説明

炭素質材料

【課題】再生品や端材として今後大量に発生しうる炭素繊維を用いて高強度の炭素質材料を提供する。
【解決手段】平均繊維長1mm以下の炭素繊維と、炭素質マトリックスとからなる炭素質材料であって、気孔率が15〜30%である炭素質材料。炭素質材料の気孔率は、15%を下回ると、炭素繊維が短いために焼成時に大きなクラックが発生し易く、低強度の炭素質材料が出来やすくなる。30%以上であると、炭素繊維どうしの接着が弱くなり炭素質材料の強度が低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池製造、原子力、核融合装置、航空宇宙関連、単結晶製造装置、エピタキシャル成長などの半導体製造装置、光学ガラス、光ファイバー製造装置、冶金、鋳造など、高温環境下で用いられる炭素質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維には、
1)軽い(比重は鉄の1/4)
2)高強度である(比強度は鉄の10倍)
3)高弾性である(比弾性率は鉄の7倍)
4)化学的安定性に優れる(錆、劣化がない)
といった利点がある。このため、ゴルフクラブ、釣り竿などの比較的小型の民生品から利用が始まり、実績を積み重ね、近年では、コンクリート橋脚などの補強材、航空機、水素などの高圧の圧力容器、風力発電のブレードなど、多岐にわたり大量に使用さえるようになってきた。
このような用途では、繊維の強度を十分発揮できるように、できるだけ繊維を切断することが無いよう複数の繊維を束ねた「ストランド」を巻き付けてフィラメントワインディングの形式や、ストランドを用いて布を作製し巻き付けるクロスワインディングなどの方法で樹脂との複合材料としたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)が用いられている。
近年、ゴミ処理問題などから、大量に発生する炭素繊維の繊維・織物屑や、廃棄されたCFRPの利用方法について様々な検討が行われている。
また、炭素繊維は、アクリル繊維や、ピッチを起源とする繊維を、1000〜3000℃で、焼成、炭化することにより得ることができるが、高温で処理する必要があるため、製造段階で大きなエネルギーを使用する。
このようなゴミ処理問題や、製造段階でかかるエネルギー削減のため、炭素繊維をリサイクルすることが試みられている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。このようなリサイクルの炭素繊維では、繊維長が短くなっており前記の繊維の長さが必要となるフィラメントワインディングや、クロスワインディングの用途では使用することができないが、CFRPの用途においては補強材として樹脂に均一に分散させモールド成型することにより、比較的高強度のCFRPを得ることができるようになってきている。
特に繊維長が短くなるように粉砕したミルド繊維は、織布や、フィラメントワインディングなど炭素繊維の元の形態に関係なく粉砕しさえすれば容易に得ることができるため、特に再生して利用することが容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−307121号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】榊原定征、“素材産業からの低環境負荷社会への提言”、[on line]、2008年6月19日、環境省HP、[平成21年10月30日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/council/06earth/y069-04/mat03.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでリサイクルの炭素繊維はCFRPに限られていた。リサイクルの炭素繊維では織物やストランドを形成することが難しいため、フィラメントワインディングやクロスワインディング法を用いて複合材を形成することが難しく、再利用するためには解細し数十ミリ〜数ミリ程度の長さに切断されたチョップド繊維や、長さ1mm以下になるよう粉砕されたミルド繊維の形態でしか利用することができない。CFRPでは、樹脂と短く切断された炭素繊維をモールド成型するだけで比較的高強度のCFRPを得ることができたが、高温で使用できる炭素質材料として用いた場合、炭素繊維の繊維長が短すぎるため、繊維と炭素質マトリックスの絡まりが不十分であるうえ、繊維と炭素質マトリックスの焼成収縮挙動が異なるため、充分な接着強度を得ることができない。また、炭素質マトリックスとしては、炭化収率の高いフェノール樹脂や、高融点ピッチなどを焼成したものが使用されるが、所定の形状に高密度に成形すると、焼成の過程で発生するガスの圧力により、膨れや、多くのマイクロクラック、ボイドによって、大幅に強度が低下する。特に繊維長の短い(1mm以下)ミルド繊維では、耐熱性のある炭素材料としての利用は困難であった。このため、これまで炭素繊維強化炭素複合材として、チョップド繊維やミルド繊維を利用することは困難であった。
本発明では、再生品や端材として今後大量に発生しうる炭素繊維を用いて高強度の炭素質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)平均繊維長1mm以下の炭素繊維と、炭素質マトリックスとからなる炭素質材料であって、気孔率が15〜30%である炭素質材料。
(2)気孔率が15〜25%である(1)に記載の炭素質材料。
(3)炭素繊維体積率が30%以上である(1)または(2)に記載の炭素質材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性のある炭素質材料として利用しにくい平均繊維長1mm以下の繊維であっても、高強度の炭素質材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の炭素質材料の気孔率、繊維体積率を算出する参考図。(a)表1の炭素質材料の気孔率、繊維体積率算出する参考図。(b)表2の炭素質材料の気孔率、繊維体積率算出する参考図。
【図2】実施例の炭素繊維体積率-気孔率と曲げ強度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭素質素材は、炭素繊維と炭素質マトリックスとからなり、特定の気孔率を有するものである。本発明において、炭素繊維体積率とは、炭素繊維の占める体積を全体の体積で除したものを意味する。また、炭素質マトリクッスとは、炭素マトリックスの占める体積を全体の体積で除したものを、気孔率とは、気孔の占める体積を全体の体積で除したものをそれぞれ意味する。
炭素質マトリックスとは、炭素繊維どうしを接着する機能を備えた炭素質材料からなる充填材のことである。
【0010】
本発明の炭素質材料に含まれる炭素繊維は平均繊維長1mm以下であることを前提としている。平均繊維長1mm以上であれば、繊維同士の絡まりが充分に確保でき、炭素質マトリックスと炭素繊維との間に接着力が不十分であっても強度を確保しやすく本発明の炭素質材料を用いなくても充分に高強度の炭素質材料を得ることができる。しかしながら平均繊維長が1mm以下の繊維は、再生品や端材から粉砕して容易に得ることができるが、炭素繊維同士の絡まりが殆ど期待できず、これまで炭素質材料を得ることが難しかったが、本発明を用いることによって高強度の炭素質材料を得ることができる。
【0011】
本願における炭素繊維の平均繊維長<L>は、どのような方法で測定しても良い。原材料段階であれば、分散させた炭素繊維粉末を走査電子顕微鏡等で直接測定することによって得ることができる。炭素繊維の平均繊維長の算出方法は、下記式に示すように、任意の領域に存在する炭素繊維の長さLiを全て計測し、計測した炭素繊維の本数nで除することで求めることができる。(炭素繊維の太さ、密度は平均繊維長には寄与しない)
<L>=ΣL/n
また、炭素質材料中に含まれる状態での炭素繊維の平均繊維長も、どのような方法で測定しても良い。炭素繊維のみを単独で抽出することは容易にできないが、例えば集束イオン・電子ビーム加工観察装置(FIB-SEM)等の方法を用いれば計測することができる。具体的には、炭素質材料を表面から集束イオン・電子ビーム等を用いて少しずつ加工しながらSEMで繊維の立体的な配置を確認し、個々の繊維長を求めることができる。さらに、炭素繊維部、炭素質マトリックス部、気孔部の占める面積を加工する毎に算出することにより、繊維体積率、炭素質マトリックス体積率、気孔率を算出することができる。
【0012】
また、炭素質材料を直接分析する以外にも、炭素質材料の質量、みかけ密度、製造段階で使用した炭素繊維の質量及び真密度、焼成後(製品段階)の炭素質マトリックスの真密度から、炭素繊維体積率、炭素質マトリックス体積率を算出することもできる。これらの計算は、以下の表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
以下に、炭素質材料が、炭素繊維と、1種類の炭素質マトリックスとからなる場合の、炭素繊維体積率、気孔率の算出方法について説明する。図1は本発明の炭素質材料の気孔率、繊維体積率を算出する参考図であり、(a)表1の炭素質材料の気孔率、繊維体積率算出する参考図である。このような炭素質材料1は、炭素質マトリックス3が1種類の炭素前駆体からなる場合である。たとえば、炭素繊維2と1種類の樹脂のみを混合し炭化して得られた炭素質材料1や、炭素繊維2に1種類のピッチのみを含浸して得られた炭素質材料等である。
【0015】
炭素質材料1の質量がM、密度がρとすると、炭素質材料全体の体積はV(=M/ρ)である。その炭素質材料を製造するために使用した炭素繊維2の質量がMであり、密度がρとすると、炭素質材料中の炭素繊維2の体積はV(=M/ρ)、炭素繊維体積率は、k(=V/V)となる。炭素質マトリックス3の質量Mは、残部であるため、(=Mc1−M)となり、別途測定した炭素質マトリックス3の密度をρとすると、炭素質マトリックス3の体積はV(=M/ρ)となる。これより、気孔部の体積Vは、全体積Vから、炭素繊維2の体積V、炭素質マトリックスの体積Mを除いた(=V−V−V)となる。これを、炭素質材料の全体積Vで除した気孔部の体積率k(=Vp1/V)が、気孔4の気孔率に相当する。(図1(a))
【0016】
次に、炭素質材料が炭素繊維と2種類の炭素質マトリックスとからなる場合について、炭素繊維体積率、気孔率の算出方法について説明する。図1(b)は表2の炭素質材料の気孔率、繊維体積率算出する参考図である。このような炭素質材料1は、炭素質マトリックスが2種類の炭素前駆体からなる場合である。たとえば、炭素繊維と1種類の樹脂のみを混合し炭化して得られた炭素質材料にさらにピッチ等別の炭素前駆体を含浸して得られた炭素質材料等である。
【0017】
炭素質材料1を製造するために使用した炭素繊維2の質量がM、密度がρとすると、炭素質材料中の炭素繊維2の体積はV(=M/ρ)となる。炭素質材料の含浸前(第1の炭素質材料)の質量をMc1、第1の炭素質マトリックス3Aの質量Mm1は、残部であるため、(=Mc1−M)となり、別途測定した第1の炭素質マトリックス3Aの密度をρm1とすると、第1の炭素質マトリックス3Aの体積はVm1(=Mm1/ρm1)となる。第1の気孔の体積Vp1は、全体積Vc1から、炭素繊維2の体積V、第1の炭素質マトリックスの体積Vm1を除いた(=Vc1−V−V)となる。また、炭素繊維体積率は、k(=V/Vc1)、第1の気孔率は、kp1(=Vp1/Vc1)となる。
【0018】
こうして得られた炭素質材料にさらに第2の炭素前駆体を含浸し、2種類の炭素質マトリックスからなる炭素質材料を得る場合についてさらに説明する。
【0019】
第2の炭素質材料Mc2の質量から第1の炭素質材料Mc1の質量を差し引くと第2の炭素質マトリックス3Bの質量Mm2(=Mc2−Mc1)が算出される。別途測定した第2の炭素質マトリックス3Bの密度をρm2とすると、第2の炭素質マトリックス3Bの体積はVm2(=Mm2/ρm2)となる。それぞれ第1と第2の炭素質マトリックスの質量を密度で割り、足し合わせると第1と第2の炭素質マトリックスを合わせた体積が算出される。Vm1+Vm2(=Mm1/ρm1+Mm2/ρm2)。さらに第2の炭素質材料の全体積Vc2(=Vc1:本発明の炭素材料は緻密であるので含浸による体積変化はほとんどしない)で割ると炭素質マトリックスの体積率を求めることが出来る。
【0020】
第2の炭素質材料のみかけ密度(第2の見かけ密度) をρc2とすると、炭素質材料の全体積Vc2はMc2/ρc2となる。さらに第2の気孔部の体積Vp2は、Vc2−V−(Vm1+Vm2)となるため、第2の炭素質材料の全体積Vc2で除すると、第2の気孔部の体積率kp2を求めることが出来る。この第2の気孔部の体積率kp2が炭素質材料1の気孔4の実際の気孔率に相当する。(図1(b))
【0021】
【表2】

【0022】
更に、真密度の異なるマトリックスを含浸・焼成する場合には、同様にそのたび毎に焼成後の炭素質材料の質量、見かけ密度、新たに含浸されたマトリックス成分の真密度を計測すればマトリックス体積率を算出することができる。
【0023】
炭素質マトリックス、炭素繊維の真密度は、どのような方法で測定しても構わない。(炭素質マトリックスは、予め焼成温度で熱処理をした後に測定する。)例えば、JIS K2151「コークス類−試験方法」の比重瓶による測定や、(株)セイシン企業製オートトゥルーデンサー等で測定することが出来る。
【0024】
本発明の炭素質材料の気孔率は、15〜30%である。15%を下回ると、炭素繊維が短いために焼成時に大きなクラックが発生し易く、低強度の炭素質材料が出来やすくなる。30%以上であると、炭素繊維どうしの接着が弱くなり炭素質材料の強度が低くなる。気孔率の望ましい範囲は、15〜25%である。
【0025】
本発明の炭素質材料の炭素繊維体積率の望ましい範囲は、30%以上である。30%以上であれば、100MPa以上の曲げ強度を得ることができる。炭素繊維体積率の更に望ましい範囲は、30〜45%である。
【0026】
本発明の炭素質材料の密度(かさ密度)は、炭素繊維どうしの接続を確保する観点から、1.2g/cm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる炭素繊維は、どのようなものであっても構わない。ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維であってもピッチ系の炭素繊維であっても、両者の混合物であってもよい。また、炭素繊維の太さは特に限定されない。
炭素繊維の平均繊維長は、1mm以下、好ましくは0.2〜1mmである。0.1mm未満であると炭素繊維か粉末として作用し、繊維としての機能が充分に発揮できないからである。
また、炭素繊維のアスペクト比は、好ましくは10以上である。10以下であると炭素繊維か粉末として作用し、繊維としての機能が充分に発揮できないからである。アスペクト比とは、炭素繊維の長さ/直径のことである。
【0028】
本発明の炭素質材料における炭素質マトリックスはバインダーを焼成して炭素化することによって得ることができる。前記バインダーは焼成し炭素化するものであればどのようなものであっても構わない。例えば、熱硬化性樹脂、ピッチ等が有効に利用でき、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、COPNA樹脂などが好適に利用できる。ピッチとしては、石油系、石炭系を問わず高炭化収率であれば好適に利用できる。また、塩化ビニル樹脂を熱処理して得られるPVCピッチでも利用できる。中でも、高分子量のフェノール樹脂粉末が好適に利用できる。例えばエアウォーター株式会社製「ベルパール」(登録商標)や、ユニチカ株式会社製「ユニベックス」(登録商標)が特に望ましい。これらの高分子量のフェノール粉末は、炭化収率が70%前後と高く、粒子径も1〜20μmと細かいため、均一な組織を形成することができる。
バインダーの配合量は、炭素繊維100質量部に対し、100〜200質量部とすることが好ましい。
【0029】
本発明の炭素質材料の製造方法は以下のように行うことができる。
1)炭素繊維調整工程
2)プリフォーム形成工程
3)プレス工程
4)硬化工程
5)第1の脱脂工程
6)(含浸工程)
7)(第2の脱脂工程)
8)焼成工程
なお、上記のように含浸工程、第2の脱脂工程を加えて、高密度化してもよい。
【0030】
以下それぞれの工程の役割について説明する。
1)炭素繊維調整工程
CFRP用の炭素繊維を再利用する場合には、繊維表面に賦活剤が付着しており、水に分散し易くするため除去する。除去の方法はどのような方法であっても構わないが、有機物であるため、還元性雰囲気で熱処理することにより容易に除去できる。次に水に分散させ、粉砕機で粉砕する。粉砕機は、羽根を高速回転するミキサでよく、三井鉱山(株)製「ヘンシェルミキサ」(登録商標)が有効に使用できる。この炭素繊維調整工程で、平均繊維長1mm以下になるように調整する。平均繊維長1mm以下としたのは、炭素繊維を再利用するため元の繊維長が不揃いであるからである。1mm以下であれば、例えば炭素繊維クロスの端材であっても、切断の際に発生した粉状の炭素繊維粉であっても、常に同等の繊維長の炭素繊維粉を供給することが出来る。
【0031】
2)プリフォーム形成工程
プリフォーム形成工程では、型等を用いて目的の形状のバインダーと炭素繊維との混合物の成形体を得ることを目的とする。
プリフォームの形成方法は、どのようなものであっても構わない。シートワインディング、型込め成形、抄造等が利用できる。
シートワインディングでは、あらかじめプレス、抄造などの方法で炭素繊維とバインダーとからなるフェルト状シートを形成し、型に貼り付け、巻き付け等する。このままで次のプレス工程を行っても良いが、扱いやすくするため、バインダーが硬化しない程度に熱を加えてフェルト状シートを接着して目的の形状を保持できるようにしても良い。
型込めでは、目的の形状の型に、炭素繊維とバインダーの混合物を入れ、バインダーが硬化しない程度に加熱し、バインダーを溶融させ、型を冷却する。冷却後型から前記混合物を取り出すと目的の形状のプリフォームを得ることができる。
抄造では、炭素繊維と、バインダーを水に分散させスラリーを作製する。次に、表面に網を備えた吸引型を減圧ポンプに接続し、前記スラリーを吸引し吸引型表面に付着させる。こうして得られた抄造体を乾燥し、プリフォームを得ることができる。
尚、スラリーには、吸引型の網を炭素繊維が通過しないよう凝集剤を加えてもよい。凝集剤は、スラリー中に分散する炭素繊維を、吸引型の網を通過しない程度の、例えば直径2〜50の凝集体に形成できるものであれば特に限定されないが、アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性の高分子凝集剤などが好適に使用される。炭素繊維を予め凝集させることで、短時間で肉厚の抄造体を得ることができる。また、抄造体の形状を保持しやすくするために澱粉、パルプ、ラテックス等を加えても良い。
【0032】
3)プレス工程
プレス工程は、目的の形状のプリフォームを高密度化することを目的とする。
プレス方法は特に限定されないが、例えば平板プレス、CIP成形(冷間等方圧成形)、オートクレーブ成形等が利用でき、熱硬化性樹脂を使用する場合には熱を併用するとスプリングバックを小さく抑えることができる。
【0033】
4)硬化工程
硬化工程は、熱硬化性樹脂を用いた場合に必要となる。前記プレス工程で得られた成形体を後工程で変形することがないよう形状を固定化させる。温度、時間は使用する熱硬化性樹脂の種類によって異なるが、例えばベルパール(登録商標)S890グレードではゲル化時間が65秒/180℃であり、これ以上の温度、時間を加えれば充分である。
【0034】
5)第1の脱脂工程
脱脂工程では、不活性雰囲気でバインダー成分を炭素化し、炭素質マトリックスに変化させる。脱脂工程では成形体からの発生ガスで剥離、割れ、発泡等が発生し易いため、100℃/h以下の昇温速度で加熱することが望ましい。また、処理温度は、バインダーの種類にもよるが少なくとも500℃以上が望ましい。500℃以上であれば通常の有機物は炭化するからである。
【0035】
6)(含浸工程)
含浸工程では、炭素質材料を高密度化するために、バインダー成分を含浸する。含浸工程で使用するバインダーは液状のものを使用する。溶融ピッチ、液状樹脂溶液、樹脂溶融物等が利用できる。
オートクレーブに焼成した成形体を入れ、真空引きする。真空引き終了後、含浸するバインダーをオートクレーブに入れ、加圧する。加圧することにより成形体内部の気孔にまで含浸することができる。
【0036】
7)(第2の脱脂工程)
第2の脱脂工程では、第1の脱脂工程と同様に不活性雰囲気でバインダー成分を炭素化し、炭素質マトリックスに変化させる。脱脂工程では成形体からの発生ガスで剥離、割れ、発泡等が発生し易いため、100℃/h以下の昇温速度で加熱することが望ましい。また、処理温度は、バインダーの種類にもよるが少なくとも500℃以上が望ましい。500℃以上であれば通常の有機物は炭化するからである。
含浸工程、第2の脱脂工程は高密度化が不十分な場合、必要に応じて実施する。また、高密度化が不十分な場合、含浸工程、第2の脱脂工程を繰り返し行っても良い。
【0037】
8)焼成工程
第1の脱脂工程、第2の脱脂工程の後に、1000〜2500℃で加熱処理する。焼成工程では、マトリックス成分に熱履歴を加えることで、熱的に安定化させ、実際の使用の際変形等しないようにする。また、マトリックス成分の結晶成長が促進されるため、熱や電気の伝導性が向上する。尚、脱脂工程で揮発成分が殆ど揮散しているため、脱脂工程に比べ焼成工程では殆ど質量変化がない。このため、前記表2のMc2は、焼成工程を経ていなくても第1の脱脂工程後の質量で代用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例>
(1)炭素繊維調整工程
CFRP用のPAN系の端材を準備した。平均太さは7μmであった。水への分散性を改善するために繊維表面に塗布されている賦活剤を還元性雰囲気550℃で焼成し除去した後、水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させた。
(2)プリフォーム形成工程
前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維粉100質量部に対し、抄造体の形状保持のためラテックス5質量部と、凝集剤(パーコール292)0.3質量部と、バインダーとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール」S890(添加量は表3))を水に一旦分散させ放置し、凝集した後に、表面に開口1mm金網を備えた円筒形の型で内側から吸引し、円筒形のプリフォームを形成した。開口1mmの金網であるが、炭素繊維は凝集しているため、網を通過する炭素繊維はほとんど無かった。そのまましばらく放置し、重力で水分が除去されてから、約60℃の乾燥機で乾燥させた。
(3)プレス工程
前記工程で得られたプリフォームを円筒形の金属型に挿入し更に表面をフィルムで覆い、オートクレーブに入れ150℃の熱を加えながら加圧した。加圧圧力は表3に記載した。
(4)硬化工程
オートクレーブでプレスを行う場合、同時に硬化させることが出来る。最大圧力のまま2時間放置した。この工程により、バインダー(フェノール樹脂)は硬化した。
(5)脱脂工程
前記工程で得られた成形体の金型を外し、還元性雰囲気炉で焼成した。焼成は70℃/hで、最高温度550℃で処理を行った。
(6)(含浸工程)
第1の脱脂工程までに、本発明の繊維体積率、気孔率が得られていない場合には、更に含浸を行う。
本実施例では、200℃に加熱したオートクレーブ中にいれ、真空引きした後に軟化点約80℃のピッチを流入し、4MPaで加圧し、成形体中にピッチを含浸した。(含浸の有無は表1に記載)
(7)(第2の脱脂工程)
含浸工程を経た成形体は再度脱脂を行う。条件は(5)の脱脂工程と同様に行った。
(8)焼成工程
含浸を行ったものも行っていないものも、最後に焼成を行った。還元性雰囲気下で、150℃/Hの昇温速度で加熱し、2000℃まで処理を行った。この焼成工程により、マトリックスと炭素繊維の接着力が強まり、強度を発現することが出来る。
完成した炭素質材料の曲げ強度、気孔率、炭素繊維体積率、かさ密度を表3に示す。(気孔率、炭素繊維体積率は、使用した炭素繊維の量、かさ密度などから算出した)
【0039】
<比較例>
実施例と同様の工程を経て、炭素質材料を製作した。炭素質材料の曲げ強度、気孔率、炭素繊維体積率、かさ密度を表3に示す。(気孔率、炭素繊維体積率は、使用した炭素繊維の量、かさ密度などから算出した)
【0040】
【表3】

【符号の説明】
【0041】
1 炭素質材料
2 炭素繊維
3 炭素質マトリックス
3A 第1の炭素質マトリックス
3B 第2の炭素質マトリックス
4 気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長1mm以下の炭素繊維と、炭素質マトリックスとからなる炭素質材料であって、気孔率が15〜30%である炭素質材料。
【請求項2】
気孔率が15〜25%である請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
炭素繊維体積率が30%以上である請求項1または2に記載の炭素質材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−93758(P2011−93758A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250979(P2009−250979)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】