説明

無機物粒子の製造方法

【課題】新規な無機物粒子の製造方法を提供すること
【解決手段】金属化合物及び分解性添加剤を含む原料溶液を加熱し、熱分解及び一次焼成を行う工程を有する無機物粒子の製造方法とする。分解性添加剤は、限定されるわけではないが金属化合物よりも低い熱分解温度を有することが好ましい。また分解性添加剤は、限定されるわけではないが塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素の少なくとも何れかを含むことが好ましい。更に、限定されるわけではないが、熱分解及び一次焼成は400℃以上1800℃以下の範囲内で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料、医薬・化粧品、触媒等の幅広分野ではナノオーダーの粒子を製造する技術へのニーズが高まっている。例えば、プラズマディスプレイに使用されている蛍光材料では、蛍光粒子を数十ナノメートルのサイズにすることにより、解像度を飛躍的に向上させるだけでなく、光の散乱を減らしエネルギー効率を高めることもできる。
【0003】
また、固体酸化物燃料電池やリチウム二次電池の電極および電解質材料では、材料として用いられる無機物粒子をナノオーダーにまで微細化すると、比表面積が増加し、電子やイオンの拡散距離を短くすることができ、バルク材料よりもはるかに優れた電子導電性やイオン伝導性を得ることができる。
【0004】
ナノオーダーの無機物粒子を製造する従来の技術としては、例えばメカノケミカル法(例えば下記非特許文献1、2参照)、ゾルゲル法(例えば下記非特許文献3、4参照)、水熱合成法(例えば下記非特許文献5、6参照)、塩添加噴霧熱分解法(例えば下記特許文献1、2参照)、静電噴霧熱分解法(例えば下記非特許文献7、8参照)が挙げられる。
【0005】
しかしながら、上記のメカノケミカル法は、出発原料として炭酸塩や酸化物等の粉末を用いるため、これらの粉末を分子レベルで均一に混合するには長時間(数十時間程度)の粉砕操作が必要になると共に、その後、材料を結晶化させるために高温での焼成操作も必要となる。さらに、この方法でナノ粒子を合成するには、原料粉末に塩化ナトリウムを添加する必要があり、粉砕後それを水洗で取り除かなければならず、製造工程が多段になると共に、添加した塩化ナトリウムを完全には除去できないという問題もある。
【0006】
また、上記ゾルゲル法は、合成を液相で行うため組成制御は容易であるが粒子の結晶性が低く、得られた粒子を高温で焼成しなければならない。これにより、粒子の成長がおきる。更に、合成プロセスが多段操作であるため、連続合成が困難である。
【0007】
また、上記水熱合成法は、比較的低温で高結晶性の無機物粒子を合成することができるが、原料を化学量論組成で調製しても、合成した材料の組成はそれよりも大きくずれるため、組成の精密制御が非常に困難である。
【0008】
また、上記塩添加噴霧熱分解法は、原料溶液に多量の塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム又は硝酸カリウムをフラックスとして添加し、これを高温で噴霧熱分解し、得られた粉体を水洗することで20〜50nm程度の無機物粒子を合成できる点において有用であるが、水洗による添加したフラックスの除去に非常に手間が掛かり、また完全に添加した物質を除去できないという問題もある。
【0009】
また、上記静電噴霧熱分解法は、合成原理において噴霧熱分解法と同様であるが、原料溶液の噴霧に静電気力を利用しており、原料溶液濃度が数mmol/l、噴霧液流量が数ml/h程度の条件であれば最終的に数十ナノメートル程度の無機物粒子を得ることができる。しかしながら、原料溶液濃度が非常に低くかつ噴霧液流量が非常に少ないため、製造速度が非常に遅いという問題がある。
【0010】
なお本発明者らは、既に噴霧熱分解法(例えば下記特許文献3、非特許文献9参照)及びその改良された噴霧熱分解法(非特許文献10〜13参照)につき発表を行っている。これらのうち非特許文献10〜13は、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0011】
【特許文献1】特開2003−19427号公報
【特許文献2】特開2004−161533号公報
【特許文献3】特開2004−339028号公報
【非特許文献1】T.ITO,Q.Zhang,F.Saito、Powder Technology,143−144(2004),170〜173
【非特許文献2】Y.Shi,J.Ding,H.Yin,J.Alloys Com.,308(2000),290〜295
【非特許文献3】B.J.Hwang,R.Santhanam,D.G.Liu,J.Power Sources,97−98(2001),443〜446
【非特許文献4】H.−C.Yu,K.−Z.Fung,T.C.GuO,W.−L.Chang,Electrochimica Acta,50(2004),811〜816
【非特許文献5】Y.Hakuta,H.Ura,H.Hayashi,K.Arai,Mater.Lett.,59(2005),1387〜1390
【非特許文献6】R.Viswanathan,R.B.Gupta,J.Super.Fluids,27(2003),187〜193
【非特許文献7】T.Doi,Y.Iriyama,T.Abe,Z.Ogumi,Chem.Mater.,17(2005),1580〜1582
【非特許文献8】I.W.Lenggoro,K.Okuyama,J.F.de la Mora,N.Tohge,J.Aerosol Sci.,31(2000),121〜136
【非特許文献9】I.Taniguchi,Ind.Eng.Chem.Res.,44(2005),6560〜6565
【非特許文献10】藪武夫,東京工業大学大学院理工学研究科・化学工学専攻・平成17年度修士論文発表会要旨集,平成18年2月13日
【非特許文献11】藪武夫,東京工業大学大学院理工学研究科・化学工学専攻・平成17年度修士論文発表会,平成18年2月17日
【非特許文献12】藪武夫,谷口泉,化学工学会第71年会研究発表講演要旨集,講演番号:P324,2006
【非特許文献13】I.Taniguchi,T.Yabu,Lithium Battery International Meeting,Abstract No.105,Biarritz, France, June 18−23,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献3、非特許文献9に記載の噴霧熱分解法においては、未だ無機物粒子の粒径をより小さくする必要がある。
【0013】
そこで本発明は、上記課題を鑑み、新規な無機物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための一手段としての無機物粒子の製造方法は、金属化合物及び分解性添加剤を含む原料溶液を加熱、熱分解及び一次焼成を行う工程を有する。ここで「分解性添加剤」とは金属化合物よりも低い熱分解温度を有する化合物をいう。またこれに限定されるわけではないが、分解性添加剤は、例えば塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素等のアンモニウム化合物を含むことが好ましい。また、これに限定されるわけではないが、熱分解及び一次焼成は、400℃以上1800℃以下の範囲内で行うことが望ましい。
【0015】
また、本手段において、限定されるわけではないが、分解性添加剤を含む原料溶液を加熱し、熱分解及び一次焼成を行う工程の後に、二次焼成する工程を有することが望ましく、この二次焼成する工程は、100℃以上700℃以下の範囲内で行うことがより望ましい。
【0016】
また、本手段において、限定されるわけではないが、原料溶液において、金属化合物の金属成分の濃度の合計は0.0001mol/l以上10mol/l以下の範囲内にあることが望ましく、また、限定されるわけではないが原料溶液において、分解性添加剤の濃度は、金属化合物の金属成分の濃度の合計の2倍以上100倍以下の範囲内にあることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明により、新規な無機物粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態に係る無機物粒子の製造方法は、原料溶液を調製する工程、原料溶液を霧状態の液滴にして熱分解及び一次焼成を行う工程を有し、また二次焼成を行う工程を有している場合がある。
【0020】
なお、目的物たる無機物粒子としては、LiMn、LiCoO,LiMCo1−x(M=Ni,Mn), LiMPO(M=Fe,Mn,Co,Ni),LiNiVO,LiCoNi1−yVO,LiMMn2−x(M=Co,Cr,Al,Mg,Zn,Ni,Fe),LiNiMn1−x, LiNi1−x−yCo(M=Mn,Mg,Al,Ga),Li[NiCo1−2xMn]O,MnV, LiTi12,CuO, Gd,Al,ZnO,ZrO,TiO,SnO,CeO,SiO,MgO,Fe,NiO,Y,PdO,PbO,Co,Mn,BaO,PuO,V,MoO,WO,Eu,YBaCu7−x,YBaCu,La−Sr−Cu−O,Tl−Ca−BaCu−O,(Bi,Pb)−Sr−Ca−Cu−O,MRuO(M=Sr,La),MRu7−x(M=Bi,Pb,Y,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm),BiCaSrCu,BiCaSrCu,ZnO−TiO, ZrO−SiO, MgAl,CoMo,CoMoO,CoAl,CuCr,PbCr,Pb(Zr,Ti)O,LaSr1−xMnO,LnSr1−xCoO(Ln=La,Nd,Gd),LnSr1−xCoFe1−y3−δ(La,Sm,Nd.Gd), LaSr1−xGaMg1−y3−δ, Mullite(3Al−2SiO),Mn−Zn ferrite, BaFe1219,Ba0.86Ca0.14TiO,BaTiO,BaZn1/3Nb2/3,PbMg1/3Nb2/3,SrTiO,PbTiO,ZnSiO,ZrSn1−xTiO,NiO−SDC(samaria−doped ceria),NiO−CGO(gadorinia−doped ceria),GdFe12,BaFe1219 ,NiFe,SrTiO,LaAlO Eu−doped Y, Eu−doped(YGd), CdWO,ZnWO,CaWO,SrWO,LaPO,Ce−doped LaPO, Eu−doped LaPO,Ce−Tb−doped LaPO,Eu−doped(Gd1−x,YAl12,YAlO,YAl,YSiO,Ce1−xTbMgAl1119などがある。無機物粒子は酸化物に限定されない。このほか、硫化物としてはZnS,CdS,CuS,CuInS,CaLa、窒化物としてはSi,BN,AlN ,その他にSiCなどを使用することができる。
【0021】
原料溶液は、無機物粒子の組成成分となる金属(以下「原料金属」という。)の化合物(金属無機化合物、金属有機化合物、金属錯体等を含む。以下「金属化合物」という。)及び分解性添加剤を溶媒に溶解させることで調製する。原料金属としては特に限定されるわけではないが、例えば上記列挙した無機物粒子の原料となるリチウム(Li)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)等を好適に用いることができる。またこの化合物の具体的な例としては、限定されるわけではないが金属無機化合物であれば例えば硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、塩化物、オキシ塩化物等を採用することができ、その水和物も採用できる。また、金属有機化合物であれば、限定されるわけではないが金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート等を採用することができる。金属錯体であれば、種々の配位子を有する金属錯体を採用することができる。またもちろん、本原料溶液においては原料金属が異なる複数の金属化合物を含むこともあり、これは製造の目的物たる無機物粒子の組成により選択される。この場合、金属化合物は無機物粒子中における金属の化学量論比となるよう調製する。
【0022】
また、本金属化合物の濃度としては、限定されるわけではないが、金属成分の合計が0.0001 mol/l以上10 mol/l以下であることが好ましい。また、0.001 mol/l以上5mol/l以下であることがより好ましい。金属成分の合計が0.0001mol/l以上10mol/l以下であると、適量の分解性添加剤を添加することにより、それを添加しない場合より小さなサイズの粒子を合成できるという利点があり、金属成分の合計が0.001mol以上5mol/l以下であればその利点がより顕著となる。
【0023】
分解性添加剤は、金属化合物より低い熱分解温度を有するものをいう。これは金属化合物と反応しない化合物が好ましい。分解性添加剤は、特に限定されるわけではないが例えば塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素等のアンモニウム化合物を好適に用いることができる。また、この濃度範囲としては限定されるわけではないが、例えば、原料溶液に含まれる金属成分の合計濃度に対し、2倍以上100倍以下であることが望ましい。また4倍以上50倍以下であることがより望ましい。分解性添加剤の濃度が金属化合物の金属成分の合計の濃度の2倍以上100倍以下であると、添加剤を添加しない場合よりも微細な粒子が合成できるという利点があり、4倍以上50倍以下であるとこの利点がより顕著となる。
【0024】
原料溶液における溶媒としては、金属化合物と分解性添加剤を溶解させるものである限り限定されるわけではないが、水やメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレンオキシド、トリエタノールアミン、キシレン、アセトン等の非水系溶媒を好適に用いることができる。
【0025】
原料溶液を霧状態の液滴にして熱分解及び一次焼成を行う工程は、原料溶液を細かな液滴である霧状態とし、これに熱を加えて分解し、焼成を行う工程であり、霧状態とする方法としては限定されるわけではないが例えば超音波噴霧器を用いる方法、二流体ノズルや加圧ノズルを用いる方法、回転ディスクを用いる方法を好適に用いることができ、熱分解及び一次焼成を行う方法としては限定されるわけではないが例えばガスバーナー加熱、電気抵抗加熱、マイクロ波加熱あるいはレーザー加熱を好適に用いることができる。
【0026】
霧状態における液滴の粒径としては、限定されるわけではないが0.01μm以上500μm以下の範囲にあることが望ましい。液滴の粒径が0.01μm以上500μm以下であれば分解性添加剤の添加量にも依存するがナノサイズの粒子の大量合成を可能にするという利点を有する。
【0027】
また、熱分解及び一次焼成を行う工程における温度としては、目的物たる無機物粒子の組成に依存するが、400℃以上1800℃以下の範囲にあることが好ましい。また、600℃以上1500℃以下の範囲にあることがより好ましい。温度を400℃以上とすることにより添加物を分解させ、引き続き一次焼成を行なわせてより結晶性の良い目的物たる無機物粒子を得ることが出来るという利点があり、600℃以上とすることによりこの利点がより顕著となる。また、温度を1800℃以下とすることにより、一次焼成後に得られた目的物たる無機物粒子のさらなる熱分解を抑制するという利点があり、1500℃以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0028】
また、熱分解および一次焼成を行う工程における雰囲気ガスとしては、目的物たる無機物粒子が酸化物の場合は空気、酸素、あるいはそれらと窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合ガスを用いることができる。非酸化物の場合、空気、酸素、或いはその混合ガス以外であれば、限定されない。例えば、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、及びその混合ガス等を用いることができる。
【0029】
また、熱分解させる方法における時間としても、目的物たる無機物粒子の組成に依存し、限定されるわけではないが10秒以上であることが好ましい。また、2分以上であることがより好ましい。10秒以上とすることにより添加剤が分解し最終的に結晶性の良い目的物たる無機物粒子が得られるという利点を有し、2分以上とすることでこの利点がより顕著となる。
【0030】
二次焼成を行う工程は、上記熱分解及び一次焼成を行う工程により得られた無機物粒子に残存する分解性添加剤を除去するための工程であって、焼成することができる限りにおいて特段に限定されないがガスバーナー加熱、電気抵抗加熱、マイクロ波加熱、レーザー加熱等を用いることができる。なお二次焼成を行う工程は、分解性添加剤が分解し消失しているときは省略することも可能である。
【0031】
なお、この焼成する工程の温度は、組成によっても異なるが100℃以上700℃以下の範囲にあることが好ましい。また、300℃以上500℃以下の範囲にあることがより好ましい。100℃以上とすることで残存する分解性添加剤を除去することができるという利点があり、300℃以上とすることでこの利点がより顕著となる。また、700℃以下とすることで目的物たる無機物粒子の結晶粒子の成長を抑えるという利点を有し、500℃以下とすることでこの利点がより顕著となる。
【0032】
また、二次焼成を行う工程における雰囲気ガスとしては、目的物たる無機物粒子が酸化物の場合は空気、酸素、あるいはそれらと窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合ガスを用いることができる。非酸化物の場合、空気、酸素、或いはその混合ガス以外であれば、限定されない。例えば、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、及びその混合ガス等を用いることができる。
【0033】
また、この焼成する工程の望ましい時間は、焼成する温度に依存するが、1分以上180分以下の範囲にあることが好ましい。また10分以上120分以下であることがより好ましい。1分以上とすることで残存する分解性添加剤を除去することができるという利点を有し、10分以上であるとこの利点がより顕著となる。また、180分以下であると目的物たる無機物粒子の結晶粒子の成長を抑えるという利点を有し、120分以下とすることでこの利点がより顕著となる。
【0034】
上記のとおり、本実施形態では分解性添加剤を含む原料溶液を霧状態の液滴にして熱分解、一次焼成させ、更に二次焼成を加えることで、より小さな無機物粒子とすることができる。
【実施例】
【0035】
上記の実施形態に係る発明の効果を確認すべく、実際に無機物粒子の製造を行った。以下説明する。
【0036】
まず、本実施例において用いた無機物粒子の製造装置を図1に示す。本実施例における無機物粒子の製造装置は、液滴を生成する部分として原料溶液21を霧状態の液滴にするための1.7MHzの医療用の超音波ネブライザー22(オムロン(株)製、E−U12)、原料溶液21を超音波ネブライザー22に供給するためのマイクロチューブポンプ23(EYELA製、MP−3N)、恒温槽241及び冷凍機242とを備えて超音波ネブライザー22から生成される霧状の液滴の温度を一定に保つ恒温水循環システム24と、を有している。また、超音波ネブライザー22には、超音波ネブライザー22により生成された液滴を後述の熱分解反応炉31に導入するための空気ボンベ251、充填カラム252、フィルター253、流量計254からなる液滴導入手段25が接続されている。
【0037】
また、本実施例における製造装置は、熱分解及び一次焼成を行う部分として熱分解反応炉31を用いており、熱分解反応炉31は更に、筒状空間を有する予熱管311、予熱管311に接続され熱分解及び一次焼成を行う筒状空間を有する反応管312と、を備えている。ここで予熱管は内径20mm長さ500mmの筒状空間を有するものを用い、反応管は内径90mm長さ1500mmの筒状空間を有するものを用いた。なお予熱管311及び反応管312の周囲には、それぞれの温度を調節するためのヒーター313、314を配置した。噴霧を生成する部分により霧状態にされた液滴はこの予熱管311及び反応管312を通過する過程で蒸発、晶析、乾燥、熱分解及び焼成され、無機物の粒子へと変化することとなる。また、熱分解反応炉31の反応管312の出口には自作した拡散型静電捕集器315を配置しており、熱分解された無機物の粒子を得ることができる。なお、拡散型静電捕集器315には電圧を供給するための直流電圧電源3151、この反応管312からの排出ガスに含まれるNOガスを除去するための冷却トラップ3152及び真空ポンプ3153が接続されている。
【0038】
また、本実施例における製造装置の二次焼成を行う部分としては、1100℃ボックス炉(光洋サーモシステム株式会社製、KBF894N)を用い、空気雰囲気下で上記熱分解及び一次焼成を行う部分により得られた無機物の粒子を二次焼成することとした。
【0039】
本実施例においては、以上の構成を用いて無機物粒子を製造することができる。より具体的に説明すると、まず原料溶液21を調製し、この試料21をマイクロチューブポンプ23を用いて超音波ネブライザー22に導入する。そして超音波ネブライザー22で霧状態の液滴を生成させ、この霧状態の液滴を液滴導入手段25を用いて熱分解反応炉31に導入する。熱分解反応炉31において液滴は予熱管311、反応管312を経由して熱分解、一次焼成されて無機物の粒子となり、拡散型静電捕集器315により捕集される。そしてこの得られた無機物の粒子は、1100℃ボックス炉(光洋サーモシステム株式会社製、KBF894N)を用いて空気雰囲気下で二次焼成される。なお稼働中、予熱管311は200℃、反応管312は800℃に保たれ、この熱分解、一次焼成の工程(熱分解反応炉を通過する時間)は4.8分で行われるようにした。また、拡散型静電捕集器による捕集は直流電圧電源に9.5Vの電圧を印加することにより行った。更に、拡散型静電捕集器に捕集された無機粒子は、加熱および冷却の速度を5K/分とし、空気雰囲気下で400℃、2時間二次焼成した。
【0040】
(粒子の表面形態の観測及び平均粒子径の測定)
微粒子の表面形態は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所製、S−800)を用い、30,000倍で観察した。また上記SEMの写真から500個の粒子を無作為に抽出し計測することにより平均径(算術)を求めた。さらに、粒子の形態は、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製、JEM−200CX)を用いて、10,000倍で観察した。
【0041】
(比表面積の測定)
微粒子の比表面積の測定はBET法により行った。なお測定には150mg〜250mgの試料を200℃で約30分乾燥したものを用い、測定は3〜5回行い、脱着時における値の平均値を用いた。
【0042】
(結晶層の同定)
結晶相の同定には、粉末X線回折測定装置(Philips製、PW1700システム)を用いて行った。測定はCuKα1線及びCuKα2線を用いて行い、約50mg〜80mgの試料について以下の条件で行った。
【表1】

【0043】
(金属化合物と分解性添加剤の熱分解温度の比較)
なお金属化合物と分解性添加剤の分解温度は熱重量示差熱分析(リガク製、TG8120)により測定した。測定は昇温速度5K/分、窒素雰囲気下で行なった。
【0044】
以上の下、実際に無機物粒子(LiCr0.1Mn1.9)を製造した。以下説明する。
【0045】
(実施例1)
本実施例において原料溶液は、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸マンガン六水和物(Mn(NO・6HO)、硝酸クロム六水和物(Cr(NO・6HO)をLi:Cr:Mn=1:0.1:1.9の化学量論比で金属成分の合計の濃度が0.045mol/lとなるように、また、分解性添加剤として塩化アンモニウム(NHCl)が0.225mol/lとなるようにそれぞれ蒸留水に溶解した。即ち、金属化合物に対し5倍の濃度の塩化アンモニウム(NHCl)を加えた。また、本実施例において超音波ネブライザーにより霧状態となった液滴は2dm/minの空気に同伴させて約30ml/hで熱分解反応炉に供給した。なお、金属化合物である硝酸リチウムの熱分解温度は666℃、硝酸マンガン六水和物の熱分解温度は246℃、硝酸リチウムと硝酸マンガン六水和物の1:2(モル比)混合物の熱分解温度は415℃、硝酸クロム六無水物の熱分解温度は474℃、塩化アンモニウムの熱分解温度は247℃であった。
【0046】
(実施例2)
本実施例においては、添加した塩化アンモニウム(NHCl)の量を0.45mol/lとなるように蒸留水に溶解させた以外は実施例1と同じ条件で無機物粒子を製造した。即ち、上記実施例では塩化アンモニウム(NHCl)の量を原料塩に対し5倍の濃度で添加したが、本実施例では10倍の濃度で添加した。
【0047】
(比較例1)
本比較例においては、塩化アンモニウム(NHCl)を添加していない点及び原料塩の濃度を合計で0.9mol/lとしている点が実施例1と異なるがそれ以外は実施例1と同じ条件で無機物粒子を製造した。
【0048】
(比較例2)
本比較例においては、塩化アンモニウム(NHCl)を添加していない点以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0049】
(結果、考察)
上記実施例及び比較例の結果、得られたそれぞれの無機物粒子について評価した。なお評価として、上記のとおり微粒子の表面形態の観測、平均粒子径及び比表面積の測定、結晶相の同定を行った。SEM写真について図2に、TEM写真については図3に、粉末X線回折測定の結果を図4にそれぞれ示し、この結果得られた平均粒子径及び比表面積を下記表2に示す。
【表2】

【0050】
まず、平均粒径において、比較例1では880nmである一方比較例2では408nmであった。これは、金属化合物濃度を低くすることによる効果であると考えられる。しかし更に実施例1では89nmとなっており、更に平均粒径を小さくすることができた。これによりNHClの添加による平均粒径の大幅な減少を確認することができた。なお、実施例1では平均粒径89nmであるのに対し、実施例2では平均粒径132nmとなっていた。これは、NHClがフラックスとして働いた効果と考えられるがいずれにしても比較例1、2に比べNHClの添加により平均粒径を大幅に減少させることができることを確認した。
【0051】
また比表面積において、比較例1では7.92m/gである一方比較例2では9.84m/gと大きくすることができ、粒子径がより小さくなっていることを確認することができた。これも上記平均粒径の結果と同様、金属化合物の濃度を低くすることによる効果であると考えることができる。しかし実施例1では比表面積が13.3m/gとなっており、更に比表面積を大きくすることができた。これによりNHClの添加による比表面積の大幅な増加を確認することができた。
【0052】
なお、図2は比較例2、実施例1、実施例2についてのSEM写真を、図3は比較例2、実施例1、実施例2についてのTEM写真を示しているが、この結果から、NHClを添加することで粒子の微細化がおきていることが確認できた。
【0053】
また、図4は比較例1、比較例2、実施例1、実施例2により得られた無機物粒子の粉末X線回折測定の結果を示しているが、この結果においてはいずれの場合においても、スピネル型LiCr0.1Mn1.9の回折ピークを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例に係る無機物粒子の製造装置の概略図である。
【図2】実施例及び比較例における無機物粒子のSEM写真を示す図である。
【図3】実施例及び比較例における無機物粒子のTEM写真を示す図である。
【図4】実施例及び比較例における粉末X線回折測定の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…製造装置、21…原料溶液、22…超音波ネブライザー、23…マイクロチューブポンプ、24…恒温水循環システム、25…液滴導入手段、31…熱分解反応炉、311…予熱管、312…反応管、313…ヒーター、314…ヒーター、315…拡散型静電捕集器、241…恒温槽、242…冷凍機、3151…直流電圧電源、3152…冷却トラップ、3153…真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物及び分解性添加剤を含む原料溶液を加熱し、熱分解及び一次焼成を行う工程を有する無機物粒子の製造方法。
【請求項2】
分解性添加剤は、金属化合物よりも低い熱分解温度を有する請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項3】
分解性添加剤は、アンモニウム化合物を含む請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項4】
分解性添加剤は、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム又は尿素の少なくとも何れかを含む請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項5】
分解性添加剤は塩化アンモニウムを含む請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項6】
熱分解及び一次焼成は400℃以上1800℃以下の範囲内で行う請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項7】
熱分解及び一次焼成を行う工程の後に、二次焼成を行う工程を有する請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項8】
二次焼成を行う工程は、100℃以上700℃以下の範囲内で行う請求項7記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項9】
原料溶液において、金属化合物の金属成分の濃度の合計は0.0001mol/l以上10mol/l以下の範囲内である請求項1記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項10】
原料溶液において、分解性添加剤の濃度は、金属化合物の金属成分の濃度の合計の2倍以上100倍以下の範囲内にある請求項1記載の無機物粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290885(P2007−290885A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118605(P2006−118605)
【出願日】平成18年4月23日(2006.4.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月16日〜17日 国立大学法人東京工業大学主催の「大学院理工学研究科化学工学専攻 平成17年度修士論文発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月28日 化学工学会発行の「化学工学会第71年会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】