説明

炭酸塩スケール障害を発生させない温泉水又は地熱水の輸送方法及び装置

【課題】温泉水又は地熱水の多段的利用において、後の他者の利用設備に迷惑とならず、炭酸塩スケール障害を発生させずに、炭酸カルシウムに対して過飽和状態の温泉水又は地熱水を輸送する方法及び装置の提供。
【解決手段】炭酸カルシウムが過飽和状態にある温泉水又は地熱水に、炭酸カルシウムの溶解度の温度と炭酸ガス分圧への依存性に基づき、炭酸ガスを加圧注入することで、炭酸カルシウムの溶解度を上昇させて、炭酸カルシウムの析出を抑制し、かつ、懸濁浮遊している炭酸カルシウムを溶解し、次に、炭酸ガス分圧を保持して温泉水又は地熱水を炭酸カルシウムに不飽和状態にしたまま、冷却しつつ輸送した後、減圧し、当初に含まれていたのと同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する状態の温泉水又は地熱水を得る輸送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
温泉水又は地熱水は地中を上昇し地表へ湧出する過程において、温度と圧力及び炭酸ガス分圧が変化するために炭酸カルシウムを析出し、地上の輸送配管や熱交換器等の利用設備に炭酸塩スケール障害を発生させることがある。本発明は、温泉水又は地熱水に炭酸ガスを注入し炭酸カルシウムに不飽和状態とすることで炭酸塩スケール障害を発生させずに、温泉水又は地熱水を輸送するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温水の利用は、高温から順に地熱蒸気発電(>170℃)、熱水による熱交換発電(170〜50℃)、浴用(<50℃)、暖房(>25℃:家屋、温室、融雪)等である。
近年、省資源と省エネルギーの観点から高温から低温まで温水を連続的に有効活用する多段的利用が推奨されている。例えば、湧出する温水が高温(>70℃)の場合、浴用に供するために冷却する必要がある。そこで、温水を熱交換発電に用いて冷却した状態とした後に浴用に供すれば、単に冷却して浴用とした場合と比較して、温水が有する熱エネルギーを多段的に利用したこととなる。
【0003】
温水は地中を上昇し地表へ湧出する過程において、温度と圧力及びガス分圧が変化することにより、炭酸カルシウムは過飽和状態となり、温水の利用設備に炭酸塩スケールが析出することにより、利用設備の運転に障害が生ずることになる。このような炭酸塩スケール障害への対策は従来、個々の利用設備において検討されてきたが、多段的利用を促進するためには、後の利用者に迷惑とならず、かつ、その利用を制限させない処理方法が必要である。則ち、温水利用の全体を鑑みての炭酸塩スケール障害への対策を行わねばならない。
【0004】
炭酸塩スケール障害とは、温水の輸送配管や熱交換器内に炭酸塩鉱物がスケールとして析出し又は付着することであり、流量減少や配管閉塞等のトラブルを発生し、利用設備の運転効率を低下させ、事故の一要因ともなるものである。炭酸塩スケール障害への従来の対策技術は次のように整理される。
【0005】
・ 機械的及び物理的処理による発生防止又は除去技術
(1)閉塞した配管類の交換。
(2)物理的外力によるスケールの除去(たたく、削る、高圧水の利用)。
(3)温水中のスケール成分を分離回収するもの(電解処理、吸着除去、ろ過、脱気沈殿回収など)。
(4)スケールの付着しにくい材質や形状の利用。
(1)と(2)の技術では利用設備を何回も定期的に停止してスケールの除去作業を行う必要がある。(1)と(2)及び(3)の技術では分離回収したスケールの廃棄処理が課題となる。(4)の技術は長期利用時には効果が希薄となる。
【0006】
[2]化学的処理による発生防止技術
(1)スケール抑制剤を添加し沈殿を防止するもの(例えば、アクリル酸、スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸、炭酸アンモニウム、水溶性高分子、分散剤、アルカリ剤、マレイン酸、リン酸、酸消費量調整剤、の添加)。
この範疇の技術は効果的にスケールの発生を防止できるが、温水が好ましくない物質を含有することになり、次の利用に制限が生じ、環境汚染の一因ともなる。
[3]温水の保守管理手法に基づく発生防止又は除去技術
(1)温水を水で希釈して配湯する。
(2)温水中の懸濁物を沈殿槽や貯湯タンクで沈殿させてから配湯する。
(3)温水から炭酸塩鉱物を沈殿させた後に利用する(炭酸ガスと接触し沈殿:特許文献1、炭酸塩鉱物と接触し沈殿:特許文献2)。
(4)温水中の炭酸塩鉱物を溶解した後に利用する(塩酸等の強酸類を添加、炭酸ガスを添加:特許文献3)。
(1)の技術では添加する水の確保が問題となる。
(2)と(3)の技術では沈殿物を分離回収処理する方法に課題が残る。(4)の技術のうちの強酸類の添加は設備の腐食を生じ、後の利用設備へ輸送する温水の水質が変化してしまう。(4)の技術のうちの炭酸ガスの添加は循環冷却水を対象とした大気圧条件下での沈殿抑制の制御技術であり、天然系の高温の温水には適用できない。
以上は、初めに記載した温水利用の現状及び今後の多段的利用のという新しい考え方にたつものではなく、従来の炭酸塩スケール障害に対する管理手法による発生防止技術又は除去技術に関する発明である。
従来の方法とは相違する新しい考え方に基づく新しい解決方法が望まれていた。
【特許文献1】特開2005−161224号公報
【特許文献2】特開2003−320393号公報
【特許文献3】特開平7−109585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき課題は、前記の従来技術の反省と今後の温水の多段的利用の形態を前提に、後の利用設備での活用を制限させることなく、温水の輸送を連続して行うことができ、沈殿物の分離回収処理に煩雑な操作を必要としない、保守点検の観点からも経済的な、炭酸塩スケール障害を発生させずに温泉水又は地熱水を輸送できる新規な方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の基礎となる地化学的現象は次の通りである。
(1)温度と炭酸ガス分圧に対する炭酸カルシウムの溶解度を第1図に示す。
この炭酸カルシウムの溶解度を示す図では、ある炭酸ガス分圧曲線に対し、温水に含まれる炭酸カルシウム成分の含有量が、曲線上に位置すれば温水は炭酸カルシウムに対し飽和状態であり、曲線の上方に位置すれば過飽和状態(炭酸カルシウムを沈殿し得る又は炭酸カルシウムの浮遊物を含有する状態)であり、曲線の下方に位置すれば不飽和状態(炭酸カルシウムを沈殿しない状態)であることを意味する。
(2)第1図を参考に温水に対して次のような操作を施すことで、炭酸塩スケール障害を発生させずに温水を輸送することが可能であることを見出して本発明を完成させた。
(3)その方法は以下の通りである。
炭酸カルシウムが過飽和状態にある温水に、炭酸カルシウムの溶解度の温度と炭酸ガス分圧への依存性に基づき、炭酸ガスを加圧注入することで、炭酸カルシウムの溶解度を上昇させて、炭酸カルシウムの析出を抑制し、かつ、懸濁浮遊している炭酸カルシウムを溶解し、次に、炭酸ガス分圧を保持して温泉水又は地熱水を炭酸カルシウムに不飽和状態にしたまま、冷却しつつ輸送した後、減圧し、当初に含まれていたのと同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する状態の温泉水又は地熱水を得ることを特徴とする温泉水又は地熱水の輸送方法。
(4)前記の方法を行うための装置は以下の通りである。
装置の全体は第2図により示される。
前記(3)の方法を行う温水の輸送装置が、坑口又は湧出口(1)に接続された炭酸カルシウムに対し過飽和状態の温水を輸送する輸送管(2)、前記輸送管に接続された温水を加圧送水する装置(3)とこの装置に接続された輸送管(4)であって、炭酸ガスを加圧注入する装置(5)が接続され、温水をその炭酸ガス分圧を保持して炭酸カルシウム成分を不飽和状態にしたまま冷却しつつ輸送する輸送管(4)、前記輸送管に接続された自然放熱又は熱交換等の冷却手段(6)、前記冷却手段に接続された冷却後の温水を輸送するための輸送管(7)、前記輸送管に接続された温水を減圧する手段(8)、及び前記減圧手段に接続された当初の炭酸カルシウム成分と同量の炭酸カルシウムを溶解して含有する温水を輸送する輸送管(9)により構成されることを特徴とする温泉水又は地熱水の輸送装置。
【0009】
以上の手法及び装置において、湧出時の温水と操作後の温水が含有する炭酸カルシウム成分は等量であり、本発明の後に続く他者の方法及び装置には格別影響を与えることがなく、また、温水の輸送を連続して行うことができ、かつ、沈殿物の分離回収処理の操作を必要としない、炭酸塩スケール障害を発生させない温水の輸送方法及び装置を得ることができたと言える。
【発明の効果】
【0010】
本発明により以下の効果が得られる。
(1)炭酸塩スケール障害を発生する温水は、もともと炭酸ガス成分を多量に含んでおり、本発明において炭酸塩スケールが発生しないように炭酸ガスを添加することは、他のスケール抑制剤の添加のように温水の泉質を変化させるものでなく、湧出時と同じ泉質の温水を次の利用設備へ提供するものと看做すことができ、温水の多段的利用として好ましい方法である。
(2)加圧注入に用いた炭酸ガスを輸送後の減圧時に回収するとすれば、これを再度加圧注入に利用することができ、又、熱交換発電等に用いた後に次の利用者がいない場合には、温水を地下へ全量還元することで加圧注入に用いた分の二酸化炭素を温暖化防止のために削減することができるので、本発明は環境にやさしい方法及び装置とすることができる。
(3)本発明による炭酸塩スケール障害を発生させない温水の輸送方法は、温水の多段的利用として有効な方法であり、今後広範な普及が見込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法は次の通りである。
炭酸カルシウムが過飽和状態にある温泉水又は地熱水に、炭酸カルシウムの溶解度の温度と炭酸ガス分圧への依存性に基づき、炭酸ガスを加圧注入することで、炭酸カルシウムの溶解度を上昇させて、炭酸カルシウムの析出を抑制し、かつ、懸濁浮遊している炭酸カルシウムを溶解し、次に、炭酸ガス分圧を保持して温泉水又は地熱水を炭酸カルシウムに不飽和状態にしたまま、冷却しつつ輸送した後、減圧し、当初に含まれていたのと同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する状態の温泉水又は地熱水を得る温泉水又は地熱水の輸送方法。
【0012】
前記の方法を、温度と炭酸ガス分圧に対する炭酸カルシウムの溶解度の関係を示す第1図に基づいて以下に説明する。
【0013】
温水の当初の状態
炭酸カルシウムに対して過飽和状態にある温水の湧出時の状態は、地下の温度と圧力、温水の地下と上昇時の流動形態、温水の起原、地下の地質状況等に応じて多様である。その湧出時の温度は自然湧出泉では100℃以下、水中ポンプ等による抑揚泉では約150℃以下、カルシウム濃度は約0.01から1000mmol/l、炭酸ガス分圧は約0.001から1.0 気圧の範囲にある。
一例として、第1図中のA点として示される温水について以下記述する。
この温水が、温度が100℃で炭酸ガス分圧が0.02気圧の場合、炭酸カルシウムに対して過飽和状態にあり、炭酸カルシウムを沈殿できる状態、又は炭酸カルシウムを液中に浮遊して含有する状態にある。
【0014】
この場合に、A点に示される温水を加圧することなく冷却すると、炭酸ガス分圧が0.02気圧の曲線と交差するまでの間(第1図のA点とB点の間)は炭酸カルシウムを沈殿し続け、曲線と交差した後(第1図のB点とC点の間)は炭酸カルシウムの含有量は不飽和状態となり、炭酸カルシウムを沈澱しない状態となる。
【0015】
第一工程
この冷却初期における炭酸カルシウムの沈殿(第1図のA点とB点の間)を防止するためには、炭酸ガスを加圧注入して炭酸ガス分圧を上昇させればよい。このときに、どの程度に炭酸ガス分圧を上昇させるかは、A点として示されていた温水が、明確に炭酸カルシウムを不飽和の状態で含有する状態とすることがよい(例えば、第1図のD点に示される0.1気圧又はこれ以上の炭酸ガス分圧まで)。なお、温泉水又は地熱水を炭酸カルシウムに対して不飽和状態とするために必要な炭酸ガス分圧は約0.01から10気圧の範囲であることが多い。
【0016】
第二工程
前述で決定した炭酸ガス分圧を保持している温水となるように炭酸ガスを一定圧力で注入し続けて、炭酸カルシウムの析出を抑制し、かつ、懸濁浮遊している炭酸カルシウムを溶解することで、温水に溶解している炭酸カルシウムの含有量が不飽和の状態として含有している状態で冷却しつつ輸送する。則ち、第1図のA点として示される温水に溶解している炭酸カルシウムの含有量が常時、前述で決定した炭酸ガス分圧に対応する炭酸カルシウムの溶解度曲線(第1図のD点からE点)の下方に位置させる。
【0017】
第三工程
温水を減圧し、当初に含まれていたのと同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する状態とする。温水は前記輸送の間に、自然冷却又は熱交換器により冷却される。その結果、第1図のA点に示される温水の炭酸カルシウム成分量は、温度50℃では大気圧平衡下での炭酸ガス分圧における溶解度曲線に対して不飽和状態となる。従って、前述の炭酸ガスを加圧注入して輸送した温水が温度50℃に冷却された後に大気圧下に減圧(第1図のE点からC点へ)されても炭酸カルシウムを沈澱することなく、温水は当初含有していた炭酸カルシウム成分を溶解した状態で保持することが可能となる。
【0018】
炭酸カルシウムに対して過飽和状態にある温水の湧出時の状態は多様であり、前述の第1図のA点で示した事例の他に、例えば、温度が100℃で炭酸ガス分圧が1気圧で炭酸カルシウムに対して若干過飽和状態にある温水では、炭酸ガス分圧を数気圧程度に上昇させて液中に浮遊する炭酸カルシウムを溶解する必要がある。また、この温水の輸送と冷却の後の減圧では、大気圧開放すると温水が炭酸カルシウムに対して過飽和状態となるため、次の利用設備が炭酸塩スケール障害の発生を許容できない場合には、温水の減圧を炭酸カルシウムに対して過飽和状態とならない程度(前記の温水では温度50℃では約0.1気圧程度)に押さえ、若干の加圧状態を維持したまま次の利用設備へ温水を提供する等、次の利用設備と連携して調整を図ることがよい。
【0019】
以上を基に、炭酸塩スケール障害を発生させない温水の輸送方法は次のようにとりまとめられる。温水が炭酸カルシウムに対して過飽和状態である場合、温水に炭酸ガスを加圧注入して、温水を炭酸カルシウムに対して不飽和状態にして輸送し、温水を自然放熱又は熱交換器を通じて冷却した後、炭酸カルシウムに対し過飽和状態とならない範囲で減圧し、温水が当初含有していた炭酸カルシウム成分と同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する温水を、次の利用設備へ提供する。
【0020】
前記の炭酸塩スケール障害を発生させない温水の輸送方法を行うための装置は以下の通りであり、装置については第2図により示される。
本発明の装置は、坑口又は湧出口(1)に接続された炭酸カルシウムに対して過飽和状態の温水を輸送する輸送管(2)、前記輸送管に接続された温水を加圧送水する装置(3)とこの装置に接続された輸送管(4)であって、炭酸ガスを加圧注入する装置(5)が接続され、温水をその炭酸ガス分圧を保持して炭酸カルシウム成分を不飽和状態にしたまま冷却しつつ輸送する輸送管(4)、前記輸送管に接続された自然放熱又は熱交換等の冷却手段(6)、前記冷却手段に接続された冷却後の温水を輸送するための輸送管(7)、前記輸送管に接続された温水を減圧する手段(8)、及び前記減圧手段に接続された当初の炭酸カルシウム成分と同量の炭酸カルシウムを溶解して含有する温水を輸送する輸送管(9)により構成される温泉水又は地熱水の輸送装置である。
本装置については、上記輸送管(2)、加圧手段(3)、輸送管(4)、炭酸ガス注入装置(5)、熱交換手段(6)、輸送管(7)、減圧手段(8)及び輸送管(9)から構成される。これらは各種機器をつなぐ輸送システムである。同等の作用を行う装置や管であれば、これらにより変更するものは、本発明の装置に含まれる。又、結果として、出来上がった装置が本発明の装置となるものも、本発明の装置に含まれる。
【0021】
炭酸カルシウムに対して過飽和状態の温水を輸送する輸送管2は、地中の温水を地上に取り出す取出管11に接続された地表面の湧出口1に接続している。地中の温水は取出管11から湧出口1を経由して輸送管2に送られる。温水は炭酸カルシウムに対して過飽和状態にあるので、炭酸ガスの脱気による炭酸カルシウムのさらなる析出を防止するために、湧出口1及び輸送管2は密閉する必要がある。また、湧出口1及び輸送管2の周囲は断熱材を配置し温度低下を防ぐのが望ましい。
【0022】
輸送管2に接続された温水を加圧送水する装置3は、送水能力が温水の湧出を抑制することがないように、温水の湧出量と同等又はそれ以上の送水能力を有する加圧送水ポンプを用いることが現実的な対処方法である。
【0023】
炭酸ガスを加圧注入する装置5は炭酸ガスボンベであり、バルブ12の開閉により輸送管4を流れる温水に炭酸ガスを供給する。炭酸ガス分圧をどの程度高めるかは、温水の水質を参考に決定すべきであるが、その上限は約10気圧程度である。
【0024】
冷却手段6は、温水を輸送管4により長距離送水する場合には自然放熱による自然冷却とし、熱交換器を用いる場合にはこれによる強制冷却とする。温水の出口温度は、次の利用設備が浴用利用の場合を仮定し、約50℃に設定する。
【0025】
冷却後の温水を減圧する減圧手段8は減圧バルブとし、温水が炭酸カルシウムに対し不飽和状態を保持できる圧力範囲内で減圧させることで、当初と同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する温水を得られるようにする。なお、温水を大気圧下まで減圧してもよいが、次の利用設備内に炭酸塩スケール障害の発生が危惧される場合には、加圧状態を維持したままで温水を提供する等、次の利用設備と連携して調整を図るのが望ましい。
【0026】
本発明における装置の具体例では、湧出口から導入される温水の温度は70℃〜150℃、炭酸ガスの加圧注入装置による注入圧力は約10気圧まで、温水の輸送管はこれらの温度と圧力に対応とし、冷却手段による冷却は温度50℃まで、減圧手段による減圧範囲は大気圧下まで、又は温水が炭酸カルシウムに対して不飽和状態を保持できる範囲までとした。
【0027】
本発明の炭酸塩スケール障害を発生しない温泉水又は地熱水の輸送装置から得られる温水は、入湯施設、療養施設、スポーツ用施設、暖房施設などに直接配湯されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】温度と炭酸ガス分圧に対する炭酸カルシウムの溶解度を示す図
【図2】本発明の温泉水又は地熱水の輸送装置を示す図
【符号の説明】
【0029】
(1)図1について
A:温度100℃、炭酸ガス分圧0.02気圧にて地表に取り出された温水の炭酸カルシウム成分の含有量を示す点(温水は過飽和状態)
B:炭酸ガス分圧が0.02気圧の時、温水(A点)を冷却した際、炭酸カルシウムに対して飽和状態となる点(温水はAB間では過飽和状態、BC間では不飽和状態)
C:温水(A点)を温度50℃まで冷却した際の炭酸カルシウム成分の含有量を示す点(温水は大気圧平衡下での炭酸ガス分圧では不飽和状態)
D:温水(A点)に炭酸ガスを加圧注入(炭酸ガス分圧0.1気圧まで)したことを示す点(温水は不飽和状態)
E:炭酸ガス分圧を加圧保持して温度50℃まで冷却したことを示す点(温水は不飽和状態)
(2)図2について
1:湧出口
2:輸送管
3:加圧手段
4:輸送管
5:炭酸ガス注入装置
6:熱交換手段
7:輸送管
8:減圧手段
9:輸送管
10:次の利用施設
11:取出管
12:バルブ
13:懸濁浮遊している炭酸カルシウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムが過飽和状態にある温泉水又は地熱水に、炭酸カルシウムの溶解度の温度と炭酸ガス分圧への依存性に基づき、炭酸ガスを加圧注入することで、炭酸カルシウムの溶解度を上昇させて、炭酸カルシウムの析出を抑制し、かつ、懸濁浮遊している炭酸カルシウムを溶解し、次に、炭酸ガス分圧を保持して温泉水又は地熱水を炭酸カルシウムに不飽和状態にしたまま、冷却しつつ輸送した後、減圧し、当初に含まれていたのと同量の炭酸カルシウム成分を溶解して含有する状態の温泉水又は地熱水を得ることを特徴とする温泉水又は地熱水の輸送方法。
【請求項2】
前記請求項1の方法を行う温泉水又は地熱水(以下、温泉水又は地熱水を単に温水とも言う)の輸送装置が、坑口又は湧出口(1)に接続された炭酸カルシウムに対し過飽和状態の温水を輸送する輸送管(2)、前記輸送管に接続された温水を加圧送水する装置(3)とこの装置に接続された輸送管(4)であって、炭酸ガスを加圧注入する装置(5)が接続され、温水をその炭酸ガス分圧を保持して炭酸カルシウム成分を不飽和状態にしたまま冷却しつつ輸送する輸送管(4)、前記輸送管に接続された自然放熱又は熱交換等の冷却手段(6)、前記冷却手段に接続された冷却後の温水を輸送するための輸送管(7)、前記輸送管に接続された温水を減圧する手段(8)、及び前記減圧手段に接続された当初の炭酸カルシウム成分と同量の炭酸カルシウムを溶解して含有する温水を輸送する輸送管(9)により構成されることを特徴とする温泉水又は地熱水の輸送装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279535(P2009−279535A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135409(P2008−135409)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/新エネルギーベンチャー技術革新事業/温泉エコジェネシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】