説明

無機有機複合コーティング組成物

【課題】無機マトリックス中に、有機部分として水性エマルション樹脂から形成された部分が分散した状態にあるコーティング膜が得られる無機有機複合コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む、無機有機複合コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機有機複合コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、無機性材料と有機性材料とを含む、いわゆる、無機有機複合コーティング材料が種々提案されている。このような無機有機複合コーティング材料としては、例えば、無機性材料としてアルコキシシランやその縮合物を含むものが挙げられる。なかでも、ケイ素原子と炭素原子とが結合するように有機基が導入されているアルコキシシランの縮合物を無機性材料として含むものがよく知られている。例えば、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物と有機化合物との縮合反応物を含有する組成物が無機有機複合コーティング膜を形成することが知られている(特許文献1)。
【0003】
上記のような無機有機複合コーティング材料によって、様々な構造を有するコーティング膜が得られる。例えば、膜中における無機性材料および有機性材料の混合状態を制御することが一つの手段として考えられる。しかし、無機性材料としてポリヒドロキシシロキサンを用い、それにより形成された無機マトリックス中に有機バインダーから形成された部分が分散した状態にあるコーティング膜が得られたという報告はこれまでなされていない。
【特許文献1】特開平9−165450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、無機マトリックス中に、有機部分として水性エマルション樹脂から形成された部分が分散した状態にあるコーティング膜が得られる無機有機複合コーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記無機有機複合コーティング組成物は、アルコキシシラン化合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合した後、塩基(a−5)へ添加することにより得られるアルコキシ基を実質的に含まないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記無機有機複合コーティング組成物は、アルコキシシラン化合物(b−1)を、塩基性触媒(b−2)を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒(b−3)中に添加することにより得られるアルコキシ基を実質的に含まないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記水性エマルション樹脂は、アクリル系樹脂を含む。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記水性エマルション樹脂は、乳化重合または懸濁重合によって得られたものである。
【0010】
本発明の別の局面によれば、無機有機複合コーティング膜が提供される。該無機有機複合コーティング膜は、上記無機有機複合コーティング組成物から形成され、上記水性エマルション樹脂から形成された部分がコーティング膜中に分散している。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記無機有機複合コーティング膜は、上記水性エマルション樹脂から形成された部分に由来する空孔を有する。
【0012】
本発明の別の局面によれば、無機有機複合コーティング膜の製造方法が提供される。該無機有機複合コーティング膜の製造方法は、上記無機有機複合コーティング組成物を塗布する工程(1)を含む。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記無機有機複合コーティング膜の製造方法は、工程(1)で得られたコーティング膜から、水性エマルション樹脂から形成された部分を除去する工程(2)をさらに含む。
【0014】
好ましい実施形態においては、前記除去はプラズマ照射により行われる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを無機材料として用い、水性エマルション樹脂を有機バインダーとして用いた無機有機複合コーティング組成物が提供される。該無機有機複合コーティング組成物によれば、無機マトリックス中に有機バインダーから形成された部分が分散した状態にあるコーティング膜が得られる。さらに、このようなコーティング膜から有機部分を選択的に分解、溶解等の処理を施すことにより、多孔質かつ硬質のいわゆる蜂の巣状無機コーティング膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[無機有機複合コーティング組成物]
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含むものである。
【0017】
(I)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液
アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液は、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン(以下、「アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン」と称する場合がある。)を含む。本明細書において、「アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン」は、例えば、核磁気共鳴分析(H−NMR)または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークが観察されない、すなわち、アルコキシ基のピークがないか、または、アルコキシ基に基づくピークの強度が検出感度以下であるポリヒドロキシシロキサンである。
【0018】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンは、模式的に式(1)で表される化合物を含む。式(1)は、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが分岐や架橋のない直鎖状の縮合体である場合を示している。
【化1】

(式中、n1は1以上の数である。)
【0019】
式(1)で表される化合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無等の点で、種々の構造を有する化合物の混合物である。したがって、式(1)において、n1は平均値である。n1は、1以上であり、2〜50が好ましく、2〜20がより好ましい。n1が2以上である場合、ヒドロキシシリル基の数が多くなるので、得られた塗膜の硬度が向上され得る。また、n1が50以下である場合、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの反応性を緩和できるので、塩基性溶液としての取り扱い性が良好である。アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量等を用いて求めることができる。
【0020】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンは、好ましくは有機基を有するポリヒドロキシシロキサンをさらに含むことができる。この有機基を有するポリヒドロキシシロキサンもアルコキシ基を実質的に有さないものである。有機基を有するポリヒドロキシシロキサンは、少なくとも1つのSi−C結合を有する。すなわち、水酸基の代わりに有機基がSi原子に結合した構造を有する。該化合物を含むことにより、有機バインダーとの相溶性を向上させることができる。
【0021】
1つの実施形態において、有機基は、好ましくは炭素数1〜21の置換もしくは非置換の直鎖または分岐アルキル基、または炭素数6〜21の芳香族基、より好ましくは1〜10の置換もしくは非置換の直鎖または分岐アルキル基等が挙げられる。有機基が炭素数4以上のアルキル基である場合、特に有機バインダーとの混合安定性が向上され得る。なお、上記アルキル基は、反応性基を置換基として有することが好ましい。反応性基としては、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。
【0022】
反応性基を置換基として有する有機基としては、例えば、ビニル、メタクリロキシプロピル、アクリロキシプロピル、グリシドキシプロピル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、スチリル、N−2−(アミノエチル)アミノプロピル、アミノプロピル、N−フェニルプロピル、メルカプトプロピル、クロロプロピル等が例示される。好ましくは、ビニル、(メタ)アクリロキシプロピル、グリシドキシプロピル、アミノプロピルである。
【0023】
有機基を有するポリヒドロキシシロキサンの含有量としては、式(1)で表される化合物100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜10質量部である。当該範囲内で使用することにより、所望の硬度を有するコーティング膜を得ると共に、有機バインダーとの充分な混合安定性を確保し、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの急激な縮合反応を抑制する効果をも得ることができる。
【0024】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液のpHは、好ましくは8〜13、より好ましくは8〜12、さらに好ましくは8〜11である。当該好適範囲内のpHであれば、アニオン性エマルションと組み合わせて用いる場合であっても、混合安定性および貯蔵安定性に優れた無機有機複合コーティング組成物が得られ得る。
【0025】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液の不揮発分濃度(NV)は、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%である。不揮発分濃度が5質量%未満であると、塗装に必要な粘度が得られない場合がある。また、不揮発分濃度が25質量%を超えると、製造が困難となる場合がある。不揮発分濃度の測定方法については、後述する。なお、「無機有機複合コーティング組成物の不揮発分」とは、無機有機複合コーティング組成物中において、顔料等の固形物を除いたものを所定条件で加熱して残存する成分を意味する。
【0026】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液の粘度は、粘度カップNK‐2を用いて25℃で測定した値が、好ましくは6〜40秒、より好ましくは7〜30秒である。なお、粘度カップNK‐2は市販されており、例えば、アネスト岩田株式会社等から入手可能である。
【0027】
上記アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液は、任意の適切な方法で調製され得る。具体例として、以下に2つの調製方法を説明する。一般に、ポリヒドロキシシロキサンはpH5〜7の環境下で不安定な状態となり、析出、ゲル化等の現象が生じ易い。下記の調製方法1および2によれば、実質的にポリヒドロキシシロキサンをpH5〜7の環境下におくことがないので、ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液を安定して調製することができる。
【0028】
I−1.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液の調製方法1
第1の調製方法は、アルコキシシラン化合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合することにより得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を塩基(a−5)に添加して得る方法である。
【0029】
(a−1)アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物は、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物を含む。テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無等の点で、種々の構造を有するものの混合物である。このため、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物は、模式的に式(2)によって表されている。式(2)は、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物が分岐や架橋を有さない場合を示している。
【0030】
【化2】

【0031】
式(2)において、n2は平均値である。n2は、1以上であり、1〜50が好ましく、1〜20がより好ましい。テトラアルコキシシランの縮合物の縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0032】
式(2)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、加水分解性が向上するので、効率良くポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0033】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0034】
したがって、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランまたはこれらの縮合物が好ましく用いられる。なかでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびこれらの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランおよびその縮合物がより好ましい。本発明においては、テトラアルコキシシランおよびその縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
テトラアルコキシシランの縮合物としては、好ましくは6個以上、より好ましくは6〜102個、さらに好ましくは12〜42個のアルコキシ基を有するものが用いられる。加水分解により適度な数のヒドロキシシリル基が得られるので、硬度が高い無機有機複合コーティング膜を得ることができるからである。上記のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物は、種々の縮合度を有するものを含み得ることから、当該アルコキシ基の数は、それらの平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、上記縮合度から求めることができる。
【0036】
上記Rが置換基を有する場合、テトラアルコキシシランまたはその縮合物が有する置換基の数はアルコキシ基の数の半分以下であることが好ましい。置換基としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、クロル、ブロム等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基が挙げられる。このような置換基を有する場合には、置換アルキル基の炭素数の合計は1〜6であることが好ましい。また、上記アルキル基は、アルキレンオキサイドユニットを有する化合物で置換されていてもよい。アルキレンオキサイドユニットの種類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。
【0037】
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、任意の適切なテトラアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。また、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物)、コルコート社製、商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物)が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」、コルコート社製、商品名「EMS−485」が挙げられる。
【0038】
テトラアルコキシシランとその縮合物とを組み合わせて用いる場合には、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0039】
アルコキシシラン化合物は、有機基を有するアルコキシシランを含み得る。有機基を有するアルコキシシランは、少なくとも1つのSi−C結合を有する。好ましくは有機基を有するトリアルコキシシランである。このようなアルコキシシラン化合物が加水分解されることにより、上記有機基を有するポリヒドロキシシロキサンを含むアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが得られるからである。なお、有機基については上記(I)項で説明したとおりである。
【0040】
有機基を有するアルコキシシランの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、スチリルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0041】
有機基を有するアルコキシシランの使用量としては、テトラアルコキシシランおよびその縮合物の合計100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜10質量部である。
【0042】
(a−2)親水性有機溶媒
親水性有機溶媒としては、上記アルコキシシラン化合物を、その加水分解反応が進行する程度に溶解し得る限り、任意の適切なものを用いることができる。例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、mは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。親水性有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。このような溶解度を有する親水性有機溶媒を用いることにより、該親水性有機溶媒と水と水に対する溶解性が十分でないアルコキシシラン化合物とを含む系を均一化することができる。その結果、効率的にアルコキシシラン化合物の加水分解反応を進行させ得る。
【0044】
上記親水性有機溶媒の使用量は、アルコキシシラン化合物を溶解し得る量以上であればよい。当該混合量は、例えばアルコキシシラン化合物の質量の0.5〜5倍、好ましくは0.5〜4倍、さらに好ましくは1〜4倍である。混合量が当該好適範囲にある場合、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液の調製が容易であるという利点を有するからである。
【0045】
(a−3)水
上記水としては、任意の適切なものを用いることができる。例えば、水道水、イオン交換水、および純水が好ましく用いられる。
【0046】
上記水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、上記アルコキシシラン化合物の加水分解反応を十分に進行させ得る。その結果、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0047】
上記水の使用量は、好ましくはアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下であり、より好ましくは10倍当量(モル)以下である。当該量の水を用いることにより、加水分解反応中におけるアルコキシシラン化合物またはその加水分解物の析出を防止し得るとともに、得られるポリヒドロキシシロキサンの貯蔵安定性を向上させることができる。
【0048】
(a−4)触媒
上記触媒としては、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を有するものであれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物;が挙げられる。触媒作用が適度であるので、生成したポリヒドロキシシロキサンの縮合が進行し難いからである。なかでも、アルミニウム触媒が好ましく用いられる。アルミニウム触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0049】
上記触媒の使用量としては、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を発揮する量以上であればよい。具体的には、当該使用量は、上記テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0050】
上記テトラアルコキシシラン化合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該テトラアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、アルコキシシラン化合物と触媒と親水性有機溶媒とを混合した混合液に、水を加える方法が用いられる。このような方法で混合することにより、得られる混合液の白濁、沈殿の生成、またはゲル化を防止し得る。水は、少量ずつ添加することが好ましく、滴下によって添加することがより好ましい。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、ろ過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0051】
上記混合液中においては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行することから、ポリヒドロキシシロキサンが生成する。加水分解反応の好適な条件としては、反応温度は10〜100℃、水の添加が終了してからの反応時間は、0.5〜10時間であることが好ましい。当該条件で加水分解反応を行うことにより、加水分解反応を十分に進行させて目的のポリヒドロキシシロキサンを生成させ得ると共に、生成したポリヒドロキシシロキサン同士の縮合を抑制し得る。
【0052】
上記混合により、中間体としてのアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液が得られる。該溶液のpHは、通常3〜4である。なお、ポリヒドロキシシロキサンが実質的にアルコキシ基を有さないことは、例えば、核磁気共鳴分析(H−NMR)または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークの強度が検出感度以下であり観察されないことにより確認することができる。
【0053】
得られたアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液は、ポリヒドロキシシロキサンと、親水性有機溶媒と、水と、触媒と、アルコキシ基が加水分解されて生じたアルコールとを含む。好ましい実施形態においては、該酸性溶液からアルコールや親水性有機溶媒を除去する。これらの除去方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。代表的には、除去すべきアルコールおよび親水性有機溶媒の沸点以上の温度に加熱し、系外に除去した量が所定量に達した段階で加熱を終えればよい。該除去は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0054】
(a−5)塩基
塩基としては、任意の適切な塩基が用いられ得る。好ましくは水溶性の塩基である。なかでも、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のモノアミン類が好ましく、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
【0055】
塩基の使用量としては、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが有するヒドロキシシリル基の1〜20モル%が好ましく、1〜10モル%がより好ましく、3〜10モル%がさらに好ましい。このような使用量であれば、ヒドロキシシリル基が残存する状態でアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液を得ることができる。
【0056】
上記アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を上記塩基に添加することによって目的とするアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液を得ることができる。上記塩基への添加は、少量ずつ行うことが好ましく、滴下によって行うことがより好ましい。このように酸性溶液を塩基に徐々に添加することで、不安定な状態となるpH5〜7を実質的に経ることなく、塩基性溶液を調製し得る。中和熱の影響を避けるために、好ましくは冷却条件下で添加を行う。取り扱いを容易にする観点から、塩基は水溶液としておくことが好ましい。塩基水溶液の量は、得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液中のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量を5〜25質量%にし得る量が好ましい。代表的には、添加するアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液と同量程度である。塩基性溶液中におけるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量が5質量%未満であると、粘度が低くて塗料として用いることができない場合がある。該含有量が25質量%を超えると、ゲル化により製造できない場合がある。
【0057】
I−2.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液の調製方法2
上記調製方法1以外の方法として、例えば、アルコキシシラン化合物(b−1)を、塩基性触媒(b−2)を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒(b−3)中に添加する方法がある。該添加により、アルコキシシラン化合物が加水分解されて、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液が得られる。
【0058】
(b−1)アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物としては、上記(a−1)項で説明したアルコキシシラン化合物を使用することができる。また、有機基を有するアルコキシシランを含み得ることについても、上記(a−1)項で説明した内容が適用される。
【0059】
(b−2)塩基性触媒
塩基性触媒としては、水溶性の塩基性化合物であれば任意の適切なものが用いられ得る。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機水酸化物類;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類;N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類;ピリジン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有するその他の有機化合物類等が挙げられる。上記アミン類はモノアミン類であることが好ましい。また、上記有機基を有するアルコキシシランとして、アミノ基を置換基として有するものを用いる場合、これらは塩基性化合物であるため、塩基性触媒としても機能し得る。これらの塩基性触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
上記のとおり、アルコキシシラン化合物の加水分解反応は、塩基性触媒を含む溶媒中で行われる。その際、塩基性触媒は、後述する水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に溶解して使用される。塩基性触媒の使用量は、触媒の有する塩基性の程度(pK)によって決定され、代表的には、アルコキシシラン化合物を添加する前のpHが9〜11の範囲内になるように調整される。
【0061】
(b−3)水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒
調製方法2で使用される溶媒としては、水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒が用いられる。溶媒として水を用いた場合は、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が速いという利点がある。水としては、任意の適切なものを用いることができ、例えば、上記(a−3)項で説明したものが利用可能である。一方、溶媒として水と親水性有機溶媒との混合溶媒を用いた場合は、水への溶解度が十分でないテトラアルコキシシランの縮合物を溶解し易いという利点がある。親水性有機溶媒としては、上記(a−2)項で説明したものが利用可能である。
【0062】
水はアルコキシシラン化合物の加水分解に使用される。そのため、水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である必要がある。水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水の比率を50質量%以上とし、水と親水性有機溶媒との混合溶媒の使用量を、得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液中のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量を5〜25質量%にし得る量とすれば、必然的に水の使用量はアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上となる。
【0063】
上記アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行する。添加時間は、2時間以内であることが好ましい。添加方法は、全量を一挙に添加してもよく、所定の時間で連続的に添加してもよく、少量ずつを分割して添加してもよい。アルコキシ化合物がテトラアルコキシシランの縮合物を含む場合、アルコキシシラン化合物を親水性有機溶媒に溶解した溶液として添加することが好ましい。加水分解反応が穏やかに進行するからである。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、ろ過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0064】
アルコキシシラン化合物の添加時の反応温度および反応時間は、上記I−1で記載した反応温度および反応時間の記載内容が適用される。
【0065】
(II)水性エマルション樹脂
水性エマルション樹脂としては、pHが7以上であるものが用いられる。水性エマルション樹脂のpHが7未満であると、得られる該無機有機複合コーティング組成物を塗布した際、ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に、水性エマルション樹脂から形成された有機部分が分散した状態、いわゆる海(無機マトリクス)に島(有機部分)が浮いたような海−島構造を有するコーティング膜を得ることができない場合が多い。
【0066】
水性エマルション樹脂のpHを7以上に調整する方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、アンモニア水やアミン化合物などの塩基性物質を加える方法等が挙げられる。
【0067】
水性エマルション樹脂としては、アクリル系エマルション樹脂が好ましく用いられる。耐久性、光沢、コスト、樹脂設計の自由度等に優れるからである。アクリル系エマルション樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられ得る。
【0068】
アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
水性エマルション樹脂の体積平均粒子径は、代表的には5nm〜100μm、好ましくは10nm〜10μmであり、より好ましくは20nm〜1000nmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。体積平均粒子径は、レーザー光散乱法等によって測定することができる。
【0071】
水性エマルション樹脂は、無機マトリックス中に有機部分が分散した状態のコーティング膜を均一に得られるという点から、乳化重合および懸濁重合によって得られるものであることが好ましい。乳化重合により調製する場合には、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法に加えて、平均粒子径5〜500nmのミニエマルション重合法を用いることも可能である。懸濁重合とは、二重結合を有するモノマーを水中に分散させて重合させる方法である。一般的には、まず水等の媒体中で媒体に不溶なラジカル重合性モノマーを激しくかき混ぜることにより分散、懸濁し、0.5〜100μm程度の大きさの液滴を得る。これにラジカル重合性モノマーに可溶な開始剤を加え、ラジカル重合性モノマーの液滴中で重合反応を生じさせる。これにより、0.5〜100μm程度の比較的粒子径の大きい樹脂粒子を製造することができる。
【0072】
重合に用いる乳化剤としては、任意の適切な乳化剤が採用され得る。例えば、カチオン性、ノニオン性、ノニオン−カチオン性のものを単独又は併用して使用することができる。
【0073】
重合開始剤としては、任意の適切な重合開始剤が採用され得る。例えば、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸塩、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウム等との組み合わせからなるレドックス開始剤、第一鉄塩、硝酸銀等の無機系開始剤、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド等の二塩基酸過酸化物、アゾビスブチロニトリル等の有機系開始剤等を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部である。
【0074】
水性エマルション樹脂の不揮発分濃度(NV)は、好ましくは15〜70質量%であり、より好ましくは20〜70質量%であり、さらに好ましくは25〜60質量%である。また、水性エマルション樹脂の不揮発分濃度を30質量%に調整した場合、粘度カップNK−2を用いて25℃で測定した粘度は、好ましくは5〜60秒、より好ましくは7〜30秒である。
【0075】
無機有機複合コーティング組成物中における水性エマルション樹脂の含有量は、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I)と水性エマルション樹脂(II)との配合比[(I)/(II):不揮発分(質量)]が、1/9〜9/1となる量が好ましく、1/9〜8/2となる量がより好ましく、1/9〜7/3となる量がさらに好ましい。配合比[(I)/(II):不揮発分(質量)]が1/9以上である場合、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの含有量が増加するので、十分な硬度を有するコーティング膜を得ることができる。また、配合比[(I)/(II):不揮発分(質量)]が9/1以下である場合、水性有機バインダーの含有量が増加するので、十分な膜厚を有するコーティング膜を得ることができる。
【0076】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、さらに、ノニオン系増粘剤を含むことができる。ノニオン系増粘剤としては、任意の適切なものが用いられ得る。一般的には、官能基の相互作用を利用したものや鉱物由来のもの等がよく知られている。具体的には、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー等のウレタン系増粘剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系増粘剤、モンモリロナイト、ベントナイト、クレイ等の層状化合物系増粘剤、その他のものとして疎水変性エトキシレートアミノプラスト系増粘剤が挙げられる。増粘剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、層状化合物は微視的に分散していると見なし、本明細書ではノニオン系に属するものとする。
【0077】
ノニオン系増粘剤としては、市販されているものを使用し得る。好ましい市販製品としては、ウレタン系増粘剤として商品名「アデカノールUH−814N」(ADEKA社製 ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー)、セルロース系増粘剤として商品名「HECダイセルSP600N」(ダイセル化学工業社製 ヒドロキシエチルセルロース)、層状化合物系増粘剤として商品名「BENTONE HD」(エレメンティスジャパン社製)、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系増粘剤として商品名「Optiflo H600VF」(ロックウッドアディティブズ社製)等が挙げられる。
【0078】
無機有機複合コーティング組成物中におけるノニオン系増粘剤の含有量は、水性エマルション樹脂の不揮発分100質量部に対して、好ましくは0.1〜25質量部であり、より好ましくは0.3〜15質量部、さらに好ましくは0.3〜5質量部である。含有量が0.1質量部未満であると、塗料に必要な粘性が得られない場合がある。
【0079】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、その他の成分として、例えば、硬化剤、艶消し剤、顔料、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、HALS)、酸化防止剤等を含むことができる。
【0080】
硬化剤としては、任意の適切なものが用いられ得る。具体的には、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の含有量は、目的に応じて適切に設定され得る。硬化剤の含有量は、通常、無機有機複合コーティング組成物中の不揮発分100質量部に対して、0.1〜30質量部である。
【0081】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、上記の各成分を混合することにより製造される。混合手段としては、ディスパー等の任意の適切な手段を採用し得る。
【0082】
得られる無機有機複合コーティング組成物の安定性の観点から、上記コーティング組成物の製造段階において、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と水性エマルション樹脂と混合した後、pH調整のためおよびその他の目的で酸系添加剤等の酸性成分を混合しない方が好ましい。
【0083】
上記無機有機複合コーティング組成物はの不揮発分濃度(NV)は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは6〜40質量%であり、さらに好ましくは7〜30質量%である。不揮発分濃度が上記好適範囲内であれば、無機有機複合コーティング組成物を塗装に用いた際に、タレ等が少なく、作業性に優れるという利点がある。
【0084】
無機有機複合コーティング組成物の粘度カップNK−2を用いて25℃で測定した粘度は、好ましくは14〜60秒、より好ましくは15〜50秒、さらに好ましくは15〜40秒である。粘度が上記好適範囲内であれば、無機有機複合コーティング組成物を塗装に用いた際に、タレ等が少なく、作業性に優れるという利点がある。
【0085】
[無機有機複合コーティング膜]
また、本発明は、無機有機複合コーティング膜を提供する。該コーティング膜は、上記無機有機複合コーティング組成物から形成される。
【0086】
上記コーティング膜中においては、水性エマルション樹脂から形成された部分が分散した状態となる。すなわち、本発明によれば、ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に水性エマルション樹脂から形成された有機部分が分散した、いわゆる海‐島構造を有するコーティング膜が得られる。
【0087】
さらに、上記コーティング膜から、有機部分である水性エマルション樹脂から形成された部分を除去することにより、有機部分由来の空孔を有するコーティング膜が得られる。有機部分が除去されたコーティング膜は、多孔質かつ硬質であり、いわゆる蜂の巣状無機コーティング膜である。なお、コーティング膜の膜厚は、代表的には、有機部分の除去前後で変化しないことから、得られた蜂の巣状無機コーティング膜もまた、膜厚と硬度とのバランスに優れる。
【0088】
無機有機複合コーティング膜の膜厚は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり得る。膜厚は、用途等に応じて任意の適切な値に設定され得る。また、無機有機複合コーティング膜の鉛筆硬度は、好ましくはB以上である。
【0089】
上記蜂の巣状無機コーティング膜における空孔の平均孔径は、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは20〜500nmであり、さらに好ましくは50〜200nmである。また、上記蜂の巣状無機コーティング膜の空孔率は、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%である。なお、本明細書においては、平均孔径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって無作為に観察した部分の空孔の平均直径をいう。また、空孔率とは、電透過型電子顕微鏡(TEM)によって無作為に観察した部分の面積に占める空孔の割合、または、無機有機複合コーティング組成物中の全固形分に対する水性エマルション樹脂の質量濃度をいう。蜂の巣状無機コーティング膜は、実質的に無機性材料のみから形成され得ることから、有機部分を含むコーティング膜と比べて、より高い耐久性を発揮し得る。さらに、蜂の巣状無機コーティング膜は、空孔を有することから、各種触媒等の担持体として有用である。また、誘電率が低い、屈折率が低い等の電磁気的、光学的に特徴的な性質を有する。
【0090】
[無機有機複合コーティング膜の製造方法]
無機有機複合コーティング膜は、上記無機有機複合コーティング組成物を任意の適切な被塗装物に対し、任意の適切な方法で塗布することにより、形成される。塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコーター法、スプレー法等の種々の方法が適用できる。なかでも、上記好ましい不揮発分濃度と粘度とを満たす無機有機複合コーティング組成物は、スプレー法による塗布に好適である。
【0091】
塗布により得られる無機有機複合コーティング膜を加熱乾燥させてもよい。加熱乾燥させることで、コーティング膜の物性および諸性能が向上する。特に、無機有機複合コーティング組成物として硬化剤を含んでいる場合には得られた膜の熱硬化が起こり、上記物性および諸性能が飛躍的に向上し得る。加熱温度は、無機有機複合コーティング組成物の種類に応じて適宜設定し得る。一般的には40〜180℃に設定されることが好ましい。また加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定し得る。
【0092】
無機有機複合コーティング膜から、水性エマルション樹脂から形成された部分の除去方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、プラズマ照射、溶媒抽出、熱分解を用いることができる。工程短縮の観点から、プラズマ照射による方法が好ましい。
【0093】
プラズマ照射の条件は、コーティング膜の用途等に応じて適切に設定され得る。例えば、距離を置いてプラズマ発生部とプラズマ照射部とを備えるリモートプラズマ装置を用いる場合、酸素プラズマの照射条件は、例えば、酸素流量:0.03〜0.15L/分、真空度:10〜70Pa、照射時間:5〜30分間、高周波電源(13.56MHz)の電源の出力:100〜500W、プラズマ発生部と試料台との距離:50〜200mmである。なお、プラズマ照射は減圧雰囲気下で行ってもよく、常圧雰囲気下で行ってもよい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0095】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
<アルコキシ基の有無の確認>
IR分析:アルコキシ基のC−H伸縮に基づくピーク(Si−O−CHの場合は2846〜2849cm−1付近)を観察した。上記アルコキシ基に基づくピークが認められない場合は「無」と評価し、認められる場合は「有」と評価した。
【0096】
<不揮発分濃度(NV)の測定>
試料(約1g)の質量を測定後、乾燥させた。次いで、乾燥後の試料の質量を測定した。乾燥後の試料の質量を乾燥前の試料の質量で除して100を乗じた値を不揮発分濃度(%)とした。乾燥条件は、100℃で8分間とした。
【0097】
<粘度の測定>
粘度カップNK−2(アネスト岩田社製)を用いて25℃で行った。
【0098】
<コーティング膜の硬度(鉛筆硬度)の測定>
コーティング膜の鉛筆硬度を、JIS−K−5600−5−4に準拠して測定した。
【0099】
<膜構造の観察>
得られた無機有機複合コーティング膜を小さく切り出し、エポキシ樹脂にて包埋、ウルトラミクロトームにて断面方向に切り出し、厚さ80nmの超薄切片を作成して観察試料とした。この試料を日本電子社製の透過型電子顕微鏡「JEM−2000FXII」を用いて、加速電圧100kVにて膜構造を観察し、黒っぽい全体(海)の中に白っぽいドメイン(島)が存在するミクロ層分離構造が観察された場合を海−島構造があるとし、観察できなかった場合を海−島構造がないとして評価した。また、プラズマ照射後のコーティング膜についても同様にして観察し、蜂の巣構造の有無を評価した。
【0100】
[製造例1]アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I−1)の調製
1Lコルベンに、商品名「MKCシリケートMS51」(三菱化学社製、テトラメトキシシランの縮合物(平均縮合度:5)、SiO含有率:51%)142部、商品名「アルミキレートD」(川研ファイン社製、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)・イソプロパノール溶液、固形分:76%)5.8部、商品名「エキネンF6」(日本アルコール販売社製、エタノールとメタノールの混合物)323部を仕込み、攪拌しながら40℃に加温した。得られた混合液にイオン交換水530部を2時間で滴下し、さらに2時間40℃で攪拌した後、室温まで冷却することにより、ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を得た。次いで、該アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液にイオン交換水418部を添加した後、全量が1000部になるまで減圧濃縮によりアルコール成分を除去した。25%アンモニア水11部をイオン交換水989部に溶解させ、希釈アンモニア水を得た。この希釈アンモニア水に減圧濃縮したアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を室温下約30分で滴下した。これにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I−1)を得た。得られたポリヒドロキシシロキサン溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。
【0101】
[製造例2]アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン(I−2)の塩基性溶液の調製
1Lコルベンにイオン交換水835.9部と25%アンモニア水9.7部を仕込み、混合した。得られた溶液を攪拌しながら水冷し、溶液の温度が26℃になったところで、テトラメトキシシラン152部を約3分で滴下した。液温が約40℃まで上昇したが、そのまま1時間攪拌を続けた。得られた溶液をろ紙(アドバンテック東洋社製 No.2定性ろ紙)でろ過して無色透明なポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I−2)を得た。得られたポリヒドロキシシロキサン溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。
【0102】
[製造例3]アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I−3)の調製
100mLコルベンにイオン交換水83.4部、25%アンモニア水1.4部を仕込み、攪拌した。得られた溶液にテトラメトキシシラン15.2部とビニルトリメトキシシラン0.74部とメタノール0.74部の混合溶液を約3分で滴下した。滴下後、3時間攪拌し、得られた溶液をろ紙(アドバンテック東洋社製 No.2定性ろ紙)でろ過して無色透明なポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液(I−3)を得た。得られたポリヒドロキシシロキサン溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。
【0103】
上記製造例で得られた3種類のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの溶液のアルコキシ(OR)基の有無、不揮発分濃度、pH、および粘度を調べた。結果を表1に示した。
【0104】
【表1】

【0105】
[製造例4]水性エマルション樹脂(II−1)の調製
アクリルエマルション(メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=50/49/1(固形分質量比)、体積平均粒子径:100nm、pH:9.0、中和剤:アンモニア水)を水性エマルション樹脂(II−1)とした。
【0106】
[製造例5]水性エマルション樹脂(II−2)の調製
ヘキサメチレンジイソシアネート500部に3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドを触媒量添加し、窒素気流下170℃で4時間加熱撹拌した。次いで、イソシアネート価から算出したカルボジイミド価が約2.8になったところで、当該反応液を80℃まで冷却し、トルエンを加えて固形分を50%に調整した。これにより、NCO含有量(%)が10.16%であり、粘度(20℃)が30cpである淡黄色溶液を得た。反応容器に当該淡黄色溶液500部を加え、さらに氷冷下でジ−n−ブチルアミン78部とキシレン78部との混合液を約30分かけて滴下した。得られた混合液を室温で1時間撹拌することにより、粘度(25℃)が73cpである淡黄色溶液(以後、「CDI−1」と称することがある。)を得た。異なる反応容器にCDI−1 260部と、スチレン130部と、n−ブチルアクリレート130部とを添加し、よく混合することにより、均一なモノマー混合液を得た。さらに別の反応容器に、イオン交換水130部と乳化剤(花王社製:商品名「PD−104」)78部とを添加し、混合することにより、均一溶液とした。次いで、当該均一溶液を氷冷し、ホモジナイザー(プライミックス(株)製)で撹拌しながら、上記モノマー混合液を一度に投入した。得られた混合液に、少量のイオン交換水を加えながらプレエマルションの体積平均粒子径が300nmになるまで撹拌した。ホモジナイザーをイオン交換水で洗浄し、洗浄液は混合液に加えた。これにより、CDI−1と、スチレンと、n−ブチルアクリレートとの合計濃度が50%に調整されたプレエマルションを得た。開始剤(過硫酸アンモニウム)0.6部をイオン交換水50部に溶解することにより開始剤水溶液を得た。反応容器に、イオン交換水154部を入れ、80℃で撹拌しながら上記プレエマルション760部および開始剤水溶液50.6部をそれぞれ3時間かけて滴下した。次いで、滴下後のプレエマルション滴下装置をイオン交換水30部で洗浄し、生じた洗浄液を反応溶液に加えた。当該反応溶液を80℃でさらに2時間撹拌した後、40℃まで冷却し、200メッシュの篩でろ過した。これにより得たカルボジイミド化合物内包アクリルミニエマルションを10%アンモニア水でpHを調整し、体積平均粒子径209nm、pH8.8の水性エマルション樹脂を得た。得られた水性エマルション樹脂を水性エマルション樹脂(II−2)とした。
【0107】
[製造例6]水性ディスパージョン樹脂(II−3)
水性エマルション樹脂に対応する成分として、水性ディスパージョン樹脂である「バイヒドロールXP2470」(Bayer MaterialScience AG社製アクリルポリオール、不揮発分濃度:45%、pH:9.0)を用いた(樹脂番号を(II−3)とした)。
【0108】
得られた水性エマルション樹脂の不揮発分濃度、pH、不揮発分濃度を30質量%に調整した上記水性エマルション樹脂の粘度と、該水性エマルション樹脂(NV=30質量%)単独で形成したコーティング膜(乾燥膜厚:5μm)の鉛筆硬度を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
[実施例1〜7]
上記で得た(I)ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と(II)水性エマルション樹脂とを表3に記載の配合比でよく混合することにより、無機有機複合コーティング組成物を得た。得られた無機有機複合コーティング組成物を、被塗装物(ブリキ板およびガラス板)に乾燥膜厚が20μmになるようスプレーを用いて塗装を行った。塗装後、100℃、10分の乾燥処理を行うことにより、無機有機複合コーティング膜を得た。得られたコーティング膜の構造を観察した。
【0111】
上記無機有機複合コーティング膜に対して、以下の条件でプラズマ照射を行い、プラズマ照射後の膜構造を観察した。
<プラズマ照射条件>
ガス種:酸素
ガス流量:0.08L/分
真空度:13.3Pa
照射時間:15分間
高周波電源(13.56MHz)の出力:300W
プラズマ発生部と試料台との距離:150mm
上記評価結果を表3および表4に示した。
【0112】
【表3】

【0113】
[比較例1〜2、参考例1]
上記で得た(I)ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と(II)水性エマルション樹脂とを表4に記載の配合比でよく混合することにより、無機有機複合コーティング組成物を得た。以下の手順は実施例と同様にして、無機有機複合コーティング膜を得た。得られたコーティング膜の構造を観察した。得られた無機有機複合コーティング膜に対して、実施例と同じ条件でプラズマ照射を行い、プラズマ照射後の膜構造を観察した。
【0114】
【表4】

【0115】
表3および表4に示すとおり、本発明の無機有機複合コーティング組成物は、無機性材料として、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液とpHが7以上である水性エマルション樹脂とを含むので、ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に水性エマルション樹脂から形成された有機部分が分散した、いわゆる海‐島構造を有するコーティング膜が安定して得ることができる。さらに、当該コーティング膜から有機部分を除去することにより、いわゆる蜂の巣状無機コーティング膜が得られる。
【0116】
しかしながら、比較例1では水性ディスパージョン樹脂であるため、海‐島構造を有するコーティング膜が得られない。この理由は、明らかではないが、ディスパージョンは、エマルションに比べると粒子形態が外部環境(水の揮発、加熱等)によって壊れやすい性質を持っており、無機性材料と混合、造膜したときに生じる収縮によって粒子性が保持されず、海‐島構造を形成しないと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、無機マトリックス中に、有機部分として水性エマルション樹脂から形成された部分が分散した状態にあるコーティング膜を形成し得ることから、塗料分野で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む、無機有機複合コーティング組成物。
【請求項2】
アルコキシシラン化合物(a−1)、親水性有機溶媒(a−2)、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水(a−3)、および、触媒(a−4)を混合した後、塩基(a−5)へ添加することにより得られるアルコキシ基を実質的に含まないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む、無機有機複合コーティング組成物。
【請求項3】
アルコキシシラン化合物(b−1)を、塩基性触媒(b−2)を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒(b−3)中に添加することにより得られるアルコキシ基を実質的に含まないポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液と、pHが7以上である水性エマルション樹脂とを含む、無機有機複合コーティング組成物。
【請求項4】
前記水性エマルション樹脂が、アクリル系樹脂を含む、請求項1から3のいずれかに記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項5】
前記水性エマルション樹脂が、乳化重合または懸濁重合によって得られたものである、請求項1から4のいずれかに記載の無機有機複合コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の無機有機複合コーティング組成物から形成されるコーティング膜であって、前記水性エマルション樹脂から形成された部分がコーティング膜中に分散している、無機有機複合コーティング膜。
【請求項7】
前記水性エマルション樹脂から形成された部分に由来する空孔を有する、請求項6に記載の無機有機複合コーティング膜。
【請求項8】
請求項1から5にいずれかに記載の無機有機複合コーティング組成物を塗布する工程(1)を含む、無機有機複合コーティング膜の製造方法。
【請求項9】
工程(1)で得られたコーティング膜から、水性エマルション樹脂から形成された部分を除去する工程(2)をさらに含む、請求項8に記載の無機有機複合コーティング膜の製造方法。
【請求項10】
前記除去がプラズマ照射により行われる、請求項9に記載の無機有機複合コーティング膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−31146(P2010−31146A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194909(P2008−194909)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】