説明

炭酸エステル合成用触媒及びそれを用いた炭酸エステルの製造法

【目的】 高活性で反応選択性が高く、安定性に優れ、しかも安価で腐蝕性が小さい炭酸エステル合成用触媒を得る。
【構成】 (a)(1)銅原子、(2) ハロゲン原子及び(3) ホウ酸根、又は、(b) ハロゲン化銅及びホウ素原子を含む炭酸エステル合成用触媒。前記触媒は、さらにアルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子を含んでいてもよい。また、前記触媒は、活性炭などを担体とする固体触媒であってもよい。前記触媒は、塩化第一銅などのハロゲン化銅と、ホウ酸又はホウ酸塩などとを組合わせて構成してもよい。前記触媒の存在下、アルコールと一酸化炭素と酸素とを反応させることにより、炭酸エステルを、長期間安定して工業的に効率よく製造できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭酸エステル合成用触媒、及びアルコールと一酸化炭素と酸素とを、触媒の存在下で反応させる炭酸エステルの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】炭酸エステルは、ガソリンの添加剤、有機溶剤として、また、各種カーボネート類、カーバメート類、ウレタン類、医薬・農薬等の精密化学品の製造における、ホスゲンに代わる反応剤として有用な化合物である。
【0003】炭酸エステルの製造法として、従来、アルコールとホスゲンとを反応させる方法が工業的に行われている。しかし、この方法は、毒性の高いホスゲンを使用する必要があり、またアルコールとホスゲンとの反応により腐蝕性の強い塩化水素が多量に副生する。
【0004】そこで、ホスゲンを使用することなく、触媒の存在下、アルコールと一酸化炭素と酸素とを反応させ、炭酸エステルを製造する方法が提案されている。前記触媒は、パラジウム化合物を主触媒とするパラジウム系触媒と、銅化合物を主触媒とする銅系触媒とに大別される。
【0005】パラジウム系触媒を用いた液相反応については特公昭61−8816号公報に開示されている。この触媒は活性が高く、銅系触媒と比較して1/10000程度の濃度でも十分な反応速度を得ることができるという利点を有する。しかし、パラジウム触媒は高価であり、また原料アルコールと反応してパラジウム金属として析出するため、触媒再生プロセスが必要となりコストアップにつながるという問題を有する。
【0006】塩化第二銅や塩化第一銅などの銅系触媒を用いた液相反応は、特公昭45−11129号公報及び特公昭60−58739号公報に開示されている。しかし、銅系触媒は活性が比較的低いため、高濃度で使用する必要がある。
【0007】銅系触媒として塩化第二銅を用いた場合、アルコールへの溶解性が良好なため反応液が均一となって操作性がよいものの、塩化アルキル、ジアルキルエーテル等の副生物の生成が多く、腐蝕性も高い。
【0008】また、塩化第一銅を触媒として用いた場合、副生物の生成率や腐蝕性は、塩化第二銅と比較してはるかに低い。しかし、アルコールへの溶解性が低いため、反応系が不均一となり、操作性が低下する。
【0009】さらに、銅系触媒では、主触媒である銅化合物が反応で副生する水と容易に反応して、極めて溶解性の低いアタカマ石などのヒドロキシハロゲン化銅が生成する。そのため、触媒活性及び炭酸エステルの選択率が徐々に低下する。
【0010】一方、液相反応に伴う腐蝕問題を回避するため、固体触媒を用いて、反応を気相で行う方法が提案されている。例えば、特表昭63−503460号公報には、金属ハライドを含浸法によって担体に担持した触媒を用い、気相で反応を行う方法が開示されている。
【0011】しかし、この方法では、反応で副生する水が金属ハライドと反応することにより、アタカマイト構造を有する化合物が生成するため、触媒活性が低下し易い。
【0012】さらにまた、アルコールと一酸化炭素とを触媒の存在下に反応させて、炭酸エステルを製造する方法が提案されている。例えば、米国特許第4879266号には、触媒として、銅アルコキシハライドと三フッ化ホウ素などとを用いる方法が開示されている。しかし、この方法では、銅アルコキシハライド1モルから最高でも0.5モルの炭酸エステルしか生成しないため、多量の触媒を使用する必要がある。
【0013】従って、本発明の目的は、高活性で反応選択性が高く、安定性に優れ、しかも安価で腐蝕性の小さい炭酸エステル製造用触媒を提供することにある。
【0014】本発明の他の目的は、高い収率及び選択率で、しかも長期間安定して工業的に効率よく製造できる炭酸エステルの製造法を提供することにある。
【0015】
【発明の構成】本発明者らは、前記目的を達成するため、鋭意検討した結果、銅原子、ハロゲン原子及びホウ酸根を含む触媒、又は、ハロゲン化銅及びホウ素原子を含む触媒を用いて、アルコールと一酸化炭素と酸素とを反応させると、腐蝕性が小さく、ヒドロキシハロゲン化銅の生成量も少なく、高い収率及び選択率で炭酸エステルを製造できることを見出だし、本発明を完成した。
【0016】すなわち、本発明は、(a)(1)銅原子、(2) ハロゲン原子及び(3) ホウ酸根を含む炭酸エステル合成用触媒を提供する。
【0017】本発明は、また、(b) ハロゲン化銅およびホウ素原子を含む炭酸エステル合成用触媒を提供する。
【0018】前記(a) 及び(b) の炭酸エステル合成用触媒は、さらにアルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子を含んでいてもよい。また、前記触媒は、活性炭などを担体とする固体触媒であってもよい。
【0019】本発明は、さらに、アルコールと一酸化炭素と酸素とを、前記炭酸エステル合成用触媒の存在下で反応させる炭酸エステルの製造法を提供する。
【0020】本発明の前記(a) の炭酸エステル合成用触媒は、少なくとも銅原子、ハロゲン原子及びホウ酸根を有していればよい。ハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子が含まれる。ホウ酸根とは、ホウ酸アニオンを形成し得るホウ酸基をいう。
【0021】本発明の前記(a) 触媒としては、(a1)銅原子及びハロゲン原子を含む化合物(以下、単にハロゲン含有銅化合物と称する)と、ホウ酸根を含む化合物(以下、単にホウ酸類と称する)との組合せ、(a2)銅原子及びホウ酸根を含む化合物(以下、単にホウ酸銅化合物と称する)と、ハロゲン原子を含む化合物(以下、単にハロゲン含有化合物と称する)との組合せ、(a3)銅原子を含む化合物(以下、単に銅化合物という)と、ハロゲン含有化合物と、ホウ酸類との組合せなどが挙げられる。
【0022】前記ハロゲン含有銅化合物には、フッ化第一銅、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅のハロゲン化第一銅;フッ化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅のハロゲン化第二銅;銅メトキシクロリドなどの銅アルコキシハライド等が含まれる。これらのうち、ハロゲン化第一銅、特に塩化第一銅が好ましい。
【0023】前記ホウ酸類には、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などのホウ酸;鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属のホウ酸塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のホウ酸塩;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属のホウ酸塩;その他の金属のホウ酸塩等が含まれる。
【0024】前記ホウ酸銅化合物には、メタホウ酸銅、ホウ酸第二銅などが含まれる。
【0025】前記ハロゲン含有化合物としては、鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属のハライド;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のハライド;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属のハライド等が挙げられる。
【0026】前記銅化合物には、ギ酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅、安息香酸銅などの有機酸塩;銅フェノキシドなどのフェノール類との塩;硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、ケイ酸銅、炭酸銅などの無機酸塩;銅とアセチルアセトン、窒素含有有機配位子などの配位性化合物との銅錯体;酸化銅;水酸化銅;アルミン酸銅、バナジン酸銅、モリブデン酸銅などの金属オキソ酸塩等が含まれる。前記窒素含有有機配位子としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン類;ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、ピリミジン、イミダゾール、ピコリン、キノリン、イソキノリン、1,10−フェナントロリン、キナゾリン、2,2′−ジピリジル、4,4′−ジピリジル、ピコリン酸、ニコチン酸などの含窒素複素環化合物等が使用できる。
【0027】これらの化合物は、2以上混合して用いることもできる。
【0028】前記組合せのうち、(a1)及び(a3)の組合せが好ましい。
【0029】前記(a1)の組合せのうち、特に、(a11) ハロゲン化銅(例えば、塩化第一銅などのハロゲン化第一銅等)とホウ酸との組合せ、及び(a12) ハロゲン化銅(例えば、塩化第一銅などのハロゲン化第一銅等)とアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩(例えば、ホウ酸リチウムなどのアルカリ金属のホウ酸塩等)との組合せが好ましい。
【0030】前記(a3)の組合せのうち、特に、(a31) 酸化銅(例えば、酸化第一銅、酸化第二銅等)とアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハライド(例えば、塩化リチウム、塩化マグネシウム等)とホウ酸との組合せなどが好ましい。
【0031】本発明の前記(b) の炭酸エステル合成用触媒は、少なくともハロゲン化銅及びホウ素原子を有していればよい。
【0032】前記ハロゲン化銅には、前記例示のハロゲン化第一銅及びハロゲン化第二銅が含まれる。これらのうち、ハロゲン化第一銅、なかでも塩化第一銅が好ましい。
【0033】前記(b) 触媒としては、ハロゲン化銅と、ホウ素原子を含む化合物とを組合せた触媒が挙げられる。
【0034】前記ホウ素原子を含む化合物には、前記例示のホウ酸銅化合物、前記例示のホウ酸類、酸化ホウ素、ホウ砂などの酸素含有無機ホウ素化合物;テトラフルオロホウ酸アンモニウムなどのテトラハロゲノホウ素酸塩;三フッ化ホウ素などの三ハロゲン化ホウ素;三フッ化ホウ素エチルエーテル錯化合物などの三フッ化ホウ素の錯化合物;トリフェニルホウ素などのトリアリールホウ素;ホウ酸メチルなどのホウ酸エステル類;その他ホウ素原子を含む化合物が含まれる。これらの化合物は、2以上混合して用いることもできる。
【0035】前記(b) 触媒として、特に、ハロゲン化銅と前記酸素含有無機ホウ素化合物との組合せ、なかでも、塩化第一銅などのハロゲン化第一銅と、ホウ酸又はアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のホウ酸塩との組合せが好ましい。
【0036】本発明の触媒において、銅に対するハロゲンの原子比(ハロゲン/銅)は、例えば0.5〜4、好ましくは0.8〜2程度である。また、銅に対するホウ素の原子比(ホウ素/銅)は、例えば0.05〜10、好ましくは0.1〜5程度である。
【0037】本発明の触媒は、さらにアルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子を含んでいてもよい。前記金属原子を含むことにより、触媒活性が向上する場合がある。
【0038】アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子は、例えば、前記のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩又はハライドとして触媒に含有させることができるほか、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、ギ酸カリウム、シュウ酸バリウムなどの有機酸塩;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硝酸マグネシウムなどの無機酸塩等として含有させることもできる。これらのアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子を含む化合物は一種又は二種以上使用することができる。
【0039】前記アルカリ金属原子等を含む触媒において、銅に対するアルカリ金属及びアルカリ土類金属の原子比(アルカリ金属及びアルカリ土類金属/銅)は、例えば0.01〜2、好ましくは0.05〜1.2程度である。
【0040】本発明の触媒は、また、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金などの他の遷移金属元素を含んでいてもよい。
【0041】本発明の触媒は、粉末等の固形物であってもよく、適当な溶媒に分散又は溶解していてもよく、また、適当なバインダーを用いて打錠成形や押出し成形等により成形された触媒であってもよい。
【0042】さらに、本発明の触媒は、触媒活性成分が、活性炭、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、バナジア、ジルコニア等の担体に担持された固体触媒(担持触媒)であってもよい。
【0043】前記担体の比表面積は、特に制限されないが、通常10m2 /g以上、好ましくは100〜3000m2 /g程度である。
【0044】前記担体としては、特に活性炭などが好ましい。活性炭の比表面積は、例えば、500m2 /g以上、好ましくは700〜3000m2 /g、さらに好ましくは900〜3000m2 /g程度である。また、活性炭の平均細孔径は、特に制限されないが、好ましくは10〜100オングストローム、さらに好ましくは10〜50オングストローム程度である。
【0045】担持触媒の場合の触媒成分の担持量は、担体に対して、通常0.5〜60重量%、好ましくは1〜40重量%程度、さらに好ましくは担体の飽和吸着量程度、例えば活性炭の場合には2〜20重量%程度である。
【0046】担持触媒は、慣用の方法、例えば、含浸法、吸着法、沈澱法、イオン交換法、コーティング法等により調製することができる。特に、触媒活性成分の前駆体又は触媒活性成分が高分散して担体に担持されるような方法で調製されるのが好ましい。担持は、一段或いは多段に行ってもよい。
【0047】本発明の触媒は、高活性で、反応の選択性も高い。したがって、酸素存在下、本発明の触媒を少量用いるだけで反応が円滑に進行し、炭酸エステルが高い選択率で生成する。また、本発明の触媒は、ヒドロキシハロゲン化銅の生成量が少なく触媒安定性に優れ、しかも腐蝕性が小さい。そのため、長期間安定して炭酸エステルを製造することができる。
【0048】本発明の炭酸エステルの製造法では、上記触媒の存在下で、アルコールと一酸化炭素と酸素とを反応させる。
【0049】前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの飽和脂肪族アルコール;アリルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコール;シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール;ベンジルアルコール、フェノールなどの芳香族アルコール;エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールなどが含まれる。なお、芳香族アルコールとは、フェノール性ヒドロキシ基を有するフェノール類も含む意味に用いる。
【0050】好ましいアルコールは、一価の飽和又は不飽和アルコール、例えば、炭素数1〜6程度のアルコールである。特に好ましいアルコールには、メタノール、エタノールなどが含まれ、なかでもメタノールが繁用される。
【0051】反応成分である一酸化炭素及び酸素は、それらの高純度ガスのみならず、窒素アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等本反応に対して不活性なガスで希釈されたものを用いてもよい。その場合、酸素源として空気を使用できる。また、反応で副生した二酸化炭素を反応系にリサイクルできる。
【0052】本発明の製造法は、液相反応、気相反応の何れにも適用できる。
【0053】液相反応により炭酸ジエステルを製造する場合、反応は、溶媒不存在下で行ってもよく、また、反応に不活性な溶媒中で行ってもよい。前記溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチルなどのカルボン酸エステル;N,N−ジメチルホルムアミドなどのカルボン酸アミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;目的化合物である炭酸ジエステル等が挙げられる。また、原料のアルコールを溶媒として用いることもできる。これらの溶媒は一種又は二種以上混合して使用できる。
【0054】液相反応の場合、前記の何れの触媒を用いることもできる。
【0055】触媒の使用量は、反応速度、後処理の操作性、経済性を考慮して適宜選択できるが、反応液中、銅原子として、例えば0.001〜5グラム原子/L、好ましくは0.01〜1グラム原子/L、さらに好ましくは0.01〜0.5グラム原子/L程度である。
【0056】反応温度は、通常20〜200℃、好ましくは70〜150℃程度である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高すぎると、反応中間体である銅のカルボニル錯体の安定性が低下するため好ましくない。また、反応圧力は、通常、常圧〜200気圧程度であり、一酸化炭素分圧は、例えば0.1〜200気圧、好ましくは1〜100気圧程度、酸素分圧は、通常、爆発混合気を形成しない範囲で選択され、例えば0.1〜20気圧、好ましくは0.5〜10気圧程度である。
【0057】一方、気相反応により炭酸エステルを製造する場合、前記の何れの触媒を用いることもできるが、反応ガスの圧力損失の低減、反応熱の除去、反応速度の向上等の観点から、特に、担持触媒、なかでも活性炭を担体とした担持触媒を用いるのが好ましい。
【0058】気相反応の場合の反応条件としては、反応温度は、通常20〜200℃、好ましくは80〜150℃程度、反応圧力は、通常、常圧〜60気圧程度、また原料ガスの空間速度は、例えば10〜100000h-1程度である。
【0059】一酸化炭素の使用量は、特に制限されないが、原料として用いるアルコール1モルに対して、通常0.1〜1000モル、好ましくは0.2〜100モル程度、酸素の使用量は、アルコール1モルに対して、通常0.001〜2モル、好ましくは0.01〜1.5モル程度である。
【0060】本発明の方法は、回分式、半回分式、連続式の何れの方式によって行うこともできる。反応生成物を常法に従って処理することにより、原料アルコールに対応する炭酸エステルを得ることができる。
【0061】
【発明の効果】本発明の炭酸エステル合成用触媒は、触媒活性及び反応の選択性が高い。また、腐蝕性が小さく、安定性に優れ、しかも安価である。
【0062】本発明の製造法は、前記のような優れた触媒を使用するため、高い収率及び選択率で、長期間安定して、工業的に効率よく炭酸エステルを製造することができる。
【0063】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0064】実施例1グラスライニングを施した内容積324mlのオートクレーブに、塩化第一銅[CuCl]50ミリモル/L及びオルトホウ酸[H3 BO3 ]50ミリモル/L含有するメタノール50mlを仕込んだ。
【0065】次いで、一酸化炭素を23Kg/cm2 、酸素を2.0Kg/cm2 充填し、80℃で30分反応させた。
【0066】反応生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、炭酸ジメチル4.0ミリモルが生成していた。一酸化炭素基準の炭酸ジメチルの選択率は100モル%であった。
【0067】実施例2塩化第一銅及びオルトホウ酸を含有するメタノールに代えて、塩化第一銅[CuCl]50ミリモル/L、ホウ酸リチウム[Li2 4 7 ]25ミリモル/L及びオルトホウ酸[H3 BO3 ]100ミリモル/L含有するメタノール50mlを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】その結果、炭酸ジメチル8.5ミリモルが生成した。一酸化炭素基準の炭酸ジメチルの選択率は81モル%であった。
【0069】実施例3塩化第一銅及びオルトホウ酸を含有するメタノールに代えて、塩化第一銅[CuCl]50ミリモル/L及びホウ酸リチウム[Li2 4 7 ]25ミリモル/L含有するメタノール50mlを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0070】その結果、炭酸ジメチル10ミリモルが生成した。一酸化炭素基準の炭酸ジメチルの選択率は100モル%であった。
【0071】比較例1塩化第一銅及びオルトホウ酸を含有するメタノールに代えて、塩化第一銅[CuCl]50ミリモル/L含有するメタノール50mlを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0072】その結果、炭酸ジメチル4.1ミリモルが生成した。一酸化炭素基準の炭酸ジメチルの選択率は71モル%であった。
【0073】実施例4活性炭[武田薬品工業(株)製、粒状白鷺C2 *4/6−2、比表面積1000m2 /g]40gに、アセトニトリル溶媒を用いて、塩化第一銅[CuCl]1.9g、及びオルトホウ酸[H3 BO3 ]1.2gを担持した。
【0074】この担持触媒[B/Cu(原子比)=1.0]を、内径27mm、長さ450mmのステンレス製の反応管に層長35mmとなるように充填し、反応温度120℃に設定した後、一酸化炭素を43.2ノルマルリットル/h、酸素を1.7ノルマルリットル/h、メタノールを8.2ノルマルリットル/hの流量で流通させ、3時間反応を行った。この際、反応管内の圧力を、ゲージ圧7Kg/cm2 に保持した。
【0075】その結果、炭酸ジメチルが、触媒1L当り、1.35モル/hの生成速度で生成した。
【0076】実施例5実施例4で用いたのと同じ活性炭40gに、アセトニトリル溶媒を用いて、塩化第一銅[CuCl]1.9g、及びオルトホウ酸[H3 BO3 ]0.6gを担持した。
【0077】この担持触媒[B/Cu(原子比)=0.5]を用いた以外は、実施例4と同様の条件で反応を行った。その結果、炭酸ジメチルが、触媒1L当り、1.61モル/hの生成速度で生成した。
【0078】比較例2実施例4で用いたのと同じ活性炭40gに、アセトニトリル溶媒を用いて、塩化第一銅[CuCl]1.9gを担持した。
【0079】この担持触媒[B/Cu(原子比)=0]を用いた以外は、実施例4と同様の条件で反応を行った。その結果、炭酸ジメチルの生成速度は、触媒1L当り、0.82モル/hであった。
【0080】実施例6酸素の流量を、1.0ノルマルリットル/hとした以外は、実施例5と同様の条件で反応を行った。その結果、炭酸ジメチルが、触媒1L当り、1.76モル/hの生成速度で生成した。
【0081】実施例7実施例4と同様にして調製した担持触媒[B/Cu(原子比)=1.0]を、内径27mm、長さ450mmのステンレス製の反応管に層長175mmとなるように充填し、反応温度120℃に設定した後、一酸化炭素を152.6ノルマルリットル/h、酸素を2.1ノルマルリットル/h、メタノールを9.8ノルマルリットル/hの流量で流通させ、19時間反応を行った。この際、反応管内の圧力を、ゲージ圧20Kg/cm2 に保持した。
【0082】その結果、反応初期における炭酸ジメチルの生成速度は、触媒1L当り、1.10モル/hであり、19時間後の生成速度は、触媒1L当り、1.01モル/hであった。
【0083】実施例8実施例5と同様にして調製した担持触媒[B/Cu(原子比)=0.5]を用いた以外は、実施例7と同様の条件で反応を行った。その結果、反応初期における炭酸ジメチルの生成速度は、触媒1L当り、1.10モル/hであり、19時間後の生成速度は、触媒1L当り、1.02モル/hであった。
【0084】比較例3比較例2と同様にして調製した担持触媒[B/Cu(原子比)=0]を用いた以外は、実施例7と同様の条件で反応を行った。その結果、反応初期における炭酸ジメチルの生成速度は、触媒1L当り、1.00モル/hであり、19時間後の生成速度は、触媒1L当り、0.82モル/hであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (1) 銅原子、(2) ハロゲン原子及び(3) ホウ酸根を含む炭酸エステル合成用触媒。
【請求項2】 ハロゲン化銅およびホウ素原子を含む炭酸エステル合成用触媒。
【請求項3】 さらにアルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子を含む請求項1又は2に記載の炭酸エステル合成用触媒。
【請求項4】 触媒が固体触媒である請求項1〜3の何れかの項に記載の炭酸エステル合成用触媒。
【請求項5】 固体触媒の担体が活性炭である請求項4記載の炭酸エステル合成用触媒。
【請求項6】 アルコールと一酸化炭素と酸素とを、請求項1〜5の何れかの項に記載の炭酸エステル合成用触媒の存在下で反応させる炭酸エステルの製造法。
【請求項7】 アルコールと一酸化炭素と酸素とを、請求項4又は5に記載の炭酸エステル合成用触媒の存在下、気相で反応させる請求項6記載の炭酸エステルの製造法。