説明

無冷媒冷凍機及び機能性熱結合体

【課題】本発明は、極低温に短時間で簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスの容易な無冷媒冷凍機と、機能性熱結合体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の無冷媒冷凍機と機能性熱結合体は、40Kプレート13と4Kプレート14の間には、絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有するグラファイトで作った柱状の第1グラファイト棒41が配設され、4Kに温度降下させるとき、第1グラファイト棒41が第1の温度平衡点に到達するまでは40Kプレート13と4Kプレート14の間を熱伝導し、該第1の温度平衡点以下になると40Kプレート13と4Kプレート14を熱的にほとんど切り離した状態にすることを主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数十mK(milli Kelvin)クラスの極低温に短時間で到達することができ、安価で、簡単な構造を有し、メンテナンスの容易な無冷媒冷凍機と、そこで使用するのに適した受動的熱スイッチ機能を有する機能性熱結合体に関する。
【背景技術】
【0002】
物性物理学や物質科学、材料工学や電気,電子工学などの分野で、物質を極低温に冷却し物理的性質を調べるために、古くから寒剤として液体ヘリウム(He)が用いられてきた。液体ヘリウムの1気圧での沸点は4.2Kであるが、真空ポンプを用いて蒸気圧を下げるだけで温度が下がり、最低到達温度1K程度が実現される。
【0003】
しかし、このような液体ヘリウムを用いたクライオスタットで物理的性質を調べる実験を行う場合、1K(Kelvin)に到達するまで寒剤の準備も含めて1週間程度の長い時間を要していた。1回の実験ごとにこうした長い時間をかけて大量の液体ヘリウムを1Kにしなければならない煩わしさがあった。この液体ヘリウムを使ったクライオスタットの問題点の1つはランニングコストが高価であることと、2つ目は取り扱いが難しいため、専門的教育を受けた者でなければ扱えないことである。そして、この液体ヘリウムは空気中に放散されると、回収不能になってしまう貴重な資源でもある。
【0004】
このため最近では、初期的な導入コストは高いがランニングコストが安く、総合的にみて低コストのギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon)冷凍機(以下、GM冷凍機)や、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機など、のいわゆるクライオクーラーを用いて極低温を実現する無冷媒(Cryogen
Free)型クライオスタットが開発されている。ここで、無冷媒とは液体ヘリウムや液体窒素などの寒剤を使用しないという意味である。このGM冷凍機の構造については本発明の詳細な説明において説明する。
【0005】
なお、このうち、パルスチューブ冷凍機は、コンプレッサー、放熱器、蓄冷器、熱交換器、パルスチュ−ブの部品で構成されており、パルスチューブとコンプレッサーとの間で冷媒を往復移動させて冷却を行う冷凍機である。また、スターリング冷凍機はディスプレーサとピストン、蓄冷器、これらを囲むシリンダ、及び高温部と低温部の熱交換器から構成され、冷媒をピストンで圧縮し、その後ディスプレーサとピストンが移動することで冷媒を膨張させて冷却し、ディスプレーサが元の位置に戻ってこのサイクルを繰返す冷凍機である。
【0006】
さて、無冷媒型クライオスタットで最低温度をもっと低下させようと思えば、クライオクーラーを熱的に直列に接続して多段にすればよい(特許文献1参照)。特許文献1のGM冷凍機は40Kの第1ステージと4Kの第2ステージを備え、2段で4K程度とし、さらにヘリウムガスを使って極低温を実現する。第1ステージの冷凍機は、単位時間当たり多量の熱を移動可能で冷却能力は高い(比較的短時間で最低温度に到達する)が、到達温度はそれほど低くなく(40K)、第2ステージの冷凍機は、冷却能力は小さい(単位時間当たりに移動できる熱量は少なく長時間かけて最低温度に到達する)が、最低温度自体はより低温(4K)にできる特性を備えている。しかし、最低温度は2.7Kが限界であり、また、この温度に到達するまでに長時間を要するものであった。
【0007】
そこで、この多段式のGM冷凍機と希釈冷凍機を組み合わせた無冷媒冷凍機が提案されている(例えば、本発明者による特願2006−188676号参照)。なお、従来通常の希釈冷凍機は、外部真空容器の中にHeが循環する希釈冷凍ユニットを収納した別の内部真空容器をもっており、この中に寒剤としての希薄なHeガスを入れ、この内部真空容器を約4Kに冷却し、この希薄なHeガスを介して希釈冷凍ユニットを冷却する。しかし、本発明者の無冷媒冷凍機はHeガスの内部容器を使わないで予冷を利用する無冷媒方式のものである。
【0008】
この希釈冷凍機(以下、希釈冷凍ユニット)の原理を説明すると、HeガスがまずGM冷凍機の第1ステージで40Kに冷却され、次に第2ステージによって4Kに冷却される。その後、更にジュールトムソン(Joule-Thomson)弁によって0.7K前後に冷却され液化される。
【0009】
このジュールトムソン弁によって液化されたHeは、チューブインチューブ型熱交換器、続いて更にステップ熱交換器で温度を低下させられ、混合器に送られる。ここで液体Heは混合器の上部に位置するHe濃厚相液となり、下部に位置するHe希薄相液にHeが拡散して溶け込むときにエントロピーが増大するため熱を吸収し、更に極低温の20mKを実現することが可能になる。
【0010】
ところで、本発明者はこの希釈冷凍ユニットを組み合わせた無冷媒冷凍機、あるいはこれを利用したクライオスタットの研究の過程で、(1)多段式の冷凍機は最低温度に到達するのに時間がかかるという問題、また、(2)希釈冷凍ユニットではHe中に混入した不純物ガスを取り除かないと固化した不純物ガスがジュールトムソン弁などで詰まりを生じるという不都合が発生する難題の上に、その不純物ガスを排出するためには運転を停止して室温まで昇温し、その後運転再開しなければならず、20mKの温度に再度低下させるのに5日程度かかるという、手間の問題に直面した。また、(3)希釈冷凍ユニットではステップ熱交換器で熱交換させるが、その熱交換効率の改善がなかなか難しい、という問題にも直面した。
【0011】
上記(1)の問題を解決するには予冷を行えばよいが、これを行う技術として、従来ガスギャップ熱スイッチが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ガスギャップ熱スイッチは、複数の金属片を狭い間隙を隔てて配置し、間隙にガスを導入してガスによる熱交換でオン状態とし、ガスを凝縮、固化させてオフ状態とするものである。使用するガスは、窒素ガスやネオンガスで、ガスの固化温度以上であればガスが熱を運ぶため熱伝導がオン状態となり、固化温度以下であればガスの凝縮で真空状態となるためオフ状態となる性質を利用するものである。
【0012】
このガスギャップ熱スイッチにより、被冷却体の温度がガスの固化温度以上の時は冷却パワーの大きい第1ステージを被冷却体に熱接触させて急速に温度を降下させ、固化温度以下になったときに第1ステージを切り離し、冷却パワーは小さい半面到達温度の低い第2ステージだけで独立して被冷却体を更に低温にするものである。
【0013】
しかし、ガスギャップ熱スイッチのガスが凝縮する際、固化したガス成分が複数の金属片の間隙を埋めるように残留し、この固化したガス成分を介して熱伝導が発生し、熱スイッチ内での熱的接続を断つことができない。この問題を避けるために、特許文献2は、熱スイッチ内部と連通するガス固化室を別個に設け、ヒータでガスの固化・気化をコントロールすることでガスギャップ熱スイッチ内での熱的接続を確実に断つようにしている。
【0014】
ただ、このガスギャップ熱スイッチをつくるには、金属片間の間隙を数十μmに保つような高精度の精密な工作が要求され、非常に高価な部材になっていた。また、熱スイッチをオン、オフするための制御が必要であるのに加え、コントロールのタイミングを間違えると熱スイッチ内でガスの固化が起こり金属片間をブリッジすることが起こり得る。更に、ガスの滞留があるため、取付け方向が制限されるものであった。
【0015】
そして、ワンショット冷却型の断熱消磁冷凍機の超伝導鉛熱スイッチと並列にグラファイトを設けたものも提案されている(非特許文献1)。グラファイトは、試料の温度が振動によって上昇するのを避けるための支持材であると同時に、断熱消磁塩と試料を室温から予冷する際、およそ液体窒素温度(77K)以上で鉛の熱伝導率よりグラファイトの熱伝導率のほうが大きいことを利用して、室温から数十Kまでを熱交換ガスを用いることなく、より速く予冷するための超伝導鉛熱スイッチのシャントとして用いられている。この断熱消磁冷凍機は、1K以下の温度域で動作しかつワンショット冷却であるため、10μWオーダーの僅かな熱流入でも試料の温度が上昇し低温を保持できなくなる。しかし、グラファイトは1Kで熱伝導率が超伝導鉛の1万分の1、すなわちほとんどゼロの完全な断熱材であるため、それを通しての熱流入はゼロとなる。すなわち、室温〜数十Kの温度域でのオン状態と、約1K以下の完全にオフ状態とが、受動的熱スイッチとして用いられている。その間の、数十K〜約1Kの温度域でオンからオフへ連続的に変化する中間状態は、積極的に利用されていない。
【0016】
次に、上記(2)について言えば、異物をフィルタで取り除くというのは周知の技術である。希釈冷凍ユニットにおいても、混入する不純物ガス、例えば空気(窒素、酸素)、水分が問題となる。これらは極低温になると液化、固化して不純物となる。従来は、Heを液体窒素(77K)で冷やした液体窒素トラップを通すことにより、活性炭に吸着させていた。しかし、このような液体窒素を別に用意し、これをメンテナンスすることは面倒な作業を増やすことになる。無冷媒冷凍機は液体ヘリウムや液体窒素を用いないという点が大きなメリットであるのに、冷媒の一種である液体窒素をトラップに用いることはこのメリットを大きく損ねることになる。
【0017】
また、(3)の問題は、希釈冷凍ユニットの能力向上の面できわめて重要な問題である。隔壁として熱伝導率の小さなキュプロニッケル(Cu−Ni)を利用するしかない現状では、これには限界があった。なお、従来のステップ熱交換器については非特許文献2などに説明がある。
【0018】
【特許文献1】特許第2835305号公報
【特許文献2】特許第3881675号公報
【非特許文献1】F.J. Shore, et al.,「Use ofGraphite as Low Temperature Support and Shunt for Heat Switch」,THE REVIEW OFSCIENTIFIC INSTRUMENT,31巻,9号,1960年11月,p.970
【非特許文献2】ウクライナ科学アカデミー低温物理工学研究所編,矢山英樹,I.B.ベルクトフ共訳,「超低温の実験技術」,九州大学出版会,2000年10月1日,p.50−p.53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上説明したように、従来、予冷を短時間で行うため熱スイッチを用いることが提案されている。しかし、特許文献2の熱スイッチでは、数十μmという高精度の工作を必要とし、高価な装置となっていた。また、固化したガスが金属片間をブリッジすることも避けられなかった。加えて、熱スイッチをオン、オフするための制御が必要で、熱スイッチ内部でのガスの対流があるため、取付け方向が制限されるものであった。
【0020】
また、非特許文献1に記載された超伝導鉛熱スイッチと並列に設けられたグラファイトは、断熱消磁塩と試料を室温から予冷する際、およそ液体窒素温度(77K)以上で鉛の熱伝導率よりグラファイトの熱伝導率のほうが大きいことを利用して、室温から数十Kまでを熱交換ガスを用いることなく、より速く予冷を行うためのものである。一方、断熱消磁冷凍機が動作する約1K以下の温度域では、ワンショット冷却であり、かつ物質の熱容量が極めて小さいため、10μWオーダーの僅かな熱流入でも試料の温度が上昇しつづけ低温を保持できない。このため、グラファイトが、1K以下で熱伝導率がほとんどゼロ(1Kで超伝導鉛の1万分の1)の完全な断熱材となる性質を有していることから、超伝導鉛熱スイッチを補助する部材として、約1K以下では完全にオフ(数十K〜室温ではオン)の熱スイッチとして用いられている。つまりオフとオンの間の温度域(約1K〜数十K)では、温度の上昇と共に低熱伝導状態から高熱伝導状態に連続的に変化し、オフからオンに転移する明瞭な温度が存在しないので積極的に利用されていない。すなわち、オンでもオフでもない中途半端に熱伝導する約1K〜数十Kの中間領域が存在するため、一般的に冷凍機に使用できるものではなかった。
【0021】
また、希釈冷凍ユニットにおいて、循環するHe中に混入した不純物を除去することはきわめて重要である。不純物を排出しないと高いインピーダンスを示す狭い流路に詰まってしまう。これを除去するために一旦運転を停止すると、その後運転を再開し、再び20mKの温度に低下させるのに5日程度かかってしまう。そして、こうした不純物が冷却速度および冷却能力をさらに低下させるのは避けられない。
【0022】
また、希釈冷凍ユニットでは、多段のうちの下段(低温側)に位置するステップ熱交換器の熱交換効率を向上させないと、全体の熱効率が悪化し、最低温度が上昇してしまう。
【0023】
そこで本発明は、極低温に短時間で簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスの容易な無冷媒冷凍機と機能性熱結合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の無冷媒冷凍機は、第1の最低温度まで温度降下させることができる第1の冷却段と、第1の最低温度より低い第2の最低温度まで温度降下させることができる第2の冷却段とを備え、真空容器内で第1及び/又は第2の冷却段を使って被冷却物を冷却するための無冷媒冷凍機であって、第1の冷却段と第2の冷却段との間には、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有する固体物質で作った無冷媒冷凍機段間用の受動的熱スイッチ機能を有する機能性熱結合体が配設され、被冷却物を第1の最低温度以下に温度降下させるとき、第1の冷却段と第2の冷却段との間を熱伝導し、被冷却物の温度が高いときには熱結合度を高く、該第1の温度平衡点に近づくにつれて第1の冷却段と第2の冷却段との間の熱結合度を急激に低い状態にすることを主要な特徴とする。
【0025】
また、本発明の機能性熱結合体は、真空容器中の無冷媒冷凍機と被冷却物との間に配設され、無冷媒冷凍機と被冷却物間で熱伝導を行う連続運転冷凍機用の機能性熱結合体であって、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有し、温度が高いときは熱結合度が高く温度が低くなると急激に熱結合度が低下する無冷媒冷凍機用の受動的熱スイッチ機能を有する固体物質からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の無冷媒冷凍機と機能性熱結合体によれば、極低温に短時間で簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスを容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第1の形態は、第1の最低温度まで温度降下させることができる第1の冷却段と、第1の最低温度より低い第2の最低温度まで温度降下させることができる第2の冷却段とを備え、真空容器内で第1及び/又は第2の冷却段を使って被冷却物を冷却するための無冷媒冷凍機であって、第1の冷却段と第2の冷却段との間には、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有する固体物質で作った無冷媒冷凍機段間用の受動的熱スイッチ機能を有する機能性熱結合体が配設され、被冷却物を第1の最低温度以下に温度降下させるとき、第1の冷却段と第2の冷却段との間を熱伝導し、被冷却物の温度が高いときには熱結合度を高く、該第1の温度平衡点に近づくにつれて第1の冷却段と第2の冷却段との間の熱結合度を急激に低い状態にすることを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、極低温に短時間で簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスを容易に行える。
【0028】
本発明の第2の形態は、第1の形態に従属する形態であって、第2の最低温度より低い第3の最低温度まで温度降下させることができる第3の冷却段を備え、第2の冷却段と第3の冷却段との間には第2の機能性熱結合体が配設され、第2の機能性熱結合体が第2の温度平衡点まで第2の冷却段と第3の冷却段との間を熱結合し、第3冷却段の温度が高いときは熱結合度を高く、第3冷却段の温度が該第2の温度平衡点に近づくにつれて第2の冷却段と第3の冷却段との間の結合度を急激に低い状態にすることを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、第3の冷却段によって更に極低温に到達することができる。
【0029】
本発明の第3の形態は、第1又は2の形態に従属する形態であって、被冷却物を低温状態に維持するため、各冷却段の間に順次温度平衡点が低下する1段又は2段以上の中間段が設けられ、中間段間及び中間段と冷却段との間にも機能性熱結合体が設けられたことを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、温度降下に伴って順次中間段が高温側と熱的に切り離され、極低温を独立して維持することができる。
【0030】
本発明の第4の形態は、第2又は第3の形態に従属する形態であって、第3の冷却段が、He濃厚相とHe希薄相の相界面を形成しHe原子がHe希薄相液に拡散するときのエントロピー変化によって被冷却物を冷却する希釈冷凍ユニットの混合器であって、第1の冷却段、第2の冷却段、ジュールトムソン熱交換器によって冷却されたHeガスをジュールトムソン弁で液化し、スティルと熱交換した後、混合器に熱交換器を通して導入され、エントロピー変化によって冷却を行い、さらにHe原子を混合器から熱交換器を通してスティルに移動し選択的に蒸発させることを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、20mKクラスの極低温にすることができる。
【0031】
本発明の第5の形態は、第4の形態に従属する形態であって、混合器に導入されるHe液と混合器からスティルへ移動するHe液との間で熱交換するステップ熱交換器を備え、ステップ交換器が、隔壁となる銀板と、該銀板を挟んだ一対の焼結銀と、該焼結銀をそれぞれ覆う一対の蓋とを具備し、銀板と蓋とを締結部材によって締結したことを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、隔壁にも高熱伝導率の銀板を使用することができるため、ステップ熱交換器の熱交換率を格段に向上させることができ、超流動するHeが漏れたときでも、締結体を締め直すことで修理することが可能になる。
【0032】
本発明の第6の形態は、第1乃至第5の何れかの形態に従属する形態であって、気化したHeを循環する流路にトラップが設けられ、該トラップが第1の冷却段に設けられていることを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、従来のようにトラップを別に冷却する必要がなくなり、構成を簡単に、且つ使い易い無冷媒冷凍機となる。
【0033】
本発明の第7の形態は、第6の形態に従属する形態であって、トラップには不純物を気化するためのヒータが設けられていることを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、局部的に加熱して不純物をガス化し、流路の一部を使って放出するので、不純物排出時に無冷媒冷凍機の運転を停止する必要がない。
【0034】
本発明の第8の形態は、第1乃至第7の何れかの形態に従属する形態であって、気化したHeを循環する流路が第1の流路と、該第1の流路よりインピーダンスの低い予冷のための第2の流路とに分岐され、予冷時にのみ第2の流路を通して、第1及び第2の冷却段で冷やされたヘリウムガスが希釈冷凍ユニットに流れることにより希釈冷凍ユニットを予冷することを特徴とする無冷媒冷凍機である。この構成によって、常時インピーダンスの高い第1の流路で温度降下するのではなく、第2の流路を使って多量のヘリウムガスにより急速に冷却することができる。
【0035】
本発明の第9の形態は、真空容器中の無冷媒冷凍機と被冷却物との間に配設され、無冷媒冷凍機と被冷却物間で熱伝導を行う連続運転冷凍機用の機能性熱結合体であって、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有し、温度が高いときは熱結合度が高く温度が低くなると急激に熱結合度が低下する無冷媒冷凍機用の受動的熱スイッチ機能を有する固体物質からなることを特徴とする機能性熱結合体である。この構成によって、極低温に短時間かつ簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスを容易に行える。
【0036】
本発明の第10の形態は、真空容器中の無冷媒冷凍機の高温側の冷却段及び/又は中間段と低温側の冷却段及び/又は中間段との間に配設され、高温側の冷却段及び/又は中間段と低温側の冷却段及び/又は中間段で熱伝導を行う連続運転冷凍機用の機能性熱結合体であって、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有し、温度が高いときは熱結合度が高く温度が低くなると急激に熱結合度が低下する無冷媒冷凍機段間用の受動的熱スイッチ機能を有する固体物質からなることを特徴とする機能性熱結合体である。この構成によって、極低温に短時間かつ簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスを容易に行える。なお、「冷却段及び/又は中間段」は、「冷却段及び中間段」あるいは「冷却段または中間段」を意味する。
【0037】
本発明の第11の形態は、第9又は10の形態に従属する形態であって、固体物質がグラファイト,アルミナ,ベリリアの中の何れか1種の物質であることを特徴とする機能性熱結合体である。この構成によって、確実に極低温に短時間で簡単な操作で到達することができ、運転の能率が高く、安価で冷却効率が高く、簡単な構造で、メンテナンスを容易に行える。
【0038】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における無冷媒冷凍機と熱スイッチ、それを備えたクライオスタットについて説明をする。実施の形態1の無冷媒冷凍機は、希釈冷凍ユニットを備えた無冷媒冷凍機であって、多段式のGM冷凍機と熱的に直列に接続した希釈冷凍ユニットを設けて極低温を実現する。なお、希釈冷凍ユニットはHeなどの希釈冷凍(dilution)作用を使って極低温を実現するものである。そして、以下GM冷凍機について説明するが、これに限らず、寒剤を用いないパルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機などでも他段式であれば同様である。
【0039】
図1は本発明の実施の形態1における無冷媒冷凍機の構成図、図2は本発明の実施の形態1における無冷媒冷凍機のステップ熱交換器の構成図、図3はグラファイトとアルミナの低温度域での熱伝導率を示すグラフ、図4はグラファイトの熱結合体の特性を示すグラフ、図5はグラファイト熱結合体の有無と数で冷却時間を比較したグラフである。
【0040】
図1において、1は無冷媒超電導マグネットを備えたクライオスタットの真空容器である。真空容器1は内部でガスを介しての外部との熱伝達をなくすため真空ポンプによって減圧される。2は熱輻射シールドであり、外部からの熱輻射を断って熱輻射シールド2内を熱絶縁する。また、実施の形態1では高度の断熱の必要性があり、二重の熱輻射シールドが設けられている。2aは熱輻射シールド2の内側に配置され、二重に外部の熱を断熱する第2の熱輻射シールドである。3はGM冷凍機であって、多段式無冷媒冷凍機であり、実施の形態1の場合は40Kのステージと4Kのステージからなる2つのステージを有する。更にステージ数を増すこともできる。
【0041】
ここで、このGM冷凍機の基本構成を説明すると、詳細な構成は図示しないが、ガスを充満できるシリンダと、このシリンダ内を上部空間と下部空間の2つに区画するディスプレーサを備え、ディスプレーサが駆動機構によって往復動される。多段式GM冷凍機3はこのような基本構成が直列2段に設けられ、第1のステージで40Kまで冷却を行い、第2のステージで4Kにまで冷却する。各ステージの周囲は熱交換部となっており、接触した部材をそれぞれ恒常的に40K、4Kに冷却することが可能である。
【0042】
続いて、図1に示す無冷媒冷凍機の説明を行う。4は冷媒Heガスが充填されたHeタンク、5は実施の形態1における試料を装着する試料装着装置、5は実施例1における試料を装着する試料装着装置、5aは試料装着装置5を支える上側支持筒部、5bは試料装着装置5を支える下側支持筒部である。この試料装着装置5については後述する。
【0043】
6は超電導コイルからなり磁場中での試料の物性測定を行うための無冷媒超電導マグネット、7aは液体のHeを減圧して気化させる真空ポンプ、7bは真空ポンプ7aによって気化したHeガスを加圧するコンプレッサー、7cは活性炭トラップ20で分離した不純物ガス(窒素、酸素、水分等が気化したガス)を排出するための真空ポンプ、8は不純物が混入したHeガスを、詳細な内容は後述するが符号で言えば4→17g→7b→16→17d→20a→20→17e→8→7a→17g→4の順に循環させて純化する際、循環速度を極めて小さくするための流れのインピーダンスである。なお、バルブ17eの開度を微妙に調整できればインピーダンス8は必ずしも設ける必要はない。9は後述する混合器51を載置して試料装着装置5の先端と熱的、物理的に接触して熱交換をするための低温プレートである。
【0044】
なお、実施の形態1の無冷媒超電導マグネット6は物性測定のためのものであるが、カスケード配列するための磁気冷凍機の無冷媒超電導マグネットにすることもできる。
【0045】
さて、以下、さらに無冷媒冷凍機の詳細な構造について説明する。10はフランジで真空容器1の上部を塞ぐフランジであって、GM冷凍機3と試料装着装置5を支持する。11はGM冷凍機3の40K(本発明の第1の最低温度)となる第1ステージ(本発明の第1の冷却段)、12はGM冷凍機の4K(本発明の第2の最低温度)の温度になる第2ステージ(本発明の第2の冷却段)である。13は熱輻射シールド2の上部を塞ぎGM冷凍機3の第1ステージと熱交換して40K近辺の温度になる銅製の40Kプレートであり、14はGM冷凍機3の第2ステージと熱交換して4Kに近い温度になる銅製の4Kプレート、14aはGM冷凍機3の振動を吸収すると共に40Kプレート14の熱を第2ステージに伝えるフレキシブル熱伝導体である。
【0046】
次に、15は後述する希釈冷凍ユニットを構成するスティル52から気化したHeガスを導く排気パイプであり、真空ポンプ7aに連通されている。16,16a,16bは真空ポンプ7aを通ってコンプレッサー7bで加圧されたHeガスを希釈冷凍機の混合器51(後述する)に導くための流路であって、流路16が二分された一方の流路16aは予冷運転時にだけヘリウムガスを流すインピーダンスが小さい流路で、二分されたもう一方の流路16bは通常運転時にHeを流すための流路である。
【0047】
従来技術による予冷の方法は、寒剤である液体ヘリウムに浸された真空容器内に微量のヘリウムガスを導入して、希釈冷凍ユニット外壁と4Kの真空容器内壁の間をヘリウムガスにより熱交換することで希釈冷凍ユニットを4Kまで冷却している。これに対し、実施の形態1の無冷媒冷凍機は熱交換器18b、19bで冷やされた冷たいヘリウムガスを、循環ラインの高インピーダンスの部分をバイパスさせて希釈冷凍ユニット内に流すことで予冷する。
【0048】
このようにインピーダンスの小さな流路を使って流れをバイパスさせるのは次の理由による。実施の形態1の希釈冷凍機はジュールトムソン(Joule-Thomson)効果を利用してHeを液化する。このとき流量を絞らなければならない。すなわち本来の流路16bはHeを液化できる程度のきわめて高いインピーダンスの流路となる。このため流路16bだけで冷却する場合には流量がごく微量であるため、低温に到達するまで長時間を要することになる。流路16bだけでは数日かけてもほとんど冷えず、実用に耐えない。
【0049】
そこで、実施の形態1では、低インピーダンスの流路16aを使って短時間で希釈冷凍ユニット、低温プレート9、試料ホルダ30、試料31、ヒータ32、温度センサ33の温度を4Kにし、その後はこの流路を閉止し、流路16bによって極低温を実現する。これにより熱交換ガスを使わない循環式の予冷が可能となる。そして、このとき、流路16aは追加的な予冷路、流路16bは希釈冷凍ユニットの本来の流路となる。この装置は、予冷のための簡単なバイパス路を構成するだけで、熱交換ガスを収容する大掛かりな内部真空容器が不要になる上、使い易さ、運転の能率、メンテナンス、コスト等の面で従来技術を凌ぐ。
【0050】
17a,17b,17c,17d,17e,17f,17gはバルブである。バルブ17a,17bは流路16a,16bの切り換えを行うためのバルブであり、また、バルブ17fは活性炭トラップ20で分離した不純物(窒素、酸素、水分)を排出するための流路を形成するのに使用するバルブであり、さらに、バルブ17dもHeガスの循環量を設定するためのバルブである。そして、バルブ17eは不純物排出回路を形成するとき以外閉止するバルブ、バルブ17gはHe、Heガスを補充するためのバルブである。
【0051】
また、18a,18bは40Kプレート13に熱的に接触させて設けられ、コンプレッサー7bによって加圧されたHeガスを40Kプレート13とほぼ同温にする熱交換器である。そして、19a,19bは4Kプレート14に熱的に接触されて設けられ、それぞれ熱交換器18a、熱交換器18b及び活性炭トラップ20を通って送られてきたHeガスを4Kプレート14とほぼ同一温度にする熱交換器である。
【0052】
この活性炭トラップ20は(図1の拡大図も参照)、内部に活性炭を入れた金属容器からなり、He中の空気中の窒素ガスや酸素、水蒸気などが固化した不純物を除去するために用いられる。20aは活性炭トラップ20が40Kプレート13に接している側と反対側に設けられた予冷用の熱交換器、20bは黄銅やステンレスなどの合金でできており、熱伝導率の温度変化が比較的小さい特性を有している熱結合体である。熱結合体20bは、活性炭トラップ20と熱交換器20aの熱を40Kプレート13に伝える。20cは活性炭に吸着した窒素、酸素、水分等を脱着して放散させるとき使用するヒータ(本発明のヒータ)である。加熱することで吸着ガスが気化して、真空ポンプを用いて排出することができる。なお、活性炭の代わりに有効表面積の大きいシリカゲルやモレキュラーシーブ、ゼオライトなども用いることができる。
【0053】
ここで、この活性炭トラップ20の詳細について説明する。希釈冷凍ユニットはHeを循環して凝縮、気化させ、この間に希釈冷凍作用によって熱を奪って冷凍サイクルを実現している。従って、運転している最中に、配管の内側に吸着している窒素、酸素、水分などの不純物がHeガスに混入すると、希釈冷凍機の低温側で冷却されて固化し、JT弁22等のインピーダンス部分に詰まってしまう。このため従来は温度77Kの液体窒素で冷却した活性炭に吸着させる方法を講じてきた。しかし、別に液体窒素を用意しなければならないため、余計なコストが発生するのと、液体窒素が蒸発して少なくなると補充する手間が必要であるという不都合があった。
【0054】
そこで、実施の形態1においてはGM冷凍機の第1ステージ11が40Kとなっていることを利用し、40Kプレート13を低熱源として活性炭トラップ20を冷却する。活性炭トラップ20は黄銅等の熱結合体20bを介して約40Kに冷却される。さらに循環するHeガスは活性炭トラップ20の上部に設けられた熱交換器20aを使って予め温度降下させられ、活性炭トラップ20内に導かれる。これによりHeガスから確実に不純物を取り除くことができる。
【0055】
なお、不純物の排出時には、バルブ17a,17b,17c,17d,17e,17gを閉止して、Heガスの循環を停止すると共にバルブ17fを開ける。このままでは吸着トラップ20の温度が低いため、不純物ガスは吸着されたままである。排出に当たっては、まずヒータ20cを通電し、活性炭トラップ20の温度を局部的に室温まで上昇させる。これにより、吸着あるいは固化していた不純物は気化し、一時的に形成される排出のための流路を伝わって真空ポンプ7cによって外部に放出される。なお、ヒータに加える電力は少なく、熱結合体20bの熱伝導率はあまり大きくないため40Kプレート13の温度上昇はほとんどない。
【0056】
このように実施の形態1の無冷媒冷凍機においては、不純物を排出する際に循環路とは別にローカルな排出流路を形成し、局部的に活性炭トラップ20の温度を上げて不純物を放出するため、この間GM冷凍機3の運転を停止する必要がなく、不純物排出後には直ちにHeガスの循環を開始でき、短時間で希釈冷凍動作を再開させることができる。従来のように活性炭トラップにヒータが具備されていない場合には、排出処理を行うためGM冷凍機を停止し再開に長時間を要していたが、GM冷凍機を停止する必要がなくなる。
【0057】
次に、21は排気パイプ15内でコイル状に巻かれ、熱交換器19bで冷却されたHeと排気パイプ15を上昇する冷たいHeガスとで熱交換するJT(Joule-Thomson)熱交換器、22はJT(Joule-Thomson)弁である。
【0058】
このJT弁22は、冷媒の流量を絞った後膨張させ、このときの圧力降下により温度降下させ冷却液化させる。従って、コンプレッサー7bで高圧にされたHeガスは、予冷運転時以外、冷却路16bの熱交換器18b,19bで冷却され、その後JT熱交換器21によって冷却された後、JT弁22によって膨張冷却液化される。
【0059】
ここで、希釈冷凍ユニットの予冷路と冷凍サイクルの循環路についてさらに説明する。上述したとおり、流路16は流路16aと流路16bとに二分され、一方の流路16aは予冷運転時にだけHeを流す予冷路として、もう一方の流路16bは通常運転時にHeを流すための流路として使われる。
【0060】
寒剤を使用するタイプのものも、寒剤を用いない無冷媒タイプのものも、何れも一旦4Kまで内部の希釈冷凍ユニットを予冷してから希釈冷凍機の運転に入る。寒剤タイプのものは、希釈冷凍ユニットを収納した真空容器が寒剤(液体He)中に浸っており、まずこの真空容器の中に熱交換ガスとして微量のHeガスを入れた状態で真空容器を4Kに冷却する。すると真空容器内面と希釈冷凍ユニットの外壁面間で熱のやり取りが行われ、希釈冷凍ユニットが4Kに冷却される。その後希釈冷凍ユニットを断熱状態とするため、真空ポンプで約半日から1日かけて熱交換ガスを排気し、内部真空容器内を真空の環境にする。このため寒剤タイプの予冷には余分な時間がかかる。
【0061】
しかし、実施の形態1の希釈冷凍ユニットは多段式のGM冷凍機を用いており、無冷媒タイプであり、GM冷凍機の第2ステージ(4K)でHeを約4Kに冷却する。無冷媒のGM冷凍機を使っているため、寒剤を使用する場合より格段に取り扱いが容易で、構造が機能的に簡単である。また、ヘリウムガス循環式の予冷法であるため、熱交換用のHeガスを排気する時間が不要になる分だけ、予冷時間が短縮されるものである。
【0062】
なお、希釈冷凍ユニットでは、JT弁22は数分かけて1ccのガスが流れる程度に高インピーダンスをもつ流体要素である。従って、このJT弁22が配設された流路16bを使って冷却するのは、最低温度に到達するまで膨大な時間(数日かけてもほとんど冷えない)を要することになる。
【0063】
そこで、実施の形態1の希釈冷凍ユニットにおいて、流路16aが並列に設けられるのはJT弁22が配設される部分であり、バルブ17a,17bと熱交換器53の間となる。予冷運転時にはバルブ17bに加えてバルブ17aも開いて、インピーダンスの低い流路16aを予冷路としてヘリウムガスを流し、短時間で4Kプレートより下に配設された部分の温度を約4Kにする。その後はバルブ17aを閉止すると、バルブ17bだけが開いた状態となり、高インピーダンスの流路16bによって温度降下させて極低温を実現する。
【0064】
ところで、実施の形態1の希釈冷凍ユニットでは、混合器51でHeとHeが混合されて温度降下する。すなわち、混合液の温度が0.6K以下になったとき、混合液は2相に分離し、下にはHeの濃度が低く比重の大きなHe希薄相液、上にはHeの濃度が高く比重の小さなHe濃厚相液が形成されることを利用する。希釈冷凍機は、軽いHe濃厚相液から重いHe希薄相液内にHeが溶解(拡散)し、2つの相間のエントロピー差に基づく熱吸収(希釈冷凍作用)が生じて極低温(本発明の第3の最低温度)を実現する。これにより20mK前後にまで温度降下する。
【0065】
図1において、51は、HeガスがJT弁22で凝縮され、Heの高濃度凝縮液として戻ってきたとき、内部のHeと混合させる混合器(本発明の第3の冷却段)である。また、52はスティルであり、スティル52は後述するチューブインチューブ型熱交換器55とステップ熱交換器56を介して混合器51につながっている。スティル52には排気パイプ15が接続されており、気化したHeガスが排気パイプ15内を導かれて真空ポンプ7aに導かれる。スティル52は、Heと比較して飽和蒸気圧が高く気化が速いHeを0.7Kで気化させることにより、混合器51中の希薄相液中のHeを抽出し、連続的な冷凍サイクルを実現する。
【0066】
53はJT熱交換器21、JT弁22によって1K程度に冷却されたHeガスから凝縮熱を吸収しHeを0.7K前後程度に冷却する熱交換器、54は熱交換器53で熱交換した凝縮熱をスティル52内のHe希薄相液に伝えるHe気化ステージのプレートである。55はチューブインチューブ型熱交換器、56はステップ熱交換器、57はチューブインチューブ型熱交換器55を支持する50mK程度のプレートである。プレート54、プレート57が、本発明における実施の形態1の中間段であり、被冷却物を低温状態に維持するため4Kプレート14と低温プレート9の間に2段設けられているものである。
【0067】
ここで、実施の形態1の上記したチューブインチューブ型熱交換器55とステップ熱交換器56について説明する。
【0068】
まず、チューブインチューブ型熱交換器55は薄肉で大径のパイプ中にコイル状にした小径のパイプを挿入して更に大径パイプ全体をコイル状にしたもので、混合器51に戻っていくHe濃厚相液とスティル52に移動するHe希薄相液中のHe原子とを対向して流し、両者の間で熱交換する。また、ステップ熱交換器56は希釈冷凍機の最低温度を更に低下させるためのもので、銀粉が焼結された金属隔壁を挟んで2室が接触し、その2室を濃厚相液と希薄相液が対向して流れる。その際、焼結体が多孔質であるために非常に大きな熱交換面積(数m〜数十m)を確保できるものである。
【0069】
ところで、従来のステップ熱交換器は隔壁を挟んでこの両側に銀の焼結体(以下、焼結銀)を配設し、この焼結銀をそれぞれ蓋で覆って、JT弁22で凝縮されたHe濃厚相液とスティル52に向かうHe希薄相液中のHe原子とを向流方向に流して熱交換していた。そして、隔壁の材料としては、強度が要求される2つの蓋と同じキュプロニッケル(Cu−Ni合金)板が用いられていた。もちろん、隔壁としては熱伝導率の高い銀板を使うのが望ましいが、銀(Ag)とキュプロニッケル(Cu−Ni合金)とでは溶接が困難なため、同一金属を使い周囲のフランジ部分でアルゴン溶接を行っていた。また、隔壁に銀粉の付着を容易にするために銀メッキを施すことも必要であった。
【0070】
この従来の方法では、溶接するとき熱が影響し内部の焼結銀が酸化によるダメージを受けることが多く、焼結体の多孔質の空隙、空孔が潰れ、熱交換面積が減少し、ステップ熱交換器の熱交換率を低下させていた。また溶接の代わりにハンダを用いた場合でも、温度が低い分ダメージが少ないものの熱による同様な影響は避けられず、加えてフラックスが焼結体の空孔に入って有効面積が減少する等の別の問題も存在した。
【0071】
そこで、実施の形態1のステップ熱交換器56においては、その熱交換率を向上させるために、次の構成を採用している。図2において、61a,61bは円板等の形状を有する焼結銀、62は高熱伝導率を有する銀板の隔壁であり、63a,63bは焼結銀61a,61bをそれぞれ上下から覆うステンレス製の蓋である。蓋63a,63bの直径は約40mmであり、ステップ熱交換器56には3g程度の焼結銀61a,61bを使用する。これで約6mの熱交換面積を形成することができる。
【0072】
このように蓋63a,63bをステンレスとすることで、高い強度を得ることができ、しかもキュプロニッケルを使った場合より安価なステップ熱交換器にすることができる。また、銀板を使うので本来的に焼結銀61a,61bと隔壁62との親和性がよく、銀メッキを施す必要もない。そして、蓋63a,63bの材料は自由度が高く、それがステンレス製である必要もないし、蓋63a,63bとが互いに材料が異なっていてもよい。それは、実施の形態1のステップ熱交換器56が、蓋63a,63bと隔壁62の接合をアルゴン溶接でなく、物理的締付とシールの組み合わせで行う、という特徴ある構成を有しているからである。
【0073】
図2に示すように、64はボルト等の雄ネジであり、隔壁62を挟んで焼結銀61a,61bを蓋63a,63bで覆い、フランジ部分に形成された雌ネジと雄ネジ64がしっかりと螺合される。雄ネジ64とこの雌ネジが本発明の締結部材に相当する。65は蓋63a,63bに取り付けられた流路形成用ブロックであり、66はHe濃厚相液を流すため流路形成用ブロック65に穿孔して形成された濃厚液流路である。同様に、67はHe希薄相液を流すため流路形成用ブロック65に穿孔して形成された希薄液流路である。また、68は蓋63a,63bと隔壁62の水密性を確保するためのイリジウムシールである。他のシール、例えば鉛、ハンダ、カプトン(登録商標)などでもかまわない。
【0074】
以上の構成により、ステップ熱交換器56の焼結銀61a,61bは、アルゴン溶接の影響を受けて、隔壁62も最も高熱伝導率の銀板を使用することができ、ステップ熱交換器56の熱交換率を格段に向上させることができる。そして、仮に、Heがステップ熱交換器56から漏れたときでも、実施の形態1の場合、雌ネジと雄ネジ64を締め直すか、両者を分解して修理することが可能にある。これに対し、従来のようなアルゴン溶接をしたステップ熱交換器では修理は不可能である。
【0075】
さて、実施の形態1の希釈冷凍ユニットは、GM冷凍機3の第1ステージ11で40Kプレート13を40Kに冷却され、第2ステージ12で4Kプレート14を4Kに冷却される。これによって、Heガスは熱交換器18bで40K程度に冷却され、熱交換器19bで4K程度に冷却され、JT熱交換器21でさらに冷却され、JT弁22によって液化される。
【0076】
その後、熱交換器53で0.7K前後に冷却されたHeは、チューブインチューブ型熱交換器55においてスティル52に移動するHe希薄相液中のHe原子と対向して流れることで再び熱交換し、ステップ熱交換器56で温度を更に低下させられる。混合器51に入った液体Heは混合器51の上部に位置するHe濃厚相液となり、下部に位置するHe希薄相液にHeが溶け込むときの溶解熱吸収によって、20mK(0.02K)の温度を実現することができる。
【0077】
このときスティル52においては、図示されていないヒータからの熱で0.7K程度に加熱され、真空ポンプ7aによる負圧でHeより飽和蒸気圧が大きいHeが気化する。これによりスティル52内のHeと混合器51内のHe希薄相液のHeとの間に濃度勾配が生じ、スティル52内のHeの不足分を補うために混合器51内のHe希薄相液のHe原子が移動する。更にこのHe希薄相液のHeの濃度を補充するため、He濃厚相液からHe原子が拡散する。スティル52から気化したHeガスは、排気パイプ15を通って温度上昇すると共に真空ポンプ7aで吸引され、更にコンプレッサー7bで加圧される。その後、Heガスは第1ステージの熱交換器18bに送られ、以上説明した冷凍サイクルを繰返すことになる。
【0078】
続いて、ここで簡単に試料装着装置5について説明する。図1において、30は銅製の試料ホルダ、31は試料ホルダ30に係止される物性測定用の試料(本発明の被冷却物)である。32は試料31の温度を上昇させるマンガニン線を巻回したヒータ、33は試料31の温度を検出する熱電対、サーミスタ等の温度センサである。この温度センサ33は試料ホルダ30に形成された窪みに埋め込まれる。試料ホルダ30には図示はしないがDカット状の窪みと小径部が近接して形成されている。このDカット状の平坦部上に試料31が真空雰囲気(真空空間)に露出された状態で取り付けられ、小径部にヒータ32が巻回される。ヒータ32は試料ホルダ30を通して温度センサ32と試料31を局部的に熱伝導により加熱するためのものである。このとき、試料ホルダ30、温度センサ32、試料31は小さいため、他の部品に与える熱輻射の影響はきわめて小さい。
【0079】
試料ホルダ30を低温プレート9へ装着するときは、先ず、試料31を試料ホルダ30に装着し、試料装着装置5を下側支持筒部5bのゲートバルブより高い位置から差し込み、ゲートバルブを締め切った状態で上側支持筒部5a,下側支持筒部5bを連結し、密閉空間を形成する。この状態で真空ポンプ(図示しない)を運転し、上側支持筒部5a等内の空気を排出し、真空容器1内と同一の真空度にまで減圧する。この状態でゲートバルブを開くと、上側支持筒部5a,下側支持筒部5b,真空容器1内はすべて真空で、この中に試料ホルダ30が差し込まれた状態となる。そこで、試料装着装置5を更に挿入して行くと、試料装着装置5の先端の試料ホルダ30が試料装着ガイド23に挿入され、そのまま案内されて図1に示す状態となる。外部へ取り出しを行う手順は挿入のときと逆に行えばよい。
【0080】
さて、本発明の実施の形態1においては、予冷を短時間で行うため特徴ある機能性熱結合体、すなわち受動的熱スイッチ機能を有する機能性熱結合体を用いている。ここで受動的熱スイッチ機能とは、温度が高いときは熱結合度が高く、温度が低くなると急激に熱結合度が低下する熱結合機能のことで、熱接続された対象物(冷凍機)に支配される熱結合機能を意味し、熱スイッチに類似はするが、消極的な作用だけを有する機能である。連続運転する多段式冷凍機の段間をつなぐ新しい熱伝導と熱遮断の機能である。そして、機能性熱結合体は、グラファイトなどの、絶対零度に向けて所定の温度以下で温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有する固体物質で、柱状につくられた形状をもつ物性に依存する受動的熱スイッチ機能を有する熱結合体である。この単純さゆえに、機能性熱結合体はガスギャップ熱スイッチの問題点をなくすことができる。なお、「所定の温度」というのは、温度の変化とともに熱伝導メカニズムが変わるため、温度の上昇と共に熱伝導度が温度の冪からずれて飽和あるいはピークを示し始める温度である。実際の物質においてはこのような温度が存在するのが一般的であり、例えばグラファイトの場合には110K、アルミナの場合、70Kである。
【0081】
まず、実施の形態1におけるグラファイト熱結合体(本発明の機能性熱結合体)の構成について説明する。図1において、41はGM冷凍機3の第1ステージの40Kプレート13と第2ステージの4Kプレート14とを接続する第1グラファイト棒(本発明の機能性熱結合体)であり、42は4Kプレート14と0.7K程度のプレート54とを接続する第2グラファイト棒である。43は0.7K程度のプレート54と50mK程度のプレート57とを接続する第3グラファイト棒、44はプレート57と20mK程度の低温プレート9とを接続する第4グラファイト棒である。ここで、4Kプレート14と低温プレート9との間にプレート54、57を設けない場合は、第2乃至第4グラファイト棒42,43,44に代えて、4Kプレート14と低温プレート9を熱的に接続する1本のグラファイト棒(本発明の第2の機能性熱結合体)を設ければよい。
【0082】
実施の形態1のグラファイト熱結合体は、ピッチボンデッドグラファイトなどが好適で、絶対温度をTとして熱伝導率がT(ここでN=2.6〜3)に比例した変化を示すものが望ましい。低温では、熱伝導はグラファイトの構造に由来するフォノンと粒子間の接触状態にのみ依存する。
【0083】
さて、この第1乃至第4グラファイト棒41,42,43,44から構成される機能性熱結合体は、各プレート間を熱的にいわばオン、オフ(接続、切り離し)すると共に、物理的には各プレートの支持体になっている。第1乃至第4グラファイト棒41,42,43,44は、組成がグラファイトで、強度さえあれば、いかなる形態の支持体でもよい。ここでは棒と呼ぶが、柱状であれば円柱でも角柱でもよいし、均一な太さでなく断面積が部位によって変化していてもよい。また、形状を変えることで見掛けのオン、オフする温度も変化する。
【0084】
本発明における温度平衡点は、機能性熱結合体が取り付けられた下部冷却段が吸収する熱と、機能性熱結合体を介して上部冷却段から浸入する熱がバランスした温度である。従って、第1乃至第4グラファイト棒41,42,43,44は各冷却段、中間段の温度が低くなるごとに温度平衡点が順次低下する。
【0085】
以下、組成がグラファイトのグラファイト熱結合体の特性について説明する。多段式冷凍機は、最低温度は低いが冷却能力の大きい相対的にみて高温の冷却段と、より低温に近づくことはできるが冷却能力の小さな低温の冷却段とを直列に複数接続し、一番下の冷却段に接続された被冷却物を低温にするものである。一般的に物質は高温ほど熱容量が大きいため、直列に接続した状態のまま冷却した場合は、被冷却物が冷却能力の小さな冷却段で高温の状態から徐々に冷却されることになり、被冷却物が最低温度に到達するのに長時間を要するものである。
【0086】
従って、被冷却物を急速に最低温度にまで冷却するためには、温度が高いうちは冷却能力の大きい上段の冷却段を下段の冷却段に熱接触させ、下段の冷却段の温度を上段の冷却段の温度にまで急速に冷却し、その後上段の冷却段を熱的に切り離し、下段の冷却段だけで最低温度にまで被冷却物を冷却すればよい。このとき切り離しに利用されるガスギャップ熱スイッチは、4K以下では動作温度設定のためのガス(ヘリウム)の圧力調整が極めて難しくなり、構造上サポート材が必要でその材料を通しての熱伝導が低温では無視できなくなる。ガスの凝縮・気化の際に発熱・吸熱があるなどの理由で、4K以下で用いるのは難しい。
【0087】
これに対し、実施の形態1の機能性熱結合体はガスギャップ熱スイッチのようにガスの凝縮と気化の性質を利用しない。グラファイトなど所定の固体物質の物性を利用する。これらの物質では熱伝導率が温度の冪に比例して急激な変化を示すため、低温プレートが絶対零度に近づくにつれて熱スイッチ的なオフ機能の能力は上がっていく。すなわち、温度が低くなると共に熱伝導量がより無視できる程度になっていく。従って、従来のガスギャップ熱スイッチは30Kを境に1回だけ熱的にオン、オフできるだけであったが、本発明の機能性熱結合体は絶対零度に近づく複数の冷却段間において、熱的に接続したり、切り離したりすることが可能になる。
【0088】
実施の形態1の機能性熱結合体の動作機構は、上述した非特許文献1のワンショット断熱消磁冷凍機の予冷に用いられているグラファイト熱スイッチとは、本質的に異なっている。ワンショット断熱消磁冷凍機は一度温度を下げると外部からの浸入熱によってだんだん温度が上昇してくるという宿命的欠点がある。温度の上昇を防ぐには浸入熱を遮断しなければならないため、グラファイト熱スイッチが完全にオフ状態となる温度域(約1K以下)で冷凍作用を行っている。また、このグラファイト熱スイッチは鉛より速く予冷するための作用をも併せ持っている。すなわち、全体的にみたときは、約1K以下でオフとなる領域と、数十K〜室温でオンとなる領域の間に、温度の上昇と共に低熱伝導状態から高熱伝導状態へと連続的に変化する中間領域が存在する。つまりオフからオンに転移する明瞭な温度が存在せず、オフ動作する温度域とオン動作する温度域が離れているため、一般性を有する熱スイッチと言うことはできない。
【0089】
これに対し、本発明の機能性熱結合体は、高温では見掛け上オンの熱伝導を示すが、定常運転状態で完全なオフ状態ではなく、これを通して僅かな熱侵入がある。しかし、連続運転型の冷凍機に用いるため、機能性熱結合体を通して侵入する上段からの熱を下段の冷却段が常に吸収して温度がバランスし、低温では見掛け上オフとなる。これはワンショット断熱消磁冷凍機のグラファイト熱スイッチのオフ作用に類似した作用ではあるが、物理的に全く違う状態を利用したものであることに注意する必要がある。この機能性熱結合体はワンショットを前提にせず、無冷媒で連続運転する冷凍機と共に用いて初めて有効に機能する熱結合部材である。
【0090】
本発明の機能性熱結合体は、浸入熱により最低温度が僅かに高くなるという側面がある反面、最低温度になるまでの時間が大きく短縮でき、制御が不要で、何段でも見掛け上オン、オフでき、ガスギャップ熱スイッチのような欠点がなく、支柱としての機能も併せもち、真空容器中の残留ガスを吸着する、という前記側面を補って有り余るきわめて優れた作用効果を奏するものである。この機能性熱結合体はワンショットではなく、連続運転する冷凍機と共に用いて有効に機能する。
【0091】
この特性をもつグラファイトは、図3に示すような熱伝導率の減少特性を示す。高温で熱伝導率が大きく、低温で急激に熱伝導率がきわめて小さくなる。従って、上段の冷却段と下段の冷却段をグラファイト棒で接続して冷却をすると、高温時は大きな熱伝導率をもつため、下段の冷却段につながれた被冷却物がグラファイト棒を介して冷却能力の大きな上段の冷却段と熱接触され、急速に冷却される。しかし、徐々に温度低下し、被冷却物が低温になると、グラファイトの熱伝導率は下がり、熱伝導は無視できる程度になる。このため、実質的に上段の冷却段と下段の冷却段が熱的に切り離され、ほとんど下段の冷却段で冷却されるようになる。すなわち見掛けの熱スイッチとしてオフ状態となる。
【0092】
図3によれば、両対数グラフにおいて100K以下でほぼ一定の勾配をもつ直線の熱伝導率を示す。これは熱伝導率が絶対温度に関して0Kに向けて温度の冪的な減少特性をもっていることを意味する。なお、グラファイトだけでなく、他の物質としてアルミナもあり、両対数グラフにおいて2K以下でほぼ一定の勾配をもつ直線の熱伝導率を示す。なお、アルミナの場合、2K以上70Kまで若干緩やかな勾配の直線となる。しかし、全体としてほぼ直線的な熱伝導率となる。同様に、図示はしないがベリリアも同様の性質を有し、機能性熱結合体として利用可能な物質である。
【0093】
グラファイト、アルミナ、ベリリア等から構成された機能性熱結合体は、構造が簡単で安価であり、熱スイッチとしてだけでなく各プレート間の支持体としても機能する。ガスギャップ熱スイッチのような精度の高い精密な工作は必要でなく、固体であるためガスによるブリッジが形成されない。さらに、温度変化による自己制御によって自動的にオン、オフされ、とくに外部から制御する必要もない。ガスギャップ熱スイッチの場合はガスの対流があるため取付け方向を注意する必要があったが、機能性熱結合体は取付け方向を選ばない。しかも、グラファイトのように吸着性を有する物質の場合、低温になると、機能性熱結合体が真空容器内の残留ガスを吸着するため、容器内の断熱性が向上するという利点もある。
【0094】
図4は、(1)約10kgの超電導マグネットを装着したGM冷凍機第2ステージに直径D=20mm、長さL=100mmの1本のグラファイト棒の一端を固定し、このグラファイト棒の他端に約200グラムの銅ブロックを取付け、その銅ブロックの温度を測定した冷却曲線と、(2)第2ステージの温度を測定した冷却曲線である。第2ステージの温度が室温から下がって行くにつれて、(1)(2)はほぼ並行して下がって行き、(1)は約40Kの輻射シールドからのわずかな熱輻射(約0.01W)とバランスし約18Kで飽和している。すなわち、18K以上の高温域では見掛け上オンの状態(熱結合度が高くよく熱伝導する状態)となるが、約18Kで見掛け上オフ(熱結合度が低く僅かに熱伝導する状態)となっている。しかし完全なオフではなく、僅かな熱結合がある。
【0095】
図5は4Kで1.5Wの冷却能力を有するGM冷凍機の第1ステージ(40K)と、約10kgの超電導マグネットを装着した第2ステージ(4K)との間に、(a)グラファイト棒を挿入しないとき、(b)直径D=20mm、長さL=100mmの1本のグラファイト棒を挿入して熱接触したとき、(c)直径D=20mm、長さL=50mmの2本のグラファイト棒を挿入して熱接触したとき、の各場合における第2ステージの冷却曲線を示している。(b)(c)の場合の冷却は(a)の場合より最低温度に到達する時間445分を60分〜75分短縮していることが分かる。そして、グラファイト棒は1本の場合(b)より2本(c)にした方が効果的に冷却されている。理論的には、グラファイトの断面積が2倍になり長さが半分であるため熱伝導は4倍になるはずであるが、グラファイトと第1及び第2ステージとの界面での熱接触の問題や熱短絡された第2ステージの冷却効果など複数の要素が複雑に影響するため、冷却時間の短縮は単純に(b)の4倍にはなっていない。
【0096】
図6は図5のグラフにおける温度3K付近を拡大したもので、到達温度の違いを示したグラフである。グラファイトを用いない(a)の到達温度(約2.8K)は、本発明における第2の最低温度に相当する。また、グラファイトを用いた(b)及び(c)の到達温度(それぞれ約3.0Kと3.2K)は、本発明における温度平衡点に相当する。最低到達温度の上昇はほとんどないというものの、微視的にみたときは、微小ながら(b)の場合の温度平衡点の方が僅かに(a)の最低温度より高く、また(c)の温度平衡点の方がやや(b)の温度平衡点より高い。しかし、図5に示すように実用的には無視できる程度の温度差にすぎない。
【0097】
また、グラファイトを入れたことによる最低到達温度の上昇は、図6のように拡大しないと判らないほど小さいため、冷凍機としての性能損失はほとんどない。すなわち、グラファイトを用いた受動的熱スイッチは完全にオフになっていないが、それを通しての熱流入は連続運転しているGM冷凍機の冷凍能力により常に十分吸収されており、最低温度付近では無視できるくらいであることが判る。このような僅かな到達最低温度の上昇という小さなデメリットは、冷却速度の向上という大きなメリットにより凌駕されている。
【0098】
このような特性を利用し、希釈冷凍ユニットのスティルや混合器、熱交換器を支持する各プレート間にも機能性熱結合体を設けることで、温度平衡点を次々と低温にして行くことができ、短時間で最低温度に到達することができ、低温プレートに熱接触される被冷却物を安定して低温に維持できる。また、無冷媒冷凍機の構造を簡単にすることができ、安価にもなり、構造も強固になる。
【0099】
このように実施の形態1においては、機能性熱結合体としてこの第1乃至第4グラファイト棒41,42,43,44を各プレート間に介在させて、受動的熱スイッチ機能と、支持体としての機能を同時に担わせている。同時に、上述した流路16を流路16aと流路16bに分けて、バルブ17a,17bを切り換えることにより、一方の流路16aを予冷路とし、もう一方の流路16bを通常運転時の流路としている。このバルブ17a,17bを切り換える温度と、機能性熱結合体の温度平衡点とが近ければ、より効果的、円滑に予冷運転の状態から希釈冷凍ユニットの運転に移行する(切り離す)ことができる。
【0100】
なお、このような機能性熱結合体を設けることと、流路切り換えによる予冷を行うことは両立するもので、実施の形態1のように機能性熱結合体と並行して流路切り換えを行うのでも、機能性熱結合体だけを設けるのでもよい。場合によっては、流路切換だけで予冷路を形成することもある。重要なことは、機能性熱結合体はガスギャップ熱スイッチが使えない温度、環境でも熱スイッチとして機能する。
【0101】
このように実施の形態1によれば、数十mKクラスの極低温に短時間で到達することができ、構造が簡単、軽量で安価であり、強固な構造の無冷媒冷凍機を提供できる。ランニングコストも格段に安価になる。
【0102】
また、実施の形態1のステップ熱交換器によれば、内部に配設された焼結銀は、隔壁に使用されている銀板となじみが良いのに加え、銀板が高熱伝導率のため、ステップ熱交換器の熱交換効率を格段に向上させることができる。そして、超流動するHeがステップ熱交換器から漏れたときでも、締結体を締め直すか、両者を分解して修理することが可能になる。
【0103】
さらに、実施の形態1では、GM冷凍機の第1ステージを利用して活性炭トラップを冷却するため、特別な構成を設けることなく、活性炭トラップを十分冷却することができ、ヒータを加熱し局部的に温度を上げて不純物を放出することもできる。この間GM冷凍機3の運転を停止する必要がなく、不純物排出後Heガスの循環を開始すると、直ちに希釈冷凍動作を再開させることができる。
【0104】
また、実施の形態1においては、機能性熱結合体として複数のグラファイト棒を各プレート間に介在させて、受動的熱スイッチ機能と、支持体としての機能を同時に担わせることができる。ガスギャップ熱スイッチのような精度の高い精密工作を行う必要はなく、ガスによるブリッジが形成されない。さらに、温度変化による自己制御によって切り換り、外部から制御する必要もない。そして、低温になると残留ガスを吸着し、断熱性を向上させることができる。
【0105】
また、希釈冷凍ユニットを循環するHeの流路を分けて、バルブを切り換えることにより、一方の流路は予冷路とし、もう一方の流路は通常運転時にHeを流すための流路とすることができる。予冷が簡単に行え、短時間で最低温度に到達することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、数十mKクラスの極低温に短時間で到達することができ、安価で、簡単な構造を有し、メンテナンスの容易な無冷媒冷凍機と、熱スイッチに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態1における無冷媒冷凍機の構成図
【図2】本発明の実施の形態1における無冷媒冷凍機のステップ熱交換器の構成図
【図3】グラファイトとアルミナの低温度域での熱伝導率を示すグラフ
【図4】グラファイト熱結合体の特性を示すグラフ
【図5】グラファイト熱結合体の有無と数で冷却時間を比較したグラフ
【図6】図5の一部を拡大表示したグラフ
【符号の説明】
【0108】
1 真空容器
2 熱輻射シールド
2a 第2の熱輻射シールド
3 GM冷凍機
Heタンク
5 試料装着装置
5a 上側支持筒部
5b 下側支持筒部
6 無冷媒超電導マグネット
7a 真空ポンプ
7b コンプレッサー
8 インピーダンス
9 低温プレート
10 フランジ
11 第1ステージ
12 第2ステージ
13 40Kプレート
14 4Kプレート
14a フレキシブル熱伝導体
15 排気パイプ
16,16a,16b 流路
17a,17b,17c,17d,17e,17f,17g バルブ
18a,18b,19a,19b,20a,53 熱交換器
20 トラップ
20b 熱結合体
20c ヒータ
21 JT熱交換器
22 JT弁
23 試料装着ガイド
30 試料ホルダ
31 試料
32 ヒータ
33 温度センサ
41 第1グラファイト棒
42 第2グラファイト棒
43 第3グラファイト棒
44 第4グラファイト棒
51 混合器
52 スティル
54,57 プレート
55 チューブインチューブ型熱交換器
56 ステップ熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の最低温度まで温度降下させることができる第1の冷却段と、前記第1の最低温度より低い第2の最低温度まで温度降下させることができる第2の冷却段とを備え、真空容器内で前記第1及び/又は第2の冷却段を使って被冷却物を冷却するための無冷媒冷凍機であって、
前記第1の冷却段と第2の冷却段との間には、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有する固体物質で作った無冷媒冷凍機段間用の受動的熱スイッチ機能を有する機能性熱結合体が配設され、
前記被冷却物を前記第1の最低温度以下に温度降下させるとき、前記機能性熱結合体が前記第1の冷却段と前記第2の冷却段との間を熱結合し、前記被冷却物の温度が高いときは熱結合度を高く、前記被冷却物の温度が該第1の温度平衡点に近づくにつれて前記第1の冷却段と第2の冷却段との間の熱結合度を急激に低い状態にすることを特徴とする無冷媒冷凍機。
【請求項2】
前記第2の最低温度より低い第3の最低温度まで温度降下させることができる第3の冷却段を備え、前記第2の冷却段と第3の冷却段との間には第2の機能性熱結合体が配設され、
前記第2の機能性熱結合体が第2の温度平衡点まで前記第2の冷却段と前記第3の冷却段との間を熱結合し、前記第3冷却段の温度が高いときは熱結合度を高く、前記第3冷却段の温度が該第2の温度平衡点に近づくにつれて前記第2の冷却段と第3の冷却段との間の熱結合度を急激に低い状態にすることを特徴とする請求項1記載の無冷媒冷凍機。
【請求項3】
前記被冷却物を低温状態に維持するため、各冷却段の間に順次温度平衡点が低下する1段又は2段以上の中間段が設けられ、
前記中間段間及び前記中間段と前記冷却段との間にも機能性熱結合体が設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の無冷媒冷凍機。
【請求項4】
前記第3の冷却段が、He濃厚相とHe希薄相の相界面を形成しHe原子がHe希薄相液に拡散するときのエントロピー変化によって前記被冷却物を冷却する希釈冷凍ユニットの混合器であって、前記第1の冷却段、前記第2の冷却段、ジュールトムソン熱交換器によって冷却されたHeガスをジュールトムソン弁で液化し、スティルと熱交換した後、前記混合器に熱交換器を通して導入し、前記エントロピー変化によって冷却を行い、さらにHe原子を前記混合器から熱交換器を通してスティルに移動し選択的に蒸発させることを特徴とする請求項2又は3記載の無冷媒冷凍機。
【請求項5】
前記混合器に導入されるHe液と前記混合器から循環を開始するHe液との間で熱交換するステップ熱交換器を備え、
前記ステップ交換器が、隔壁となる銀板と、該銀板を挟んだ一対の焼結銀と、該焼結銀をそれぞれ覆う一対の蓋とを具備し、前記銀板と前記蓋とを締結部材によって締結したことを特徴とする請求項4記載の無冷媒冷凍機。
【請求項6】
気化したHeを循環する流路にトラップが設けられ、該トラップが前記第1の冷却段に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5記載の何れかの無冷媒冷凍機。
【請求項7】
前記トラップには不純物を気化するためのヒータが設けられていることを特徴とする請求項6記載の無冷媒冷凍機。
【請求項8】
気化したHeを循環する流路が第1の流路と、該第1の流路よりインピーダンスの低い予冷のための第2の流路とに分岐され、予冷時にのみ前記第2の流路を通して、前記第1及び第2の冷却段で冷やされたヘリウムガスが前記希釈冷凍ユニットに流れることにより前記希釈冷凍ユニットを予冷することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の無冷媒冷凍機。
【請求項9】
真空容器中の無冷媒冷凍機と被冷却物との間に配設され、前記無冷媒冷凍機と前記被冷却物間で熱伝導を行う連続運転冷凍機用の機能性熱結合体であって、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有し、温度が高いときは熱結合度が高く温度が低くなると急激に熱結合度が低下する無冷媒冷凍機用の受動的熱スイッチ機能を有する固体物質からなることを特徴とする機能性熱結合体。
【請求項10】
真空容器中の無冷媒冷凍機の高温側の冷却段及び/又は中間段と低温側の冷却段及び/又は中間段との間に配設され、前記高温側の冷却段及び/又は中間段と前記低温側の冷却段及び/又は中間段で熱伝導を行う連続運転冷凍機用の機能性熱結合体であって、所定の温度以下で絶対零度に向けて温度の冪に比例して急激に減少する熱伝導率を有し、温度が高いときは熱結合度が高く温度が低くなると急激に熱結合度が低下する無冷媒冷凍機段間用の受動的熱スイッチ機能を有する固体物質からなることを特徴とする機能性熱結合体。
【請求項11】
前記固体物質がグラファイト,アルミナ,ベリリアの中の何れか1種の物質であることを特徴とする請求項9又は10記載の機能性熱結合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−74774(P2009−74774A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246525(P2007−246525)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業、大学発ベンチャー創出推進、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】