説明

炭酸カルシウムの製造方法

【課題】本発明の課題は、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する際に生じるライムスクリーン残渣を原料として炭酸カルシウムを効率的に製造する技術を提供することである。
【解決手段】ライムスクリーン残渣を含む懸濁液と二酸化炭素を含む気体とをインジェクターによって混合しつつ反応槽に導入することによって、残渣に含まれる消石灰と炭酸ガスとを反応させて炭酸カルシウムを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法に関する。特に本発明は、ライムスクリーン残渣を用いて炭酸ガス法により炭酸カルシウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭酸カルシウムは、風化貝殻や天然の石灰石などを原料として物理的に粉砕分級して製造する「天然炭酸カルシウム」と、石灰石を原料として化学的に反応させて製造する「合成炭酸カルシウム」(軽質炭酸カルシウム)とに大きく分けられる。そして、合成炭酸カルシウムの合成法としては、炭酸ガス法、石灰・ソーダ法、ソーダ法が知られており、石灰・ソーダ法およびソーダ法は特殊な用途に一部利用されるものの、工業的な炭酸カルシウムの合成はもっぱら炭酸ガス法により行われている。
【0003】
炭酸ガス法による炭酸カルシウムの合成は、生石灰と炭酸ガスとを反応させることにより行われ、一般に、生石灰CaOに水を加えて消石灰Ca(OH)を得る消和工程と、消石灰に炭酸ガスCOを吹き込み炭酸カルシウムCaCOを得る炭酸化工程とを有する。今日では、炭酸カルシウムの合成工程、特に炭酸化工程の反応条件を制御することによって、生成物である炭酸カルシウムの粒子形状や粒子径などをコントロールする技術が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1・2には、炭酸化工程においてキレート剤を添加することによって炭酸カルシウムの形態等を制御することが記載されている。すなわち、特許文献1には、金属イオンと錯形成する物質を炭酸化反応に添加することによって、二次凝集が少なく、分散性の良好な炭酸カルシウムを製造する方法が提案されている。また、特許文献2には、金属イオン封鎖剤を炭酸化工程において多段添加することによって、均一なメソ孔を有する炭酸カルシウムを製造する方法が提案されている。その他にも、特許文献3には、炭酸化反応を特定の条件下で2段階で行うことにより炭酸カルシウムの形状を制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−72215号公報
【特許文献2】特開2003−246617号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/108597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する場合、カルシウム源として石灰(ライム)が使用され、生石灰CaOに水を加えて消石灰Ca(OH)を得る消和工程と、消石灰に炭酸ガスCOを吹き込み炭酸カルシウムCaCOを得る炭酸化工程とによって炭酸カルシウムが合成される。この際、生石灰に水を加えて調製した消石灰の懸濁液をライムスクリーンに通して、懸濁液中に含まれる低溶解性の石灰粒を除去することが行われる。ライムスクリーンによって除去された残渣は、ライムスクリーン残渣と呼ばれ、溶解性が低く、消和反応や炭酸化反応を行うことが難しいため、有効活用することができず廃棄物として処理されていた。
【0007】
しかし、ライムスクリーン残渣には生石灰や消石灰が主成分として含まれているため、炭酸カルシウムと石灰(ライム)とを効率的に反応させることができれば、廃棄物であるライムスクリーン残渣を用いて炭酸カルシウムを製造できる可能性がある。
【0008】
一般に、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する際の炭酸化反応機(カーボネーター)として、ガス吹き込み型カーボネーターと機械攪拌型カーボネーターが知られている。ガス吹き込み型カーボネーターでは、消石灰懸濁液(石灰乳)を入れた炭酸化反応槽に炭酸ガスを吹き込み、消石灰と炭酸ガスとを反応させるが、単純に炭酸ガスを吹き込むだけでは気泡の大きさを均一かつ微細に制御することが難しく、反応効率の点からは制限がある。一方、機械攪拌型カーボネーターでは、カーボネーター内部に攪拌機を設け、その攪拌機の近くに炭酸ガスを導入することによって、炭酸ガスを細かな気泡とし、消石灰と炭酸ガスとの反応効率を向上させている(『セメント・セッコウ・石灰ハンドブック』(技報堂出版、1995年)495頁)。
【0009】
しかし、機械攪拌型カーボネーターのように、炭酸化反応槽内部に設けた攪拌機で攪拌を行う場合、反応液の濃度が高かったり炭酸化反応が進むと反応液の抵抗が大きく十分な攪拌が困難になるため炭酸化反応を的確に制御することが難しかったり、十分な攪拌を行うには攪拌機に相当な負荷がかかりエネルギー的に不利となることがあった。また、ガスの吹込口がカーボネーターの下部にあり、攪拌をよくするために攪拌機の羽根がカーボネーターの底部の近くに設置されている。溶解性が低いライムスクリーン残渣は沈降が速いために、常に底部に滞留しており、ガス吹込口を塞いだり、攪拌機のバランスを崩したりする。さらに、従来の方法では、カーボネーターに加えて、攪拌機や、カーボネーターに炭酸ガスを導入するための設備が必要であり、設備面でもコストがかかるものであった。そして、機械攪拌型カーボネーターでは、攪拌機の近くに供給した炭酸ガスを攪拌機によって細かくすることによって消石灰と炭酸ガスとの反応効率を向上させるものの、反応液の濃度が高い場合などは十分に炭酸ガスを微細化できず、炭酸化反応の面でも、生成する炭酸カルシウムの形態等を正確に制御することが難しいことがあった。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、反応性の低いライムスクリーン残渣を原料として炭酸カルシウムを効率的に製造できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、ライムスクリーン残渣を含む懸濁液と二酸化炭素を含む気体とをインジェクターによって混合しつつ反応槽に導入することによって、効率的にライムスクリーン残渣と二酸化炭素とを接触させ、炭酸化反応を良好に制御・促進できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明のようにインジェクターを用いてライムスクリーン残渣と炭酸ガスとを混合しつつ炭酸化反応槽に導入することによって、インジェクターによって炭酸ガスが均一に微細化され反応効率が向上するため、反応性の低いライムスクリーン残渣をカルシウム源として用いても、炭酸カルシウムを効率的に製造することができる。
【0013】
すなわち、本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1) ライムスクリーン残渣を含む懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを、インジェクターによって混合しつつ反応槽に供給することを含む、炭酸カルシウムの製造方法。
(2) ライムスクリーン残渣を含む懸濁液として、前記反応槽から循環させた反応液を用いる、(1)に記載の方法。
(3) グルコン酸ナトリウムをさらに添加して炭酸化反応を行う、(1)または(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反応性の低いライムスクリーン残渣をカルシウム源として用いても、炭酸カルシウムを効率的に製造することができる。また、本発明によれば廃棄物であるライムスクリーン残渣を用いて炭酸カルシウムを製造できるため、廃棄物を削減しつつ安価に炭酸カルシウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、機械攪拌型カーボネーターを利用する炭酸カルシウムの製造設備の概略図である(従来技術)。
【図2】図2は、インジェクターを利用する本発明の炭酸カルシウムの製造設備の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、実施例で製造した炭酸カルシウムの電顕写真である。
【図4】図4は、参考例で製造した炭酸カルシウムの電顕写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、ライムスクリーン残渣をカルシウム源として用いて、インジェクターによって原料を混合しつつ反応槽に導入することによって、炭酸カルシウムを製造する。
【0017】
インジェクター
本発明においてインジェクター(吸引式注入機)とは、給水圧力を利用して気体を注入する装置であり、本発明においては、ポンプなどの液体増圧設備によって消石灰を含有する液体をインジェクターに供給すると、インジェクターにて減圧状態が生じ、二酸化炭素を含む気体が消石灰を含む液体に吸い込まれつつ混合され、反応液が反応槽に供給される。つまり、本発明においては、炭酸化反応の反応物質である消石灰と炭酸ガスとがインジェクターによって混合されつつ、反応槽に搬送される。
【0018】
本発明においては、インジェクターにて発生する引圧によって二酸化炭素が吸い込まれるため、従来の反応装置では不可欠であった二酸化炭素を供給するためのガス増圧設備が不要となる。また本発明においては、インジェクターによって炭酸ガスが微細化され、また、インジェクターから供給された反応液によって反応槽に水流が生じるため、反応槽に特に攪拌機を設置する必要がなく、その点でも設備的に有利である。
【0019】
特に、本発明のようにインジェクターを用いて炭酸ガスを消石灰と混合・接触させることにより、炭酸ガスの気泡を均一に微細化することができるため、炭酸ガスと消石灰との接触界面を大きくして炭酸化反応の効率を大きく向上させるとともに、炭酸化反応の制御がより容易になる。この点、従来用いられていた機械攪拌型カーボネーターでは、反応液の濃度が高くなると十分に炭酸ガスを微細化することができなかったが、本発明のようにインジェクターを用いることによって反応液の濃度が高い場合にも炭酸化反応を効率よく行うことが可能になる。
【0020】
本発明においてインジェクターの数は、特に制限されず、1つのインジェクターを用いてもよく、複数のインジェクターを用いてもよい。炭酸ガスと消石灰との反応効率に鑑みると、複数のインジェクターを用いることが好ましく、好ましい態様において3つ以上、4つ以上、5つ以上のインジェクターを用いることができる。また、複数のインジェクターを用いる場合は、個々のインジェクターの条件を同じに設定してもよく、別々に設定してもよい。
【0021】
本発明においてインジェクターをカーボネーターに接続する態様は特に制限されないが、例えば、反応槽を上からみた場合、インジェクターを反応槽の中心に向けて設置しても、反応槽の中心から反応槽の接線方向に傾けて設置してもよい。1つの態様において、インジェクターを反応槽の接線方向に傾けて設置すると、インジェクターから反応槽に供給された反応液によって反応槽内部に水流が生じるため炭酸カルシウムの結晶成長を均一かつ効率的に行うことができ好適である。複数のインジェクターを用いる場合、インジェクター吐出流れが互いにぶつかるような配置が出来、反応効率アップにとっては好適である。
【0022】
本発明においてカーボネーターの形状は特に制限されず、円筒状、円錐状、立方体等でもよい。たま、カーボネーター内部の流れをよくする目的で整流板を設置することも出来る。カーボネーター内部循環をよくするために、ポンプ等の増圧装置の吸込み口をカーボネーター下部に設置することが好適である。
【0023】
本発明においてインジェクターの圧力は、用途に応じて適宜設定することができるが、製紙用途に適した炭酸カルシウムを製造する際は、例えば、インジェクターの入口圧を0.01〜0.5MPaとすることが好ましく、0.02〜0.2MPaとすることがより好ましい。インジェクター出口の液面が高ければ、二酸化炭素ガスの反応率が改善されるが、ガスの吸込量が減る反面があり、インジェクター出口の液面を0以下〜2000mmとすることが好適である。
【0024】
一般にインジェクターは、液体流路に加えて1個〜複数個の気体吸込穴を有するが、インジェクターの気体吸込穴の大きさと形状を調整することによって、炭酸化反応を制御することもできる。一つの態様において、インジェクターの空気吸込穴の開口部面積を3〜30000mm/個とすることが好ましく、100〜8000mm/個とすることがより好ましい。
【0025】
本発明においてインジェクターのG/L比は(Gはガス吸込流量Nm/分、Lはインジェクター流体通過流量m/分)、エネルギー効率から、0.1〜5比率が好ましく、0.2〜2比率がより好ましい。
【0026】
ライムスクリーン残渣
本発明においてライムスクリーン残渣とは、生石灰に水を加えて消石灰を調製する際の反応液をスクリーンに通した際に生じるスクリーン残渣であり、成分的には、生石灰や消石灰などの石灰(ライム)を主成分し、その他の鉱物や金属などが混合しているものである。一般に、ライムスクリーン残渣は、溶解性や反応性が低いため、これを用いて製紙用途などに好適な炭酸カルシウムを製造することは難しく、従来、産業廃棄物として処理されていた。本発明においては、インジェクターによってライムスクリーン残渣を含む液体と炭酸ガスとを接触させることによって、反応性の低いライムスクリーン残渣を用いても光学特性などに優れた炭酸カルシウムを効率よく製造することができる。
【0027】
本発明におけるライムスクリーン残渣は、消石灰を含む懸濁液をスクリーンにかけた際に残る残渣であれば特に制限はないが、その大きさとしては例えば100メッシュのスクリーンを通した際の残分をライムスクリーン残渣とすることができる。また、ライムスクリーン残渣に含まれる石灰含量にも制限はない。例えば、副成分をほとんど含まない生石灰を用いた際に生じるライムスクリーン残渣の石灰含量は比較的高く、副成分を多く含む生石灰を用いた際に生じるライムスクリーン残渣の石灰含量は比較的低いことになる。
【0028】
本発明においては、ライムスクリーン残渣を含む懸濁液がインジェクターに供給され、この懸濁液は、ポンプなど通常の方法でインジェクターに供給することができる。
本発明においてライムスクリーン残渣を含む懸濁液の固形分濃度は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%程度である。固形分濃度が低いと反応効率が低く、製造コストが高くなり、固形分濃度が高すぎるとライムスクリーン残渣は比重が重いため、循環が悪くなり、反応効率が落ちる。本発明においては、機械式攪拌機(アジテーター)でなくインジェクターによって炭酸ガスを混合するため、反応性が低く粗粒のライムスクリーン残渣を用いても、反応液と炭酸ガスを好適に混合することができる。
【0029】
本発明において、ライムスクリーン残渣を含む懸濁液のインジェクターへの導入量は、製造設備効率の観点から、0.01〜100m/分が好ましく、0.1〜10m/分がより好ましい。また、インジェクターにおける圧力(入口圧力)は、エネルギー効率の観点から、0.005〜0.5MPaが好ましく、0.02〜0.2MPaがより好ましい。
【0030】
また、ライムスクリーン残渣を含む懸濁液の温度は特に制限されないが、例えば、0〜80℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、80℃を超えると粗大な炭酸カルシウム粒子が多くなる傾向がある。
【0031】
本発明による炭酸カルシウムの製造においては、カルシウム源の一部としてライムスクリーン残渣が用いられていればよく、ライムスクリーン残渣に加えて、通常の消石灰懸濁液をカルシウム源として使用することができる。ライムスクリーン残渣に加えてカルシウム源として用いることのできる消石灰を含む液体としては、炭酸カルシウム合成に一般に用いられるものを使用でき、例えば、消石灰を水に混合して調製したり、生石灰(酸化カルシウム)を水で消和(消化)して調製することができる。消和する際の条件は特に制限されないが、例えば、CaOの濃度は3重量%以上、好ましくは8重量%以上、温度は20〜100℃、好ましくは30〜100℃とすることができる。また、消和反応槽(スレーカー)での平均滞留時間も特に制限されないが、例えば、5分〜5時間とすることができ、2時間以内とすることが好ましい。当然であるが、スレーカーはバッチ式であっても連続式であってもよい。なお、本発明においては炭酸化反応槽(カーボネーター)と消和反応槽(スレーカー)とを別々にしてもよく、また、1つの反応槽を炭酸化反応槽および消和反応槽として用いてもよい。
【0032】
本発明においては、ライムスクリーン残渣を含む懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、工業廃水や、炭酸化工程で得られた炭酸カルシウムスラリーを分離・脱水する際に得られる水を好適に用いることできる。
【0033】
また本発明においては、炭酸化反応槽の反応液を循環させて水酸化カルシウムを含む液体として使用することができる。このように反応液を循環させて、反応液と炭酸ガスとの接触を増やすことにより、反応効率を上げ、所望の炭酸カルシウムを得ることが容易になる。
【0034】
二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体
本発明においては、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体がインジェクターに吸引され、反応液と混合される。本発明によれば、ファン、ブロワなどの気体供給装置がなくとも炭酸ガスを反応液に供給することができ、しかも、インジェクター内部で炭酸ガスが微細化されるため炭酸化反応を効率よく行うことができる。
【0035】
本発明において、二酸化炭素を含む気体の二酸化炭素濃度に特に制限はないが、1つの態様として5〜40容量%程度が好ましく、10〜30容量%程度がより好ましい。また、インジェクターに導入する炭酸ガスの量に制限はなく適宜選択することができるが、例えば、消石灰1kgあたり10〜1000L/時の流量の炭酸ガスを用いると好ましい。
【0036】
本発明の二酸化炭素を含む気体は、実質的に純粋な二酸化炭素ガスでもよく、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、二酸化炭素ガスの他に、空気、窒素などの不活性ガスをを含む気体を、二酸化炭素を含む気体として用いることができる。また、二酸化炭素を含む気体としては、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)の他、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
【0037】
助剤など
本発明の炭酸カルシウムの製造方法においては、ライムスクリーン残渣と二酸化炭素とを反応させることが必要であるが、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を炭酸化反応に添加することができ、具体的には、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸などのカルボン酸、グルコン酸、酒石酸などのポリカルボン酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのポリカルボン酸、ポリリン酸、グルタミン酸などのアミノ酸、これらの酸の塩などを挙げることができ、これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。中でも、クエン酸、グルコン酸、ポリリン酸などが好ましい。このようなキレート剤は、消石灰に対して、好ましくは0.001〜10%、より好ましくは0.1〜2%の量で添加することができる。
【0038】
また、本発明においては、炭酸ガスとライムスクリーン残渣以外に、炭酸化反応には直接的に関与しないが、生成物である炭酸カルシウムに取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。このような物質としては、パルプ繊維を始めとする繊維状物質や無機粒子を挙げることができ、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明の炭酸化反応に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0039】
反応条件
本発明において炭酸化反応前のライムスクリーン残渣を含む濁液の循環時間は、特に制限されず、品質に応じて適宜設定することができる。例えば、0〜24時間とすることができ、0.5〜3時間とすることが好ましい。炭酸化反応前の循環時間が長ければ、完成品軽カルの粒径が小さくなる。
【0040】
本発明において炭酸化反応の条件は、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、炭酸化反応の温度は0〜90℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。反応温度は、反応液の温度を温度調節装置によって制御することができ、温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、90℃を超えると粗大な炭酸カルシウム粒子が多くなる傾向がある。
【0041】
また、本発明において炭酸化反応はバッチ反応とすることもでき、連続反応とすることもできる。一般に、炭酸化反応後の残存物を排出する便利さから、バッチ反応工程を行うことが好ましい。
【0042】
さらに、炭酸化反応は、反応懸濁液のpHをモニターすることにより制御することができ、反応液のpHプロファイルに応じて、例えばpH9未満、好ましくはpH8未満、より好ましくはpH7のあたりに到達するまで炭酸化反応を行うことができる。
【0043】
一方、反応液の電導度をモニターすることにより炭酸化反応を制御することも出来る。電導度が1mS/cm以下に低下するまで炭酸化反応を行うことが好ましい。
さらにまた、炭酸化反応は、反応時間によって制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、炭酸化反応槽の反応液を攪拌したり、炭酸化反応を多段反応とすることによって反応を制御することもできる。
【0044】
本発明において、反応生成物である炭酸カルシウムは懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクに貯蔵したり、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行うことができる。脱水する場合は、例えば、濾過、沈殿、遠心分離、蒸発脱水、噴霧乾燥などの公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。また、本発明によって得られる炭酸カルシウムは、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることが多いが、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させることができる。
【0045】
本発明においては、反応液中の未反応成分と炭酸カルシウムとを分離するためふるい分けを行うことができ、例えば、湿式の振動ふるいを用いることができる。濾過機や脱水機についても特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、デカンター、ベルトプレスなどを好適に用いて炭酸カルシウムケーキとすることができる。
【0046】
本発明によって得られた炭酸カルシウムは、完全に脱水せずに懸濁液の状態で填料や顔料に配合することもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
【0047】
炭酸カルシウム
本発明の炭酸カルシウムは、種々の用途に用いることができ、例えば、紙、塗料、ポリマー、セメント、セラミックなどの用途における各種充填剤、コーティング剤などに好適に用いることができる。中でも、本発明の炭酸カルシウムは、製紙用途に特に好適に用いることができ、製紙用填料、製紙用顔料として極めて好適である。すなわち、本発明によれば、反応性の低いライムスクリーン残渣を用いても炭酸ガスとの炭酸化反応を効率的に行うことができるため、生成物である炭酸カルシウムの白色度や比散乱係数を高くすることができ、このような炭酸カルシウムは紙の白色度や不透明度を向上させるために特に好適であり、製紙用填料・製紙用顔料として適している。
【0048】
製紙用途に用いる場合、本発明によって得られる炭酸カルシウムは、光学特性の観点から0.1〜10μmの平均粒径を有することが好ましく、0.2〜3μmの平均粒径を有することがより好ましい。なお、炭酸カルシウムの平均粒子径は、X線回折式の粒度分布計により測定することができ、炭酸カルシウムの詳細な形状等は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。さらに、炭酸カルシウムスラリーの粘度などから、生成物である炭酸カルシウムを定性的に確認することも可能である。
【0049】
また、本発明によって得られる炭酸カルシウムは、製紙用途に用いる場合、ブレイン空気透過装置によって測定されるブレイン比表面積であれば、0.4〜10m/gであることが好ましく、1.0〜4.0m/gであることがより好ましい。さらに、本発明によって得られる炭酸カルシウムの吸油量は、製紙用途に用いる場合、紙の裏抜けを防止するために、70〜200ml/100gであることが好ましく、80〜150ml/100gであることがより好ましい。なお、本発明によって得られた炭酸カルシウムの粒子径や比表面積は、粉砕処理等によって調整することができ、例えば、ビーズミルを用いた湿式または乾式粉砕、超音波分散などを行うことができる。
【0050】
また、本発明の炭酸カルシウムを製紙用途に用いる場合、他の各種粉体と組み合わせて使用することができ、例えば、他の重質または軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、シリケート、硫酸カルシウムなどと併用することができる。
【0051】
本発明の炭酸カルシウムは、白色度や比散乱係数が高いため、一次粒子が二次凝集した形態であることが好ましい。また、本発明の炭酸カルシウムは、カルサイト結晶であることが好ましく、一次粒子径0.02〜1.0μm、二次粒子の凝集形態は、針状の一次粒子が凝集したロゼッタ状であることが好ましい。
【0052】
炭酸カルシウム製造工程
本発明の炭酸カルシウムの製造手順の一例を、添付の図面に基づいて説明する。図2は、本発明による炭酸カルシウムの製造工程の一例を示す概略図である。図2の製造設備においては、まず、ライムスクリーン残渣と水がカーボネーターに供給され、ポンプなどの液体増圧装置によって消石灰懸濁液がインジェクターに送られる。引圧によって二酸化炭素を含む気体がインジェクターに吸い込まれ、インジェクター内部でライムスクリーン残渣を含む懸濁液と炭酸ガスとか混合されつつ反応液が炭酸化反応槽に供給される。さらに、炭酸化反応槽内の反応液を循環させて再びインジェクターに供給し、炭酸ガスの微細気泡との反応を行うことによって、炭酸化反応を進行させ、所望の炭酸カルシウムを製造することができる。
【0053】
以下、本発明の実施例を具体的に提示し、本発明の内容を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本明細書において、%および部は特に示さない限り重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【実施例】
【0054】
実施例
1本当たりの液体通過流量が800L/分であるインジェクター3本と循環ポンプとを設置したカーボネーターを用いて炭酸カルシウム製造を行った。
【0055】
カーボネーターに1000L清水を入れ、インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、264kg(乾燥重量187kg)のライムスクリーン残渣及び400gのグルコン酸ソーダを投入した。60分後、インジェクターガス吸込バルブを開放し、液温度29℃で炭酸化反応を開始した。インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスを吸いながら、pH8以下まで反応を続けたことにより、炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0056】
得られた炭酸カルシウムは、レーザー回折式粒度分布測定機により平均粒径を測定し、空気透過方式によりブレイン比表面積を測定した。発生して約半年経過したライムスクリーン残渣1を用いた場合、炭酸カルシウムの平均粒径は3.53μm、ブレイン比表面積は5.21M/g、吸油量は115ml/100gであった。得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真を図3に示す。なお、吸油量の測定はJIS K5101の方法により行った。
【0057】
また、発生後の経過時間が10日間未満のライムスクリーン残渣2を用いた場合、炭酸カルシウムの平均粒径は3.35μm、ブレイン比表面積は5.70M/gであり、ライムスクリーン残渣1を用いた場合と同様の炭酸カルシウムを製造することができた。
【0058】
参考例
実施例の設備を用いて炭酸カルシウムを製造した。カーボネーターに1200Lの清水を入れ、インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、10分間に生石灰195kgを投入した。生石灰投入完了後、更に15分のスレーキングを行ってから、グルコン酸ナトリウム450gを添加し、開始液温度42℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスを吸いながら、pH8以下まで反応を続けたことにより、炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0059】
得られた炭酸カルシウムの平均粒径は3.24μm、ブレイン比表面積は2.45M/g、吸油量は95ml/100gであった。得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0060】
本発明に従いインジェクターを用いてライムスクリーン残渣と炭酸ガスとを混合させつつ反応槽に導入することによって、反応性の低いライムスクリーン残渣をカルシウム源として用いても、生石灰を原料とした場合と同様に、製紙用材料として好適な炭酸カルシウムを製造することができた。また、反応槽の反応液を循環させてインジェクターに通すことによって炭酸化反応をさらに促進させることができ、所望の特性を有する炭酸カルシウムを製造することができた。さらに、インジェクターを用いる本発明によれば、機械攪拌型カーボネーターを用いる製造設備と比較して、攪拌機および炭酸ガス供給設備が不要であるため、本発明は設備的に極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライムスクリーン残渣を含む懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを、インジェクターによって混合しつつ反応槽に供給することを含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
ライムスクリーン残渣を含む懸濁液として、前記反応槽から循環させた反応液を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グルコン酸ナトリウムをさらに添加して炭酸化反応を行う、請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73892(P2011−73892A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223749(P2009−223749)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】