説明

無核トマト及びその生産方法

【課題】良好な品質を示す実質的に無核の単為結果トマトの提供、および、該無核トマトの生産方法の提供。
【解決手段】雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株と、雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む雄性不稔性トマト株を交雑させることにより生産される。この交雑により得られるトマトは実質的に無核である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無核(seedless)トマト及び該トマトの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの作物は、特定の温度範囲及び特定の環境条件下で結実する。前記した温度範囲及び環境条件を逸脱すると、十分量の稔性花粉が生じず、受粉及び受精が困難なために通常結実しない。例えば、トマトは15〜21℃(夜温)及び30〜35℃(日温)の狭い温度範囲で結実する。A.N.Lukyanenko,“Parthenocarpy in Tomato” Monographs on Theoretical and Applied Genetics,14,p.167−177(1991)。
【0003】
単為結果は受精なしでの果実の生産である。高いまたは低い日温または夜温、弱い光強度及び高い湿度のようなある環境条件が単為結果にとって好ましい。単為結果は人工的に誘発され得るか、または自然に起こり得る。単為結果を誘発させる場合、結実を助けるために各種の生長調節物質を使用することができる。例えば、地中海沿岸で冬から春にかけて生育させるトマト(Lycopersicon esculentum)において結実を助けるためにオーキシンが通常使用されている。
【0004】
天然または遺伝単為結果は絶対的または条件的であり得る。絶対的単為結果は、遺伝的不稔により生じ、外部刺激なしに起こり、栄養繁殖方法を必要とする。絶対的単為結果は、バナナやパイナップルのような果実で見られる。A.N.Lukyancriko,“Parthenocarpy in Tomato Monographs on Theoretical and Applied Genetics,14,p.167−177(1991)参照。条件的単為結果は、受粉及び受精の過程が狭い環境限界に依存するトマト及び他の種で見られる。すなわち、条件的単為結果では、環境刺激に応じて有核果または無核果が生産される。すなわち、例えば、ロシア国モスクワ近くのGribovskja Experimental Vegerable Stationからの単為結果トマト系統“Severianin”は、環境条件に依存して同等の重量を有する無核果または有核果を生産するという優れた能力を有することが判明した。Splittstoesser,Walter E.,“Temperature influences Parthenocarpic Fruit Production in Tomato”,Proc.Plant Growth Regal.Soc.Am.(1988)。天然の単為結果系統は、子房中に大量の生育促進物質を有し、その結果受粉の失敗または種子未成熟が果実の発育を妨げないことも公知である。
【0005】
世界中から単為結果を示す多くの栽培品種が研究されてきた。よって、多数の単為結果ソースが公知である。単為結果が1つ以上の劣性遺伝子により遺伝的にコントロールされることは公知である。単為結果をコントロールする多くの劣性遺伝子が公知である。これらの遺伝子は、pat、pat−1、pat−2、pat−3、pat−4及びpat−5である。短葯(sha)対立遺伝子が単為結果果実を生産することも判明している。種子発生サプレッサー(sds)対立遺伝子が無核のまたは非常に小さい核を微量含む通常の果実を生産することも判明している。
【0006】
単為結果果実の問題の1つは、品質が疑わしくなる傾向にあることである。例えば、単為結果果実の大きさは通常の果実に比して小さくなる傾向にある。また、単為結果果実の場合、酸度が低くなる傾向にあり、風味に悪影響を及ぼす。更に、単為結果果実、特にトマトは、低温条件下で生産したときに空洞などの各種奇形を生じることが多い。
【0007】
栽培トマト(Lycopersicon esculentum)は、米国及び世界中で最も重要な野菜の1つである。米国だけでも、毎年数百万トンのトマトが生産されている。作物の商業的な重要性から、栽培種の改良に対する努力が常に必要とされている。
【0008】
数種の単為結果無核トマトは公知である。例えば、トマト系統Farthest North由来のトマトの30%は無核である(Baggett,J.R.ら,Hortsci.,13(5):598(1978年10月);Baggett,J.R.ら,Hortsci.,13(5):599(1978年10月))。トマト系統Oregon 11及びGold Nugget由来のトマトの約50〜70%は無核である(Baggett,J.R.ら,Hortiscience.Alexandria American Society for Horticultural Science,17(6):984−985(1982年12月);Baggett,J.R.ら,Hortiscience.Alexandria,Va.:American Society for Horticultural Science,20(5):957−958(1985年10月))。更に、これらの無核トマトに関わる問題は、トマトを切ってみなければトマトが無核かを調べることができないことである。従って、従来の無核トマトを得るための方法では、無核果の収率が低い。この方法は、無核果を得るための実際的または商業的に有効な方法ではない。
【0009】
実質的に無核のトマトは、現在市販されていない。前記トマトが必要とされている。特に種を含む食品を食べることができない厳しい食事制限を受けている人のために良好な品質を有する前記トマトが特に必要とされている。例えば、胃腸管の破裂部分を修復するための手術から回復中の人は通常種を含む食品を食べることができない。種が胃腸管の修復部分の縫合に捕捉されて治癒過程を害し得るという問題がある。胃腸管の壁が十分に治癒しないと、また破裂することがある。
【0010】
更に、実質的に無核のトマトは、食品製造及び加工製品業界においても有用である。例えば、完全に無核のトマトは、加工前に種を取り除く必要がないため、トマトソースやトマトパスタ等の食品をより効率的に且つ低コストで製造することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の第1の目的は、良好な品質を示す実質的に無核の単為結果トマトを提供することである。本発明の第2の目的は、前記した無核トマトの生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、実質的に無核のトマト(Lycopersicon esculentum)を包含する。本発明のトマトは約100%の無核である。本発明の無核トマトは、雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株(Lycopersicon esculentum)と、雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む雄性不稔性トマト株(Lycopersicon esculentum)と交雑させることにより生産される。雄親及び雌親系統は、pat、pat−1、pat−2、pat−3、pat−4、pat−5、sha及びsdsのような単為結果遺伝子を含み得る。雄親及び雌親系統中の単為結果遺伝子は、本発明の無核トマトを確実に生産するためには同一でなければならない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無核トマトは、親系統の果実サイズを維持し、従って市場で許容され得るサイズの無核トマトを得るための手段が提供される。本発明の無核トマトは、良好な風味(糖及び酸バランス)をも有し、空洞のような奇形を示さない。
【0014】
本発明は、無核トマト(Lycopersicon esculentum)及び無核トマトの生産方法を包含する。本明細書中、用語「無核トマト」は、受精した成熟種子を含まないトマトを指す。本発明のトマトは受精した成熟種子を含まないが、小さい白色の未受精子房を含んでいてもよい。こうした未受精子房は真の種子とみなさない。
【0015】
本発明の無核トマトは実質的に無核である。本明細書中、用語「実質的に無核」は、トマトが少なくとも90%の無核であることを意味する。好ましくは、本発明の無核トマトは、好ましくは約95〜約99%の無核、最も好ましくは約100%の無核である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】2つの異なるトマトを半分に切断した切断面の白黒写真である。図1Aは通常の有核トマトの半分のトマトであり、図1Bは本発明の無核トマトの半分のトマトである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の無核トマトは、雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株(Lycopersicon esculentum)と雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む雄性不稔性トマト株(Lycopersicon esculentum)と交雑させることにより生産される。本発明の無核トマトを生産するために交雑させる雄株及び雌株はそれぞれ単為結果遺伝子に対してホモ接合性であり、同一の単為結果遺伝子を含んでいなければならない。
【0018】
本発明の無核トマトを生産するために使用される雄親及び雌親系統は、少なくとも1つの単為結果遺伝子を含んでいなければならない。親系統は、pat、pat−1、pat−2、pat−3、pat−4、pat−5、sha、sds等のような単為結果遺伝子を含み得る。実質的に無核のトマトを確実に生産するために、ハイブリダイゼーションにおいて使用する雄親及び雌親系統が同一の単為結果遺伝子を含むことが好ましい。例えば、雄親系統がpat遺伝子を含むならば、雌親系統もpat遺伝子を含んでいなければならない。
【0019】
単為結果遺伝子を含む多くのトマト系統が、本発明の方法において雄親系統として使用するために公に入手可能である。本発明において使用可能な単為結果遺伝子を含むトマト系統の例を下表にリストする。
【0020】
【表1】

表中の参考文献はすべて援用により本明細書に含まれるものとする。
【0021】
Oregon−11、Gold Nuggett、Oregon Spring、Oregon Star、Oregon Pride及びSiletzは、P.O.Box 157,(97424)オレゴン州カッテージ・グローブに所在のTerritorial Seed Co.から市販されている。Gold Nuggett及びOregon Springも、(04910−9731)メーン州アルビオン、Foss Hill Roadに所在のJohnny’s Selected Seeds及び(97321)オレゴン州オールバニー、North Pacific Highway 1190に所在のNichol’s Garden Nurseryから入手可能である。Santiam及びOregon Starもオレゴン州オールバニーに所在のNichol’s Garden Nurseryから市販されている。
【0022】
更に、ホモ接合性トマト系統由来の単為結果遺伝子を戻し交雑により商業的に所望の特性を有するトマト系統に転移することもできる。単為結果遺伝子を含むホモ接合性トマト系統を一回親として使用し、商業的に所望の特性を有するトマト系統を反復親として使用する。反復親を一回親と最初に交雑させた後、得られたF後代を自家受粉させる。次いで、F後代を発育させ、最大の所望園芸形質を併せ持つ無核果実を有する後代のみを選抜する。その後、更に単為結果遺伝子を保持しながら所望の園芸形質を固定するために選抜物を自殖するか、または満足なF分離系が回収されるまで反復親との更なる戻し交雑を使用する。このトマト系統は、本発明の交雑において雄親系統として使用され得る。
【0023】
本発明の無核トマトを生産するために使用される雌親系統は少なくとも1つの単為結果遺伝子を含み、雄性不稔性をも示す。親系統は細胞質型または遺伝子型の雄性不稔性であり得る。本明細書中、株が花粉を生じないかまたは生存不能な花粉しか生じないならばその株は「雄性不稔性」である。雄性不稔性株では自家受精が起きない。雄性不稔性株であれば、育種業者は株の花における他家受精をコントロールすることによりハイブリッド種子をより経済的に作成することができる。雌親の自家受精を防ぐことにより他家受精をコントロールすることができる。一旦雄性不稔性としたら、株を所望特性を有する遺伝子供与親とハイブリダイズすることができる。本発明において、雄性不稔性トマト雌株を、少なくとも1つの同一単為結果遺伝子対を含む雄性稔性トマト雄株とハイブリダイズする。
【0024】
雄性不稔性をもたらすための1つの方法は細胞質雄性不稔性を利用することである。現在、細胞質雄性不稔性(CMS)をコントロールする遺伝因子は細胞質内、特に一連のミトコンドリアDNA内にあると考えられている。株中の2つの共通する細胞質雄性不稔性は、Raphanus sativusのオグラ(Ogura)型雄性不稔性細胞質及びBrassicas napusのポリマ(polima)型雄性不稔性細胞質である。他の細胞質雄性不稔性及び該不稔性を作成する方法も当業界で公知であり、本発明で使用するために利用可能である。例えば、欧州特許出願公開第363819号明細書には、不活性化細胞質要素を含むトマト原形質と不活性化核要素を含むナス属(Solanum)原形質を融合して雄性不稔性トマト株に再生できる融合産物を得ることによる雄性不稔性トマト株の生産方法を記載している。
【0025】
トマトの場合、細胞質雄性不稔性は交雑により誘導できる。雌(卵)親は細胞質に寄与し、よってCMS雌性に交雑するとCMS子孫が生ずる。しかしながら、核遺伝子はヘテロ接合性である。従って、園芸的に望ましい核特性に対してホモ接合性であるCMS育種系統を作成するためには6〜8代の戻し交雑が必要である。
【0026】
或いは、細胞質雄性不稔性トマト系統は、原形質融合により生産することができる。例えば、商業的に望ましい形質を有する株由来の原形質をCMS系統由来の原形質と融合して、雄性不稔性株を生産してもよい。
【0027】
一般的に、融合のための原形質は、一般的な酵素方法により得ることができる。原形質の酵素的単離は、2ステップ(または逐次)または1ステップ方法を用いて実施され得る。2ステップ方法の場合、株組織をまず、中層を分解することにより細胞を分離するマセロザイム(macerozyme)またはペクチナーゼを用いて処理する。次いで、遊離した細胞を、原形質を遊離するセルラーゼを用いて処理する。通常、細胞を異なる酵素に1ステップ方法の場合に比して短期間接触させる。1ステップ方法では、組織をマセロザイム及びセルラーゼを含めた酵素混合物に接触させる。
【0028】
原形質は負に帯電しているので、自然には融合しない。従って、原形質の融合を誘導しなければならない。原形質の融合は、原形質を高pHで高レベルのカルシウムを用いて処理することによりまたはポリエチレングリコールを用いることにより化学的に誘導できる。また、原形質融合を誘導するために、援用により本明細書に含まれるとするVienkenら,Physiol.Plant,53:64(1981)に記載されている電界パルス法のような電気的方法を使用することもできる。
【0029】
原形質が細胞質のみを提供することを確実にするために、融合に先立って、CMS系統由来の原形質のような、1つの原形質の核物質を除去するかまたは不活性化する。核物質の不活性化は、γ、UVまたはX線を照射することにより達成できる。場合により、細胞質中の遺伝物質を融合前に不活性化すると、原形質は核物質のみを与える。細胞質物質の不活性化は、原形質をヨード酢酸またはローダミン6−Gのような化合物に接触させることにより化学的に行う事ができる。一般的に、前記化合物は複製を阻止するかまたはミトコンドリアDNAを破壊する。
【0030】
一旦原形質を融合したら、原形質生長及びカルス形成のためにバランスのとれた栄養素補充物を含む適当な培地で原形質を培養する。培地は、微量要素、多量要素、ビタミン、アミノ酸及び少量の炭水化物(例えば、グルコースのような各種糖類)を含む。前記培地は、細胞分裂及び苗条再生を調節することができる植物ホルモン(オーキシン及びサイトカイン)をも含む。次いで、細胞質雄性不稔性株を再生させる。
【0031】
本発明では、任意の雄性不稔性トマト株を使用することができる。例えば、援用により本明細書に含まれるとする欧州特許出願公開第363819号明細書に記載されている方法に従って生産される細胞質雄性不稔性トマト株を本発明で使用することができる。
【0032】
雌親系統として使用される雄性不稔性トマト株は、雄親系統中に含まれている単為結果遺伝子と同一の単為結果遺伝子を少なくとも1つ含んでいなければならない。雌親系統は、少なくとも1つの単為結果遺伝子に対してホモ接合性のトマト系統を、雄性不稔性トマト株を用いて戻り交雑することにより作成することができる。この戻し交雑方法は、CMS雌性系統に対して単為結果近交系を直接戻し交雑することを含む雄性近交発生とは異なる。なぜならば、自家受粉が不可能なので、園芸的に許容できる単為結果系統はCMS雌性系統の維持系統として働くからである。CMSトマト系統が単為結果遺伝子に対してホモ接合性であるまで戻り交雑を続ける。100%の株が単為結果果実を結実したなら、ホモ接合性が達成される。
【0033】
本発明の無核トマトは、雄親と雌親をハイブリダイゼーションすることにより得られる。生じた後代は約90%の無核、好ましくは約95%〜約99%の無核、最も好ましくは100%の無核である。また一方、ミツバチのような花粉媒介者が雌親系統をこの雌親系統中の単為結果遺伝子と同一の単為結果遺伝子を1つも含まない稔性系統からの花粉で受粉させると、後代は約90%無核でないことには注意すべきである。
【0034】
本発明は、ハイブリッドトマト(Lycopersicon esculentum)の生産方法にも関し、その方法は、雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株と雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む細胞質雄性不稔性トマト株を交雑させてトマトを生産する工程を含む。ハイブリッド株は、雄性不稔性の果実(Lycopersicon esculentum)を与える。最適の結実のために、ハイブリッド株を13時間以上の日長条件下で生育させなければならない。
【0035】
一般的に、株において細胞質雄性不稔性を使用する場合、F子孫において十分な稔性を確保するために、稔性回復遺伝子を雄性受粉用植物から転移しなければならない。より具体的には、稔性回復遺伝子の機能はハイブリッドにおいて稔性を回復させることであり、これにより結実できる。雄親において単為結果遺伝子を使用することにより、雄親由来の稔性回復遺伝子を必要としない細胞質雄性不稔性トマトハイブリッドを得ることができる。単為結果遺伝子が子房を広げ、よってたとえ果実が無核でも実を付けるので、稔性回復遺伝子を必要としない。
【0036】
本発明の数種の無核トマトは、従来のトマトと同一の速度でのトマトの発育中に大きくならない子房室を有する。これらのトマトの子房室は小さいままであるので、隔壁(septal)と融合した心皮の表面積は従来のトマトに比して大きい。図1に、2つの異なるトマトの半分の切断面白黒写真を示す。図1Aは通常の有核の市販トマトの半分であり、図1Bは本発明方法により生産した無核トマトの半分である。これらの写真から分かるように、図1Bに示すトマト半分は図1Aのトマト半分に比してより多くの果肉を含む。従って、本発明の無核トマトはしばしば従来のトマトに比してより多くの果肉を含む。
【0037】
更に、本発明の無核トマトは、良好な糖−酸バランスを示し、そのために良好な風味を有するトマトが提供される。また、本発明の無核トマトの糖含量は多くの従来のトマトに比して多い。
【0038】
本発明において糖レベルが高いことは、通常ゲル中に存在する遊離糖を同化する「シンク」として作用する種子がないという事実に関連していると考えられる。本明細書中、用語「シンク」は、他の植物部分に比してより多くの光合成産物(スクロース)を優先的に受容する植物の部分を指す。種子は植物の次の世代、すなわち子孫を示すので植物上の優勢な「シンク」を構成する。種子を有する株は、特にストレス下で、発育中の種子に対するスクロースの優先的転流をコードする遺伝子構造を含む。本発明の単為結果トマトの場合、不受精の小さい胚珠は子房に転流した糖を吸収できず、よって消費者に喜ばれる遊離糖が残るようである。
【0039】
本発明の無核トマトは、空洞のような奇形を示さず、商業的に許容できる大きさを有する。
【0040】
最後に、本発明の無核トマトは、子房室ゲル面積が小さいので従来のトマトに比してうまく薄く切ることができる。
【実施例】
【0041】
本発明の非限定的実施例を示す。
【0042】
実施例1
無核トマト96 FH 241の生産方法の説明
本実施例では、本発明方法による無核トマト96 FH 241の作成を記載する。
【0043】
96 FH 241を以下のようにして作成した。一般的な交雑ハイブリダイゼーション方法を用いて、雌親としての“CMS VFN8”と呼ばれる細胞質雄性不稔性(CMS)トマト株を“Det.Parth 1”と呼ばれるトマト株と交雑させた。CMS VFN8は、日本国東京に所在のトキタ種苗(株)から入手した独占権をもつ細胞質雄性不稔性トマト株である。Verticillium dahliae レース1、Fusarium oxysporum レース1及びネコブセンチュウMeloidogyne incognitaに対して耐性を有するPetoseed近交系統であるハイブリッド親VFN8の種子を、雄性不稔性トマト(Lycopersicon esculenum)“VFN8”のミトコンドリアの代わりに細胞質雄性不稔性Solanum acauleのミトコンドリアを使用したプロトプラスト融合実験において核供与親として使用した。VFN8の株型は強い有限花序であり、果実サイズは超大型(200〜250g)で、良好な風味を有する。
【0044】
Det.Parth 1は、本発明の譲受人であるSeminis Vegetable Seeds. Inc.が独占権をもつ近交系である有限花序の単為結果トマト株である。Det.Parth 1はpat−2単為結果遺伝子を含む。Det.Parth 1は超大型(200〜250g)の実を有する有限花序の低木トマトである。その果実は緑色の肩を有し、十分な酸度と高い糖含量による優れた風味を有する。
【0045】
交雑により得られた種子を集め、植付けた。次いで、生じた株を、雌親としてのCMS VFN8を用いて戻し交雑した。この戻し交雑から得た種子を集め、植付けた。次いで、生じた株を、雌親としてのCMS VFN8を用いて再び戻し交雑した。更に3回の戻し交雑を、前回の戻し交雑から得た株及び雌親としてのCMS VFN8を用いて実施した。全部で5回の戻し交雑を実施した後生じた株を“CMS VFN8/Det.Parth 1*4”と呼ぶ。この株はpat−2遺伝子に対してホモ接合性であった。このCMS VFN8/Det.Parth 1*4株を、無核トマト96 FH 241を作成するための交雑において雌親として使用した。CMS VFN8/Det.Parth 1*4株の種子は、1997年10月13日に(20852)メリーランド州ロックビル、Parklawn Drive,12301に所在のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(the American Type Culture Collection)(ATCC)に寄託され、ATCC寄託番号は209361である。この寄託は、寄託期間が寄託日から30年間、寄託機関への最新の請求から5年間、またはこの出願の米国特許の満了期間のいずれか長い期間というブダペスト条約の要件に従ってなされた。CMS VFN8/Det.Parth 1*4株の種子は、寄託機関で生存しなくなったなら補充される。
【0046】
一般的な交雑ハイブリダイゼーション方法を用いて、本発明の譲受人であるSeminis Vegetable Seedsから市販されている“Delicious”と呼ばれる自然受粉トマト種を、雌親としてのオレゴン州コーバリスに所在のOregon State Universityから入手した“33”と呼ばれる独占権をもつトマト株と交雑させた。33は、単為結果遺伝子pat−2を含む。交雑により得られた種子を集め、植付けた。生じた株を、雌親としてのDeliciousを用いて戻し交雑した。生じた株を“F(‘Delicious’/33)”と呼ぶ。この株はpat−2遺伝子に対してホモ接合性である。F(‘Delicious’/33)株を、無核トマト96 FH 241を発生させるための交雑において雄親として使用する。F(‘Delicious’/33)株の種子は、1997年10月13日に(20852)メリーランド州ロックビル、Parklawn Drive,12301に所在のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託され、ATCC寄託番号は209360である。この寄託は、寄託期間が寄託日から30年間、寄託機関への最新の請求から5年間、またはこの出願の米国特許の満了期間のいずれか長い期間というブダペスト条約の要件に従ってなされた。F(‘Delicious’/33)植物の種子は、寄託機関で生存しなくなったなら補充される。
【0047】
慣用的な交雑ハイブリダイゼーション方法を用い、雌親としてのCMS VFN8/Det.Parth 1*4と雄親としてのF(‘Delicious’/33)を交雑した。生じた種子を集め、その後植付けた。得られたトマト96 FH 241は100%無核であった。
【0048】
実施例2
Shady Lady及び96 FH 241の糖含量及び糖:酸比を測定した。Shady Ladyは、かなり緻密な有限つるを有し、通常大きな実サイズ(180〜220g)を有する市販種である。96 FH 241は、本発明方法により生産した無核ハイブリッドトマトである。前記トマトの各サンプルを別々に、滑らかなコンシステンシーが得られるまで標準的なフードミキサーを用いて均質化した。4℃でBeckman GS−6R遠心分離機において1000×gで15分間遠心することにより、各ピューレサンプルからトマト漿液を得た。
【0049】
漿液の糖含量は、モデルRFM91屈折計(Bellingham & Stanley)を用いて測定した。屈折計を水及び10゜ブリックスグルコース溶液を用いて較正した。糖含量は゜ブリックス(%糖(wt/wt))で表す。2つのトマトの糖含量を下表に示す。
【0050】
滴定可能な酸度(A)は、Mettler D67自動滴定装置を用いて測定した。pH8.2の終点及びD.1000N水酸化ナトリウム(VWR)滴定剤を使用した。滴定可能な酸度はミリモルH/100g−漿液で表す。糖:酸比(S/A)は、式:S/A=(゜ブリックス/180.16)/(A/1000)に従う滴定可能なH含量に対する糖のモル比である。2つのトマトの糖:酸比を下表に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
上表の結果から、本発明の方法により生産された無核トマトの糖含量が一般的な市販種のトマトに比して高いことが分かる。本発明のトマトの糖:酸比も一般的なトマトに比して高い。
【0053】
本発明について明瞭にし理解を助けるための例として幾分詳細に説明してきたが、添付する請求の範囲によってのみ規定されるように、本発明の範囲内で修正及び変更が可能なことは自明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に無核のトマト(Lycopersicon esculentum)。
【請求項2】
約95%の無核である請求の範囲第1項に記載のトマト。
【請求項3】
約99%の無核である請求の範囲第1項に記載のトマト。
【請求項4】
約100%の無核である請求の範囲第1項に記載のトマト。
【請求項5】
実質的に無核のトマトの生産方法であって、雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株と、雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む雄性不稔性トマト株を交雑させて実質的に無核のトマトを生産する工程を含む前記方法。
【請求項6】
単為結果遺伝子がpat、pat−1、pat−2、pat−3、pat−4、pat−5、sha及びsdsからなる群から選択される請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項7】
雄親中の単為結果遺伝子と雌親中の単為結果遺伝子が同一である請求の範囲第6項に記載の方法。
【請求項8】
雌親が雄性不稔性である請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項9】
雌親が細胞質雄性不稔性である請求の範囲第8項に記載の方法。
【請求項10】
雌親が遺伝的雄性不稔性である請求の範囲第8項に記載の方法。
【請求項11】
生産されるトマトが約95%の無核である請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項12】
生産されるトマトが約99%の無核である請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項13】
生産されるトマトが約100%の無核である請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項14】
請求の範囲第5項に記載の方法により生産される実質的に無核のトマト。
【請求項15】
ハイブリッドトマトの生産方法であって、雄親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含むトマト株と、雌親としての少なくとも1つの単為結果遺伝子を含む細胞質雄性不稔性トマト株を交雑させてハイブリッドトマトを生産するステップを含む前記方法。
【請求項16】
ハイブリッドトマトが細胞質雄性不稔性である請求の範囲第15項に記載の方法。
【請求項17】
単為結果遺伝子がpat、pat−1、pat−2、pat−3、pat−4、pat−5、sha及びsdsからなる群から選択される請求の範囲第15項に記載の方法。
【請求項18】
雄親中の単為結果遺伝子と雌親中の単為結果遺伝子が同一である請求の範囲第15項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−45373(P2011−45373A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−215739(P2010−215739)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2000−517590(P2000−517590)の分割
【原出願日】平成10年10月23日(1998.10.23)
【出願人】(500195035)セミニス・ベジタブル・シーズ・インコーポレイテツド (17)
【氏名又は名称原語表記】Seminis Vegetable Seeds,Inc.
【Fターム(参考)】