激な分解が生じる可能性があるため、ハロゲン化水素を効率的に反応させることが困難となるとともに、粉体が飛散する可能性がある。
【0021】
さらに、本発明の炭素材料の製造方法においては、水素ガスの導入が不要であるため、安全性を向上させることができ、容易に処理することができる。
【0022】
本発明にかかる炭素材料では、炭化金属層の表面に金属層を形成することができるが、この場合、炭化金属層と金属等の層との密着性を良好に保持することができる。後に炭化金属層の表面に金属層等を形成する方法としては、メッキ法、溶射法等が挙げられ、特に密着性の向上する方法としては、メッキ法である。
【0023】
以下、本発明において使用される各部材について説明していく。
上記炭素基材としては、特に限定されるものではなく、たとえば等方性黒鉛材、異方性黒鉛材、炭素繊維材等が挙げられる。この炭素基材としては、かさ密度が1.4〜2.1g/cmであることが好ましく、平均気孔半径10μm以下、気孔率40%以下であることが好ましい。
【0024】
上記熱分解性ハロゲン化水素発生剤とは、常温・常圧では固体状態を保ち、加熱により分解して、塩化水素、フッ化水素、臭化水素等のハロゲン化水素を発生するものである。この熱分解性ハロゲン化水素発生剤の熱分解温度としては、200℃以上の温度であることが、加熱する前の取り扱いが容易であり好ましい。この熱分解性ハロゲン化水素発生剤から発生したハロゲン化水素は、加熱処理中にモリブデンや鉄と反応してハロゲン化金属ガスを発生する。このハロゲン化金属ガスにより炭素基材を処理することにより炭素基材の表面に炭化金属層を形成することができる。このように炭素基材の処理がガスによるものであるため、炭素基材に穴、溝等を形成したような複雑な形状である場合においても、炭素基材にほぼ均一に炭化金属層を形成することができる。
この熱分解性ハロゲン化水素発生剤としては、入手のしやすさから塩化アンモニウムが好ましい。
【0025】
上記炭素部材としては、たとえば黒鉛坩堝等の炭素からなる容器、炭素粉末などが挙げられる。
炭素部材を用いることにより、炭素基材の処理時間を短縮することができるとともに、水素ガスの供給を不要にすることができ、より簡易に炭素基材を表面改質することができる。これにより、後に表面に形成される金属等の層との密着性を向上させるとともに、炭素基材よりも強度を向上させることができる。また、減圧を必要とせず、常圧(大気圧中)にて加熱処理することができ、処理を簡易にすることができる。
【0026】
上記炭素部材としては、黒鉛坩堝を用いることが好ましい。処理する際に黒鉛坩堝を用いることにより、埋め込まれた炭素基材の周囲における気体の流れを抑制することができ、炭素基材の表面に色むらなくより均一に炭化金属層を形成することができる。また、粉体から発生したガスを黒鉛坩堝内にある程度留めておけるため、発生したガスを有効利用することができる。この黒鉛坩堝には蓋をしておくことが好ましく、この蓋により炭素基材の周囲における気体の流れをより抑制することができる。この蓋としては、黒鉛製のもの、黒鉛からなるシート等が挙げられる。また、容器内で発生する気体を逃がすために、容器又は蓋に通気孔を設けておくことが好ましい。なお、黒鉛からなるシートを使用する場合には、単に覆っているだけであるため、特に通気孔は必要ではない。
【0027】
炭素部材として、炭素粉末を使用する場合には、容器にモリブデンや鉄から成る金属粒子、熱分解性ハロゲン化水素発生剤及び炭素粉末を含む粉体を容器に充填し、この容器に充填した粉体に炭素基材を埋め込み加熱処理すればよい。なお、この炭素部材として炭素粉末を使用する場合には、容器としては特に限定されることはない。そして、処理する際に、蓋をする、あるいは黒鉛からなるシートを被せる等して、容器内の気体の流れを抑制してもよい。また、容器として上記の黒鉛坩堝を用いてもよい。
【0028】
上記説明したように、炭素基材を埋め込んだ容器には、直接導入ガスを吹き込まないようにしている。逆に、水素ガスを導入しつつ処理しようとしても、黒鉛坩堝等の容器が水素ガスの妨げとなり、効率よく水素ガスを用いた処理を行うことは困難である。
【0029】
次に、本発明の炭素材料の製造方法における加熱処理を行うための加熱装置の一例について、図1を用いて説明する。ここでは、炭素部材として黒鉛坩堝を使用した場合について説明する。
図1に示すように、本発明の炭素材料の製造方法に用いられる加熱装置(本加熱装置)は、加熱ヒーターを有する加熱炉1を備え、この加熱炉1内に載置された処理物を加熱処理するようになっている。この加熱炉1には、吸気口4及び排気口5が設けられている。この吸気口5からは場合に応じて窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが導入できるようになっている。
【0030】
また、本加熱装置には、加熱炉1内に黒鉛坩堝6が配置されるようになっている。この黒鉛坩堝6には、粉体(表面改質剤)3が充填され、この充填された粉体3に処理される炭素基材2が埋め込まれるようになっており、さらに蓋体7で蓋がされるようになっている。この蓋体7には通気孔が設けられている。この粉体3は、熱分解性ハロゲン化水素発生剤と、モリブデンや鉄から成る金属粉(金属粒子)とが含まれている。なお、この粉体3には反応に関与しないアルミナ粉を添加してもよい。
【0031】
上記図1の加熱装置では、炭素部材としての黒鉛坩堝6に粉体3を充填し、この充填した粉体3に炭素基材2を埋設して、蓋7をする。そして、この黒鉛坩堝6を加熱装置に配置し、加熱する。以上の構成により、本発明の炭素材料の製造方法を実施することができる。
【0032】
また、本発明の炭素材料は、炭素基材上にMoC及び/又はFeCから成る炭化金属層を有している。この炭化金属層の最大厚さとしては100μm以下であることが好ましい。一方、炭化金属層の最小厚さとしては0μmを超えていれば本発明の作用効果は発揮できるが、より十分に作用効果を発揮させるためには0.5μm以上であることが望ましい。加えて、より一層好ましくは、炭化金属層の厚さは1μm以上50μm以下であることが好ましい。これは、炭化金属層の厚さが1μm未満の場合には、処理されるカーボンの全面改質が困難であるという不都合が生じることがある一方、炭化金属層の厚さが50μmを超える場合には、最終の炭素材の寸法変化が大きくなりすぎるため、寸法制御が困難であるという不都合が生じることがあるという理由による。
【0033】
尚、モリブデンや鉄の量は炭素基材の表面積に応じて変化させる必要があるが、炭素基材1cm当たり0.3〜0.6g程度に規制するのが好ましい。このように規制すれば、上述したような膜厚の炭化金属層を得ることができるからである。
【0034】
また、金属粉としてモリブデン粉を用い、熱分解性ハロゲン化水素発生剤として塩化アンモニウムを用いる場合には、モリブデン粉1に対して塩化アンモニウム0.05〜0.3の重量比に規制するのが好ましい。更に、金属粉として鉄粉を用い、熱分解性ハロゲン化水素発生剤として塩化アンモニウムを用いる場合には、鉄粉1に対して塩化アンモニウム0.05〜0.3の重量比に規制するのが好ましい。塩化アンモニウム粉が少な過ぎると、炭素基材上に炭化金属層膜が十分に生成されない一方、塩化アンモニウム粉が多過ぎると、ハロゲン化水素が発生しすぎるため、炭化基材上に炭化金属層が十分に生成されないという問題が生じるからである。
【0035】
炭化金属層の形成後、さらに熱処理を施すことにより、炭化金属層を安定化させてもよい。この熱処理は、水素ガス等の還元ガス雰囲気中、500℃以上1500℃以下の温度で、30分程度処理すればよい。
【0036】
なお、本発明の炭素材料は、治具として好適に使用できる。治具は、種々の形状が求められるが、炭素基材は加工しやすいため、予め炭素基材を所望の形状に加工し、上記のとおり処理して、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄層を形成することにより容易に製造することができる。上記の方法によれば、炭素基材をガスにより処理しているため、炭素基材に穴、溝等を形成したような複雑な形状である場合においても、炭素基材にほぼ均一に炭化金属層を形成することができる。この治具は、耐窒素性に優れ、半導体製造工程等における窒素雰囲気下で好ましく使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図1に示す装置を用い、黒鉛坩堝(東洋炭素株式会社製、型番IG−11)に、モリブデン粉末(17g)、塩化アンモニウム(NHCl)粉末(2.8g)、アルミナ(Al)粉末(17g)からなる混合粉体を充填し、この充填された混合粉末に、幅10mm×長さ60mm×厚さ10mmの炭素基材(冷間等方圧加圧成形を経た緻密質等方性黒鉛;かさ密度1.8、平均気孔半径5μm、気孔率20%)を埋め込み、蓋をして加熱炉に配置して、1200℃で30分間、加熱処理した。加熱時、吸気口から窒素を導入し、排気口から自然排気させた。これにより、炭化モリブデンから成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は5μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A1と称する。
【0039】
(実施例2)
塩化アンモニウム粉末の量を1.4gにした他は上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。これにより、炭化モリブデンから成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は5μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A2と称する。
【0040】
(実施例3)
塩化アンモニウム粉末の量を5.6gにした他は上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。これにより、炭化モリブデンから成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は5μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A3と称する。
【0041】
(実施例4)
モリブデン粉末の代わりに鉄粉末(17g)を用い、加熱処理温度を1100℃にした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。これにより、炭化鉄から成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は2μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A4と称する。
【0042】
(比較例1)
モリブデン粉末の代わりにクロム粉末(17g)を用い、加熱処理温度を800℃にした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。これにより、炭化クロムから成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は2μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z1と称する。
【0043】
(比較例2)
モリブデン粉末の代わりにステンレス粉(SUS316粉末)を用い、加熱処理温度を1000℃にした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。これにより、ステンレスを構成する金属の炭化物から成る炭化金属層が、炭素基材の表面に形成された炭素材料を得た。尚、炭化金属層の膜厚は5μmであった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z2と称する。
【0044】
(実験)
上記本発明材料A1〜A4及び比較材料Z1、Z2を、窒素雰囲気下、300℃、500℃、及び1000℃でアニール処理を行って、各炭素材料の表面での変色の有無について調べたので、その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1から明らかなように、金属原料としてクロムを用いた比較材料Z1では300℃で変色し、金属原料としてステンレスを用いた比較材料Z2では500℃で変色しているのに対して、金属原料としてモリブデンを用いた本発明材料A1〜A3及び金属原料として鉄を用いた本発明材料A4では、1000℃でも変色していないことが認められる。また、上記窒素雰囲気下でのアニール処理後の本発明材料A1〜A4における発塵や炭化金属層の剥がれはなかった。
【0047】
この理由を調べるべく、1000℃でアニール処理した後の本発明材料A1と、300℃でアニール処理した後の比較材料Z1とのX線回折(装置:リガク社製X−ray Diffractometer RINT2000)を測定したので、その結果を図2に示す。図2において、上側のX線回折チャートは本発明材料A1であり、下側のX線回折チャートは比較材料Z1である。
図2から明らかなように、本発明材料A1では炭素基材の表面には炭化モリブデンのみが存在している(炭化モリブデンが窒化されていない)のに対して、比較材料Z1では炭素基材の表面には炭化クロムのみならず窒化クロムが存在している(炭化クロムが窒化されている)ことが認められる。
【0048】
このように、比較材料Z1、Z2では窒素雰囲気でのアニール処理により変色が生じるため、見栄えが悪くなるという問題が生じる他に、表面にある炭化金属が窒化されるために、剥がれ易くなるといった問題が生じる。これに対して、本発明材料A1〜A4では窒素雰囲気でのアニール処理により変色が生じないため、これらの問題が発生するのを抑制することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の炭素材料及びその製造方法は、半導体分野等で用いることができる。特に、本発明の炭素材料は、窒素雰囲気下で用いられる治具として有用な材料である。
【符号の説明】
【0050】
1 加熱炉
2 炭素基材
3 粉末
4 吸気口
5 排気口
6 黒鉛坩堝
7 蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材表面に炭化金属層が形成された炭素材料において、
上記炭化金属層は、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄から成ることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
上記炭化金属層は炭化モリブデンから成る、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭化金属層は、炭素基材表面の炭素と金属とが反応して形成した層である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
窒素雰囲気下において用いられる治具であって、
炭素基材に、炭化モリブデン及び/又は炭化鉄を含む炭化金属層が形成されていることを特徴とする治具。
【請求項5】
前記炭化金属層は炭化モリブデンから成る、請求項4に記載の治具。
【請求項6】
前記炭化金属層は、炭素基材表面の炭素と金属とが反応して形成した層である、請求項4又は5に記載の治具。
【請求項7】
モリブデン粒子及び/又は鉄粒子と、熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤中に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することを特徴とする炭素材料の製造方法
【請求項8】
上記表面改質剤は、モリブデン粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤とから成る、請求項7に記載の炭素材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136383(P2012−136383A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289642(P2010−289642)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】