説明

炭酸塩の製造方法

【課題】 高結晶性で、凝集しにくく、配向複屈折性を有する炭酸塩、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法の提供。
【解決手段】 Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造することを特徴とする炭酸塩の製造方法である。針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を製造する態様、前記炭酸源が尿素である態様、加熱反応終了後の液のpHが8.20以上である態様、X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満である炭酸塩を製造する態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶性で、凝集しにくく、配向複屈折性を有する炭酸塩、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)は、ゴム、プラスチック、製紙などの分野で広く使用されてきたが、近年、高機能性を付与した炭酸塩が次々と開発され、粒子形状や粒子径などに応じて、多用途、多目的に使用されるようになっている。
炭酸塩の結晶形としては、カラサイト、アラゴナイト、バテライトなどが挙げられるが、これらの中でも、アラゴナイトは針状であり、強度や弾性率に優れる点で、様々な用途に有用である。
【0003】
炭酸塩を製造する方法としては、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液とを反応させて炭酸塩を製造する方法や、塩化物と炭酸ガスとの反応によって炭酸塩を製造する方法などが一般的に知られている。また、アラゴナイト構造を有する針状の炭酸塩の製造方法としては、例えば、前者の方法において、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液との反応を超音波照射下に行う方法(特許文献1参照)や、Ca(OH)水スラリーに二酸化炭素を導入する方法において、あらかじめCa(OH)水スラリー中に、種晶となる針状アラゴナイト結晶を入れ、該種晶を一定方向にのみ成長させる方法(特許文献2参照)が提案されている。
しかし、特許文献1に記載の炭酸塩の製造方法では、得られる炭酸塩の長さが30〜60μmと大きいだけでなく、粒子サイズの分布幅が広く、所望の粒子サイズに制御した炭酸塩を得ることができないという問題がある。また、特許文献2に記載の炭酸塩の製造方法を用いても、長さが20〜30μmの大きな粒子しか得ることができない。
【0004】
ところで、近年、眼鏡レンズ、透明板などの一般的光学部品やオプトエレクトロニクス用の光学部品、特に、音響、映像、文字情報等を記録する光ディスク装置などのレーザ関連機器に用いる光学部品の材料として、高分子樹脂が用いられる傾向が強まっている。その理由としては、高分子光学材料(高分子樹脂からなる光学材料)は、一般に、他の光学材料(例えば、光学ガラスなど)に比べて、軽量、安価で加工性、量産性に優れている点が挙げられる。また、高分子樹脂には、射出成形や押出成形などの成形技術の適用が容易であるという利点もある。
【0005】
しかし、従来より使用されている一般的な高分子光学材料に成形技術を施して製品化した場合、得られた製品が複屈折性を示すという性質があった。複屈折性を有する高分子光学材料は、比較的高精度が要求されない光学素子に用いる場合には、特に問題となることはないが、近年、より高精度が要求される光学用物品が求められてきており、例えば、書込/消去型の光磁気ディスクなどにおいては、複屈折性が大きな問題となる。すなわち、このような光磁気ディスクには、読取ビームあるいは書込ビームに偏向ビームが用いられており、光路中に複屈折性の光学素子(例えば、ディスク自体、レンズなど)が存在すると、読取り、あるいは、書込みの精度に悪影響を及ぼす。
【0006】
そこで、複屈折性の低減を目的として、複屈折性の符号が互いに異なる高分子樹脂と無機微粒子とを用いた非複屈折光学樹脂材料が提案されている(特許文献3参照)。該光学樹脂材料は、結晶ドープ法とよばれる手法により得られるものであり、具体的には、高分子樹脂中に多数の無機微粒子を分散させ、延伸などにより成形力を外部から作用させ、高分子樹脂の結合鎖と多数の無機微粒子とを略平行に配向させ、高分子樹脂の結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、符号の異なる無機微粒子の複屈折性で減殺したものである。
【0007】
このように、結晶ドープ法を用いて非複屈折光学樹脂材料を得るためには、結晶ドープ法に使用可能な無機微粒子が必要不可欠となるが、この無機微粒子としては、微細な針状又は棒状の炭酸塩が特に好適に使用可能であることが認識されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−203728号公報
【特許文献2】米国特許第5164172号明細書
【特許文献3】国際公開第01/25364号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高結晶性で、凝集しにくく、配向複屈折性を有する炭酸塩、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、Sr2+イオン、Ca2+イオンなどの金属イオンを含む金属イオン源と、尿素などの炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させることにより、粒子サイズを制御可能で、結晶性が高く、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい(特に、針状、棒状などの)炭酸塩を効率的かつ簡便に製造することができるという知見である。
【0011】
本発明は、本発明者の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造することを特徴とする炭酸塩の製造方法である。該<1>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記金属イオン源と前記炭酸源とが、55℃以上の液中で加熱されて反応する。その結果、高結晶性で、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい炭酸塩が製造される。
<2> 針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を製造する前記<1>に記載の炭酸塩の製造方法である。該<2>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記針状及び前記棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が製造されるので、該炭酸塩を多目的、多用途に使用可能である。また、非複屈折光学樹脂材料への応用も可能である。
<3> 金属イオン源が、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<4> 炭酸源が尿素である前記<1>から<3>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<4>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記尿素が加熱されて分解され、二酸化炭素が発生する。該二酸化炭素が前記液中においてCO2−イオンとなり、前記金属イオン源に含まれるアニオンと反応し、炭酸塩が製造される。
<5> 液中に水を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<6> 液中に溶剤を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<6>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記溶剤が含まれるので、得られる炭酸塩の溶解度の低下が可能である。
<7> 溶剤が、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種である前記<6>に記載の炭酸塩の製造方法である。
<8> 加熱反応終了後の液のpHが8.20以上である前記<1>から<7>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<8>に記載の炭酸塩の製造方法においては、加熱反応終了後の液のpHが8.20以上であり、アルカリ領域にあるので、微細な炭酸塩が得られる。
<9> X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満である炭酸塩を製造する前記<1>から<8>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<9>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満であるので、結晶性に優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、高結晶性で、凝集しにくく、配向複屈折性を有する炭酸塩、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(炭酸塩の製造方法)
本発明の炭酸塩の製造方法は、金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造する。
【0014】
−金属イオン源−
前記金属イオン源としては、金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記炭酸源と反応して、カラサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO2−ユニットで表され、該CO2−ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を形成する。このため、該炭酸塩が、後述する延伸処理により、任意の一方向に延伸されると、その延伸方向に粒子の長軸方向が一致した状態で結晶が並ぶ。
また、表1にアラゴナイト型鉱物の屈折率を示す。表1に示すように、前記アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩は、複屈折率δが大きいため、配向複屈折性を有するポリマーへのドープに好適に使用することができる。
【0015】
【表1】

【0016】
前記金属イオン源は、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr、Ca、Ba、Zn、及びPbから選択される少なくとも1種の金属の硝酸塩、塩化物、水酸化物などが挙げられる。
【0017】
前記金属イオン源は、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源の具体例としては、Sr(NO、Ca(NO、Ba(NO、Zn(NO、Pb(NO、SrCl、CaCl、BaCl、ZnCl、PbCl、Sr(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Zn(OH)、Pb(OH)、及びこれらの水和物などが好適に挙げられる。
【0018】
−炭酸源−
前記炭酸源としては、CO2−イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、尿素[(NHCO]、炭酸アンモニウム[(NHCO]、炭酸ナトリウム[NaCO]、炭酸ガスなどが好適に挙げられる。これらの中でも、尿素[(NHCO]が特に好ましい。
【0019】
−加熱反応−
前記加熱反応を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図1に示すように、前記金属イオン源と前記炭酸源とを入れた容器を反応槽に投入し、保温する方法が挙げられる。また、前記加熱反応は以下の反応条件を充たして行うのが好ましい。
すなわち、前記加熱反応における反応温度は、55℃以上であることが必要であり、60〜95℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。該反応温度が55℃未満であると、結晶性が低く、また、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が得られず、球状又は楕円状の炭酸塩が生成されることがある。
反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15〜360minが好ましく、30〜240minがより好ましい。
なお、前記加熱反応は撹拌しながら行うのが好ましく、撹拌速度としては、500〜1500rpmであるのが好ましい。
【0020】
前記加熱反応終了後の液(反応液)のpHは8.20以上であるのが好ましい。該pHが8.20より低いと、粗大な炭酸塩が生成されることがある。一方、前記pHが8.20以上であって、高アルカリ領域にあると、微細な炭酸塩が得られる。なお、加熱反応終了後における前記液のpHの測定温度は、室温であり、通常25℃程度である。
【0021】
前記尿素の分解反応は、反応液が酸性であるかアルカリ性であるかにより反応式が異なる。即ち、前記尿素の水溶液は中性に近いが、前記金属イオン源の選択、あるいは酸やアルカリの添加によるpH調整によって系全体のpHが変化するため、前記尿素の分解反応が変わってくることになる。例えば、前記金属イオン源がSr(NOの場合には、酸性領域の分解反応が進行する。
まず、酸性領域では、前記尿素の加熱分解が下記式(1)のように行われ、前記金属イオン源がSr(NOの場合には、下記式(1)が進行することとなる。
(NHCO+3HO→2NH+OH+CO・・・・・式(1)
また、アルカリ性領域では、前記尿素の加水分解が下記式(2)のように行われる。
(NHCO+2OH→CO2−+2NH・・・・・式(2)
そして、前記式(1)あるいは前記式(2)で示す加熱分解中に発生する炭酸イオン(CO2−)と、例えば電離したストロンチウムイオン(Sr2+)とが、下記式(3)のように反応し、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム(SrCO)が合成される。
Sr2++CO2−→SrCO・・・・・式(3)
【0022】
−金属イオン源と炭酸源とを反応させる液−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液中には、水を含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液は水溶液又は懸濁液であるのが好ましい。
更に、合成される炭酸塩の結晶の溶解度を下げることを目的として、前記液中に溶剤を含むのが好ましい。
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが好適に挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炭酸塩製造後の溶媒量の1〜80体積%が好ましく、10〜80体積%がより好ましい。
【0023】
−炭酸塩の物性−
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が1より大きいことが必要であり、針状及び棒状のいずれかの形状を有しているのが好ましい。なお、前記アスペクト比は、前記炭酸塩の長さと直径との比を表し、その数値は大きいほど好ましい。
前記炭酸塩の平均粒子長さとしては、0.05〜30μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。該平均粒子長さが30μmを超えると、散乱の影響を大きく受けることがあり、光学用途への適応性が低下することがある。
また、〔平均粒子長さ±α〕の長さを有する炭酸塩の全炭酸塩における割合としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上が更に好ましく、80%以上が特に好ましい。該割合が60%以上であると、粒子サイズの制御が高精度であると認められる。
ここで、前記αとしては、0.05〜2μmが好ましく、0.05〜1.0μmがより好ましく、0.05〜0.8μmが更に好ましく、0.05〜0.1μmが特に好ましい。
【0024】
前記炭酸塩は、X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満であるのが好ましい。該半値幅が0.8°以上であると、結晶性が低くなり、光学用途への機能の発揮が十分に行われないことがある。
ここで、(111)面の回折ピークの半値幅は、回折ピークの高さをHとしたとき、2/Hの高さにおけるピークの広がり(幅)を表す。
【0025】
−用途−
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、高結晶性で、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きく、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する場合には、成形品内部での配向が少なく、等方性を示し、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルター等として有用である。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
【0026】
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。
前記延伸処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一軸延伸が挙げられる。該一軸延伸の方法としては、必要に応じて加熱しながら、延伸機で所望の延伸倍率に延伸することが挙げられる。
【0027】
複屈折性を有する光学ポリマーの固有複屈折率の一例としては、「ここまできた透明樹脂−ITに挑む高性能光学材料の世界−」(井出文雄著、工業調査会、初版)p.29に記載されている通りであり、具体的には下記表2に示す通りである。表2より、前記光学ポリマーは、正の複屈折性を有するものが多いことが認められる。また、前記炭酸塩として炭酸ストロンチウムを用い、例えば、前記光学ポリマーとしてのポリカーボネートに添加すると、該混合物の正の複屈折性を打ち消し、0にすることができるだけでなく、負にすることもできる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【0028】
【表2】

【0029】
本発明の炭酸塩の製造方法によれば、高結晶性で、凝集しにくく、配向複屈折性を有する炭酸塩、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができる。また、粒子サイズを制御可能で、一定の粒子サイズを有する炭酸塩を高い割合で得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
−炭酸塩の製造−
図1に示すように、前記金属イオン源としての硝酸ストロンチウム[Sr(NO]溶液と、前記炭酸源としての尿素[(NHCO]水溶液とを容器内で混合して、濃度が共に0.33Mの混合溶液を調製した。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して90minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。ここで、前記撹拌速度は500rpmで行った。
【0032】
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶を、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所製、S−900)により観察した。このときのSEM写真を図2に示す。該SEM写真から、平均粒子長さ6.2μm程度の柱状(棒状)の凝集性の低い炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。また、平均粒子長さ±αの長さ(α=0.5μm)を有する結晶の全結晶における割合は62%であった。各種測定結果を表3に示す。
更に、X線回折測定装置(理学電機社製、CN2013)を用いて、(111)面の回折ピークの半値幅を測定した。その結果を図3Aに示した。なお、市販品の炭酸ストロンチウム結晶(球状)(和光純薬社製、炭酸ストロンチウム)のX線回折装置による測定結果を図3Bに示す。図3A及び図3Bより、実施例1で得られた結晶が確かに炭酸ストロンチウム結晶であることが認められた。また、前記市販品及び実施例1の炭酸ストロンチウム結晶ともに、(111)面の回折ピークの半値幅は0.2°であった。
【0033】
(実施例2)
−炭酸塩の製造方法−
図1に示すように、前記金属イオン源としての0.025M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]懸濁液と、前記炭酸源としての0.5M尿素[(NHCO]水溶液と、を容器内で混合して混合溶液を調製した。このときのpHは12.60であった。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して120minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応(加熱反応)により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。加熱反応終了後の室温(25℃)での液のpHを測定したところ、pHは11.50に低下していた。なお、前記撹拌速度は500rpmで行った。
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子製、JEM−1010)により観察した。このときのTEM写真を図4に、各種測定結果を表3に、それぞれ示す。
【0034】
(実施例3)
−炭酸塩の製造−
実施例1において、前記金属イオン源としての硝酸ストロンチウム溶液を、塩化カルシウム溶液に代えた以外は、実施例1と同様な方法により前記炭酸塩としての炭酸カルシウム結晶を製造した。得られた炭酸カルシウム結晶をSEM写真により観察した。各種測定結果を表3に示す。
【0035】
(実施例4)
−炭酸塩の製造−
実施例1において、得られる結晶の溶解度を低下させることを目的として、前記溶液中に前記溶剤としてのメタノールを添加した以外は、実施例1と同様な方法により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。得られた炭酸ストロンチウム結晶をSEM写真により観察した。各種測定結果を表3に示す。
【0036】
(実施例5)
−炭酸塩の製造−
0.005M硝酸ストロンチウム[Sr(NO]溶液と、0.5M尿素[(NHCO]水溶液と、を容器内で混合して混合溶液を調製した。このときのpHは7.53であった。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して120minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応(加熱反応)により、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。加熱反応終了後の室温(25℃)での液のpHを測定したところ、pHは8.18に上昇していた。なお、前記撹拌速度は500rpmで行った。
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶をSEMにより観察した。このときのSEM写真を図5に示す。該SEM写真より、平均粒子長さ8.5μm程度の針状の炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。また、平均粒子長さ±αの長さ(α=2.0μm)を有する結晶の全結晶における割合は68%、X線回折測定による回折パターンにおける(111)面の回折ピークの半値幅は0.8°であった。各種測定結果を表3に示す。
【0037】
(比較例1)
−炭酸塩の製造−
1M硝酸ストロンチウム[Sr(NO]溶液300ml及び1M尿素[(NHCO]水溶液300mlをダブルジェット法により、滴下速度10ml/min、モル滴下速度0.001mol/minの等モル滴下速度で、ウレアーゼ4.00gを溶解した水400mlの液中に滴下し、撹拌して、これらを反応温度25℃で反応させ、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。なお、撹拌速度は500rpmで行った。
【0038】
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶をTEMにより観察した。このときのTEM写真を図6Aに示す。該TEM写真より、平均粒子長さ9.0μm程度の球状の炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。また、平均粒子長さ±αの長さ(α=1.0μm)を有する結晶の全結晶における割合は63%であった。更に、図6BにX線回折測定装置による回折パターンを示す。該回折パターンより、(111)面の回折ピークの半値幅は0.8°であった。各種測定結果を表4に示す。
【0039】
(比較例2)
−炭酸塩の製造−
比較例1において、ウレアーゼ4.00gを溶解した水400mlに、更に分散剤としてゼラチン3質量%を添加した以外は、比較例1と同様な方法により、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。得られた炭酸ストロンチウム結晶をSEMにより観察した。このときのSEM写真を図7に示す。該SEM写真より、ひょうたん型の炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。各種測定結果を表4に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表3〜4の結果より、実施例1〜5で得られた炭酸塩は、結晶性が高く、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい針状又は柱状(棒状)の形状を有することが認められた。特に、実施例2の反応条件によれば、平均粒子長さが350nmの微細な針状粒子が得られることが判った。また、実施例1〜5の炭酸塩の製造方法によれば、粒子サイズを制御可能で、一定の粒子サイズを有する炭酸塩が高い割合で得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の炭酸塩の製造方法は、粒子サイズを制御可能で、一定の粒子サイズを有する炭酸塩を高い割合で効率的かつ簡便に製造することができる。
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、結晶性が高く、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい(特に、針状、棒状などである)ため、成形品内部での配向が少なく、等方性を示し、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルターなどに好適に使用することができる。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の炭酸塩の製造方法の一例を説明する概念図である。
【図2】図2は、実施例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のSEM写真である。
【図3A】図3Aは、実施例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のX線回折測定よる回折パターンである。
【図3B】図3Bは、市販品の炭酸ストロンチウム結晶のX線回折測定による回折パターンである。
【図4】図4は、実施例2で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図5】図5は、実施例5で製造した炭酸ストロンチウム結晶のSEM写真である。
【図6A】図6Aは、比較例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図6B】図6Bは、比較例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のX線回折測定による回折パターンである。
【図7】図7は、比較例2で製造した炭酸ストロンチウム結晶のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造することを特徴とする炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を製造する請求項1に記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項3】
金属イオン源が、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含む請求項1から2のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項4】
炭酸源が、尿素である請求項1から3のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項5】
液中に水を含む請求項1から4のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項6】
液中に溶剤を含む請求項1から5のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項7】
溶剤が、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種である請求項6に記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項8】
加熱反応終了後の液のpHが8.20以上である請求項1から7のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項9】
X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満である炭酸塩を製造する請求項1から8のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。

【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図6B】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−21987(P2006−21987A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158082(P2005−158082)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】