説明

無機有機複合コーティング組成物

【課題】熱および活性エネルギー線の両方に対して硬化性を有し、硬質な膜を形成し得る無機有機複合コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む、無機有機複合コーティング組成物、および、(A)テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む、無機有機複合コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機有機複合コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、無機性材料と有機性材料とを含む、いわゆる、無機有機複合コーティング材料が種々提案されている。このような無機有機複合コーティング材料としては、例えば、無機性材料としてアルコキシシランやその縮合物を含むものが挙げられる。一般的に、これらの材料は熱により縮合することによって硬化を進行させるものである。しかしながら、熱による硬化のみでは、用途によっては硬度が不十分なコーティング膜しか得られない場合がある。
【0003】
一方、ケイ素化合物の加水分解および/または縮合により得られるシリカ粒子と(メタ)アクリレート基を含有する有機液体媒体とを含むシリカゾルに対し、放射線を照射して硬化物を得られることが知られている(特許文献1)。しかしながら、この技術でも、硬度が十分なコーティング膜が得られない場合がある。
【特許文献1】特開2005−298226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、熱および活性エネルギー線の両方に対して硬化性を有し、硬質な膜を形成し得る無機有機複合コーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまで、テトラアルコキシシランの縮合物を実質的に完全に加水分解したものを、無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として用いることは知られていなかった。本発明者らは、特定の反応条件を用いることによりテトラアルコキシシランの縮合物を実質的に完全に加水分解し得ること、得られた加水分解物が無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の無機有機コーティング組成物は、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む。
【0007】
また、別の局面において、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、(A)テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液が、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(a−1’)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシランの縮合物および有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液である。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記アルコキシシラン化合物(a−1’)が二重結合を有する。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記親水性有機溶媒(a−2)が重合性二重結合を有する化合物を含む。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記活性エネルギー線硬化型樹脂が、重合性二重結合またはエポキシ基を有する樹脂である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記無機有機複合コーティング組成物は、光硬化開始剤をさらに含む。
【0013】
本発明の別の局面によれば、コーティング膜が提供される。このコーティング膜は、上記無機有機複合コーティング組成物から形成される。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記コーティング膜は、熱および活性エネルギー線によって二重に硬化したコーティング膜である。
【0015】
本発明の別の局面によれば、コーティング膜の製造方法が提供される。この製造方法は、上記無機有機複合コーティング組成物を基材上に塗布する工程(1)、および工程(1)で塗布した無機有機複合コーティング組成物を熱および活性エネルギー線によって二重に硬化する工程(2)を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを無機性材料として用い、有機性材料として活性エネルギー線硬化型樹脂を用いた無機有機複合コーティング組成物が提供される。該無機有機複合コーティング組成物によれば、熱による無機性材料の硬化と、活性エネルギー線照射による有機性材料の硬化が行われ得ることから、十分に硬質なコーティング膜が形成され得る。さらに、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンは、有機性材料との相溶性に優れる。したがって、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立するコーティング膜(膜厚と硬度とのバランスに優れるコーティング膜)を形成し得ると共に、均質性の高い緻密なコーティング膜を形成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む。アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンは、例えば、テトラアルコキシシランの縮合物、親水性有機溶媒、所定量の水、および、触媒を混合することにより得られ得る。また、例えば、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンは、テトラアルコキシシランの縮合物、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物、親水性有機溶媒、所定量の水、および、触媒を混合することにより得られ得る。したがって、1つの実施形態において、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、(A)テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、所定量の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む。別の実施形態において、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(a−1’)、親水性有機溶媒(a−2)、所定量の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む。以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
a−1.テトラアルコキシシランの縮合物
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、テトラアルコキシシランを縮合することにより得られる。上記縮合により得られる縮合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無などの点で、種々の構造を有するものの混合物である。また、市販されているテトラアルコキシシランの縮合物についても、一部原料のテトラアルコキシシランを除いたものがあるものの、基本的には混合物である。このため、テトラアルコキシシランの縮合物は、模式的には下記式(1)によって表されている。なお、下記式(1)は、テトラアルコキシシランの縮合物が分岐や架橋のない直鎖状の縮合体である場合を示している。
【化1】

【0019】
上記式(1)において、nは、2以上であり、2〜50が好ましく、5〜20がより好ましい。nが2以上である場合、適度な量のヒドロキシシリル基が得られるので、目的とするコーティング膜が形成され得る。また、nが50以下である場合、テトラアルコキシシランの縮合物が液体状態を維持し得るため、操作性が良好である。上記nは平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物の縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0020】
上記式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解性が向上するので、効率良くポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0021】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0022】
上記アルキル基が有し得る置換基としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、クロル、ブロム等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基が挙げられる。このような置換基を有する場合には、置換アルキル基の炭素数の合計は1〜6であることが好ましい。また、上記アルキル基は、アルキレンオキサイドユニットを有する化合物で置換されていてもよい。アルキレンオキサイドユニットの種類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。
【0023】
したがって、上記テトラアルコキシシランの縮合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、またはテトラ−tert−ブトキシシランの縮合物が挙げられる。なかでも、テトラメトキシシランの縮合物およびテトラエトキシシランの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランの縮合物がより好ましい。テトラアルコキシシランの縮合物は、含有するアルキル基が同一であっても、異なっていてもよい。また、本発明においては、テトラアルコキシシランの縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記テトラアルコキシシランの縮合物には、モノマーのテトラアルコキシシランが配合されていてもよい。この場合、テトラアルコキシシランの縮合物とモノマーのテトラアルコキシシランとは、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0025】
上記テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、代表的には6個以上であり、好ましくは6〜102個であり、より好ましくは12〜42個である。アルコキシ基の数が当該好適範囲にある場合、適度な量のヒドロキシシリル基が得られるので、目的とするコーティング膜が容易に形成され得る。上記のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物は、種々の縮合度を有するものを含み得ることから、当該アルコキシ基の数は、それらの平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、上記縮合度から求めることができる。また、上記テトラアルコキシシランの縮合物が置換基を有する場合、その数はアルコキシ基の数の半分以下であることが好ましい。
【0026】
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、任意の適切なテトラアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。また、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物)、コルコート社製、商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物)が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」、コルコート社製、商品名「EMS−485」が挙げられる。
【0027】
a−1’.有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物
上記有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物としては、1つ以上のSi−C結合を有する限り任意の適切なアルコキシシラン化合物が用いられ得る。テトラアルコキシシランの縮合物と有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物とを併用することにより、アルコキシ基含有成分の加水分解物同士の過度な縮合反応を抑制することができると共に、得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとの良好な相溶性を確保することができる。さらに、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物が二重結合を有する場合、これらを架橋させることにより、得られるコーティング膜の硬度をより高めることができる。
【0028】
有機基としては、好ましくは炭素数1〜21、より好ましくは1〜10の直鎖または分岐アルキル基等が挙げられる。有機基が炭素数4以上の長鎖アルキル基である場合、得られるコーティング膜の耐汚染性(油性マーカー汚染性、指紋付着性等)を向上させ得る。なお、アルキル基はメルカプト基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、エーテル結合、エステル結合等を有していてもよい。
【0029】
上記有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、シランカップリング剤、好ましくはSi−C結合を1つまたは2つ有するシランカップリング剤が挙げられる。具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
上記有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(a−1’)の使用量としては、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)との混合比[(a−1’)/(a−1):固形分質量]が、好ましくは1/99〜70/30、より好ましくは5/95〜50/50となる量である。当該範囲内で使用することにより、所望の硬度を有するコーティング膜を得ると共に、有機バインダーとの充分な相溶性を確保し、テトラアルコキシシランの縮合物の急激な縮合反応を抑制する効果をも得ることができる。
【0031】
a−2.親水性有機溶媒
上記親水性有機溶媒としては、上記テトラアルコキシシランの縮合物および任意に用いられる有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(本明細書中において、これらの成分を「アルコキシ基含有成分」と称することがある)を、その加水分解反応が進行する程度に溶解し得る限り、任意の適切なものを用いることができる。親水性有機溶媒は、重合性二重結合を有する化合物を含むことが好ましい。この場合、得られるコーティング膜の硬度をより高めることができるからである。1つの実施形態においては、親水性有機溶媒は、重合性二重結合を有する化合物のみから構成されていてもよい。
【0032】
上記親水性有機溶媒としては、例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、mは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。本発明においては、親水性有機溶媒を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記重合性二重結合を有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシスチレン、アリルアルコール等の水酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N−アクリロイルモルホリン等のアミド基含有モノマー;アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのリン酸モノエステル、モノ(メタ)アクリロイルアシッドホスフェート(例えば、城北化学工業社製、商品名「JAMP‐514」)等のリン酸基含有モノマー;アクリロニトリル等の非アクリル系のモノマー;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;ポリエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート等の多官能性不飽和モノマー等を挙げることができる。これらのモノマーは1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
親水性有機溶媒中における重合性二重結合を有する化合物の含有量としては、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。
【0035】
上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。このような溶解度を有する親水性有機溶媒を用いることにより、該親水性有機溶媒と水と水に対する溶解性が十分でないアルコキシ基含有成分とを含む系を均一化することができる。その結果、効率的にアルコキシ基含有成分の加水分解反応を進行させ得る。
【0036】
上記親水性有機溶媒の使用量は、アルコキシ基含有成分を溶解し得る量以上であればよい。当該親水性有機溶媒の使用量として、アルコキシ基含有成分{(a−1)+(a−1’)}と親水性有機溶媒(a−2)との混合比(質量部)[{(a−1)+(a−1’)}/(a−2)]が1を超える場合には、無機有機複合コーティング組成物の低VOC化に有利に働くとともに、水性の有機バインダーとの混合が容易であるという利点を有する。一方、当該親水性有機溶媒の使用量として、アルコキシ基含有成分{(a−1)+(a−1’)}と親水性有機溶媒(a−2)との混合比(質量部)[{(a−1)+(a−1’)}/(a−2)]が1以下となる場合、溶剤型の有機バインダーとの混合が容易になるという利点を有する。
【0037】
a−3.水
上記水としては、任意の適切なものを用いることができる。例えば、水道水、イオン交換水、および純水が好ましく用いられる。
【0038】
上記水の使用量は、アルコキシ基含有成分が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、上記アルコキシ基含有成分の加水分解反応を十分に進行させ得る。その結果、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0039】
上記水の使用量は、好ましくはアルコキシ基含有成分が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下であり、より好ましくは5倍当量(モル)以下である。1つの実施形態において、溶剤型の有機バインダーが用いられる場合、上記水の使用量は、好ましくはアルコキシ基含有成分が有するアルコキシ基の2倍当量(モル)以下であり、より好ましくは1倍当量(モル)である。当該量の水を用いることにより、加水分解反応中におけるアルコキシ基含有成分またはその加水分解物の析出を防止し得るとともに、得られるポリヒドロキシシロキサンの貯蔵安定性を向上させ得る。
【0040】
a−4.触媒
上記触媒としては、アルコキシ基含有成分が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を有するものであれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物;が挙げられる。触媒作用が適度であるので、生成したポリヒドロキシシロキサンの縮合が進行し難いからである。なかでも、アルミニウム触媒が好ましく用いられる。アルミニウム触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0041】
上記触媒の使用量としては、アルコキシ基含有成分が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を発揮する量以上であればよい。具体的には、当該使用量は、アルコキシ基含有成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0042】
A.ポリヒドロキシシロキサン溶液
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、例えば、上記テトラアルコキシシランの縮合物、親水性有機溶媒、水、および、触媒を混合することにより得られる。その際、必要に応じて、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物をさらに添加して混合する。これにより、テトラアルコキシシランの縮合物の過度な縮合反応を抑制することができ、また、得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとの良好な相溶性を確保することができるからである。
【0043】
混合方法としては、任意の適切な方法が用いられる。好ましくはテトラアルコキシシランの縮合物と触媒と親水性有機溶媒と、必要に応じて、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物を混合し、次いで、得られた混合液に水を加える方法が用いられる。このような方法で混合することにより、得られる混合液の白濁、沈殿の生成、またはゲル化を防止し得る。水は、少量ずつ添加することが好ましく、滴下によって添加することがより好ましい。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にしてから使用することができる。
【0044】
上記混合液中においては、テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解反応(有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物が混合されている場合は、さらにその加水分解反応)が進行することから、ポリヒドロキシシロキサンが生成する。加水分解反応の好適な条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。すなわち、反応温度は、好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃である。反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜6時間である。当該条件で加水分解反応を行うことにより、加水分解反応を十分に進行させて目的のポリヒドロキシシロキサンを生成させ得ると共に、生成したポリヒドロキシシロキサン同士の縮合を抑制し得る。
【0045】
上記加水分解反応は、混合液中のアルコキシ基含有成分が有する実質的に全てのアルコキシ基が加水分解された後に終了することが好ましい。この場合、生成したポリヒドロキシシロキサンが実質的にアルコキシ基を有さない。「実質的に全てのアルコキシ基が加水分解された」ことおよび「ポリヒドロキシシロキサンが実質的にアルコキシ基を有さない」ことは、例えば、核磁気共鳴分析(H−NMR)および/または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークが観察されないことにより確認することができる。アルコキシ基を実質的に有さず、有機材料と組み合わせることが可能であるポリヒドロキシシロキサンは、従来は実用可能な状態で得ることができなかったものであり、本発明によって初めて実用可能な状態で得られるものである。
【0046】
また、上記ポリヒドロキシシロキサンは、典型的には、特開平9−165450号公報やWO95/17349公報に記載されるテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物が示すような、溶液中での粒子性を有さず、また、3nm以上のミクロドメインを形成することもない。すなわち、均一な溶液としてポリヒドロキシシロキサン溶液が得られ得る。粒子性または3nm以上のミクロドメインの有無は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察やレーザー光散乱測定装置、小角X線散乱装置により確認することができる。
【0047】
上記のようにして得られるポリヒドロキシシロキサン溶液中においては、アルコキシ基含有成分の加水分解物同士、なかでもポリヒドロキシシロキサン同士の縮合が実質的に生じないことが好ましい。したがって、1つの好ましい実施形態において、加水分解反応に供したアルコキシ基含有成分の平均縮合度nと、生成したアルコキシ基含有成分の加水分解物の平均縮合度nは、好ましくは1≦n/n≦3の関係を有する。なお、アルコキシ基含有成分の加水分解物の平均縮合度は、GPC分析により求めることができる。
【0048】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、少なくともポリヒドロキシシロキサンと、親水性有機溶媒と、水と、触媒と、アルコキシ基が加水分解されて生じたアルコールとを含む。当該溶液中の固形分濃度は、代表的には、約5〜40質量%である。当該溶液に親水性有機溶媒および/または水をさらに添加することにより、固形分濃度を所望の値(例えば、3〜30質量%)に調整することができる。添加される親水性有機溶媒および水としてはそれぞれ、上記a−2項およびa−3項で記載したものの中から、有機バインダーの種類に応じて適切に選択され得る。具体的には、水性の有機バインダーを用いる場合は水を添加することが好ましく、溶剤型の有機バインダーを用いる場合は親水性有機溶媒を添加することが好ましい。
【0049】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、代表的には、該溶液単独でコーティング膜を形成することができないか、または、形成するとしてもそのコーティング膜の膜厚は0.5μm以下である。このように、単独では十分な膜厚のコーティング膜を形成し難いポリヒドロキシシロキサン溶液を、後述する有機バインダーと共に使用することにより、例えば、膜厚が1μm以上、好ましくは5μm以上のコーティング膜を形成することができる。なお、本明細書において、「コーティング膜を形成する」とは、特に記載がない限り、所定のバーコーターでブリキ板に塗装し、80℃で1分乾燥後、水銀ランプまたはメタルハライドランプにより、360nmの波長の光量で100mJ/cmの紫外線を照射した後に、5cm×5cm以上の連続膜を形成することをいう。
【0050】
B.有機バインダー
本発明で用いられる有機バインダーは、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む。これにより、得られるコーティング膜を活性エネルギー線硬化させることが可能となるので、熱によるポリヒドロキシシロキサンの縮合反応による硬化と、活性エネルギー線照射による有機バインダーの重合反応による硬化とからなる2種類のマトリックスが形成され、より硬質なコーティング膜を得ることができる。その結果、膜厚と硬度とのバランスに優れるのみならず、無機性材料(ポリヒドロキシシロキサン)と有機性材料(有機バインダー)との均質性の高い緻密なコーティング膜が形成され得る。
【0051】
活性エネルギー線硬化型樹脂としては、目的に応じて任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、重合性二重結合またはエポキシ基を含む樹脂が用いられる。重合性二重結合を含む樹脂としては、1分子当たり2個以上のα,β−不飽和カルボニル基を有する化合物であることが好ましい。上記α,β−不飽和カルボニル基は、カルボニル基に対するα炭素及びβ炭素の間に二重結合がある官能基であり、例えば、メタクリレート基、アクリレート基、マレエート基、フマレート基等を挙げることができる。上記α,β−不飽和カルボニル基を1個しか有さない場合は、充分な活性エネルギー線硬化性を示さない場合がある。上記α,β−不飽和カルボニル基は、1分子当たり10個以下であることが好ましく、6個以下であることがより好ましい。
【0052】
上記重合性二重結合を含む樹脂としては、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステル、フマル酸やマレイン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸を酸成分として含む不飽和ポリエステル重合体、エポキシ重合体(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイル基含有ウレタン化合物、α,β−不飽和カルボニル基含有アクリル重合体、(メタ)アクリロイル基含有ポリエーテル重合体及び(メタ)アクリロイル基含有シリコーンオリゴマー等が挙げられる。なかでも、高反応性、耐候性、相溶性に優れること、および高光沢であることから、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0053】
ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、アクリル重合体を製造するのに用いられるアクリルモノマー類を上記樹脂と共に併用することができる。
【0054】
上記重合性二重結合を含む樹脂における二重結合1個当たりの分子量(二重結合当量)は、好ましくは50〜1500、より好ましくは70〜1000である。上記二重結合当量が50未満である場合、得られるコーティング膜中に未反応の(メタ)アクリレート基が残存し、コーティング膜の耐候性が低下したり、得られるコーティング膜が硬く脆くなったりする場合がある。また、1500を超えると、得られるコーティング膜の架橋密度が小さくなり、コーティング膜の物性や性能が低下する場合がある。
【0055】
エポキシ基を含む樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アルキル置換ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アルキル置換ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、脂環式エポキシ樹脂として、例えば、4−ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート、ビス−(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、(2,3−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等が挙げられる。また、これら以外の多官能脂環式エポキシ樹脂、3官能、4官能の脂環式エポキシ樹脂も使用可能である。
【0056】
上記活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化前の数平均分子量(Mn)は、好ましくは200〜5000、より好ましくは250〜3000である。上記数平均分子量(Mn)が200未満である場合、加熱硬化時の揮散、コーティング膜の硬度の低下、塗料の硬化性の低下によってコーティング膜の耐溶剤性、耐水性や耐候性が低下する場合がある。上記数平均分子量(Mn)が5000を超える場合、活性エネルギー線硬化型樹脂自体の粘度が高くなり、塗布する際の希釈された塗料中の溶液の含有量が多量になる場合がある。なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0057】
有機バインダー中における活性エネルギー線硬化型樹脂の含有量は、有機バインダー中の全樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは30〜100質量部、より好ましくは50〜100質量部である。なお、上記有機バインダーは、目的に応じて、活性エネルギー線硬化型樹脂以外の任意の適切な他の樹脂を含み得る。
【0058】
C.光硬化開始剤
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、好ましくは光硬化開始剤をさらに含む。当該光硬化開始剤としては、任意の適切なものを用いることができる。具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインおよびベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,N,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールのようなケタール類;ベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0059】
光硬化開始剤の含有量としては、熱硬化と活性エネルギー線硬化の割合に応じて適切に設定され得る。光硬化開始剤の含有量は、上記活性エネルギー線硬化型樹脂の固形分100質量部に対して、一般的には、0.1〜30質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0060】
D.その他の成分
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、さらに任意の適切な他の成分を含み得る。当該他の成分としては、例えば、アルコキシ基を有するシリコーン化合物、増感剤、顔料、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0061】
有機バインダーとして、重合性二重結合またはエポキシ基を含むものを用いる場合、本発明の無機有機複合コーティング組成物が、アルコキシ基を有するシリコーン化合物をさらに含むことにより、得られるコーティング膜の架橋密度を高めることができる。その結果、より緻密なコーティング膜が形成され得る。
【0062】
E.無機有機複合コーティング組成物の製造方法
本発明の無機有機複合コーティング組成物の製造方法は、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、上記ポリヒドロキシシロキサン溶液、有機バインダー等の配合成分をディスパー等の当業者によく知られた攪拌手段を用いて混合する等の方法が挙げられる。
【0063】
(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとの配合比[(A)/(B):固形分(質量)]は、好ましくは1/9〜9/1であり、より好ましくは2/8〜8/2、さらに好ましくは3/7〜7/3である。1/9以上の配合比[(A)/(B):固形分(質量)]で(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとを含むことにより、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、十分な硬度を有するコーティング膜を形成することができる。また、9/1以下の配合比[(A)/(B):固形分(質量)]で(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとを含むことにより、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、十分な膜厚を有するコーティング膜を形成することができる。
【0064】
F.コーティング膜
本発明の無機有機複合コーティング組成物を、任意の適切な基材上に塗布することにより、コーティング膜が形成される。当該塗布方法としては、例えば、バーコーター法、スプレー法等が挙げられる。本発明のコーティング膜は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり得る。コーティング膜の乾燥膜厚は、用途等に応じて任意の適切な値に設定され得る。
【0065】
得られたコーティング膜は、加熱硬化させてもよい。加熱硬化させることで、コーティング膜の物性および諸性能が向上し得る。加熱温度は、無機有機複合コーティング組成物の種類に応じて適宜設定し得る。一般的には40〜180℃に設定されていることが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定し得る。
【0066】
また、得られたコーティング膜は、活性エネルギー線硬化(例えば、電子線硬化、紫外線硬化、光硬化)させてもよい。活性エネルギー線硬化させることで、コーティング膜の物性および諸性能が向上し得る。エネルギー線硬化条件は、無機有機複合コーティング組成物の種類に応じて適宜設定し得る。例えば、水銀ランプあるいはメタルハライドランプにより、360nmの波長での照射光量が好ましくは0.1〜5J/cm、より好ましくは0.1〜3J/cmとなるよう紫外線を照射すればよい。
【0067】
さらに、得られたコーティング膜は、熱硬化と活性エネルギー線硬化との二重硬化させてもよい。その際、熱硬化の後に活性エネルギー線硬化させてもよく、活性エネルギー線硬化の後に熱硬化させてもよく、熱硬化と活性エネルギー線硬化とを同時に行ってもよい。二重硬化により、架橋密度がさらに向上され、無機性材料と有機性材料とが均質化した緻密なコーティング膜が形成され得る。二重硬化させたコーティング膜の硬度(鉛筆硬度)は、例えば、F以上であり、好ましくはH以上である。
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0069】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
<アルコキシ基の有無の確認>
IR分析:アルコキシ基のC−H伸縮に基づくピーク(SiOMeの場合は2846〜2849cm−1付近)を観察した。
H−NMR分析:アルコキシ基が有する水素に基づくシグナル(SiOMeの場合は3.51〜3.65ppm付近)を観察した。
上記アルコキシ基に基づくピークまたはシグナルが認められない場合は「無」と評価し、認められる場合は「有」と評価した。
【0070】
<平均縮合度の測定>
アルコキシ基含有成分の平均縮合度nは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)分析によって得た分子量(ポリスチレン換算)から、分子に分岐がないものとして算出した。GPC分析は、以下の装置、器具および測定条件により行った。
・分析装置: 東ソー社製 HLC−8220
・溶離液: クロロホルム
・流量: 0.6mL/分
・検出器: RI
・カラム温度: 40℃
・注入量: 20μL
【0071】
アルコキシ基含有成分の加水分解物の平均縮合度nは、GPC分析によって得た分子量(ポリエチレングリコール換算)から、分子に分岐がないものとして算出した。GPC分析は、以下の装置、器具および測定条件により行った。
・分析装置: 東ソー社製 HLC−8220
・溶離液: 10mM 臭化リチウム含有メタノール
・流量: 0.6mL/分
・検出器: RI
・カラム温度: 40℃
・注入量: 20μL
【0072】
<固形分濃度の測定>
試料(約1g)の重量を測定後、該試料を140℃オーブンにて10分間乾燥させた。次いで、乾燥後の試料の重量を測定した。乾燥後の試料の重量を乾燥前の試料の重量で除して100を乗じた値を固形分濃度(%)とした。
【0073】
<コーティング膜の膜厚の測定>
ブリキ板上のコーティング膜の膜厚は、電磁膜厚計(ケット科学研究所社製、LE−300J)を用いて測定した。PETフィルム、ガラス板上のコーティング膜の膜厚は、クーラントプルーフマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。非磁性金属上のコーティング膜の膜厚は、渦電流膜厚計(ケット科学研究所社製、LH−300J)を用いて測定した。
【0074】
<コーティング膜の硬度(鉛筆硬度)の測定>
JIS−K−5600−5−4に準拠して測定した。
【0075】
<コーティング膜の油性マーカー汚染性の測定>
作成したコーティング膜に、油性マーカー(ゼブラ社製、商品名「マッキー極細(黒)」)で文字を書き、布で軽くふき取った後のインクの残存を目視で評価した。
【0076】
[調製例1〜18]
表1に記載の配合で、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)と、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(a−1’)と、親水性有機溶媒(a−2)と、水(a−3)と、触媒(a−4)とを混合し、反応させることにより、ポリヒドロキシシロキサン溶液1〜18を得た。なお、表1中における反応条件1〜3はそれぞれ、以下のとおりである。
【0077】
<反応条件1>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、20℃で混合した。得られた混合物を20℃に保ち、撹拌しながら、さらに該反応容器に水を20分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温(約20℃)で40分撹拌した後、80℃に昇温して3時間撹拌した。
【0078】
<反応条件2>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、室温で混合した。得られた混合物を室温で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を10分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温で1時間撹拌した後、40℃に昇温して3時間撹拌した。
【0079】
<反応条件3>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、20℃で混合した。得られた混合物を20℃に保ち、撹拌しながら、さらに該反応容器に水を20分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温で40分撹拌した後、40℃に昇温して3時間撹拌した。
【0080】
調製例1〜18で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液1〜18をTEM観察したところ、ポリヒドロキシシロキサン溶液2では、平均粒子径で約5nmの微粒子が観察された。他のポリヒドロキシシロキサン溶液についてはいずれも、粒子および3nm以上のミクロドメインの形成が認められなかった。さらに、該ポリヒドロキシシロキサン溶液1〜18について、外観(目視)、アルコキシ基の有無、平均縮合度比(n/n)、固形分濃度を調べた。結果を表1にまとめて示す。
【0081】
【表1】

【0082】
[調製例a]
(有機バインダー(a)の調製)
水分散性樹脂であるアクリルエマルション(メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=50/49/1(固形分質量比)、平均粒子径:100nm、pH:9.0、中和剤:アンモニア水)を有機バインダー(a)とした。
【0083】
[調製例b]
(有機バインダー(b)の調製)
アクリルポリオール(固形分:60% 水酸基価:140 酸価:114 ガラス転移温度(Tg):50℃)を有機バインダー(b)とした。
【0084】
[調製例c]
(有機バインダー(c)の調製)
重合性二重結合を有するペンタエリスリトールトリアクリレート 100部と光硬化開始剤 ベンジルジメチルケタール 10部とを混合することにより、有機バインダー(c)を得た。
【0085】
上記有機バインダー(a)〜(c)の固形分濃度および該有機バインダー単独で形成した乾燥膜厚5μm(80℃、1分で乾燥させ、乾燥処理後、1.9J/cmとなるようにUV光を照射した)でのコーティング膜の鉛筆硬度を表2にまとめて示す。
【表2】

【0086】
[実施例1〜11、比較例1〜3、参考例1〜2]
上記で得たポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを表3に記載の配合比でよく混合することにより、無機有機複合コーティング組成物を得た。次いで、得られた無機有機複合コーティング組成物を表3に記載の塗装条件でコーティングすることにより、無機有機複合コーティング膜を得た。得られた無機有機複合コーティング膜について、外観(目視)、鉛筆硬度、および乾燥膜厚を調べた。結果を表4に示す。表4に示すとおり、比較例1で得られた無機有機複合コーティング膜は白濁していた。また、コーティングから7日後にはクラックが発生した。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
[比較例4]
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.3部をイオン交換水 80部に溶解して得た溶液に、ポリメトキシシロキサン(三菱化学(株)製 商品名「MS51」 テトラメトキシシランの縮合物(縮合度:5) SiO含有量:51%) 29部を加えて、室温で4時間撹拌したところ、混合液はゲル化した。その結果、本発明の無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として使用し得るポリヒドロキシシロキサンを得ることはできなかった。
【0090】
[比較例5]
調製例1で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液1を♯8バーコーターでPETフィルム(東洋紡績社製 商品名「コスモシャインA4100」)に塗装し、80℃で1分乾燥した。次いで、当該PETフィルムの断面をTEMで観察したところ、コーティング膜の厚みは200nmであった。また、当該ポリヒドロキシシロキサン溶液1を♯20バーコーターでブリキ板に塗装し、100℃で10分乾燥したところ、塗装層は小細片になってブリキ板から剥がれてしまい、コーティング膜が得られなかった。
【0091】
本発明において無機性材料として使用されるポリヒドロキシシロキサン溶液は、該溶液単独では十分な膜厚を有するコーティング膜を形成することができない(比較例5参照)。しかし、該ポリヒドロキシシロキサン溶液は、有機性材料との相溶性に優れるので、有機性材料と組み合わせて使用することにより、膜厚と硬度とのバランスにより優れ、かつ、透明性に優れたコーティング膜を形成することができる(実施例1〜11および比較例1参照)。さらに、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、有機性材料として、活性エネルギー線硬化型樹脂を採用しているので、熱によるポリヒドロキシシロキサンの縮合反応による硬化と、活性エネルギー線照射による有機バインダーの重合反応による硬化とからなる2種類のマトリックスが形成され、より硬質なコーティング膜を得ることができる(実施例1、3および参考例1、2参照)。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立することから、塗料の分野で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む、無機有機複合コーティング組成物。
【請求項2】
(A)テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)活性エネルギー線硬化型樹脂を含む有機バインダーとを含む、無機有機複合コーティング組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液が、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)、有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物(a−1’)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシランの縮合物および有機基を一部に有するアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるポリヒドロキシシロキサン溶液である、請求項2に記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項4】
前記アルコキシシラン化合物(a−1’)が二重結合を有する、請求項3に記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項5】
前記親水性有機溶媒(a−2)が重合性二重結合を有する化合物を含む、請求項2〜4いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項6】
前記活性エネルギー線硬化型樹脂が、重合性二重結合またはエポキシ基を有する樹脂である、請求項1〜5いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項7】
光硬化開始剤をさらに含む、請求項1〜6いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物から形成される、コーティング膜
【請求項9】
熱および活性エネルギー線によって二重に硬化した、請求項8記載のコーティング膜。
【請求項10】
請求項1〜7いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物を基材上に塗布する工程(1)、および
工程(1)で塗布した無機有機複合コーティング組成物を熱および活性エネルギー線によって二重に硬化する工程(2)
を含む、コーティング膜の製造方法。

【公開番号】特開2008−303231(P2008−303231A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148934(P2007−148934)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】