炭素繊維ストランド用表面処理装置
【課題】表面が均一に電解酸化処理された炭素繊維が得られる炭素繊維用表面処理装置を提供する。
【解決手段】下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に並べられた複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【解決手段】下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に並べられた複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維ストランドを、電極を備えた電解槽の電解液に浸漬することにより炭素繊維表面の電解酸化処理を行う炭素繊維ストランド用表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を炭素繊維で補強した炭素繊維複合材料は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、疲労特性に優れるなどの特長を有しており、スポーツ・レジャー、航空・宇宙等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
炭素繊維は、アクリル繊維等の原料繊維を空気中で200〜300℃に加熱することにより耐炎繊維とした後、不活性ガス雰囲気中1000℃以上で焼成することにより製造される。
【0004】
炭素繊維複合材料の強度・弾性率等の機械的特性は、炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性により大きな影響を受ける。そのため、耐炎化工程、炭素化工程を経た後、マトリックス樹脂との親和性を高めることを目的として炭素繊維の表面に含酸素官能基を導入する酸化処理が一般に行われる。
【0005】
炭素繊維表面の酸化処理としては、液相における薬液酸化・電解酸化、気相酸化などの方法で処理することが知られている。これら表面処理のうち、生産性が高く、処理が均一に行える等の理由により、液相における電解酸化処理が広く採用されている。液相電解酸化処理は、電解質水溶液中で炭素繊維と、電極との間に電圧を印加することにより、炭素繊維を電解酸化する処理方法である。
【0006】
炭素繊維は、その製造工程において1,000〜80,000本程度の束形状に製造される。炭素繊維の表面処理は、平行に走行する多数のストランドを電解液に浸漬することにより行われる。電解槽としては従来様々な構造のものが開発されているが、例えば、電解槽から電解液をオーバーフローさせ、液面が電解槽の側壁よりわずかに高くなっているところに炭素繊維を通過させることにより、表面処理するオーバーフロー型の電解槽が従来用いられている(例えば、特許文献1参照)。この電解槽においては、炭素繊維を電解液に浸漬したり、電解液から炭素繊維を引き上げたりするためのガイドローラーを使用する必要がない。そのため、炭素繊維に毛羽を生じにくく、品位の高い製品が得られる利点を有している。その反面、常時電解槽に電解液を供給してオーバーフローさせる必要があるので、表面の酸化処理状態が電解液の流速による影響を受けやすい。多数のストランドを同時に表面処理する場合には、ストランド間で表面酸化状態にムラが生じることが問題となっている。
【0007】
表面の酸化処理が均一でない炭素繊維をマトリックス樹脂に配合した場合には、炭素繊維の表面の官能基が少ない部分とマトリックス樹脂との接着が不十分となり、高いコンポジット物性を示す複合材料が得られない。
【0008】
本発明者は、多数の炭素繊維ストランド間で炭素繊維表面が均一に酸化処理される装置について検討を行った結果、電解槽内に電解液流入口からの距離に応じて開口率を変化させた整流板を水平に挿入することにより、ストランドに供給される電解液の流量がストランド間で一定となり、ストランド間の表面処理状態のばらつきが抑制されることを見出し、先に特許出願を行った(特願2007−89088)。
【0009】
しかしながら、この装置は、整流板の開口率が低い部分に電解液が滞留し、これにより電解液に含まれる成分が析出し易い。この装置は運転開始直後においてはストランドに供給される電解液の流量が均一化されているものの、時間が経過するにつれて整流板の目詰まりによる流量のばらつきが生じている。そのため、析出した成分を除去することが必要になり、装置の維持管理に手間がかかるものとなっている。
【特許文献1】特開昭58−115123号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、多数の炭素繊維ストランド間で炭素繊維表面が均一に酸化処理され、マトリックス樹脂に配合したときに高いコンポジット物性を示す炭素繊維が得られる炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、電解液成分の析出及び発生する気泡による整流板の目詰まりが生じない炭素繊維ストランド用表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を行った結果、電解槽内の電解液の流路に貫通孔が均一に形成された整流板を複数枚挿入することにより、ストランドに供給される電解液の流量がストランド間で一定となり、ストランド間の表面処理状態のばらつきが抑制され、装置の目詰まりが軽減されることを見出した。
【0012】
即ち、上記課題を解決する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は
(1)下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、又は
(2)その下部側に、前記供給管が連結された電解液流入室であって内槽の配列方向に対して直角方向に形成された側壁が厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された垂直整流板により形成された電解液流入室を備えるとともに、前記電解液流入室の上方に水平に取付けられた電極と、厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された1枚以上の整流板であって、最上位のものが前記電極の上方に水平に取り付けられている整流板と、
を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0014】
〔2〕 内槽の形状が、上端が開放され、下端が下壁により閉塞された角筒状であって、下壁に電解液受け入れのための1以上の流入口が形成され、前記流入口に前記供給管が連結された〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0015】
〔3〕 内槽の配列方向に対して直角方向の流入口の口径が、内槽の配列方向に対して直角方向の内槽内幅の15〜80%である〔2〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0016】
〔4〕 整流板に形成された貫通孔の直径が2.5〜10mmである〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0017】
〔5〕 〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置を用いる炭素繊維ストランドの表面処理方法であって、炭素繊維処理量A(kg/hr)、処理液流量B(m3/hr)が、1.0<A<250、0.3<B<120、0.1<B/A<25の範囲内に制御される炭素繊維ストランドの表面処理方法。
【0018】
〔6〕処理液の内槽上端における電解液の平均流速が4〜30mm/secの範囲内に制御される〔5〕に記載の表面処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の表面処理装置は、電解液が下方から上方へ流通する電解槽内槽に、均一に貫通孔が形成された複数の整流板が挿入されている。そのため、電解液は内槽の上端側を均一な流速で上昇し、内槽の上端から外槽内にオーバーフローする。整流板に形成された貫通孔の孔径、孔ピッチが同一整流板においては均一であることから、電解に伴って発生する気泡や電解液の滞留に伴う成分の析出による整流板の目詰まりがほとんど生じない。そのため、長時間に亘って流速が均一化された電解液を炭素繊維ストランドに供給することができる。
【0020】
本発明の処理装置によれば、装置の機幅方向でオーバーフロー高さを均一とすることができるので、炭素繊維ストランドの表面酸化処理状態は、ストランド間でのばらつきが抑制される。本発明によれば、多数の炭素繊維ストランドを同時に均一に表面処理することができるので、この炭素繊維を熱硬化性樹脂や熱硬化性樹脂に配合することにより機械的強度の高い炭素繊維複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第一の形態
本発明で使用する表面処理装置の一例の概略構成図を図1に示す。
【0022】
図1中、100は表面処理装置で、1は電解槽である。電解槽1は複数の内槽3と、外槽13とからなる。
【0023】
内槽3の平面図を図2に、側面断面図を図3に、正面断面図を図4に示す。
【0024】
図3,4において、角筒状に形成された内槽3の上端3aは開放され、下端は下壁3bにより閉塞されている。下壁3bには、中心部に流入口9が形成されている。流入口9には、供給管10が連結されている。これにより、内槽3の内部と供給管10の内部とは連通される。
【0025】
内槽3内には、その下部側に平板状に形成された電極5が下壁3bに沿って挿入されている。電極5は、図4に示すように一端が内槽3の側壁3cに沿って折り曲げられ、電解槽1の外部で不図示の保持部材により支持されるとともに、外部電源に接続されている。
【0026】
図2〜4中、矢印Xは炭素繊維ストランド11の走行方向を、矢印Y(即ち、矢印Xの直角方向)は装置の機幅方向を示す。電極5のX方向の長さと、Y方向の長さは、それぞれ内槽3の内長さL2、内幅L1より短く形成されている。電極5のX方向の長さは内槽3の内長さL2の20〜90%であり、Y方向の長さは内槽3の内幅L1の60〜100%である。
【0027】
電極5の上方には、3枚の整流板7a、7b、7cが一定の間隔離間されて水平に挿入されている。整流板7a〜7cには、厚さ方向に貫通する貫通孔8が多数形成されている。整流板7a〜7cに形成された多数の貫通孔8は、その直径とピッチがそれぞれの整流板において同一である。図3、図4においては、整流板7a〜7cに形成された貫通孔の直径とピッチは整流板間で同一である。従って、整流板7a〜7cは、整流板間で開口率が等しくなっている。
【0028】
図1に示すように、多数の内槽3は炭素繊維ストランド11の走行方向Xに沿って、外槽13内に直列に配列されている。隣り合う内槽3の中央間距離は、内槽の内長さL2に対し115〜250%程度である。多数の内槽3内に備えられた電極5には、隣り合う内槽間で交互に陽極と陰極として作用するよう電圧が印加されている。
【0029】
内槽3は、その上端3aが外槽の上端13aと同じ高さ又は外槽の上端13aより高くなるように配設されている。外槽13の側壁13bには、排出口15が形成されている。
【0030】
排出口15には排出樋21が接続され、排出樋21の他端側は電解液タンク17に接続されている。排出口15から流出した電解液は、排出樋21により電解液タンク17内に流入する。
【0031】
電解液タンク17と複数の内槽3とは、供給管10により接続されている。供給管10は、電解液タンク17に接続された主管10aと、外槽13の下壁を貫通すると共に複数の内槽3の流入口9に接続された枝管10bとからなる。主管10aにはポンプ19が介装され、枝管10bにはそれぞれバルブ23が介装されている。
【0032】
電解液タンク17に貯留される硫酸等の電解液は、ポンプ19により流入口9から内槽3内に導入される。その後、電極5と内槽側壁の間を通過した後、整流板7a〜7cに形成された貫通孔8を通過する。電解液は下方から上方に向かって整流板7a〜7cを通過することにより均一な流れとなって、内槽3の上端3aに到達する。内槽3の上端3aで内槽3からオーバーフローした電解液は、炭素繊維11と接触した後、外槽13に受け入れられる。外槽13内の電解液は、外槽13の形成された排出口15から排出樋21に流出し、再び電解液タンク17に貯留される。
【0033】
炭素繊維ストランド11は、内槽3上方で内槽から外槽13へオーバーフローする電解液中を通過することにより電解液に浸漬される。炭素繊維は導電性が高いので、隣り合う内槽3の間で交互に陽極又は陰極として作用する電極5に電圧を印可することにより電解液中で炭素繊維の表面が電解酸化される。これにより、カルボキシル基、カルボニル基等の含酸素官能基が炭素繊維表面に導入される。炭素繊維ストランド11は、電解槽1上を通過することにより、内槽から外槽にオーバーフローする電解液に繰り返し浸漬され、表面が繰り返し電解酸化処理される。炭素繊維ストランド11は、電解槽通過終了とともに電解酸化処理が終了し、水洗、サイズ剤付与、乾燥等の後工程に送られる。その後、ワインダーに巻き取られて最終製品となる。
【0034】
なお、上記説明においては、同一径、同一ピッチの貫通孔8が形成された整流板7a〜7cを用いる場合について説明したが、貫通孔8の直径、ピッチは、複数の整流板間で異なっていてもよい。但し、1枚の整流板に形成する貫通孔の直径、ピッチはそれぞれ同一である。
【0035】
貫通孔8の形状は1枚の整流板において同一であれば特に制限されるものではないが、円形であることが好ましい。
【0036】
整流板7に形成する貫通孔8の孔径Dは2.5〜10mmとすることが好ましい。2.5mm未満では、製作が困難なうえ、詰まりが生じる虞がある。10mmを超えると孔の部分で極端に流量が増加し、整流板により流量分布を均一化することが困難である。
【0037】
貫通孔8のピッチEは5〜20mmとすることが好ましい。ピッチが5mm未満の場合、製作が困難であることに加え、抵抗が小さくなり、整流板挿入の効果が喪失する虞がある。20mmを超えると、孔の部分で極端に流量が増加し、流量分布を均一化することが困難である。
【0038】
貫通孔の孔径Dと孔ピッチEとは、0.125<D/E<0.75の関係を満たすように形成することが好ましい。D/Eの値が0.125未満であると、抵抗が極端に上がり、装置への負担が増加する。また、流量分布を均一化することが困難である。D/Eの値が0.75より大きいと、整流板の開口率が大きくなりすぎるため、整流板が破損し易くなる傾向がある。
【0039】
整流板7の開口率は、1.5〜50%とすることが好ましい。開口率が1.5%未満の場合、抵抗が極端に上がり、装置への負担が増加する傾向がある。50%より大きいと、抵抗が極端に小さくなり、流量分布の均一化が困難となる。
【0040】
各整流板の厚さは、3〜20mmとすることが好ましく、5〜10mmとすることがより好ましい。また、整流板7a、7b、7cの間隔は、10〜150mmとすることが好ましく、25〜100mmとすることがより好ましい。
【0041】
上記説明においては、内槽3が3枚の整流板を備える場合について説明したが、整流板の枚数は2枚以上であればよく、その枚数の上限は特に制限されるものではない。但し、枚数が増加するに従って電解液を送出するポンプの圧力を高くする必要があるため、エネルギー効率の観点から実際には5枚以下とすることが好ましい。
【0042】
上記説明においては、流入口9を内槽3の下壁3bの中央に1つ形成する場合について説明したが、流入口9は複数形成されていてもよい。また、その形成位置は、電極5より下方であれは側壁、下壁のいずれの場所に形成されていてもよい。複数の流入口を形成する場合には、内槽内に電解液が均一に流通するように、機幅方向に並べて形成することが好ましい。
【0043】
流入口9の機幅方向の口径は、内槽内幅L1に対し10〜60%が好ましく、15〜50%がより好ましい。
【0044】
本発明の処理装置で処理する炭素繊維の処理量Aは、1.0〜250kg/hrとすることが好ましい。1.0kg/hr未満では、炭素繊維の処理状態にムラが生じにくいため整流板を挿入する必要性が少ない。250kg/hrを超えると、装置の機幅が大きくなり過ぎるため、電解液の流量を均一化することが困難となる。
【0045】
流入口9から内槽3内へ流通させる電解液の流量Bは、内槽の容積等の条件により異なるが、炭素繊維ストランドを数十から数百本を平行に走行させ一度に処理する汎用的な電解槽の場合で、0.3〜120m3/hrである。0.3m3/hr未満では、オーバーフロー高さを十分なものとすることが難しく、120m3/hrを超えるとオーバーフロー高さが高くなりすぎる部分が発生し、均一な液面高さを保つことが困難となる。
【0046】
炭素繊維処理量A(kg/hr)と、電解液流量B(m3/hr)は、0.1<B/A<25の関係を満たすことが好ましい。B/Aの値が0.1未満では、炭素繊維ストランドに十分な表面処理を施すことが困難であり、B/Aの値が25を超えると、オーバーフロー高さが高くなりすぎる部分が発生し、均一な液面高さを保つことが困難となる。
【0047】
内槽出側の電解液の平均流速は、4〜30mm/secとすることが好ましい。4mm/sec未満では、電解液のオーバーフロー高さが不十分となり、30mm/secを超えると流量均一化が難しく、オーバーフロー高さを均一に保つことが困難となる。内槽出側の平均流速は、内槽3に供給する電解液の流量を調整することにより前記範囲内とすることが可能である。
【0048】
外槽13内に配設する内槽3の数は、2〜32とすることが好ましく、4〜24とすることがより好ましい。
【0049】
上記説明においては、電極5は、一端のみが内槽3の内壁に沿って折り曲げられ、電解槽の外部で不図示の保持部材により支持される場合について説明したが、両端が内槽3の内壁に沿って折り曲げられるとともに外部に配設された不図示の保持部材により両端で支持されていてもよい。
【0050】
電極5の厚さは、2〜20mmとすることが好ましい。電極5の機幅方向長さは、内槽3の内幅L1の0.2〜0.9倍とすることが好ましく、炭素繊維ストランドの走行方向の長さは、内槽3の内長さL2の0.6〜1.0倍とすることが好ましい。
【0051】
電極5の材質としては、例えば白金、SUS316L、チタンの他、銅などの金属表面に白金をめっきしたものを使用することができる。
【0052】
炭素繊維ストランド11の内槽1槽あたりの処理時間は、1.0〜5.0秒とすることが好ましく、1.5〜3.0秒とすることがより好ましい。なお、炭素繊維の走行速度は、通常50〜600m/h程度である。
【0053】
炭素繊維の電解酸化処理に用いる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機水酸化物、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類などの電解質水溶液を挙げることができる。
【0054】
本発明で電解酸化処理する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の他、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができる。
【0055】
炭素繊維ストランド11は、通常、直径4〜12μmのフィラメントが1000〜80000本程度集合した束形状に製造される。本発明の処理装置では、上記繊維径、フィラメント数に限定されず、いかなる繊維径、フィラメント数のものでも処理することが可能である。
【0056】
炭素繊維ストランド11に通電する電気量は、電解液7に使用する電解質の種類や炭素繊維ストランド11の弾性率等の条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、電解液に硫酸アンモニウム水溶液を用いて弾性率24tonf/mm2の炭素繊維の電解酸化処理を行う場合には、炭素繊維に通電する電気量を3〜40C/gとすることが好ましく、4〜30C/gとすることがより好ましい。
【0057】
炭素繊維ストランド11の電解酸化処理温度は10〜80℃の範囲とするが、20〜50℃とすることが好ましい。
【0058】
炭素繊維ストランド11の表面処理を行う際の指標としては、X線光電子分光法(ESCA)を用いて測定できる炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)により管理するのが良い。炭素繊維を熱硬化性樹脂に配合して複合材料とする場合には、O/Cが、0.05〜0.4となるように電解酸化処理することが好ましい。
【0059】
第2の形態
上述した表面処理装置100が備える内槽3は、水平方向に配設された整流板以外に垂直方向に配置された整流板を備えたものであってもよい。垂直方向に配設された整流板を備える内槽3の一例の平面図を図5に、側面断面図を図6に、正面断面図を図7に示す。
【0060】
この例においては、内槽3は、その内部に下部側かつ炭素繊維11の走行方向Xにおいて前方側に、電解液流入室31を備えている。電解液流入室31の上壁は内槽内長さL2より短い水平仕切板33で形成され、電解液流入室31の後方側側壁は垂直整流板7’cで形成されている。垂直整流板7’cには均一径の貫通孔が多数均一ピッチで形成されている。一方、水平仕切板33には貫通孔は形成されていない。電解液流入室31の前方側側壁と、両端の側壁とは、内槽3の側壁3e、3c、3dにより形成されている。
【0061】
電解液流入室31の上壁を形成する水平仕切板の先端33aと内槽3の後方側側壁3fとの間には、多数の貫通孔が均一に形成された水平整流板7’bが配設されている。
【0062】
内槽3内には、上端3a側に、多数の貫通孔が均一に形成された水平整流板7’aが配設されている。水平整流板7’aと7’bとの間には、電極5が水平に挿入されている。
【0063】
電解液流入室31を備えた内槽3内に供給管10により供給された電解液は、内槽3の下壁3bに形成された流入口9から電解液流入室31内に流入後、垂直整流板7’c、水平整流板7’b、7’aに形成された貫通孔を順に通過し、内槽3の上端3aに均一な流れとなって到達する。その後、上端3aからオーバーフローする。
【0064】
上記説明においては、水平整流板7’a、7’bを2枚用いる場合について説明したが、整流板7’bについては必須でなく、配設されていなくてもよい。内槽3内に電解液流入室31を形成する場合には、水平整流板は電極5の上方に少なくとも1枚配設されていればよい。
【0065】
電解液流入室31内には、垂直整流板7’cと流入口9との間に前記垂直整流板7’cと平行に別途1枚以上の垂直整流板が配設されてもよい。
【0066】
水平整流板7’a、7’b、垂直整流板7’cに形成する貫通孔の直径、ピッチや、水平整流板の間隔、整流板の厚さ、電極5の形状、材質等は上述した電解液流入室がない内槽を用いる場合と同様である。
【0067】
電解液流入室を備えた内槽の他の例を図8に示す。図8は、内槽3の側面断面図である。
【0068】
図8に示す内槽3は、下部側中央に形成された電解液流入室31を備えている。この電解液流入室31の前方側側壁と後方側側壁は、内槽の側壁3e、3fと離間して配設された垂直整流板7’f、7’gにより形成されている。電解液流入室の上壁を形成する水平仕切板33と内槽の側壁3e、3fとの間には、水平整流板7’d、7’eが配設されている。
【0069】
この場合においては、内槽3内に供給管10により供給された電解液は、流入口9から電解液流入室31内に流入した後、垂直整流板7’fと水平整流板7’d、又は垂直整流板7’gと水平整流板7’eを通過した後、水平整流板7’aを通過して内槽3の上端3aに到達する。内槽の上端3aに到達した流速が均一な電解液は、上端3aから外槽内にオーバーフローする。
【0070】
上記説明においては、電解液の流路において水平整流板を2枚配設する場合について説明したが、整流板7’d、7’eについては必須でなく、配設されていなくてもよい。また、水平整流板は電極5の上方に少なくとも1枚配設されていればよく、2枚以上配設されていてもよい。
【0071】
電解液流入室31内には、垂直整流板7’fと流入口9との間、又は垂直整流板7’gと流入孔9との間に別途1枚以上の垂直整流板が配設されてもよい。
【実施例】
【0072】
実施例1
図9の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処理装置を用い、以下の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。図中、矢印Xは炭素繊維ストランドの走行方向を示す。
内槽寸法:機幅方向2100mm、奥行300mm、高さ150mm
内槽容積:0.095m3
炭素繊維処理量:70kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:240L/min
内槽出側流速:6.35mm/s
流入口:内槽の底面に2箇所(口径40mm)
流入口位置:機幅方向 内槽の両端から400mm
奥行方向 内槽中央
電極形状:機幅方向2000mm、奥行150mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:120mm
整流板枚数:2枚
整流板仕様、配設位置:表1に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表1に示す位置に配設した。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例2
整流板の枚数を3枚とし、図10の側面断面図に示す構造の内槽を用いた以外は実施例1と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。
【0075】
整流板の仕様と配設位置を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例3
整流板3枚を使用し、図11の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処置装置を用いて以下の条件で炭素繊維ストランドの表面処理を行った。
内槽寸法:機幅方向1600mm、奥行240mm、高さ120mm
内槽容積:0.046m3
炭素繊維処理量:50kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:150L/min
内槽出側流速:6.51mm/s
流入口:内槽の底面に1箇所(口径50mm)
流入口位置:機幅方向 内槽中央
奥行方向 内槽ストランド入側から40mm
電極形状:機幅方向1500mm、奥行120mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:90mm
整流板枚数:3枚
整流板仕様、配設位置:表3に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表3に示す位置に配設した。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例4
整流板4枚を使用し、図12の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処置装置を用いて以下の条件で炭素繊維ストランドの表面処理を行った。
内槽寸法:機幅方向2100mm、奥行300mm、高さ150mm
内槽容積:0.095m3
炭素繊維処理量:70kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:240L/min
内槽出側流速:6.35mm/s
流入口:内槽の底面に1箇所(口径50mm)
流入口位置:機幅方向 内槽中央
奥行方向 内槽ストランド入側から40mm
電極形状:機幅方向2000mm、奥行150mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:120mm
整流板枚数:4枚
整流板仕様、配設位置:表4に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表4に示す位置に配設した。
【0080】
【表4】
【0081】
実施例5
整流板5枚を使用し、図13に示す側面断面図の内槽を使用した以外は、実施例4と同じ条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の仕様、配設位置を表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
実施例6
整流板6枚を使用し、図14に示す側面断面図の内槽を使用した以外は、実施例4と同じ条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の仕様、配設位置を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
比較例1
整流板のない内槽を用いた以外は、実施例2と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。使用した内槽の側面断面図を図15に示す。
比較例2
整流板の枚数を1枚のみとした以外は、実施例4と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の配設位置は、内槽底面から135mmとした。使用した内槽の側面断面図を図16に示す。
【0086】
整流板に形成した貫通孔は、流入口中心部からの水平距離に応じて孔径、孔ピッチを変化させた。整流板の各部分の開口率、形成した貫通孔の孔径、孔ピッチを表7に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
実施例1〜6及び比較例1、2において、内槽のオーバーフロー高さを機幅方向の5点でスケールにて実測した。実施例1〜6では全て3〜5mmの範囲内であった。それに対し、比較例1では0〜6mmとばらつきが観察された。比較例2においては、運転開始直後は全て3〜4mmの範囲内であった。運転開始から24時間経過後には口径2.1mmの貫通孔に一部固形物が析出が見られ、その影響によりオーバーフロー測定値が1〜4mmとなり、ばらつきが観測された。
【0089】
実施例1〜5においては、ポンプの吐出圧力は、全て150〜300kPaの範囲内であった。これに対し、実施例6では450kPaであり、整流板の枚数増加による圧力損失の増加が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の表面処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の一例を示す概略平面図である。
【図3】図2に示す電解槽内槽の概略側面断面図である。
【図4】図2に示す電解槽内槽の概略正面断面図である。
【図5】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の他の例を示す概略平面図である。
【図6】図5に示す電解槽内槽の概略側面断面図である。
【図7】図5に示す電解槽内槽の概略正面断面図である。
【図8】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の他の例を示す概略側面断面図である。
【図9】実施例1で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図10】実施例2で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図11】実施例3で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図12】実施例4で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図13】実施例5で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図14】実施例6で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図15】比較例1で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図16】比較例2で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 電解槽
3 内槽
3a 内槽の上端
3b 内槽の下壁
3c、3d、3e、3f 内槽の側壁
5 電極
7a、7b、7c、 整流板
7’a、7’b、7’d、7’e 水平整流板
7’c、7’f、7’g 垂直整流板
8 貫通孔
9 流入口
10 供給管
10a 主管
10b 枝管
11 炭素繊維ストランド
13 外槽
15 排出口
17 電解液タンク
19 ポンプ
21 排出樋
23 バルブ
100 表面処理装置
X 炭素繊維ストランドの走行方向
Y 表面処理装置の機幅方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維ストランドを、電極を備えた電解槽の電解液に浸漬することにより炭素繊維表面の電解酸化処理を行う炭素繊維ストランド用表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を炭素繊維で補強した炭素繊維複合材料は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、疲労特性に優れるなどの特長を有しており、スポーツ・レジャー、航空・宇宙等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
炭素繊維は、アクリル繊維等の原料繊維を空気中で200〜300℃に加熱することにより耐炎繊維とした後、不活性ガス雰囲気中1000℃以上で焼成することにより製造される。
【0004】
炭素繊維複合材料の強度・弾性率等の機械的特性は、炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性により大きな影響を受ける。そのため、耐炎化工程、炭素化工程を経た後、マトリックス樹脂との親和性を高めることを目的として炭素繊維の表面に含酸素官能基を導入する酸化処理が一般に行われる。
【0005】
炭素繊維表面の酸化処理としては、液相における薬液酸化・電解酸化、気相酸化などの方法で処理することが知られている。これら表面処理のうち、生産性が高く、処理が均一に行える等の理由により、液相における電解酸化処理が広く採用されている。液相電解酸化処理は、電解質水溶液中で炭素繊維と、電極との間に電圧を印加することにより、炭素繊維を電解酸化する処理方法である。
【0006】
炭素繊維は、その製造工程において1,000〜80,000本程度の束形状に製造される。炭素繊維の表面処理は、平行に走行する多数のストランドを電解液に浸漬することにより行われる。電解槽としては従来様々な構造のものが開発されているが、例えば、電解槽から電解液をオーバーフローさせ、液面が電解槽の側壁よりわずかに高くなっているところに炭素繊維を通過させることにより、表面処理するオーバーフロー型の電解槽が従来用いられている(例えば、特許文献1参照)。この電解槽においては、炭素繊維を電解液に浸漬したり、電解液から炭素繊維を引き上げたりするためのガイドローラーを使用する必要がない。そのため、炭素繊維に毛羽を生じにくく、品位の高い製品が得られる利点を有している。その反面、常時電解槽に電解液を供給してオーバーフローさせる必要があるので、表面の酸化処理状態が電解液の流速による影響を受けやすい。多数のストランドを同時に表面処理する場合には、ストランド間で表面酸化状態にムラが生じることが問題となっている。
【0007】
表面の酸化処理が均一でない炭素繊維をマトリックス樹脂に配合した場合には、炭素繊維の表面の官能基が少ない部分とマトリックス樹脂との接着が不十分となり、高いコンポジット物性を示す複合材料が得られない。
【0008】
本発明者は、多数の炭素繊維ストランド間で炭素繊維表面が均一に酸化処理される装置について検討を行った結果、電解槽内に電解液流入口からの距離に応じて開口率を変化させた整流板を水平に挿入することにより、ストランドに供給される電解液の流量がストランド間で一定となり、ストランド間の表面処理状態のばらつきが抑制されることを見出し、先に特許出願を行った(特願2007−89088)。
【0009】
しかしながら、この装置は、整流板の開口率が低い部分に電解液が滞留し、これにより電解液に含まれる成分が析出し易い。この装置は運転開始直後においてはストランドに供給される電解液の流量が均一化されているものの、時間が経過するにつれて整流板の目詰まりによる流量のばらつきが生じている。そのため、析出した成分を除去することが必要になり、装置の維持管理に手間がかかるものとなっている。
【特許文献1】特開昭58−115123号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、多数の炭素繊維ストランド間で炭素繊維表面が均一に酸化処理され、マトリックス樹脂に配合したときに高いコンポジット物性を示す炭素繊維が得られる炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、電解液成分の析出及び発生する気泡による整流板の目詰まりが生じない炭素繊維ストランド用表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を行った結果、電解槽内の電解液の流路に貫通孔が均一に形成された整流板を複数枚挿入することにより、ストランドに供給される電解液の流量がストランド間で一定となり、ストランド間の表面処理状態のばらつきが抑制され、装置の目詰まりが軽減されることを見出した。
【0012】
即ち、上記課題を解決する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は
(1)下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、又は
(2)その下部側に、前記供給管が連結された電解液流入室であって内槽の配列方向に対して直角方向に形成された側壁が厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された垂直整流板により形成された電解液流入室を備えるとともに、前記電解液流入室の上方に水平に取付けられた電極と、厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された1枚以上の整流板であって、最上位のものが前記電極の上方に水平に取り付けられている整流板と、
を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0014】
〔2〕 内槽の形状が、上端が開放され、下端が下壁により閉塞された角筒状であって、下壁に電解液受け入れのための1以上の流入口が形成され、前記流入口に前記供給管が連結された〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0015】
〔3〕 内槽の配列方向に対して直角方向の流入口の口径が、内槽の配列方向に対して直角方向の内槽内幅の15〜80%である〔2〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0016】
〔4〕 整流板に形成された貫通孔の直径が2.5〜10mmである〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【0017】
〔5〕 〔1〕に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置を用いる炭素繊維ストランドの表面処理方法であって、炭素繊維処理量A(kg/hr)、処理液流量B(m3/hr)が、1.0<A<250、0.3<B<120、0.1<B/A<25の範囲内に制御される炭素繊維ストランドの表面処理方法。
【0018】
〔6〕処理液の内槽上端における電解液の平均流速が4〜30mm/secの範囲内に制御される〔5〕に記載の表面処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の表面処理装置は、電解液が下方から上方へ流通する電解槽内槽に、均一に貫通孔が形成された複数の整流板が挿入されている。そのため、電解液は内槽の上端側を均一な流速で上昇し、内槽の上端から外槽内にオーバーフローする。整流板に形成された貫通孔の孔径、孔ピッチが同一整流板においては均一であることから、電解に伴って発生する気泡や電解液の滞留に伴う成分の析出による整流板の目詰まりがほとんど生じない。そのため、長時間に亘って流速が均一化された電解液を炭素繊維ストランドに供給することができる。
【0020】
本発明の処理装置によれば、装置の機幅方向でオーバーフロー高さを均一とすることができるので、炭素繊維ストランドの表面酸化処理状態は、ストランド間でのばらつきが抑制される。本発明によれば、多数の炭素繊維ストランドを同時に均一に表面処理することができるので、この炭素繊維を熱硬化性樹脂や熱硬化性樹脂に配合することにより機械的強度の高い炭素繊維複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第一の形態
本発明で使用する表面処理装置の一例の概略構成図を図1に示す。
【0022】
図1中、100は表面処理装置で、1は電解槽である。電解槽1は複数の内槽3と、外槽13とからなる。
【0023】
内槽3の平面図を図2に、側面断面図を図3に、正面断面図を図4に示す。
【0024】
図3,4において、角筒状に形成された内槽3の上端3aは開放され、下端は下壁3bにより閉塞されている。下壁3bには、中心部に流入口9が形成されている。流入口9には、供給管10が連結されている。これにより、内槽3の内部と供給管10の内部とは連通される。
【0025】
内槽3内には、その下部側に平板状に形成された電極5が下壁3bに沿って挿入されている。電極5は、図4に示すように一端が内槽3の側壁3cに沿って折り曲げられ、電解槽1の外部で不図示の保持部材により支持されるとともに、外部電源に接続されている。
【0026】
図2〜4中、矢印Xは炭素繊維ストランド11の走行方向を、矢印Y(即ち、矢印Xの直角方向)は装置の機幅方向を示す。電極5のX方向の長さと、Y方向の長さは、それぞれ内槽3の内長さL2、内幅L1より短く形成されている。電極5のX方向の長さは内槽3の内長さL2の20〜90%であり、Y方向の長さは内槽3の内幅L1の60〜100%である。
【0027】
電極5の上方には、3枚の整流板7a、7b、7cが一定の間隔離間されて水平に挿入されている。整流板7a〜7cには、厚さ方向に貫通する貫通孔8が多数形成されている。整流板7a〜7cに形成された多数の貫通孔8は、その直径とピッチがそれぞれの整流板において同一である。図3、図4においては、整流板7a〜7cに形成された貫通孔の直径とピッチは整流板間で同一である。従って、整流板7a〜7cは、整流板間で開口率が等しくなっている。
【0028】
図1に示すように、多数の内槽3は炭素繊維ストランド11の走行方向Xに沿って、外槽13内に直列に配列されている。隣り合う内槽3の中央間距離は、内槽の内長さL2に対し115〜250%程度である。多数の内槽3内に備えられた電極5には、隣り合う内槽間で交互に陽極と陰極として作用するよう電圧が印加されている。
【0029】
内槽3は、その上端3aが外槽の上端13aと同じ高さ又は外槽の上端13aより高くなるように配設されている。外槽13の側壁13bには、排出口15が形成されている。
【0030】
排出口15には排出樋21が接続され、排出樋21の他端側は電解液タンク17に接続されている。排出口15から流出した電解液は、排出樋21により電解液タンク17内に流入する。
【0031】
電解液タンク17と複数の内槽3とは、供給管10により接続されている。供給管10は、電解液タンク17に接続された主管10aと、外槽13の下壁を貫通すると共に複数の内槽3の流入口9に接続された枝管10bとからなる。主管10aにはポンプ19が介装され、枝管10bにはそれぞれバルブ23が介装されている。
【0032】
電解液タンク17に貯留される硫酸等の電解液は、ポンプ19により流入口9から内槽3内に導入される。その後、電極5と内槽側壁の間を通過した後、整流板7a〜7cに形成された貫通孔8を通過する。電解液は下方から上方に向かって整流板7a〜7cを通過することにより均一な流れとなって、内槽3の上端3aに到達する。内槽3の上端3aで内槽3からオーバーフローした電解液は、炭素繊維11と接触した後、外槽13に受け入れられる。外槽13内の電解液は、外槽13の形成された排出口15から排出樋21に流出し、再び電解液タンク17に貯留される。
【0033】
炭素繊維ストランド11は、内槽3上方で内槽から外槽13へオーバーフローする電解液中を通過することにより電解液に浸漬される。炭素繊維は導電性が高いので、隣り合う内槽3の間で交互に陽極又は陰極として作用する電極5に電圧を印可することにより電解液中で炭素繊維の表面が電解酸化される。これにより、カルボキシル基、カルボニル基等の含酸素官能基が炭素繊維表面に導入される。炭素繊維ストランド11は、電解槽1上を通過することにより、内槽から外槽にオーバーフローする電解液に繰り返し浸漬され、表面が繰り返し電解酸化処理される。炭素繊維ストランド11は、電解槽通過終了とともに電解酸化処理が終了し、水洗、サイズ剤付与、乾燥等の後工程に送られる。その後、ワインダーに巻き取られて最終製品となる。
【0034】
なお、上記説明においては、同一径、同一ピッチの貫通孔8が形成された整流板7a〜7cを用いる場合について説明したが、貫通孔8の直径、ピッチは、複数の整流板間で異なっていてもよい。但し、1枚の整流板に形成する貫通孔の直径、ピッチはそれぞれ同一である。
【0035】
貫通孔8の形状は1枚の整流板において同一であれば特に制限されるものではないが、円形であることが好ましい。
【0036】
整流板7に形成する貫通孔8の孔径Dは2.5〜10mmとすることが好ましい。2.5mm未満では、製作が困難なうえ、詰まりが生じる虞がある。10mmを超えると孔の部分で極端に流量が増加し、整流板により流量分布を均一化することが困難である。
【0037】
貫通孔8のピッチEは5〜20mmとすることが好ましい。ピッチが5mm未満の場合、製作が困難であることに加え、抵抗が小さくなり、整流板挿入の効果が喪失する虞がある。20mmを超えると、孔の部分で極端に流量が増加し、流量分布を均一化することが困難である。
【0038】
貫通孔の孔径Dと孔ピッチEとは、0.125<D/E<0.75の関係を満たすように形成することが好ましい。D/Eの値が0.125未満であると、抵抗が極端に上がり、装置への負担が増加する。また、流量分布を均一化することが困難である。D/Eの値が0.75より大きいと、整流板の開口率が大きくなりすぎるため、整流板が破損し易くなる傾向がある。
【0039】
整流板7の開口率は、1.5〜50%とすることが好ましい。開口率が1.5%未満の場合、抵抗が極端に上がり、装置への負担が増加する傾向がある。50%より大きいと、抵抗が極端に小さくなり、流量分布の均一化が困難となる。
【0040】
各整流板の厚さは、3〜20mmとすることが好ましく、5〜10mmとすることがより好ましい。また、整流板7a、7b、7cの間隔は、10〜150mmとすることが好ましく、25〜100mmとすることがより好ましい。
【0041】
上記説明においては、内槽3が3枚の整流板を備える場合について説明したが、整流板の枚数は2枚以上であればよく、その枚数の上限は特に制限されるものではない。但し、枚数が増加するに従って電解液を送出するポンプの圧力を高くする必要があるため、エネルギー効率の観点から実際には5枚以下とすることが好ましい。
【0042】
上記説明においては、流入口9を内槽3の下壁3bの中央に1つ形成する場合について説明したが、流入口9は複数形成されていてもよい。また、その形成位置は、電極5より下方であれは側壁、下壁のいずれの場所に形成されていてもよい。複数の流入口を形成する場合には、内槽内に電解液が均一に流通するように、機幅方向に並べて形成することが好ましい。
【0043】
流入口9の機幅方向の口径は、内槽内幅L1に対し10〜60%が好ましく、15〜50%がより好ましい。
【0044】
本発明の処理装置で処理する炭素繊維の処理量Aは、1.0〜250kg/hrとすることが好ましい。1.0kg/hr未満では、炭素繊維の処理状態にムラが生じにくいため整流板を挿入する必要性が少ない。250kg/hrを超えると、装置の機幅が大きくなり過ぎるため、電解液の流量を均一化することが困難となる。
【0045】
流入口9から内槽3内へ流通させる電解液の流量Bは、内槽の容積等の条件により異なるが、炭素繊維ストランドを数十から数百本を平行に走行させ一度に処理する汎用的な電解槽の場合で、0.3〜120m3/hrである。0.3m3/hr未満では、オーバーフロー高さを十分なものとすることが難しく、120m3/hrを超えるとオーバーフロー高さが高くなりすぎる部分が発生し、均一な液面高さを保つことが困難となる。
【0046】
炭素繊維処理量A(kg/hr)と、電解液流量B(m3/hr)は、0.1<B/A<25の関係を満たすことが好ましい。B/Aの値が0.1未満では、炭素繊維ストランドに十分な表面処理を施すことが困難であり、B/Aの値が25を超えると、オーバーフロー高さが高くなりすぎる部分が発生し、均一な液面高さを保つことが困難となる。
【0047】
内槽出側の電解液の平均流速は、4〜30mm/secとすることが好ましい。4mm/sec未満では、電解液のオーバーフロー高さが不十分となり、30mm/secを超えると流量均一化が難しく、オーバーフロー高さを均一に保つことが困難となる。内槽出側の平均流速は、内槽3に供給する電解液の流量を調整することにより前記範囲内とすることが可能である。
【0048】
外槽13内に配設する内槽3の数は、2〜32とすることが好ましく、4〜24とすることがより好ましい。
【0049】
上記説明においては、電極5は、一端のみが内槽3の内壁に沿って折り曲げられ、電解槽の外部で不図示の保持部材により支持される場合について説明したが、両端が内槽3の内壁に沿って折り曲げられるとともに外部に配設された不図示の保持部材により両端で支持されていてもよい。
【0050】
電極5の厚さは、2〜20mmとすることが好ましい。電極5の機幅方向長さは、内槽3の内幅L1の0.2〜0.9倍とすることが好ましく、炭素繊維ストランドの走行方向の長さは、内槽3の内長さL2の0.6〜1.0倍とすることが好ましい。
【0051】
電極5の材質としては、例えば白金、SUS316L、チタンの他、銅などの金属表面に白金をめっきしたものを使用することができる。
【0052】
炭素繊維ストランド11の内槽1槽あたりの処理時間は、1.0〜5.0秒とすることが好ましく、1.5〜3.0秒とすることがより好ましい。なお、炭素繊維の走行速度は、通常50〜600m/h程度である。
【0053】
炭素繊維の電解酸化処理に用いる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機水酸化物、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類などの電解質水溶液を挙げることができる。
【0054】
本発明で電解酸化処理する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の他、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができる。
【0055】
炭素繊維ストランド11は、通常、直径4〜12μmのフィラメントが1000〜80000本程度集合した束形状に製造される。本発明の処理装置では、上記繊維径、フィラメント数に限定されず、いかなる繊維径、フィラメント数のものでも処理することが可能である。
【0056】
炭素繊維ストランド11に通電する電気量は、電解液7に使用する電解質の種類や炭素繊維ストランド11の弾性率等の条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、電解液に硫酸アンモニウム水溶液を用いて弾性率24tonf/mm2の炭素繊維の電解酸化処理を行う場合には、炭素繊維に通電する電気量を3〜40C/gとすることが好ましく、4〜30C/gとすることがより好ましい。
【0057】
炭素繊維ストランド11の電解酸化処理温度は10〜80℃の範囲とするが、20〜50℃とすることが好ましい。
【0058】
炭素繊維ストランド11の表面処理を行う際の指標としては、X線光電子分光法(ESCA)を用いて測定できる炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)により管理するのが良い。炭素繊維を熱硬化性樹脂に配合して複合材料とする場合には、O/Cが、0.05〜0.4となるように電解酸化処理することが好ましい。
【0059】
第2の形態
上述した表面処理装置100が備える内槽3は、水平方向に配設された整流板以外に垂直方向に配置された整流板を備えたものであってもよい。垂直方向に配設された整流板を備える内槽3の一例の平面図を図5に、側面断面図を図6に、正面断面図を図7に示す。
【0060】
この例においては、内槽3は、その内部に下部側かつ炭素繊維11の走行方向Xにおいて前方側に、電解液流入室31を備えている。電解液流入室31の上壁は内槽内長さL2より短い水平仕切板33で形成され、電解液流入室31の後方側側壁は垂直整流板7’cで形成されている。垂直整流板7’cには均一径の貫通孔が多数均一ピッチで形成されている。一方、水平仕切板33には貫通孔は形成されていない。電解液流入室31の前方側側壁と、両端の側壁とは、内槽3の側壁3e、3c、3dにより形成されている。
【0061】
電解液流入室31の上壁を形成する水平仕切板の先端33aと内槽3の後方側側壁3fとの間には、多数の貫通孔が均一に形成された水平整流板7’bが配設されている。
【0062】
内槽3内には、上端3a側に、多数の貫通孔が均一に形成された水平整流板7’aが配設されている。水平整流板7’aと7’bとの間には、電極5が水平に挿入されている。
【0063】
電解液流入室31を備えた内槽3内に供給管10により供給された電解液は、内槽3の下壁3bに形成された流入口9から電解液流入室31内に流入後、垂直整流板7’c、水平整流板7’b、7’aに形成された貫通孔を順に通過し、内槽3の上端3aに均一な流れとなって到達する。その後、上端3aからオーバーフローする。
【0064】
上記説明においては、水平整流板7’a、7’bを2枚用いる場合について説明したが、整流板7’bについては必須でなく、配設されていなくてもよい。内槽3内に電解液流入室31を形成する場合には、水平整流板は電極5の上方に少なくとも1枚配設されていればよい。
【0065】
電解液流入室31内には、垂直整流板7’cと流入口9との間に前記垂直整流板7’cと平行に別途1枚以上の垂直整流板が配設されてもよい。
【0066】
水平整流板7’a、7’b、垂直整流板7’cに形成する貫通孔の直径、ピッチや、水平整流板の間隔、整流板の厚さ、電極5の形状、材質等は上述した電解液流入室がない内槽を用いる場合と同様である。
【0067】
電解液流入室を備えた内槽の他の例を図8に示す。図8は、内槽3の側面断面図である。
【0068】
図8に示す内槽3は、下部側中央に形成された電解液流入室31を備えている。この電解液流入室31の前方側側壁と後方側側壁は、内槽の側壁3e、3fと離間して配設された垂直整流板7’f、7’gにより形成されている。電解液流入室の上壁を形成する水平仕切板33と内槽の側壁3e、3fとの間には、水平整流板7’d、7’eが配設されている。
【0069】
この場合においては、内槽3内に供給管10により供給された電解液は、流入口9から電解液流入室31内に流入した後、垂直整流板7’fと水平整流板7’d、又は垂直整流板7’gと水平整流板7’eを通過した後、水平整流板7’aを通過して内槽3の上端3aに到達する。内槽の上端3aに到達した流速が均一な電解液は、上端3aから外槽内にオーバーフローする。
【0070】
上記説明においては、電解液の流路において水平整流板を2枚配設する場合について説明したが、整流板7’d、7’eについては必須でなく、配設されていなくてもよい。また、水平整流板は電極5の上方に少なくとも1枚配設されていればよく、2枚以上配設されていてもよい。
【0071】
電解液流入室31内には、垂直整流板7’fと流入口9との間、又は垂直整流板7’gと流入孔9との間に別途1枚以上の垂直整流板が配設されてもよい。
【実施例】
【0072】
実施例1
図9の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処理装置を用い、以下の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。図中、矢印Xは炭素繊維ストランドの走行方向を示す。
内槽寸法:機幅方向2100mm、奥行300mm、高さ150mm
内槽容積:0.095m3
炭素繊維処理量:70kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:240L/min
内槽出側流速:6.35mm/s
流入口:内槽の底面に2箇所(口径40mm)
流入口位置:機幅方向 内槽の両端から400mm
奥行方向 内槽中央
電極形状:機幅方向2000mm、奥行150mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:120mm
整流板枚数:2枚
整流板仕様、配設位置:表1に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表1に示す位置に配設した。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例2
整流板の枚数を3枚とし、図10の側面断面図に示す構造の内槽を用いた以外は実施例1と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。
【0075】
整流板の仕様と配設位置を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例3
整流板3枚を使用し、図11の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処置装置を用いて以下の条件で炭素繊維ストランドの表面処理を行った。
内槽寸法:機幅方向1600mm、奥行240mm、高さ120mm
内槽容積:0.046m3
炭素繊維処理量:50kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:150L/min
内槽出側流速:6.51mm/s
流入口:内槽の底面に1箇所(口径50mm)
流入口位置:機幅方向 内槽中央
奥行方向 内槽ストランド入側から40mm
電極形状:機幅方向1500mm、奥行120mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:90mm
整流板枚数:3枚
整流板仕様、配設位置:表3に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表3に示す位置に配設した。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例4
整流板4枚を使用し、図12の側面断面図に示す構造の内槽を備えた表面処置装置を用いて以下の条件で炭素繊維ストランドの表面処理を行った。
内槽寸法:機幅方向2100mm、奥行300mm、高さ150mm
内槽容積:0.095m3
炭素繊維処理量:70kg/hr
電解液:硫酸アンモニウム(10%)水溶液
電解液流量:240L/min
内槽出側流速:6.35mm/s
流入口:内槽の底面に1箇所(口径50mm)
流入口位置:機幅方向 内槽中央
奥行方向 内槽ストランド入側から40mm
電極形状:機幅方向2000mm、奥行150mm、厚さ5mm
電極と内槽下壁間の距離:120mm
整流板枚数:4枚
整流板仕様、配設位置:表4に示す孔径、孔ピッチを有する厚さ10mmの整流板を表4に示す位置に配設した。
【0080】
【表4】
【0081】
実施例5
整流板5枚を使用し、図13に示す側面断面図の内槽を使用した以外は、実施例4と同じ条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の仕様、配設位置を表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
実施例6
整流板6枚を使用し、図14に示す側面断面図の内槽を使用した以外は、実施例4と同じ条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の仕様、配設位置を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
比較例1
整流板のない内槽を用いた以外は、実施例2と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。使用した内槽の側面断面図を図15に示す。
比較例2
整流板の枚数を1枚のみとした以外は、実施例4と同様の条件で炭素繊維ストランドの電解処理を行った。整流板の配設位置は、内槽底面から135mmとした。使用した内槽の側面断面図を図16に示す。
【0086】
整流板に形成した貫通孔は、流入口中心部からの水平距離に応じて孔径、孔ピッチを変化させた。整流板の各部分の開口率、形成した貫通孔の孔径、孔ピッチを表7に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
実施例1〜6及び比較例1、2において、内槽のオーバーフロー高さを機幅方向の5点でスケールにて実測した。実施例1〜6では全て3〜5mmの範囲内であった。それに対し、比較例1では0〜6mmとばらつきが観察された。比較例2においては、運転開始直後は全て3〜4mmの範囲内であった。運転開始から24時間経過後には口径2.1mmの貫通孔に一部固形物が析出が見られ、その影響によりオーバーフロー測定値が1〜4mmとなり、ばらつきが観測された。
【0089】
実施例1〜5においては、ポンプの吐出圧力は、全て150〜300kPaの範囲内であった。これに対し、実施例6では450kPaであり、整流板の枚数増加による圧力損失の増加が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の表面処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の一例を示す概略平面図である。
【図3】図2に示す電解槽内槽の概略側面断面図である。
【図4】図2に示す電解槽内槽の概略正面断面図である。
【図5】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の他の例を示す概略平面図である。
【図6】図5に示す電解槽内槽の概略側面断面図である。
【図7】図5に示す電解槽内槽の概略正面断面図である。
【図8】本発明の表面処理装置に使用する電解槽内槽の他の例を示す概略側面断面図である。
【図9】実施例1で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図10】実施例2で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図11】実施例3で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図12】実施例4で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図13】実施例5で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図14】実施例6で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図15】比較例1で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【図16】比較例2で使用した電解槽内槽を示す概略側面断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 電解槽
3 内槽
3a 内槽の上端
3b 内槽の下壁
3c、3d、3e、3f 内槽の側壁
5 電極
7a、7b、7c、 整流板
7’a、7’b、7’d、7’e 水平整流板
7’c、7’f、7’g 垂直整流板
8 貫通孔
9 流入口
10 供給管
10a 主管
10b 枝管
11 炭素繊維ストランド
13 外槽
15 排出口
17 電解液タンク
19 ポンプ
21 排出樋
23 バルブ
100 表面処理装置
X 炭素繊維ストランドの走行方向
Y 表面処理装置の機幅方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は
(1)下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、又は
(2)その下部側に、前記供給管が連結された電解液流入室であって内槽の配列方向に対して直角方向に形成された側壁が厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された垂直整流板により形成された電解液流入室を備えるとともに、前記電解液流入室の上方に水平に取付けられた電極と、厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された1枚以上の整流板であって、最上位のものが前記電極の上方に水平に取り付けられている整流板と、
を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項2】
内槽の形状が、上端が開放され、下端が下壁により閉塞された角筒状であって、下壁に電解液受け入れのための1以上の流入口が形成され、前記流入口に前記供給管が連結された請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項3】
内槽の配列方向に対して直角方向の流入口の口径が、内槽の配列方向に対して直角方向の内槽内幅の15〜80%である請求項2に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項4】
整流板に形成された貫通孔の直径が2.5〜10mmである請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置を用いる炭素繊維ストランドの表面処理方法であって、炭素繊維処理量A(kg/hr)、処理液流量B(m3/hr)が、1.0<A<250、0.3<B<120、0.1<B/A<25の範囲内に制御される炭素繊維ストランドの表面処理方法。
【請求項6】
処理液の内槽上端における電解液の平均流速が4〜30mm/secの範囲内に制御される請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項1】
下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端から電解液をオーバーフローさせる内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽とからなる電解槽と、前記外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液タンクと、ポンプを介装してなり前記電解液タンク内の電解液を前記内槽内に供給する供給管とを有する炭素繊維ストランド用表面処理装置であって、前記内槽は
(1)下部側に前記供給管を連結すると共に、前記供給管の連結部よりも上方に水平に取付けられた電極と、前記電極の上方に水平に取付けられた厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された複数の整流板と、又は
(2)その下部側に、前記供給管が連結された電解液流入室であって内槽の配列方向に対して直角方向に形成された側壁が厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された垂直整流板により形成された電解液流入室を備えるとともに、前記電解液流入室の上方に水平に取付けられた電極と、厚さ方向に多数の貫通孔が均一に形成された1枚以上の整流板であって、最上位のものが前記電極の上方に水平に取り付けられている整流板と、
を有する炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項2】
内槽の形状が、上端が開放され、下端が下壁により閉塞された角筒状であって、下壁に電解液受け入れのための1以上の流入口が形成され、前記流入口に前記供給管が連結された請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項3】
内槽の配列方向に対して直角方向の流入口の口径が、内槽の配列方向に対して直角方向の内槽内幅の15〜80%である請求項2に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項4】
整流板に形成された貫通孔の直径が2.5〜10mmである請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の炭素繊維ストランド用表面処理装置を用いる炭素繊維ストランドの表面処理方法であって、炭素繊維処理量A(kg/hr)、処理液流量B(m3/hr)が、1.0<A<250、0.3<B<120、0.1<B/A<25の範囲内に制御される炭素繊維ストランドの表面処理方法。
【請求項6】
処理液の内槽上端における電解液の平均流速が4〜30mm/secの範囲内に制御される請求項5に記載の表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−84753(P2009−84753A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257286(P2007−257286)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】
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