無機質多孔体及びその製造方法
【課題】ミクロ領域とメソ領域の中間域の細孔径を有し、細孔径分布が狭い無機質多孔体であって、高分子量の分子や嵩高い分子を対象とする触媒、吸着体に用い得る耐熱性の優れた吸着、触媒材料を提供すること。
【解決手段】マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有する無機質多孔体。ここで、金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【解決手段】マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有する無機質多孔体。ここで、金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、狭い細孔径分布を持った無機質多孔体及びその製造方法に関し、高分子量の分子や嵩高い分子を対象とする触媒、吸着体に用い得る耐熱性の優れた吸着、触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライトに代表される結晶性多孔体は、その多孔体の細孔表面の物理的、化学的特性に応じて、触媒やイオン交換体等として幅広い工業分野で利用されている。しかし、このような結晶性多孔体の場合、その細孔径が3〜10Åの均一構造を持つことから、低分子量の化合物等の高選択的触媒反応に対しては優れた機能を発揮するが、より大きい分子に適応させるためZSM−5やY型ゼオライトの改質が行われてきた。
【0003】
一方、シリカ源と界面活性剤で合成するメソポーラスシリカ等のメソ多孔体の開発が盛んに行われてきた。カチオン性界面活性剤の分子集合体を鋳型として用い、メソ多孔を有する六角柱状の多孔体(ハニカム多孔体)を製造する方法が提案されており、シリカ源の種類に応じた次の二方法が知られている。第一の方法は、層状珪酸塩を出発シリカ源とするもので、例えば、層状の珪酸塩の一つであるカネマイト(NaHSi2O5・3H2O)とアルキルトリメチルアンモニウム(以下「ATMA」と記す。)の複合体を合成し、これを焼成して有機物を除去することにより比表面積が1000m2/g以上のメソポーラスシリカ多孔体を得る方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法では、カネマイトは珪酸の単位シートがATMAを取り囲むように波板のように湾曲し、複数の波板の頂点同士が結合して多孔体の前駆体が形成される。第二の方法は、アモルファスシリカ粉末やアルカリシリケート水溶液を出発シリカ源とするもので、例えば、沈降性シリカとテトラメチルアンモニウムシリケート水溶液の混合物をATMAと150℃で反応させて非層状の複合体を得る方法が提案されている(特許文献2を参照)。この方法では、珪酸層はATMAのミセルの表面で多孔体前駆体の重縮合が進行することによって規則的構造が形成され、有機物を除去することにより多孔体を得る。
【0004】
また、結晶性層状珪酸の間に珪酸の脱水縮合によるSiO2の層間架橋を形成し、更に珪素と異なる金属原子を結合させた多孔体が提案されている(特許文献3を参照)。
【0005】
一方、結晶性多孔体の細孔構造をコントロールするために、粘土鉱物等の層状化合物の層間を架橋させた(層間に支柱を立てた)ピラードクレイのようなピラー化合物が数多く提案されている(非特許文献1を参照)。このようなピラー化合物は、有機カチオン、多核無機カチオン等を支柱前駆体として層間に導入し、層と層との間を架橋することによって、細孔と同じような空間を形成するものであり、種々の反応条件をコントロールすることによって、細孔径が40Å程度までのものが得られるに至っている。
【0006】
また、層状ポリ珪酸塩の酸処理生成物に液状のポリアミンとテトラアルコキシシランを用いてシリカ柱を立てた多孔体が提案されている(特許文献4を参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平6−24867号公報
【特許文献2】特表平5−503499号公報
【特許文献3】特開平4−238810号公報
【特許文献4】特開平9−2813号公報
【非特許文献1】化学総説,p.39〜47,No.21,1994,日本化学会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ゼオライトに代表される結晶性多孔体は、ZSM−5やY型ゼオライトの改質が行われてきたが、10Å程度の域を超えることはできず、嵩高い分子構造を有する化合物等に対する触媒や吸着剤としては利用できないという問題点があった。
特許文献1に記載のシリカ多孔体は、カネマイトをシリカ源とする方法で、カネマイトは1枚の珪酸シートで構成される層状珪酸であって、薄い珪酸シートであるため単位シートがATMAを取り囲むように波板のように湾曲し、複数の波板の頂点同士が結合して多孔体の前駆体が形成されている。そのため多孔体の構造強度が低く、樹脂への練りこみや粉砕のような機械的衝撃により簡単に構造破壊を起こすという欠点がある。同様に、熱衝撃にも弱く、構造破壊を起こしやすいという課題がある。
特許文献2に記載の多孔体は、珪酸層はATMAのミセルの表面で重縮合するのであるが、層は1層の厚さしかなく、やはり機械的強度が低く、熱衝撃にも弱いという課題がある。
特許文献3は、結晶性層状珪酸ナトリウムとして3層構造のマガディアイトや4層構造のケニヤアイトを例示しているものの、特許文献3に記載の多孔体におけるSiO2の層間架橋は、層が折れ曲がって層自体が有する水酸基同士が脱水縮合して形成されるものであるため、実際のところはカネマイトのような1層構造の層状珪酸ナトリウムにしか形成させることができない。そして、カネマイトを用いて得られる特許文献3に記載の多孔体は、上記の特許文献1と同様に、機械的強度が低く、熱衝撃にも弱いという課題がある。
非特許文献1には、層状化合物の層間架橋により、その細孔径が40Åのピラー化合物が得られたことが記載されているが、これまでに検討されているピラー化合物には、モンモリロナイトやヘクトライトのような粘土鉱物が使用されてきているため、気体分子の吸着量等は向上するが、500℃程度で結晶構造が変化するなど、高温耐熱性が乏しく上記触媒用には適用できなという課題がある。
特許文献4に記載の多孔体は、その実施例から明らかなように、1gのマガディアイトに対して28mlのアルキルアミンと50mlのテトラエトキシシランを使用するという途方もない製法であり、その上、得られる多孔体も細孔径11Å程度であって、ゼオライトの細孔の域を超えていないという課題がある。
非特許文献1には多くの事例が紹介されており、層状珪酸塩の層間架橋により、その細孔径が40Åの多孔体が得られたことが記載されているが、これまでに検討されているピラー化合物には、モンモリロナイトやヘクトライトのような粘土鉱物が使用されてきているため、気体分子の吸着量等は向上するが、500℃程度で結晶構造が変化するなど、高温耐熱性が乏しく上記触媒用には適用できなという課題がある。
【0009】
ところで、ホストである層状結晶の層間に、原子、分子、イオンなどのゲストを挿入することは、インターカーレションの技術として良く知られている。ホストとゲストの種類の組み合わせが多様なことから、層間化合物には極めて多種類の物質が知られている。珪酸塩もその一つであり、モンモリロナイトやカオリナイトのような多元素で形成される層状粘土鉱物、マガディアイトやケニヤアイトのようなSiO2のユニットだけで形成される層状珪酸又は層状珪酸塩などが知られている。
【0010】
前記の層状化合物は、ゲスト種のインターカーレションによって物性の変化や制御が期待でき、新しい機能発現の可能性を有しており、注目を集めている。特に、マガディアイトやケニヤアイトのような層状珪酸又は層状珪酸塩は、その構造がSiO2のユニットだけで構成されており、また層表面にシラノール基(≡Si−O−H)が存在する。これらの点において層状珪酸又は層状珪酸塩は層状粘土鉱物とは異なり、本発明者らは以前から注目してきた。本発明者らは、例えば、特開2000−128521号公報において、マガディアイトやケニヤアイトに第四級アンモニウムイオンをイオン交換させて層間を広げ、広げた層間にシラン化合物を結合させて、アルコール選択吸着性を有する層状珪酸を提案している。
【0011】
このように、層状化合物に第四級アンモニウムイオンをイオン交換させて層間を広げ、広げた層間に原子、分子、イオンを導入する方法は広く知られているが、マガディアイトやケニヤアイトの層間に金属酸化物のピラーを立てて、20〜40Åの細孔を形成したという実例はない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゼオライトやメソ多孔体が適用できなかったミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、且つ機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れる新規な多孔体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、従来から使用されてきた粘土鉱物に代えて、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸を用い、金属酸化物の層間架橋により20〜40Åの範囲に細孔径分布のピークを有する無機質多孔体を得ることができた。
【0014】
即ち、本発明は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有することを特徴とする無機質多孔体である。
金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、シリカであることが最も好ましい。このシリカは、アルコキシシラン、中でもテトラアルコキシシランの加水分解生成物であることが望ましい。
本発明による無機質多孔体は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属成分を含有しないことが好ましい。
無機質多孔体の比表面積は300〜600m2/gであることが好ましい。また、X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つの回折ピークを有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記無機質多孔体の製造方法であって、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物により架橋させることを特徴とする無機質多孔体の製造方法である。
金属酸化物はシリカであることが好ましく、このシリカはテトラアルコキシシランの加水分解生成物であることが好ましい。
テトラアルコキシシランを使用してシリカのピラーを層間に立てる場合、第四級アンモニウムイオンとして、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウムイオン又は長鎖アルキルアリールジメチルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。この第四級アンモニウムイオンの長鎖アルキル基の炭素数は8〜24であることが好ましい。
なお、本発明における細孔径分布は、測定装置としてCarlo Erba Strumentazione製ソープトマティック1800を用い、Dollimore-Heal法〔J.Appl.Chem.,14,108 〜(1964)〕により算出したものである。本発明における比表面積は、BET多点法を相対圧P/P0=0.05〜0.20範囲で算出したものである。また、本発明におけるX線回折パターン(XRD)は、X線回折装置として理学製RINT2400型を用い、粉末X線回折パターンで低角度域の2θに現出する面間隔dに相当するピークを測定したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゼオライトやメソ多孔体が適用できなかったミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、且つ機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れる新規な多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明による無機質多孔体は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋され、層間に金属酸化物のピラーが立てられているため、機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れるという特徴を有している。この層状珪酸と金属酸化物ピラーとにより形成された細孔は、20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有している。本発明によるこのような無機質多孔体は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に層間架橋剤としての金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物で架橋させることにより得ることができる。
【0018】
(1)マガディアイト及びケニヤアイト
層状珪酸には、カネマイト(NaHSi2O3・3H2O)、KHSi2O5、マカタイト(Na2Si4O9・xH2O)、マガディアイト、ケニヤアイトなどがある。これらのうち本発明においては、製造が容易であることや多層構造のために機械的強度に優れることから、マガディアイト(Magadiite:Na2Si14O29・xH2O)及びケニヤアイト(Kenyaite:Na2Si22O41・xH2O)を用いている。マガディアイト及びケニヤアイトには天然物もあるが、不純物が少ない等の点で合成品が好ましい。合成方法に関しては、J. Ceramic Society of Japan, Vol.100, No. 3, 326−331(1991)に詳細な記載がある。
【0019】
マガティアイトは、例えば、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の懸濁液をオートクレーブ中150℃で48時間処理することにより得られる。また、ケニヤアイトは、例えば、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の懸濁液をオートクレーブ中170℃で48時間処理することにより得られる。NaOHとK2CO3とを用いるとケニヤアイトを合成し易い。
【0020】
上記以外にも合成方法はいくつもあり、合成方法についてはなんら限定はない。合成法によってはナトリウムの代わりにカリウムを使用する。その場合には、合成物の化学式は前記の化学式のNaがKに置き換わったものになる。上記の合成方法で得られるマガディアイトやケニヤアイトは、鱗片状の結晶が花弁状、キャベツ状又はアコーディオン状に集合した球状の形態を有する。ここで言う鱗片状とは、狭義の鱗片状のみならず、板状の形態のものを広く包含する。マガディアイトのSEM像の一例を図1に示す。一枚の板(花弁)の厚さは0.05μm程度であり、面の一辺の大きさが1〜3μmのほぼ方形である。このような板が集合して数ミクロンの凝集粒子になっている。この凝集体は、例えばJ. Ceramic Society of Japan, Vol.100, No. 6, 872−875(1992)に記載されているような化学処理でバラバラにすることができる。また粉砕でも板状にすることができる。
【0021】
上記とは別の合成方法として、例えば、特開2003−531801号公報に記載の合成方法を用いることもできる。この場合には、凝集していない板状の結晶形状のものが得られる。この公報に記載の合成方法では、コロイダルシリカ懸濁液を加熱する工程において、水酸化ナトリウム/シリカのモル比を0.4〜0.5の範囲とし、且つ水/シリカのモル比を5〜39の範囲としている。加熱温度は140〜170℃である。この方法で合成されたマガディアイトのSEM像の一例を図2に示す。このマガディアイトは、図1に示すものと同様に、その結晶が鱗片状(板状)の形態をしている。しかし、図1に示すものと異なり、鱗片状(板状)の結晶は凝集体を形成しておらず、バラバラな状態になっている。
【0022】
X線回折パターンは、マガディアイトがJCPDS#42−1350に、ケニヤアイトがJCPDS#20−1157にそれぞれ登録がある。
【0023】
本発明においては、マガディアイト又はケニヤアイトの何れか一方、或いはこれら両者を用いて無機質多孔体を構成することができる。
【0024】
マガディアイトの構造モデルを図3(a)及び(b)に示した。図3(a)は、マガディアイトの構造モデルをc軸方向から見た図であり、図3(b)は横方向から見た図である。図3(a)及び(b)に示すように、マガディアイトにおいては、上向き及び下向きにそれぞれ2個、合計4個のSiO2四面体の基本ユニットから構成される珪酸の単位シートが3枚重なってひとつのシリケート層を構成し、シリケート層とシリケート層の間に水和したナトリウムイオンが存在する。ケニヤアイトでは、単位シートが4枚重なってひとつのシリケート層を構成し、シリケート層とシリケート層の間に水和したナトリウムイオンが存在する。つまりマガディアイト及びケニヤアイトは、その層状構造がSiO2のユニットのみから構成されている層状珪酸又は層状珪酸塩であり、アルミニウム等の金属元素を含有する合成フッ素雲母等の粘土鉱物の範疇には属しないものである。
【0025】
合成されたままのマガディアイトやケニヤアイトでは、イオン交換可能なイオンは図3におけるナトリウムイオンである。合成時にカリウムが使用されたときには図3におけるナトリウムイオンがカリウムイオンに置き換わる。イオン交換容量は、マガディアイトで1.9mmol/g、ケニヤアイトで1.3mmol/gである。粘土鉱物のモンモリロナイトやシリカアルミナゼオライトのような複数金属酸化物によって構成され、構造中の4価/3価、あるいは3価/2価元素置換によって発生する静電場により対イオンを有する化合物とは異なり、マガディアイトやケニヤアイトでは珪酸層がSiO2の単一構造であるためイオン交換可能なイオンの捕捉力は弱く、他種イオンと交換しやすい。同様に、珪酸層と珪酸層との結合も弱く、交換イオン種の大きさに応じて層間の距離が容易に変わる性質がある。
【0026】
(2)第四級アンモニウム塩
まず、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸のナトリウムイオン(又はカリウム:以下ナトリウムで代表して記載する)と第四級アンモニウムイオンとをイオン交換する。第四級アンモニウムイオンを導入するために用いる第四級アンモニウム塩としては、脂肪族第四級アンモニウム塩がカチオン界面活性剤として市販されており入手しやすく好ましい。第四級アンモニウム塩は、一般式〔RnN(CH3)4-n〕+〔X〕-(式中、Rは長鎖アルキル基又はアリール基、nは1〜3の整数、Xはハロゲン又はOH基を表す)で示される長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウム塩又はアルキルアリールジメチルアンモニウム塩であることが好ましい。第四級アンモニウム塩には、長鎖アルキル基がモノとジのものがあるが、ジアルキルジメチルアンモニウム塩では層間の開きはモノよりも大きくなるが、モノの方が層間の開きが均一になり好ましい。ただし、テトラアルコキシシランを使用してシリカのピラーを層間に立てる場合には、ジアルキルジメチルアンモニウム塩又はアルキルアリールジメチルアンモニウム塩が好ましい。ジアルキルの方が、層状珪酸粒子の疎水性を高めることができ、疎水性のテトラアルコキシシランを粒子表面に引き付けることができる。
【0027】
一般に長鎖アルキル基の炭素数によって層間の間隔を設定することができるのであるが、炭素数8〜24であれば溶解性などの点で扱いやすく好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。界面活性剤は原料の油脂(ヤシ油や牛脂)に対応して、複数の鎖長のアルキルアンモニウム塩の混合物になっている。ヤシ油系は鎖長がそろっていて好ましい。殺菌消毒剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドではステアリル基は炭素数16と18の混合物であり、鎖長が近似した2種なので好ましい。アルキルが炭素数12から24の混合物でアリール基としてベンジル基を有するアルキルアリールジメチルアンモニウムクロライドは一般名が塩化ベンザルコニウムで、殺菌消毒剤として市販されており入手しやすく好ましい。同様に殺菌消毒剤の塩化ベンゼトニウムや塩化セチルピリジニウム等のピリジニウム類も好ましい。第四級アンモニウム塩は塩基度が高く反応性に優れ好ましいが、アミン類も使用することができる。アミン類のうち、長鎖アルキル基を一つ有する一級アミンの塩〔RNH2・X〕(式中、Rは長鎖アルキル基、Xは無機酸、有機酸を表す)が好ましい。市販品としては、例えばヤシアミン酢酸塩、ステアリルアミン酢酸塩、ステアリルアミン塩酸塩などが挙げられる。
【0028】
(3)イオン交換方法
マガディアイトやケニヤアイトの水懸濁液を、ろ過、水洗して、余剰のナトリウムを除去し、再び脱イオン水に分散させ、濃度5〜35重量%の水懸濁液とし、均一に分散するまで充分攪拌を行う。水懸濁液はナトリウムイオンに起因してpH10程度のアルカリ性を示す。
イオン交換条件に特に制限はないが、一般に温度は10〜90℃である。カラム式よりはバッチ式が好ましく、バッチ式の場合、一回ないし複数回で行うことができる。この時の塩濃度は一般に0.01〜1モル/Lの範囲が適当である。
【0029】
イオン交換によって、第四級アンモニウムイオンがマガディアイトやケニヤアイトに導入される。即ち、イオン交換後のマガディアイト及び/又はケニヤアイトにおいては、第四級アンモニウムイオン以外のイオン交換可能なイオンが、ナトリウムイオン、プロトンであることが好ましい。或いは、イオン交換後のマガディアイト及び/又はケニヤアイトにおいては、イオン交換可能なナトリウムイオンの全てが第四級アンモニウムイオンで交換されて第四級アンモニウムイオン及び珪酸のみからなることが最も好ましい。
無機質多孔体の高温下における熱安定性を向上させるためには、無機質多孔体のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、およびアルカリ土類金属の含有量が0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、最も好ましくは0重量%になるように、イオン交換を行なうことが望ましい。
【0030】
イオン交換の終了したマガディアイトやケニヤアイトは、必要によりろ過、水洗した後、室温ないし120℃の温度で乾燥して粉末とする。250℃以上の加熱は構造破壊が起こるため好ましくない。層間架橋剤の添加を連続して行う場合は、ろ過、水洗した後、純水に分散させればよく、乾燥を行う必要はない。
【0031】
第四級アンモニウムイオンが導入された後のマガディアイト及びケニヤアイトの粒子形状は、イオン交換前の粒子形状(図1及び図2参照)から大きく変化し、鱗片状(板状)の結晶が積層した形状になっている。イオン交換後のマガディアイトのSEM像の一例を図4及び図5に示す。図4に示すイオン交換後のマガディアイトは、図1に示すマガディアイトを原料とするものである。図5に示すイオン交換後のマガディアイトは、図2に示すマガディアイトを原料とするものである。図4及び図5に示すSEM像から明らかなように、鱗片状の各結晶は、その面が互いに平行になるように緻密積層されている。また、各結晶同士は強固に固着している。鱗片状(板状)の各結晶どうしの固着は、図5に示すものよりも、図4に示すものの方が強固であるように観察される。強固な固着は乾燥によるものと推定される。乾燥前は粒子の凝集はあっても、ゆるい固着状態となっていると推定される。いずれにしても、図1の形状からこのような粒子形状に変化していることで、本発明による無機質多孔体は、例えば、樹脂、塗料、化粧料への分散性が良好なものとなる。
【0032】
(4)層間架橋剤と層間架橋方法
本発明においては、マガディアイトやケニヤアイトからなる層状珪酸の層間に金属酸化物のピラーを立てて層間架橋を行うわけだが、金属酸化物はその前駆体である正の電価を有する多核水酸化金属イオンの形で層間に浸入するか、或いはイオン交換により、層間の第四級アンモニウムイオンと置き換わる。多核水酸化金属イオンの種類によって、層間の第四級アンモニウムイオンが放出されることなく多核水酸化金属イオンが侵入したり、層間の第四級アンモニウムイオンが多核水酸化金属イオンとイオン交換されているようである。
【0033】
一例を示せば、アルミナ(Al2O3)のピラーを立てるには、前駆体イオンとして多核水酸化アルミニウムイオン[Al13O4(OH)24]7+をイオン交換で導入する。多核水酸化アルミニウムイオンを作製するには、塩基性塩化アルミニウム水溶液(Al2(OH)5Cl・nH2O)を水希釈して加水分解するか、さらに加熱して加水分解する。加水分解では必要に応じて、酸又はアルカリを加えてpHを調節する。酸でpHを低くすると加水分解がゆっくり進行し、均質な重合体を得ることができる。逆にアルカリを加えると加水分解は早くなるが、均質な重合はできにくく、水酸化物の沈殿を生じやすい。この加水分解反応は、通常、室温〜60℃で1〜10日行い、反応時には充分な攪拌を行う。チタニア(TiO2)やジルコニア(ZrO2)のピラーを立てる場合もアルミナと同様に、四塩化チタン水溶液やオキシ塩化ジルコニウム水溶液から多核水酸化チタンイオンや多核水酸化ジルコニウムイオンをそれぞれ作製すればよい。
塩基性塩化アルミニウム水溶液、オキシ塩化ジルコニウム水溶液、四塩化チタン水溶液などは市販品を使用することができる。これらは加水分解して多核水酸化金属イオンを生成させ、イオン交換によって層間に導入する。あるいは、市販のコロイド製品をそのまま用いる。
シリカ(SiO2)については、トリス(アセチルアセトン)珪素錯体(Si(acac)3+)、又は、Ti4+やFe3+を添加して正に帯電したゾル粒子が使用できる。従来技術では「シリカはアニオンであるため、層間には入らない」と考えられていた(非特許文献1の44ページに記載)。しかしながら、本発明においては、シリカ源として特にアルコキシシランを用いることで、アルコキシシランの加水分解性生物からなるシリカピラーが層間を大きく広げることが判明した。このように、層間にシリカのピラーを立てることで、シリカ単一成分からなる無機質多孔体を得ることができる。この無機質多孔体は、従来のシリカ系多孔体では達成できないとされてきた900℃の耐熱性を有する。アルコキシシランを使用する場合、Ti4+やFe3+を添加する必要はないが、添加してもよい。アルコキシシランはアルコールなどの溶媒で希釈して用いてもよく、原液のまま添加してもよい。アルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン又はテトラメトキシシランが好ましい。アルコキシシランは層間の第四級アンモニウムイオンと置き換わるのではなく、第四級アンモニウムイオンの柱と柱の空間に侵入している。イオン交換ではない。この事実は、アルコキシシランの挿入前後の第四級アンモニウムイオンの量を測定して、変化していないことで確認した。
【0034】
層間架橋剤の使用量は、マガディアイト1組成式量に対してSiO2、Al2O3などの金属酸化物として2〜10mol、より好ましくは4〜8mol、更に好ましくは6mol程度である。この反応は、室温〜60℃で1〜24時間行い、反応時には充分な攪拌を行う。
ピラー前駆体を導入したマガディアイトやケニヤアイトは、必要によりろ過、水洗した後、室温ないし120℃の温度で乾燥して粉末とする。必要により粉砕を行う。
ピラー前駆体を含有する複合体粉末から第四級アンモニウムイオンを除去するために焼成処理して、本発明の無機質多孔体を得る。焼成温度は第四級アンモニウムイオンが消失する温度以上、概ね500℃以上の温度域である。より高い温度での焼成はシリカの構造を安定させて機械的強度を向上させるために有効であるが、900℃を越える温度域になると最早構造の安定化に寄与しなくなる。焼成時間は処理温度との関係で適宜に設定されるが、概ね10分から10時間程度である。したがって、焼成温度600〜700℃、焼成時間5時間以内が好適な焼成条件となる。焼成後必要により粉砕を行う。また、多核水酸化金属イオンを導入した後焼成を行う場合、金属酸化物にするよりやや低めの温度で焼成し、多核水酸化金属イオンが水酸基を残すことで触媒活性の強い多孔体を得る方法も好ましい。そのための焼成温度は400〜600℃であり、第四級アンモニウムイオンの分解残渣として炭素が残留するが細孔の形成はできる。
【0035】
このようにして得られる無機質多孔体のBET法により測定した比表面積は、好ましくは300〜600m2/gであり、更に好ましくは400〜600m2/gである。比表面積が300〜600m2/gの範囲であれば、多孔質体は吸着剤としての用途では充分な性能が得られるため好ましい。無機質多孔体は、X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つのピークを有することが好ましい。このピークの数値はシリケート層の面間隔を表しているため、この数値よりシリケート層の厚さを減じることにより、層間空間の高さ方向の距離を算出することができ、細孔の形状を特定することができる。そのため、上記のような狭い数値範囲に少なくとも1つのピークを有するということは、結晶形がそろって均一な細孔径を有する無機質多孔体であると言える。
【0036】
多核水酸化金属イオンを導入して金属酸化物のピラーとした無機質多孔体は、分子篩の用途はもとより、強い触媒活性が期待されることから、触媒担体、触媒、クロマト担体、脱臭剤、脱色剤等の用途分野に用いられる。更に気体や液体の分離膜、排ガス等の触媒担体、蛋白質の分離、固定化酵素担体、イオン選択性電極等の用途分野で高温耐久性や巨大分子分離能の高い素材として優れた機能を発揮する。
シリカをピラーとした無機質多孔体は、シリカ単一成分であることと、触媒活性が低いこと、より高温での耐久性が得られることにより、上記の用途のほか食品、化粧品、医療品、電子材料、自動車材料などの用途が期待される。また、触媒活性が低いことは、選択的触媒に好適であって、広い分野で利用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。実施例中の各測定値はそれぞれ次の方法によって求めた。
(a)組成分析:
ナトリウム等の成分分析はICP(Varian製LIBERTYII型)によって定量した。第四級アンモニウムイオンは、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−5000A)により炭素量を測定し、分子量に換算して定量した。
(b)粒子の形状:
SEM(日立製作所製S−4500型)により観察した。
(c)X線回折パターン(XRD):
X線回折装置(理学製RINT2400型)を用いた。粉末X線回折パターンで低角度域の2θに現出する面間隔dに相当するピークを測定した。
(d)水分測定
TG/DTA(熱重量示差熱分析;セイコーインスツルメンス製のTG/DTA6300型)を用いて、昇温速度10℃/minで40〜800℃の重量変化を測定し、170℃までの重量減を水分量とした。
(e)比表面積簡易測定
30%窒素−ヘリウム混合ガスを用いたBET1点法で島津製作所製フローソーブII2300により測定した。
(f)細孔径分布測定
多孔体のポア組織の平均細孔径、細孔径分布及び比表面積などの値は公知のBET法による窒素吸着等温線から求めたものであり、このうち平均細孔径は全細孔容積と比表面積とから円筒モデルにより算出し、細孔径分布はDollimore-Heal法〔J.Appl.Chem., 14,108〜(1964)〕(以下「DH法」と記す。)を用いて算出し、比表面積はBET多点法を相対圧P/P0=0.05〜0.20範囲で算出したものである。測定装置には、Carlo Erba Strumentazione製ソープトマティック1800を用いた。
【0038】
(マガディアイトの合成)
まず、J. Ceramic Society of Japan Vol.100, No.3, 326-331(1992)に記載の方法に従い、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の原料組成でマガディアイトを合成した。すなわち、SiO2が30重量%のコロイダルシリカ(日本化学工業(株)製品シリカドール30)200重量部と、試薬のNaOH9.2重量部、水193重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で48時間の水熱合成を行った。合成後、固形物を濾過水洗し、120℃で乾燥し、マガディアイト(Na2Si14O29・xH2O)を得た。SEM像は、図1に示すように、板厚0.05μmで一辺が3μmの方形面をした板状結晶が、花弁状に集合した球状の結晶であった。粒子径は7.0μm、Na2Oは5.8重量%、170℃までの加熱減量は13重量%であった。XRDはJCPDS#42−1350に一致し、面間隔d001は15.6Åであった。面間隔d001の15.6Åからシリケート層の厚さ12.8Å(粘土科学、第36巻、第1号、22〜34(1996)に記載の値)を減じると、層間の間隔は2.8Åであり、利用できる空間はない。また、簡易測定法での比表面積は23m2/gと小さく、多孔体ではない。このマガディアイトの低角度及び高角度のXRD回折パターンを図6(a)及び(b)に示した。
【0039】
〔実施例1〕
(1)マガディアイトのベンザルコニウムイオン交換(サンプルAの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ベンザルコニウム(関東化学株式会社製、[RN(CH3)2CH2C6H5]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ベンザルコニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.9重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の32.9Åの大きなピークと、そのd002が16.5Åに現れており、マガディアイトの層間にベンザルコニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ベンザルコニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。この粉末は嵩高いフワフワした粉末で、水には撥水性を示した。ここで得た粉末をサンプルAとする。
【0040】
(2)サンプルAを用いた無機質多孔体の調製
300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。サンプルAは撥水性で、水になじまず、いわゆるダマになって分散した。次いで15gのテトラエトキシシラン(以下、TEOSと記載する。)を加えた。TEOSは水には溶解しないため、添加当初は水面上部に油層のように浮いたまま攪拌された。攪拌の継続によりTEOSは水面からダマになった粉末の方に移動し、水面のTEOSはなくなった。更に攪拌を続けると、徐々にダマは小さくなり、最終的にはダマのない、粉末の分散良好な懸濁液となった。この反応は室温で行い、終了までには8時間を要した。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の35.5Åの大きくブロードなピークと、12.9Åのピークが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の35.5Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は22.7Åである。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図7に示した。図7よりシリカ架橋多孔体は13Åから30Åの細孔幅を有し21.2Åに細孔分布のピークを有する。この値はXRDから算出した22.7Åとよく一致している。同時に算出される比表面積は448m2/gとなった。簡易測定法では349m2/gであった。また、電気炉中で900℃1時間の耐熱試験を行った後の比表面積は、簡易測定法では363m2/gであり、まったく低下がなく良好な耐熱性を示した。また、実施例1で得られた無機質多孔体の組成は、使用した薬品のマテリアルバランスより、(架橋SiO2)7・Si14O29であると算出した。
【0041】
〔実施例2〕
実施例1のTEOSに代えて、塩基性塩化アルミニウム水溶液(Al2(OH)5Cl・nH2O、多木化学株式会社製タキバイン#1500、Al2O3=23.5%)を用いた。300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。次いで25.7gの塩基性塩化アルミニウム水溶液を加えた。この反応は室温で24時間行い、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の35.3Åの大きくブロードなピークと、11.5Åに現れており、マガディアイトの層間にアルミナが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の35.3Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は22.5Åである。比表面積は簡易測定法で58m2/gであった。また、実施例2で得られた無機質多孔体の組成は、化学分析より、(架橋Al2O3)6・Si14O29であることを確認した。
【0042】
〔実施例3〕
実施例1のTEOSに代えて、ジルコニアゾル(第一希元素化学株式会社販売ZSL−10A、ZrO2=10%)を用いた。300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。次いで72.9gのジルコニアゾル水分散液を加えた。この反応は室温で18時間行い、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の46.2Åの大きくブロードなピークと、12.0Åのピークが現れており、マガディアイトの層間にジルコニアが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の46.2Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は33.4Åである。比表面積は簡易測定法で80.5m2/gであった。また、実施例3で得られた無機質多孔体の組成は、化学分析より、(架橋ZrO2)6・Si14O29であることを確認した。
【0043】
〔比較例1〕
サンプルAに代えて、ベンザルコニウムを含有しない、Naを交換性イオンとする合成したままのマガティアイトを用いて、実施例1〜3と同じ操作を行った。得られた粉末はいずれも、XRDによる面間隔の拡大は認められず、合成したままのマガティアイトと同じ面間隔を示した。
【0044】
〔比較例2〕
市販のイオン交換性フッ素雲母(コープケミカル株式会社製ソマシフME100、比表面積9m2/g)100gをNa量の1.0倍当量の塩化ベンザルコニウム(関東化学株式会社製、[RN(CH3)2CH2C6H5]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。得られた粉末はベンザルコニウムを25重量%含有していた。
300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gの上記で得られた粉末を入れた。次いで、ベンザルコニウムの3倍当量に相当する7.44gのTEOSを加えた。室温で8時間攪拌を継続し、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成した。焼成粉末は黒色であり、カーボン除去のため焼成温度を800℃に変えて焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。この粉末はわずかにカーボンが残っているため灰色を呈していた。XRDではd001の33.4Åの大きくブロードなピークが現れており、フッ素雲母の層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の33.4Åからスメクタイト層の厚さ9.4Åを減じると、層間の間隔は24.0Åである。しかしながら、簡易測定法での比表面積は28m2/gであり、スメクタイトのシートが変形したと推定される。また、電気炉中で900℃1時間の耐熱試験を行った後の比表面積は、簡易測定法では9m2/gであり、耐熱性に乏しいことが分かった。また、耐熱試験を行った後のXRDではエンスタタイト(MgSiO3)の結晶が確認された。
【0045】
〔実施例4〕
(1)マガディアイトのステアリルトリメチルアンモニウムイオン交換(サンプルBの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.6倍当量の塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカードT−800、[RN(CH3)3]Cl、RはC16とC18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとステアリルトリメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.6倍当量の塩化ステアリルトリメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとステアリルトリメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.9重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の32.6Åの大きなピークと、そのd002が16.6Åに現れており、マガディアイトの層間にステアリルトリメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ステアリルトリメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルBとする。
(2)サンプルBを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルBを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルBに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルBのd001の32.6Åはなくなり、新たなd001の37.6Åにピークを有する大きくブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の37.6Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は24.8Åである。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図8に示した。図8よりシリカ架橋多孔体は20Åから40Åの細孔幅を有し27.4Åに細孔分布のピークを有する。この値はXRDから算出した24.8Åとほぼ一致している。同時に算出される比表面積は182m2/gとなった。簡易測定法では177m2/gであった。この無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンを図9(a)及び(b)に示した。
【0046】
〔実施例5〕
(1)マガディアイトのジステアリルジメチルアンモニウムイオン交換(サンプルCの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ジステアリルジメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカード2HT−75、[R2N(CH3)2]Cl、RはC14〜C15)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジステアリルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジステアリルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.3重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の45.2Åの大きなピークと、そのd002が23.7Åに、d003が16.0Åに現れており、マガディアイトの層間にジステアリルジメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ジステアリルジメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルCとする。
(2)サンプルCを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルCを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルCに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。XRDでは、サンプルCのd001の45.2Åはなくなり、新たなd001の39.3Åにピークを有し、23.2Åにショルダーを有する大きくブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の39.3Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は26.5Åである。同時に算出される比表面積は537m2/gとなった。比表面積は簡易測定法では499m2/gであった。
【0047】
〔実施例6〕
(1)マガディアイトのジヤシアルキルジメチルアンモニウムイオン交換(サンプルDの作製)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ジヤシアルキルジメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカード2C−75、[R2N(CH3)2]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジヤシアルキルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ジヤシアルキルジメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジヤシアルキルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.4重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の38.4Åの大きなピークと、そのd002が19.9Åに、d003が13.4Åに現れており、マガディアイトの層間にジヤシアルキルジメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ジヤシアルキルジメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルDとする。
(2)サンプルDを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルDを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルDに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。XRDでは、サンプルDのd001の38.4Åはなくなり、新たなd001の34.5Åにピークを有するブロードな回折パターン現れており、また、13.1Åにもより小さなブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の34.5Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は21.7Åである。同時に算出される比表面積は423m2/gとなった。比表面積は簡易測定法では386m2/gであった。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図10に示した。図10よりシリカ架橋多孔体は20Åから40Åの細孔幅を有し22.9Åに細孔分布のピークを有する。この無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンを図11に示した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】マガディアイトのSEM像である。
【図2】マガディアイトのSEM像である。
【図3】マガディアイトの構造モデルを示す図である。
【図4】イオン交換後のマガディアイトのSEM像である。
【図5】イオン交換後のマガディアイトのSEM像である。
【図6】実施例1で用いたマガディアイトの低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【図7】実施例1で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図8】実施例4で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図9】実施例4で得られた無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【図10】実施例6で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図11】実施例6で得られた無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、狭い細孔径分布を持った無機質多孔体及びその製造方法に関し、高分子量の分子や嵩高い分子を対象とする触媒、吸着体に用い得る耐熱性の優れた吸着、触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライトに代表される結晶性多孔体は、その多孔体の細孔表面の物理的、化学的特性に応じて、触媒やイオン交換体等として幅広い工業分野で利用されている。しかし、このような結晶性多孔体の場合、その細孔径が3〜10Åの均一構造を持つことから、低分子量の化合物等の高選択的触媒反応に対しては優れた機能を発揮するが、より大きい分子に適応させるためZSM−5やY型ゼオライトの改質が行われてきた。
【0003】
一方、シリカ源と界面活性剤で合成するメソポーラスシリカ等のメソ多孔体の開発が盛んに行われてきた。カチオン性界面活性剤の分子集合体を鋳型として用い、メソ多孔を有する六角柱状の多孔体(ハニカム多孔体)を製造する方法が提案されており、シリカ源の種類に応じた次の二方法が知られている。第一の方法は、層状珪酸塩を出発シリカ源とするもので、例えば、層状の珪酸塩の一つであるカネマイト(NaHSi2O5・3H2O)とアルキルトリメチルアンモニウム(以下「ATMA」と記す。)の複合体を合成し、これを焼成して有機物を除去することにより比表面積が1000m2/g以上のメソポーラスシリカ多孔体を得る方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法では、カネマイトは珪酸の単位シートがATMAを取り囲むように波板のように湾曲し、複数の波板の頂点同士が結合して多孔体の前駆体が形成される。第二の方法は、アモルファスシリカ粉末やアルカリシリケート水溶液を出発シリカ源とするもので、例えば、沈降性シリカとテトラメチルアンモニウムシリケート水溶液の混合物をATMAと150℃で反応させて非層状の複合体を得る方法が提案されている(特許文献2を参照)。この方法では、珪酸層はATMAのミセルの表面で多孔体前駆体の重縮合が進行することによって規則的構造が形成され、有機物を除去することにより多孔体を得る。
【0004】
また、結晶性層状珪酸の間に珪酸の脱水縮合によるSiO2の層間架橋を形成し、更に珪素と異なる金属原子を結合させた多孔体が提案されている(特許文献3を参照)。
【0005】
一方、結晶性多孔体の細孔構造をコントロールするために、粘土鉱物等の層状化合物の層間を架橋させた(層間に支柱を立てた)ピラードクレイのようなピラー化合物が数多く提案されている(非特許文献1を参照)。このようなピラー化合物は、有機カチオン、多核無機カチオン等を支柱前駆体として層間に導入し、層と層との間を架橋することによって、細孔と同じような空間を形成するものであり、種々の反応条件をコントロールすることによって、細孔径が40Å程度までのものが得られるに至っている。
【0006】
また、層状ポリ珪酸塩の酸処理生成物に液状のポリアミンとテトラアルコキシシランを用いてシリカ柱を立てた多孔体が提案されている(特許文献4を参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平6−24867号公報
【特許文献2】特表平5−503499号公報
【特許文献3】特開平4−238810号公報
【特許文献4】特開平9−2813号公報
【非特許文献1】化学総説,p.39〜47,No.21,1994,日本化学会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ゼオライトに代表される結晶性多孔体は、ZSM−5やY型ゼオライトの改質が行われてきたが、10Å程度の域を超えることはできず、嵩高い分子構造を有する化合物等に対する触媒や吸着剤としては利用できないという問題点があった。
特許文献1に記載のシリカ多孔体は、カネマイトをシリカ源とする方法で、カネマイトは1枚の珪酸シートで構成される層状珪酸であって、薄い珪酸シートであるため単位シートがATMAを取り囲むように波板のように湾曲し、複数の波板の頂点同士が結合して多孔体の前駆体が形成されている。そのため多孔体の構造強度が低く、樹脂への練りこみや粉砕のような機械的衝撃により簡単に構造破壊を起こすという欠点がある。同様に、熱衝撃にも弱く、構造破壊を起こしやすいという課題がある。
特許文献2に記載の多孔体は、珪酸層はATMAのミセルの表面で重縮合するのであるが、層は1層の厚さしかなく、やはり機械的強度が低く、熱衝撃にも弱いという課題がある。
特許文献3は、結晶性層状珪酸ナトリウムとして3層構造のマガディアイトや4層構造のケニヤアイトを例示しているものの、特許文献3に記載の多孔体におけるSiO2の層間架橋は、層が折れ曲がって層自体が有する水酸基同士が脱水縮合して形成されるものであるため、実際のところはカネマイトのような1層構造の層状珪酸ナトリウムにしか形成させることができない。そして、カネマイトを用いて得られる特許文献3に記載の多孔体は、上記の特許文献1と同様に、機械的強度が低く、熱衝撃にも弱いという課題がある。
非特許文献1には、層状化合物の層間架橋により、その細孔径が40Åのピラー化合物が得られたことが記載されているが、これまでに検討されているピラー化合物には、モンモリロナイトやヘクトライトのような粘土鉱物が使用されてきているため、気体分子の吸着量等は向上するが、500℃程度で結晶構造が変化するなど、高温耐熱性が乏しく上記触媒用には適用できなという課題がある。
特許文献4に記載の多孔体は、その実施例から明らかなように、1gのマガディアイトに対して28mlのアルキルアミンと50mlのテトラエトキシシランを使用するという途方もない製法であり、その上、得られる多孔体も細孔径11Å程度であって、ゼオライトの細孔の域を超えていないという課題がある。
非特許文献1には多くの事例が紹介されており、層状珪酸塩の層間架橋により、その細孔径が40Åの多孔体が得られたことが記載されているが、これまでに検討されているピラー化合物には、モンモリロナイトやヘクトライトのような粘土鉱物が使用されてきているため、気体分子の吸着量等は向上するが、500℃程度で結晶構造が変化するなど、高温耐熱性が乏しく上記触媒用には適用できなという課題がある。
【0009】
ところで、ホストである層状結晶の層間に、原子、分子、イオンなどのゲストを挿入することは、インターカーレションの技術として良く知られている。ホストとゲストの種類の組み合わせが多様なことから、層間化合物には極めて多種類の物質が知られている。珪酸塩もその一つであり、モンモリロナイトやカオリナイトのような多元素で形成される層状粘土鉱物、マガディアイトやケニヤアイトのようなSiO2のユニットだけで形成される層状珪酸又は層状珪酸塩などが知られている。
【0010】
前記の層状化合物は、ゲスト種のインターカーレションによって物性の変化や制御が期待でき、新しい機能発現の可能性を有しており、注目を集めている。特に、マガディアイトやケニヤアイトのような層状珪酸又は層状珪酸塩は、その構造がSiO2のユニットだけで構成されており、また層表面にシラノール基(≡Si−O−H)が存在する。これらの点において層状珪酸又は層状珪酸塩は層状粘土鉱物とは異なり、本発明者らは以前から注目してきた。本発明者らは、例えば、特開2000−128521号公報において、マガディアイトやケニヤアイトに第四級アンモニウムイオンをイオン交換させて層間を広げ、広げた層間にシラン化合物を結合させて、アルコール選択吸着性を有する層状珪酸を提案している。
【0011】
このように、層状化合物に第四級アンモニウムイオンをイオン交換させて層間を広げ、広げた層間に原子、分子、イオンを導入する方法は広く知られているが、マガディアイトやケニヤアイトの層間に金属酸化物のピラーを立てて、20〜40Åの細孔を形成したという実例はない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゼオライトやメソ多孔体が適用できなかったミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、且つ機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れる新規な多孔体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、従来から使用されてきた粘土鉱物に代えて、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸を用い、金属酸化物の層間架橋により20〜40Åの範囲に細孔径分布のピークを有する無機質多孔体を得ることができた。
【0014】
即ち、本発明は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有することを特徴とする無機質多孔体である。
金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、シリカであることが最も好ましい。このシリカは、アルコキシシラン、中でもテトラアルコキシシランの加水分解生成物であることが望ましい。
本発明による無機質多孔体は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属成分を含有しないことが好ましい。
無機質多孔体の比表面積は300〜600m2/gであることが好ましい。また、X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つの回折ピークを有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記無機質多孔体の製造方法であって、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物により架橋させることを特徴とする無機質多孔体の製造方法である。
金属酸化物はシリカであることが好ましく、このシリカはテトラアルコキシシランの加水分解生成物であることが好ましい。
テトラアルコキシシランを使用してシリカのピラーを層間に立てる場合、第四級アンモニウムイオンとして、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウムイオン又は長鎖アルキルアリールジメチルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。この第四級アンモニウムイオンの長鎖アルキル基の炭素数は8〜24であることが好ましい。
なお、本発明における細孔径分布は、測定装置としてCarlo Erba Strumentazione製ソープトマティック1800を用い、Dollimore-Heal法〔J.Appl.Chem.,14,108 〜(1964)〕により算出したものである。本発明における比表面積は、BET多点法を相対圧P/P0=0.05〜0.20範囲で算出したものである。また、本発明におけるX線回折パターン(XRD)は、X線回折装置として理学製RINT2400型を用い、粉末X線回折パターンで低角度域の2θに現出する面間隔dに相当するピークを測定したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゼオライトやメソ多孔体が適用できなかったミクロ細孔とメソ細孔の中間の細孔径を有し、且つ機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れる新規な多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明による無機質多孔体は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋され、層間に金属酸化物のピラーが立てられているため、機械的強度が高く、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れるという特徴を有している。この層状珪酸と金属酸化物ピラーとにより形成された細孔は、20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有している。本発明によるこのような無機質多孔体は、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に層間架橋剤としての金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物で架橋させることにより得ることができる。
【0018】
(1)マガディアイト及びケニヤアイト
層状珪酸には、カネマイト(NaHSi2O3・3H2O)、KHSi2O5、マカタイト(Na2Si4O9・xH2O)、マガディアイト、ケニヤアイトなどがある。これらのうち本発明においては、製造が容易であることや多層構造のために機械的強度に優れることから、マガディアイト(Magadiite:Na2Si14O29・xH2O)及びケニヤアイト(Kenyaite:Na2Si22O41・xH2O)を用いている。マガディアイト及びケニヤアイトには天然物もあるが、不純物が少ない等の点で合成品が好ましい。合成方法に関しては、J. Ceramic Society of Japan, Vol.100, No. 3, 326−331(1991)に詳細な記載がある。
【0019】
マガティアイトは、例えば、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の懸濁液をオートクレーブ中150℃で48時間処理することにより得られる。また、ケニヤアイトは、例えば、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の懸濁液をオートクレーブ中170℃で48時間処理することにより得られる。NaOHとK2CO3とを用いるとケニヤアイトを合成し易い。
【0020】
上記以外にも合成方法はいくつもあり、合成方法についてはなんら限定はない。合成法によってはナトリウムの代わりにカリウムを使用する。その場合には、合成物の化学式は前記の化学式のNaがKに置き換わったものになる。上記の合成方法で得られるマガディアイトやケニヤアイトは、鱗片状の結晶が花弁状、キャベツ状又はアコーディオン状に集合した球状の形態を有する。ここで言う鱗片状とは、狭義の鱗片状のみならず、板状の形態のものを広く包含する。マガディアイトのSEM像の一例を図1に示す。一枚の板(花弁)の厚さは0.05μm程度であり、面の一辺の大きさが1〜3μmのほぼ方形である。このような板が集合して数ミクロンの凝集粒子になっている。この凝集体は、例えばJ. Ceramic Society of Japan, Vol.100, No. 6, 872−875(1992)に記載されているような化学処理でバラバラにすることができる。また粉砕でも板状にすることができる。
【0021】
上記とは別の合成方法として、例えば、特開2003−531801号公報に記載の合成方法を用いることもできる。この場合には、凝集していない板状の結晶形状のものが得られる。この公報に記載の合成方法では、コロイダルシリカ懸濁液を加熱する工程において、水酸化ナトリウム/シリカのモル比を0.4〜0.5の範囲とし、且つ水/シリカのモル比を5〜39の範囲としている。加熱温度は140〜170℃である。この方法で合成されたマガディアイトのSEM像の一例を図2に示す。このマガディアイトは、図1に示すものと同様に、その結晶が鱗片状(板状)の形態をしている。しかし、図1に示すものと異なり、鱗片状(板状)の結晶は凝集体を形成しておらず、バラバラな状態になっている。
【0022】
X線回折パターンは、マガディアイトがJCPDS#42−1350に、ケニヤアイトがJCPDS#20−1157にそれぞれ登録がある。
【0023】
本発明においては、マガディアイト又はケニヤアイトの何れか一方、或いはこれら両者を用いて無機質多孔体を構成することができる。
【0024】
マガディアイトの構造モデルを図3(a)及び(b)に示した。図3(a)は、マガディアイトの構造モデルをc軸方向から見た図であり、図3(b)は横方向から見た図である。図3(a)及び(b)に示すように、マガディアイトにおいては、上向き及び下向きにそれぞれ2個、合計4個のSiO2四面体の基本ユニットから構成される珪酸の単位シートが3枚重なってひとつのシリケート層を構成し、シリケート層とシリケート層の間に水和したナトリウムイオンが存在する。ケニヤアイトでは、単位シートが4枚重なってひとつのシリケート層を構成し、シリケート層とシリケート層の間に水和したナトリウムイオンが存在する。つまりマガディアイト及びケニヤアイトは、その層状構造がSiO2のユニットのみから構成されている層状珪酸又は層状珪酸塩であり、アルミニウム等の金属元素を含有する合成フッ素雲母等の粘土鉱物の範疇には属しないものである。
【0025】
合成されたままのマガディアイトやケニヤアイトでは、イオン交換可能なイオンは図3におけるナトリウムイオンである。合成時にカリウムが使用されたときには図3におけるナトリウムイオンがカリウムイオンに置き換わる。イオン交換容量は、マガディアイトで1.9mmol/g、ケニヤアイトで1.3mmol/gである。粘土鉱物のモンモリロナイトやシリカアルミナゼオライトのような複数金属酸化物によって構成され、構造中の4価/3価、あるいは3価/2価元素置換によって発生する静電場により対イオンを有する化合物とは異なり、マガディアイトやケニヤアイトでは珪酸層がSiO2の単一構造であるためイオン交換可能なイオンの捕捉力は弱く、他種イオンと交換しやすい。同様に、珪酸層と珪酸層との結合も弱く、交換イオン種の大きさに応じて層間の距離が容易に変わる性質がある。
【0026】
(2)第四級アンモニウム塩
まず、マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸のナトリウムイオン(又はカリウム:以下ナトリウムで代表して記載する)と第四級アンモニウムイオンとをイオン交換する。第四級アンモニウムイオンを導入するために用いる第四級アンモニウム塩としては、脂肪族第四級アンモニウム塩がカチオン界面活性剤として市販されており入手しやすく好ましい。第四級アンモニウム塩は、一般式〔RnN(CH3)4-n〕+〔X〕-(式中、Rは長鎖アルキル基又はアリール基、nは1〜3の整数、Xはハロゲン又はOH基を表す)で示される長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウム塩又はアルキルアリールジメチルアンモニウム塩であることが好ましい。第四級アンモニウム塩には、長鎖アルキル基がモノとジのものがあるが、ジアルキルジメチルアンモニウム塩では層間の開きはモノよりも大きくなるが、モノの方が層間の開きが均一になり好ましい。ただし、テトラアルコキシシランを使用してシリカのピラーを層間に立てる場合には、ジアルキルジメチルアンモニウム塩又はアルキルアリールジメチルアンモニウム塩が好ましい。ジアルキルの方が、層状珪酸粒子の疎水性を高めることができ、疎水性のテトラアルコキシシランを粒子表面に引き付けることができる。
【0027】
一般に長鎖アルキル基の炭素数によって層間の間隔を設定することができるのであるが、炭素数8〜24であれば溶解性などの点で扱いやすく好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。界面活性剤は原料の油脂(ヤシ油や牛脂)に対応して、複数の鎖長のアルキルアンモニウム塩の混合物になっている。ヤシ油系は鎖長がそろっていて好ましい。殺菌消毒剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドではステアリル基は炭素数16と18の混合物であり、鎖長が近似した2種なので好ましい。アルキルが炭素数12から24の混合物でアリール基としてベンジル基を有するアルキルアリールジメチルアンモニウムクロライドは一般名が塩化ベンザルコニウムで、殺菌消毒剤として市販されており入手しやすく好ましい。同様に殺菌消毒剤の塩化ベンゼトニウムや塩化セチルピリジニウム等のピリジニウム類も好ましい。第四級アンモニウム塩は塩基度が高く反応性に優れ好ましいが、アミン類も使用することができる。アミン類のうち、長鎖アルキル基を一つ有する一級アミンの塩〔RNH2・X〕(式中、Rは長鎖アルキル基、Xは無機酸、有機酸を表す)が好ましい。市販品としては、例えばヤシアミン酢酸塩、ステアリルアミン酢酸塩、ステアリルアミン塩酸塩などが挙げられる。
【0028】
(3)イオン交換方法
マガディアイトやケニヤアイトの水懸濁液を、ろ過、水洗して、余剰のナトリウムを除去し、再び脱イオン水に分散させ、濃度5〜35重量%の水懸濁液とし、均一に分散するまで充分攪拌を行う。水懸濁液はナトリウムイオンに起因してpH10程度のアルカリ性を示す。
イオン交換条件に特に制限はないが、一般に温度は10〜90℃である。カラム式よりはバッチ式が好ましく、バッチ式の場合、一回ないし複数回で行うことができる。この時の塩濃度は一般に0.01〜1モル/Lの範囲が適当である。
【0029】
イオン交換によって、第四級アンモニウムイオンがマガディアイトやケニヤアイトに導入される。即ち、イオン交換後のマガディアイト及び/又はケニヤアイトにおいては、第四級アンモニウムイオン以外のイオン交換可能なイオンが、ナトリウムイオン、プロトンであることが好ましい。或いは、イオン交換後のマガディアイト及び/又はケニヤアイトにおいては、イオン交換可能なナトリウムイオンの全てが第四級アンモニウムイオンで交換されて第四級アンモニウムイオン及び珪酸のみからなることが最も好ましい。
無機質多孔体の高温下における熱安定性を向上させるためには、無機質多孔体のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、およびアルカリ土類金属の含有量が0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、最も好ましくは0重量%になるように、イオン交換を行なうことが望ましい。
【0030】
イオン交換の終了したマガディアイトやケニヤアイトは、必要によりろ過、水洗した後、室温ないし120℃の温度で乾燥して粉末とする。250℃以上の加熱は構造破壊が起こるため好ましくない。層間架橋剤の添加を連続して行う場合は、ろ過、水洗した後、純水に分散させればよく、乾燥を行う必要はない。
【0031】
第四級アンモニウムイオンが導入された後のマガディアイト及びケニヤアイトの粒子形状は、イオン交換前の粒子形状(図1及び図2参照)から大きく変化し、鱗片状(板状)の結晶が積層した形状になっている。イオン交換後のマガディアイトのSEM像の一例を図4及び図5に示す。図4に示すイオン交換後のマガディアイトは、図1に示すマガディアイトを原料とするものである。図5に示すイオン交換後のマガディアイトは、図2に示すマガディアイトを原料とするものである。図4及び図5に示すSEM像から明らかなように、鱗片状の各結晶は、その面が互いに平行になるように緻密積層されている。また、各結晶同士は強固に固着している。鱗片状(板状)の各結晶どうしの固着は、図5に示すものよりも、図4に示すものの方が強固であるように観察される。強固な固着は乾燥によるものと推定される。乾燥前は粒子の凝集はあっても、ゆるい固着状態となっていると推定される。いずれにしても、図1の形状からこのような粒子形状に変化していることで、本発明による無機質多孔体は、例えば、樹脂、塗料、化粧料への分散性が良好なものとなる。
【0032】
(4)層間架橋剤と層間架橋方法
本発明においては、マガディアイトやケニヤアイトからなる層状珪酸の層間に金属酸化物のピラーを立てて層間架橋を行うわけだが、金属酸化物はその前駆体である正の電価を有する多核水酸化金属イオンの形で層間に浸入するか、或いはイオン交換により、層間の第四級アンモニウムイオンと置き換わる。多核水酸化金属イオンの種類によって、層間の第四級アンモニウムイオンが放出されることなく多核水酸化金属イオンが侵入したり、層間の第四級アンモニウムイオンが多核水酸化金属イオンとイオン交換されているようである。
【0033】
一例を示せば、アルミナ(Al2O3)のピラーを立てるには、前駆体イオンとして多核水酸化アルミニウムイオン[Al13O4(OH)24]7+をイオン交換で導入する。多核水酸化アルミニウムイオンを作製するには、塩基性塩化アルミニウム水溶液(Al2(OH)5Cl・nH2O)を水希釈して加水分解するか、さらに加熱して加水分解する。加水分解では必要に応じて、酸又はアルカリを加えてpHを調節する。酸でpHを低くすると加水分解がゆっくり進行し、均質な重合体を得ることができる。逆にアルカリを加えると加水分解は早くなるが、均質な重合はできにくく、水酸化物の沈殿を生じやすい。この加水分解反応は、通常、室温〜60℃で1〜10日行い、反応時には充分な攪拌を行う。チタニア(TiO2)やジルコニア(ZrO2)のピラーを立てる場合もアルミナと同様に、四塩化チタン水溶液やオキシ塩化ジルコニウム水溶液から多核水酸化チタンイオンや多核水酸化ジルコニウムイオンをそれぞれ作製すればよい。
塩基性塩化アルミニウム水溶液、オキシ塩化ジルコニウム水溶液、四塩化チタン水溶液などは市販品を使用することができる。これらは加水分解して多核水酸化金属イオンを生成させ、イオン交換によって層間に導入する。あるいは、市販のコロイド製品をそのまま用いる。
シリカ(SiO2)については、トリス(アセチルアセトン)珪素錯体(Si(acac)3+)、又は、Ti4+やFe3+を添加して正に帯電したゾル粒子が使用できる。従来技術では「シリカはアニオンであるため、層間には入らない」と考えられていた(非特許文献1の44ページに記載)。しかしながら、本発明においては、シリカ源として特にアルコキシシランを用いることで、アルコキシシランの加水分解性生物からなるシリカピラーが層間を大きく広げることが判明した。このように、層間にシリカのピラーを立てることで、シリカ単一成分からなる無機質多孔体を得ることができる。この無機質多孔体は、従来のシリカ系多孔体では達成できないとされてきた900℃の耐熱性を有する。アルコキシシランを使用する場合、Ti4+やFe3+を添加する必要はないが、添加してもよい。アルコキシシランはアルコールなどの溶媒で希釈して用いてもよく、原液のまま添加してもよい。アルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン又はテトラメトキシシランが好ましい。アルコキシシランは層間の第四級アンモニウムイオンと置き換わるのではなく、第四級アンモニウムイオンの柱と柱の空間に侵入している。イオン交換ではない。この事実は、アルコキシシランの挿入前後の第四級アンモニウムイオンの量を測定して、変化していないことで確認した。
【0034】
層間架橋剤の使用量は、マガディアイト1組成式量に対してSiO2、Al2O3などの金属酸化物として2〜10mol、より好ましくは4〜8mol、更に好ましくは6mol程度である。この反応は、室温〜60℃で1〜24時間行い、反応時には充分な攪拌を行う。
ピラー前駆体を導入したマガディアイトやケニヤアイトは、必要によりろ過、水洗した後、室温ないし120℃の温度で乾燥して粉末とする。必要により粉砕を行う。
ピラー前駆体を含有する複合体粉末から第四級アンモニウムイオンを除去するために焼成処理して、本発明の無機質多孔体を得る。焼成温度は第四級アンモニウムイオンが消失する温度以上、概ね500℃以上の温度域である。より高い温度での焼成はシリカの構造を安定させて機械的強度を向上させるために有効であるが、900℃を越える温度域になると最早構造の安定化に寄与しなくなる。焼成時間は処理温度との関係で適宜に設定されるが、概ね10分から10時間程度である。したがって、焼成温度600〜700℃、焼成時間5時間以内が好適な焼成条件となる。焼成後必要により粉砕を行う。また、多核水酸化金属イオンを導入した後焼成を行う場合、金属酸化物にするよりやや低めの温度で焼成し、多核水酸化金属イオンが水酸基を残すことで触媒活性の強い多孔体を得る方法も好ましい。そのための焼成温度は400〜600℃であり、第四級アンモニウムイオンの分解残渣として炭素が残留するが細孔の形成はできる。
【0035】
このようにして得られる無機質多孔体のBET法により測定した比表面積は、好ましくは300〜600m2/gであり、更に好ましくは400〜600m2/gである。比表面積が300〜600m2/gの範囲であれば、多孔質体は吸着剤としての用途では充分な性能が得られるため好ましい。無機質多孔体は、X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つのピークを有することが好ましい。このピークの数値はシリケート層の面間隔を表しているため、この数値よりシリケート層の厚さを減じることにより、層間空間の高さ方向の距離を算出することができ、細孔の形状を特定することができる。そのため、上記のような狭い数値範囲に少なくとも1つのピークを有するということは、結晶形がそろって均一な細孔径を有する無機質多孔体であると言える。
【0036】
多核水酸化金属イオンを導入して金属酸化物のピラーとした無機質多孔体は、分子篩の用途はもとより、強い触媒活性が期待されることから、触媒担体、触媒、クロマト担体、脱臭剤、脱色剤等の用途分野に用いられる。更に気体や液体の分離膜、排ガス等の触媒担体、蛋白質の分離、固定化酵素担体、イオン選択性電極等の用途分野で高温耐久性や巨大分子分離能の高い素材として優れた機能を発揮する。
シリカをピラーとした無機質多孔体は、シリカ単一成分であることと、触媒活性が低いこと、より高温での耐久性が得られることにより、上記の用途のほか食品、化粧品、医療品、電子材料、自動車材料などの用途が期待される。また、触媒活性が低いことは、選択的触媒に好適であって、広い分野で利用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。実施例中の各測定値はそれぞれ次の方法によって求めた。
(a)組成分析:
ナトリウム等の成分分析はICP(Varian製LIBERTYII型)によって定量した。第四級アンモニウムイオンは、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−5000A)により炭素量を測定し、分子量に換算して定量した。
(b)粒子の形状:
SEM(日立製作所製S−4500型)により観察した。
(c)X線回折パターン(XRD):
X線回折装置(理学製RINT2400型)を用いた。粉末X線回折パターンで低角度域の2θに現出する面間隔dに相当するピークを測定した。
(d)水分測定
TG/DTA(熱重量示差熱分析;セイコーインスツルメンス製のTG/DTA6300型)を用いて、昇温速度10℃/minで40〜800℃の重量変化を測定し、170℃までの重量減を水分量とした。
(e)比表面積簡易測定
30%窒素−ヘリウム混合ガスを用いたBET1点法で島津製作所製フローソーブII2300により測定した。
(f)細孔径分布測定
多孔体のポア組織の平均細孔径、細孔径分布及び比表面積などの値は公知のBET法による窒素吸着等温線から求めたものであり、このうち平均細孔径は全細孔容積と比表面積とから円筒モデルにより算出し、細孔径分布はDollimore-Heal法〔J.Appl.Chem., 14,108〜(1964)〕(以下「DH法」と記す。)を用いて算出し、比表面積はBET多点法を相対圧P/P0=0.05〜0.20範囲で算出したものである。測定装置には、Carlo Erba Strumentazione製ソープトマティック1800を用いた。
【0038】
(マガディアイトの合成)
まず、J. Ceramic Society of Japan Vol.100, No.3, 326-331(1992)に記載の方法に従い、SiO2:NaOH:H2O=1:0.23:18.5(モル比)の原料組成でマガディアイトを合成した。すなわち、SiO2が30重量%のコロイダルシリカ(日本化学工業(株)製品シリカドール30)200重量部と、試薬のNaOH9.2重量部、水193重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で48時間の水熱合成を行った。合成後、固形物を濾過水洗し、120℃で乾燥し、マガディアイト(Na2Si14O29・xH2O)を得た。SEM像は、図1に示すように、板厚0.05μmで一辺が3μmの方形面をした板状結晶が、花弁状に集合した球状の結晶であった。粒子径は7.0μm、Na2Oは5.8重量%、170℃までの加熱減量は13重量%であった。XRDはJCPDS#42−1350に一致し、面間隔d001は15.6Åであった。面間隔d001の15.6Åからシリケート層の厚さ12.8Å(粘土科学、第36巻、第1号、22〜34(1996)に記載の値)を減じると、層間の間隔は2.8Åであり、利用できる空間はない。また、簡易測定法での比表面積は23m2/gと小さく、多孔体ではない。このマガディアイトの低角度及び高角度のXRD回折パターンを図6(a)及び(b)に示した。
【0039】
〔実施例1〕
(1)マガディアイトのベンザルコニウムイオン交換(サンプルAの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ベンザルコニウム(関東化学株式会社製、[RN(CH3)2CH2C6H5]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ベンザルコニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.9重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の32.9Åの大きなピークと、そのd002が16.5Åに現れており、マガディアイトの層間にベンザルコニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ベンザルコニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。この粉末は嵩高いフワフワした粉末で、水には撥水性を示した。ここで得た粉末をサンプルAとする。
【0040】
(2)サンプルAを用いた無機質多孔体の調製
300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。サンプルAは撥水性で、水になじまず、いわゆるダマになって分散した。次いで15gのテトラエトキシシラン(以下、TEOSと記載する。)を加えた。TEOSは水には溶解しないため、添加当初は水面上部に油層のように浮いたまま攪拌された。攪拌の継続によりTEOSは水面からダマになった粉末の方に移動し、水面のTEOSはなくなった。更に攪拌を続けると、徐々にダマは小さくなり、最終的にはダマのない、粉末の分散良好な懸濁液となった。この反応は室温で行い、終了までには8時間を要した。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の35.5Åの大きくブロードなピークと、12.9Åのピークが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の35.5Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は22.7Åである。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図7に示した。図7よりシリカ架橋多孔体は13Åから30Åの細孔幅を有し21.2Åに細孔分布のピークを有する。この値はXRDから算出した22.7Åとよく一致している。同時に算出される比表面積は448m2/gとなった。簡易測定法では349m2/gであった。また、電気炉中で900℃1時間の耐熱試験を行った後の比表面積は、簡易測定法では363m2/gであり、まったく低下がなく良好な耐熱性を示した。また、実施例1で得られた無機質多孔体の組成は、使用した薬品のマテリアルバランスより、(架橋SiO2)7・Si14O29であると算出した。
【0041】
〔実施例2〕
実施例1のTEOSに代えて、塩基性塩化アルミニウム水溶液(Al2(OH)5Cl・nH2O、多木化学株式会社製タキバイン#1500、Al2O3=23.5%)を用いた。300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。次いで25.7gの塩基性塩化アルミニウム水溶液を加えた。この反応は室温で24時間行い、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の35.3Åの大きくブロードなピークと、11.5Åに現れており、マガディアイトの層間にアルミナが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の35.3Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は22.5Åである。比表面積は簡易測定法で58m2/gであった。また、実施例2で得られた無機質多孔体の組成は、化学分析より、(架橋Al2O3)6・Si14O29であることを確認した。
【0042】
〔実施例3〕
実施例1のTEOSに代えて、ジルコニアゾル(第一希元素化学株式会社販売ZSL−10A、ZrO2=10%)を用いた。300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gのサンプルAを入れた。次いで72.9gのジルコニアゾル水分散液を加えた。この反応は室温で18時間行い、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、サンプルAに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルAのd001の32.9Åはなくなり、新たなd001の46.2Åの大きくブロードなピークと、12.0Åのピークが現れており、マガディアイトの層間にジルコニアが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の46.2Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は33.4Åである。比表面積は簡易測定法で80.5m2/gであった。また、実施例3で得られた無機質多孔体の組成は、化学分析より、(架橋ZrO2)6・Si14O29であることを確認した。
【0043】
〔比較例1〕
サンプルAに代えて、ベンザルコニウムを含有しない、Naを交換性イオンとする合成したままのマガティアイトを用いて、実施例1〜3と同じ操作を行った。得られた粉末はいずれも、XRDによる面間隔の拡大は認められず、合成したままのマガティアイトと同じ面間隔を示した。
【0044】
〔比較例2〕
市販のイオン交換性フッ素雲母(コープケミカル株式会社製ソマシフME100、比表面積9m2/g)100gをNa量の1.0倍当量の塩化ベンザルコニウム(関東化学株式会社製、[RN(CH3)2CH2C6H5]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとベンザルコニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。得られた粉末はベンザルコニウムを25重量%含有していた。
300mlのガラス製ビーカーに140gの室温の純水を入れ、プロペラ型の攪拌機を用いて攪拌し、15gの上記で得られた粉末を入れた。次いで、ベンザルコニウムの3倍当量に相当する7.44gのTEOSを加えた。室温で8時間攪拌を継続し、分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、600℃で焼成した。焼成粉末は黒色であり、カーボン除去のため焼成温度を800℃に変えて焼成して有機物を除去した。次いでIKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。この粉末はわずかにカーボンが残っているため灰色を呈していた。XRDではd001の33.4Åの大きくブロードなピークが現れており、フッ素雲母の層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の33.4Åからスメクタイト層の厚さ9.4Åを減じると、層間の間隔は24.0Åである。しかしながら、簡易測定法での比表面積は28m2/gであり、スメクタイトのシートが変形したと推定される。また、電気炉中で900℃1時間の耐熱試験を行った後の比表面積は、簡易測定法では9m2/gであり、耐熱性に乏しいことが分かった。また、耐熱試験を行った後のXRDではエンスタタイト(MgSiO3)の結晶が確認された。
【0045】
〔実施例4〕
(1)マガディアイトのステアリルトリメチルアンモニウムイオン交換(サンプルBの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.6倍当量の塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカードT−800、[RN(CH3)3]Cl、RはC16とC18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとステアリルトリメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.6倍当量の塩化ステアリルトリメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとステアリルトリメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.9重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の32.6Åの大きなピークと、そのd002が16.6Åに現れており、マガディアイトの層間にステアリルトリメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ステアリルトリメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルBとする。
(2)サンプルBを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルBを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルBに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は3μmであった。XRDでは、サンプルBのd001の32.6Åはなくなり、新たなd001の37.6Åにピークを有する大きくブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の37.6Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は24.8Åである。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図8に示した。図8よりシリカ架橋多孔体は20Åから40Åの細孔幅を有し27.4Åに細孔分布のピークを有する。この値はXRDから算出した24.8Åとほぼ一致している。同時に算出される比表面積は182m2/gとなった。簡易測定法では177m2/gであった。この無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンを図9(a)及び(b)に示した。
【0046】
〔実施例5〕
(1)マガディアイトのジステアリルジメチルアンモニウムイオン交換(サンプルCの作成)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ジステアリルジメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカード2HT−75、[R2N(CH3)2]Cl、RはC14〜C15)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジステアリルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジステアリルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.3重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の45.2Åの大きなピークと、そのd002が23.7Åに、d003が16.0Åに現れており、マガディアイトの層間にジステアリルジメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ジステアリルジメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルCとする。
(2)サンプルCを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルCを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルCに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。XRDでは、サンプルCのd001の45.2Åはなくなり、新たなd001の39.3Åにピークを有し、23.2Åにショルダーを有する大きくブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の39.3Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は26.5Åである。同時に算出される比表面積は537m2/gとなった。比表面積は簡易測定法では499m2/gであった。
【0047】
〔実施例6〕
(1)マガディアイトのジヤシアルキルジメチルアンモニウムイオン交換(サンプルDの作製)
合成したマガディアイト100gをNa量の0.5倍当量の塩化ジヤシアルキルジメチルアンモニウム(ライオン株式会社製、アーカード2C−75、[R2N(CH3)2]Cl、RはC8〜C18)の水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジヤシアルキルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した。このマガディアイトを、再度0.5倍当量の塩化ジヤシアルキルジメチルアンモニウムの水溶液1000mlに分散させ、室温で24時間攪拌して、Naとジヤシアルキルジメチルアンモニウムをイオン交換させた。分散液から固体をろ過分離し水洗した後、110℃で乾燥し、IKA社製MF−10型卓上粉砕機で粉砕して粉末を得た。粉末を一部取り出してSEM観察を行ったところ、鱗片状の結晶が積層した粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。また、170℃までの加熱減量は1.4重量%であった。XRDでは、もとのd001の15.6Åはなくなり、新たなd001の38.4Åの大きなピークと、そのd002が19.9Åに、d003が13.4Åに現れており、マガディアイトの層間にジヤシアルキルジメチルアンモニウムが導入されていることが確認できた。また、化学分析より、Naは存在せず、(ジヤシアルキルジメチルアンモニウム)2・Si14O29・xH2Oが得られたことを確認した。ここで得た粉末をサンプルDとする。
(2)サンプルDを用いた無機質多孔体の調製
実施例1のサンプルAに代えてサンプルDを用いること以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られた粉末はSEM観察ではサンプルDに似た粒子形状が観察できた。SEM観察による平均粒子径は2μmであった。XRDでは、サンプルDのd001の38.4Åはなくなり、新たなd001の34.5Åにピークを有するブロードな回折パターン現れており、また、13.1Åにもより小さなブロードな回折パターンが現れており、マガディアイトの層間にシリカが導入されて層間架橋構造となっていることが確認できた。面間隔d001の34.5Åからシリケート層の厚さ12.8Åを減じると、層間の間隔は21.7Åである。同時に算出される比表面積は423m2/gとなった。比表面積は簡易測定法では386m2/gであった。窒素吸着によるDH法細孔径分布を測定し図10に示した。図10よりシリカ架橋多孔体は20Åから40Åの細孔幅を有し22.9Åに細孔分布のピークを有する。この無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンを図11に示した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】マガディアイトのSEM像である。
【図2】マガディアイトのSEM像である。
【図3】マガディアイトの構造モデルを示す図である。
【図4】イオン交換後のマガディアイトのSEM像である。
【図5】イオン交換後のマガディアイトのSEM像である。
【図6】実施例1で用いたマガディアイトの低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【図7】実施例1で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図8】実施例4で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図9】実施例4で得られた無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【図10】実施例6で得られた無機質多孔体の窒素吸着によるDH法細孔径分布測定結果である。
【図11】実施例6で得られた無機質多孔体の低角度及び高角度のXRD回折パターンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有することを特徴とする無機質多孔体。
【請求項2】
前記金属酸化物が、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の無機質多孔体。
【請求項3】
前記金属酸化物が、シリカであることを特徴とする請求項2に記載の無機質多孔体。
【請求項4】
前記シリカは、アルコキシシランの加水分解生成物であることを特徴とする請求項3に記載の無機質多孔体。
【請求項5】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランであることを特徴とする請求項4に記載の無機質多孔体。
【請求項6】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属成分を含有しないことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項7】
300〜600m2/gの比表面積を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項8】
X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項9】
請求項1に記載の無機質多孔体の製造方法であって、
マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物により架橋させること特徴とする無機質多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物が、シリカであることを特徴とする請求項9に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記シリカが、テトラアルコキシシランの加水分解生成物であることを特徴とする請求項10に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項12】
前記第四級アンモニウムイオンが、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウムイオン又は長鎖アルキルアリールジメチルアンモニウムイオンであることを特徴とする請求項11に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項13】
前記第四級アンモニウムイオンの長鎖アルキル基の炭素数が8〜24であることを特徴とする請求項12に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項1】
マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間が金属酸化物により架橋されており、且つ20〜40Åの範囲に細孔径分布の主ピークを有することを特徴とする無機質多孔体。
【請求項2】
前記金属酸化物が、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の無機質多孔体。
【請求項3】
前記金属酸化物が、シリカであることを特徴とする請求項2に記載の無機質多孔体。
【請求項4】
前記シリカは、アルコキシシランの加水分解生成物であることを特徴とする請求項3に記載の無機質多孔体。
【請求項5】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランであることを特徴とする請求項4に記載の無機質多孔体。
【請求項6】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属成分を含有しないことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項7】
300〜600m2/gの比表面積を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項8】
X線回折において33〜50Åの範囲に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の無機質多孔体。
【請求項9】
請求項1に記載の無機質多孔体の製造方法であって、
マガディアイト又はケニヤアイトからなる層状珪酸の層間にイオン交換によって第四級アンモニウムイオンを導入して層間隔を広げた後、該層間に金属酸化物を更に導入し、次に層状珪酸を焼成することよって、第四級アンモニウムイオンを除去すると共に層状珪酸の層間を金属酸化物により架橋させること特徴とする無機質多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物が、シリカであることを特徴とする請求項9に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記シリカが、テトラアルコキシシランの加水分解生成物であることを特徴とする請求項10に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項12】
前記第四級アンモニウムイオンが、長鎖ジアルキルジメチルアンモニウムイオン又は長鎖アルキルアリールジメチルアンモニウムイオンであることを特徴とする請求項11に記載の無機質多孔体の製造方法。
【請求項13】
前記第四級アンモニウムイオンの長鎖アルキル基の炭素数が8〜24であることを特徴とする請求項12に記載の無機質多孔体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−56545(P2008−56545A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238101(P2006−238101)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
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