説明

炭素繊維含有不織布の製造方法

【課題】炭素繊維の脱落や抜けの殆どない形態保持性に優れる炭素繊維含有不織布および炭素繊維不織布を製造する。
【解決手段】繊径3〜8μm、カット長2〜6mmの炭素短繊維(A)を40〜95質量%、および、アクリロニトリルを50質量%以上含有したアクリロニトリル系ポリマーよりなる繊度0.05〜0.3dtex、カット長2〜6mmの超極細アクリロニトリル系繊維(B)を5〜60質量%含有する、目付20〜200g/m2、布厚0.1〜2.0mmの不織布の製造方法であって、炭素短繊維(A)及び超極細アクリロニトリル系繊維(B)を含有する抄紙スラリーから抄造ウエッブを形成する工程を繰り返して、多層化された抄造ウエッブを製造する工程、及び、多層化された抄造ウエッブにウオータージェットパンチングすることによって多層化された抄造ウエッブを交絡一体化する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止材、燃料電池のガス拡散体などに利用可能な炭素繊維含有不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は他の繊維と比較して高強度、高弾性であり、硬く曲がり難い性質をもつため、炭素繊維同士の交絡が難しく、炭素繊維単独で形態を保持できる不織布を得ることは難しい。このため、そのような炭素繊維と曲がり易く交絡性能のある繊維を分散し、交絡処理を施し炭素繊維を含有する不織布が製造する試みがなされている。しかしながら、交絡処理が十分になされ、且つ不織布としてシート形態が良好に保持できる炭素繊維含有不織布を得ることは難しく、繊維同士を結着するバインダー繊維や樹脂等を併用することが必要であった。
【0003】
例えば、特許文献1では、炭素繊維とバインダー繊維のステープルからなる不織布を形成し、次いでこの不織布を燃焼させてバインダー繊維を除去することを特徴とする炭素繊維からなる不織布の製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、少なくともポリアクリロニトリル系炭素短繊維を含むスラリーを、不織布中の該炭素短繊維の含有量が70質量%以上となるように調製し、該スラリーを連続抄紙法により抄紙して得られるウェブに柱状高圧水流を当て、該炭素短繊維を交絡させる、炭素繊維不織布の製造方法が提供されている。また、特許文献2では結着剤としてPVA(ポリビニルアルコール)短繊維を混抄して乾燥処理により強固な結着点を形成することでシート形態を保持している。よって、湿潤状態でのウェブの強度は必ずしも良好とは言えず、ウェブ形成後の脱水工程や乾燥工程における加工性やハンドリング性は比較的低い。また、高圧水流により炭素短繊維を交絡させると、シート表面が荒れたり、荒れた部分から繊維が抜け落ちるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−314519号公報
【特許文献2】特開2002−266217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は炭素繊維の脱落や抜けのほとんどなく、形態保持性に優れる炭素繊維含有不織布の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の工程を含む、炭素繊維含有不織布の製造方法を提供する。
(1)炭素短繊維(A)を40〜90質量%及び超極細アクリロニトリル系短繊維(B)を5〜60質量%含有する抄紙スラリーを調製する工程。
(2)前記スラリーから抄造ウエッブを形成する工程。
(3)前記工程を繰り返して、多層化された抄造ウエッブを調製する工程。
(4)前記多層化された抄造ウエッブをウオータージェットパンチングに供し、多層化された抄造ウエッブを交絡一体化する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素繊維の脱落や抜けのない形態保持性の優れた炭素繊維含有不織布を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】高圧液体噴射ノズル(1)で形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを示す図である。
【図2】高圧液体噴射ノズル(2)で形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを示す図である。
【図3】高圧液体噴射ノズル(1)を2本使用することで形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを示す図である。
【図4】高圧液体噴射ノズル(1)を2本と高圧液体噴射ノズル(2)使用することで形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを示す図である。
【図5】ウオータージェットによる交絡軌跡パターンが存在する炭素繊維含有不織布の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、炭素短繊維(A)40〜90質量%と、超極細アクリロニトリル系短繊維(B)5〜60質量%とを含有する、炭素繊維含有不織布の製造方法に関する。
【0011】
なお、本明細書において、一層の段階、多層化された段階、湿潤状態にある段階および乾燥された段階にある抄造ウエッブを含め、原料の繊維をシート状にしたものを、シートと呼ぶ。
【0012】
〔炭素短繊維(A)〕
炭素繊維含有不織布は、炭素短繊維を含有する。ここで炭素短繊維(A)とは、繊維径3〜9μm、平均繊維長2〜6mmの炭素繊維をいう。この炭素短繊維は炭素繊維含有不織布に40〜90質量%含有する。
【0013】
炭素短繊維(A)としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(以下「PAN系炭素繊維」という。)、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の炭素繊維を適当な長さに切断してものが挙げられる。シートの機械的強度の観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。具体的には、三菱レイヨン(株)製、商品名:パイロフィルTR50S、東レ(株)製、商品名:トレカT−300等を適当な長さに切断した炭素短繊維が挙げられる。
炭素短繊維(A)の繊維径は、炭素短繊維の生産コストおよび分散性の面から、3〜9μmであることが好ましく、シートの平滑性の面から、4〜8μmであることがより好ましい。
【0014】
また、炭素短繊維(A)の平均繊維長は、分散性の点から、2〜6mm程度であることが好ましい。
【0015】
炭素短繊維(A)の平均繊維長が2mm以上では形成したシートからの炭素繊維の脱落が少なくなり形態保持性の優れるシートを形成することができる。平均繊維長6mmを以下では炭素繊維の分繊性が良好で離解も容易であり、繊維のもつれ等の欠点が発生しにくい。
【0016】
また、炭素短繊維(A)は、炭素繊維含有不織布に40〜90質量%含有される。炭素繊維含有不織布における炭素短繊維(A)の含有量が40質量%以上では、不織布に炭素繊維の導電性、熱伝導性、耐熱性、耐腐食性を付与することが可能となる。炭素短繊維(A)の含有量が90質量%以下では、製造された炭素繊維含有不織布が剛直となりすぎず、取扱いが容易となる。
【0017】
ここで、上述した炭素短繊維(A)はそれ単独ではシート形態保持できる程度の繊維交絡がかからない。また、炭素短繊維(A)のみで形成された湿潤状態の抄紙シートは、シート強力がなく、抄紙ネットから剥ぎ取ることが困難である。剥ぎ取れたとしても、得られた炭素繊維含有不織布では脱水処理、乾燥処理、樹脂含浸処理、成型処理などの後加工工程を通過できるようなシート強力は発現しない。
【0018】
よって、本発明では、炭素短繊維(A)に加えて、シート化した際に繊維同士の交絡性が強くシート形態保持性性能を付与できる超極細アクリロニトリル系繊維(B)を抄紙スラリー中に分散して抄紙し、さらに、ウオータージェットパンチングによる交絡を行うことにより、湿潤状態の未乾燥シートでも形態保持性が優れ、脱水、乾燥、成型、巻き取りの後工程も容易に通過するシートの形成が可能とする。
【0019】
〔超極細アクリロニトリル系繊維(B)〕
超極細アクリロニトリル系繊維(B)は、アクリロニトリルを50質量%以上含有するアクリロニトリル系ポリマーからなる。超極細アクリロニトリル系繊維(B)はアクリロニトリル単独のポリマーであってもよいが、アクリロニトリルと他のモノマーの共重合体であってもよい。アクリロニトリルに共重合可能なモノマーは、通常のアクリル繊維を構成する不飽和モノマーであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。さらに、染色性改良などの目的で、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩などを共重合しても良い。
【0020】
超極細アクリロニトリル系繊維(B)は、湿式紡糸を用いて製造することができる。例えば、繊維(B)の原料となるポリマーを溶剤に溶解して紡糸原液とし、細孔ノズルから繊維(B)を構成するポリマーの非溶剤を含む凝固浴中へ吐出し、それに凝固、引き取り、湿熱延伸、洗浄、乾燥焼き潰し、乾熱延伸を施すことで繊維(B)を製造することができる。用いる溶剤としてはジメチルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどの有機溶剤を用いることができる。凝固剤としては、例えば、水、メタノール、エタノールなどを用いることができる。凝固浴は溶剤/非溶剤の混合物を用いることができる。
【0021】
アクリロニトリル系ポリマーの分子量は特に限定しないが、重量平均分子量5万〜100万が望ましい。重量平均分子量5万以上では、紡糸性に優れると同時に繊維の糸質も優れる傾向にある。重量平均分子量100万以下では、紡糸原液の最適粘度を与えるポリマー濃度が低くなることを容易に防止でき、生産性が低下することを容易に防止できる。
【0022】
また、超極細アクリロニトリル系繊維(B)は、繊度0.05〜0.3dtexである。繊度0.05dtex以上であれば、シート強力を発現できる糸質及びカット長を有するものは工業的には量産されており入手が容易である。繊度0.3dtex以下であれば、繊径も適度で曲がり易いため繊維交絡が強くなり、形態保持性が高くハンドリング性の良いシートは得られる。
【0023】
また、超極細アクリロニトリル系繊維(B)の繊維長は、2〜6mmである。繊維長が2mm以上ではシート化した際の不織布からの繊維の脱落を防止することができる。カット長6mmを以下では炭素繊維の分繊性が良好で離解も容易であり、繊維のもつれ等の欠点が発生しにくい。
【0024】
超極細アクリロニトリル系繊維(B)は直接紡糸によって得られた繊維径及び繊維長が均一な超極細アクリロニトリル系繊維を用いることが好ましい。超極細アクリロニトリル系繊維(B)は、炭素繊維含有不織布に5〜60質量%含有する。
【0025】
炭素繊維含有不織布における超極細アクリロニトリル系繊維(B)の含有量が5質量%以上であれば、抄紙シートの繊維同士の交絡が良好で、ハンドリングできる紙力を発生する。60質量%以下であれば、不織布に炭素繊維の導電性、熱伝導性、耐熱性、耐腐食性を付与することが可能となる。
〔易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)〕
交絡をより強固とし、炭素繊維含有不織布の紙力を増強させる観点から、炭素繊維含有不織布には、アクリロニトリル系ポリマーと異種ポリマーをブレンドした易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)を5〜40質量%含有していることが好ましい。また、繊維(C)は、その一部が叩解、または、割繊した繊維(C*)していてもよい。繊維(C)の繊度は1.0〜5.0dtexが好ましい。また繊維(C)は、アクリロニトリル系ポリマーを50〜70質量%と、前記異種ポリマー50〜30質量%とを含有し、前記アクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルを50質量%以上含有する。
【0026】
繊維(C)は、機械的外力による相分離界面の剥離により叩解、または、割繊して、その一部が繊維(C*)の形態へ変化することができる。繊維(C*)は、JIS P8121による濾水度が100〜700mlのフィブリル繊維であることが好ましい。濾水度が100ml以上のフィブリル繊維は取扱いが容易であり、700ml未満であるとその一部が叩解、または割繊した状態を得ることが容易である。
【0027】
繊維(C)は、湿式紡糸法を用いて製造することができる(例えば、特開2007−182641号公報参照)。繊維(C)を構成するアクリロニトリル系ポリマーと異種ポリマーとを、これらを溶解する溶剤に溶解して紡糸原液とし、細孔ノズルから、繊維(C)を構成するこれらのポリマーの非溶剤を含む凝固浴中へ紡糸原液を吐出し、それに凝固、引き取り、湿熱延伸、洗浄、乾燥焼き潰し、乾熱延伸を施して繊維(C)を得ることができる。
【0028】
用いる溶剤としてはジメチルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどの有機溶剤を用いることができる。凝固剤としては、例えば、水、メタノール、エタノールなどを用いることができる。凝固浴は溶剤/非溶剤の混合物を用いることができる。
【0029】
繊維(C)に用いるアクリロニトリル系ポリマーの分子量は、質量平均分子量5万〜100万が望ましい。質量平均分子量5万以上であれば紡糸性に優れると同時に繊維の糸質も優れる傾向にある。質量平均分子量100万以下であれば、紡糸原液の最適粘度を与えるポリマー濃度が低くなることを容易に防止でき、生産性が低下することを容易に防止できる。
【0030】
異種ポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、酢酸セルロース、(メタ)アクリル樹脂などが挙げられる。この中でも(メタ)アクリル樹脂は好ましい異種ポリマー成分である。(メタ)アクリル樹脂は、カルボン酸、またはスルホン酸等の酸性基を有する共重合体であり、たとえば(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の一塩基、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、イソフタル酸等の二塩基酸、及びこれらの部分エステル等が共重合されていても良い。
【0031】
上記のモノマーの他に、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等のモノマーが(メタ)アクリル酸に共重合されていてもよい。また、ポリマーの水溶性を抑制する等の別の目的で、更にスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、メタクリル酸ベンジルなどの芳香族ビニル化合物を共重合しても良い。
【0032】
繊維(C)用いるアクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが1万〜100万が望ましい。重量平均分子量が1万以上では紡糸工程での繊維の脱落を容易に防止でき、分子量が100万以下の場合、優れた紡糸性が得られる。また、アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂は、水に難溶性であることが望ましい。水への溶解性が低いと、紡糸凝固槽への脱落を容易に防止でき、繊維の毛羽立ち、糸切れを容易に防止でき、工程通過性が低下することを容易に防止できる。
【0033】
繊維(C)は、アクリル繊維内部に更に明確な筋状相分離構造を形成し、容易にフィブリル化する。
【0034】
〔フィブリル化アクリル繊維(D)〕
炭素繊維含有不織布が、フィブリル化アクリル繊維(D)を5〜40質量%含有することができる。繊維(D)は、アクリロニトリルを50質量%以上含有したアクリロニトリル系ポリマーよりなる幅0.1μm〜30μm、長さ10μm〜10mmのフィブリル状およびフィルム状物から構成される。
【0035】
また繊維(D)は、少なくとも、1000μm以上の長さを有するフィブリル状又はフィルム状物の割合が5%以上である。
【0036】
繊維(D)としては、フィブリル化されたポリエチレン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維などの合成パルプが用いられる。炭素繊維との親和性、取り扱い性、コストの点からフィブリル化されたポリエチレン繊維が好ましい。具体的には、ポリエチレンパルプ(三井化学株式会社製)等が例示できる。
繊維(D)は、直径0.1〜10μm程度の繊維状の幹より直径が数μm以下(例えば0.1〜3μm)のフィブリルが多数分岐した構造を有する。
【0037】
抄紙を行う場合は、繊維(D)が抄紙時の分散媒に不溶でかつ膨潤しないことが好ましい。交絡構造を効率的に形成するという点から繊維(D)を構成する繊維の表面自由エネルギーが、炭素短繊維(A)の表面自由エネルギーより大きいものが好ましい。
【0038】
フィブリル化アクリル繊維(D)は、JIS P8121による濾水度が100〜700mlのフィブリル繊維であることが好ましい。濾水度が100ml以上のフィブリル繊維は、取り扱いが容易であり、700ml以下であると繊維形態がシート化に特に好適である。
【0039】
フィブリル化アクリル繊維(D)は、以下に示す方法で得ることができる。即ち、アクリロニトリル系ポリマーをその溶剤に溶解して調製したポリマー溶液を、ノズルに定量供給して狭路とした吐出孔よりセル内に吐出させる。それと同時に、ポリマー溶液吐出流方向とほぼ同方向に供給されるように周りに設けたスリットよりポリマーの非溶剤の加圧水蒸気を供給する。それによりセル内で吐出ポリマー溶液に衝突させ、ポリマーを凝固させるとともに加圧水蒸気流により加えられた剪断応力により凝固ポリマーが引きちぎられた状態でノズルのセル出口から噴出させる。凝固浴で完全凝固させてフィブリル繊維を形成し、このフィブリル繊維に残留する溶剤を洗浄抽出し、乾燥することによりファイバー状物又はフィルム状物或いはその混合物と存在する集合体として繊維(D)を得ることができる。
フィブリル繊維を構成するファイバー状物又はフィルム状物の幅及び長さは、吐出孔形状、スリット形状、ポリマー溶液の濃度、供給量、水蒸気の供給量、供給圧、供給衝突角度、セル形状によって決定される。
【0040】
〔炭素繊維含有不織布の製造〕
本発明の炭素繊維含有不織布の製造方法は、
炭素短繊維(A)及び超極細アクリロニトリル系繊維(B)を含有する抄紙スラリーから抄造ウエッブを形成する工程I*を繰り返して多層化された抄造ウエッブを製造する工程I、および、
該多層化された抄造ウエッブにウオータージェットパンチングすることによって該多層化された抄造ウエッブを交絡一体化する工程II
を有する。
【0041】
上記方法により得られる炭素繊維含有不織布は、目付20〜200g/m2、布厚0.1〜2.0mmのものである。目付が20g/m2以上では、工程I(各層の抄紙工程I*を繰り返す工程)、ウオータージェットパンチングによる交絡工程(工程II)を通過させることが容易となり、抄紙ネットから問題なく剥ぎ取れる点で好ましい。目付が200g/m2以下では、抄紙やウオータージェットパンチングの工程での減圧脱水が容易となり、良好な均一なシートを形成することができる。
【0042】
工程Iにおいて、繊維濃度0.1〜3.0g/Lの抄紙スラリーを用いる湿式抄紙を行うことが好ましい。工程Iにおいて、抄紙速度(抄紙スラリー搬送速度)を1〜10m/minとすることが好ましい。工程Iにおいて、目付10〜66g/m2の抄造ウエッブを多層化して、目付20〜200g/m2の、抄紙ネットから剥ぎ取れる紙力強度を有するシート(多層化された抄造ウエッブ)を形成することが好ましい。
【0043】
抄紙速度は、抄紙スラリーを供給する抄紙ネット上に供給するフローボックス(FB)の分配能力、サクションボックス(SB)の脱水性能によってきまるが、上記の繊維濃度の範囲であれば繊維の分散性、地合い、均質性が好ましいものになる。
【0044】
抄紙スラリーを、抄紙シート幅に均一分配するフローボックス(FB)を通して、抄紙ネット上に定量吐出した後、抄紙ネット下に設けたサクションボックス(SB)により減圧脱水することができる。一般的な抄紙方法では前記繊維濃度(0.1〜3.0g/L)よりも低い領域で行われるが、均一分配できるフローボックスを用いることで抄紙スラリー濃度を高く設定しても抄紙シートの製造が可能となり、コンパクトな抄紙ユニットを組むことが可能となる。
【0045】
工程Iにおいて用いる抄紙スラリー中の繊維濃度が0.1g/L以上では、多層化された抄造ウエッブを、目付が高く、厚いシートとすることが容易で、抄紙ネットから剥ぎ取ることが容易なシートとすることが容易である。抄紙スラリー中の繊維濃度が3.0g/L以下では、スラリー中への繊維の均一分散、および、抄紙スラリーの均一な流れの形成を容易に達成でき、良好な地合い、均質なシートを得ることが容易である。
【0046】
抄紙ネット下に設置されたサクションボックスにおいて抄紙スラリーの減圧脱水を実施することができる。その際、抄紙目付66g/m2以下の抄造ウエッブとすることにより、脱水が容易で地合いの良いシートを得ることが容易である。また、工程IIにおいても高圧水流の脱水や交絡処理を行う際に、脱水が容易となり、サクションを容易に行え、繊維がシートから飛び散ってシート上に荒れが発生するような現象を容易に防止することができる。
【0047】
工程Iにおいて湿式抄紙法により抄造ウエッブを複数層積層した後に、工程IIにおいてウオータージェットパンチングによって多層化された抄造ウエッブを交絡一体化することができる。ウオータージェットパンチングによって、炭素短繊維(A)と超極細アクリロニトリル系繊維(B)の交絡一体化と、積層された抄造ウエッブの交絡一体化とが行われる。
【0048】
工程I*において、炭素繊維含有不織布の良好な地合いを得る観点から、10〜60g/m2の抄造ウエッブを積層することが好ましい。10〜60g/m2の抄紙(工程I*)を複数回繰り返すことによって目付20〜200g/m2のシート形成後することが好ましい。
【0049】
工程Iの繰り返し抄紙と、工程IIのウオータージェットパンチングによる交絡を、一台のネット搬送装置上に組み込んで連続的に行うことが好ましい。抄紙ユニットとウオータージェットパンチングのユニットを組み込んだコンパクトな装置で不織布シートが形成できる。
【0050】
本発明では、炭素短繊維(A)と超極細アクリロニトリル系繊維(B)を含有する抄紙スラリーを用いて抄造ウエッブを形成した後に、ウオータージェットパンチングによる繊維交絡処理を行う。繊維交絡性能が高い超極細繊維(B)を含有すること、これらをウオータージェットパンチングにより交絡することにより湿潤状態の抄紙シートがネットから剥ぎ取れるだけでなく、乾燥処理した後もシート形態が保持されるシートを形成することができる。形態変化が小さいだけでなく炭素短繊維(A)の脱落のほとんどない炭素繊維含有不織布を製造できる。
【0051】
ウオータージェットパンチングに際し、ウオータージェットパンチングに用いる高圧液体噴射ノズルに振動を与えることでシート(多層化された抄造ウエッブ)の表面にサインカーブ状の交絡パターン(交絡軌跡)を形成させることができる。これは、シート長さ方向の交絡のみならずシート幅方向の交絡に効果がありシート形態安定性を向上できる。
【0052】
〔第一のウオータージェットパンチング〕
ウオータージェットパンチングの一形態について説明する。この形態を第一のウオータージェットパンチングという。
【0053】
第一のウオータージェットパンチングでは、シート搬送方向に対して直角方向に振動する1列配置されたノズル孔を備える高圧液体噴射ノズル(第一の高圧液体噴射ノズル。以下、高圧液体噴射ノズル(1)と呼ぶ)を用い、周期20〜100mm、振幅1〜3mmのサインカーブ状の交絡軌跡をシート表面に描くようにウオータージェットパンチングする。
【0054】
工程I(多層抄紙)及び工程II(ウオータージェットパンチング)は、抄造ウェブを搬送する平網タイプの機台に設置した抄紙ネット上で連続したプロセスで行うことが好ましい。
【0055】
ウオータージェットパンチングにおいて、シート搬送方向に対して垂直方向に1列上に配置されたウオータージェットノズルを振動することで、シート表面にサインカーブ状のウオータージェット軌跡を描いて交絡処理して交絡部分の均一化を図ることができる。
【0056】
シート搬送速度、ノズル振動速度、ノズル振り幅の関係によりシート表面に形成されるウオータージェットパンチングの軌跡は決まる。ノズル振動数としては1〜1000rpm程度、振り幅6mm程度で制御することが実用的な範囲であり、シート搬送速度を1〜10m/minに設定した場合、周期20〜100mm、振幅1〜3mmのサインカーブをシート上に形成することができる。
【0057】
交絡処理をより強固にするために、ウオータージェットノズルによる処理を繰り返し行うことも可能である。例えば、1列ノズル間の列間ピッチは30cmとして2本のノズルを固定して1台のノズル振動装置で振動を与えることもできる。
【0058】
第一のウオータージェットパンチングにおいて、高圧液体噴射ノズル(1)を2本用い、周期20〜100mm、振幅1〜3mmのサインカーブ状の交絡軌跡を重ね合わせる。
【0059】
〔第二のウオータージェットパンチング〕
ウオータージェットパンチングの別の形態について説明する。この形態を第二のウオータージェットパンチングという。
【0060】
第二のウオータージェットパンチングでは、シート搬送方向に対して直角方向に振動する3列配置されたノズル孔を備える高圧液体噴射ノズル(第二の高圧液体噴射ノズル。以下、高圧液体噴射ノズル(2)と呼ぶ)を用いて、シート表面に周期10〜20mm、振幅1〜3mm、位相差120°で3本重ね合わせたウオータージェットパンチングによる交絡軌跡を形成する。高圧液体噴射ノズル(2)は3列配置されたノズルであり、ノズルに振動を与えながらシートを搬送すると、シート表面には3相のサインカーブが描かれる。この3相波のサインカーブの位相差が120°になる振動条件を選べば交絡軌跡が重なりあうことにより周期的な横段模様はシート表面には形成されない。
【0061】
高圧液体噴射ノズル(1)及び(2)の、高圧水流を発生させるノズル孔径はΦ(直径)0.05〜0.3mmが好ましい。直径0.05mm以上ではウオータージェットパンチングの打力が好適であり、効率的に交絡処理を行うことができる。直径0.3mm以下では、ウオータージェットパンチングの水量が増加して打力が強くなることを容易に防止し、シート表面に残る軌跡が太くなって表面が荒れることを容易に防止できる。
【0062】
高圧液体噴射ノズル(1)及び(2)のノズル孔間ピッチは特に限定されるものではない。孔間ピッチは狭いほど高密度な交絡処理は可能となるが、ウオータージェットノズルから発生する高圧水流の直進性や使用水量と排水量のバランス、ノズルの加工精度などを考慮すると0.05〜0.3mmが好ましい。
【0063】
高圧液体噴射ノズル(1)及び(2)の高圧水流の圧力は0.1〜6MPaが好ましい。圧力0.1MPa以上では繊維の交絡を良好にすることが容易である。圧力6MPa以下では、不織布の形態が崩れ破れることを容易に防止できる。
【0064】
高圧液体噴射ノズル(1)及び(2)による交絡処理を組み合わせてウオータージェットパンチングにより交絡一体化を行うことが好ましい。つまり、工程IIにおいて、第一および第二のウオータージェットパンチングの両方を行うことが好ましい。
【0065】
〔炭素繊維不織布の製造〕
前記炭素繊維含有不織布を100〜250℃、好ましくは120〜200℃の温度で熱プレスした後、1000〜3000℃で炭化処理することで炭素繊維不織布とすることが可能である。この炭素繊維不織布は多孔質電極基材として用いることが可能である。炭素繊維不織布の目付は15〜150g/m2とすることが好ましい。
【0066】
炭素化処理は導電性を高めるために、不活性ガス中で行うことが好ましい。1000〜3000℃の温度範囲で炭素化処理することが好ましく1000〜2200℃の温度範囲がより好ましい。1000℃以上の温度で炭素化処理して得られた炭素繊維不織布は、燃料電池の多孔質電極基材として用いるに優れた導電性を有する。
【0067】
熱プレスの後、炭素化処理の前に、300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
【0068】
炭素繊維含有不織布は、炭素化処理の前に、200℃以下の温度で加熱加圧成型(熱プレス)することで交絡部分および結着部分を融着させることができる。加圧加熱成型すると厚みムラを低減できる。加熱加圧成型は炭素繊維含有不織布を均等に加熱加圧成型できる技術であればいかなる技術も適用できる。例えば上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
【0069】
成型圧力は特に限定されないが、上記の点において優れた効果を得る観点、成型時の炭素繊維不織布の破壊を防止する観点、多孔質電極基材としたときその組織が緻密化することを防止する観点から、例えば、20kPa〜10MPaの圧力で加圧することができる。加熱加圧成型の時間は、例えば30秒〜10分とすることができる。
【0070】
炭素繊維含有不織布は、加熱加圧成型した後、炭素化処理の前に、200℃以上300℃未満の温度で酸化処理することが、含有成分である樹脂部分を融着させるという点で好ましい。
【0071】
この酸化処理は、200℃以上300℃未満の温度範囲で行うことが好ましく、240〜270℃で行うことがより好ましい。酸化処理は、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0072】
実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明の実施例、比較例に用いた、抄紙原料、混合組成、抄紙スラリー中の繊維濃度、抄紙目付、積層数以外の共通の調製条件、機台設定条件、および、工程通過性の評価方法を以下に示す。
【0073】
また、実施例、比較例の概要を表1にまとめる。表1において、各欄は次の意味を持つ。
基材種:使用した繊維の仕様、
シート組成:製造した炭素繊維含有不織布の組成(%は質量%)、
CF(A):炭素短繊維(A)、
超極細(B):超極細アクリロニトリル系繊維(B)、
割繊(C):易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)及びその一部が割繊または叩解された繊維(C*)、
フィブリッド(D):フィブリル化アクリル繊維(D)、
抄紙スラリー濃度:抄紙スラリー中の繊維の濃度、
シート目付:製造した炭素繊維含有不織布の目付、
抄紙目付:多層抄紙における各層の目付、
FB:工程Iのフローボックスにおける工程通過性評価結果、
抄紙:工程Iの昨ションボックス減圧脱水の評価結果、
WJ:工程IIのウオータージェットパンチングによる交絡処理の評価結果、
ネット剥離:シートのネットからの剥離に係る評価結果、
マングル脱水:シートのマングルからの取り出しに係る評価結果、
乾燥:シートの乾燥機からの取り出しに係る評価結果、
成形シートの目付・布厚:炭素繊維含有不織布を熱プレスした段階の目付と布厚、
焼成シートの目付・布厚:製造した炭素繊維不織布の目付と布厚。
【0074】
〔抄紙原料(フロック)の離解、叩解処理〕
・炭素短繊維(A)の離解処理
繊径7μmのポリアクリロニトル系炭素繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:パイロフィルTR50S)を長さ3mmにカットした。以下では繊維原料をフロックもしくは原料フロックと称することがある。この原料フロックを繊維濃度1質量%になるように水に分散した後、ディスクリファイナー(熊谷理機製)により離解処理した。ディスク回転数5000rpm、ディスククリアランス0.4mm、Bタイプディスクを使用して離解処理した。
【0075】
・超極細アクリロニトリル系繊維(B)の離解処理
繊度0.13dtexの超極細アクリロニトリル系繊維を長さ3mmにカットした(三菱レイヨン製、製品名:MVP D122)。この原料フロックを繊維濃度1質量%になるように水に分散して前記ディスクリファイナーにより離解処理した。ディスク回転数5000rpm、ディスククリアランス0.4mm、Bタイプディスクを使用して離解処理した。
【0076】
・易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)の叩解処理品(C*)調製
易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)(三菱レイヨン製、商品名:C651、ポリアクリロニトル系ポリマー/ジアセ=70/30)を長さ3mmにカットした。この原料フロックを繊維濃度1質量%で水に分散して前記ディスクリファイナーにより離解処理した。ディスク回転数5000rpm、ディスククリアランス0.05mm、Bタイプディスクを使用して叩解処理した。調製した叩解処理物(C*)の濾水度(CSF)は320ccであった。
【0077】
・フィブリル化アクリル繊維(D)の調製
アクリロニトリル系ポリマーをジメチルアセトアミドに80℃で加熱溶解して、ポリマー濃度23質量%のポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液を加圧水蒸気により凝固、せん断し、水よりなる凝固浴中へ噴出させた後、凝固浴中に浮遊した凝固物を濾過捕集した。ポリマー溶液は60℃に保ち、ギヤポンプにて24ml/分で直径0.2mmの吐出孔より、直径2mm、長さ10mmのセル内に吐出させた。該セル内にはポリマー溶液吐出流方向に対し60度の方向に供給されるように周りに設けたスリットより圧0.25MPaの加圧水蒸気を供給した。
調製したフィブリル化アクリル繊維(D)の濾水度(CSF)は350ccであった。繊維濃度1質量%で水に分散して前記ディスクリファイナーにより離解処理した。ディスク回転数5000rpm、ディスククリアランス0.4mm、Bタイプディスクを使用して離解処理した。調製した叩解処理物(C*)の濾水度(CSF)は350ccであった。
【0078】
〔抄紙スラリー調製〕
離解処理した炭素短繊維(A)および離解処理した超極細繊維(B)と、場合により繊維(C)の叩解物(C*)および/またはフィブリル化繊維(D)の離解処理品とを、スラリー調整タンクに入れて希釈水を添加して所定のスラリー繊維濃度、混合組成に調製した。さらに、ポリアクリルアマイドを添加して粘度22センチポイズ(0.022Pa・s)の抄紙用スラリーを調整した。
【0079】
〔ネット駆動及びシート搬送〕
抄紙ネットをベルト状につなぎあわせて連続的に回転させる装置(ネット搬送装置という)上で抄紙(繊維積載)、ウオータージェットパンチングによる交絡処理を実施した。ネット搬送装置には抄紙用スラリー供給装置、ウオータージェットノズル、減圧脱水装置のユニットをそれぞれ複数配置した。シート搬送速度は3.5m/minとして、抄紙ネットはPE(ポリエチレン)製平織抄紙ネット(商品名:FOP76、日本フィルコン製)を用いた。
【0080】
〔多層抄紙工程I〕
繊維(フロック)積載量はスラリー供給量、供給スラリー中の繊維濃度と抄紙ネット搬送速度、スラリー供給部幅で決まるので、上記パラメーターを調整して所定の目付になるように設定した。抄紙用スラリーを、抄紙ネット上にフローボックス(FB)を通して均一に分配供給した後に、常圧(自然)脱水する静置部分を通過させながら自然に脱水し、その後ネット下部に配置した減圧脱水装置により脱水した。この際、調製したスラリーは定量ポンプにより定量吐出して流れを均一にするフローボックスを介して抄紙ネット上に分配し流しこんだ。抄紙に用いたフローボックスの幅は48cmであり、スラリー供給量は30L/minで定量供給して抄紙を行った。抄紙スラリー供給装置はネット搬送装置上に3台配置して複数層の抄造ウエッブの積層を行った。
【0081】
多層抄紙工程Iの工程通過性の評価を目視で行い、フローボックス(FB)の流れが均一であるものは良好○、流れが不良であるものは×とした。抄紙におけるサクションボックス(SB)減圧脱水が良好に行われているものは○、脱水できてないものは×とした。
【0082】
〔交絡一体化工程II〕
ネット搬送装置の抄紙部(繊維積載部)を通過した後方にウオータージェットパンチング装置(WJ交絡装置)を配置した。ウオータージェットノズルは以下の2種類、計3本を装置上に配置した。高圧液体噴射ノズル(1)を2本、及び、高圧液体噴射ノズル(2)を1本用い、各ノズルをシート搬送方向に対して垂直方向に振動させるノズル振動装置を用いることにより、シート上にサインカーブ状のノズル軌跡を描いた。実施例で用いた高圧液体噴射ノズルのディメンジョン、構成などの詳細は以下に示す。
・高圧流体噴射ノズル(1)×2本
1列配列ノズル2本を固定して1台の振動装置で振動
ノズル孔数:501hole×2本(列)
孔径:φ0.10mm
幅方向孔間ピッチ:1mm
1列配置、ノズル間(列間)ピッチ:300mm
ノズル振り幅:3.0mm(サインカーブ振幅1.5mm)
ノズル振動機回転数:144rpm(1.91 cycle/sec)
・高圧流体噴出ノズル(2)×1本
3列ノズル
孔径:φ0.15mm
ノズル孔数:1002hole
幅方向孔間ピッチ:1.5mm
列間ピッチ5mm
ノズル振り幅3.0mm(サインカーブ振幅1.5mm)
ノズル振動機回転数:233rpm(389cycle/sec)
交絡一体化工程IIの工程通過性を以下の定義で評価した。ウオータージェットパンチングによりシートに交絡処理が良好に行われシート表面に交絡軌跡が描かれたものを○、シートが破壊または大きな穴が開いたものは×とした。
【0083】
〔抄紙ネットからの剥離〕
多層抄紙工程Iと交絡一体化工程IIを通過したシートは減圧脱水されているが湿潤状態の湿紙である。シート水付着量(ピックアップ)は550〜600質量%であった。ピックアップ[%]の定義は(シート湿潤質量−乾燥質量)/乾燥質量とした。
【0084】
抄紙ネットからシートを剥離する際、ハンドリングできる湿紙強力がなければシートを取り出すことはできない。抄紙ネットからの剥離ができるハンドリング性は以下のとおり評価した。抄紙ネットからシートを人手により剥離して取り出す操作をした後に、抄紙ネット後端から1m離した位置にネット抄紙ネットと同速度で搬送している1ベルトコンベヤに転送した後、ベルトコンベヤ端面から床面まで1.5mの高さとってシートを床面に振り込んだ。湿紙にシート自重による張力かけてシートが裂けることなく連続的に採取できるか確認した。シートがネットから剥ぎ取れ、ベルトコンベヤで床面に連続的に振り込めたものは○、シートが剥ぎ取れず、裂けたり破れたりして連続的に床面に振り込めないもの×とした。
【0085】
〔脱水処理〕
抄紙ネットより剥ぎ取ったシートはマングルにより水分を絞った。シート水付着量(ピックアップ)は250〜300質量%になるように調整した。
工程通過性の評価はシートがマングルから取り出すことができシートの破れがないものは○、シートが剥ぎ取れず、裂けたり破れたりしたもの×とした。
【0086】
〔乾燥処理〕
次にピンテンター試験機(辻井染色機製、商品名:PT−2A−400)により130℃×4分で乾燥した。乾燥機のピンチェーンは入口幅39cm、出口幅40cmに設定して、1cm拡幅しながら処理した。工程通過性の評価はシートが取り出すことができ破れがないものは○、シートが裂けたり破れたりしたものを×とした。
【0087】
〔実施例1〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)/叩解処理品(C*)/フィブリル化繊維(D)=50/30/10/10(質量%)の抄紙基材を含有する繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。これを用いて、目付30g/m2の各層抄紙工程I*を2回繰り返し、目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層化抄造ウエッブ)を形成した。
【0088】
多層抄紙工程Iのフローボックスの流れ及び分配は均一であり、ネット下に配置されたサクションボックスからの脱水も良好であった。シート表面の荒れなどはなく表面が均質な抄造ウエッブが形成された。
【0089】
次に得られた多層抄造ウエッブを、高圧液体噴射ノズル(1)を2本と高圧液体噴射ノズル(2)1本とを通過させて、交絡一体化工程IIを行った。高圧液体噴射ノズル(1)の圧力は1本目を1MPaに、2本目を2MPa、3本目を3MPaの圧力に設定してウオータージェットパンチングする交絡一体化工程IIを行った。
【0090】
高圧液体噴射ノズル(1)により処理することで、シート上には振幅1.5mm、周期31mmシート上に描き、高圧液体噴射ノズル(2)により振幅1.5mm、周期15mmのサインカーブがシート表面に重ね合わされた交絡パターンが描かれた。
【0091】
高圧液体噴射ノズル(1)を1本用いて形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを図1に示す。高圧液体噴射ノズル(2)を1本用いて形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを図2に示す。高圧液体噴射ノズル(1)を2本使用することで形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを図3に示す。高圧液体噴射ノズル(1)を2本と高圧液体噴射ノズル(2)を1本使用することで形成されるウオータージェット軌跡よりなる交絡パターンを図4に示す。
【0092】
ウオータージェットパンチングによる交絡一体化工程IIでも、シート表面及び形態は良好であり、ウオータージェットパンチングの交絡軌跡パターンがシート表面に形成された。また、工程I及び工程IIの処理を終えたシートは抄紙ネットより連続的に剥離することが可能であった。
【0093】
次に、マングルによりシートを脱水した後に得られたシートはピンテンター試験機により乾燥した。乾燥時にシートは裂けることなく処理が可能であった。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。得られた炭素繊維含有不織布を図5に示す。
【0094】
〔実施例2〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0095】
〔実施例3〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=90/10(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.9mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0096】
〔比較例1〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=95/5(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施したが、湿紙強力が十分でなく抄紙ネットからの剥離ができず連続シートを形成することができなかった。
【0097】
〔比較例2〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度0.56g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付10g/m2の抄紙工程I*を1回だけ行って一層の抄造ウエッブシートを形成した(多層化は行わなかった)。湿紙強力が十分でなく抄紙ネットからの剥離ができず連続シートを形成することができなかった。
【0098】
〔実施例4〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度0.84g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付15g/m2の抄紙工程I*を2回繰り返し、目付30g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層抄造ウエッブ)を形成した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付30g/m2、布厚0.4mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0099】
〔実施例5〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度1.12g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付20g/m2の抄紙工程I*を3回繰り返し、目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(三層抄造ウエッブ)を形成した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.7mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0100】
〔実施例6〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度2.52g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付45g/m2の抄紙工程I*を3回繰り返し、目付135g/m2の抄造ウエッブ積層シート(三層抄造ウエッブ)を形成した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付135g/m2、布厚1.3mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0101】
〔比較例3〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度3.92g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付70g/m2の抄紙工程I*を3回繰り返し、目付210g/m2の抄造ウエッブ積層シート(三層抄造ウエッブ)を形成した。その他は実施例1と同様な方法で実施したが、抄紙工程Iでのフローボックス(FB)からの流れにも斑があり、サクションボックス(SB)による減圧脱水も十分でなく、表面が荒れた不均一なシートとなった。
【0102】
〔比較例4〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。目付30g/m2の抄紙工程I*を2回繰り返し、目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層抄造ウエッブ)を形成した。ウオータージェットパンチングによる交絡処理は行わなかった以外は実施例2と同様な処理を行った。抄紙ネットからの剥離はできるがマングルにより脱水工程、および、乾燥工程で層間剥離や繊維脱落があり、形態安定性が良好なシートは得られなかった。
【0103】
〔実施例7〕
比較例4と同様な方法で目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層抄造ウエッブ)を形成した。ウオータージェットパンチングによる交絡一体化処理IIは高圧液体噴射ノズル(1)を2本使用して行った。高圧液体噴射ノズル(2)は使用しなかった。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。シート表面にはウオータージェットパンチングによる交絡軌跡の干渉があり、図3に示すような周期的な緯段模様が観察された。
【0104】
〔実施例8〕
比較例4と同様な方法で目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層抄造ウエッブ)を形成した。ウオータージェットパンチングによる交絡一体化処理IIは高圧液体噴射ノズル(2)だけを使用して行った。その他は実施例1と同様な方法で実施した。シート表面にはウオータージェットパンチングによる交絡軌跡の干渉はなく、図2に示す交絡パターンが形成された。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0105】
〔比較例5〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)=70/30(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。超極細繊維(B)として、繊度1.0dtex、カット長5mmの超極細繊維を用いた。その他は実施例2と同様な方法で実施した。
目付30g/m2の抄紙工程I*を2回繰り返し、目付60g/m2の抄造ウエッブ積層シート(二層抄造ウエッブ)を形成した。乾燥上がりのシートの形態安定性はわるく、繊維の抜けや脱落が発生するシートであった。
【0106】
〔実施例9〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)/叩解処理品(C*)=50/30/20(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0107】
次に、この炭素繊維含有不織布に温度180℃で3分間、10MPaの圧力を加えてバッチプレスを行った。その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、1800℃、1分間で炭素化した。この結果、目付44g/m2、布厚0.2mmの炭素繊維不織布を得た。
【0108】
〔実施例10〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)/フィブリル化繊維(D)=50/30/20(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0109】
得られた炭素含有不織布に180℃の温度で3分間、10MPaの圧力を加えてバッチプレスを行った後、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、1800℃の温度で1分間かけ炭素化した。この結果、目付45g/m2、布厚0.2mmの炭素繊維不織布を得た。
【0110】
〔実施例11〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)/叩解処理品(C*)=70/10/20(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0111】
得られた炭素繊維含有不織布に温度180℃で3分間、10MPaの圧力を加えてバッチプレスを行った。その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、1800℃、1分間で炭素化した。この結果、目付50g/m2、布厚0.2mmの炭素繊維不織布を得た。
【0112】
〔実施例12〕
炭素短繊維(A)/超極細繊維(B)/フィブリル化繊維(D)=70/10/20(質量%)、繊維濃度1.68g/Lの抄紙スラリーを調製した。その他は実施例1と同様な方法で実施した。この結果、目付60g/m2、布厚0.6mmの層間剥離や繊維脱落のないシートの形態安定性が良好な炭素繊維含有不織布を得た。
【0113】
得られた炭素含有不織布に180℃の温度で3分間、10MPaの圧力を加えてバッチプレスを行った後、不活性ガス(窒素)雰囲気中で、1800℃の温度で1分間かけ炭素化した。この結果、目付51g/m2、布厚0.2mmの炭素繊維不織布を得た。
【0114】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0115】
炭素繊維含有不織布および炭素繊維不織布は、導電性、熱伝導性、耐熱性、耐腐食性、気体透過性が優れる多孔質構造を有する不織布として有用である。
【0116】
本発明の炭素繊維含有不織布は炭素繊維の抜け落ちがなく帯電防止材、電磁波シールド材、その他フィルター、樹脂を含浸させ炭素繊維強化樹脂としても利用できる。また、本発明の炭素繊維含有不織布を炭素化処理することで得られる多孔質炭素繊維不織布は固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、炭素繊維含有不織布の製造方法。
(1)炭素短繊維(A)を40〜90質量%及び超極細アクリロニトリル系短繊維(B)を5〜60質量%含有する抄紙スラリーを調製する工程。
(2)前記スラリーから抄造ウエッブを形成する工程。
(3)前記工程を繰り返して、多層化された抄造ウエッブを調製する工程。
(4)前記多層化された抄造ウエッブをウオータージェットパンチングに供し、多層化された抄造ウエッブを交絡一体化する工程。
【請求項2】
前記工程(1)において、さらにアクリロニトリル系ポリマーを50〜70質量%、及び該アクリロニトリル系ポリマーと相溶性がなく、且つ、該アクリロニトリル系ポリマーと共通な溶剤に可溶であるポリマー50〜30質量%を含有した、易割繊性アクリロニトリル系ポリマーブレンド繊維(C)を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(4)において、ウオータージェットパンチングが、
1列に配置された複数のノズル孔を備える第一の高圧液体噴射ノズルであって、
該ノズルは、抄造ウエッブの搬送方向に対して直角方向に振動し、周期20〜100mm、振幅1〜3mmのサインカーブ状の交絡軌跡を抄造ウエッブ表面に描く、第一のウオータージェットパンチングを含む、
請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(4)において、ウオータージェットパンチングが、
前記第一の高圧液体噴射ノズルを2本用いて、該2本の第一の高圧液体噴射ノズルによって描かれる交絡軌跡を重ね合わせ、10〜50mm間隔の横段状の干渉縞を形成するウオータージェットパンチングを含む、
請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
工程(4)において、ウオータージェットパンチングが、
抄造ウエッブの搬送方向に対して直角方向に振動する、3列配置されたノズル孔を備える第二の高圧液体噴射ノズルを用いて、周期10〜20mm、振幅1〜3mm、位相差120°で3本重ね合わせたサインカーブ状の交絡軌跡を、多層化された抄造ウエッブ表面に描く、第二のウオータージェットパンチングを含む
請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維含有不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法で製造された炭素繊維含有不織布を熱プレスする工程、及び該熱プレスした炭素繊維含有不織布を最高温度1000〜3000℃で炭化処理する工程を含む、
炭素繊維不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162835(P2012−162835A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26186(P2011−26186)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】