説明

無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させる生体適合性分散安定化剤

本発明は、無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための分散安定化剤に関する。より詳しくは、本発明は、ポリエチレングリコール系生体適合性高分子を、離脱基を有するホスフィンオキシドと反応させ、無機系ナノ粒子の表面に親和性を持つホスホリル基部分、および水系媒質に親和性を持つポリエチレングリコールを含んでなる、生体適合性分散安定化剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための生体適合性分散安定化剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリエチレングリコール系生体適合性高分子を、離脱基を有するホスフィンオキシドと反応させ、無機系ナノ粒子の表面に親和性を持つホスホリル基部分、および水系媒質に親和性を持つポリエチレングリコールを含んでなる、生体適合性分散安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、ナノ−電子融合技術、生体撮像技術、医療分野などの多様な分野に応用されている。特に、超常磁性酸化鉄ナノ粒子は、例えば磁気共鳴画像(MRI)の造影剤、細胞水準の治療、発熱療法、薬物伝達、細胞分離、核酸分離などの様々な生命−医学分野で使われている。
【0003】
ナノ粒子を生命医学分野に応用するための最も重要な要件は、一次的に高品質のナノ粒子が確保されなければならないこと、および生物学的媒質でナノ粒子が優れた分散度を示さなければならないとともに水系媒質内における分散安定性を持たなければならないことである。ここで、「高品質ナノ粒子」は、i)粒子サイズの均一性、ii)粒子サイズ調節の容易性、iii)粒子の結晶性、およびiv)粒子形状の調節可能性などによって把握することができる。
【0004】
ところが、現在商用化されているナノ粒子の場合、大部分が水系での合成または気相での合成過程によって得られる。このような過程により得られたナノ粒子は、均一な粒子形状を保ち難く、結晶性が低下する場合が大部分である。均一なサイズのナノ粒子の製造が容易ではなく、そのサイズの調節も難しい。
【0005】
最近、多くの研究者が従来の水系で合成していたナノ粒子に比べて比較的高品質、すなわち均一なサイズと結晶性を有する金属酸化物ナノ粒子を有機系で製造する新規方法を開発してきた。
【0006】
このように有機溶媒内でナノ粒子を合成するとき、ナノ粒子の均一性とそのサイズの調節が合成過程中に有機添加剤による安定化過程によって行われる場合がある。結果として、ナノ粒子の表面状態は有機添加剤の疎水性部分に影響されるため、金属酸化物ナノ粒子は、疎水性有機溶媒には容易に分散するが、水には容易に分散せず、水に分散させた場合には分散状態が十分な安定性を示さない。
【0007】
このような有機溶媒中で製造されたナノ粒子の表面の疎水性特性は、水における安定な分散を妨害することにより、生命−医学分野で使用するには問題がある。よって、このような応用分野に適用するために、ナノ粒子の表面を親水性に改質して水系媒質への均質な分散に適した状態に造るための生体適合性分散安定化剤の開発が要請されているうえ、このような生体適合性分散安定化剤の使用によって安定に分散状態が維持されるナノ粒子分散安定化剤の開発も要求されている。
【0008】
無機系ナノ粒子を水系に分散させるための本発明に係る生体適合性分散安定化剤は、無機系ナノ粒子の表面を親水性に改質することにより、無機系ナノ粒子を水系に分散安定化させて生命−医学分野に応用可能にする分散安定化剤であり、これを用いて水系媒質で安定化された無機系ナノ粒子を提供することができる。
【0009】
無機系ナノ粒子を水系に分散させるこのような本発明の生体適合性分散安定化剤によって分散安定化される無機系ナノ粒子は、量子ドット(Q−Dot)発光素子などのナノ−電子融合技術分野、磁気共鳴画像造影剤などの生体撮像分野、細胞水準の治療などの組織工学分野、発熱療法、薬物伝達などの生命−医学分野で応用できる。
【0010】
無機系ナノ粒子を水系に分散させるための従来の技術に係る方法として、薄いシリカ層を用いてナノ粒子を水に分散させる方法が学会誌に最近発表されたことがある(非特許文献1)。この論文では、有機溶媒内で製造されたナノ粒子をポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(polyoxyethylene nonylphenyl ether)のシクロヘキサン溶液に導入、混合して微細ミセル乳化液滴を形成させた後、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)のゾルゲル反応を誘導してナノ粒子をシリカ層で被覆させて水に分散させる。
【0011】
前記文献では、ナノ粒子を水に分散させるために、ナノ粒子の外部に親水性を示すシリカ層をコートさせる過程を開示しており、ここで使用された微細エマルジョンを用いたシリカコーティング方法は、1回の工程で被覆させることが可能なナノ粒子の量が非常に少ないため、結果として1回の工程で製造することが可能なナノ粒子水系分散物の量が非常に少ないという問題点があった。
【0012】
また、1回の工程で製造することが可能なナノ粒子分散物の量またはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの量によって微細エマルジョンの条件が変化するため、必要とするシリカ層の厚さを微細に調節することが難しく、シリカ層の内部に含まれたナノ粒子の個数も変化するので、必要とする粒子の均一性を得ることが難しいという問題点もある。また、このような従来の技術は、シリカ層を介してナノ粒子を安定化させる場合、シリカ表面のシラン機能基が十分に安定な状態ではないため、互いに反応し、シリカで被覆されたままで水に分散しているナノ粒子が時間経過に伴って互いに結合して凝集するという問題点が発生し、長時間にわたっての分散物の保管安定性を確保することが難しいという問題点がある。
【0013】
また、最近では、ポリエチレングリコールが末端に結合したデンドロンリガンドを用いてナノ粒子を水に分散させる方法が発表されたことがある(非特許文献2)。この方法は、ポリエチレングリコールが末端に結合しているデンドロンリガンドを合成することにより、疎水性溶媒に分散しているナノ粒子に共に混ぜた後、超音波を加えるリガンド交換法を数回行ってナノ粒子の表面にデンドロンリガンドを結合、安定化させた後、これを水に分散させる方法である。
【0014】
前述した技術では、実施が比較的容易なリガンド交換法を使用したが、ポリエチレングリコールが末端に結合しているデンドロンリガンドの場合、合成方法が多段階の複雑な過程を経るうえ、収率が低くて少量のナノ粒子のみを水に分散させることができるという問題点があって、大規模の商業的生産工程への適用が難しいという問題点が依然として残っている。また、生体適合性高分子で被覆されて水系に安定化されている酸化鉄ナノ粒子が開示されている(特許文献1)。このように安定化された酸化鉄ナノ粒子は、デキストラン上で塩化鉄の還元によって製造されるものと説明されている。
【0015】
この方法を使用する場合、比較的簡単な合成過程によって、生体適合性高分子で取り囲まれている酸化鉄ナノ粒子を製造することはできるが、そのナノ粒子サイズの分布が広範囲であり、酸化鉄の品質も低下するという欠点がある。また、酸化鉄粒子サイズの調節が容易ではなく、製造されたナノ粒子のサイズが数百ナノ範囲に該当するほど大きいという制限がある。
【0016】
最近、ホスフィンオキシドとポリエチレングリコールからなる高分子を用いてナノ粒子を水に分散させる方法が米国化学会誌に発表された(非特許文献3)。ポリエチレングリコールを1,2−ビス(ジクロロホスフィノ)エタンと反応させ、ポリエチレングリコール同士が互いに連結された高分子を合成した後、これを、疎水性溶媒に分散しているナノ粒子とリガンド交換する方法を用いて、ナノ粒子を分散安定化させてこれを水に均一に分散させる方法が公開された。
【0017】
この方法は、比較的簡単な製造方法を用いており、リガンド交換法を用いてナノ粒子を水に分散させるが、リン(P)原子が容易にホスホリル基に酸化するため、アルゴンまたは窒素を用いた不活性雰囲気状態で被覆用高分子を合成しなければならないという問題点がある。また、前記高分子が架橋されているため、DNA、RNA、モノクローナル抗体またはその他の機能性タンパク質などの生体内の機能性リガンドを結合させるための機能基の導入が容易ではないという問題点が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,492,814号明細書(Ralph Weisslder 1996年)
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Journal of Chemical Society, 2005, 127, 4990
【非特許文献2】Advanced Materials, 20005, 17, 1429
【非特許文献3】Journal of American Chemical Society, 2005, 127, 4556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、従来の技術の問題点を克服するために、単純な工程によって無機系ナノ粒子の表面を親水性に改質させて水系媒質における分散を安定化させながら生命−医学分野に応用し得るように、生体内活性を有するリガンドを容易に導入させる分散安定化剤を提供することを基本的な目的とする。すなわち、本発明の目的は、不活性雰囲気ではない場合でも合成可能であり;生体適合性高分子間の架橋反応が起こらず;生体内活性リガンドと結合することが可能な機能基が導入された活性部位を有する、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤を提供する。
【0021】
本発明の他の目的は、i)有機溶媒に生体適合性高分子を溶解させて生体適合性高分子有機溶液を製造する段階と、ii)前記i)段階で製造された生体適合性高分子有機溶液に、離脱基を有するホスフィンオキシドを添加して前記生体適合性高分子と結合させる段階と、iii)前記ii)段階のホスフィンオキシドと結合した生体適合性高分子の前記離脱基の位置に、機能性リガンドと結合することが可能な機能基を導入するために、機能基を含む化合物を反応させる段階とを含むことを特徴とする、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的は、無機系ナノ粒子の表面を親水性に改質させて水系媒質に分散させるために、ポリエチレングリコール系生体適合性高分子とホルホリル基を含む、下記化学式(I)のホスフィンオキシドを提供することにより達成される。
【0023】
【化1】

化学式(I)
前記化学式(I)において、
およびXは(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、XはOH、(OCHOH、(OCHCHOH、(NCHNH、(NCHCHNH)H、S(CHSHまたはNHCHCHCH(OCHCH34OCHCHCHNHであり、mは1〜5であり;または
は(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、XはOH、(OCHOH、(OCHCHOH、(NCHNH、(NCHCHNH)H、S(CHSHまたはNHCHCHCH(OCHCH34OCHCHCHNHであり、mは1〜5であり、XはOHである。
【0024】
本明細書において、生体適合性高分子とは、生体組織または血液と接触して組織を壊死させないあるいは血液を凝固させない組織適合性または抗凝血性を有する高分子物質をいう。
【0025】
生体適合性高分子には、ポリウレタン、PVC、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、シリコン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、セルロース、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA、polylactic acid)、ポリグリコール酸(PGA、polyglycolic acid)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)およびポリエチレングリコールなどがある。
【0026】
本発明では、生体適合性高分子物質としてポリエチレングリコール系高分子物質、ポリ乳酸またはポリグリコール酸を使用する。
【0027】
また、本明細書において、離脱基とは、化学物質から分離される原子または原子団をいう。本発明において、離脱基はハロゲン、TsO、N、NH、S、SiO、CHCOOなどから選択され、好ましくはハロゲンから選択され、最も好ましくはClである。
【0028】
前述した本発明の他の目的は、i)有機溶媒に生体適合性高分子を溶解させて生体適合性高分子有機溶液を製造する段階と、ii)前記i)段階で製造された生体適合性高分子有機溶液に、離脱基を有するホスフィンオキシドを添加して前記生体適合性高分子と結合させることにより、下記化学式(II)の化合物を生成させる段階と、iii)前記ii)段階のホスフィンオキシドと結合した生体適合性高分子の前記離脱基の位置に、生体内活性を有するリガンドと結合することが可能な機能基を導入するために、前記機能基を含む化合物を反応させる段階とを含んでなる、ホルホリル基を含む前記化学式(I)の生体適合性分散安定化剤の製造方法を提供することにより達成される。
【0029】
テトラヒドロフランなどの有機溶媒にポリエチレングリコールなどの生体適合性高分子を溶解させた後、前記溶液に、塩化ホスホリルのようにホスフィンオキシド基を含む化合物を添加して室温で反応させると、下記化学式(II)の化合物が生成される。
【0030】
【化2】

化学式(II)
前記ii)段階で生成された前記化学式(II)の化合物において、
およびYは(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり;または
は(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、YはClである。
【0031】
前記化学式(II)の化合物を含む溶液にDNA、RNAまたはモノクローナル抗体などの機能性リガンドを結合させることが可能な機能基を導入するために、1,2−エチレングリコール、1,3−プロピレングリコールなどのC1−5アルキルジオール(HO(CHOH、n=1〜5);ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのC、C、C、CまたはC10エチレングリコール(H(OCHCHOH、n=1〜5);1,2−エチレンジアミン、1,3−プロピルジアミンなどのC1−5アルキルジアミン(HN(CHNH、n=1〜5);ジエチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどのC、C、C、CまたはC10エチレンジアミン(HN(CHCHNH)H、n=1〜5);1,2−エチレンジチオール、1,3−プロピレンジチオールなどのC1−5アルキルジチオール(HS(CHSH、n=1〜5)などのチオール基化合物;またはビス(3−アミノプロピル)末端基を有するポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol)bis(3-aminopropyl)terminated)などの多機能基生体適合性高分子よりなる群から選択される化合物を添加して反応させることにより、前記化学式(I)の化合物を製造する。
【0032】
前記無機系ナノ粒子を水系媒質に分散安定化させるための本発明のポリエチレングリコール系生体適合性高分子とホスホリル基を含む生体適合性界面活性剤において、ポリエチレングリコール系生体適合性高分子の数平均分子量(M)は、好ましくは300〜20000である。
【0033】
本発明のポリエチレングリコール系生体適合性高分子からなる、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤は、無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させることにより安定化するのに使用できる。
【0034】
本発明のホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤によって安定化される無機系ナノ粒子としては、マグネタイト(Fe)、磁赤鉄鉱(gamma−Fe)、CoFe、MnFe、Fe−Pt合金、Co−Pt合金、Co、CdSe、CdTe、CdSe/ZnSコア/シェル、CdSe/ZnSeコア/シェル、CdSe/CdSコア/シェル、CdTe/ZnSコア/シェル、CdTe/ZnSeコア/シェル、CdTe/CdSコア/シェル、CdTe/CdSeコア/シェル、ZnS、CdS、InAs、InP、InAs/InPコア/シェル、InAs/CdSeコア/シェル、Ins/ZnSコア/シェル、InAs/ZnSe コア/シェル、InP/CdSeコア/シェル、InP/ZnSコア/シェル、InP/ZnSeコア/シェル、Au、PdまたはPtなどの金属粒子よりなる群から選択されることが好ましい。
【0035】
本発明の無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤の製造方法の第i)段階で使用される生体適合性高分子としては、ポリエチレングリコール(PEG、poly(ethylene glycol))、ポリ乳酸(PLA、poly(lactic acid))、ポリグリコール酸(PGA、poly(glycolic acid))などよりなる群から選択されることが好ましい。
【0036】
本発明の無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤の製造方法の第ii)段階で使用されるホスフィンオキシドに結合した離脱基は、前述したとおりである。
【0037】
本発明の別の目的は、本発明の方法によって製造された界面活性剤に機能基を導入するための添加物を反応させる段階をさらに含む、無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための、ホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤の製造方法を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、無機系ナノ粒子の表面を改質して水溶液内で安定に分散させる生体適合性分散安定化剤を合成することができる。こうして製造された生体適合性分散安定化剤は、無機系ナノ粒子を水溶液内で安定に分散させてQ−Dot発光素子などのナノ−電子融合技術分野、磁気共鳴画像造影剤などの生体撮像分野、細胞水準の治療などの組織工学分野、発熱療法、薬物伝達などの生命−医学分野に応用することができ、従来の技術によって製造された分散安定化剤により分散したナノ粒子に比べて優れた分散安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤の製造過程を段階的に示す図である。
【図2】本発明に係る生体適合性分散安定化剤の使用により安定化されて水に分散した酸化鉄ナノ粒子(右)と、安定化される前に疎水性溶媒に分散していた酸化鉄ナノ粒子(左)とを比較した透過電子顕微鏡(transmission electron microscopy、TEM)写真である。
【図3】本発明に係る生体適合性分散安定化剤の使用により安定化されて水に分散した多様な無機系ナノ粒子の写真である。
【図4】本発明に係る生体適合性分散安定化剤の使用により安定化されて水に分散した高濃度の酸化鉄ナノ粒子が磁場によって配列されることを撮影した写真である。
【図5】酸化鉄ナノ粒子を、アミノ基を含む生体適合性分散安定化剤を用いて安定化させて水に分散させた後、ナノ粒子の表面に導入された機能基にフルオレセインイソチオシアネートを反応させ、緑色発光特性を示す光探測磁性ナノ粒子を製造して紫外線に晒すことにより、発光特性が現れる様子を撮影した写真である。
【図6】ホスフィンオキシド−ポリエチレングリコールで安定化されて水に分散したa)酸化コバルト(II)(CoO)、b)酸化ニッケル(II)(NiO)、c)酸化マンガン(II)(MnO)、およびd)二酸化チタン(TiO)ナノ粒子のTEM写真である。
【図7】図1の第1段階反応の反応物である(a)mPEG(メチル−ポリエチレングリコール、数平均分子量(M)は750)、およびその生成物である(b)前記化学式(II)の化合物に対するMALDI−TOF(Matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight)を用いた質量分析データである。
【図8】図1の第2段階反応物として分子量(a)550、(b)750および(c)2000のmPEGを使用した場合の前記化学式(I)の化合物に対する31P NMR分析結果である。ここで、左はCDCl、右はDOをそれぞれ溶媒として使用した。
【図9】CDClを溶媒として使用した場合における、(a)POCl、(b)分子量2000のmPEGで反応した図1の第1段階生成物、(c)エチレンジアミンで反応した図1の第2段階生成物に対する31P NMR分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の構成要素と技術的特徴を次の実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明を詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の構成要素の技術的範囲は実施例に例示したものに限定されない。
【0041】
本発明の方法によって製造された生体適合性分散安定化剤を用いて水に分散した酸化鉄ナノ粒子の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy)の写真(右)、およびリガンド交換以前に疎水性溶媒に溶けている酸化鉄ナノ粒子の透過電子顕微鏡の写真(左)が図2に示されている。
【0042】
図2を参照すると、本発明の方法で製造された生体適合性分散安定化剤を用いて水に分散した酸化鉄ナノ粒子と、リガンド交換以前に疎水性溶媒に溶けている酸化鉄ナノ粒子との形状およびサイズが同一であることが分かる。これはナノ粒子がリガンド交換後にも変わらないことを示す。
【0043】
図3は、多様な無機系ナノ粒子が、本発明の方法で製造された生体適合性分散安定化剤を用いて水に安定に分散していることを示す。これにより、本発明の方法で製造された生体適合性分散安定化剤が疎水性有機溶媒に分散している多様なナノ粒子を水に安定に分散させることができ、その安定性も長らく維持されることが分かる。
【0044】
図7は、図1の第1段階反応の反応物である(a)mPEG(メチル−ポリエチレングリコール、数平均分子量(M)は750)と、その生成物である(b)前記化学式(II)の化合物に対するMLADI−TOF(Matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight)を用いた質量分析データである。前記データより、mPEGがそれぞれ1つ、2つおよび3つ結合しているPO−PEGが生成されることが分かる。本明細書において、PO−PEGとは、ホスフィンオキシドとPEGとが結合してなる化合物をいう。
【0045】
図8は図1の第2段階反応物として分子量(a)550、(b)750および(c)2000のmPEGを使用した場合の前記化学式(I)の化合物に対する31P NMR分析結果である。ここで、左はCDCl、右はDOをそれぞれ溶媒として使用した。ここで、−10付近のピークは未反応ホスホリルオキシドのP−Cl結合によるものと判断される。
【0046】
図9の(a)はPOClの固有ピークである。図9の(b)はmPEGがそれぞれ1つ、2つおよび3つ結合している生成物に関する3つのピーク、および−12付近の未反応P−Clによるピークである。図9の(c)は前記第2段階生成物に関するもので、中央に3つのピーク、9.8付近には新しいピークがそれぞれ現れるが、これは生成物のP−Nによるピークである。
【0047】
本発明の離脱基を有するホスホリル基を含む生体適合性分散安定化剤の活用について説明するために、磁性ナノ粒子と緑色発光染料としてのフルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate、FITC)を、ホスホリル基を含む生体的合成分散安定化剤で安定化された酸化鉄ナノ粒子に反応させて蛍光特性を試験した。
【0048】
まず、ホスホリル基を含むポリエチレングリコール界面活性剤に1,2−エチレンジアミンを反応させてアミノ基を導入し、アミノ基を有するポリエチレングリコール界面活性剤を合成した。酸化鉄ナノ粒子を前記界面活性剤で処理し、安定化させて水に分散させた。ナノ粒子の表面に導入されたアミノ基にFITC染料を反応させることにより、緑色発光特性を示す光探測磁性ナノ粒子を製造した。図5はこうして製造された緑色発光特性を示す光探測磁性ナノ粒子を紫外線に曝し、発光特性が現れる様子を撮影した写真である。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤の合成
分子量2000のポリエチレングリコールメチルエーテル(mPEG)10gを20mLのテトラヒドロフラン(THF)溶媒に溶かし、これに塩化ホスホリル0.16mLを添加して室温で攪拌した。12時間攪拌した後、THFを蒸発させ、100℃の真空下でこれを12時間維持した後、真空を解除して室温に戻した。
【0050】
[実施例2]
アミノ基とホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤の合成
分子量2000のポリエチレングリコールメチルエーテル(mPEG)6.7gを20mLのテトラヒドロフラン(THF)溶媒に溶かし、これに塩化ホスホリル0.16mLを添加して室温で攪拌した。12時間攪拌の後、THFを蒸発させ、100℃の真空下でこれを維持した後、真空を解除し、室温で20mLのTHFを添加した。ここに1,2−エチレンジアミン0.3mL〜1.0mLを添加して室温で12時間攪拌した。12時間攪拌の後、THFを蒸発させ、100℃の真空下でこれを12時間維持した後、真空を解除し、室温に戻した。
【0051】
[実施例3]
ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤で安定化させた磁性酸化鉄ナノ粒子の合成
有機溶媒中で合成し、オレイン酸で安定化させた磁性ナノ粒子(Fe)500mgを10mLのTHFに分散させ、0.2〜1gのホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤を5mLのTHFに溶かして添加した。THFを蒸発させ、150℃の真空下で1時間維持した後、真空を解除し、室温に戻した。結果物に10mLの蒸留水を添加した後、分散した結果物を200nmの注射器フィルターで濾過した。
【0052】
[実施例4]
ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤で安定化させた光触媒チタン酸化物ナノ粒子の合成
実施例3と同様の方法により、有機溶媒で合成した10mgの光触媒チタン酸化物ナノ粒子を、ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤で安定化させて水に分散させた。
【0053】
[実施例5]
ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤で安定化させたマンガン酸化物ナノ粒子の合成
実施例3と同様の方法により、有機溶媒で合成した10mgのマンガンナノ粒子を、ホスホリル基を含むポリエチレングリコール系分散安定化剤で安定化させて水に分散させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)のホスフィンオキシド:
【化1】

化学式(I)
前記化学式(I)において、
およびXは(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、XはOH、(OCHOH、(OCHCHOH、(NCHNH、(NCHCHNH)H、S(CHSHまたはNHCHCHCH(OCHCH34OCHCHCHNHであり、mは1〜5であり;または
は(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、XはOH、(OCHOH、(OCHCHOH、(NCHNH、(NCHCHNH)H、S(CHSHまたはNHCHCHCH(OCHCH34OCHCHCHNHであり、mは1〜5であり、XはOHである。
【請求項2】
i)有機溶媒に生体適合性高分子を溶解させて生体適合性高分子有機溶液を製造する段階と、
ii)前記i)段階で製造された生体適合性高分子有機溶液に、離脱基を有するホスフィンオキシドを添加して前記生体適合性高分子と結合させる段階と、
iii)前記ii)段階のホスフィンオキシドと結合した生体適合性高分子の前記離脱基の位置に、生体内活性を有するリガンドと結合することが可能な機能基を導入するために、前記機能基を含む化合物を反応させる段階とを含んでなることを特徴とする、前記化学式(I)の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記生体適合性高分子が、ポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol))、ポリ乳酸(poly(lactic acid))およびポリグリコール酸(poly(glycolic acid))よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の前記化学式(I)の化合物の製造方法。
【請求項4】
前記離脱基が、ハロゲン、TsO、N、NH、S、SiOおよびCHCOOよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の前記化学式(I)の化合物の製造方法。
【請求項5】
前記機能基を含む化合物が、C1−5アルキルジオール(HO(CHOH、n=1〜5);C、C、C、CおよびC10エチレングリコール(H(OCHCHOH、n=1〜5);C1-5アルキルジアミン(HN(CHNH、n=1〜5);C、C、C、CおよびC10エチレンジアミン(HN(CHCHNH)H、n=1〜5);C1−5アルキルジチオール(HS(CHSH、n=1〜5);およびビス(3−アミノプロピル)末端基を有するポリエチレングリコールよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の前記化学式(I)の化合物の製造方法。
【請求項6】
下記化学式(I)のホスフィンオキシドを含む無機系ナノ粒子を水系媒質に分散させるための分散安定化剤:
【化2】

化学式(I)
前記化学式(I)において、X、XおよびXは請求項1で定義したものと同一である。
【請求項7】
前記無機系ナノ粒子が、マグネタイト(Fe)、磁赤鉄鉱(gamma−Fe)、CoFe、MnFe、Fe−Pt合金、Co−Pt合金、Co、CdSe、CdTe、CdSe/ZnSコア/シェル、CdSe/ZnSeコア/シェル、CdSe/CdSコア/シェル、CdTe/ZnSコア/シェル、CdTe/ZnSeコア/シェル、CdTe/CdSコア/シェル、CdTe/CdSeコア/シェル、ZnS、CdS、InAs、InP、InAs/InPコア/シェル、InAs/CdSeコア/シェル、InAs/ZnSコア/シェル、InAs/ZnSe コア/シェル、InP/CdSeコア/シェル、InP/ZnSコア/シェル、InP/ZnSeコア/シェル、Au、PdまたはPtよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の分散安定化剤。
【請求項8】
i)有機溶媒に生体適合性高分子を溶解させて生体適合性高分子有機溶液を製造する段階と、
ii)前記i)段階で製造された生体適合性高分子有機溶液に、離脱基を有するホスフィンオキシドを添加し、前記生体適合性高分子と結合させる段階と、
iii)前記ii)段階のホスフィンオキシドと結合した生体適合性高分子の前記離脱基の位置に、生体内活性を有するリガンドに結合することが可能な機能基を導入するために、前記機能基を含む化合物を反応させる段階とを含んでなることを特徴とする、前記化学式(I)の分散安定化剤の製造方法。
【請求項9】
前記生体適合性高分子が、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリグリコール酸(PLGA)よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の前記化学式(I)の分散安定化剤の製造方法。
【請求項10】
前記離脱基が、ハロゲン、TsO、N、NH、S、SiOおよびCHCOOよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の前記化学式(I)の分散安定化剤の製造方法。
【請求項11】
前記添加物が、C1−5アルキルジオール(HO(CHOH、n=1〜5);C、C、C、C8-およびC10エチレングリコール(H(OCHCHOH、n=1〜5);C1−5アルキルジアミン(HN(CHNH、n=1〜5);C、C、C、CおよびC10エチレンジアミン(HN(CHCHNH)H、n=1〜5);C1−5アルキルジチオール(HS(CHSH、n=1〜5)、およびビス(3−アミノプロピル)末端基を有するポリエチレングリコールよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の前記化学式(I)の分散安定化剤の製造方法。
【請求項12】
下記化学式(II)のホスフィンオキシド:
【化3】

化学式(II)
前記化学式(II)において、
およびYは(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり;または
は(OCHCHOH、(OCH(CH)CO)OHまたは(OCHCO)OHであり、nは1〜50であり、YはClである。
【請求項13】
i)有機溶媒に生体適合性高分子を溶解させて生体適合性高分子有機溶液を製造する段階と、
ii)前記i)段階で製造された生体適合性高分子有機溶液に、離脱基を有するホスフィンオキシドを添加して前記生体適合性高分子と結合させる段階とを含んでなることを特徴とする、前記化学式(II)の化合物の製造方法。
【請求項14】
前記生体適合性高分子が、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリグリコール酸(PLGA)よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項13に記載の前記化学式(II)の化合物の製造方法。
【請求項15】
前記離脱基が、ハロゲン、TsO、N、NH、S、SiOおよびCHCOOよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項13に記載の前記化学式(II)の化合物の製造方法。


【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−501751(P2011−501751A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529855(P2010−529855)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/KR2008/006063
【国際公開番号】WO2009/051392
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503183673)ソウル ナショナル ユニヴァーシティー インダストリー ファンデーション (6)
【出願人】(508095946)アジョウ・ユニバーシティ・インダストリー−アカデミック・コーポレイション・ファウンデイション (3)
【氏名又は名称原語表記】AJOU UNIVERSITY INDUSTRY−ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
【Fターム(参考)】