説明

無果汁炭酸飲料

【課題】柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料において、柑橘フレーバーの香味変化が抑制された上に、元来柑橘類が有するフレッシュ感があって、切れのある香味の保持を実現できる無果汁透明炭酸飲料の香味劣化防止方法を提供すること。
【解決手段】柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することにより、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味の劣化を有効に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味の劣化の抑制された柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料、及びその製造方法、特に、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することにより、無果汁炭酸飲料の香味の劣化を防止する方法、及び該香味の劣化防止方法を用いて製造された柑橘系フレーバーを付与した容器詰無果汁炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
レモン、ライム、グレープフルーツやオレンジ等の柑橘系フレーバーを添加した無果汁炭酸飲料は、古くから人気のある清涼飲料である。しかし、温度及び光による香味の変化がほかの飲料に比べて感じやすく、時として製造時のフレッシュ感が損なわれて美味しさが低下することもあった。特に、以前はビンや缶などに充填されていたものが、最近はPETボトルに充填されることが多くなり、更にその傾向は顕著となっている。
【0003】
またこれらの飲料は、別途製造した濃縮シロップを飲用時に希釈することでも調製可能である。しかし、その際であっても濃縮シロップ自体の柑橘系フレーバーの香味が劣化して、結果として飲料の美味しさが損なわれている場合があった。これらの香味の変化は柑橘系香料に含まれる主要香気成分であるシトラールの分解反応に起因するものであるといわれている。シトラールはレモン様のフレッシュな香気を有するが、不安定で酸性条件下で酸化反応をおこして分解する。つまり、シトラールが減少し酸化物が生成することにより、飲料の香味が劣化することになると考えられる。
【0004】
柑橘類フレーバーの劣化抑制については、古くからの課題であって、その劣化抑制のための多くの提案がなされている。例えば、特開平7−75535号公報には、ヒマワリの種子から得られた成分と、金属封鎖剤を併用して、炭酸飲料や果汁飲料等の光、熱、空気等による香味の劣化を防止することについて、特開平7−132073号公報には、ヒマワリの種子から得られた成分及びカテキン類と、金属封鎖剤を併用して、炭酸飲料や果汁飲料等の光、熱、空気等による香味の劣化を防止することについて、それぞれ開示されている。また、特開平7−135938号公報には、金属封鎖剤とコーヒー豆の水又はアルコール抽出物を、特開平8−23940号公報には、金属封鎖剤、フラボノール類、ヒマワリ抽出物をリンゴ抽出物と併用したものを、炭酸飲料や果汁飲料等の香味の劣化の防止のために用いることが開示されている。
【0005】
更に、特開平8−23939号公報には、イソクロロゲン酸、カフェー酸、クロロゲン酸、コウジ酸、ネオクロロゲン酸、フエルラ酸、プソイドクロロゲン酸、没食子酸と、リンゴ抽出物とを、炭酸飲料や果汁飲料等の香味劣化防止剤として用いることが示されている。また、特開2006−36980号公報には、ホワイトオーク抽出物を、特開2004−123788号公報には、抗酸化成分と遷移金属イオンを、特開2004−231894号公報には、ヤーコン抽出物を、特開2003−823834号公報には、柿タンニン由来物質等を、柑橘類フレーバーの劣化抑制剤として使用することが提案されている。
【0006】
開示されているこれらの方法の多くの劣化抑制剤は、特殊な抽出物類を劣化抑制剤として添加するものであり、その劣化抑制効果は確認できても、柑橘類フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の劣化抑制剤として使用するには、満足のいくものではない。すなわち、柑橘類フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料のようなものは、微妙な香味や外観を有するものであり、該無果汁炭酸飲料においては、上記のような無果汁炭酸飲料の劣化抑制剤では、オリジナルの香味や外観が異なってしまったり、或いは充分な効果が確認できなかったりするという問題が発生する。
【0007】
一方、特開平11−313646号公報には、無果汁透明炭酸飲料に対して、その製造するにあたり、脱気した希釈用原料水に少なくとも柑橘系香料を添加すると共に、飲料調合時にビタミンCを40〜100ppm添加し、柑橘系香料の香気成分の経時変化を防止すると共に、添加したビタミンCによる飲料の褐変を防止した無果汁透明炭酸飲料の製造方法が開示されている。この方法では、ビタミンCの添加量が多いと褐変の危害が否定できず、また、ビタミンCの添加量が少ないと効果が弱く、所定の効果が得られないという問題があり、そのため利用範囲が限られていた。
【0008】
なお、シトラールの分解反応は酸性条件下で促進されるという事実に基づき、pHを少しでも上げることで劣化抑制しようとする試みは清涼飲料業界ではたびたび行われていた。確かにこの方法によって劣化抑制の効果はあるものの従来pH調整に用いられてきたクエン酸三ナトリウム(結晶)、炭酸水素ナトリウム(重曹)、アスコルビン酸ナトリウム等を多量に用いた場合、ナトリウム塩の添加による香味品質の劣化が生じ、元々狙いとしていた柑橘類のフレッシュ感が減少してしまうという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開平7−75535号公報。
【特許文献2】特開平7−132073号公報。
【特許文献3】特開平7−135938号公報。
【特許文献4】特開平8−23939号公報
【特許文献5】特開平8−23940号公報。
【特許文献6】特開平11−313646号公報。
【特許文献7】特開2003−823834号公報。
【特許文献8】特開2004−123788号公報。
【特許文献9】特開2004−231894号公報。
【特許文献10】特開2006−36980号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、無果汁透明炭酸飲料における上記従来の劣化抑制剤の問題点を解消し、柑橘フレーバーの香味変化が抑制された上に、元来柑橘類が有するフレッシュ感があって、切れのある香味の保持を実現できる無果汁透明炭酸飲料の香味劣化防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討を行なう中で、無果汁炭酸飲料を調製するにあたり、カルシウム塩を添加して、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を一定濃度に保つことで、無果汁炭酸飲料の香味の劣化を有効に防止することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することにより、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味の劣化を有効に防止することからなる。本発明の方法は、基本的に無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度の調整によるものであり、微妙な香味や外観を有する無果汁炭酸飲料のような飲料においても、オリジナルの香味や外観を保持しつつ、香味の劣化を有効に防止することができる。
【0013】
本発明において、添加するカルシウム塩としては、好ましくは、乳酸カルシウムを挙げることができる。また、本発明において、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料は、容器詰め無果汁炭酸飲料として調製することができる。更に、本発明において、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料は、容器詰め濃縮シロップを希釈して調製した無果汁炭酸飲料として調製することができる。
【0014】
すなわち、具体的には本発明は、(1)柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することを特徴とする柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法や、(2)添加するカルシウム塩が、乳酸カルシウムであることを特徴とする上記(1)記載の柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法からなる。
【0015】
また、本発明は、(3)柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料が、容器詰め無果汁炭酸飲料であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法や、(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載の無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法を用いて製造したことを特徴とする香味の劣化が防止された容器詰柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造方法や、(5)上記(4)記載の無果汁炭酸飲料の製造方法により製造された、香味の劣化が防止された柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、微妙な香味や外観を有する柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料において、オリジナルの香味や外観を保持しつつ嗜好性に富んだ、しかも、香味の劣化を有効に防止した容器詰め無果汁炭酸飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することを特徴とする柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味の劣化防止方法、該無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法を用いて製造した香味の劣化が防止された容器詰柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料、及び該無果汁炭酸飲料の製造方法からなる。
【0018】
本発明で対象とする無果汁炭酸飲料とは、文字通り果汁が実質含まれていない炭酸飲料であって、果汁以外の原料、具体的には、ショ糖、果糖ブドウ糖液糖、オリゴ糖類などの糖質、ポリデキストロースなどの食物繊維、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどの甘味料、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコール、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸などの酸味料、各種着色料等は適宜配合できる。フレーバーについては柑橘類フレーバーを使用することを特徴とする。柑橘類フレーバーとは、飲料に配合した場合に、レモン、ライム、グレープフルーツ等の柑橘類を連想させるようなフレーバーを指す。これらフレーバーは実質的にシトラールを有効量含まれることで定義できる。
【0019】
一方、本発明で使用するカルシウム塩は、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウムなど食品原料として使用できるカルシウム塩であって、溶解時にアルカリ性を示すものであればいずれも使用可能である。香味の質の面からは乳酸カルシウムかグルコン酸カルシウムを使用することが好ましく、乳酸カルシウムを使用するのが最も好ましい。
【0020】
添加量は、カルシウムとして5〜65mg/100g、好ましくは10〜50mg/100g、更に好ましくは15〜30mg/100gである。これ以下だと、効果が弱く、これ以上だと香味に対してカルシウム塩由来の悪い影響が出てきてしまう。
【0021】
本発明による無果汁炭酸飲料には2つの実施形態がある。そのひとつはカルシウム濃度を特定した無果汁炭酸飲料をそのまま容器に詰めて製造販売する方法である。この容器詰め無果汁炭酸飲料の製造方法は、飲料調合時にカルシウム塩を特定量添加すること以外は、基本的には、通常の無果汁炭酸飲料の製造方法と同様であり、また、製造用水も同様のものが使用できる。なお、本発明の飲料の製造に際しては、必要に応じて、加熱殺菌、濾過による除菌等、容器詰飲料製造において一般的に行われる殺菌・除菌処理を実施しても良い。容器も効果が確認しやすいのはPETボトルであるが、もちろん、そのほかの容器も使用可能である。これらの飲料製造に係る一般的知識は、例えば「最新ソフトドリンクス」(光琳)に詳しい。
【0022】
本発明のもうひとつの実施形態は、カルシウム濃度を高めた容器詰めの無果汁濃縮シロップを別途製造しておき、飲用時に炭酸水で希釈する方法である。カルシウム濃度は飲用時に所定の濃度、すなわち、5〜65mg/100gになるようにすればよい。濃縮シロップは通常5〜10倍程度に希釈するのが一般的であるので、その分多めにカルシウムを添加しておけばよい。濃縮シロップについても、カルシウム塩、好ましくは乳酸カルシウムを使用する以外は通常の方法で製造すればよい。容器についてもバッグインボックスやガロンタンクなど、通常濃縮シロップを充填する容器を使用すればよい。
【0023】
本発明より製造された無果汁炭酸飲料は、製造後初発の香味は柑橘類のキャラクターがはっきりしていてフレッシュ感にあふれ、さらには良好な酸味も感じられて非常に好ましいものであった。保存後も従来法の重曹等、ナトリウム塩のみを用いてpHを調整した飲料と同等以上の劣化耐性を有し、同時に柑橘類特有のキレのある酸味も維持しており、非常に良好であった。
【0024】
以下に、本発明の詳細を実施例によって例示するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
[実施例1−6、比較例1−3]
表1の配合で原料を混合し、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料を調合した。
190ml缶容器に充填して容器詰め飲料(糖用屈折計示度:10°BX)を調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
得られた炭酸飲料を5℃及び35℃の保存区に4週間保存し、パネラー6名にてオリジナルの香味とその保持、及び香味劣化の抑制効果について官能評価を行った結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
[実施例7−12、比較例4−6]
表3の配合で原料を混合し、柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料用シロップを調合した。180g容ガラス瓶に充填して、80℃10分間のパストライザー殺菌をおこない冷却することで容器詰め濃縮シロップを調製した。
【0030】
【表3】

【0031】
得られた濃縮シロップを5℃及び35℃の保存区に4週間保存したのち、水道法の水質基準に適合する「飲用適」の水に二酸化炭素を圧入して調製した炭酸水(ガス内圧力0.4MPa)で容量5倍に希釈し、飲用濃度の炭酸飲料(糖用屈折計示度:10°Bx)を調製したうえで、パネラー6名にてオリジナルの香味とその保持、及び香味劣化の抑制効果について官能評価を行った結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
[実施例13]
原水については全イオン交換樹脂を用いて全イオン交換水を用意し、その後脱気処理を行った。糖類の果糖60kgを溶解し果糖ぶどう糖液糖177kgを合わせて、ストレーナー(150メッシュ)を通し、調合タンクに送った。更に、クエン酸(無水)3.3kg、クエン酸三ナトリウム(結晶)0.6kg、炭酸水素ナトリウム1.0kg、乳酸カルシウム2.4kgを溶解しストレーナー(150メッシュ)を通し調合タンクに送り、最後にレモンフレーバー1.2kg及びライムフレーバー1.2kgをストレーナー(150メッシュ)で濾過し調合タンクに添加し、用水適量を用いて総量2000kgの調合液に仕上げた。
【0034】
上記調合液についてストレーナー(150メッシュ)を通した後、速やかに冷却を行い、カーボネーターにて充填後ガス内圧力0.3MPaになるよう炭酸ガス付与を行い、別に用意した洗浄済みのPETボトルに、フィラーにて充填、キャッパーにてキャップを取りつけ、容器詰め炭酸飲料(糖用屈折計示度:10°Bx、カルシウム濃度:16mg/100g飲料)を製造した。製造したPETボトル入り無果汁炭酸飲料の風味について、パネラー10名により官能検査を行った。また、5℃及び35℃の環境で4週間保存した該炭酸飲料の風味についても同様に官能検査を行った。結果を表5に示す。オリジナルの香味に優れ、香味劣化の抑制効果も良好であり、保存後も優れた香味を保持していた。
【0035】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造に際して、無果汁炭酸飲料中にカルシウム塩を添加することによって、無果汁炭酸飲料中のカルシウム濃度を5〜65mg/100gに調整することを特徴とする柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法。
【請求項2】
添加するカルシウム塩が、乳酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法。
【請求項3】
柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料が、容器詰め無果汁炭酸飲料であることを特徴とする請求項1又は2記載の柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の無果汁炭酸飲料の香味劣化防止方法を用いて製造したことを特徴とする香味の劣化が防止された容器詰柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の無果汁炭酸飲料の製造方法により製造された、香味の劣化が防止された柑橘系フレーバーを付与した無果汁炭酸飲料。


【公開番号】特開2009−165370(P2009−165370A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4994(P2008−4994)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】