説明

無機含有粒子の有機溶媒分散体及びその分散体に用いられる無機含有粒子

【課題】比較的大量のカップリング剤を使用して無機含有粒子の表面を疎水化することにより一段階の反応でプラスチック等の疎水性物質に添加された際に均一に分散し、そのプラスチックの物性を改良するのに好適に用いられる無機含有粒子の有機溶媒分散体及び上記分散体に用いられる無機含有粒子を提供する。
【解決手段】無機含有粒子の有機溶媒の分散体であって、上記無機含有粒子は、カップリング剤で処理されたものであり、分散体中の平均粒子径が、1〜100nmである無機含有粒子の有機溶媒分散体、及び、上記有機溶媒分散体に用いられる無機含有粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機含有粒子の有機溶媒分散体及び該分散体に用いられる無機含有粒子に関する。より詳しくは、各種プラスチック等の物性改良のための添加剤として好適に用いられる無機含有粒子の有機溶媒分散体及びその分散体に用いられる無機含有粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機化合物の粒子又は少なくとも表面が無機化合物の粒子(以下、無機粒子という)は、一般に、各種プラスチック、フィルム、塗料等の物性改良のための添加剤として用いられている。しかしながら、無機粒子は表面が親水性であるため、疎水性物質への分散性が低く、疎水性モノマー、熱硬化性又は各種エネルギー線硬化モノマー組成物、オリゴマー組成物等に、無機粒子を直接添加しても、均一に分散・配合することは困難である。そのため、無機粒子は水分散体又はアルコール等の親水性有機溶媒の分散体として供給されることが多いが、疎水性物質への分散性は充分ではなく、無機粒子の疎水性物質への分散性を向上させるため、様々な方法が検討されている。
【0003】
一方、近年、平均粒径100nm未満の粒子(ナノ粒子)は、添加剤として用いると従来見られなかったような物性、例えば、光学特性、耐熱性等が発現されることから注目されている。しかしながら、粒子は微細化するほど、表面エネルギーが高くなり、その表面エネルギーを安定化させるため凝集しやすくなることが知られている。そのため、無機粒子の中でも、このようなナノ粒子を疎水性物質へ均一に分散させる方法が求められていた。
【0004】
従来の無機粒子の疎水性物質への分散性を高める方法としては、平均粒子径が0.005〜5μmの無機粒子を溶媒中に分散させ、次いで、加水分解助剤の存在下でシランカップリング剤を加水分解した溶液と該無機粒子の分散液とを混合した後、噴霧乾燥する無機粒子の表面処理方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この表面処理方法によれば、充分に疎水化された無機粒子を得ることができるものの、平均粒子径が0.005〜5μmと比較的大きな無機粒子を対象とするものであり、近年注目されている100nm未満の粒子(ナノ粒子)を対象としたものではない。また、この表面処理方法をナノ粒子に用いた場合は、粒子同士の凝集がおこり、均一に疎水性物質への分散をさせることは困難である。
【0005】
一方、数平均粒径0.5〜50nmの超微粒子が分散してなる熱可塑性樹脂組成物を主体とし、最小厚みが0.1mm以上の成型体であって、光路長mm当たりの複屈折の平均が10nm以下であることを特徴とする樹脂組成物成形体が開示されている。しかしながら、樹脂組成物に超微粒子を分散させるために、複雑な構造の有機配位子を合成・使用し、特定の温度条件で加圧成形することが必要である。(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、(A)X線造影性を有する、平均粒子径100nm以下の無機酸化物、(B)表面改質剤および(C)重合性化合物を含有し、無機物(A)が均一に分散している重合性コロイド溶液状態にある重合性組成物についても開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この重合性組成物は、無機酸化物が水又は水性有機溶剤に分散した水性コロイド溶液を出発原料とし、その溶剤を重合性化合物に置換して得られるものであり、表面改質剤を大量に使用しており、未反応の表面改質剤の除去操作を行っていない。そのため、この残存表面改質剤の影響により、光学的な用途に用いる場合の分散性及び透明性が充分なものではなかった。このような背景から、各種プラスチックフィルム等の物性改良のため、100nm未満の無機含有粒子(無機粒子)を添加剤として使用し、かつ、その特性を充分に発揮させるためには、疎水性物質への分散性においては未だ改善の余地があった。
【特許文献1】特開平10−36705号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2003−147090号公報(第1−2頁)
【特許文献3】国際公開2002/014433(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、疎水性物質への分散性を向上させることができる無機含有粒子の有機溶媒分散体及び該分散体に用いられる無機含有粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、金属酸化物粒子の有機溶媒分散体について種々検討したところ、各種プラスチック等の物性改良のための添加剤として有用であること、特に、平均粒子径0.5〜100nmの粒子は、プラスチック等の疎水性物質に添加された際にそのプラスチックの物性を改良することができるのみならず、優れた透明性を有するという特性が発揮されることに着目した。特に、平均粒子径30nm以下の粒子について、透明性が際立つことに着目した。そして、このような微細な粒子(金属酸化物粒子)を比較的多量のカップリング剤で処理し、未反応カップリング剤を除去することにより、カップリング剤を使用して金属酸化物粒子の表面を疎水性ポリマーで被覆することなく、一段階の反応で酢酸エチル等の疎水性の有機溶媒に均一に分散し、優れた透明性を有する金属酸化物粒子の分散体となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。
【0009】
すなわち本発明は、無機含有粒子の有機溶媒の分散体であって、上記無機含有粒子は、カップリング剤で処理されたものであり、分散体中の平均粒子径が、1〜100nmである無機含有粒子の有機溶媒分散体である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
上記無機含有粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカコートアルミナ等のアルミナ系化合物;ジルコニア、シリカコートジルコニア等のジルコニア系化合物;チタニア、シリカコートチタニア、アルミナコートチタニア、酸化亜鉛コートチタニア、これらの複合コートチタニア等のチタン系化合物;酸化亜鉛、シリカコート酸化亜鉛、アルミナコート酸化亜鉛、ジルコニアコート酸化亜鉛、酸化スズコート酸化亜鉛、シリカ・アルミナコート複合コート酸化亜鉛類等の酸化亜鉛系化合物;酸化銅(亜酸化銅等)、表面の酸化された銅等の銅系化合物;等の金属を含有する無機含有粒子が挙げられる。好ましくは、ジルコニアである。
また、無機含有粒子としては、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属セレン化物等の粒子が挙げられる。
上記金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化亜鉛マンガン、硫化カリウム等が挙げられる。上記金属セレン化物としては、セレン化カドミウム、酸化ユーロピウム等のユーロピウムカルコゲナイト類が挙げられる。
これらは、1種又は2種以上を用いてもよい。これらの中でも、少なくとも表面にシリカが存在するケイ素酸化物複合粒子、又は、少なくとも表面にアルミナが存在するアルミナ酸化物複合粒子であってもよい。
上記ケイ素酸化物及びアルミナ酸化物複合粒子の内部としては、特に限定されず、金属、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属セレン化物、有機化合物、有機・無機色素、有機ポリマー、無機ポリマー、有機・無機複合ポリマー等が挙げられる。
上記無機含有粒子は、これらの中でも、無機含有粒子が金属酸化物等の無機化合物から形成された無機粒子であることが好ましい。本明細書において、粒子は、微粒子、ナノ粒子、超微粒子であってもよい。
上記無機含有粒子は、屈折率が1.9以上のものであることが好ましい。このような無機含有粒子は、様々な光学用プラスチックの高屈折率化や液晶ディスプレイ等の反射防止フィルム等に好適に用いることができる。屈折率が1.9以上の無機含有粒子としては、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコニア、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、鉛白のいずれか、又は、これらの表面を酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化ケイ素で被覆された複合粒子等が挙げられる。好ましくは、酸化チタン、酸化ジルコウム、硫化亜鉛、酸化亜鉛である。
【0011】
上記無機含有粒子は、結晶質であることが好ましい。結晶質とは、結晶構造を持つものであることを意味する。粒子が結晶質であることにより、より高屈折率や高硬度のものとすることができるという効果を奏する。
上記結晶質としては、例えば、立方晶系、正方晶系、斜方晶系、六方晶系等が挙げられる。
ただし、すべて結晶質であることを限定するものではなく、非晶質部分を含有していてもよい。
【0012】
上記無機含有粒子の大きさは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による測定で、100nm未満(以下、ナノ粒子ともいう。)であることが好ましい。より好ましくは、50nm以下、更に好ましくは30nm以下、最も好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である。100nm未満の無機含有粒子をプラスチック等に均質に分散できると、プラスチック等の耐摩擦性、耐熱性、光学特性等を向上することができるので好ましい。このようなナノ粒子の具体例としては、日本アエロジル社製アエロジル♯200、NanoTek Powderとして販売されているシーアイ化成社製Al、ZnO、TiO、SiO、Y、SnO、CaO、Fe、CuO、CoO、ITO;NANO FINEとして販売されている堺化学社製のシリカ層とアルミナ層でカプセル化されたZnO粒子であるNANOFINE−50A、超微粒子酸化チタンSTR−60C(20nm)、Alがドープされた透明導電性酸化亜鉛SC−18;住友大阪セメント社製シリカコート酸化亜鉛ZnO−350SiO(5);マックスライトの商標で販売されている昭和電工社製のシリカコート酸化チタンや酸化亜鉛、CHEMAT社製水分散ジルコニアゾル、また、特開2006−16236号公報に示される平均粒子径10nm以下(実施例では、3−5nm)の結晶性の高いジルコニア等の金属酸化物ナノ粒子等が挙げられる。
【0013】
本発明の有機分散体中の無機含有粒子の(みかけの)平均粒子径は、1〜100nmである。分散体中の無機含有粒子がこの程度の平均粒子径であれば、分散体の透明度を極めて高いものとすることができる。また、このような分散体中を用いて、無機含有粒子を疎水性物質に添加する場合においても、無機含有粒子により透明性が影響を受けることなく、疎水性物質の物性を改良することが可能となる。より好ましくは、1〜50nmであり、更に好ましくは1〜30nmである。なお、本明細書において、親水性溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。また、親水性溶媒の分散体として入手可能なものとしては、NanoTek Slurryとして販売されているシーアイ化成社製のAl水スラリー、ZnOエタノールスラリー、TiOエタノールスラリーや日産化学社製のシリカナノスラリーであるIPA−ST(イソプロパノールスラリー)、メタノールシリカゾル(いずれも10〜20nm)、IPA−ST−ZL(70〜100nmのイソプロパノール分散シリカゲル)、住友大阪セメント社製のTEMによる平均粒子径3〜5nm(水分散体におけるみかけの平均粒子径は、10〜15nm)の正方晶系ジルコニア水分散液等が挙げられる。なお、無機含有粒子の平均粒子径は、本来TEM(透過電子顕微鏡)により、測定することが好ましいが、本明細書においては、反応前後の分散状態を確認するために動的光散乱により測定するものとする。また、本明細書においては、各無機含有粒子の動的散乱により測定した粒子径を平均粒子径(みかけの平均粒子径)とする。
【0014】
みかけの平均粒子径の測定方法
分散体を同じ溶媒で希釈して測定に適節な濃度にし、動的光散乱式粒径分布測定装置LB500(株式会社堀場製作所製)で測定する。なお、分散体屈折率は、原料である無機含有粒子の屈折率を入力し、溶媒の屈折率は、測定時の希釈溶媒のものを入力する。また、表面修飾物等の影響は無視する。サンプリング及び測定は、測定液調整後できるだけ速やかに行い、得られた平均粒子径をみかけの平均粒子径とした。メジアン径も参考にした。通常はメジアン径を使用して粒子径とするが、本発明では、少量のミクロンオーダーの凝集粒子の存在の有無に対してより敏感な粒子径の指標として、算術平均粒子径を用いた。
本発明の有機分散体中の無機含有粒子の粒度分布は、上記測定方法で測定した場合に、単一のピークを示すものであることが好ましい。
【0015】
本発明において、カップリング剤で処理する前の無機含有粒子(原料粒子)の粒子径は、TEMで測定した場合に、10nm以下であることが特に好ましく、カップリング剤で処理した後の有機分散体中の無機含有粒子の粒子径(みかけの平均粒子径)は、50nm以下であることが好ましい。
【0016】
上記無機含有粒子の有機溶媒の分散体において、無機含有粒子をカップリング剤で処理するとは、粒子表面にカップリング剤を結合させることであることが好ましい。
上記カップリング剤での処理は、カップリング剤処理後の粒子が分散するように、水とともに充分な量のアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)を含むように、溶媒を調製することが好ましい。また、無機(含有)粒子が水を含む場合には、アルコールが20重量%以上となるように、必要に応じてアルコールを加えるか、無機含有粒子のアルコール分散体の場合は、必要により1質量%程度以上の水を加えることが好ましい。また、カップリング剤での処理は、アンモニア等のアルカリ性物質を使用するとしても、原料分散体が凝集しない量で行うことが好ましい。なお、本明細書において、親水性溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。また、親水性溶媒の分散体として入手可能なものとしては、NanoTek Slurryとして販売されているシーアイ化成社製のAl水スラリー、ZnOエタノールスラリー、TiOエタノールスラリーや日産化学社製のシリカナノスラリーであるIPA−ST(イソプロパノールスラリー)、メタノールシリカゾル(いずれも10〜20nm)、IPA−ST−ZL(70〜100nmのイソプロパノール分散シリカゲル)、住友大阪セメント社製の粒子径3nm(みかけの平均粒子径は、10〜15nm)の酢酸含有のジルコニア水分散液等が挙げられる。
【0017】
上記カップリング剤としては、無機含有粒子に反応して表面を疎水性にするものであればよい。特に、上記無機含有粒子と反応し得る置換基を有し、かつ、重合性二重結合を有するものは、用途により該粒子の上層(表面)にポリマーグラフト又は被覆層を形成したり、他の付加反応等を施すことができるので好ましい。例えば、中心金属として少なくとも、ケイ素、ジルコニア、チタン、アルミニウム、のいずれか1種以上を含み、少なくとも1つの疎水基と少なくとも1つの重合基と少なくとも2つのメトキシ基又はエトキシ基を有するものであることが好ましい。
上記疎水基としては、メタクリロキシプロピル基、又は、炭素数2以上のアルキル基、アルキレン基、アリール基であることが好ましい。
上記ケイ素を中心金属として有するカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。
上記シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3―メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。好ましくは、3−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
また、ジルコアルミネート系カップリング剤として、CAVCO MODの商標で販売されているもののうち、官能基が脂肪酸の品番F、メタクリルオキシ基の品番M、両官能基を含む品番M−1等も好ましい。また、メタクリル基を有するチタネートカップリング剤を使用することもできる。
【0018】
上記カップリング剤の使用量としては、無機含有粒子の表面を疎水性に被覆することができればよく、原料である無機含有粒子の分散体の固形分に対して2〜100質量%であることが好ましい。2質量%未満であると、無機含有粒子の表面に充分な二重結合が導入されないおそれがあり、100質量%を超えると、経済的観点から好ましくなく、また、未反応カップリング剤の除去に手間を要する。より好ましくは、10〜60質量%であり、更に好ましくは、15〜40質量%である。最も好ましくは20〜40質量%である。
【0019】
上記カップリング剤の添加方法は、特に限定されず、一括仕込み、滴下等が挙げられる。
上記カップリング剤による処理は、pH3.5〜10の範囲で行なうことが好ましい。pH3.5未満の場合は、カップリング剤反応後、無機含有粒子の表面に結合したカップリング剤が脱離することがあり、pH10を超えると、アンモニア等のアルカリの量が多すぎるため、凝集物が増え、反応の際の取り扱いの観点から好ましくない。より好ましくは、pH4〜8である。更に好ましくは、pH4〜7である。
上記無機含有粒子の分散体において、無機含有粒子濃度は、親水性溶媒を含めた重量に対して1〜30質量%であることが好ましい。
【0020】
本発明また、無機含有粒子の有機溶媒又は単量体の分散体の製造方法であって、上記製造方法は、無機含有粒子をカップリング剤で処理する工程、該処理液を遠心分離し上澄み液を除去し、アルコールを加えて無機含有粒子を分散させる工程、該アルコール分散液に水を添加して白濁させる工程、該白濁液を遠心分離し上澄み液を除去する工程、有機溶媒又は単量体を加えて再分散させることにより分散体を製造する工程を含む無機含有粒子の有機溶媒又は単量体の製造方法でもある。
【0021】
上記アルコールを加えて無機含有粒子を分散させる工程において、加えるアルコールの量は、分散体が目視でほぼ透明になるように加えるものであることが好ましい。この段階では、未だ未反応カップリング剤やカップリング剤縮合物の併存している分散体であり、親水性のアルコールのみの添加により透明分散体として洗浄する。
上記アルコール分散液に水を添加して白濁させる工程において、添加する水の量は、充分白濁凝集する最小量にとどめることが好ましい。水を添加する回数は、少なくとも1回であり、数回以上に分けて白濁してゆくのを確認しながら、徐々に添加し、最小回数にとどめることが好ましい。
この場合の水の添加量は、分散体に対して、原料固形分に対する収率換算で30質量%以上、100質量%以下になるように選ぶことが好ましく、原料分散体の固形分濃度にもよるが、通常は、分散体中の有機溶媒に対して、5質量%以上、80質量%以下、好ましくは10質量%以上、50質量%以下、更に好ましくは10質量%以上、30質量%以下である。
未反応のカップリング剤及びその反応オリゴマーの除去は、光学目的で用いる場合の光学的濁りを防止するために重要な工程であるが、比重の大きい無機粒子といえども、特に光学的に透明なレベルの超微粒子の場合には、カップリング剤の修飾により遠心分離による洗浄が困難となる。本発明では、このような分散体に今度は、反応後の粒子にとって、非分散媒となった水を添加し、凝集させることによって容易に遠心分離精製する方法も提供している。
この工程を経て精製することにより、カップリング剤で処理した無機含有粒子が有機溶媒に充分に均一に分散した有機溶媒分散体を得ることができる。なお、ここでほぼ透明になることで、処理済みの粒子の平均粒子径が50nm以下であることがわかる。
【0022】
本発明の無機含有粒子及び有機溶媒又は単量体の分散体の製造方法であって、有機溶媒又は単量体を加えて再分散させることにより分散体を製造する工程において、上記有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル系溶媒、及び、これらの混合溶媒から選ばれる有機溶媒のうち少なくとも1種の有機溶媒であることが好ましい。
上記アルコールとしては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールが挙げられる。
上記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
上記エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチルが挙げられる。
上記有機溶媒は、好ましくは、エチルアルコール、酢酸エチル、エチルアルコール−酢酸エチル、又は、メチルエチルケトンの混合溶媒である。より好ましくは、酢酸エチル又はエチルアルコール−酢酸エチル混合溶媒である。
【0023】
上記単量体としては、重合性基を持つエステル等が挙げられる。
上記重合性基をもつエステルとしては、特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシピロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の単官能重合性モノマーエステル、グリセリンジメタクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能重合性モノマーエステルであってもよい。日本油脂よりブレンマーの商標で販売されている各種モノマーエステルやナガセケミテックスより販売されている各種デナコールアクリレートであってもよい。好ましくは、メチルメタクリレートである。
【0024】
上記有機溶媒分散体に用いられ、カップリング剤で処理されたものである無機含有粒子もまた、本発明のひとつである。すなわち、本発明はまた、上記有機溶媒分散体に用いられ、カップリング剤で処理されたものである無機含有粒子でもある。本発明の無機含有粒子は、酢酸エチル等の疎水性の有機溶媒に均一に分散し、優れた透明性を有する無機含有粒子の分散体となる。また、本発明の無機含有粒子は、被覆層を形成することができる二重結合を有するカップリング剤が、表面に結合しているものであることから、疎水性モノマーを添加して重合させることによりポリマーで被覆した無機含有粒子を形成することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の無機含有粒子の有機溶媒分散体及び該分散体に用いられる無機含有粒子は、上述の構成よりなり、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトエート、ポリカーボネート、ポリシクロペンタジエン、ポリスチレン等の各種プラスチック等の疎水性物質への分散性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0027】
実施例1
100mlのセパラブルフラスコにジルコニアナノ粒子水分散液(住友大阪セメント社製:固形分4.1質量%、pH4.8、見かけの粒度:15.9nm)50gを仕込み、これを45℃にセットした超音波浴中で200rpmで攪拌しながら、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503:信越化学社製)0.616gを溶解させたエチルアルコール40gを90分かけて滴下しながら反応させた。滴下終了後もさらに90分間、超音波浴中で200rpmで攪拌して反応を進めた。
未反応物を除去するために、反応液を10000rpmで20分間遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、これにエチルアルコール40gを添加して透明な分散体を得た。
これを再度洗浄のため同様に遠心機に掛けたが沈降物は得られなかった。
ところがここに、水10gを添加すると白濁分散液となった。
再度同様に遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、12gの酢酸エチルを添加することにより、速やかに分散し透明の分散体がえられた。
そのまま動的光散乱粒度分布計で粒度を測定したみかけの平均粒子径は、39nm(メジアン径:37nm)であった。
この洗浄再分散液の一部を一夜減圧乾燥して得た粉末をTGAで有機物減量を測定したところ、14.7質量%であった。また、この粉体を水に落としてみたところ、水面を浮遊し、疎水性が付与されていることが確認できた。
(ブランク減量の12.2質量%を差引いても少なくとも2.5質量%の有機物付着量と考えられる。
*原料分散液を同様にしてTGAを測定したところ、有機物減量は12.2質量%であった。また、この粉体を水面に落としたら速やかに水中に沈んだ。)
仕込み分散液固形分に対する収率は、43%であった。
【0028】
実施例2
KBM503を0.720g使用した以外はすべて実施例1と同様に反応を行なった。得られた反応液を同様に遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、これにエチルアルコール45gを加えると、速やかに分散し、透明分散液となった。これに、水7gを加えることにより白濁させ、再度遠心分離した。
この白色の沈降物に酢酸エチル6gを加えると透明分散液となった。更に酢酸エチル6gとエチルアルコール25gを添加しても透明分散液であった。
これに水6gを加えると再度白濁液となった。これを再度同様に遠心分離し白色沈殿を得た。これに、酢酸エチル6gを添加して透明分散液を得た。みかけの平均粒子径は、14.2nmであった。付着量は15.3質量%であった。
(ブランクの減量12.2質量%差し引いて少なくとも2.9質量%)
収率は45%であった。
【0029】
比較例1
実施例1において、KBM503を0.308g使用した以外はすべて同様に反応を行なった。得られた反応液を同様に遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、これにエチルアルコール40gに分散させたが、白濁分散液であった。さらに水50gを添加し、同様に遠心分離洗浄した。
白色の沈降物をエチルアルコール40gに再分散させたが白濁していた。
みかけの平均粒子径が2.92μの凝集分散液であった。
この洗浄再分散液の一部を一夜減圧乾燥して得た粉末をTGAで有機物減量を測定したところ、13.9質量%であった。また、この粉体を水に落としてみたところ、水面を浮遊し、すこし疎水性が付与されていることが確認できた。
ブランク減量の12.2質量%を差引いても少なくとも1.7質量%の有機物付着量と考えられるが、透明な分散体を得るに十分な付着量ではなかった。
【0030】
比較例2
実施例1と全く同様に反応させ反応液を得て、未反応物を除去するために、反応液を10000rpmで20分間遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、これにエチルアルコール40gを添加して透明な分散体を得た。
ここに、水40gを添加して白濁分散液とした。
再度同様に遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、40gのエチルアルコールを添加したところ、白濁分散体が得られた。
そのまま動的光散乱粒度分布計で粒度を測定したみかけの平均粒子径は、3.51μm(メジアン径:3.49μm)であった。
この洗浄再分散液の一部を一夜減圧乾燥して得た粉末をTGAで有機物減量を測定したところ、15.8質量%であった。また、この粉体20mgを1gの水に落として超音波バスに置き超音波照射分散をこころみたところ、一部は水面に浮き、他の一部は水中に沈むものがあった。収率は111%であった。
(ブランク減量の12.2質量%を差引いても少なくとも3.6質量%の有機物付着量と考えられる。これは再分散洗浄時の水添加量が多すぎたために、逆に親水性のシラノール基を持つカップリング剤の縮合物等が表面に残存してしまったものと考えられる。)
【0031】
比較例3
100mlのセパラブルフラスコに同上のジルコニアナノ粒子水分散液50gを仕込み、50gのエチルアルコールを加えて希釈分散液とした。さらに25質量%のアンモニア水2gを添加した。白濁分散液のpHは約10であった。これを45℃にセットした超音波浴中で320rpmで攪拌しながら、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503:信越化学社製)0.308gを溶解させたエチルアルコール1gを加えて150分間反応させた。
未反応物を除去するために、反応液を10000rpmで20分間遠心分離して白色の沈降物を得た。上澄みを捨て、これにエチルアルコール60gを添加して半透明の分散体を得た。みかけの平均粒子径は388nm(メジアン径253nm)であり、少し凝集気味であった。
TGA分析による有機物付着量は、13.1質量%であった。
(ブランク減量の12.2質量%を差引かば少なくとも0.9質量%の有機物付着量と考えられる。)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機含有粒子の有機溶媒の分散体であって、
該無機含有粒子は、カップリング剤で処理されたものであり、分散体中の平均粒子径が、1〜100nmであることを特徴とする無機含有粒子の有機溶媒分散体。
【請求項2】
前記有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル系溶媒、及び、これらの混合溶媒から選ばれる有機溶媒のうち少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とする請求項1記載の無機含有粒子の有機溶媒分散体。
【請求項3】
前記無機含有粒子は、結晶質であることを特徴とする請求項1又は2記載の無機含有粒子の有機溶媒分散体。
【請求項4】
請求項1〜3記載の有機溶媒分散体に用いられ、カップリング剤で処理されたものであることを特徴とする無機含有粒子。
【請求項5】
無機含有粒子の有機溶媒又は単量体の分散体の製造方法であって、
該製造方法は、無機含有粒子をカップリング剤で処理する工程、該処理液を遠心分離し上澄み液を除去し、アルコールを加えて無機含有粒子を分散させる工程、該アルコール分散液に水を添加して白濁させる工程、該白濁液を遠心分離し上澄み液を除去する工程、有機溶媒又は単量体を加えて再分散させることにより分散体を製造する工程を含むことを特徴とする無機含有粒子の有機溶媒又は単量体の分散体の製造方法。

【公開番号】特開2007−332255(P2007−332255A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165180(P2006−165180)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】