説明

点字用エンボス加工装置

【課題】本発明は、加工対象に対して点字用のエンボスを形成する点字用エンボス加工装置に関し、つぶれ難い点字を連続して大量にエンボス加工可能として加工品質の向上、生産効率の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】ロール表面に点字情報に対応した突部33が形成された版胴部21に対して連続用紙14を介在させて対向する圧胴部22が配されて当該版胴部21と共に回転されるもので、当該圧胴部22のロール表面に所定硬度の弾性部材35が設けられ、当該弾性部材35の表面までの径rを当該版胴部21のロール表面までの径Rと異ならせる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象に対して点字用のエンボスを形成する点字用エンボス加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、点字は硬質テープに形成して案内などに使用される他、書籍はもちろん封書等にも形成されるようになってきている。点字形成は、対象部数が一般印刷に比べて少数ではあるが、必要不可欠なものであり、封書等の大量に必要となる傾向に応じて点字形成品質の向上、生産効率の向上が望まれている。
【0003】
従来、封書の封緘体となる連続用紙に連続して点字用のエンボスを形成する技術として、以下の特許文献1に提案されているものがある。特許文献1には点字用エンボスを有する封筒体形成用連続用紙の製造方法が記載されており、その図2および段落[0031]、[0032]に、点字用エンボス加工ユニット(33)が、圧胴(34)と、当該圧胴(34)に母線接触する版胴(35)で構成され、当該版胴35に所望の情報を点字によってあらわした点字原版(36)が取り替え可能に取り付けられることが開示されている。
【0004】
上記特許文献1には記載されていないが、エンボスを形成するためには、点字原版(36)が取り付けられた版胴(35)に母線接触する圧胴(34)には、当該点字原版(36)の突起に対応した凹部が形成されていなければならず、また、版胴(35)と圧胴(34)が母線接触状態で回転され、上記突起と凹部とを嵌合させなければならないことからすれば、これらは同径のロールで形成されていなければならない。
【0005】
ここで、図4に、従来のエンボス加工の説明図を示す。図4(A)〜(C)は、上記特許文献1の点字用エンボス加工ユニット(33)を概念的に示したもので、図4(A)、(B)に示すように、版胴101に取り付けられた突起103を有する点字凸原版102が回転し、同径の圧胴104に取り付けられた凹部106を有する点字凹原版105が上記点字凸原版102と母線接触して同期回転することで、突起103と凹部106とが嵌合する。すなわち、版胴101と圧胴104との母線接触間に加工対象の用紙107が搬送され、上記突起103と凹部106とが嵌合したときに、図4(C)に示すように、当該用紙107には点字108が形成されるものである。
【0006】
ところで、上記のようなエンボス形成を連続用紙に対して連続的に加工処理していくと、上記突起103と凹部106との接触(用紙が介在)で当該突起103や凹部106が削れ、図4(C)に示す山部から裾部までの傾斜が緩やか(Lが長くなる)になっていき、用紙重ね等による山部からの押圧力によって当該山部がつぶれやすくなってくるという問題を生じる。
【0007】
一方、以下の特許文献2に記載のプロッタ装置が知られている。この特許文献2に記載されているプロッタ装置は、プラテン(21)をゴム等の弾性部材によりペン(20)の押圧によって適度に凹む硬度と厚さで形成し、ペン(20)を、プラテン(21)を下敷きにした用紙Pに対して適度に押圧させながら小さな円を描くことによって点を適度な凹みを持って形成させるというものである。このようなプロッタ装置は、つぶれにくい点字を形成することが可能であるが、連続して大量に加工処理するには不向きである。
【0008】
【特許文献1】特許第3497386号公報
【特許文献2】特開平8−244398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、加工対象に対して連続して大量に点字用エンボスを形成させるために、特許文献2のプラテンを特許文献1の圧胴に適用した場合、当該プラテンを形成する弾性部材が堅すぎるとエンボスが形成され難く、柔らかくしていくとエンボス形成後の窪みが復帰し難くなる。すなわち、窪みが復帰されないままで次の突起に対して嵌合状態となり、連続処理で次第に窪みが大きくなり、結局、上記同様に、山部から裾部までの傾斜が緩やかになっていき、用紙重ね等による山部からの押圧力によって当該山部がつぶれ易くなってくるという問題が解消されない。
【0010】
そこで、本発明は上記課題に鑑みなされたもので、つぶれ難い点字を連続して大量にエンボス加工可能として加工品質の向上、生産効率の向上を図る点字用エンボス加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1の発明では、連続的に搬送されてくる被加工体に対し、所望情報を点字で表すエンボスを加工する点字用エンボス加工装置であって、ロール表面に前記点字情報に対応した所定数の突部が形成されて回転駆動手段により回転される版胴部と、前記被加工体を介在させて前記版胴部と対向配置されて回転するものであり、ロール表面に所定硬度の弾性部材が設けられると共に、当該弾性部材の表面までの径が当該版胴部のロール表面までの径と異なる圧胴部と、を有する構成とする。
【0012】
請求項2の発明では、前記被加工体に印刷を行う印刷システムに備えられ、印刷を行う印刷ユニットに対する当該被加工体の搬送経路上に前記版胴部および圧胴部が配置される構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロール表面に点字情報に対応した突部が形成された版胴部に対して被加工体を介在させて対向する圧胴部が配されて当該版胴部と共に回転されるもので、当該圧胴部のロール表面に所定硬度の弾性部材が設けられ、弾性部材の表面までの径を当該版胴部のロール表面までの径と異ならせることにより、版胴部の突部を常に圧胴部の弾性部材上の異なる部分に当接させることとなり、つぶれ難い点字を連続して大量にエンボス加工させることができ、ひいては加工品質の向上、生産効率の向上を図ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施形態を図により説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る点字用エンボス加工装置を印刷システムに備えさせた場合を示すが、レーザ加工装置等に備えさせてもよく、また、単独の装置として所定処理(印刷やレーザ加工等の処理)の前後の連続用紙に対して別行程でエンボス加工を行わせることとしてもよい。
【0015】
図1に、本発明の点字用エンボス加工装置を備える印刷システムの一実施形態の構成図を示す。図1(A)は印刷システムの概念構成図、図1(B)はエンボス加工の主要構成部分の斜視説明図である。図1(A)において、印刷システム11は、用紙供給手段12と用紙巻取手段13との間で被加工体である連続用紙14が搬送されるもので、搬送経路上に印刷ユニット15が配置され、その搬送後段に点字用エンボス加工装置16が配置される。印刷ユニット15としては、例えばインクジェットヘッドが備えられたものがある。
【0016】
上記連続用紙14としては、例えば、上質紙(厚み0.12mm)、コート紙(厚み0.08mm、0.1mm)、コート紙にUV(紫外線硬化型)ニスをコーティングしたもの(厚み0.1mm)等が、点字の形成品質(後述する)に応じて選択される。
【0017】
上記点字用エンボス加工装置16は、版胴部21および圧胴部22が、搬送される上記連続用紙14を介在されて対向状態で配置される。そして、回転駆動手段23が、上記版胴部21および圧胴部22の周速を同期させて回転駆動すると共に、適宜用紙巻取手段13(用紙供給手段12、または両方でもよい)を回転駆動する。この場合、上記版胴部21および圧胴部22は、後述のように径が異なることから、周速を同期させるためには回転数が相違するため、例えば圧胴部22の回転軸上に差動機構等が使用される。なお、上記版胴部21および圧胴部22を含む機構は、輪転印刷機の構成要素を応用して使用することができることから、設備費を安価とすることができるものである。
【0018】
上記版胴部21は、図1(B)に示すように、版胴ローラ31の表面に点字用原版32が設けられ、当該点字用原版32上の所定位置に、所定数(ここでは2組)の突部33が形成される。これら突部33は、形成する点字情報に応じた配置のもので、連続用紙14に対する形成間隔に応じた回転表面上の間隔で配置される。また、これら突部33の高さ(刃型高さ)は、例えば0.51mm〜0.56mmで、連続用紙14の厚みや後述の弾性部材(35)の素材、厚みに応じて選択される。
【0019】
上記点字用原版32を設ける手段としては、例えば、版胴ローラ31をマグネット部材で形成させ、点字用原版32を磁着する金属部材で形成させることで磁着により交換自在に取り付けるものである。この場合、版胴部21の中心(版胴ローラ31の中心)より点字用原版32のロール表面(突部33の形成基部の表面)までの半径を例えばRとする。
【0020】
一方、上記圧胴部22は、圧胴ローラ34のロール表面に所定硬度の弾性部材35が設けられたもので、連続用紙14を介在させて版胴部21と対向して回転されるものである。上記圧胴ローラ34は、金属であるとプラスチックであるとを問わない。また、弾性部材35にはゴム系や樹脂系の部材ものが採用され、圧胴ローラ34に接着剤や固定ネジ、挟着機構等により交換自在に取り付けられる。弾性部材35の硬度は、図2で説明するが、版胴部21の突部33による押圧に対して窪み、押圧解除で窪みが速やかに復帰する程度が好ましい。そして、圧胴部22の中心から弾性部材35の表面までの半径を例えばr(R>r)とする。
【0021】
ここで、図2に、本発明の点字用エンボス加工装置における圧胴に使用される弾性部材の説明図を示す。図2(A)、(B)は、上記弾性部材35の採用にあたって、種々の部材、厚さ、用紙種類等について、硬度(ショア値)に応じた点字形成品質の結果を示したものである。硬度測定は、JIS K6253によったもので、タイプAデュロメータでの硬度値をショアA、タイプDデュロメータでの硬度値をショアDで示してある。この場合、タイプAデュロメータ硬さの測定範囲が10〜90とされ、90を超えるときにタイプDデュロメータで測定される。なお、点字形成品質の結果は、用紙重ね等によるつぶれ難い点字とされる適用範囲を「○」とし、より好ましい場合として「◎」で示してある。
【0022】
すなわち、図2(A)、(B)に示すように、ショアA50〜55のシリコーンゴム(厚さ0.2mm)を使用して上質紙(厚さ0.12mm)、コート紙(厚さ0.08mm)に対して点字を形成した場合には、用紙重ね等によってつぶれ易いという結果「×」が得られ、ショアA55〜65のPET(厚さ0.31mm)が上質紙(厚さ0.12mm)、コート紙(厚さ0.08mm,0.1mm)に対して、上記適用範囲「○」という結果が得られた。
【0023】
また、ショアA67〜69のポリエチレン(厚さ0.39mm)が、上質紙(厚さ0.12mm)、コート紙(厚さ0.08mm,0.1mm)、UVニスをコーティングしたコート紙(厚さ0.1mm)に対し、および、ショアD45〜55のフッ素系樹脂(厚さ0.33mm)が、上質紙(厚さ0.12mm)、コート紙(厚さ0.08mm,0.1mm)に対して上記適用範囲「○」という結果が得られた。さらに、ショアA70〜90のウレタンゴム(厚さ0.2mm〜0.3mm)が、コート紙(厚さ0.1mm)に対してより好ましい結果「◎」が得られた。なお、ショアD55〜80のポリアミド系樹脂(厚さ0.53mm)では、上質紙(厚さ0.12mm)、コート紙(厚さ0.08mm)に対して用紙重ね等によってつぶれ易いという結果「×」が得られた。
【0024】
上記測定の結果としては、ショアA55〜90およびショアD45〜55の上記個別部材を含む対応の弾性部材が点字形成品質において適用範囲であり、そのうちショアA70〜90の上記個別部材を含む対応の弾性部材が点字形成品質においてより好ましいものである。
【0025】
そこで、図3に、本発明に係る点字用エンボス加工装置の加工状態の説明図を示す。まず、図3(A)において、版胴部21と圧胴部22との間で介在する連続用紙14に対して、版胴部21の点字用原版32の突部33が当接しない部分では当該連続用紙14および弾性部材35が窪んだりせずに搬送される。そして、図3(B)に示すように、突部33が連続用紙14に当接すると、連続用紙14および弾性部材35を押圧して窪ませ、当該連続用紙14上にエンボス(点字)を形成させる。
【0026】
そして、図1(B)に示すように、版胴部21が回転して次の突部33で同様に連続用紙14および弾性部材35を押圧して窪ませ、当該連続用紙14にエンボス(点字)を形成させる。これらが連続して搬送される連続用紙14に対して順次行われる。この場合、圧胴部22の中心から弾性部材35までの径rが、版胴部21の中心から点字用原版32の表面までの径Rより小のため、これらの周速が同期されていても回転数が異なり、突部33は弾性部材35に対して同一部分を押圧しないこととなる。
【0027】
換言すれば、版胴部21の突部33は1回転毎に、常に弾性部材35の異なる部分、すなわち前の押圧による窪みが完全に復帰した部分を押圧することとなる。このことは、仮に、弾性部材35の上記ショア値の範囲で窪みの復帰が遅れたとしても、少なくとも次の1回転では窪みの生じていない部分を押圧することとなるものである。したがって、連続してエンボス加工を行っても、前述の図4(C)に示す山部から裾部までの傾斜が緩やかとならずに、常に鋭角的なエンボスを形成させることがで、ひいては加工品質を向上させることができると共に、生産効率を向上させることができるものである。
【0028】
ところで、上記実施形態では、圧胴部22の中心から弾性部材35までの径rを、版胴部21の中心から点字用原版32の表面までの径Rより小とした場合を示したが、逆に、大(r>R)としてもよい。この場合、版胴部21の回転による突部33が、圧胴部22の弾性部材35の同一部分を押圧する確率が飛躍的に減少し、仮に、当該弾性部材35の復帰速度が遅い部材であっても適用可能となるものである。
【0029】
また、上記実施形態では、被加工体として連続用紙14を示したが、枚葉の用紙を連続的に供給搬送させる場合であっても同様であり、この場合には点字用原版32上の突部33の形成配置を枚葉用紙の供給間隔に対応して形成させればよい。また、被加工体として用紙に限らず、連続状の、または枚葉のフィルム等であっても適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の点字用エンボス加工装置は、書籍や封緘体等に点字を連続的に形成する場合に適する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の点字用エンボス加工装置を備える印刷システムの一実施形態の構成図である。
【図2】本発明の点字用エンボス加工装置における圧胴に使用される弾性部材の説明図である。
【図3】本発明に係る点字用エンボス加工装置の加工状態の説明図である。
【図4】従来のエンボス加工の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
11 印刷システム
14 連続用紙
16 点字用エンボス加工装置
21 版胴
22 圧胴
23 回転駆動手段
31 版胴ローラ
32 点字用原版
33 点字突起
34 圧胴ローラ
35 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送されてくる被加工体に対し、所望情報を点字で表すエンボスを加工する点字用エンボス加工装置であって、
ロール表面に前記点字情報に対応した所定数の突部が形成されて回転駆動手段により回転される版胴部と、
前記被加工体を介在させて前記版胴部と対向配置されて回転するものであり、ロール表面に所定硬度の弾性部材が設けられると共に、当該弾性部材の表面までの径が当該版胴部のロール表面までの径と異なる圧胴部と、
を有することを特徴とする点字用エンボス加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の点字用エンボス加工装置であって、前記被加工体に印刷を行う印刷システムに備えられ、印刷を行う印刷ユニットに対する当該被加工体の搬送経路上に前記版胴部および圧胴部が配置されることを特徴とする点字用エンボス加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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