説明

点字触読補助用の織物および点字触読補助具

【課題】点字の触読時に点字文字の識別性を向上させる機能を有し、かつ、嵌め易く、使用時に指から外れることもなく、保管中の紛失の恐れも少なく使い勝手の良い、点字触読補助用の織物及び点字触読補助具を提供する。
【解決手段】単繊維繊度が0.01〜1.5dtexの繊維を使用してなる織物であって、KES法による布帛の曲げ剛性(B)のたて方向とよこ方向の平均値が0.1(gf・cm/cm)以下で、KES法による布帛表面の平均摩擦係数(MIU)のたて方向とよこ方向の平均値が0.3以下で、かつ、摩擦係数の平均偏差(MMD)のたて方向とよこ方向の平均値が0.02以下であることを特徴とする点字触読補助用の織物、ならびに、それを手袋に加工した点字触読補助具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点字文字の触読を補助する機能を有する点字触読補助用の織物および点字触読補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
点字印刷物の製造方法として、古くから、人手によって点字を構成する各点を一つずつ紙の裏面から逆字として押出して行く方法が実施されてきた。近年になって、より効率的に点字印刷物を製造する方法として、発泡性インクを用いてスクリーン印刷等によって点字文字を印刷した後、発泡性インクを加熱発泡して点字文字を形成させる方法や、バーコ印刷法といわれる、点字文字を印刷後インクが未乾燥の状態で熱可塑性樹脂粉末を散布し、付着しない熱可塑性樹脂粉末を除去してから、加熱により熱可塑性樹脂粉末を溶融固化して点字文字を形成させる方法等が行われるようになってきた。
【0003】
しかし、発泡性インクを用いる方法やバーコ印刷法は、いずれも加熱処理を行うことから、点字文字を印刷する材質に制限を受けるとともに、フィルムやプラスチック、金属等の通常のインクが浸透しない素材に対しては適用できないという制約もあった。
【0004】
そこで、最近になって、これらの方法に替わる印刷方法として、紫外線硬化樹脂インクを用いて点字凸部の形状に厚く印刷し、紫外線を照射して硬化する方法が用いられるようになってきた。紫外線硬化樹脂インクの場合には極めて短時間で硬化するため、フィルムやプラスチック等の素材に対しても適用することができる。また、無色透明の紫外線硬化樹脂インクを用いることで一般印刷物上の文字や絵柄を損なわずに点字文字を形成することができるので、晴眼者と視覚障害者が同じ印刷物の情報を共有することができるという利点も有している。そのため、医薬品のパッケージ、レストランのメニュー、名刺あるいは階段の手摺りや電車の号車案内等に採用され急速に普及している。
【0005】
しかしながら、紫外線硬化樹脂インクを用いた点字文字(以下、UV点字と称する。)においては、UV点字の印刷法自体は既存の印刷技術を応用するものであるため、印刷メーカーによってUV点字のサイズが異なり、識別が困難であるという問題点がある。また、点字は指を滑らせながら読むことから、指の滑りの悪い素材に印刷された場合には読み取り難いという問題点もある。
【0006】
こうしたUV点字における問題点を解決する方法として、本発明者らは、UV点字の識別容易性に及ぼす点字パターンや印刷素材の影響について検討するとともに(例えば、非特許文献1および2参照)、UV点字の触読性を向上させるための補助具としてのナイロン布製あるいはポリエステル不織布製の指サックを提案してきた(例えば、非特許文献3〜5参照)。
【0007】
また、特許文献1には、平均繊維径が0.01〜10μmの繊維からなり、厚みが10〜50μmで、平均緻密度が30〜90%、表面の動摩擦係数が0.25以下である点字触読補助用の微細繊維集合体ならびに当該微細繊維集合体から作成した指サックが開示されている。具体的には、その実施例に、エレクトロスピニング法で得られた平均繊維径185nmのナイロンからなるウェブをカレンダーロールで熱接着した不織布を、人差し指に被せて点字を触読する事例が示されている。
【0008】
ところが、指サック形状の点字触読補助具の場合には、視覚障害者が恒常的に使用しようとする場合に、使用中に指から抜け落ちる、あるいは急いで指に嵌めようとした際に嵌め難いといった問題点や、小さすぎて紛失しやすいといった問題点のあることが判ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−013523号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】土井幸輝著、「紫外線硬化樹脂インクによる点字の識別容易性の向上」、早稲田大学、博士(人間科学)学位論文、pp.1-113、2007
【非特許文献2】土井幸輝、藤本浩志、「紫外線硬化樹脂インクによる点字の識別容易性の向上」、バイオメカニズム、Vol.19、pp.221-232、2008
【非特許文献3】土井幸輝、小田原利江、林恵美子、藤本浩志、「ナイロン布を用いたUV点字の識別容易性に関する研究」、人間工学、Vol.41、No.5、pp.282-288、2005
【非特許文献4】土井幸輝、篠原聡子、藤本浩志、「不織布を用いたUV点字の触読性に関する研究」、第30回感覚代行シンポジウム発表論文集、Vol.30、pp.19-21、2004
【非特許文献5】土井幸輝、「紫外線硬化インクを用いたスクリーン印刷方式による点字の触読補助具」、加工技術、株式会社繊維社、pp.52-57、2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、点字の触読時に点字文字の識別性を向上させる機能を有し、かつ、嵌め易く、使用時に指から外れることもなく、保管中の紛失の恐れも少なく使い勝手の良い、点字触読補助用の織物および点字触読補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等の研究によれば、点字の触読は、点字の凹凸を指先で感知することで行われるので、点字の凹凸をより正確に感知できれば点字文字の触読速度は向上し、読み誤る頻度も低下すること、点字の凹凸を感知する際の精度は、点字の凹凸形状への追随性を高めることにより向上するので、指先部分を織物や不織布で覆うことで点字の凹凸形状への追随性を高められることが判っている。
【0013】
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、KES法による曲げ剛性(B)が小さく、しかも、表面の平均摩擦係数の値が小さく、その平均偏差が小さい織物は、ざらざらして手指に引っ掛かることがなく、滑らかな感触が得られるため、点字触読補助具として好適に使用し得ること、また、少なくとも点字を識別する指先部分を上記の織物で形成し、全体としては手袋の形状とすることで、点字文字の識別機能と優れた使い勝手を発揮する点字触読補助具となることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、単繊維繊度が0.01〜1.5dtexの繊維を使用してなる織物であって、KES法による布帛の曲げ剛性(B)のたて方向とよこ方向の平均値が0.1(gf・cm/cm)以下で、KES法による布帛表面の平均摩擦係数(MIU)のたて方向とよこ方向の平均値が0.3以下で、かつ、摩擦係数の平均偏差(MMD)のたて方向とよこ方向の平均値が0.02以下であることを特徴とする点字触読補助用の織物を提供する。また、本発明は、少なくとも点字の凹凸と接触する指先部分に、上記の点字触読補助用の織物が配置されていることを特徴とする点字触読補助用手袋を提供する。上記の点字触読補助用手袋は、手および/または指の甲側に伸張回復繊維が一部に使用された織物または編物が用いられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、点字触読時の高い識別性、すなわち触読速度の向上と誤読頻度の低下が図れ、装着が簡単で、装着後は外れ難く、バッグやポケット等の保管場所からの取り出しも容易で紛失の恐れも少ない、点字触読補助具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】曲げ剛性値の測定における曲げモーメントと曲率との関係を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の点字触読補助用の織物は、KES法による曲げ剛性(B)のたて方向とよこ方向の平均値が0.1(gf・cm/cm)以下であり、好ましくは0.05(gf・cm/cm)以下である。本発明でいうたて方向とは布帛の長さ方向であり、よこ方向とは布帛の幅方向である(以下、同様)。0.1以下とすることにより、かたさやごわごわ感がなく、点字のドット形状への追随性が良好となり、解読速度(1分当たりの解読文字数)を高めることができる。
【0018】
KES法による曲げ剛性(B)は、布帛1cm幅当たりの曲げ剛性であり、KES−FB2試験機を用い、20℃×65%RHの環境下で測定する。測定用の布帛を、布帛の曲げ曲率Mが0〜+2.5〜0〜−2.5〜0となるように動かし、図1に示すような曲げモーメントM(gf・cm/cm)と曲率K(cm−1)との関係を示す曲線を得、この曲線の傾斜から求めることができる。測定は、K=0.5と1.5の間、K=−0.5と−1.5の間の2ヶ所で測定し、それぞれ表曲げ(表面が外側となるような曲げ)と裏曲げ(裏面が外側となるような曲げ)の勾配の平均値とする。
また、曲線の変形過程と回復過程の曲げモーメントの差からヒステリシス(2HB)を求めることができる。ヒステリシス(2HB)は0.02以下が好ましい。
【0019】
本発明の点字触読補助用の織物は、KES法による布帛表面の平均摩擦係数(MIU)のたて方向とよこ方向の平均値が0.3以下であり、好ましくは0.1〜0.3である。0.3以下とすることにより、ざらざら感がなく、良好な滑り性を得ることができるため、点字を解読し易くなるとともに、点字触読補助具(手袋)の着脱性が良好になる。また、0.1以上とすることで、適度な抵抗により、点字触読補助具への加工が容易で、着用感の良いものとなる。
【0020】
KES法による布帛表面の平均摩擦係数(MIU)は、KES−FB4試験機を用い、20℃×65%RHの環境下で測定する。20gf/cmの張力をかけた布帛に、0.5mmφのピアノ線を10本並べ5×5mmに面上に巻いた接触子を50gfの力で接触面を布帛に圧着させ、0.1cm/secの一定の速度で水平に2cm移動させた時の接触子にかかる摩擦抵抗力を測定し、摩擦抵抗力と試料の移動距離との関係より得られる平均摩擦抵抗力を、接触子の重量で割り算して求めることができる。摩擦係数の平均偏差がMMDである。
【0021】
本発明の点字触読用の織物は、KES法による布帛の摩擦係数の平均偏差(MMD)は0.02以下であり、好ましくは0.015以下である。0.02以下であれば、MIUが実質的に一定であるため、より良好な滑り性を得ることができ、点字の解読速度をより高めることができる。
【0022】
本発明の点字触読補助用の織物は、KES法による布帛表面粗さの平均偏差(SMD)の値(μm)に限定はないが、SMDが大きいと布帛表面の凹凸が大きくなり、点字触読の際の触感に影響を及ぼし、誤読率の増加や触読速度の低下を招く恐れがあるため、4.0(μm)以下が好ましい。KES法による布帛表面粗さの平均偏差(SMD)は、KES−FB4試験機を用い20℃×65%RHの環境下で測定する。20gf/cmの張力をかけた布帛に、0.5mmφのピアノ線を5mm幅に1本折り曲げた接触子を10gfで試料に圧着する。この接触子はバネで圧着されるが、バネの定数は25gfとする。圧着させた接触子を0.1cm/secの一定の速度で水平に2cm移動させた時の布帛表面粗さの平均偏差である。
【0023】
織物を構成する繊維としては、絹繊維などの天然繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリエステル繊維、ナイロンとポリエステルの複合繊維などの合成繊維を挙げることができ、該複合繊維におけるナイロンとポリエステルの割合は任意であって良い。また、2種以上の繊維の混織物でも良い。
【0024】
絹繊維を使用した織物は、肌触りや点字の触感に優れており、吸湿性や吸水後の乾燥も速いため、長時間の使用にも耐えることができる。合成繊維を使用した織物は、縫製あるいは熱プレスにより手袋に加工できるため、汎用性があり、また、上記の合成繊維は動摩擦係数が小さく、引張強度が高いため、破れにくく丈夫な織物となる。
【0025】
本発明の点字触読補助用の織物では、繊維として、単繊維繊度が、0.01〜1.5dtexの繊維を使用することが好ましい。単繊維繊度が0.01dtex以上であると、摩擦による毛羽発生などが生じ難くなるため、点字の触読に影響を及ぼす恐れが少なくなり、また、1.5dtex以下であると、滑らかな布帛表面を得ることができる。合成繊維の場合、より好ましい単繊維繊度は0.05〜0.7dtexである。
【0026】
上記の繊維を、たて糸もしくはよこ糸として用いる際の総繊度は、10〜50dtexであることが好ましく、総繊度を10dtex以上とすることで、手袋にした場合でも実用に供し得る引裂強力を得ることができる。また、総繊度を50dtex以下とすることで、触感に影響を及ぼすことがない。
【0027】
本発明で用いる織物は、天然繊維あるいは極細繊維からなる織物を製造する公知の方法で製造することができる。天然繊維の場合、例えば、絹繊維を用いて織物を作製した後、これを湯洗いすることで、絹繊維から湯溶成分(セリシンなど)を除去した後、風合いを改善した織物とする方法で作製することができる。合成繊維の場合、例えば、海島型繊維あるいは分割型繊維を用いて織物を作製した後、前者の場合には海成分を薬剤により溶解除去することで、また、後者の場合には薬剤もしくは物理的処理により2成分を剥離させることで、極細化された繊維から構成される織物とする方法で作製することができる。
【0028】
織物の織成(織り方)としては、例えば、平織、綾織、からみ織、朱子織、三軸織、横縞織、斜文織などが挙げられ、特に限定されるものではないが、中でも、織物の動摩擦係数が小さくなる点より、朱子織および平織が好ましい。
【0029】
また、織物のたて糸およびよこ糸を形成する繊維の種類は同一であっても異なっていても良い。例えば、たて糸、よこ糸ともにナイロン繊維を用いても良いし、たて糸、よこ糸ともにポリエステル繊維を用いても良い。あるいは、たて糸をナイロン繊維、よこ糸をポリエステル繊維、逆にたて糸をポリエステル繊維、よこ糸をナイロン繊維とすることもできる。さらには、たて糸をナイロン繊維とポリエステル繊維の複合糸、よこ糸をポリエステル繊維またはナイロン繊維としても良い。
【0030】
本発明に用いる繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、扁平断面その他公知の異形断面であっても良いが、触感などの点より、三角断面の異形断面繊維が好ましく用いられる。
【0031】
本発明において、点字触読補助具は、少なくとも点字の凹凸と接触する指先部分に、上記の特性を有する織物を用いれば、点字の凹凸を接触しない指先部分、あるいは、指先以外の指の部分や掌あるいは手の甲の部分に他の布帛が用いられていても、点字の凹凸形状への追随性、ひいては指先が凹凸を感知する精度には影響しない。そのため、点字触読補助具は、少なくとも点字の凹凸と接触する指先部分に、本発明の点字触読補助用の織物が配置されているものであれば良い。ここで、「指先部分」とは、手の各指の第一関節より先の部分を言う。
このような点字触読補助具としては、本発明の織物をハンカチーフ程度の大きさにカットし、必要に応じて端部を加工したものや、本発明の織物を指サック、手袋に加工したものなどを挙げることができる。中でも、手袋の形状とすることで、装着しやすく、装着後は外れ難く、保管時の紛失もなく、使用上の利便性を高めることができる。
【0032】
本発明の点字触読補助具としての手袋は、少なくとも指先部分に上記特性を有する織物が配置されていれば良く、その形状は特に限定されない。例えば、点字の凹凸に触れる指先の掌側のみに上記特性を有する織物を配置しても良いし、指先部分の全周に上記特性を有する織物を配置しても良い。また、指先部分だけでなく指全体に上記特性を有する織物を配置しても良いし、あるいは、掌側全面に上記特性を有する織物を配置しても良い。
【0033】
また、手袋において、上記特性を有する織物以外の部分を形成する材料は、特に限定されず、不織布、織物、編物等の布帛を用いることができる。廉価でかつ使い捨て可能な手袋を得る点から言えば、不織布が好ましい。特に、熱可塑性繊維からなる不織布は熱成形し易いことから、好ましく用いられる。また、不織布を用いることで、手袋自体を軽量かつ簡便なものとすることができるので持ち運びが容易であり、利便性がさらに向上する。
【0034】
ただし、触読用布帛を用いても、たるんだ状態やシワが入った状態では誤読しやすく、引っ掛かって速く読めなくなるのを防ぐために、布帛が指に接するとともに、布帛部分に張力が掛かっている状態が好ましい。そのため、手の甲側に使用する布帛が、手および/または指の甲側(掌側の反対面)に、ゴムまたはスパンデックスなどの伸張回復性の高い繊維を一部に用いた繊維からなる織物または編物である手袋が最も好ましい。
また、手袋の形状としてミトン型(親指を除く4本の指を覆うタイプの手袋)とし、手袋装着後、手の甲部分にスポンジを挿入することにより、点字に接触する織物に張力を与える方法でもよい。
【0035】
本発明の点字触読補助用手袋は、例えば、少なくとも指先部分を形成する上記特性を有する織物と、該織物で形成される部分以外を不織布で形成した手袋の一部を重ね合せて、熱融着もしくは縫合することにより、簡単に製造することができる。
例えば、上記特性を有する織物を掌の形に裁断し、これに同じく掌の形に裁断した不織布を重ね合せて熱融着もしくは縫合することにより、片側全面が上記特性を有する織物からなる手袋を製造することができる。
あるいは、上記特性を有する織物を指先形状に裁断し、これを指先部分のない掌の形状に裁断した不織布の該当する指先部分に配置して熱融着し、指先部分が上記特性を有する織物となった掌の形の不織布を作製した後、掌の形に裁断した不織布を重ね合せて熱融着もしくは縫合することにより、指先部分にのみ本発明の点字触読補助用の織物を配置した手袋を製造することができる。
あるいは、本発明の点字触読補助用の織物を指先形状に裁断し、これを指先部分のない掌の形状に裁断した不織布の該当する指先部分に配置して熱融着し、指先部分が織物となった掌の形状の不織布を作成した後、この不織布を2枚重ね合せて熱融着もしくは縫合することにより、指先部分の全周に渡って、本発明の点字触読補助用の織物が配置された手袋を製造することができる。
【0036】
また、例えば、上記特性を有する織物を掌の形に裁断した手袋片側、あるいは、上記特性を有する織物を指先形状に裁断したものを指先部分のない掌の形状に裁断した不織布の該当する指先部分に配置して熱融着し、指先部分が織物となった掌の形の手袋片側と、手および/または指の甲側(掌側の反対面)にゴムまたはスパンデックスなどの伸張回復性の高い繊維を一部に用いた繊維からなる織物または編物とを重ね合わせ、熱融着もしくは縫合することにより、指先部分にのみ本発明の点字触読補助用の織物を配置した手袋を製造することができる。ただし、上記の手袋製造例は一例であり、これ以外の方法で製造することもできる。
【0037】
また、指先部分にのみ本発明の点字触読補助用の織物を配置した手袋の場合、全ての指先に該織物を配置する必要はない。例えば、点字文字の触読に通常使用される人差し指、中指、薬指の3本の指に該織物を配置した形状としても良く、点字文字の触読に最も一般的に使用される人差し指にのみ該織物を配置した形状としても良い。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
下記の試験法Aまたは試験法Bにより、点字触読補助用の織物としての適性評価を実施した。
【0040】
[点字触読試験−試験法A]
点字文として、点字の高さが0.15mmで、点間隔、マス間隔、行間隔はJIS T9253「紫外線硬化樹脂インキ点字品質及び試験方法」(2004.6.20制定)に準拠した点字の無意味綴り文を使用した。評価は、日本点字図書館にて点字講習を受講した中途視覚障害者7名(平均年齢59歳)の協力を得て実施し、被験者が1分間で触読した文字数と読み間違えた文字数をカウントし、触読速度(文字/分)および誤読率(%)の平均値を求めた。
【0041】
[点字触読試験−試験法B]
点字文として、点字の高さが0.15mmで、点間隔、マス間隔、行間隔はJIS T9253に準拠した点字の無意味綴り文を使用した。評価は、日本点字図書館にて点字講習を受講した中途視覚障害者7名の協力を得て実施し、被験者の触感による評価を実施した。
【0042】
[曲げ剛性(B)]
カトーテック(株)製のKES−FB2を用いて測定した。試料サイズ20cm×20cm、曲げ変形速度0.5cm/sec、感度(SENE2×1)を使用した。布帛のたて、よこ方向を測定し平均値を求めた。
【0043】
[平均摩擦係数(MIU)]
カトーテック(株)製のKES−FB4を用いて測定した。糸目を通した20cm×20cmの試料を平滑な金属表面上におき、20gf/cmの一軸張力をかけて、0.5mmのピアノ線を移動軸方向に垂直に10本並べた摩擦面寸法が5mm×5mmの接触子を50gfの荷重で試料に圧着し、試料を0.1cm/secの速度で水平に2cm移動させたときの摩擦抵抗力から平均摩擦係数(MIU)を求めた。MIUは次式により求められる。上記方法で、布帛のたて、よこ方向を測定し平均値を求めた。
【0044】
【数1】

【0045】
μ:摩擦力/試料を圧する力(50gf)
x:試料表面上の位置
X:移動距離(2cm)
【0046】
[摩擦係数の平均偏差(MMD)]
上記の方法で測定した摩擦係数の平均偏差を求めた。
【0047】
[表面粗さの平均偏差(SMD)]
カトーテック(株)製のKES−FB4を用いて測定した。糸目を通した20cm×20cmの試料を平滑な金属表面上におき、20gf/cmの一軸張力をかけて、0.5mmのピアノ線を5mm幅に1本折り曲げた接触子に10gfで試料に圧着し、試料を0.1cm/secの一定速度で水平に移動させたときの表面粗さの平均偏差を求めた。上記方法で、布帛のたて、よこ方向を測定し平均値を求めた。
【0048】
(参考例)
目付が12g/mのポリエステル不織布を、比較標準として準備した。
この不織布を人差し指に配置して作製した手袋は、試験法Aによる評価で触読速度47(文字/分)、誤読率1%であった。手袋不着用時は、触読速度30(文字/分)、誤読率9%であった。不織布の使用の有無により、明らかな有意差が認められた。
【0049】
(実施例1)
たて糸が、異形断面ポリエステルと異形断面ナイロンとの極細複合繊維(ポリエステル/ナイロン=83/17)からなり、よこ糸が、海島型ポリエステル超極細繊維からなる、目付が57g/mの朱子織物を準備した。この織物は、たて糸密度233(本/インチ)、よこ糸密度145(本/インチ)、たて糸繊度34(dtex)、よこ糸繊度29(dtex)であった。極細複合繊維の割線後の単繊維繊度は、ナイロンが0.6(dtex)、ポリエステルが0.16(dtex)であり、海島型ポリエステル超極細繊維の単繊維繊度は0.05(dtex)であった。
【0050】
(比較例1)
たて糸およびよこ糸が、海島型ポリエステル超極細繊維からなる、目付が60g/mの斜文織物を準備した。この織物は、たて糸密度275(本/インチ)、よこ糸密度152(本/インチ)、たて糸繊度30(dtex)、よこ糸繊度32(dtex)であった。脱海後の単繊維繊度は0.05(dtex)であった。
【0051】
(比較例2)
単繊維繊度が約1.4(dtex)の絹繊維からなる目付が16g/mの平織り絹織物を準備した。この織物は、たて糸密度126(本/インチ)、よこ糸密度88(本/インチ)、たて糸繊度15(dtex)、よこ糸繊度16(dtex)であった。
【0052】
(実施例2)
比較例2で準備した絹織物を、柔軟剤を入れた90〜95℃の湯の中に、約10分間浸した後、湯から取出し、約120℃の蒸気で湯のしを行い縮みやシワ等を伸ばし、巾を揃えることにより、目付が16g/mの絹織物を準備した。
【0053】
参考例、実施例1〜2および比較例1〜2で準備した織物について、KES−FB2試験機法による曲げ特性、KES−FB4試験機による織物表面特性、ならびに、点字触読補助用の織物としての適性を評価した結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果より、曲げ剛性(B)が0.1(g.cm/cm)以下で、かつ、表面摩擦係数(MIU)が0.3以下で、かつ、表面摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.02以下の織物は、点字触読補助用の織物としての適性評価で、良好な結果を得ている。従来の不織布に比べて、粗い感触がないため、触感評価が良好である。
【0056】
一方、表面摩擦係数(MIU)が0.3を超える場合(比較例1)、表面摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.02を超える場合(比較例2)は、いずれも、本実施例の織物に比較して評価が劣っている。
【0057】
(実施例3)
実施例1で準備した織物を25mm×35mmの大きさに裁断した。
ポリエステル長繊維からなる不織布を2枚重ねて掌の形に裁断した後、一方の不織布の人指し指部分を先端から30mmの箇所で切断して取り除いた後、先に裁断した織物を切断部に設置し(重ね合せ部は5mmとなる)、ヒートシーラーにより加熱接着した。次いで、この人差し指の先端部に織物を接着した掌の形状の不織布に、もう1枚の掌の形に裁断した不織布を重ね合せ、同様にヒートシーラーにて加熱接着することで、手袋を作製した。この手袋について試験法Bで評価したところ、装着性が良く、触感評価は◎であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の点字触読補助用の織物、ならびに、それが少なくとも指先部分に配置されている手袋は、それを用いることにより、点字の触読速度の向上と誤読率の低下が図れ、さらに、使用時の装着が簡単で装着後は外れ難く、また保管時に紛失する恐れも少ないことから、視覚障害者の社会活動への参画を支援する補助具として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.01〜1.5dtexの繊維を使用してなる織物であって、KES法による布帛の曲げ剛性(B)のたて方向とよこ方向の平均値が0.1(gf・cm/cm)以下で、KES法による布帛表面の平均摩擦係数(MIU)のたて方向とよこ方向の平均値が0.3以下で、かつ、摩擦係数の平均偏差(MMD)のたて方向とよこ方向の平均値が0.02以下であることを特徴とする点字触読補助用の織物。
【請求項2】
少なくとも点字の凹凸と接触する指先部分に、請求項1記載の点字触読補助用の織物が配置されていることを特徴とする点字触読補助用手袋。
【請求項3】
手および/または指の甲側に伸張回復繊維が一部に使用された織物または編物が用いられていることを特徴とする請求項2記載の点字触読補助用手袋。





【図1】
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【公開番号】特開2012−17536(P2012−17536A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155017(P2010−155017)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(710001018)独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 (3)
【出願人】(509325260)株式会社KOSUGE (7)
【Fターム(参考)】