説明

無機木質保存剤およびそれを用いた木材保存方法

【課題】 無機成分のみで構成され、蒸散せず、防腐性が長く持続する無機木材保存剤を提供する。
【解決手段】 木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤である。アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物を含む主剤と、ミョウバンを含む副剤を備えた配合となっている。木材保存剤を下塗装剤として木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより下塗り剤として用いる。本塗装の塗料と木材との間に木材保存剤を介在させ、下塗装剤としての接着性とともに主剤および副材に由来する防腐性を発揮する。木材内部において木材の持つたんぱく質と副剤中のミョウバンによって被膜を形成せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材又は発泡ウレタン材に防腐機能を与える無機木材保存剤およびそれを用いた木材保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本では戸建てなどでは木造家屋が主流を占めており、木材が腐朽菌の被害にさらされる場合が多い。そこで、木材の腐食進行を防ぎ、木材を優良な状態で長く保存するために種々の防腐塗料が広く利用されている。防腐塗料は、その対象物である木材や木質材料の美観の向上と腐朽を防ぐものである。
【0003】
防腐塗料には大きく大別して有機系塗料と無機系塗料がある。
まず、有機系塗料について述べる。
現在、市場にある防腐塗料の殆どは有機系塗料である。有機系塗料とは、その成分のほとんどが有機材料から成るものである。
近年様々な木材保存効果もある防腐塗料が開発されてきたが、いわゆる有機系が多いものであり、有効成分である木材防腐剤を有機溶剤に溶解させたものが主流を占めている。有機溶剤としては、例えば沸点が200℃以上で有効成分や補助成分に対する溶解力が十分であり、低臭性で人畜に対する安全性が高く環境汚染の少ないものから選ばれる。
例えば、蒸留範囲が290〜305℃のフェニルキシリルエタンなどの高沸点芳香族系有機溶剤などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
なお、防腐塗料は、塗料としての用途が主であり、副次的に防腐効果も持たせるものであるが、防腐効果を主としたものに木材保存剤がある。木材保存剤は木材表面に塗布したり木材内部に含浸させたりして木材を改質し、防腐性をもたせるものである。古くから用いられている木材保存剤としては、長期間に耐腐朽性を持続するクレオソート油が知られている(例えば、特許文献2参照)。クレオソート油は、ある程度長期間に耐腐朽性を持続する木材防腐剤ではあるが、石炭の乾留によって製造される多環芳香族炭化水素を多量に含有するものであるので、発ガン性を有する多環芳香族炭化水素等の有害物質を多量に含むため環境に対して与える悪い影響が問題となっていた。
【0005】
次に、無機系塗料について述べる。
現在、市場で流通している従来の無機系防腐塗料には、成分のすべてが無機成分からなる塗料はほとんど存在しない。その理由は、防腐塗料中の無機成分は伸縮に乏しいため、無機成分のみで防腐塗料を作製した場合、塗料膜の伸縮に追随性が無く、塗料膜が剥離してしまうからである。そこで、追随性を補完するために成分の一部に有機系素材を配合しているのが実情である。つまり、成分の一部に有機系素材を含む防腐塗料であり、成分のすべてが無機素材からなる防腐塗料はまだ開発されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平10−7502号公報
【特許文献2】特開平8−25311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機系塗料の問題点としては経年劣化が挙げられる。防腐塗料が施用される木材は、外界の環境にさらされており、雨、紫外線、熱などの影響を受ける。有機系塗料の成分である有機系物質は外界の影響を受けやすく耐候性が大きくないため、蒸散や分解などが進み、経年劣化しやすいため、その寿命は決して長いものではない。また、成分によっては微生物による劣化を受けることもあり、一般的には、アクリル系塗料で5年程度、フッ素系塗料でも15年程度しか効果が持続しないと言われている。
【0008】
上記特許文献1に示した高沸点芳香族系有機溶剤の中でもフェニルキシリルエタンは、木材に対する浸透性がとりわけ良好なものであるが、やはり、蒸散により臭気を生じるという不具合がある。
【0009】
また、上記特許文献2に示したクレオソート油は、石炭の乾留によって製造される多環芳香族炭化水素を多量に含有するものであるので、蒸散により発ガン性を有する多環芳香族炭化水素等の有害物質を放出してしまうため健康に与える影響が問題となっていた。
【0010】
現在、市場で流通している従来の無機系防腐塗料には、成分のすべてが無機成分からなる塗料はほとんど存在しない。その理由は、防腐塗料中の無機成分は伸縮に乏しいため、無機成分のみで防腐塗料を作製した場合、塗料膜の伸縮に追随性が無く、塗料膜が剥離してしまうからである。そこで、追随性を補完するために成分の一部に有機系素材を配合しているのが実情である。つまり、成分の一部に有機系素材を含む防腐塗料であり、成分のすべてが無機素材からなる防腐塗料はまだ開発されていない。
【0011】
上記の問題点にまとめたように、従来の有機系の防腐塗料では、どうしても蒸散により有害物質を環境中に放出してしまい、健康に与える影響が問題となってしまう。また、従来の無機系の防腐塗料では一部含まれる有機剤が蒸散などにより失われると伸縮性が乏しくなり木材に定着せず、経年劣化により剥離するため普及していない。
【0012】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、蒸散せず、防腐性が長く持続する無機木材保存剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤であって、アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物を含む主剤と、ミョウバンを含む副剤を備え、前記木材保存剤を下塗装剤として前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより、前記本塗装の塗料と前記木材又は前記発泡ウレタン材との間に前記木材保存剤を介在させることにより、前記下塗装剤としての接着性とともに前記主剤および前記副材に由来する防腐性を発揮する無機木材保存剤である。
【0014】
本発明者である吉村剛と堀井三郎は防腐剤を研究する中、アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートとミョウバンを配合させることにより十分使用に耐える木材保存剤となることを発見した。本発明者である吉村剛と堀井三郎はアモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートの持つ防腐性について研究してきたが、従来技術では、溶剤としては木材表面への定着性や木材表面下への含浸性において有機系溶剤が選択されていたところ、リチウムシリケートとミョウバンとの組み合わせにより、特に有機系溶剤を用いずとも、十分に施用する木材表面への定着性や木材表面下への含浸性が確保できることを発見した。リチウムシリケートとミョウバンを配合した木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより、木材の持つたんぱく質とミョウバンによって、木材又は発泡ウレタン材の表面または内部において被膜を形成せしめる作用があり、木材表面への定着性や木材表面下への含浸性が確保できるものと考えられる。従来の無機系塗料に問題となっていた塗料の剥離などの問題は発生しないことが確認された。
【0015】
防腐性については、本発明者である吉村剛と堀井三郎の研究の結果、リチウムシリケートにおける腐朽菌に対する防腐性能に加え、ミョウバンにおける腐朽菌に対する防腐性を発見した。ミョウバンは広く知られた物質であるが、木材の腐朽菌に対する防腐性については公知ではなく、木材保存剤としてミョウバンを用いている例は従来技術には知られておらず、本発明者である吉村剛と堀井三郎の研究により明らかになった。
【0016】
なお、リチウムシリケートとミョウバンを配合した木材保存剤は、木材表面への定着性や木材表面下への含浸性は十分に発揮されるものの、雨などによる溶脱が起こるおそれがある。そのため、本発明の木材保存剤は、本塗装用の塗料塗布の下地に下塗りする木材保存剤として利用することが好ましい。つまり、本塗装に先立って本発明の木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布または表面下に含浸させて下地塗装を行い、乾燥後、本塗装用の塗料を用いて本塗装を行う。この本塗装用の塗料は、限定されず、有機系塗料であっても無機系塗料であっても良い。有機系塗料は耐候性が大きくないため蒸散や分解などが進み、経年劣化しやすく、一般的には、アクリル系塗料で5年程度、フッ素系塗料でも15年程度しか効果が持続しないと言われているが、下地塗装として本発明の木材保存剤を用いて木材の改質を行っている場合、木材そのものに腐朽は進まず、表面の塗料の経年劣化が進んでくれば、表面の塗料のみ塗り直せば良く、木材自体の保存は長期にわたり可能となる。
【0017】
ここで、製剤としての成分の配合であるが、例えば、主剤であるリチウムシリケートの配合が重量比15〜25wt%、副剤であるミョウバンの配合が重量比3〜6wt%含有されているものとして調製する。
【0018】
また、下塗装時の希釈倍率としては、1倍〜10倍程度とすれば良い。
木材のpHに関しては、下塗装を施した箇所のpHが中性からアルカリ性を示す範囲となるように使用することが好ましい。もともと木材は一部を除きpH3〜5の酸性値を示すが、本発明の木材保存剤を塗布することにより施用箇所のpHがpH9前後に改質され、従来は問題となっていた鉄製の釘、ねじ、金具等を錆びにくくできるという副次的効果もある。
【0019】
本発明の木材保存方法は、木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤を用いた木材方法であって、下塗装として塗布する木材保存剤が、アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートを含む主剤とミョウバンを含む副剤を備えたものであり、下塗装を木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させる下塗り工程と、下塗り工程の後に乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程の後に塗料を用いて本塗装を行う本塗装工程を備え、本塗装の塗料と木材又は発泡ウレタン材との間に下塗装剤を介在させることによって、下塗装剤としての接着性とともに主剤および副材に由来する防腐性を発揮させることを特徴とする無機木材保存剤を用いた木材保存方法である。
なお、乾燥工程において、木材の持つたんぱく質と副剤中のミョウバンの持つ収斂作用によって、木材又は発泡ウレタン材の表面または内部において被膜が形成される。
【発明の効果】
【0020】
上記構成の無機木材保存剤であれば、木材又は発泡ウレタン材表面への定着性や、表面下への含浸性が確保されるとともに、腐朽菌に対する防腐性が確保される。また、本発明にかかる無機木材保存剤であれば、無機素材であるので、従来の有機系木材保存剤や無機系木材保存剤のように蒸散するという問題が発生せず、環境に対して有害物質を放出することもない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の木材保存剤の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの構成例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1として本発明の無機木材保存剤100の構成例を示す。
本発明の無機木材保存剤は、主剤であるアモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートと、副剤であるミョウバンを必須成分として含有する。
【0023】
まず、主剤について説明する。
主剤であるアモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートとして、無水珪酸(SiO2)と酸化リチウム(Li2O)とを所定条件下で混合反応させてシリケート結合させたものが好適に用いられる。リチウムシリケートは、リチウムと二酸化ケイ素が、Si−O−Liの結合を示すもので、この状態での二酸化ケイ素はアモルファスシリカであって、固形物を含むものではない。
製剤としては、塗布性や膜硬度を考慮すると、使用するリチウムシリケートの濃度は重量比15〜25wt%程度でモル比(SiO2/Li2O)が3.5〜7.5の範囲のものが特に好ましい。
リチウムシリケートは、無機物質でありながらもある程度の接着性がある。また、pHは11前後とアルカリ性を示す。
【0024】
次に、副剤について説明する。
副剤であるミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oは多様な用途で広く用いられている化合物である。染色剤や、消臭剤、皮なめし剤、沈殿剤などの用途があり、古くから使われてきた。例えば、染色剤としては、ナスの漬物では色素であるアントシアニンの色を安定化して紫色を保つ発色剤として用いられる。沈殿剤としては上質の井戸がない場合、質の悪い水にミョウバンを入れて不純物を沈殿させて飲用に使うこともあった。防臭剤としては腋の制汗・防臭剤としても使用されている。また、ミョウバンには殺菌作用があり、洗眼、うがい薬に用いられることもある。
このように多様な用途のあるミョウバンであるが、ミョウバンを木材の表面に塗ったり表面下に含浸させたりし、木材を腐朽菌から防護する木材保存剤として用いることはまったく知られておらず、また、従来の用途から容易に想定できるものでもない。
【0025】
本発明の木材保存剤は、副剤にミョウバンを配合し、木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより、木材の持つたんぱく質と副剤中のミョウバンとの作用によって、木材又は発泡ウレタン材の表面または内部において被膜を形成せしめることにより腐朽菌の繁殖防止に資するものである。
【0026】
製剤としては、塗布性や膜硬度を考慮すると、使用するミョウバンの濃度は、重量比3.0〜6.0wt%程度が特に好ましい。
ミョウバンは、主剤であるリチウムシリケート同様、無機化合物でありながら、接着性を示す。
【0027】
このように、製剤としては、主剤であるリチウムシリケートが重量比15〜25wt%、副剤であるミョウバンが重量比3.0〜6.0wt%であるが、後述するように、木材などへの施用時には、希釈して用いても良い。希釈倍率が1倍〜10倍であり、下塗装箇所における木材又は発泡のウレタン材のpHが中性からアルカリ性を示す範囲で使用する。
【0028】
本発明の木材保存剤は、木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って木材又は発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布するものであり、下塗装剤として木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることによって施用し、その後に塗布する本塗装の塗料の下に木材保存剤を介在させることにより、下塗装剤としての接着性とともにリチウムシリケートおよびミョウバンに由来する防腐性を発揮せしめるものである。
一般に、従来の無機塗料は伸縮性に乏しく、基材の伸縮に追随できずに徐々に塗料が剥離する事態が発生するが、本発明の木材保存剤は、完全無機でありながら、リチウムシリケートとミョウバンとの組み合わせにより、特に有機系溶剤を用いずとも、十分に施用する木材表面への定着性や木材表面下への含浸性が確保できることが確認できた。
【0029】
本発明の木材保存剤は、リチウムシリケートとミョウバンを配合したことにより、木材の持つたんぱく質とミョウバンの相互作用によって、木材又は発泡ウレタン材の表面または内部において被膜を形成せしめる作用があり、木材表面への定着性や木材表面下への含浸性が確保できるものと考えられる。従来の無機塗料に問題となっていた塗料の剥離などの問題は発生しないことが確認された。
【0030】
また、この被膜は腐朽菌の内部への侵入を阻止するために有効であると考えられる。リチウムシリケートが持つ防腐作用、ミョウバンの持つ殺菌作用に加え、この被膜の形成によって腐朽菌が内部へは侵入できず、木材の腐敗が進むことがないと考えられる。
【0031】
以下、本発明の木材保存剤の施用手順について説明する。図1は木材保存剤の施用手順の流れを示すフローチャート、図2はこの様子を簡単に断面において示した図である。
本発明の木材保存剤は、いわゆる本塗装用の塗料ではなく、本塗装に先立って木材や発泡ウレタン材の下塗装用の下塗り剤として使用する。
【0032】
[手順1]下塗り工程
本発明にかかる木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させる下塗り工程である(図1ステップS1)。塗布の方法は特に限定されないが、製剤の希釈液で充填した貯留タンクに木材を浸漬させる方法でも良く、また、木材に対して製剤を噴霧しても良く、刷毛などで塗っても良い。
【0033】
[手順2]乾燥工程
下塗り工程の後に木材保存剤を乾燥させる工程である(図1ステップS2)。乾燥に要する時間は特に限定されないが、木材の状態や外気の湿度や温度によって条件が変わる。乾燥時間については本塗装用の塗料が塗装の前提とする木材の状態に落ち着けば良い。
【0034】
[手順3]本塗装工程
乾燥工程の後に本塗装用の塗料を用いて本塗装を行う工程である(図1ステップS3)。本塗装に用いる塗料は特に限定されず、有機系塗料であっても無機系塗料であっても良い。有機系塗料は耐候性が大きくないため蒸散や分解などが進み、経年劣化しやすく、一般的には、アクリル系塗料で5年程度、フッ素系塗料でも15年程度しか効果が持続しないと言われているが、下地塗装として本発明の木材保存剤を用いて木材の改質を行っている場合、木材そのものに腐朽は進まず、表面の塗料の経年劣化が進んでくれば、表面の塗料のみ塗り直せば良く、木材自体の保存は長期にわたり可能となる。
【0035】
[腐朽菌繁殖実験]
以下、試験製剤を作製し、防腐性能について検証実験を行った。
まず、本発明の木材保存剤を施用した培地試験において腐朽菌が繁殖するか否かを実験した。
【0036】
(試験製剤)
試験に用いる木材保存剤として、配合濃度を変えた試験製剤1,2,3を作製し、また、その製剤の希釈率を5パターン用意し、培地混釈法により防腐性能の評価試験を行った。
希釈パターンは以下の5パターンである。
A 5% (製剤原液1ml+培地19ml)
B 2% (製剤2.5倍水希釈液1ml+培地19ml)
C 0.5% (製剤10倍水希釈液1ml +培地19ml)
D 0.2% (製剤25倍水希釈液1ml +培地19ml)
E 0.05%(製剤100倍水希釈液1ml +培地19ml)
つまり、試験製剤1について、1A,1B,1C,1D,1E、試験製剤2について2A,2B,2C,2D,2E、試験製剤3について3A,3B,3C,3D,3Eが調製される。
【0037】
(試験方法)
図3は試験方法を説明する図である。図3に示すように、外径90mmの透明なシャーレに作成した培地のほぼ中央に種菌を置き、シャーレ裏面に種菌の中心通り直交する2本の線を引いて、菌糸の成長をスケールで計測し、計算処理をした。シャーレは上皿と下皿がはめ込み式のものを使用し、はめ込み部分をテープで巻き水分の蒸発を防いた。
培養室で温度28℃、湿度60%に保ち、34日間観察し、菌糸の成長が確認されたものを以下の手順に従って計測する。
1.目視で菌糸の成長を確認する。
2.成長している場合、X−X’,Y−Y’方向の菌糸の先端から先端までの距離をスケールで計測する。
3.X−X’,Y−Y’方向で計測したそれぞれの寸法から種菌の直径7mmを引き、合計し2で割って平均値を算出する。
4.X−X’,Y−Y’両方向共シャーレ内壁に達した場合その試験体は試験を終了する。
5.これらの結果を、更に試験回数3回分のデータと平均値を算出し製剤の評価を行う。
なお、試験の繰り返し回数は3回とした。
【0038】
(試験培地)
培地はグルコース1%、ペプトン0.3%、麦芽抽出物1.5%、寒天1.6%のものを作製した。
【0039】
(腐朽菌種)
試験に用いた腐朽菌の菌種は以下の2種類である。
オオウズラタケ(褐色腐朽菌、Tyromyces palustris、TYP.と略)
カワラタケ (白色腐朽菌、Coriolus versicolor、COV.と略)
【0040】
(試験結果)
以下に試験結果を示す。
図4は、腐朽菌試験の結果を分かりやすく表にまとめたものである。
なお、図4では、用いた製剤の種類左欄に記し、各欄の数字は上記試験方法で述べた数値である。数値が高いほど腐朽菌の菌糸が伸びていることを意味する。
図4に示すように、オオウズラタケについては、1A,1B,2A,3A,3Bについては腐朽菌が繁殖せず、その他のものについては腐朽菌が繁殖してしまった。また、カワラタケについては、1A,2A,3Aについては腐朽菌が繁殖せず、その他のものについては腐朽菌が繁殖してしまった。
【0041】
この実験結果から、A系統またはB系統、つまり、製剤の希釈倍率が5%または2%という比較的濃度が高いものではオオウズラタケやカワラタケの腐朽菌の繁殖を防ぐことができることが分かる。しかし、希釈率が大きくなり、C系統(0.5%)、D系統(0.2%),E(0.05%)という比較的濃度が低くなってしまうとオオウズラタケやカワラタケの腐朽菌の繁殖を防ぐことができていない。つまり、この実験結果から、本発明の木材保存剤は、一定濃度以上であれば、オオウズラタケやカワラタケの腐朽菌の繁殖を防ぐことができ、濃度が低く、有効成分の濃度が低くなれば防腐性能が小さくなることが分かる。
【0042】
図5は、腐朽菌試験の結果を分かりやすく示す写真である。
図5(a)は、腐朽菌試験のためのシャーレ群を写したものである。
図5(b)は、27日経過しても腐朽菌が繁殖しなかった6Aタイプのシャーレの培地表面を上から写した写真である。
図5(c)は、27日経過しても腐朽菌が繁殖しなかった7Bタイプのシャーレの培地表面を上から写した写真である。
図5(d)は、27日経過すると腐朽菌が繁殖してしまった18Bタイプのシャーレの培地表面を上から写した写真である。
【0043】
図5に示すように、本発明の木材保存剤の濃度が高い図5(b)や図5(c)のものでは腐朽菌の繁殖が明らかに抑えられており、逆に、本発明の木材保存剤の濃度が低い図5(d)のものでは腐朽菌の繁殖が明らかに進んでいる。この実験結果より、本発明の木材保存剤には一定以上の濃度があれば明らかに防腐性能があることが確認できた。
【0044】
[浸漬実験]
次に、本発明の木材保存剤が木材片に対して表面塗布のみならず表面下に含浸し、定着することを実験した。
【0045】
(試験製剤)
試験に用いる木材保存剤は、上記の腐朽菌試験と同様、配合濃度を変えた試験製剤を作製した。この浸漬実験には製剤を希釈せずに用いた。
【0046】
(試験方法)
試験片として、図6に示す寸法のスギ柾目材を3枚使用した。
この試験片を室内で十分乾燥させた後、乾燥重量をそれぞれ測定しておく。
次に、本発明の木材保存剤の原液を入れた容器に、試験片3枚を同時に投入し、上部より試験片が完全に浸漬するようステンレス製のメッシュで押さえ込み、5分毎の重量を計測した。なお、重量の測定に当っては、ケバ立ちが無く、パルプカスが試験片に付着しない紙製のウエスでかるく拭いた後に重量を計測した。
【0047】
(試験結果)
試験結果を図7に示す。図7に示すように、試験片は5分から15分程度浸漬することによりその重量が概ね20%から30%程度増加することが分かった。これは製剤が単に木材の表面のみに定着するだけでなく、木材の表面下に含浸してゆくことで重量が増加したものと考えられる。
【0048】
また、木材の硬度を測ると、本発明の木材保存剤が含浸していない部分の硬度に比べて、本発明の木材保存剤が含浸している部分の硬度が高くなっていることが分かった。これは、本発明の木材保存剤が木材内で木材中のたんぱく質などと結合して被膜を形成したものと考えられる。この被膜が腐朽菌の木材内部への浸食を防止する効果を発揮するものと考えらえる。
【0049】
以上、本発明の木材保存剤および木材保存方法の構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の木材保存剤および木材保存方法は、木材や発泡ウレタン材用の様々な塗料の下塗り剤として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】木材保存剤の施用手順の流れを示すフローチャートである。
【図2】木材保存剤の施用の様子を簡単に断面において示した図である。
【図3】試験方法を説明する図である。
【図4】腐朽菌試験の結果を分かりやすく表にまとめたものである。
【図5】腐朽菌試験の結果を分かりやすく示す写真である。
【図6】浸漬実験に用いた試験片を説明する図である。
【図7】浸漬実験の結果をまとめた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤であって、
アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物を含む主剤と、ミョウバンを含む副剤を備え、
前記木材保存剤を下塗装剤として前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより、前記本塗装の塗料と前記木材又は前記発泡ウレタン材との間に前記木材保存剤を介在させることにより、前記下塗装剤としての接着性とともに前記主剤および前記副材に由来する防腐性を発揮する無機木材保存剤。
【請求項2】
前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させることにより、前記木材の持つたんぱく質と前記副剤中のミョウバンによって前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面または内部において被膜を形成せしめることを特徴とする請求項1に記載の無機木材保存剤。
【請求項3】
前記主剤が重量比15〜25wt%,前記副剤が重量比3〜6wt%含有されている請求項1または2に記載の無機木材保存剤。
【請求項4】
前記下塗装時の希釈倍率が1倍〜10倍であり、前記下塗装箇所における前記木材又は前記発泡のウレタン材のpHが中性からアルカリ性を示す範囲で使用する請求項1から2のいずれか1項に記載の無機木材保存剤。
【請求項5】
木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤を用いた木材方法であって、
前記下塗装として塗布する木材保存剤が、アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物を含む主剤と、ミョウバンを含む副剤を備えたものであり、
前記下塗装を木材保存剤を前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させる下塗り工程と、
前記下塗り工程の後に乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に前記塗料を用いて本塗装を行う本塗装工程を備え、
前記本塗装の塗料と前記木材又は前記発泡ウレタン材との間に前記下塗装剤を介在させることによって、前記下塗装剤としての接着性とともに前記主剤および前記副材に由来する防腐性を発揮させることを特徴とする無機木材保存剤を用いた木材保存方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、前記木材の持つたんぱく質と前記副剤中のミョウバンの持つ収斂作用によって、前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面または内部において被膜が形成されることを特徴とする請求項5に記載の無機木材保存剤を用いた木材保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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