説明

炭酸化セメント及び炭酸化セメント硬化体

【課題】
十分に内部まで炭酸化されて製造時のCO排出量が少なく、また中性化によって懸念されるCr(VI)溶出も少ない、環境配慮型コンクリート二次製品を1日程度の短期間の養生で、効率よく製造できる炭酸化セメントおよび炭酸化セメント硬化体を提供することを目的とする。
【解決手段】
炭酸ガス養生によって硬化する炭酸化セメントであって、スラグ粉末を5〜30質量%含有し、該スラグ粉末の含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%である炭酸化セメントおよびこれを用いた炭酸化セメント硬化体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として土木・建築分野において使用され、1日程度の短期間の炭酸ガス養生を行うことで高強度が得られるセメント及びセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸ガス中でセメント硬化体を養生して、強度の向上を図る技術が知られている。例えば、特許文献1(特開平6−263562号公報)には、セメントと骨材と水を混練して得られるセメント硬化体を成形して、前養生を行ない、脱型した後、所定の期間、炭酸ガス雰囲気中で養生することによって、高強度セメント硬化体を得る技術が開示されている。また、特許文献2(特開平10−194798号公報)には、ビーライトを38%以上含有してなるセメントを配合したセメント混練物を成形し、少なくとも脱型可能な硬さに達した後、炭酸ガス雰囲気中で養生することによって、高い曲げ強度のセメント硬化体を得る技術が開示されている。しかし、これらはいずれも、その効果を得るために数日間の炭酸ガス養生を必要としている。
【0003】
一方、非特許文献1には、普通ポルトランドセメントセメントを高炉スラグで50質量%以上置換したモルタルは加えることにより、炭酸化が早いめられることが報告されている。しかし同時に、高炉スラグを入れたモルタルでは炭酸化した後の強度発現性は期待できないと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−263562号
【特許文献2】特開平10−194798号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「炭酸化養生による低熱セメントモルタルの強度発現性」、コンクリート工学論文集、第10巻第2号、1999年5月、p65−p71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート二次製品、特に空隙率の高いインターロッキングブロックや建築ブロックででは、圧縮強度と同時に曲げ強度も要求されるため、背景技術に述べた高ビーライトセメントを用いた炭酸化が有効であり、また鉄筋を配さないので、炭酸化により中性化が進んでも鉄筋の腐食の問題がない。さらに、空隙率の高いこれらの製品では、炭酸化の効率が高く、炭酸化技術を用いる対象として適している。しかし、高ビーライトセメントを用いた炭酸硬化体は、十分な炭酸ガス養生を行えば高い強度が得られるが、内部まで炭酸化するのに日数を要するため、型枠や養生設備の回転効率の向上、養生設備運転に要するエネルギー消費抑制の観点から、養生日数を短縮する技術開発が強く要望されていた。また、また、温室効果ガス排出量の削減が社会的に要請されており、スラグなどセメント混和材料の活用が望ましいとされている。さらに、セメントをスラグによって置換することにより、炭酸化が早まることが期待されるが、大量の置換によって強度が低下する懸念があった。おり、より深部まで炭酸化の進んだコンクリート二次製品の製造が望まれていた。しかし、背景技術に記載の技術では、養生に時間を要するため、したがって、CO排出量を抑制した環境配慮型製品の製造に当たって、より短い養生時間で深部まで効率的に炭酸化し、なおかつと製品として十分な強度発現を実現する技術開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、炭酸ガス養生によって硬化する炭酸化セメントであって、スラグ粉末を5〜30質量%含有し、該スラグ粉末の含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%である炭酸化セメントを提供する。
【0008】
また、上記炭酸化セメントを使用した混練物を成形し、炭酸ガス養生をして得た炭酸化セメント硬化体を提供する。
【0009】
炭酸ガス養生によって、セメント混練物の硬化を促進するためには、セメント構成成分中にビーライトが必須であり、その炭酸化を早めるために、スラグを添加する。炭酸化を促進し、より短い養生時間で炭酸化と強度発現を実現するためには、スラグの添加割合を5〜30質量%とし、かつスラグの添加割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%となるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1日程度の短期間の炭酸ガス養生を行うことで十分な強度を有し、十分に深部まで炭酸化の進んだコンクリート二次製品の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スラグ含有割合とブロックの1日強度との関係を示すグラフである
【図2】スラグ含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計と、ブロックの1日強度との関係を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に使用するスラグは、いわゆるカルシウム含有スラグであり、カルシウムとして10%以上含有しているものであれば、特に限定されるものではない。そのようなスラグとしては、高炉スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグなどがあげられるが、高炉スラグが好ましい。スラグは、粉末状のものが良く、ブレーン比表面積1000〜10000cm/g程度のものが望ましい。
【0013】
スラグの添加量は、セメント全量中の5〜30質量%が好ましく、より好ましくは10〜25質量%である。スラグの添加量が5質量%未満では、十分な炭酸化促進効果が得られない。30質量%を超えると炭酸化速度は早くなるが、セメント硬化体の強度が十分に得られない場合があり好ましくない。
【0014】
炭酸ガス養生によって、セメント混練物の硬化を促進するためには、セメント中のビーライトの構成割合が少なくとも10%必要であり、20%以上が好ましい。一方、ビーライト含有量の多いセメントに大量のスラグを添加すれば、セメント硬化体の強度が十分に得られなくなる。したがって、スラグ添加量が上記の範囲にあるときに、スラグの含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明を適用するコンクリート製品としては、舗装用ブロックや建築ブロックなどの低スランプで加圧成形、または振動加圧成形で製造される比較的空隙率の高いポーラスな製品が好ましい。これらの空隙率の高い製品では、外部に連通した空隙を介して炭酸ガスが内部に侵入するため、流し込み成形で製造されるコンクリート製品と比べると炭酸化速度は早い。また、加圧成形、または振動加圧成形製品は即脱成形で製造されるため、成形後すぐに炭酸化養生を開始することができ、それによって養生期間を短縮できる利点もある。
【0016】
炭酸ガス養生の炭酸ガス濃度は、1%以上であれば良く、5%以上であることが好ましい。上限は特になく、炭酸ガス濃度が高いほどより早く内部まで炭酸化させることができ、製造工程上望ましい。炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスとしては、市販の液体二酸化炭素を気化させたもの、ドライアイス、燃焼ガス、排ガスなどが使用できるが、燃焼ガスおよび排気ガスについては、周知の濃縮方法により二酸化炭素濃度を高め、かつ周知の方法により窒素酸化物および硫黄酸化物を極力除去したものを使用することが望ましい。養生温度は、30〜80℃が好ましく、炭酸化反応を促進させる上で、40℃以上とすることが望ましい。
【0017】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0018】
〔使用材料〕
ベースセメントA:太平洋セメント社製低熱ポルトランドセメント(ビーライト含有量42質量%)
ベースセメントB:太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント(ビーライト含有量16質量%)
高炉スラグ微粉末(BSと略記):デイシイ社製ファインセラメント(ブレーン4000cm/g)
細骨材A(S(A)と略記):掛川産山砂(表乾密度1.89g/cm、粗粒率2.94)
細骨材B(S(B)と略記):関西太平洋鉱産社製軽量骨材(表乾密度1.89g/cm
粗骨材(Gと略記):秩父郡産7号砕石(表乾密度2.70g/cm、粗粒率4.99)
水(Wと略記):水道水
混和材(Adと略記):花王社製マイティ150
【0019】
〔コンクリートの配合〕
配合表を表1に示した。基本配合(試料1および7)は、水セメント比(W/C)40%、単位水量(W)116kg/m、単位セメント量(C)290kg/m、細骨材率(s/a)80%(vol)とし、他の試料ではセメントの一部を高炉スラグ微粉末に置換した。高炉スラグ微粉末のセメントへの置換率は10〜70質量%とした。
【0020】
【表1】

【0021】
〔ブロックの製造〕
評価に用いたコンクリート製品は、JIS A 5406(建築用コンクリートブロック)に規定される空洞ブロック(汎用タイプ12(B))とした。ブロックの寸法は、長さ400mm、高さ200mm、正味厚さ120mmである。ブロックは振動加圧即時脱型方式にて成形し、前養生は特に行わずに炭酸ガス養生を開始した。炭酸ガス養生はセメント工場排ガスを想定し、炭酸ガス濃度20%、槽内温度40℃、相対湿度80%に調整した恒温器(タバイエスペック社製 PL-4FP)内で24時間の養生を行った。また、比較のため、炭酸ガス養生を行う代わりに、通常のコンクリート二次製品製造で用いられる蒸気養生を行った。蒸気養生条件は、昇温速度20℃/時間、最高温度65℃、保持時間3.5時間、降温速度5℃/時間とした。
【0022】
〔試験方法〕
養生を終えたブロックは、JIS A 5406に準拠し、ブロック全形を用いて圧縮強さ強度試験を行った。圧縮強さは得られた最大荷重をブロックの全断面積(ブロック長さ×ブロック正味厚さ)で除して求めた。また、炭酸化の進行状況を把握するため、強度試験終了後のブロックを高さ方向に割裂し、割裂面にフェノールフタレイン溶液を噴霧して、呈色反応の有無を確認した。アルカリによる呈色反応が起これば、炭酸化による中性化が進行していないと判断し、炭酸化の進行により呈色しない領域の表面からの深さを5箇所測定し、平均値(平均中性化深さ)を求めた。
【0023】
強度試験を行ったブロック片の表層領域から試料を採取し、粒径2mm以下に粉砕して、環境庁告示46号により、6価クロム(Cr(VI))溶出量を測定した。さらに、材料製造時のCO排出量をもとに示方配合から算出した製品1m当たりのCO排出量を算出し、これから平均中性化深さより概算した養生時のCO固定量を差し引き、製品CO排出量を算出した。
【0024】
試験結果を表2にまとめて示した。また、養生1日でのブロック強度を高炉スラグ含有割合に対してプロットしたグラフを図1に、高炉スラグ含有割合とセメント中のビーライト(CSと略記)の構成割合との合計に対してプロットしたグラフを図2に示した。
【0025】
【表2】

【0026】
表2および図1から、高ビーライトセメントをベースセメントとして高炉スラグを添加し炭酸ガス養生した場合と、普通ポルトランドセメントをベースセメントとして高炉スラグを添加し蒸気養生した場合とを比較した時、高炉スラグの含有割合が5〜30質量%の範囲で、1日養生でのブロック強度の向上が認められた。特に10〜25質量%で顕著であった。
【0027】
また、図2から、高ビーライトセメントをベースセメントとして高炉スラグを添加し炭酸ガス養生した場合と、普通ポルトランドセメントをベースセメントとして高炉スラグを添加し蒸気養生した場合とを比較した時、高炉スラグの含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%の範囲で、1日養生でのブロック強度の向上が認められた。
【0028】
なお、炭酸化したコンクリート製品では、セメント硬化体の中性化により、セメント硬化体からの微量成分の6価クロムが溶出する場合があり、問題となることがある。表2から、高炉スラグを添加しない試料1では6価クロムの環境規制値(0.05mg/l)をクリアできないが、高炉スラグを10〜30質量%配合した試料2〜4は、いずれも環境規制値をクリアした。環境安全性の面からも本発明は有効である。
【0029】
また、本発明では、高炉スラグ置換量に対応して材料起源のCO排出量削減が期待できるほか、炭酸ガス養生中のCO固定および養生期間の短縮による電力・エネルギー消費量の削減など、短時間にブロック内部深くまで炭酸化が進行するので、使用材料の製造からコンクリート製品のを出荷に至るまでトータルでのする時点でのCO排出量がは少なくなりり、材料製造から製品出荷時までトータルでの地球環境への負荷が小さい製品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、炭酸ガス養生を行うので、鉄筋を配さないコンクリート二次製品が適用対象となる。特に、低スランプで加圧即時脱型成形または振動加圧即時脱型成形によって製造される空隙率の高いブロック製品に有効である。本発明によれば、これらの製品を1日程度の短期間の養生で、効率よく製造でき、十分に炭酸化されるため、製造時のCO排出量が少なく、また中性化によって懸念されるCr(VI)溶出も少ない、環境配慮型製品の提供が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス養生によって硬化する炭酸化セメントであって、スラグ粉末を5〜30質量%含有し、該スラグ粉末の含有割合とセメント中のビーライトの構成割合との合計が40〜65質量%であることを特徴とする炭酸化セメント。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸化セメントを使用した混練物を成形し、炭酸ガス養生をして得たことを特徴とする炭酸化セメント硬化体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235410(P2010−235410A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86540(P2009−86540)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】