説明

無方向性電気鋼板用のコーティング溶液,これを用いた無方向性電気鋼板のコーティング方法及び無方向性電気鋼板のコーティング層

無方向性電気鋼板用のコーティング溶液が提供される。前記無方向性電気鋼板用のコーティング溶液は,硫酸バリウム(BaSO)20〜40重量%と,二酸化チタン(TiO)10〜20重量%と,イオン水15〜30重量%と,高沸点溶媒のエチレングリコール並びにグリセリンを含有するメラミン系樹脂30〜50重量%とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無方向性電気鋼板用のコーティング溶液,これを用いた無方向性電気鋼板のコーティング方法及び無方向性電気鋼板のコーティング層に係り,より詳しくはクロムを含まない無方向性電気鋼板用のコーティング溶液,これを用いた無方向性電気鋼板のコーティング方法及び無方向性電気鋼板のコーティング層に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,無方向性電気鋼板は全方向に磁気的性質が均一な圧延鋼板であり,モータ,発電機の鉄心,電動機,小型変圧器などに広く使用されている。特に,無方向性電気鋼板は,電気損失低減のための低鉄損化(冷蔵庫,工場用モータ),小型化/高効率化のための高磁束密度化(電気掃除機用モータなど)及び高出力のための周波数の増加に対応する極薄化(OA機器,電気自動車駆動モータ)などのための高品質化が進む傾向にある。
【0003】
このような高品質化の傾向にある無方向性電気鋼板において,効率的なエネルギー利用の面で高絶縁性を付与する厚い絶縁コーティング層(厚膜)は必須である。例えば,中型及び大型電動機,発電機及び変圧器用に使用される無方向性電気鋼板は鋼から形成された積層体が打ち抜きされた状態で使用される場合に層間電流損失を最小化するために,高水準の絶縁性を提供する絶縁皮膜を必要とする。このような高水準の絶縁性は応力除去焼きなまし(SRA;Stress-Relief Annealing)処理などの熱処理後にも要求され得る。
【0004】
また,高品質の無方向性電気鋼板はシリコン含量が高いため,基材の硬度の増加によりスリッティング及び打ち抜き加工の際,スリッターとプレス(Press)が高い応力を受けて加工性が低下するという問題が生じるので,厚いコーティング層の形成が要求される。このような高品質の無方向性電気鋼板は電気/電子事業の未来を主導すると予想される。
【0005】
一方,無方向性電気鋼板用の絶縁コーティング層を形成するための溶液は,大別して無機,有機,有機無機複合コーティング溶液の3種があり,無機コーティング溶液を先に塗布した後,有機コーティング溶液を塗布する方法も研究されている。
【0006】
無機コーティング溶液はリン酸塩などの無機物を主成分とし,耐熱性,溶接性,積層性などが優れたコーティング層を形成することができるので,EIコア用に使用されている。しかし,この絶縁コーティング層は硬度が高いため,打ち抜きの際,金型の損傷が有機物を含有したコーティング層を使用した場合よりも早い。結果的に,無機コーティング溶液は打ち抜き加工性が望ましくない。
【0007】
有機コーティング溶液は有機物を主成分として打ち抜き性の面で非常に優れている。また,膜厚を大きくしても密着性が良好であるので,高い層間絶縁性が要求される大型鉄心に多く使用される。有機皮膜の溶接性は,溶接の際,樹脂分解ガスが発生して良好ではない。
【0008】
このような理由で,耐熱性,絶縁性などを重視して,リン酸塩,クロム酸塩などの無機材料の打ち抜き加工性の低さを補って,有機材料と無機材料を同時に使用する有機無機複合コーティング溶液が開発された。このような絶縁コーティング溶液を使用して形成したコーティング層の場合,無機材料の特性である耐熱性と有機材料の潤滑効果を同時に満たし,表面の外観も美しい。
【0009】
また,無方向性電気鋼板の絶縁性を向上させるために,さまざまな組成の組合せが応用されている。現在,主要製造業者で製品化されている大部分の無方向性電気鋼板の絶縁皮膜溶液はリン酸塩とクロム酸塩を基にしている。リン酸塩とクロム酸塩は,基板金属の耐熱性,絶縁性及び耐食性を大きく向上させる役目をしている。
【0010】
有機無機コーティング剤を利用した絶縁コーティング層の形成方法としては,大韓民国特許第25106号公報,同第31208号公報,米国特許第4,316,751号公報,同4,498,936号公報などに開示され,周知である。また,日本国特公昭50−15013号公報は,重クロム酸塩,酢酸ビニル,ブタジエン−スチレン共重合体,アクリル樹脂などの有機樹脂エマルジョンを主成分とする処理液を利用して絶縁皮膜を形成することを開示している。クロム酸塩を使用する場合,クロム酸塩は基層のFe酸化層との水素結合が形成されて,密着性並びに打ち抜き性などを含むコーティング特性を得ることができ,またSRAの後にも良好なコーティング特性を示し得る。しかし,前記例示した従来のコーティング溶液の組成はクロム酸化物の含有が必須であり,これによる人体への悪影響と環境問題が生じる。前記のような問題で,6価クロムを含む重金属物質の使用に対してEU諸国の有害物質使用制限指令(RoHS:Restriction of the use of Hazardous Substances)などの環境規制が強化されている現実に鑑みて,その用途が制限的になるしかない実情である。
【0011】
したがって,最近,電気鋼板コーティング剤の無クロム化が活発に進んでいる。このようなコーティング材の調製方法は,クロム酸の欠如に起因する耐食性及び密着性の低下を向上させるために,リン酸塩を導入する方法と,コロイダルシリカを添加してバリア効果を誘発する方法とに大別される。前者は,日本国特開2004−322079号公報に開示されているように,リン酸アルミニウム(Al(HPO),リン酸カルシウム(Ca(HPO),リン酸亜鉛(Zn(HPO)を適切に混合した金属リン酸塩を使用して密着性と耐食性を向上させた。しかし,金属リン酸塩を使用する場合,リン酸塩に存在する遊離リン酸がコーティング層の粘着性を誘発し得る。
【0012】
一方,コロイダルシリカの添加によってバリア効果を高めた代表的な例として,大韓民国特許公開第1999−026911号公報,日本国特許第3370235号公報に開示されたように,コロイドシリカ,アルミナゾル,酸化ジルコニウムから選択された1種又は2種以上の無機材料を使用してSRA後の耐食性,密着性及び平滑性を確保し,シランカップリング剤を添加して密着性や耐溶剤性を向上させた技術が提案された。また,樹脂とシリカの表面積の割合が適当な場合,薄い分散コーティング層の形成による密着性及び耐食性の向上が日本国特許第3320983号公報に開示されている。しかし,前述したリン酸塩又はコロイダルシリカを主材とするクロムを含まないコーティング溶液は,リン酸塩の使用が粘着性をもたらし,コロイダルシリカは耐食性の向上に限界があるため,これを用いたクロム酸化物に完璧に替わる技術の商用化は未だ難しい状態である。
【0013】
前述したコーティング剤の使用以外に,150℃以上の無方向性電気鋼板の表面で無方向性電気鋼板の電流の流れの大部分を遮断するか,或いは,無方向性電気鋼板の層間の完全な絶縁を達成するために2次コーティングを実施した後,第1のコーティング層と第2のコーティング層との間に密着性を付与するために,表面に機能性を付与するべく機能性樹脂と無機充填剤とを含む厚膜用コーティング溶液を利用した高機能の無方向性電気鋼板製品が製造されており,このような製品は欧州の鉄鋼メーカー(コゲント(cogent),TKS等)から市販されている。
【0014】
この製品は主に高付加価値を有し環境に優しい製品である大型発電機用(水力,火力,風力)及び高速鉄道用モータの製造に使用されており,前述した高絶縁性,耐熱性及び2次コーティング性以外に,無方向性電気鋼板の表面に耐食性と基材との密着性及びメタルアルゴンガス(MAG;Metal Argon Gas)溶接性までも要求する。
【0015】
基材の厚みの二乗に比例する電流損失(渦電流損失)を最小化するために,無方向性電気鋼板の両面に厚い絶縁皮膜を形成して高い表面抵抗率を提供すると共に表面に高機能性を付与した代表的な例としては,アームコ社(ARMCO)で出願した大韓民国特許出願第1998−0056329号公報,及び同1998−1193287号公報である。これらの特許に開示された絶縁コーティング溶液の組成は,アルミニウムリン酸塩,無機珪酸塩粒子及び水溶性有機溶媒を含むアクリル樹脂で構成され,ここで使用した珪酸塩粒子の寸法は0.3〜60μmであり,エマルジョンタイプのアクリル樹脂の粒径は1μm以下である。しかし,これらの特許も金属リン酸塩を使用するため,リン酸塩に存在する遊離リン酸がコーティング層の粘着性と遊離リン酸塩の析出に関連した問題が発生し得るため不都合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって,本発明は,絶縁性,耐熱性,耐食性,密着性及び2次コーティング性に優れた無方向性電気鋼板用のコーティング溶液,これを用いた無方向性電気鋼板のコーティング方法及び無方向性電気鋼板のコーティング層を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば,無方向性電気鋼板用のコーティング溶液は,硫酸バリウム(BaSO)20〜40重量%と,二酸化チタン(TiO)10〜20重量%と,イオン水15〜30重量%と,高沸点溶媒としてエチレングリコール並びにグリセリンを含有するメラミン系樹脂30〜50重量%とを含み得る。
【0018】
本発明において,硫酸バリウムは粒径1〜3μmの斜方晶状であり,メラミン系樹脂との分散性と溶液安定性を示し,酸化チタンは粒径50〜200nmの球形である。
【0019】
また,無方向性電気鋼板のコーティング方法は,前記コーティング溶液を鋼板に塗布した後,300〜600℃の温度で10〜30秒間加熱処理してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,無方向性電気鋼板用のコーティング溶液は,クロムを含まないながらも溶液安定性,絶縁性,耐熱性,耐食性,密着性及び2次コーティング性に優れる。特に,無方向性電気鋼板の高絶縁性と耐熱性を確保するために,耐熱性に優れた互いに異なる形状と寸法を有する2種の無機充填剤,すなわち硫酸バリウム及び二酸化チタンを利用し,作業の安定性のために,高沸点溶媒としてエチレングリコールとグリセリンを含む溶液安定性,耐熱性,及び電気鋼板用の基材と充填剤との間の接着力に優れたメラミン系樹脂を利用する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【図2】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【図3】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【図4】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【図5】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【図6】本発明の無方向性電気鋼板のコーティング層の優れた性質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,当業者が本発明の技術的範囲を容易に理解できるように本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。しかし,本発明はここで説明する実施例に限定されず,他の形態で具現化することもできる。本発明の実施形態は単に本発明を綿密かつ完全に開示し,当業者に本発明の技術的範囲が充分に伝わるよう提供するものである。
【0023】
本発明の無方向性電気鋼板用の最適なコーティング溶液は,粒径1〜3μmで斜方晶状の硫酸バリウム(BaSO)20〜40重量%と,粒径50〜200nmで球状の二酸化チタン(TiO)10〜20重量%と,イオン水15〜30重量%と,高沸点溶媒としてエチレングリコール及びグリセリンを少量含む接着力に優れたメラミン樹脂30〜50重量%を含むことを特徴とする。
【0024】
前記重量比の溶液組成物は常温で長期間ゲル化しなくても安定性が非常に高く,コーターを使用して片面当たり4〜8μmの範囲の厚みに塗布した後,300〜600℃で10〜30秒間加熱処理をして絶縁皮膜を形成する。それにより,無方向性電気鋼板の表面に,非常に優れた絶縁性,耐熱性,耐食性,密着性及び2次コーティング性を有するコーティング組成物を提供する。
【0025】
一方,本発明者は高い機能性を有する高品質の無方向性電気鋼板の表面品質を向上させるために,高機能を有する絶縁皮膜を形成可能な溶液の開発に関する研究を行い,その結果に基づいて本発明を提案する。
【0026】
以下の実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0027】
(実施例)
前述したように,本発明の基本概念は,無方向性電気鋼板用のコーティング溶液に環境にとって有害なCrと,遊離リン酸塩の析出に関する問題を有する金属リン酸塩を排除すると共に電気鋼板の表面に高い機能性を付与することにある。本コーティング溶液は大別して2段階に分けて製造した。
【0028】
第1段階は,無機充填剤とエマルジョン樹脂の相溶性を評価するために,充填剤のタイプとエマルジョン樹脂を決める段階である。無機充填剤とエマルジョン樹脂の相溶性の評価方法は,まずエマルジョン樹脂50重量%と無機充填剤50重量%を混合し,高速撹拌器(1000〜3000RPM)で1時間混合し,常温で24時間維持した後,溶液のゲル化及び相分離の程度によって溶液の相溶性を評価した。
【0029】
本発明で使用した無機充填剤は,硫酸バリウム(BaSO),二酸化チタン(TiO),炭酸カルシウム(CaCO),二酸化珪素(SiO)及びタルク(3MgO.4SiO.HO)を使用した。各無機充填剤の形状及び基本物性は表1に要約した。
【0030】
【表1】

【0031】
また,エマルジョン樹脂としては,エステル系樹脂,メラミン系樹脂,エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂を使用し,各樹脂の基本物性は表2に示した。
【表2】

【0032】
表1と表2の無機充填剤とエマルジョン樹脂からなる20種の組合せで調製された溶液の相溶性の評価結果を以下の表3に示す。無機充填剤とエマルジョン樹脂の相溶性評価の区分は◎優秀,○良い,△不良,×非常に不良で表示した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3の評価結果から分かるように,エステル系樹脂,メラミン系樹脂,アクリル系樹脂は,硫酸バリウム(BaSO),二酸化チタン(TiO)及び炭酸カルシウム(CaCO)との良好な相溶性を示し,特にメラミン系樹脂は硫酸バリウム(BaSO),二酸化チタン(TiO)及び炭酸カルシウム(CaCO)との優れた相溶性を示した。
【0035】
表3の結果に基づき,溶液相溶性に非常に優れた無機充填剤とエマルジョン樹脂の4種の組合せで溶液を調製した。以下の表4は,分散性並びに作業性を含む溶液の基本的な物性と,溶液を塗布し乾燥させた無方向性電気鋼板の表面の基本的な特性を示す。無機充填剤とエマルジョン樹脂の4種の組合せは,硫酸バリウムとメラミン系樹脂,二酸化チタンとメラミン系樹脂,炭酸カルシウムとメラミン系樹脂,及び二酸化チタンとアクリル系樹脂の組合せで溶液を製造し,さまざまなバーコーターで無方向性電気鋼板の試片に4〜6μmの厚みで塗布し,300〜500℃の乾燥炉で20〜30秒間乾燥させた後,表面状態,密着性,耐食性を評価した。
【0036】
【表4】

【0037】
表4の評価結果から分かるように,溶液の作業性と分散性は,硫酸バリウムとメラミン系樹脂との組み合わせ及び炭酸カルシウムとメラミン系樹脂との組合せでなる溶液が優秀であった。これは,硫酸バリウムと炭酸カルシウムの充填剤の寸法が1〜3μmで,二酸化チタンの寸法である50〜100nmより相対的に大きいため分散が容易であり,コーティングの際に凝集やバーコーターの詰まり現象がなく,作業性が良好となるためであると考えられる。乾燥後の表面状態,密着性及び耐食性は,二酸化チタンとメラミン系樹脂との組み合わせ及び二酸化チタンとアクリル系樹脂との組合せが,硫酸バリウムとメラミン系樹脂と炭酸カルシウムとメラミン系樹脂との組合せに比べて優秀であった。これは,充填剤の寸法が相対的に小さく,コーティング層が緻密であるため,相対的に優れた表面特性が得られたためである。以上の結果から,コーティング溶液に関する分散性と安定性,表面特性に関する密着性と高絶縁性を同時に満たすのは,硫酸バリウムとメラミン系樹脂,又は,二酸化チタンとメラミン系樹脂でなる溶液を使用した場合である。
【0038】
第2段階は,前記決定された無機充填剤と樹脂を基にして優れた表面特性を確保するための無機充填剤と樹脂との最適な組成比を決定する段階である。さらに,本発明では,コーティング層内の緻密性を向上させるために,互いに異なる寸法を有する2種の無機充填剤を使用することを特徴とする。表5は,表4の結果から分かるように,分散性と安定性に優れたメラミン樹脂と互いに異なる寸法を有する2種の無機充填剤の組合せによって混合された溶液の物性を示す。ここで,硫酸バリウムと炭酸カルシウムは類似の粒径を有するため,硫酸バリウムと炭酸カルシウムの組合せはコーティング層の緻密性の面で不利であるので,本発明では硫酸バリウムと二酸化チタンとの組み合わせ並びに炭酸カルシウムと二酸化チタンとの組み合わせを使用した。無機充填剤全体に対するメラミン樹脂の組成比は4:6に設定され,作業性,分散性及び電気鋼板の表面特性を測定した。
【表5】

【0039】
表6は,表5に示した組成を基に互いに異なる寸法を有する2種の無機充填剤をメラミン系樹脂に分散させてコーティング溶液を製造した後,該溶液をバーコーターを用いて無方向性電気鋼板の試片に4〜6μmの厚みで均一に塗布して300〜500℃の乾燥炉で20〜30秒間乾燥させた後に表面特性を測定した結果を示す。ここで,コーティング厚さは膜厚計(デルタスコープ)で測定し,耐食性は塩水噴霧試験(35℃,5%のNaCl,95%湿度,8時間)を行い,発錆状態を測定した。また,コーティング層の絶縁性はフランクリン絶縁試験機(Franklin Insulation Tester)で測定し,密着性は屈曲試験機を利用し,10mΦでコーティング試片を180°曲げた際の内部コーティング層の剥離の有無を観察して測定された。2次コーティング性は,2次コーティング溶液を第1のコーティング層に塗布及び乾燥した後,第1のコーティング層と第2のコーティング層の表面状態と密着性を測定することにより測定される。耐熱性は経時後(熱レベルH 180℃,24時間)に表面の密着性と剥離の有無を測定することにより測定される。
【0040】
【表6】

【0041】
表6の実験の結果から分かるように,硫酸バリウムと二酸化チタンとの組合せによって得られる表面特性は,炭酸カルシウムと二酸化チタンとの組合せによって得られる表面よりも耐食性,密着性,絶縁性及び2次コーティング性において優れている。これは,硫酸バリウムの無機充填剤粒子が炭酸カルシウムの無機充填剤粒子より相対的に小さく,二酸化チタンとの緻密性に優れているためであると考えられる。したがって,本発明で最も有用な2種の無機充填剤は硫酸バリウム及び二酸化チタンと決定され,表1に示すように,硫酸バリウムは粒径1〜3μmの斜方晶状であり,二酸化チタンは粒径50〜100nmの球形であった。2種の無機充填剤である硫酸バリウムと二酸化チタンの分散方法を参照すると,二酸化チタンと硫酸バリウムを順次にメラミン樹脂に添加し,2000rpm以上の高速撹拌器で1時間以上撹拌して分散した。
【0042】
以上の実験結果から選定された2種の無機充填剤とメラミン系樹脂を使用してコーティング作業性と表面特性を同時に満たすことのできる樹脂と無機充填剤との最適な組成物を決定するための実験を実施した。表7は樹脂と充填剤の組成による作業性及び表面特性を実験した結果を示した。特に,表7はロールコーターに適した作業性を確保するために,溶液に一定量の水を添加して粘度を45〜50cPに調節した後,得られた溶液を無方向性電気鋼板の表面に塗布した。
【0043】
【表7】

【0044】
表7の結果から分かるように,メラミン系樹脂と無機充填剤全体の質量比が3:7〜5:5の範囲の場合に表面特性が最も優秀であり,樹脂と無機充填剤全体の比が3:7の場合,メラミン樹脂の含量が足りないため密着性が低く,5:5より高い場合,コーティング層における充填剤の緻密度が低く,耐食性も低いという望ましくない結果を示した。
【0045】
また,硫酸バリウムと二酸化チタンの質量比が3:1より高い場合,2種の無機充填剤で構成されたコーティング層の緻密度は低く,それにより耐食性が低い。1:1よりも低い質量比ではナノ粒径の二酸化チタン粉末の凝集現象が発生して作業性が低かった。したがって,硫酸バリウムと二酸化チタンの質量比が3:1〜1:1の範囲の場合の作業性が最も優れていた。
【0046】
以上の結果から,本発明は,耐熱性を確保するために無機充填剤(BaSO,TiO)を使用し,高絶縁性,密着性及び耐食性を同時に満たすために,形状と寸法の異なる2種の無機充填剤を使用した。溶液は高速回転撹拌器を使用し,分散剤を用いずに樹脂と充填剤を均一に混合した。
【0047】
図1〜図6は実施例6の組成比で調製した溶液を塗布し乾燥させた電気鋼板の表面,断面及び表面特性を写真で示した。図1はコーティング層の表面の走査電子顕微鏡写真であり,表面粗度(Ra)が約0.25μmと非常に低く,鉛筆硬度が9Hと非常に高い。図2は表面密着性を示す。クロスカット試験及びテープ剥離試験で測定した結果,剥離現象がなく,密着性が5Bの水準と優秀である。図3は塩水噴霧試験機(5%のNaOH,35℃,8時間)の結果を示すもので,表面に錆が一部発生するが,耐食性は非常に良好な水準であることが分かった。図4は第1のコーティング層上に第2のコーティング層(ワニス)を塗布した場合を示すもので,コーティング厚さが11μm以上でも第2のコーティング層が優れていた。図5は2次コーティング後のクロスカット試験及びテープ剥離試験の結果を示すもので,密着性が5Bの水準と非常に優秀であった。
【0048】
図6は基材10上にコーティング層20が塗布された状態を示す写真である。互いに異なる形状と寸法を有する無機充填剤がコーティング層に非常に緻密に分布していることが分かり,コーティング層の厚みは5〜6μmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸バリウム(BaSO)20〜40重量%と,二酸化チタン(TiO)10〜20重量%と,イオン水15〜30重量%と,高沸点溶媒のエチレングリコール並びにグリセリンを含有するメラミン系樹脂30〜50重量%とを含む無方向性電気鋼板用のコーティング溶液。
【請求項2】
前記硫酸バリウムは1〜3μmの寸法の斜方晶状であり,前記メラミン系樹脂と前記硫酸バリウムとの分散性と溶液安定性を有する請求項1記載のコーティング溶液。
【請求項3】
前記酸化チタンは球形であり,50〜200nmの粒径を有し,前記酸化チタンの結晶構造はルチル及びアナターゼからなる請求項1記載のコーティング溶液。
【請求項4】
請求項1記載のコーティング溶液を鋼板に塗布した後,300〜600℃の温度で10〜50秒間加熱処理することを含む無方向性電気鋼板のコーティング方法。
【請求項5】
請求項4記載のコーティング方法で製造された無方向性電気鋼板のコーティング層。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか1項記載のコーティング溶液を使用して形成されたコーティング層を有する無方向性電気鋼板。
【請求項7】
請求項6記載の無方向性電気鋼板を少なくとも一部に含む電気製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−508084(P2011−508084A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540543(P2010−540543)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【国際出願番号】PCT/KR2008/002807
【国際公開番号】WO2009/084777
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(504201187)ポスコ (11)
【出願人】(506177497)エーケー ケムテック カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】