説明

無機組成物及びその製造方法

【課題】 長期間にわたる耐光性や耐熱性を有する無機マトリックス中に希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が高濃度且つ均質に分散された無機組成物の提供、及びそれらの低温かつ易成形性を有する製造プロセスの提供。
【解決手段】 少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散されてなる無機組成物であって、該希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属種が酸素を介して配位してなる分散相が形成されてなる無機組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射する光の透過、屈折、反射、偏光面回転などを制御、入射する光によって励起されて発光(蛍光)、増幅などの機能を発現する光学機能応用分野又は磁性機能を発現する磁気機能応用分野に用いられる希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を含む無機組成物に関するものであって、更には、該無機組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は光学機能分野、磁気機能分野において多様な応用がなされており、現在の科学技術に必要不可欠の元素群である。19世紀末のガス灯発光材へのセリウムの応用以来、テレビ受像機ブラウン管用赤色蛍光体(ユウロピウム、イットリウム)、医療診断のX線CT用シンチレータ(ガドリニウム、プラセオジウム)、調光ガラス(ネオジウム、セリウム)、固体レーザ(イットリウム、ネオジウム)、コンデンサ(イットリウム、ガドリニウム)、光ファイバ増幅器(エルビウム、プラセオジウム、テルビウム、ジスプロシウム)、光磁気ディスク(テルビウム、ガドリニウム)など多様な光学機能応用分野において不可欠な材料となっている。一方、第4周期遷移金属は、希土類金属と同様に蛍光ランプや水銀ランプ、ブラウン管用の蛍光体として利用されている。また、その吸収特性により各種無機顔料として使用されている。さらには、磁性体として多くの応用がなされている。
【0003】
希土類金属又は/及び第4周期遷移金属は、多くの場合ホスト材料中に希土類イオン又は/及び第4周期遷移金属イオン、希土類酸化物又は/及び第4周期遷移金属酸化物などの形でドーピングされる。そのようなホスト材料としてはガラス、ガーネット結晶(YAG、YIG)、透明セラミックス材料(YAG、イットリア、ジルコニアなど)が用いられている。
【0004】
発光材料として用いる場合、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を高濃度でドープすると、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属どうしが凝集または著しく近接する。このため、かかる方法では、発光(蛍光)能が低下する「消光」という現象がおこるため高濃度でドープしにくいという問題があり、実質的には、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属濃度として高々100ppm程度の濃度でしかないのが実情である。また、無機系ホストへのドープは、例えば、溶融ガラス、融液からの単結晶引き上げ、高密度焼結体作成など高温でのプロセスが必須である。
多様な光学機能応用分野、磁気機能分野で利用される希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を、ガラスなどの無機材料に低温ドープすることが可能になれば、各種基板上へのドープガラスの形成、経済性などの性能を付与された新しい応用が可能になる。
【0005】
高濃度の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を分散させて光学機能応用分野に利用する例としては、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して他の金属種が配位する無機分散相を用いた有機材料との複合化が示されているが(特許文献1)、マトリックスとして有機材料を用いるため長期間にわたる耐光性や耐熱性を確保すること本質的に不可能である。また、特許文献1で有機重合体に分散されている無機分散相では、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を含む特許文献1に記載の分散相前駆物質(特許文献1の図1参照)の配位金属原子に結合している置換基(R)が保持されたまま有機重合体に分散されているため、置換基(R)として、アルキル基、アセチル基などのアルキルカルボニル基の場合は、分散相に有機物を含んだ形の複合体になっている。
希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を含む特許文献1に記載の分散相前駆物質(特許文献1の図1参照)が無機マトリックス中に分散できれば目的の特性を発現可能と考えられるが、ゾル−ゲル法に代表される従来技術の組み合わせでは希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を含む特許文献1に記載の分散相前駆物質を無機マトリックス中に効率よく高濃度に分散することは困難であった。
【0006】
また、従来法であるガラスやセラミックスプロセスでは、高温での加熱処理が必要であるとともに、熱処理に伴う構成元素の熱拡散によりに目的とする希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を凝集なく高濃度で分散することは困難である。
【0007】
そのため、無機マトリックス中に希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を効率よく分散可能な材料、及び低温かつ易成形性を有するプロセスの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開公報 WO2006/004187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術である分散相を有機ポリマー中に分散した複合材では、長期間にわたる耐光性、耐水性や耐熱性などの環境安定性を維持することは困難である。
また、特許文献1の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属を含む特許文献1に記載の分散相前駆物質(特許文献1の図1参照)は、配位金属原子に結合している置換基(R)は、アルキル基、アセチル基などのアルキルカルボニル基を含んでいる場合があり、単純に媒質に混合したのでは、有機物を含む組成物になってしまうという問題があった。
本発明は、これに替わる優れた環境安定性を有する無機マトリックス中に希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が高濃度且つ均質に分散された無機組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、従来技術であるガラスやセラミックスプロセスでは達成が困難であったそれらの低温かつ易成形性を有する製造プロセスの提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討し結果、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散されてなる無機組成物であって、該希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属元素が酸素を介して配位してなる分散相が形成されてなる無機組成物が有効であることを見出し、発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とする。
【0011】
〔1〕少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散されてなる無機組成物であって、前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属は、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属元素が酸素を介して配位してなる分散相が無機媒質中に分散相を形成していることを特徴とする無機組成物。
〔2〕前記分散相の平均直径が、0.1〜50nmであることを特徴とする前記〔1〕に記載の無機組成物。
〔3〕前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位する金属元素が、3B族、4A族、5A、6A族金属より選ばれた1種もしく2種以上の金属元素であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の無機組成物。
〔4〕前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属(M1)と前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位する金属元素(M2)とのモル比率(M2/M1)が、1から4であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の無機組成物。
〔5〕前記無機媒質が、無機ポリマーから誘導される無機系非晶質媒質であることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の無機組成物。
〔6〕前記無機ポリマーが、珪素素含有ポリマー、ボラジンポリマー、ボラジンケイ素ポリマーであることを特徴とする前記〔5〕に記載の無機組成物。
〔7〕前記珪素含有ポリマーが、ポリシラザンであることを特徴とする前記〔6〕に記載の無機組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な透明性、長期間にわたる耐光性、耐湿性や耐熱性を有する光学機能応用分野、磁性機能分野に適用可能な無機マトリックス中に希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が分散された無機組成物が提供可能である。さらには、従来のセラミックス、ガラスなどに比べ大幅に低い温度での製造が可能となる。また、樹脂基板を含む様々な基板上への無機マトリックス中に希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が分散された無機組成物の形成が可能となる。
有機ポリマー中に分散された場合に比べ、耐光性、耐湿性、耐熱性などの環境安定性の高い複合材料が形成可能である。また、シリカマトリックスは有機ポリマーに比べ本質的に透明性に優れるため、光透過を利用する応用において非常に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかわる分散相前駆物質の模式図。
【0014】
【図2】Euを0.5重量%含有する実施例1の無機組成物膜の発光スペクトル。(図中、x印は装置起因のノイズ)
【0015】
【図3】Euを0.5重量%含有する実施例1の無機組成物膜の励起スペクトル。 図中、チャート(2)は、チャート(1)の部分的拡大図を示す。チャート(1)中の矢印は酸素配位場に起因するピーク、チャート(2)中の矢印はEuイオンに起因するピークを示す。(図中、x印は装置起因のノイズ)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の無機組成物は、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散されてなる無機組成物であって、前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属は、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属元素が酸素を介して配位してなる分散相が無機媒質中に分散相を形成していることを特徴とする無機組成物である。
【0017】
無機組成物中の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属量は、目的応じて決定されるものであり特に限定されないが、100ppm〜20%が好ましい。本発明によれば、通常用いられるガラス、単結晶、セラミックスなどの無機媒質中では、ドープ金属の凝集を抑制するために1000ppm程度がドープ量の上限であるのに対し、凝集が抑制された状態で20%までの添加が可能となる。
【0018】
無機組成物中の分散相の平均直径は、0.1〜50nmであることが好ましい。本発明に係る無機組成物は、光学材料等に用いられる場合には、光学的に透明性(透過性)を有していることが望ましい。分散相のサイズが50nmを超えると散乱による透過率の低下が顕著となるため好ましくない。より好ましくは、20nm以下である。光増幅や導光長が長いバルクとしての適用を考慮すれば、10nm以下が好ましい。
【0019】
無機組成物の分散相の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位する金属元素は、特に限定されないが、好ましくは3B族、4A族、5A、6A族金属より選ばれた1種もしく2種以上の金属元素である。
【0020】
本発明において希土類金属又は/及び第4周期遷移金属は、その他の金属原子に結合した酸素を介して配位されている。
本発明の分散相は、模式的に図1のように示される分散相前駆物質を用いて無機媒質中に形成することができる。本発明の無機組成物は、同図に示す分散相前駆物質から形成される、酸素を介して他の金属種(2)が配位してなる希土類金属又は/及び第4周期遷移金属(1)からなる分散相と、図示しない無機媒質とを含む複合体によって形成されている。ここで、前記分散相前駆物質において重要なことは、酸素を介した隣接位置への同種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属の存在を可能な限り低減することである。従って、酸素および他の金属原子からなる配位子の数や原子は固定されたものではなく、化学量論的に見て厳密に図1のような分子構造に限られるものではない。
また、本発明の無機組成物は、酸素を介した隣接位置に同種の希土類金属の存在を可能な限り低減することが可能であれば、会合構造をとることも可能である。
【0021】
図1に示された分散相前駆物質の官能基Rは、複合化する無機媒質の種類により選定され特に限定されない。無機媒質との相溶性又は反応性を向上することを目的として選択することが可能である。例えば、Rとして、水素、アルキル基、アセチル基などのアルキルカルボニル基などがある。
【0022】
無機組成物の分散相の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属(M1)と配位金属元素(M2)とのモル比率(M2/M1)が、1から4であることが好ましい。モル比率(M2/M1)が、1より小さいと希土類金属又は/及び第4周期遷移金属(M1)の分散効果が維持できず、(M1)の凝集が進行する。モル比率(M2/M1)の上限は特に限定されないが、4より大きくしてもその効果はかわらないため、4以下で十分である。
【0023】
無機組成物の無機媒質は、透明性を維持可能で低温での形成かつ易成形性を付与可能であれば特に限定されない。例えば、珪素含有ポリマー、ボラジンポリマー、ボラジンケイ素ポリマーなどの無機ポリマーから誘導される無機系非晶質媒質が用いられる。
【0024】
無機ポリマーから誘導される無機系非晶質媒質としては、珪素含有ポリマーより誘導される酸化ケイ素組成物、炭化ケイ素組成物、シリコンオキシカーバイド組成物等、ボラジンポリマーより誘導される窒化ケイ素組成物、ボラジンケイ素ポリマーより誘導されるシリコンボロンナイトライド組成物等が例示される。
好ましくは、珪素含有ポリマーより誘導された珪素系組成物が用いられる。
【0025】
珪素系組成物を誘導する珪素含有ポリマーは、ポリシラザン、ポリカルボシラン、ポリシロキサンポリシラザンなどが用いられる。好ましくは、ポリシラザンが用いられる。ポリシラザンは、大気中の酸素や水分と反応し酸化ケイ素へと転換する。通常、ゾル-ゲル法で用いられるアルコキシシランやその重合体が、脱水縮合反応により酸化ケイ素に転換する(反応式1)際に大きな体積収縮を伴うのに対し、ポリシラザンは、分子中の窒素元素が酸素と置換することで酸化ケイ素への転換(反応式2及び3)が進行するため、体積収縮を伴わずに酸化ケイ素の形成が可能である。
Si(OR) + 2HO → SiO + 4ROH (1)
−(SiHNH)− + 2HO → SiO + NH↑ + 2H↑ (2)
−(SiHNH)− + O → SiO + NH↑ (3)
【0026】
本発明の無機組成物は、無機ポリマーと希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属種が酸素を介して配位してなる分散相前駆物質を含む溶液を基材上に塗布することにより製造される。
【0027】
分散相前駆物質の形成方法は、目的とする希土類金属又は/及び第4周期遷移金属への酸素を介した金属の配位が形成可能であれば特に限定されるものではない。例えば、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属原料と配位可能な金属原料を混合した後、加熱処理、粉砕する方法(出発原料としては、金属塩、水酸化物、酸化物などが用いられる)、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属塩と配位可能な金属塩を溶剤に溶かした後、加水分解により沈殿析出させる方法、有機溶剤中で希土類金属又は/及び第4周期遷移金属塩と配位可能な金属のアルコキシドを反応させる方法などがある。
【0028】
ナノメートルサイズの分散相前駆物質を得るためには、有機溶剤中で希土類金属又は/及び第4周期遷移金属塩と配位可能な金属のアルコキシドを反応させる方法が、好ましく用いられる。使用される溶剤は特に限定されるものではなく、配位構造を形成した最終生成物を無機媒質に分散でき、無機媒質を誘導可能な化合物が可溶で反応性のないものであれば何を用いてもよい。
【0029】
好ましくは活性水素を有さないアプロティック溶剤が好ましい。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテ
ル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類;酢酸2−メトキシエチル、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセタートなどのグリコール誘導体;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素化合物;アセトニトリルなどが用いられる。
【0030】
ポリシラザンを珪素含有ポリマーとして用いた場合、ポリシラザンの溶剤だけでなく分散相前駆物質の溶剤もアプロティック溶剤の利用が必須となる。活性プロトンを有する溶剤を使用すると、溶剤中の活性プロトン部がポリシラザンと反応し、ポリシラザンの重合が進行し、目的とする成膜可能な均質な塗工液を作成することができない。
【0031】
分散相前駆物質を形成するために、溶剤の還流温度まで加熱する方法を用いることが可能であり、この方法は、多くの場合反応速度を促進することができるので有効な手段となる。得られた配位形成物に水を添加し、加水分解することで分散相前駆物質のサイズを制御することも可能である。
【0032】
希土類金属又は/及び第4周期遷移金属の出発原料として、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などの鉱酸塩や蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、アルコキシド等が用いられる。アニオン不純物の低減などを考えると、蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩やアルコキシドの使用が好ましい。より好ましくは、酢酸塩またはアルコキシドが用いられる。
酢酸塩は、通常結晶水を含んでおり、配位させる金属の種類によってはそのまま使用することも可能であるが、反応前に脱水処理を行った方が好ましい。
【0033】
得られた分散相前駆物質を無機媒質へ誘導可能な無機ポリマー溶液と混合することで本発明の無機組成物形成用液が製造される。
【0034】
前記混合により分散相前駆物質と無機ポリマーが反応し、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属元素が酸素を介して配位してなる分散相が無機媒質中に分散相を形成している無機組成物が生成される。
図1に示す分散相前駆物質の場合で図中のRで示される置換基は無機ポリマーとの反応によって除かれ、置換基Rを有さない無機物質である無機組成物が生成される。
珪素含有ポリマーを無機ポリマーとした場合には、希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位してなる他の金属元素(M2)との間で、置換基Rが離脱しケイ素(Si)と結合し、〔−(M2)−O−Si−〕の結合ができて、有機化合物基(R基)を含まない無機組成物を生成することができる。
【0035】
アルコキシドを含む分散相前駆物質を出発原料として用いた場合、末端アルコキシル基とポリシラザンの反応が非常に速く進行するため、急激な混合を行うと重合物の析出を伴うことがあるため、どちらかの溶液を滴下するなどの手法を用いることが好ましい。反応スケールが大きくなる場合は、反応容器を冷却しながら滴下することも好ましい。
【0036】
基材上へ混合溶液を塗布した後、溶剤を除去可能な温度で乾燥し、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散された無機組成物が得られる。
【0037】
本発明の方法によれば、通常無機媒質として用いられるガラス、単結晶、セラミックスなどのような高温での反応が不要であるので、プラスチック基板、反応性の高いガラス基板、シリコン基板への形成が可能となる。通常用いられるガラス、シリコンなどの無機基板を用いた場合、無機ポリマーの無機媒質への転換(ポリシラザンの場合は酸化ケイ素への転換)を促進するために500℃程度の温度での加熱も可能である。
【0038】
溶剤を除去可能な温度で乾燥することにより、通常、溶媒とともに反応の副生成物(水素、アンモニア、前記置換基Rを含む生成物等)も除去することができる。
【0039】
無機組成物の基板への塗布方法として、一般に液相法で使用されるものであれば特にその手法は限定されないが、例えば、スピンコート、ディップコート、ロールコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷などが用いられる。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕
<分散相前駆物質の作製>
トルエン中に110℃で1時間脱水処理した酢酸ユーロピウムとトリ−s−ブトキシアルミニウム(Eu/Al=3モル、EuとAlの合計酸化物換算濃度5重量%)とを加え12時間還流した結果、無色透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的光散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが2nmの複合ナノ粒子である事を確認した。また、トリ−s−ブトキシアルミニウムの反応前後の27Al−NMRスペクトルの変化よりEuへの酸素を介したAlの配位を確認した。
【0041】
<無機組成物の作製>
珪素含有ポリマーとして、「アクアミカ」(20%キシレン溶液、AZ エレクトロニック マテリアルズ社製)を用いた。この珪素含有ポリマーに前記の方法にて作製したEuAl含有分散相前駆物質のトルエン溶液を滴下し、室温にて2時間攪拌させ無機組成物形成用前駆体液を得た。混合比は無機組成中のユーロピウムの割合が、総固形分に対して5%、0.5%の重量分率となるよう調整した。
得られた前駆体液をスピンコート法により、バイコールガラス(コーニング社製)上に成膜した後、100℃で乾燥・硬貨させることにより無色透明の塗布膜を形成した。膜厚は、スピンコートの回転数を変化させることで、2〜50μmの範囲で作成した。珪素含有ポリマーの透過率とほぼ同等で、光学的な透明性が確保できていることが確認された。
【0042】
<蛍光強度測定>
Eu含有無機組成物の蛍光光度計を用い蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定した。励起光を380nmとすることで、590nmと613nmにEuイオンに帰属される発光ピークが観察された(図2)。また、614nmピークに対する励起スペクトル中において、350〜450nmの範囲にEuイオンの吸収に相当する輝線ピーク、273nmをピークとする酸素配位場に帰属されるブロードなピークが観察された(図3)。この結果から、ユーロピウムイオンを高濃度でドープしても、消光が抑制されてユーロピウムの発光過程が発現できていることが確認できた。
【0043】
<環境安定性のテスト>
得られた無機組成物を200℃で24時間保持後、透過スペクトルおよび発光スペクトルの測定を行った。透過スペクトルおよび発光スペクトル伴に明確な変化は観察されなかった。
【0044】
〔比較例1〕
特許文献1に記載の有機無機複合体と環境安定性を比較した例を比較例1として示す。
【0045】
プロピレングリコールαモノメチルエーテル中に110℃で1時間減圧脱水処理した酢酸ユーロピウムとトリ−s−ブトキシアルミニウム(Eu/Al=3モル、EuとAlの合計酸化物換算濃度5重量%)とを加え1時間還流し、無色透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的散乱法で測定し、粒径分布の
ピークトップが1.5nmの無機分散材である事を確認した。また、トリ−s−ブトキシアルミニウムの反応前後の27Al−NMRスペクトルの変化よりEu への酸素を介したAlの配位を確認した。
透明有機ポリマーとして、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)を用いた。この有機重合体と、前記の方法にて作製したEu−Al含有複合ナノ粒子をエチルセロソルブ中で混合し、室温にて2時間攪拌させ混合液を得た。混合比は複合組成中のEuの割合が、総固形分に対して8%の重量分率となるよう調整した。
得られた前駆体液をスピンコート法により、バイコールガラス(コーニング社製)上に成膜した後、100℃で乾燥させることにより厚さ10μmの無色透明の塗布膜を形成した。ベースポリマーの透過率とほぼ同等で、光学的な透明性が確保できていることが確認された。
【0046】
得られたEu含有有機無機複合体の蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定した。実施例1と同じ発光および励起スペクトルが観察された。得られた複合体を200℃で24時間保持しとところ若干の黄変が確認された。また、発光スペクトルにおいて、400〜500nmを中心としたブロードな発光バンドの形成が確認された。
【0047】
本発明の無機組成物である実施例1は、比較例1に比べ環境安定性に優れることが確認された。従って、本発明の無機組成物は、LEDなどの発光素子、太陽電池などの苛酷な環境で駆動されるデバイスでの適用において特に顕著な効果を発揮することができる。
【0048】
〔実施例2〕
実施例1と同様の方法でトリ−s−ブトキシアルミニウムの代わりにテトラ−i−プロポキシチタンに変更しEuを含む複合膜の作成を行い、無色透明膜が形成された。
蛍光光度計による測定により、実施例1と同じ590nmと613nmにEuイオンに帰属される発光ピークが観察された。
【0049】
〔実施例3〕
<無機分散相の作製>
トルエン中に110℃で1時間脱水処理した酢酸テルビウムとトリ−s−ブトキシアルミニウム(Tb/Al=3モル、EuとAlの合計酸化物換算濃度5重量%)とを加え12時間還流した結果、無色透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的光散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが2.1nmの複合ナノ粒子である事を確認した。
<無機分散相と珪素含有ポリマーとの複合体の作製>
珪素含有ポリマーとして、「アクアミカ」(20%キシレン溶液、AZ エレクトロニック マテリアルズ社製)を用いた。この珪素含有ポリマーに前記の方法にて作製したTbAl含有無機分散相のトルエン溶液を滴下し、室温にて2時間攪拌させ複合体形成用前駆体液を得た。混合比は複合組成中のテルビウムの割合が、総固形分に対して5%重量分率となるよう調整した。
得られた前駆体液をスピンコート法により、バイコールガラス(コーニング社製)上に成膜した後、100℃で乾燥・硬貨させることにより無色透明の塗布膜を形成した。得られた塗布膜は、珪素含有ポリマーの透過率とほぼ同等で、光学的な透明性が確保できていることが確認された。
<蛍光強度測定>
Eu含有無機複合体を蛍光光度計を用い蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定した。励起光を380nmとすることで、489nmと543nmにTbイオンに帰属される発光ピークが観察された。
【0050】
〔実施例4〕
<無機分散相の作製>
トルエン中に110℃で1時間脱水処理した酢酸エルビウムとトリ−s−ブトキシアルミニウム(Er/Al=3モル、EuとAlの合計酸化物換算濃度5重量%)とを加え12時間還流した結果、赤紫色透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的光散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが1.8nmの複合ナノ粒子である事を確認した。
<無機分散相と珪素含有ポリマーとの複合体の作製>
珪素含有ポリマーとして、「アクアミカ」(20%キシレン溶液、AZ エレクトロニック マテリアルズ社製)を用いた。この珪素含有ポリマーに前記の方法にて作製したErAl含有無機分散相のトルエン溶液を滴下し、室温にて2時間攪拌させ複合体形成用前駆体液を得た。混合比は複合組成中のエルビウムの割合が、総固形分に対して0.5%重量分率となるよう調整した。
得られた前駆体液をスピンコート法により、バイコールガラス(コーニング社製)上に成膜した後、100℃で乾燥・硬貨させることにより赤紫色を帯びた透明の塗布膜を形成した。得られた塗布膜は、珪素含有ポリマーの透過率とほぼ同等で、光学的な透明性が確保できていることが確認された。
<蛍光強度測定>
Er含有無機複合体に514.5nmの励起光を照射する事で1.54μmに発光スペクトルを測定した。
【0051】
〔実施例5〕
<無機分散相の作製>
トルエン中に110℃で1時間脱水処理した酢酸ニッケルとトリ−s−ブトキシアルミニウム(Ni/Al=2モル、NiとAlの合計酸化物換算濃度5重量%)とを加え12時間還流した結果、緑色透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的光散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが2.8nmの複合ナノ粒子である事を確認した。
<無機分散相と珪素含有ポリマーとの複合体の作製>
珪素含有ポリマーとして、「アクアミカ」(20%キシレン溶液、AZ エレクトロニック マテリアルズ社製)を用いた。この珪素含有ポリマーに前記の方法にて作製したNiAl含有無機分散相のトルエン溶液を滴下し、室温にて2時間攪拌させ複合体形成用前駆体液を得た。混合比は複合組成中のニッケルの割合が、総固形分に対して5%重量分率となるよう調整した。
得られた前駆体液をスピンコート法により、バイコールガラス(コーニング社製)上に成膜した後、100℃で乾燥・硬貨させることにより緑色を帯びた透明の塗布膜を形成した。透過スペクトルの測定により、Niイオンに相当するイオンの吸収が確認された。
【0052】
〔実施例6〕
実施例5同様の方法で、酢酸ニッケルとペンタエトキシニオブを出発原料として(Ni/Nb=2モル、NiとNbの合計酸化物換算濃度5重量%)、Niを含む複合膜の作成を行った。緑味を帯びた透明膜が形成され、透過スペクトルの測定により、Niイオンに相当するイオンの吸収が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、入射する光の透過、屈折、反射、偏光面回転などを制御、入射する光によって励起されて発光(蛍光)、増幅などの機能を発現する光学機能材料として利用可能であり、それら素材を用いた各種光学応用分野に利用可能である。
本発明の無機組成物の具体的な用途の例としては、光増幅器、レンズ、コントラスト増強ガラス、光フィルタ等の調光光学要素、発光装置及び太陽電池等を挙げることができる。
また、本発明の無機組成物は、磁性機能を発現する磁気機能応用分野の素材として用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 希土類金属又は第4周期遷移金属
2 酸素を介して希土類金属又は第4周期遷移金属に配位する他の金属元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属が無機媒質中に分散されてなる無機組成物であって、前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属は、少なくとも1種の希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に他の金属元素が酸素を介して配位してなる分散相が無機媒質中に分散相を形成していることを特徴とする無機組成物。
【請求項2】
前記分散相の平均直径が、0.1〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載の無機組成物。
【請求項3】
前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位する金属元素が、3B族、4A族、5A、6A族金属より選ばれた1種もしく2種以上の金属元素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無機組成物。
【請求項4】
前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属(M1)と前記希土類金属又は/及び第4周期遷移金属に酸素を介して配位する金属元素(M2)とのモル比率(M2/M1)が、1から4であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機組成物。
【請求項5】
前記無機媒質が、無機ポリマーから誘導される無機系非晶質媒質であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の無機組成物。
【請求項6】
前記無機ポリマーが、珪素素含有ポリマー、ボラジンポリマー、ボラジンケイ素ポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の無機組成物。
【請求項7】
前記珪素含有ポリマーが、ポリシラザンであることを特徴とする請求項6に記載の無機組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−167191(P2012−167191A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29261(P2011−29261)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】