説明

無機繊維ペーパーの製造方法

【課題】 本発明は、ガラス繊維、セラミック繊維等の微細径の無機繊維を主体とし、湿式抄造によって得られる低坪量の無機繊維ペーパーを安定した品質で連続製造することが可能な無機繊維ペーパーの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の無機繊維ペーパーの製造方法は、平均繊維径が5μm以下の無機繊維が50質量%以上で構成され、坪量が14g/m2以下である湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーの製造方法において、湿式抄造時の原料液濃度(原料液の原料濃度)Dと前記ペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005以下となるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維、セラミック繊維等の微細径の無機繊維を主体とし、湿式抄造によって得られる低坪量の無機繊維ペーパーを安定した品質で連続製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維、セラミック繊維等の微細径の無機繊維を主体とし、湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーが知られている。
このような無機繊維ペーパーは、通常、無機繊維等の原料を水中に分散・混合して得た原料液を通常の円網抄紙機、短網抄紙機等を用いて湿式抄造し、乾燥することによって連続的に製造され、連続した無機繊維ペーパーとして生産されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような無機繊維ペーパーは、耐熱性、耐腐食性、耐薬品性を有し、高空隙率であることから、近年、様々な用途での使用が検討され始めている。このような状況下、例えば、軽量化や小型化が求められる用途では、より低坪量、すなわち、より薄型の無機繊維ペーパーが求められるようになってきている。
ところが、上記したような湿式抄造法によって、14g/m2以下の非常に低坪量の無機繊維ペーパーを製造しようとすると、ペーパーの地合(厚さ、坪量、密度の均質性)が不均質となり、適正な品質の無機繊維ペーパーを安定的に歩留り良く生産することができなくなるという問題があった。
そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ガラス繊維、セラミック繊維等の微細径の無機繊維を主体とし、湿式抄造によって得られる低坪量の無機繊維ペーパーを安定した品質で連続製造することが可能な無機繊維ペーパーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記目的を達成するべく、鋭意検討を重ねた結果、14g/m2以下の非常に低坪量の無機繊維ペーパーを製造する場合に、ペーパーの地合(厚さ、坪量、密度の均質性)が不均質となる現象の原因として、原料液中での無機繊維等の原料の分散不具合が主な原因であることを突き止めた。更に、この分散不具合は、原料を水中で分散させて原料液を得る際に繊維材料等が分散し切らずに当初の塊(結束状態等)のまま残ったり、一旦分散した繊維材料等が分子間引力によって再凝集することによって引き起こされていることが分かった。
本発明の無機繊維ペーパーの製造方法は、かかる知見に基づきなされた発明であって、請求項1に記載の通り、平均繊維径が5μm以下の無機繊維が50質量%以上で構成され、坪量が14g/m2以下である湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーの製造方法において、湿式抄造時の原料液濃度(原料液の原料濃度)Dと前記ペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005以下となるようにしたことを特徴とする。
また、請求項2記載の無機繊維ペーパーの製造方法は、請求項1記載の無機繊維ペーパーの製造方法において、前記無機繊維ペーパーは、前記無機繊維が80質量%以上で構成されることを特徴とする。
また、請求項3記載の無機繊維ペーパーの製造方法は、請求項1又は2記載の無機繊維ペーパーの製造方法において、前記無機繊維が平均繊維径1.5μm以下であることを特徴とする。
また、請求項4記載の無機繊維ペーパーの製造方法は、請求項1乃至3の何れかに記載の無機繊維ペーパーの製造方法において、前記無機繊維が無機質短繊維であることを特徴とする。
また、請求項5記載の無機繊維ペーパーの製造方法は、請求項1乃至4の何れかに記載の無機繊維ペーパーの製造方法において、前記無機繊維がガラス繊維であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ガラス繊維、セラミック繊維等の微細径の無機繊維を主体とし、湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーの製造方法において、湿式抄造時の原料液濃度Dと無機繊維ペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005以下となるようにして、得ようとする無機繊維ペーパーの坪量に応じた原料液濃度としたことにより、原料液中での原料の分散が良好となり、特に分子間引力による再凝集に起因した原料の分散不具合の発生を極力排除できることから、平均繊維径が5μm以下、より好ましくは1.5μm以下の微細径の無機繊維が50質量%以上、より好ましくは80質量%以上で構成され、14g/m2以下の非常に低坪量、すなわち、非常に薄型の無機繊維ペーパーを、良好な地合及び適正な品質で歩留り良く安定的に連続生産することができるようになり、工業的に利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の無機繊維ペーパーの製造方法によって得ようとする無機繊維ペーパーは、平均繊維径が5μm以下、より好ましくは1.5μm以下である微細径の無機繊維が50質量%以上、より好ましくは80質量%で構成され、14g/m2以下の非常に低坪量の湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーである。
本発明の無機繊維ペーパーの製造方法は、このような無機繊維ペーパーを従来の一般的な円網抄紙機や短網抄紙機等による湿式抄造法を用いて適正な品質で歩留り良く安定的に連続製造するため、湿式抄造時の原料液濃度(原料液の原料濃度)D(質量%)と無機繊維ペーパーの坪量W(g/m2)の関係D/Wが0.005以下となるようにしたものである。
つまり、前述したように、従来の問題点であった14g/m2以下の非常に低坪量の無機繊維ペーパーを製造する場合にペーパーの地合が不均質となる現象は、通常一般的に起こり得る(完全には避けられない)原料液中での原料の分散不具合が、ペーパーの低坪量化、すなわち、ペーパーの薄型化によって、地合悪化という形で顕在化された現象であると分析できるが、この原料液中での原料の分散不具合という現象、特に、前述したように一旦分散した原料が再凝集することで引き起こされる現象については、これを完全に防ぐことは不可能であり、問題解決の考え方としては、前記分散不具合現象をペーパーの地合品質上問題のないレベルにまで落とすということしか方法がないと考えられた。このため、液中で原料が分散し易く、また、再凝集しにくくするため、原料液濃度を、従来よりも低いレベルに、得ようとする無機繊維ペーパーの坪量に応じて制御する方法が考えられた。検討を重ねた結果、湿式抄造時の原料液濃度D(質量%)と無機繊維ペーパーの坪量W(g/m2)の関係D/Wが0.005以下となるような条件に前記原料液濃度を設定することで、ペーパーの地合が不均質となる前記問題をほぼ解消でき、前記したような本発明の非常に低坪量の無機繊維ペーパーを適正な品質で歩留り良く安定的に連続生産できるようになることが分かった。
【0007】
前記無機繊維としては、ガラス繊維や、シリカ−アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維や、ロックウール、スラグウール等の人造非晶質系繊維、又は、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー等の針状結晶質繊維、又は、アスベスト、セピオライト等の微細鉱物繊維等の中から1種あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。実際には、無機繊維ペーパーの用途ごとに求められる機能や特性等に合わせて適宜適切な無機繊維を選択して使用することになる。
【実施例】
【0008】
次に、本発明の実施例を比較例及び従来例と共に詳細に説明する。
(実施例1)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.010質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ50μm、坪量6.7g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0009】
(実施例2)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.020質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ51μm、坪量6.7g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0010】
(実施例3)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.030質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ53μm、坪量6.7g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0011】
(比較例1)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.040質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ56μm、坪量6.7g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0012】
(従来例)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.260質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ200μm、坪量30.6g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0013】
(実施例4)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.010質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ90μm、坪量13.1g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0014】
(実施例5)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.030質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ92μm、坪量13.1g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0015】
(実施例6)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.050質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ95μm、坪量13.1g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0016】
(比較例2)
無機繊維として平均繊維径0.6μmのガラス短繊維95質量%と、有機バインダとしてミクロフィブリル化セルロース5質量%を水中で分散・混合し、原料濃度が0.080質量%の原料液を得た。この原料液を通常の円網抄紙機を用いて湿式抄造してシート化し、乾燥して、厚さ99μm、坪量13.1g/m2の無機繊維ペーパーを得た。
【0017】
次に、上記にて得られた実施例1〜6、比較例1〜2及び従来例の各無機繊維ペーパーについて、以下の方法により各種特性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。また、実施例2及び比較例1の各無機繊維ペーパーの表面写真を図1に示す。
〈厚さ〉
ダイヤルシックネスゲージを用いて、加重19.6kPaにて測定した。
〈坪量〉
0.1m2の質量を測定し、これを10倍して坪量とした。
〈密度〉
坪量÷厚さの計算値。
〈地合(表面平滑度合い)〉
表面平滑度合いを目視にて判定した。判定は5段階で行い、表面平滑度合いの高いものから順に、5、4、3、2、1の評点を付けた。
〈地合(厚さ均一度合い)〉
厚さ均一度合いを目視にて判定した。判定は5段階で行い、厚さ均一度合いの高いものから順に、5、4、3、2、1の評点を付けた。
〈引張強度〉
等速度引張試験機にて測定した。測定条件は、引張速度25mm/分、チャック間距離100mmとして行った。
〈空隙率〉
次式により算出した。尚、バインダは構成比率が低く影響が小さいため省略した。尚、ここでは、無機繊維、すなわちガラス繊維の密度を2.54として計算した。
空隙率(%)={(無機繊維の密度)−(無機繊維ペーパーの密度)}÷(無機繊維の密度)×100
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
表1及び表2に示す結果から以下のようなことが分かった。
(1)本発明の実施例1〜6の無機繊維ペーパーは、湿式抄造時の原料液濃度Dとペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005以下となるように原料液濃度を設定して湿式抄造されたため、坪量が14g/m2以下と非常に低坪量であるにも拘わらず、地合が良好で、引張強度が高く、良好な品質を有したペーパーとなった。
(2)これに対して、比較例1〜2の無機繊維ペーパーは、湿式抄造時の原料液濃度Dとペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005を超えるような原料液濃度に設定されて湿式抄造されたため、目的とする坪量が14g/m2以下のペーパーを得ることはできたものの、地合が悪く、引張強度が低く、良好な品質のペーパーとはならなかった。
(3)尚、従来例の無機繊維ペーパーは、地合が良好で、引張強度が高く、良好な品質のペーパーであるが、坪量が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)本発明の実施例2の無機繊維ペーパーの表面写真である。(b)比較例1の無機繊維ペーパーの表面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が5μm以下の無機繊維が50質量%以上で構成され、坪量が14g/m2以下である湿式抄造によって得られる無機繊維ペーパーの製造方法において、湿式抄造時の原料液濃度(原料液の原料濃度)Dと前記ペーパーの坪量Wの関係D/Wが0.005以下となるようにしたことを特徴とする無機繊維ペーパーの製造方法。
【請求項2】
前記無機繊維ペーパーは、前記無機繊維が80質量%以上で構成されることを特徴とする請求項1記載の無機繊維ペーパーの製造方法。
【請求項3】
前記無機繊維が平均繊維径1.5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の無機繊維ペーパーの製造方法。
【請求項4】
前記無機繊維が無機質短繊維であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の無機繊維ペーパーの製造方法。
【請求項5】
前記無機繊維がガラス繊維であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の無機繊維ペーパーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−9187(P2006−9187A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186974(P2004−186974)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】